第3話「赤と青と」

Last-modified: 2016-08-23 (火) 22:30:44

ガンダムビルドファイターズ side B
第3話 「赤と青と」

 宝石箱をひっくり返したような夜のネオンの中で、ひときわ激しく輝く赤と青の光、
赤い光は彗星のごとく夜の空を駆け抜け、青い光はネオンを蹴散らしながら地を走る。
ふたつの光は交錯し、激しく衝突し、爆音を残して離脱する。

 

「衰えませんね、大尉!」
赤い光、その光源となるガンプラ[レッドウォーリア]を操る男、3代目メイジン・カワグチが叫ぶ。
「誰にモノを言っておるのかな?」
青い光、[グフR35]を駆る中年男が言葉と、そして攻撃を返す。

 

 スイスの某高級ホテルのメインホール、第17回ガンプラバトル世界大会、開催決定記念パーティの会場
主催者やスポンサー、会場提供者から送迎旅行会社など、世界大会の「裏方」を集めてのイベント、
そのデモンストレーション・マッチに会場は大いに湧いていた。

 

 やがてバトルを終えた二人に喝采が送られる。
「いやぁ素晴らしい、さすがは最強のメイジンといわれるだけはありますな。」
「相手の方も素敵でしたわ、あのメイジン・カワグチに互角ですもの。」
「世界大会でもこんなバトルはお目にかかれないんじゃないか?」
 惜しみない賞賛の声の中、舞台から降りた二人はある人物に迎えられる。

 

「さすがですねお二人共、良いバトルを見せていただきました」
大会主催者キャロライン・ヤジマと夫のニルス・ヤジマ、無論このパーティの主催者でもある。
「いえ、ブランクもあり動きは今ひとつといった所でしょう、おそらく大尉も。」
「無茶言うなよメイジン。全く、ワシのトシも考えんか。」
「さっきと言う事が違うでしょう、大尉。」
周囲が笑いに包まれる。意図的なのか自然な流れなのか、ともかくこの二人にデモプレイを任せたのは
間違いではなかった、とニルスの顔も緩む。

 
 

「いや本当に素晴らしかったですよおふた方。」
一人の初老の男性が声をかける。高級なタキシードをごく自然にまとった静かな態度で。
「ようこそおいで下さいましたわ、サー・レヴィントン」
挨拶をするキャロラインの言葉に、メイジンと大尉の顔色に緊張が走る。
「こ、これはご挨拶が遅れましたな、ミスターレヴィントン。」
「お初にお目にかかります、3代目メイジン・カワグチでございます。」
かしこまる二人に笑顔を返すレヴィントン卿。
「いや、そうかしこまらずにいて下さい、このパーティのヒーローなのですからな。」
「しかし主役はサーのような、この大会を影から支えてくれる方々ですよ」
ニルスがさらっとフォローする。第一回ガンプラバトルからずっと大会のメイン・スポンサーを引き受けてくれている
スイスの大企業の会長、サー・フォルス・レヴィントン相手にも対応は万全のようだ。

 

 居心地の悪そうな二人が目線をそらすと、サーの傍らにいる少女に目が行った。
「…そちらのお嬢さんは?」
「ああ、娘のエマですよ。さ、ご挨拶を」
 やや長めの金髪を内側にカールさせ、ワインレッドのワンピースを纏った少女が挨拶をする、年は16~18くらいか。
「エマ・レヴィントンと申します。お見知りおきを、ラル様。メイジン、いえ、ユウキ・タツヤ様。」
 挨拶を終えるのを見計らってヤジマ夫妻がフォローに入る。
「あらあら、エマ嬢を知らないなんて、ガンプラ以外の視野が少々狭いですわよ、お二人共。」
「スイス国内での競泳、飛び込みで国内最強と言われた方ですよ、そのほかにも7歳の時にチェスの国内大会を制したり
 12歳の時にはフェンシングでもオリンピック最終選考まで行った、まさに天才少女です。」

 
 

