機動海賊ONE PIECE Destiny 601氏_第29話

Last-modified: 2008-11-01 (土) 20:50:11

「なあ、そいつに合鍵作らせりゃ良いんじゃねえか?」

 珍妙眉毛プリンスの登場で脱出がかなうかと思われたものの、結局バナナワニからの鍵の
奪取はならず、最終的にウソップの機転により、何時の間にやら現れていたミスター3の蝋
を利用した麦わら一行+ナタル達だったのだが、もう一度、クロコダイルに挑むと言うルフィ
の主張により、彼らはまた二手に分かれる事となった。
 ナタルは、この場では彼ら一味に手を出さぬ事を――更に、いずれCE世界であの後何が
起きたかシンに問う事を――確約し、クロコダイルの陰謀をスモーカーに伝えるべく去って
行った。
 残った面子は、ビビはルフィを助けに行くべきと主張したものの、今何よりするべきは、
アルバーナで起こるだろう事態の収拾である事と、何よりも、ルフィは後から来ると言った
のだから、一味のものはそれを信じると言う言葉により、矛を収める形となった。

「まず俺達が考えなきゃなんねえのは、どうやってアルバーナにビビちゃんを送り込むかだ」
「そうね。当然、バロックワークスはそれを阻止に来るだろうから……」
「肝心なのはだ」

 サンジとナミの言うのに、シンが口を挟んだ。

「こっちの勝利条件はつまり、ビビをアルバーナ市内中央までたどり着かせれば良いって事
だ。やつらは当然防衛線を張ろうとするだろうが、大人数は割けないだろう」
「何でそう言えんだ? 数で押すのが一番だろ?」
 ウソップが首をひねり言うのに対し、サンジやナミはすぐにシンの言うことを理解したよ
うだった。
「そうか。やつらとしちゃあ、もっと肝心なのは、反乱が止まらないよう扇動しつづける事
だから」
「その為には、ビリオンズ達は反乱軍、あるいは国軍に潜入して暴れている必要がある…
…!」
「そういう事だ、ナミ。もちろん、それをたやすくする為に……ミーアさんが利用されるん
だろうけどな」
「となると、俺らが気にしなきゃなんねえのは、主にエージェントたちって訳だな」

 サンジが言うのに、シンはうなずいた。

「ミスター1、ミスター2、ミスター4の3人に、それぞれのパートナー……ああ、あのオ
カマは相棒無しだったか。総勢5人。連中は基本的に二人一組で行動するから、かく乱しよ
うと思えば、出来ない人数じゃない」
「問題はまだあるだろ。ほれ、お前の知り合いの」
「……ああ」
大前提となるのは、まずビビを王宮にたどり着かせる事。欲を言えば誰かがエスコートを
すべきであるのだが、エージェントに対するかく乱を考えれば人数を割くのは難しい。
 そして、サンジが言う通り、ミス・エイプリルフール――ミーアの事も、懸案事項ではあ
るのだ。
 そこから導き出される作戦は――

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「んげげっ?! あいつら全員同じマントをっ!!」

 首都アルバーナ西門前。
 やがてレインベースから来るであろう麦わら一味とビビ王女を待ち受けていたエージェント
たちの一人、ミスター2は、その光景に対して過剰とも言える反応を示した。
 それは、それぞれが超カルガモに乗った「六人」の姿と、常識を越えた速度で駆ける一人の
姿だった。
 ただ1人超カルガモに乗っていない人物は、アラバスタの民族衣装の裾から、赤い服が見え
隠れしていた。
 全員同じマントで身を包み、顔をうかがい知る事は出来なかった。

「あの一人走ってるヤツは、あれは『赤服』か」
「数が合わないよ。ミスター2のリストから麦わら一人消して、ビビ王女と赤服を加えても奴
らは五人のはず。あそこにいるのは七人だよ?!」
「ミスタープリンスとか言うのがいたはずよ。それも複数。この際、人数は大した問題じゃな
いわ」

 ミスメリークリスマスとミスダブルフィンガーの言葉に、ミスター1がぽつりと漏らした。

「ああやってこっちの目をくらますつもりだ。だが、やる事は変わらん」

 その間にも、ミスター4の砲撃を避けるように二人が南へ、更に残った五人も、西門へ直接
向かうグループと、南西門へ向かうグループの二手に分かれた。

「アルバーナにある五つの門の内、西から狙える門は三つ! そこからバラバラに入ろうって
わけね。同じよ……! 中で抹殺するわ!」
「逃がしゃしなァいわよォ~~~う!!」

