第9話_「混沌の海へ」

Last-modified: 2014-03-31 (月) 23:57:19
 
 
 

サイド7(グリーンオアシス)宙域

 

ルナツーを出発して退屈なティターンズの先遣隊として哨戒任務を始めてから4日間ーーー。
彼女はようやく働けると心躍らせていた。
しかし、ひとたびブリッジ上がるなり、キャプテンシートに座る禿げ散らかした頭のちょび髭の男
艦長チャン・ヤー少佐の言葉によって、
彼女の心躍る気持ちに歯止めがかかる。
「なぜわからないのです?」
「いや、ミノフスキー粒子が濃くなっていてな。」
サラミス改級軽巡洋艦《ボスニア》
ルナツー艦隊所属の正規軍艦艇だが、
ティターンズと共生関係にあるルナツー艦隊は
《ガンダムMk-II》を強奪したエゥーゴの捜索をしていた。
そして3時間前に艦隊規模でのエゥーゴとザフトの戦闘の光を
僅かながら光学センサーが捉えていた。
また、彼らは戦闘を行っていたのが
エゥーゴやザフトだという事に気づいていた。

 

ルナツーを管理棟とするサイド7は本サイドの宙域に進入したならば、
ティターンズやルナツーの仕掛けたカメラで分かるようになっていた。
その為、サイド7から出ていないエゥーゴを確認したティターンズは
血眼になってエゥーゴを探し続けていた。

 

「だが間違いなく《アレキサンドリア》の追っていた部隊なんだろう?」
モビルスーツ隊隊長のライラ・ミラ・ライラ大尉がモニターを見ながら憮然(ぶぜん)とした態度で
「そうなんだがな。
いかんせんヘリオポリスというのが気がかりだ。」
と、ライラの問いに歯切れが悪く、典型的な職業軍人的なつまらぬ受け答えが返ってくる。
そんな艦長に呆れ顔のライラは腕を組んで
「あれこれと考える暇があったらとにかく行って、
確かめてみるのが良いんじゃないのかい?」
と、言って苛々(いらいら)としたした表情でチャン・ヤー少佐を一瞥(いちべつ)する。
「分かっている!ライラ・ミラ・ライラ…!その言葉遣いなんとかならんのか?」
彼女のチャン・ヤー少佐に対する物言いや態度は今になって始まった話ではないが、
ライラはチャン・ヤーのような慎重過ぎる姿勢が気に食わない所があるようで、
チャン・ヤー自身も時折ライラに対して皮肉っぽく指摘をするような事があり、
あまり良好な上官と部下という関係ではない事はブリッジにいる人間の誰しもが分かっていた。

 

「…ふん…じゃあ、向こうに行ってみれば私の欲求不満が解消されるってのかい?」
ライラは悪びれる様子もなくそう言うと、チャン・ヤーは諦め顔で
「おそらくな。一応ティターンズにも報告はしたが
あそこには間違いなくエゥーゴかザフトがいるはずだ。」
とライラに言うと、彼女は「楽しみにしてるよ。」と言ってブリッジを後にした。

 
 

《ボスニア》より2時間ほど離れた距離の宙域を突き進む4隻の艦隊。
ティターンズの旗艦アレキサンドリア級重巡洋艦、
《アレキサンドリア》の司令室に座るティターンズ艦隊司令バスク・オム大佐に
哨戒任務にあたっていた《ボスニア》の掴んだ情報が入った。

 

「ヘリオポリスだと?」
「は。エゥーゴとザフトはサイド7を離脱した形跡がありません。
となれば戦闘行為も奴らで間違いないそうです。」
バスク・オム大佐の腹心であり
アレキサンドリア艦長兼作戦参謀という肩書きを持つ
ジャマイカン・ダニンカン少佐がバスクのもとに直接報告に来ていた。

 

「エゥーゴならば《ガンダムMk-II》ををなんとしてでも奪い返せ。」
「閣下、それについては私のほうから良い秘策があります。」
ジャマイカンは何か企みのある表情で言うと、バスクはその策を聞いたーーー。

 

《アレキサンドリア》艦内の一室には
カミーユの母親であるヒルダ・ビダンと
同僚の男性が不安な表情を浮かべて話をしていた。
「カミーユが《ガンダムMk-II》を盗んでエゥーゴに逃げ込んだなんて…」
「ヒルダさん。顔を上げて下さい。」
「でも…なぜ私なんかをここに乗せたのかしら…」
「分かりません…でもこれは普通じゃありませんよ。」

