種死&リリカルなのはさん 単発SS集12

Last-modified: 2007-11-26 (月) 09:41:53

望 ◆nTZWuJL8Pc氏 2007/11/22(木) 15:41:49
Anniversary. ~Kira & Nanoha side~

 
 

0076年 4月 28日 06:00

 

機動六課・キラとアスランの部屋。

 

いつもより早く目が覚めてしまったキラ。
今日は特に仕事も早朝訓練もないというのに、早く起きてしまうには理由があった。
それは、今日は特別な日だから。
一年前、はやての案により設立された遺失物管理課・六係、通称、機動六課。
そしてちょうど一年後の今日。
試験運用期間が終了し、本日を持って機動六課は解散となる。
そして、皆それぞれの持ち場へと戻っていく。
それは例外なく、全員に言える事なのだが、キラには一つだけ心残りがあった。
それは、ジェイル・スカリエッティ事件の際に六課で引き取る事になった少女、ヴィヴィオ。
彼女はなのはの事をママと呼ぶほどに懐いており、そしてキラもパパと呼ばれていた。
そして事件の中で明らかになる真実。
だが、それでも臆することなく事件を解決し、今では平和に暮らしている。
そのヴィヴィオも正式になのはの養子となる事が既に決まっており、
六課解散後は本人の希望により、聖王協会系列の魔法学院へと通う事になっている。
そして、六課解散の事実を知った際、ヴィヴィオに言われた言葉。

 

「キラパパも、どっかにいっちゃうの?」

 

「行かないよ」と言いたかった。
でも、言う事が出来なかった。
ただ笑顔でヴィヴィオの頭を撫でて、その場を誤魔化した。
素直に真実を告げる事もできたと思う。
でもそうしなかった。
それを言ったら、ヴィヴィオが悲しむとも思った。けど、本当は……
僕自身が言いたくなかったんだ。
僕が、別れを告げたくなかったんだ。
機動六課に、ヴィヴィオに、そして……大切なあの人に……。
このままお別れは、したくない。
せめて、最後に……この気持ちを……。

 
 

――――伝えたい。

 

屋外・訓練場。

 

最後の挨拶も終わり、屋外へと集まる六課フォワードメンバーと隊長陣。
そして、桜の舞い散る中行われる事になったフォワード陣vs隊長陣の最後の模擬戦。
だが、人数的に隊長陣の方が二人多い。
それは対等な勝負にならないだろうと思ったキラとアスランは自分達は辞退しようかと思った。
「……人数的にイーブンじゃないな、ここは俺とキラが抜けて……」
だが、それも意外な言葉で崩れ去った。
「アスラン君」
「?」
言いかけたアスランの言葉を遮るようになのはがアスランへと呼びかける。
「抜けるのは賛成なんだけど、ちょっといいかな?」
「??」

 

「抜けるのは、私とキラ君でいいかな?」

 

「……は?」
思いも寄らないなのはの言葉に驚く一同。
そしてなのはがキラへと視線を向ける。
「キラ君」
「え?」

 

「最後の模擬戦……私と、一対一で勝負してくれないかな?」

 

「…………はい?」

 

その場にいた全員が唖然とする。
まさかの言葉に誰もがすぐに反応に困った。だが、
「……アスラン」
「フェイト?」
最初に開口したのはフェイトだった。そして次の言葉を紡ぐ。
「なのはの好きにさせてあげて」
フェイトの真剣な眼差しを受けて、なのは自身も冗談で言っていることではないというのがわかる。
そして、フェイトもその理由を知っているのだろう。だがあえて追求することなく、
アスランは視線をキラへと向ける。
「……キラ」
「え?」
「お前はどうするんだ?」
「……僕は」
正直、迷っていた。
なぜなのはがそんなことを言ってきたのか。その真意はまるでわからない。
一瞬、何か気分を害する事でも言っただろうかと記憶を模索するが、まったく該当する記憶がない。
そして、どうして僕とサシで勝負したいなんて……。
「み、みんなは? 最後なんだし、なんなら皆で……」
だが、全員の視線は冷たい物となっていた。
その視線に晒され、キラ自身少し後ずさる。
「確かに、最後だから相手してほしいってのもありますけど……」
「でも、当のなのはさんがそうご希望なので」
「「キラさん、お願いします!」」
フォワード陣もなのはの後押しをするという状況。
はぁ。と一つため息をつき、覚悟を決める。

