艦内点景◆炎のX好き氏 15

Last-modified: 2016-03-05 (土) 11:46:46

艦内点景15
 
 
(人質編)
ティファ・アディールは、フロスト兄弟にさらわれていた。
さすが、ガンダムヒロイン捕われ回数最多記録保持者の称号は、ダテではない。
目の前のオルバが本来の酷薄な調子を取り戻して、楽しげに言う。
「ティファ・アディール、こうして顔を合わせるのも久しぶりだね。…この女、どうしょうね?兄さん」
「ふむ…そうだな」と残忍な笑いを唇に刻んで、兄のシャギア・フロスト。
「私を『えすえむ』や『○○○○(自粛)』にして『○○しばり(自粛)』や『○○○(自粛)』するのですね?」
オルバを見据えて、いきなりのティファの言葉に、フロスト兄弟達は数秒間絶句する。
「…オルバよ…お前…趣味が悪くなったな」

「ち…違うよ、兄さん!誤解だ」
オルバは衝撃に呂律の回らぬ舌で、懸命に弁解の言葉を搾り出す。
「オルバよ、責めてるわけではない。いくら記憶を無くしたとはいえ、そばにいてやれなかった、私の責任だ…」
シャギアの悲痛な表情に、オルバは言葉を失う。
「オルバよ。悪事や、卑劣はいい。だが、下品はいかんぞ。下品は…」
シャギアの言葉に、オルバが下唇を噛む。
それにしても『卑劣』はいいのか!?フロスト兄。
そして、以前にトニヤ・マームが言ったセリフを、意味も知らず使っただけのティファに、赤くなったり、青くなったりしている、フロスト兄弟が理解できない。

「それにしても、ティファ・アディールよ!嫁入り前の若い娘が言っていい言葉ではない!自重しろ」
妙なところで潔癖なシャギアが、ティファを叱る。
ずっとキョトンとした表情のティファが、ようやく得心がいった、という晴れやかな顔になる。
「わかりました…『ガロードのお嫁さん』…にならないと言っては、いけなかったの…ですね?(ポッ)」
そのティファのセリフにフロスト兄弟が、崩れ落ちたのは、言うまでもない…。
「兄さん、早く返してしまおうよ!」
「いや…オルバよ。あまりに簡単に返しては、我ら兄弟の名誉にかかわる」
「そんな事言っても。兄さん!」
「耐えるのだ。オルバよ!」

(おわり)
 

(人質編2)

ガロードは自責の念に悶々としていた。
今、こうしている瞬間にも、人質となったティファがどんな目にあっているか…?
そんなガロードにトニヤ・マームが声をかける。
「だ〜い丈夫よ。青少年。こんな事もあろうかと、ティファには男避けの魔法をかけといたから」
「?」
「悪い男に捕まったら、こう言いなさいって、教えておいたの」続いてトニヤの口から出て来たのは、自主規制単語のオンパレードだ。
「テ…ティファにその意味を教えては…?」
「いないわよ〜。意味知ってたら言わないでしょ。あの娘が言ったら、破壊力抜群。男はみーんな、ドン引きよ!」
得意げに腰に両手を当て、高笑いするトニヤ。

勿論、ガロードは最後まで聞いちゃいない。
「ティーファー!!」愛しい少女の名を絶叫し、MS格納庫へ全力疾走する。
 ****
エアマスターB・G-ファルコンが、轟音をあげて虚空に消えた後、ユウナとミナの居る料亭の一室を静寂が支配する。
カポーン…
絶妙のタイミングで鹿おどしが鳴る。
「古池やカワズ飛び込む水の音」
「一茶ですね」俳句をそらんじたミナにユウナが答える。
「うむ、メサイヤに飛び込んだガロードはどんな音をたてるかな?」
ミナは、茶漬けの後に出て来た白湯をすする。
「…カワズとガロードって、音が似てないか?」
「似てませんよ…」
力無く即答したユウナに続き、また鹿おどしが音をたてた。
(終)
 
(イモ畑編)
「ザッ、ザッ、ザッ」
オーブ郊外の少し開けた土地。
太い杭と鉄条網に囲われたそこで、男達が土を耕していた。
「俺達ゃ兵士だ。何でイモ畑作らにゃならんのだ」その中の1人が愚痴る。
その瞬間、鋭いパンチが愚痴った兵士を吹っ飛ばす。
拳を放ったのは、つい今まで杭にもたれて男達を監視していたジャミルだ。
「口より手を動かせ。今のオーブは色んな意味で瀕死だ。ムダ飯を食う口は要らん」
「俺達は正規兵だ。降服したからには、それなり…」
2発目の拳が男を黙らせる。
そう、ここで働いているのは、キラ=ラクス政権下に付き、オペレーションオケハザマで武装解除されたオーブ兵達だ。