 
 

 
 

ドッキングベイからコロニー内部へと誘導されて来た《アーガマ》と
《アークエンジェル》がようやく合流した。
《アーガマ》から降りたブライト・ノア大佐は
ブレックスやクワトロらに手厚く迎えられていた。
特に、彼を見た周りの反応は凄まじい者があった。
もっとも一番目を輝かせていたのは
ナタル・バジルール中尉だったようだがーーー。
コロニーの外では合流した僚艦、
サラミス改級モンブランが警戒任務にあたっていた。

 

《アーガマ》のブリーフィングルームに集められたブライト・ノア大佐、
ムゥ・ラ・フラガ大尉、マリュー・ラミアス大尉、
ナタル・バジルール中尉はブレックス以下、
クワトロ、ヘンケンらと、今後について話し合いを行っていた。
一通りに挨拶済ませ、軽くを進めると
ブレックスはブライトへエゥーゴへの参加を打診した。

 

彼自身も既にそのつもりだったようだ。
「私は構いません。しかし私で本当によろしいのですか?」
とブライトが言うと、すかさずヘンケンが彼に返す。

 

「大佐が《アーガマ》を指揮してくれれば、
私は落ち着いてブレックス准将の側にいられます。」
ヘンケンがそう言うとブライトと固い握手を交わした。
その横でクワトロがブライトに対して
「ブライト艦長の存在は我々エゥーゴにとって大きな存在になります。」と言った。
クワトロの言うようにブライト・ノアという存在はプロパガンダ的な存在にもなり得るような人だ。
彼を盲信的に尊敬するものは多く存在する。
それでも連邦軍内では『ニュータイプ部隊の指揮官』
と危険視され窓際に追いやられた格好ではあった。
しかし彼自身の人気が失われる事はなかった。
クワトロの言葉にブライトはクワトロの顔を真っ直ぐに見て
「買いかぶり過ぎですよ。クワトロ大佐。」
と言うと、クワトロが「大尉だ。ブライトキャプテン…」
とひと言だけ返すとラミアス達が少し不思議そうな顔をしていた。

 

ブレックスはその後、
ニューホンコンにいるというブライトの家族の身の安全の保証などを約束すると
ブライトも少し喜んだようだった。
そしてエゥーゴへの参加を承諾したムゥとも話を進めブレックスは
「フラガ大尉、君の家族は大丈夫なのか?」と聞くと、
ムゥは少しぎこちない笑顔で応えた。
「自分の家族は、みな火事で死にました。
人質に取るような者は一人もおりません。ご安心下さい。」
彼はさらりと衝撃的な事を言っていた。
おそらく彼の態度からするにその事実は受け止めていて、
それを引きずるような素ぶりも無かったように見えた。
彼の言葉で周りの空気が固まるとブレックスは
「…そうか……すまん。余計な事を聞いてしまった。」
と、言って頭を下げる。
するとムゥは少し慌てて
「いや、お顔をお上げください閣下。」と言って、その場をやり過ごした。

 

その後、物資についてや今後の作戦行動について話を進めていった。
その中でブレックスが特に気にかけたのは
《アークエンジェル》の人員の少なさだった。
ブリッジに関しては新機軸の管制システムを用いており、
最小限度の人数でも操艦や戦闘には支障はないらしいが、
問題はブリッジ以外に必要とする深刻な人員不足だった。
《モンブラン》や《アーガマ》の人員を回せば
なんとかなるという状態でもない深刻な状況なのだ。

 

もう一つは機動部隊。
民間人のキラ・ヤマトを戦闘に参加させるには早急に過ぎると判断すると、
新しい隊の編成が必要だった。

 

「なんとか隊の編成をせねばならんな…。
艦隊の指揮官はブライト大佐で良いとして…」
ブレックスがそう言うとクワトロは即座に応える。
「私の提案とすればフラガ大尉とロベルト中尉には
《アークエンジェル》へ配属が良いかと思いますが?」
「…良いのか?クワトロ大尉。」
ブレックスはクワトロは確認するように言うと、大きく頷いて続ける
「向こうはパイロットも機体もありません。
合流した《モンブラン》を護衛艦として《アークエンジェル》と
同時運用させればジムIIは両方の直掩として使えます。
《アークエンジェル》も《アーガマ》同様、
単艦運用型の癖の強い艦ですが仕方ありません。」
と説明すると、ブレックスはそうだな。と言ってクワトロの意見を呑んだ。

 