 エージェントたちも三手に分かれ、それぞれ一味を追って門へと向かって行った。

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「よし、良いぞビビ」

 ミスター1たちが動いてから数秒後、岩の後から「二つ」の人影が現れた。
 シンと、カルーに乗ったビビだった。

「大丈夫かしら、皆……」
「安心しろ。サンジやゾロが言ってたろ、この作戦の目的は、ビビを王宮に送り届けることが
最優先なんだって。その為に一番適当な手段を講じたわけだからさ」
「でも、二人一組になる筈が、軽業師君がこっちにいたんじゃ」

 彼らの立てた案は、おおむね次のようなものだった。
 シンを除く一味の全員プラス、らくだのマツゲと急ごしらえの人形が超カルガモで二人一組
となって突入。これは待ち受けるだろうバロックワークス側の目をあざむく陽動とする。
 彼らはわざと首都正面から向かい途中で分散、敵の目を引きその場から移動させるのが役割
だ。
 エージェントらの動きを確認した時点で、後方に控えていたビビとシンが改めて突入。これ
は、シンの剃やフォースならば超カルガモにも追随可能な事と、救援に来てくれた超カルガモ
部隊の数が足りなかったことが影響している。
 陽動部隊のチーム分けはくじびきによって決定した。その結果、サンジは人形を乗せた超カ
ルガモと行動する事となった。
 この場合問題になるのは、シンはミスター2による顔のコピーはされていないが、レインベ
ースで正体がばれている上に、なぜかミスオールサンデーはシンのことを厳重に警戒している
らしい、と言うことだった。
 赤服と言う目立つ特徴もあるシンが別働隊として動きまわるには、これは少なからぬ問題だ。
 そこで、チョッパーがランブルボールで脚力を強化、首都へ突入するまでの間、シンの身代
わり役を務めると言う作戦が取られた。ちなみに、チョッパーがマントの下に着ている赤服は
シンのそれではなく、白い服をウソップが持っていた赤インキで染め上げたものだった。遠目
には、これで十分に誤魔化せる。

「サンジなら上手くやるさ。それに、言ったろ? アンタを送り届けるのが最優先だって。な
ら、超カルガモ無しでも追いつける俺が付いてった方が良い。それに、俺は俺で押さえなきゃ
いけないこともあるし」
「ローレライ……ミーアさんね」
「奴らが市内に潜伏して暴動を煽っているいるなら、探し出して止めないと。その点、一番自
在に動けるのが俺だからな」

 不意に、シンは口元が笑みの形にゆがむのを感じた。胸の奥底から、笑いがこみ上げて来る
のを止めるのが、自分でも少し不思議だった。何故こんな時にと。
 だが、すぐに理由はわかった。
 レインベースでナタルと別れる直前、彼女が言った言葉が思い出されたのだ。
『クロコダイルは、相当周到に策をめぐらしているようだな。あれを用意し、これに手を打ち、
こうなった場合の準備、ああなった時の対応策……確かに、緻密だ。だが、それだけに――無
駄だらけだ』

 ナタルの言葉には、全員が首をひねったものだった。あれだけ周到な策を練るのならば、そ
こには無駄などないのではないか?
 だが、ナタルはそうした疑問をあっさりと切って捨てた。

『そう考えたくなるのも解らんではない。だが見たまえ。我々は事実こうして脱出しているで
はないか。そして、この事態に対応する為に、またヤツは手を打たねばならない。何がしかの
修正や、即時の対応が後から後から幾らでも発生する。良いか、作戦と言うものは、発案者の
思い通りになど運ぶ筈はないんだ。不測の事態と言うヤツは常に起こる。スケジュールの遅延、
思わぬ伏兵、弾薬や食料の不足、細かなタイムテーブルを区切った計画ほど失敗や齟齬が起こ
りやすい。この世に完璧な計画や作戦などと言うものは存在しない。真の策士と言うものは、
目の前で起こる不随意な事態や混乱などを利用する事を見越し、作戦に余裕を持たせられるも
のなのだよ。その点では、ヤツは自分の計画を完璧などと悦に入る程度の――小物だ』

 王下七武海をさして、小物と言い切るその態度は、ある意味ルフィをすら凌ぐかも知れない
大胆なものだった。そして、彼女はこうも言った。

『ヤツの計画――思う存分引っ掻き回してやれ。君たちなりのやり方でな』

 完璧な計画は存在しない――それは、ビフに教わったことでもある。
 それはそうだ。思い返せば、前の世界で、それを痛いほどしっかりと味わったのは、他なら
ぬ自分自身なのだ。

 そうだ。今度は、こちらの番だ。
 貴様らの振るう理不尽を、それを上回る理不尽と不条理で引っ掻き回して、貴様らの計画な
ど全て台無しにしてやる。
 こちとら海賊――その場しのぎの行き当たりばったりなんざお手のものだ。
 泣いてほえ面かきやがれ。

「行くぞ!」
「はい!」
「くわっ!」

 内戦の狼煙が上がるアルバーナに向けて、二人と一羽は、駆け出した。

To be continued...

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