「お前らは今のオーブの食料事情が分かっているのか!?」
ラクスの存在に安心し、行政に危機感を持っていたオーブ兵は、皆無に近い。
「輸入すれば?」
「金なぞ無い!今、オーブはスカンピンだ」
「人力じゃ無く、機械で耕せば、効率良いだろう」
「元々、オーブの食料自給率は低い。ここにまわせる程、耕作機械の数は無い。鍬や鋤が有るだけ感謝しろ」
抑えているが、ドスの効いたジャミルの言葉が男達の腹に響く。
ちなみに彼等が使っている農耕器具は、キッド達フリーデン整備員が廃材から、突貫で作った物だ。
市販品に劣らない位、出来が良い。
「貴様だけ素手で掘るか?」

ジャミルの視線が愚痴った男を射ぬく。
「…」
男は言葉も無い。
「イモ畑が不満なら、選ばせてやる。一つ!破壊された街の瓦礫の撤去と、都市機能の復興作業」
但し、とジャミルは付け加える。
「重機もMSも数が足りん。貴様らは素手で瓦礫を運べ」
男達の脳裏に、鞭打たれながら巨石を運ぶ古代の奴隷のイメージがよぎる。
「瓦礫の下に、まだ死体が埋まっている。これの片付けもやれ」
周囲から呻き声が漏れた。
「二つ!他国の傭兵。度重なる戦いで、どの軍も人材が払底している。外貨が稼げれば、オーブも助かる」
「生きて帰れる保証は…」
「無い。欲されているのは、戦略的に使い捨て出来る人間だ」
ジャミルは事実を言葉で飾らない。
「お…俺は、いや俺達は、イモ掘りが大好きだ!」
最初に愚痴った男が、震えながら大声を張り上げる。
「なぁ!みんな」
その言葉に、全員の同意の歓声が重なる。
「正しい判断だ」ジャミルが、男達を1人1人射すくめ、悠然と杭にもたれ、監視に戻る。
その後、男達は作業終了まで、ムダ口をたたかず、作業の手を休める事も無かった。

ジャミルは男達が、真剣に働きだしたのを見極め、監視をタカマガハラ兵と交代し、次の畑へ向かう。
働く気の無いオーブ兵が居るイモ畑は、まだまだ有るのだ。

「おぅ。ジャミル」
その途中、トニヤと2人1組で、ジャミルと同じく監視巡回中のウィッツと出くわす。
「キャプテン!聞いて下さいよ!このバカ!働き手、全員殴り倒しちゃうんですよ」
「ああいう連中は最初にシメとかないと言う事、聞かねぇからな」
「…っとに、男って」
相変わらずの2人だ。
「でも、こんな痩せた土地で、イモとはいえ、育つのかね?」
「あら、意外。ウィッツ、農地の良し悪しが分かるの?」
「あぁ、実家は農場だからな」
「うぇっ、意外過ぎ!」
「んだと!この女」
キャラキャラと笑い、トニヤがウィッツから身をかわす。
その時、地響きを立て、水平線の向こうから、ヤタガラスが姿を現わす。
黒い艦尾に、満艦飾の大漁旗が翻る。
「遠洋漁業に行ってた連中が戻って来たようだな」と、ジャミル。
「ウェーイ!大漁だお〜」
艦上デッキで勝利の咆哮を挙げるのはステラのガイアだ。
背のビームブレイドを外し、以前レオパルドが装備した144/1スケール、マブチ水中モーター…もとい、S-1水中戦用装備を装着している。
そして、その両手には…
「んだ?ありゃあ」
「ガイアとの対比からすると…ダイオウイカだな」
黒いガイアが、頭上に掲げたイカの白さが眩しい。
ダラリと垂れた足を含めると、MS以上の全長がある。
確かに大漁だ。
「ダイオウイカって、食べられましたっけ?」
トニヤが呆けた質問をする。
「なぁに!喰えなきゃ、畑の肥やしにするまでよ」
ウィッツが妙に張り切った声を出す。
それを見ながらジャミルは思う。
CEの連中は、今が最悪だと思っているだろう。
だが、AWには程遠い。
まだ、この世界は間に合うのだ。
願わくば、この世界と人々に、ほんの少しの、運の良さと賢明さを。

ジャミルは願った。
 
 
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