赤い翼のデモンベイン04

Last-modified: 2013-12-22 (日) 19:55:40

 アスランはジャスティスを駆り、フリーダムが現れた後方、エターナルが居ると予測される宙域に単機移動していた、フリーダム同様の核動力機ならではの長距離移動だった。

「見つけた……

 対空砲火も通信もなしか……

 いやな予感がする、ラクス、君はマルキオと関わって正気なのか」

 そこがアスランの知りたいことだった。

 彼の知っているラクスは少々世間知らずの歌手で婚約者だった。

 彼の送ったハロを大事にしてくれる人だった。

 なによりも平穏が似合う人で、平和を望む女性だったが決して向こう見ずな理想を唱えたり、プラント防衛用の最高軍事機密を盗み出したり、テロリズムに奔るような人ではなかったはずなのに。



 エターナルと接触してもなんら返答がない、警告もだ。アスランはこの不気味な状況があの怪物と関わりがあると看破し、慎重に格納庫へ入るべく移動した。



 後方の格納庫を低出力のビームサーベルで切り裂き侵入する。

 その中は何の異常もなかった。モビルスーツも、化け物も、銃撃もない、変哲も無い格納庫だった、そう人の気配の全くしないただの格納庫だった。

「おかしい静か過ぎる、エターナルを動かすには相応の人手が必要な筈だ。こんなに静かな筈が無い」



 躊躇ったもののジャスティスを鎮座させ、アスランはノーマルスーツでブリッジを目指すことにした。



 格納庫の一般通路に手を掛けた瞬間、ドアがシュンと開く、反射的に銃を相手に向ける。

 肩に眠った人間を抱えた人物も同じく銃を向けてくる。

「君は正常か? 名前は?」

「私はアスラン・ザラ。ZAFT所属だ。

 この艦の調査と拿捕、敵対するなら破壊する命令を受けて来た。

 貴様は何者だ」

「ザラ? パトリック・ザラの息子の、ラクスの婚約者だった?

 僕はアンドリュー・バルドフェルド。一時は砂漠の虎なんて呼ばれたこともある」

「バルドフェルド隊長か?

 この艦で何が起きた、どうして通信も警告も砲撃もしなかった?」

「それよりラクスを頼む、モビルスーツで来てるんだろう、早く彼女を脱出させてくれ。

 もう常識で計れる世界じゃないんだ。この艦の中は。急がないと手遅れになる。」

「何を言ってる、何が起きたんだ、反乱か」

「だから常識じゃないと言っているだろう、人間が化け物に代わっていくんだよ。

 ブリッジの人間からおかしくなって、脱出の命令を出そうにもブリッジを占拠されては、どうしようもない、一時的に普通の人間と、化け物に代わった人間で内乱のようになったがすぐに普通だった人間までおかしくなっていった。僕も背中の感触がおかしい。

 長くは持たないだろう。ラクスは僕は異常を知ってからすぐに気絶させた。

 直接計器をいじる役目じゃなかったから影響は無い……と思う。」

「わかった、普段なら頭を疑うが、今の状況なら信じられる」

「良かった、脱出できるかひやひやしてたんだ、今は副官のダコスタ君が食い止めている。

 だが時間の問題だろう、異形はすぐに格納庫まで押し寄せる。

 僕は助からない、早く彼女を安全な場所に」

「分かりました、……御武運を」

 バルドフェルドはラクスを引き渡すと

「気のきいたことを言ってくれるねえ。

 ……テロリズムに奔った僕たちには罰はあるかも知れない。

 だけど、僕たちにも正義はあったし理想もあった。

 誰かに裁かれることは覚悟してたけど、こんな終わり方は予想外だったな」



 そう答えると、手榴弾を左手に持ち格納庫にある対人装備を探し始めた。

 

 アスランはラクスをそっと抱きかかえると、全力でジャスティスまで走っていく。

 背後で扉が開く音がした。

 其処からナニかが這い出てくる。

 言葉で形容できない肉塊のような人間だったもの、化け物としか言いようのない、世界の外側の常識だった。振り返って一瞬目に入れただけで自分が悪夢の世界に囚われたとしか思えない光景だった。

 もしかしたら、自分は一生あの化け物を夢に見続けるのではないかとゾッとした。



 バルドフェルドを見ると、手榴弾を投げ込み、機関銃を撃ちまくっていた。

 だが背中が先ほどより盛り上がっていないだろうか?

 彼は、バイザー越しに見える彼の顔は笑っていた。

 自嘲を含んだ笑みのままこちらを向くと、

「ラクスを頼むよ、アスラン・ザラ」

 全ての弾を撃ちつくすと、最後の手榴弾を抱え化け物に突撃していく。

 その光景を見ながらアスランはジャスティスを格納庫から離脱させた。



『今還るよアイシャ』



 そんな空耳が聞こえたような気がした。



 宇宙に飛び出たアスランはこの小さな閉じた地獄を終わらせるべく、艦の後方から前方まで、等間隔にビームを打ち込んでいく、艦内で爆発起きていくのを確認すると、艦に正対し、

「さようならバルドフェルド隊長」

 そう呟き、リフターをエターナルに打ち込んだ。

 トドメの一撃を受け、エターナルが爆散していく。

 アスランがほっと胸をなでおろした時、爆発の中から何かが飛び出した。

「ミーティア!? 核動力機の支援機。フリーダムと合流する気なのか?」

 通常エターナルが無くなり、ろくな通信が出来ない以上、フリーダムまで飛んでいける訳がない、だがもはやこの世界に常識などという言葉がいかほどの価値を持つというのか。

 ようやく戻ってきたリフターと合体すると、ジャスティスは全力でミーティアを追いかけ始めた。

 できることならイザーク達が既にフリーダムを破壊していることを願いつつ。





つづく





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