「大した事はありません、ほんの手慰み程度です」
ぶっきらぼうに返すエマ、周囲の空気が少し硬くなる。
多くの者を負かせておきながら手慰み程度とは、少々思慮に欠ける発言だ。
「エマ嬢はガンプラバトルはなされないのですか?」
メイジンが突っかかる。少女相手とはいえその物言いに、少々挑発的な色を加えて。
「ええ…正直あまり興味はありませんが。」
「よさんか、エマ!」
レヴィントン卿がたしなめる、場を読まぬこと甚だしい、と呆れた顔をして。
「ならぜひ始めてみてはいかがですか?新しい世界が開けると思いますが…」
「そうですわね…ではもし私がガンプラバトルを始めたら、私と対戦してくださいますか?」
 頭を抱えるレヴィントン卿、失笑する周囲。ついさっきのガンプラバトルを見ていて、どうして初心者が
まともにメイジンの相手を出来ると思うのか、と。
「ふむ…ではこうしましょう。もしあなたが今度の大会に出場し、スイス国内大会を勝ち上がって世界大会に出られたら
私も世界大会に出場枠を取ることにしましょう。」
 周囲から一斉にどよめきが沸く、あの3代目メイジン・カワグチが再び世界大会に?
かつて大会3連覇を成し遂げ、誰も敵わないと認定されて殿堂入りした男が再び世界の舞台に立つのか、と。
 まぁ、そのための条件自体がありえないのだが、本人は自信満々にこう返した。
「それは、楽しみですね。」

 
 

 同時刻、日本、徳島県○○市体育館、ここでも赤と青のガンプラが激しい戦いを繰り広げていた。
…ただし、内容はスイスのそれとは比べ物にならないほどの泥試合ではあるが。
 2体のガンプラが左腕を絡め合わせ、余った右腕でひたすらどつき合っていた。
ガンプラ世界大会予備予選、東四国ブロック大会。香川・徳島・高知県東部のガンプラマニア達が一同に集い世界を目指す決戦場、
今日は初戦からベスト4までが一気に決まる日、すでにA,Bブロックは優勝者が決定していた。
 で、Cブロック決勝。里岡大地のヅダ改と、由良優馬のザクアメイジング・ニードルが今まさにドロドロの殴り合いを続けている。
ステージは隠し面の[リング]、モビルスーツサイズのリングが中央に置かれ、周囲の客席には歴代のMSが応援やヤジを飛ばしている、
一升ビンを抱えて暴れてるザクⅡまでいて芸の細さを感じる。
「オラオラオラオラぁ」
「無駄無駄無駄無駄ァ」
 すでに二人共テンションMAXで、かけ声もいろいろヤバいレベルになってきてる。

 

 由良優馬は先日、大地に絡んだ3人組の一人だ。他の二人はとっとと敗退し、最後の砦として勝ち残ったが
ここにきてついに瀬戸際に立たされてしまった。
 5分ほど続いたどつきあいの後、両者は同時にヒザを付き、そして…ザクアメイジングのみがそのままうつ伏せに倒れた。

 

 ―BATTLE ENDED―

 

「Cブロック優勝、里岡大地ぃーーー!」
「うっしゃーーーーーー!」
 ガッツポーズで喜ぶ大地、その傍らに由良がやってくる。
「負けたよ、里岡サン。接待とか言って悪かったな。世界大会、行ってくれよ。」
 がっちりと握手を交わす二人、変な友情が生まれたようだ。

 
 