「後は艦長を誰が務めるか…ですな。」
ヘンケンがそう言うと、ナタルが手をあげて立ち上がる。
「僭越ではありますが、自分はラミアス大尉がその任にあると思われます。」
「なぜそう思うのかね?バジルール中尉。」

 

ナタルの意見に対してブレックスはその理由を求める。
するとナタルは理路整然とした口調でブレックス達に説明する。
「ラミアス大尉は、技術仕官としてこの艦をよくご存知ですし
階級もアークエンジェル隊の生き残りで一番上です。」

 

なるほど…合理的な意見だ。
と、ナタルの意見を聞いたブレックスはそう感じていた。
ラミアス本人は当惑していたが、むしろ承諾してもらねば困る。
現状のエゥーゴから《アークエンジェル》に回せる人員はいない。
となれば現状は志願した工員と生き残ったメンバーを中心に
今後の艦運用をしてもらう他ないと思った。
「では艦長はラミアス大尉に任せ、
副長はバジルール中尉にしよう。
フラガ大尉は機動部隊の隊長として働いてもらう。」
「…はっ。」
ナタルとムゥは大きな返事を返したが
ラミアス本人は緊張しているようにも見えた。

 

 

《アーガマ》から《アークエンジェル》への避難民受け入れ作業が行われていた。
カミーユはグリーンノアからの避難民もいるという話を聞いてその場に来ていた。

 

「カミーユ!!」
唐突に避難民の人集りの中から
見知った顔の少女が飛び出して来ると
カミーユは心臓がズキンと脈動した気分になって驚く。
「ファ?ファ・ユイリィじゃないか…!どうしてここに?」
「お父さんもお母さんもティターンズに捕まっちゃったの…!」
カミーユがファに聞くと、彼女の口からはとんでもない言葉が発せられた。
捕まった…?ティターンズにか?
カミーユの頭の中に色々な考えが錯綜するが
何も分かるはずがなかった。
カミーユは少し焦り気味の表情で何故?
とファに疑問をぶつけるとすぐに彼女は涙を流しながら
「あなたのお隣だからよ…
私も捕まるんじゃないかって時に、ブライトキャプテンに助けてもらって…」
そう言うと体を震わせカミーユの胸に体を預けて
大粒の涙を流し泣きじゃくっていた。
「そんな……僕を知っているってだけで…。」
カミーユはそう言って強く彼女を抱きしめていた。
他にも感動の対面を果たしたのはカミーユやファだけではなかった。

 

ブライトの助けたフレイ・アルスターもその一人だった。
「フレイ!?…フレイじゃないか!」
「…サイ…?サイ!?良かった!」
サイの呼び掛けに気付いたフレイは
サイのもとへ一目散に駆け寄っていくとサイへ体を預けた。
その光景を見ていたキラは心臓が妙にズキンとした感覚を覚えた。

 

「フレイ、どうしてこんな所に?」
「友達とはぐれたの!そしたら小さな女の子をブライトさんと助けて…!
…それでシャトルに行ったらダメでここに…」
フレイは少し興奮気味にサイへ言っていたが、
話の内容がよく分からないと感じたサイは
「そっか…とにかく無事で良かったよ…後でゆっくり話そう。」
と言って、その場をなんとか落ち着けていた。

 

 

《アーガマ》の艦長室にはブレックス、ヘンケンやブライト、
クワトロがコーヒーを飲みながら資料を手に話をしていると
「失礼します。」と、ドアの向こうからカミーユの声がした。
ブレックスが入れと言うと、ドアがプシュっと音を立てて横に開くと
カミーユが部屋に入ってくる。
「カミーユ君、どうした?」
クワトロがそう聞くと、カミーユはブライトの方へ顔を見て
「ブライト艦長。ファ・ユイリィの事、
あの子を助けて頂いてありがとうございます。」
と、律儀に礼を言って来た。
「礼には及ばないさ。カミーユ・ビダン君だな?
あの時の事は私もよく覚えている。」
ブライトがカミーユににこやかな表情でそう言うと、
カミーユは彼に覚えていてもらって少し嬉しそうな表情を見せる。
「だが君はまだ正式なエゥーゴの一員ではないそうだな?」
「はい。やっぱり民間人からっていうのは難しいみたいですね。」
「だが君が戦うと決めたならば、その意志を曲げるような事はするなよ?」
「はい、ありがとうございます。
ブライト艦長。」

 

いくつかのやり取りをすると、カミーユは艦長室を後にした。

 