 

「……わかった、受けるよ」
渋々ではあるが、了承するキラ。
「……ありがとう」

 

「それじゃ、まずはフォワード陣vs隊長陣、いってみよか!」
「はいっ!!」
はやての言葉に元気よく答えるフォワード陣、それぞれのデバイスを握り締める。
そしてキラはなのはへと視線を向けるが、表情からはその真意はまったく読み取ることはできなかった。

 

一時間後。

 

フォワード陣と隊長陣の最後の模擬戦は、隊長陣の勝利という形で終わった。
そして、
訓練場に立ち、向かい合う二人。
キラ・ヤマトと高町なのは。
お互いリミッターが外れている状態での模擬線は初めてだった。
(あんまり怪我させられないし……こうなったらさっさとうまく負けるしか)
「キラ君」
「ん?」
呼びかけられ、思考を中断する。
「最初に言っておくけど、手加減したりとか、わざと負けたりとかしたら……」
と、一端言葉が区切られる。そしておずおずと開口するキラ。
「……し、したら?」
するとなのははニコッと微笑みながら、

 
 

「全力で、頭冷やさせてあげるから♪」

 
 

と、笑顔で言い放った。

 

その場にいる全員は背筋に何か冷たい感触がした気がし、全員の気持ちがシンクロした。
(怖っ!!!!)
ヴィヴィオに至っては泣きそうな顔をしている。
「……ザフィーラ、ヴィヴィオを連れて中に入っていてくれ」
アスランの言葉にコクと頷き、ヴィヴィオと連れて、一人の少女と一匹の犬は姿を消した。
「……さすがにここから先はヴィヴィオには見せられないからな」
「……あ、あははは」
アスランの言動の意味を知り、空笑いするフェイト。

 

(ていうか、なんでなのはに考えてる事が読まれてるんだ!?)
「わ、わかった……」

 

「そ、それじゃ、機動六課、最後の模擬戦、キラ君vsなのはちゃん!!」
はやての言葉でデバイスを構える両者。

 

「レディー……」
お互いを見据える視線は、離れることなく。

 

「ゴーッ!!!」
交差する。

 

はやての言葉を皮切りに始まった戦闘。
両者一斉に地を蹴る。
なのはは後ろへ、キラは前へと。
逃げるなのは、それを追いかけるキラ。の形である。
(ともかく、なのはとの距離を空けさせる訳にはいかない!!)
この一年間一緒にいてよく分かったことの一つ。
なのはは中、遠距離タイプの魔導師であるという事。
距離を離されると、一気に向こうの有利な状況となってしまう。
「ッ!!」
なかなか距離が縮まらない両者。しかしこれではただの鬼ごっこにすぎない。
(……ならこちらから仕掛けてみるか)
右のライフルを掲げ、一発打ち込んでみる。
それを軽々と避けるなのは。そして次は左のライフルで打ち込む。
交互に、そして時にはランダムに左右のライフルから魔力弾が放たれる。
それを片手でプロテクションを施し、回避しつつ攻撃態勢をとる。
「……アクセルシューター!!」
声と共に発せられた桜色の魔力の小さな弾。
その数、およそ30。
「ッ!!」
通常の魔導師であればコントロールできる数を遥かに凌駕している。
だが、キラは知っていた。
彼女なら"これぐらいの数は問題ない"と。
右のライフルを腰にマウントし、そのままサーベルに持ち替える。
不規則な動きをしているように見えるが、実はある一定の法則があった。
「!!」
一気に襲い掛かって来る。それを焦らずにサーベルとライフルを駆使して一つ一つ確実に、的確に消していく。
(まず最初の10で一斉に攻撃、残り20を4つのグループに分ける……)
一斉攻撃してきた10個を消すと、既に5個ずつのグループが4つ出来ていた。
だが、一番注意すべきはなのは自身だ。多分今も次の攻撃態勢に入っているに違いない。
(その前に一気に潰す!)
4つの内の2グループが攻撃を仕掛けてくる。
それを後方へと下がり、急加速で一気に距離を取る。
「フリーダム!!」
『マルチロックシステム、オープン』
キラの目の前に現れる球体、そしてそれに次々と浮かび上がる標的。
と、同時に展開する両肩のバラエーナと両腰のクスィフィアス。
そして両手のライフルに狙いを定め、トリガーを引く。
『ハイマット・フルバースト』
6つの砲門から放たれる蒼の奔流。