「さ、次はお前だぜ、ベスト4に来いよ!」
 ステージから降りた大地が宇宙を激励する。ガンプラ大会初挑戦でDブロック決勝まで来た宇宙とトリック・スター
組み合わせにも恵まれ、相手がボールだということが油断を誘い、なおかつ大地のガンプラ作りの腕とアドバイス、
そして物事を理論的・物理的に考える宇宙の設計コンセプトが見事に功を奏していた。
 決勝の相手は[ジオング・アシュラ]。その名のとおり6本の腕と3つの顔を持つ異形のジオングだ。
 ―BATTLE START―
 ステージは宇宙、ジオングにもボールにも向いている舞台。
「ボールがジオングに勝てるかよぉー!」
開始早々6本の手を分離させ、30本の指ビームを一斉発射するジオング・アシュラ。
トリックスターは開始直後からの回転運動でエネルギーをチャージしつつビームを弾きいなす、
エネルギーが満タンになった時点で突撃し、距離が詰まった時点でランダム移動で敵を撹乱する。
「ふん、その戦法はチェックしてたよ、いけ!」
ジオングそのものは追ってこず、6本の腕がひたすらトリックスターを追い回す、というよりはむしろ取り囲むように腕を動かす。
「いかん、やつの狙いは…」
大地が気付く、しかし宇宙は自機を動かすのに懸命で、相手の狙いに気付けない。
「今だ、スパイラル・ドライバー!」
ドリル状に回転しながらジオングに突っ込むトリックスター、ここまでの試合全てこの技でケリをつけてきた。
が、しかし、その前にあったジオングの腕ワイヤーがトリックスターに絡みつく。
「かかった!」
次々に腕を動かし、トリックスターを縛り上げるジオング・アシュラ。まさに蜘蛛の糸にかかった羽虫のようだ。
「まだまだぁーっ」
左右の盾を逆に向け、コマのように、というより釣りのリールのように回転してワイヤーを巻き上げるトリックスター、
やがてはジオング本体まで引きつけ密着する。が…
「く、首が無い!?」
「ここだよ」
トリックスターの後方、盾の隙間に構えるジオングヘッド。
「終わりだ!」
ジオングヘッドからメガ粒子砲が発射される。なすすべもなく直撃を受けるトリックスター、一瞬の後、ジオング本体とともに爆発。
「っしゃー、勝ったぁー!」

 
 

「まだだ!」
 爆発の隅から小さなボールが飛び出す。ジャイロ用に内蔵されていたボールを、非常時には分離して脱出できるように改造、
さらに盾の内側にミニボール用の砲と腕を仕込んでおいたのだ。
「くっ!往生際の悪い!!」
メガ粒子砲を発射するジオングヘッド、かろうじて躱すミニボール、スペック自体はジオングヘッドのが有利だが
自らの作戦が決まらなかったショックか、ジオングの動きが荒い。
「喰らえ、アシュラ・ヘッド・ストリーム!」
ジオングヘッドを回転させながら360度にビームを撒き散らす。

 

「あーあー、そんな事したら、また…」
嘆いたのは先日、宇宙と対戦した3人組の一人だった。自分と同じ過ちをしたジオングに同情の視線を向ける。
数分後、ジオングヘッドのプレイヤーが目を回して気絶、そのまま救急車で運ばれる自体となってしまった…。

 

「さぁ、ついにベスト4が出揃いました、この東四国を制するのは一体誰か!?それではその4人と機体をご紹介しましょう!」

 

Aブロック:かの名門[グラナダ学園]のOBにして、ついに昨年、宿敵[ガンプラ学園]を全国で下したチームのエースが
     満を持して世界に参戦!優勝候補筆頭、香川県出身、河野祐也!
     使用ガンプラは[クロスボーンリミテッド]
Bブロック:出身、年齢、すべて謎に包まれたマスクマン!そのマスクに刻まれた[G]の文字がガノタの年季を物語る
     謎の、たぶんおじさんミスターG!
     使用ガンプラは[ガンダムマックスター・アルティメット]
Cブロック:車は軽トラ、駆るはヅダ!試作機の悲劇を乗り越え、かつて夢見た世界の舞台に届くか!?
     戦う百姓青年、里岡大地!
     使用ガンプラは[ヅダ・セイバー]
Dブロック:なんとガンプラ歴1ヶ月、宇宙飛行士を志すその思考ベクトルをガンプラでいかんなく発揮、
     兄弟で決勝なるか!?里岡大地の弟、里岡宇宙!
     使用ガンプラは[ボール・トリック・スター]

 

「そして、いよいよ運命の組み合わせ抽選です、1週間後の準決勝の組み合わせは!?
抽選の機械が動き始め、決勝の組み合わせを弾き出す。

 

第一試合 里岡宇宙 VS 里岡大地
第二試合 河野祐也 VS ミスターG

 

「おおっと!いきなり兄弟対決けってーい、優勝候補の河野選手は第二試合に組まれました!」

 
 

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