彼らはカミーユが出て行ったのを見やると、ブライトが口を開く。
「カミーユ・ビダンか…何故だか危うさを感じるのは私だけですかね?」

 

ブライトは足を組んで、コーヒーを啜るブレックスに問いかける。
ブレックスは手に持ったコーヒーカップを下皿に置くと、
空調の音だけが静かに聞こえる部屋の中にカチャリと陶器のぶつかる音が小さく響く。
ブレックスは腕を組んで「ホワイトベースにいた時にも同じ気持ちだったかな?」
と言って、背もたれに背中を預けるとブライトに質問を返す。
ブライトは「…そうかも知れません。」とだけ言うと、
ブレックスはブライトやクワトロ達の顔を真剣な眼差しで見ながら
ブレックスが呟くように言った。
「その為には我々がカミーユ・ビダンという
大きな可能性を導かなくてはいけない。」

 

その言葉にブライトは「こんな悲しい時代でなければ…」
と言って大きく溜息をついた。

 

少しの沈黙ののちにその沈黙を破ったのはヘンケンだった。
手にしていた資料に再び目を送りながら
「しかし…オーガスタ基地ですか…まさかこんな所にいたとは。」
と言って難しそうな顔をする。
「彼にはその素養があると?」
ブライトの口から唐突に出たその言葉にブレックスらは、クワトロに視線を送る。
クワトロは右手でサングラスを外し、テーブルにそれを置くと
「経歴を見るまでは確証はありませんでしたが…
あの未完成品の絵に書いたような兵器は、
少なくとも相応の適正がなければ動かす事は出来ません。」
と言って、鋭い視線でブレックス達の顔を見やる。
その言葉にブレックスが納得したような顔で
「なるほどな。だから『それ』に理解のある者をそばにつけて、
且つ若者達の近くに置こうと思ったわけか。」

 

「はい。『彼』と上手く引き合わせる事が出来れば、
みなが宇宙へ上がろうと感じられるのではないかと思います。」
何か嬉しそうに話すクワトロを見るのはブレックスやヘンケンも
初めてな気がしていたがヘンケンが顎の髭をさすりながら
「しかし大尉。初めて会った人間に対して随分と甘い評価じゃないのか?」

 

というと、テーブルに置いていた資料を手に取って
「出自を見れば天性のカリスマ性を持っていると考えます。
私の過大評価が間違いなければ天才ですよ彼は。」
クワトロはヘンケンにそう言って応える。
「確かに…オーガスタ基地にいた事を考えれば
一年戦争時に名を上げていなかった理由も頷けるな…」
ブライトも顎に指をやって軽く資料に目を通しながら言った。

 

「連邦はつくづく利権や保身の為に才能の芽を潰す連中だという事だな。」
ブレックスが呆れた顔でそう言うとその場にいたブライト達はフッと笑っていた。

 

 

《アークエンジェル》の居住区用の談話室ではキラを含めた
カトーゼミの面々やフレイ達が話をしていた。
彼らの話題は感動の再開を果たしたカミーユ・ビダンと
ファ・ユイリィの話で持ちきりだった。
彼らにとって何よりの驚きだったのは、
カミーユがキラと同じ民間人で、いきなりモビルスーツに乗り
戦ってみせた事だったらしい。
トールはカミーユをコーディネイターか何かだと思っていたが、
キラがニュータイプらしいと言ったらサイ達は
アングラ物の資料を目にし過ぎだと笑っていた。
キラ自身、戦闘が終わった後にコーディネイターだと
いう事が少し騒ぎになったが今は気にもしていないようだった。

 

だが、カミーユはコーディネイターでない事は事実で
彼らも不思議がっていた。
そこへ《アークエンジェル》に配属の決まったロベルトが
彼らのもとへやってきた。

 

「おう、坊主達!ここにいたか。」
「あ、ロベルト中尉。」
「あの…ヘンケン艦長の怪我の具合どうですか?」
ロベルトが全員の顔を見やると、ミリアリアがヘンケンの怪我を気にしており
「…まだ戦闘は無理だな。」とロベルトがすぐに返すとミリアリアは少し俯いた。

 