 

それに命中し、消滅する2グループ。だが、奔流はまだ納まることなく続く。
キラは、追ってくる2グループと同時に待機している残りにもロックオンを掛けていた。
次々と落とされていくシューター。だが、キラは先程からなのはの姿を探していた。
(どこだ……)
きっとこうしている間にも、彼女は自分を狙っているに違いない。
そして最後のシューターを落とす。と同時に。
「な!!」
一瞬にして掛けられる桜色のバインド。
(多重起動魔法!?)
シューターの最後が消滅すると同時にバインドが発動する仕組みになっていたのだろう。
「く……!」
硬い、だがこれでは格好の的だ。早く解除しないと、
焦るキラ。だが無常にも、

 

「……ディバイーン……」

 

「!!」
『Master!!』
聞こえた。彼女の声が、自分の遥か上空から。
空を見上げ、そして確認する。
こちらに向かって今にも打ち込まんとしている彼女の姿を。
「くそ……っ!!」
力を込めてバインドを強制解除しようとする。だが、

 

「……バスターーーーッ!!!」

 

轟音と共にレイジングハートから発射された桜色の砲撃。
狙いは寸分の狂いもなく、キラへと直撃し、爆音と煙が上がる。
これで終わりなどとは思わないが、少しは魔力を削る事は出来た筈……。
なのはがそう思った、瞬間。

 

「ッ!!」

 

煙の中からこちらへ突き出てくるように発射される蒼の砲撃。

 

反射的にプロテクションを掲げ、受け流す。
煙が晴れ、そこから姿を現したのは、連結したライフルを構えたキラの姿だった。
その目には、光が映っていないように見える。

 

「……完全に不意を点いた筈だったけど、やっぱり無理か……」
連結したライフルを解除し、両手に持ち直す。
「フリーダム、カートリッジロード!」
『Load Cartridge.』
数回リロードされる2つのライフル。
「ドラグーンシステム、展開!!」
『Yes. DRAGOON system standby ready.』
フリーダムのボイスが発せられた後に、背中のウイングから射出する8つの蒼き羽。
そして射出された後から出現する蒼き魔力翼。
「……行くよ、フリーダム!」
地を蹴り、なのはへと一気に迫るキラ。

 

「……こんな早くドラグーンを使ってくるとは思わなかったけど、だったらこっちも!」
『Blaster Mode.』
足元に浮かび上がる桜色の魔法陣。
そして空中に発現するブラスタービット。
「行くよ!レイジングハート!!」
『Yes. My Mastar.』

 

空中を舞う蒼と桜色の奔流。どちらも一歩も退かない攻防戦である。
それに見とれているフォワード陣。
「すごい……」
「これが、オーバーSランク魔導師同士の戦い……」
「二人とも、めちゃくちゃ強いです……」
「うん……」
淡々と目の前の光景にそれぞれの感想を述べる。
「でも、キラの奴、さっきのバスターをどうやって回避したんだ?」
ヴィータの言葉に全員が気付く。
バインドをかけられていた状態で確実に命中していたはずなのに、
キラは直撃の直後に連結ライフルによる砲撃を返していた。
「ああ、あれは……」

 
 

回想。

 

眼前に迫るディバインバスター。まだバインドは外れそうに無い。
刹那、キラのSEEDが弾ける。
「フリーダム!カリドゥス展開!!」
キラの前に現れる魔法陣。その中心に魔力が集まり、発射される魔力砲。
威力はバスターよりも劣る。だが、キラの狙いはそれではない。
『カリドゥス』により威力が半減したバスターをバインド目掛けて当てる。
これでバスターとバインドが相殺。そしてなのはの位置を特定している今なら!
右のライフルを左のライフルと連結させ、狙いを定める。
そして、煙が晴れる前にトリガーを引いた。

 
 

「……という訳だ」
アスランによる解説が終わる。
「よくもまぁそんな無茶なことが出来るもんだ」
呆れ顔でヴィータが呟く。
「あいつの無茶はなのはといい勝負だからな」
「大丈夫、アスランも結構無茶するから」
「……今度からは気をつける」
フェイトの突っ込みに何も言い返せず素直に反省するアスラン。
本人にも思い当たる節はあるのだろう。

 

空中にて繰り広げられる攻防戦。
互いの撃った弾を互いの弾で相殺する。
だが、二人とも決定打に掛けているのか、このままではただの持久戦になっていた。
「……さすが、キラ君。伊達に『蒼天の翼』って呼ばれてないね!」
「なのはこそ! さすがは『管理局の白い魔王』って呼ばれてるだけのことはあるよ!!」
「ちょ! だ、誰がそんな事言ったの!!?」
「誰って……戦技教導官の人達はそう言ってたけどっ!!」
「わ、私、魔王なんかじゃないもんっ!!」
「だから僕が言ったんじゃないって!!」

 
 

「…………」
その場にいる全員が会話の内容に唖然とする。
「なんだあのバカップルは……」
「でも本当に凄いのは、あんな馬鹿馬鹿しい会話しながら」
「あの攻防戦をしているんですよね……」
シグナムの呟きに続くティアナとスバル。
会話の内容だけ聞いているとただのバカップルの痴話喧嘩にしか聞こえないが、
第三者から見るとそこはまさに地獄絵図。
飛び交う魔力。それも半端な数ではない。
一瞬でも気が緩んだら一撃をもらう事になる。
そしてもらった瞬間、ドラグーンorブラスタービット&使用者による集中砲火が来る。
まさに限界ギリギリの勝負である。
「あ、お互い攻撃が止みましたね」
「多分、両方ともカートリッジの残量がなくなったんだろう。
 ドラグーンもブラスタービットもカートリッジの消耗が激しいからな」

 
 

「……ありがとね、キラ君」
「え?」
「最後に、私の我侭に付き合ってくれて」
最後。その言葉に胸がズキッと来る。
そう、今日で一緒にいられる時間は終わりを告げるのだ。
「……」
「もう、これで最後なんだよね……」
その言葉に頷きたくなかった。
それを認めたくない、自分がいた。
その言葉を言う彼女の表情が寂しげに見えたのが、もっと嫌だった。

 

「……最後なんかじゃない」

 

「え?」

 

「これで最後になんか、したくない」
「キラ、君……」

 

わかっている。それが叶わない願いだという事も。
だけど、それを受け入れたくない。
そう感じるほど、キラにとってこの一年間はとても楽しかったのだ。

 

「……キラ君」
「?」
「……次の一撃で、勝負を決めよう」
「!!」
「全力全開、手加減無しの一発勝負」
「……」

 

――なのはは今どんな気持ちなんだろう。

 

カートリッジのマガジンを交換し、前方に向けられるレイジングハート。
「レイジングハート・エクセリオン、ブラスターリミット3」
機械的な音を立ててカートリッジがロードされる。
足元に出現する桜色の魔法陣。
そしてなのはの前方と、ブラスタービットにも集まる魔力。

 

『Starlight breaker.』

 

キラはなのはの気持ちを汲み取ることにし、自身もそれに答えるべく動く。
両手のライフルのマガジンを交換し、構える。
「ストライク・フリーダム、ミーティアフォーム!」
『Meteor form setup.』
両方のライフルからリロードされるカートリッジ。
ライフルの形状が変化し、手の長さのおよそ倍くらいの長さになり、
色は全体的に白く染まり、砲身、砲口共に巨大化する。
「バラエーナ、クスィフィアス、カリドゥス、エナケリウス、ドラグーン、
 全システムをマルチロックオンシステムに結合!!」
『……system all green. standby ready』
同じ様に足元へと出現する蒼色の魔法陣。