ロベルトはそれを見て「だが心配いらん!」と大きな声を張ると、
「その代わりにブライト・ノア大佐が《アーガマ》の艦長になったからな。」
と言ってみせると、
トールはこの人がミリアリアを心配させないようにしてる…
と気付き、わざと茶化してみせる。
「しっかし凄ぇよなぁ。
あのブライト・ノアがエゥーゴにいるんだぜ?俺も参加しちゃおうかなぁ~♪」
サイ達はトールのおとぼけに笑っているが、
後ろにいるロベルトの鋭い視線が背中に突き刺さる
「そんな理由でエゥーゴに入ろうとするなこのアホたれが!」
ロベルトがトールの耳をつまんで大きな声を上げると
トールは肩を竦めながら
「冗談ですよぉ冗談!!」と叫ぶと、
周りのキラやサイ達はトールの情けない姿を見て笑っていた。

 

 

予定の出発時刻があと10分ほどとなっていた。
ヘリオポリスは避難勧告は2時間前に解除されていた。

 

出港の為《アーガマ》《アークエンジェル》は
ドッキングベイにてその時を待っていた。
《アークエンジェル》のブリッジではクルーが少ない為、
戦闘時以外はムゥはブリッジの手伝いをする事になっていた。
ロベルトもその例外に漏れず、ムゥと持ち回りで手伝う事になった。
ブリッジのモニターには航路図が映し出されている。
事前のブリーフィングでブレックスから知らされた作戦行動に移る事になっていた。
地球への周回軌道まで乗り、
小型ジェット式のカプセルを降下させるというもので、
降下ポイントはティターンズの司令部があるとされているジャブローだった。
ジャブローへ潜入をして内偵をするという危険な任務を、
レコア・ロンド中尉が行うことになっている。

 

このレコア中尉の単独での任務にラミアスやナタルは少々、
不安気な顔をしている。
それに気付いたムゥが二人に声をかけた。
「なんだ?艦長さんと副長さんともあろう者が神妙な顔しちゃって。」
その言葉に、え?という顔をするラミアスとナタルにムゥは
二人が何が心配なのかを言い当てて見せる。
「同じ女だからってんでレコア中尉の事が心配か?」

 

それを聞いたラミアスとナタルは図星だったと言わんばかりの顔をするが、
それに対して先に応えたのはナタルだった。
「い、いえ…女性だからという訳ではありませんが、
ジャブロー基地への侵入を一人でやるというのはどうかと…」
理路整然と答える事の多いナタルは影をひそめて、
歯切れの悪い言葉だった。
「あの中尉さんは諜報活動も担当なんだろう?
ティターンズから《ガンダムMk-II》を奪うって任務も、
事前に潜入していたレコア中尉の働きがあったからこそらしいしな。
心配する事無いと思うぜ?」

 

「しかし…彼女はまだ23歳という歳頃の女性です。
もし失敗でもして身柄を拘束されでもすれば何をされるか……」
ラミアスは彼の言葉が少し楽観的すぎやしないかと思い、
言いかけた言葉はつい本音を漏らしていた。
しかし軍人である以上は性別関係無く、
与えられた任務をこなすというのが基本であり、
ラミアスは自分の軽率な発言を少し情けないと感じた。

 

「まぁ、実は俺も同じ気持ちなんだがね。」
と、ムゥはそう答えると
爽やかな表情を少し固くして続けて言う。

 

「俺は一年戦争の時、北米の基地に配属したての新米兵士だった。
だがそこで見たのは悲惨なんて言葉で片付けられるモンじゃなかった。
もちろん俺は関与しちゃいないが上官達や研究者が
えげつない事をしてるってのはもっぱらの噂だった。
捕虜になったジオンの女士官は検査、研究、尋問、拷問と称して……
味わった苦痛と屈辱は相当なもんだったろうな…。」

 

その言葉にラミアスやナタルだけでなく、ノイマンらも固唾を呑んで聞いていた。
「でもな、自分が軍人になったってんならそういう事も覚悟しなくちゃなんねえ。
認めたくはないが戦争にはつきもんだろ?そういうのってさ。
だからレコア中尉の任務成功を俺達が信じてやらんとな。」

 

皆は一様にして下を向いていたが、ラミアスがムゥに問いかける。
「フラガ大尉…?もしかして大尉のいたその基地というのは……」
ムゥはその問いに息を軽く一つ吐くと「まぁ、俺の経歴でも調べれば簡単に分かる事さ。
この話はもう終わりにしようぜ?」と言ってその場の重い空気を断ち切った。

 

 

全ての作業を終え《アーガマ》を先頭に《アークエンジェル》
《モンブラン》がヘリオポリスを発つ。

 

白き『大天使』は『伝承』の舟らと共に混沌の海へと旅立つのであった。

 

無限に広がる星の宇宙で
若き命達は幾多の刻の涙を見る事になるーーー

 
 
 

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