 

『Meteor shift, HighMAT Full Burst.』

 
 

「……あいつら、ここであれをやるつもりか……e?」
ヴィータの額に冷や汗が浮かぶ。
「……各自、防御魔法、及び結界を準備」
アスランがフォワード陣に向けて言い放つ。
「? 何でですか?」

 

「"流れ弾"が飛んでくるかもしれないからだ」

 

その言葉の意味を理解した面々は即座に詠唱を開始した。

 
 

「スターライト……!!」「ミーティアシフト! ハイマット……!!」

 

全ての準備は整った。と言わないばかりに両者が一斉にお互いを見つめる。

 

そして、

 

「ブレイカァァーーーーッ!!!」「フルバァーーーストォッ!!!」

 

同時に無数に放たれる桜色と蒼色の奔流。
一瞬の内に衝突し、互いに押し合う。
(威力は……!)
(ほぼ……互角!!)
スターライトブレイカーは数こそ少ないが、一発一発の質が高い。
対してフルバーストは一発の質に上下があるが、膨大な数でそれを補う形になっている。
現状、ほんの些細な事で勝敗が決まりかねないのだ。
「く……!!」
だが、それも長くは続かない。
膨大な魔法を長時間撃ち続けられるほど、魔力の残量は残り少ない。
だが、手を抜くわけにはいかない。
もし手を抜いて負けたりなんかしたら……。
(……だ、だめだだめだ!!)
あまりにも恐ろしい想像図が浮かび上がったがソレを振り消す。
そして、キラにはもう一つ考えてることがあった。

 

これで、もう終わりなのか、と。

 

出来れば、このままでいたい。
終わりになんか、したくない。

 

だけど、

 

いつかは、終わりは来るんだ。

 

今が終わっても、"これから"がある。

 
 

だから、

 
 

僕も、"これから"の一歩を進もうと思います。

 
 

「……なのは」

 

突然目の前から聞こえてくる声。
それは目の前で今自分と対峙している彼からであった。

 

「……僕は、負けない!!」

 

通常であれば、気迫で押し迫る表情なのだろうが、その時のキラの表情は、
笑っていた。

 

だから、

 

「……私も」

 

それに、答えようと思います。

 

「……負けないよぉっ!!」

 

それぞれのデバイスを握る力がより一層増し、

 

「フリーダム!!」「レイジングハート!!」

 
 

「「全力全開いっ!!!」」

 

『『All right. My Master!!!』』

 

そしてより一層増した蒼と桜色の輝きは、互いに交じり合い、
大きな光となり二人を包みこんだ。

 

だけど、キラにはその光がとても暖かく感じた。

 
 

それを最後に、キラの意識は闇へと落ちていった。

 

22:41 医務室。

 

「……う……ん」
ぼやける視界、見慣れない天井。
段々と意識がはっきりと覚醒してくる。
そして自分が今いる所が医務室である事に気付く。
「……そうだ、模擬戦……」
脳内の記憶を呼び起こし、最後の記憶の思い出そうとするが、光に包まれた所で途切れている。
結果的にどっちが勝ったのだろうか。
そうこうしている内に気付く身体に掛かる重み。
首を上げて、その重みの正体に気付く。

 

「……すぅ……すぅ……」

 

それはキラの上に上半身の乗せて寝息を立てているなのはであった。
(付き添っててくれたんだ……)
そっとなのはの茶色の髪を撫でる。
そうしていると、ドアが開く。その向こうにいたのは、

 

「ヴィヴィオ?」

 

ヴィヴィオはキラが起き上がっているのを見るとすぐに飛びついた。
見るとヴィヴィオの目には涙が浮かび上がっている。
「ど、どうしたの、ヴィヴィオ」
「……パパ」
「ん?」
「どうして、ママと喧嘩したの?」
喧嘩? ……ああ、模擬戦のことだろうか。
「ヴィヴィオ、あれは喧嘩じゃないよ」
「じゃあ、何で?」
「……それは……」
なぜなのはが僕に模擬戦を申し込んできたのかは分からない。
だから、どうしてと聞かれると少し辛いものがある。
「パパは、ママのこと嫌いなの?」
「……」

 

そんなの、決まっているじゃないか。

 

「ヴィヴィオ」
優しく頭を撫でる。そして、次の言葉を紡ぐ。

 

「……嫌いじゃないよ」

 

そんな事、あるわけない。

 

「じゃあ、ママのこと、好き?」

 
 

「……うん、大好きだよ」

 
 

これが僕の、素直な気持ち。

 
 

「そっかぁ。よかったね、なのはママ」

 
 

――――え?

 
 

「……///」

 

振り向くと、そこにはすでに起き上がっていたなのはの姿が。

 

「な、なの、は……?」
「え、えと、その……」

 

な、な、な、な、な……。

 

「キラパパ、なのはママが"大好き"だって!」

 

その言葉に両者の顔が一気に赤くなる。

 

「なのはママは?」

 

「「え?」」

 

「なのはママは、キラパパのこと、好き?」

 

「……」

 

正直、僕は心臓が止まりそうだった。
どうなのはが答えるのか。
そして、なのはの口が動く。

 
 

「……うん、好きだよ」

 
 

嬉しそうに笑顔を浮かべているヴィヴィオ。

 

だが、僕はそれどころではなかった。

 

「あ、あの……なのは?」
「何?」
「さっきの、その……」

 

「……嘘じゃないよ」

 
 

――――え?

 
 

「キラ君の事、私、好きだよ」

 

「……」

 

一瞬、キラの意識が飛んでしまった。
なのはが、僕を……?
好き?Like?Love?

 

「……キラ君は」

 

「ふぇっ!?」
突然の声に思わず声が裏返るキラ。

 
 

「さっきのは、嘘……なの?」

 
 

なぜだかその言葉を聞いて、とても高揚していた気分が落ち着いていく。
そして、伝えるべき言葉を紡ぐ。

 
 

「……嘘なんかじゃない」

 

今なら言える。

 

「僕は」

 
 

自分の本当の気持ちを。

 
 

「君が好きだ」

 
 

「……ありがとう、キラ君」

 

そして、ヴィヴィオを連れて三人で終わる直前の二次会へと突入。
根掘り葉掘り聞かれたりしたが、その場は何とか誤魔化す。

 
 
 

これにて、機動六課最後の夜は終わりを告げる。

 

これで機動六課は解散だけど、

 

これは、終わりじゃない。新たなる始まりなんだ。

 

今日という日を胸に刻んで、進んでいく。

 

だから僕達は、これからも……ずっと……。

 
 
 

fin.

 
 

おまけ。

 

二次会の帰り。

 

すっかり遅くなってキラの背中で眠っているヴィヴィオを連れて二人で歩いていく。
「そういえば、なのは」
「ん?」
「どうして、最後の模擬戦、僕と一対一でしたいって思ったの?」
「……どうしても言わなきゃダメ?」
「出来れば教えて欲しいんだけど……」
「……えっと、ね」
「うん」
「もう、これで最後だって思ったら、急に寂しくなって……
 でも、言うことのも機会がなくて……それで、模擬戦だったら二人っきりになれるからと思って……」
「……でも、結局二人共真面目に模擬戦しちゃってたね」
「……うん」
「今日はヴィヴィオに感謝だね」
「そうだね」
なのはがヴィヴィオの髪を撫でる。
そしてヴィヴィオがその手を無意識に掴み、引っ張る。

 

「「え?」」

 

引っ張られたことでなのはとキラの距離が一気に縮み。

 

そして、零距離となり、重なる唇。

 

「「!!!」」

 

瞬時に飛びのくが、時既に遅し。
見詰め合う二人は一気に顔が赤くなる。

 
 

そして終始無言のまま部屋へと戻っていく二人であった。

 
 
 

今度こそ、おしまいっ。