起動魔導士ガンダムRSG_02話

Last-modified: 2011-08-13 (土) 22:14:42

スウェンが八神家にやって来て二ヶ月ほどたったある日のこと、
「ヴィータ遅いなー、夕飯冷めてまうで……。」
もうすぐ夕飯ができるというのに一向に帰ってこないヴィータを心配するはやて。
「なら私が迎えに行きましょう。」
シグナムが立ち上がる。
「ほんなら……スウェン。」
はやてはソファーで天文学の本を読んでいたスウェンを呼ぶ。
「………どうした?」
「シグナムについてってくれへん?女の子一人に夜道を歩かせるのは危ないからなあ。」
「いいぞ。」
「ちょ!主!」
シグナムはなぜかすごく慌てていた。
「私は大丈夫ですから!強いですし……。」
「何ゆうてん、シグナムだって女の子やん、スウェンたのむなー。」
「ああ。」

 

と、いうわけでヴィータを探しに夜の街にやってきたシグナムとスウェン。
「じゃあ…私はあちらを探す、貴様は反対側だ。」
そしてスウェンはシグナムと別れた。
(アイツは…何をあんなに慌てているんだ?)
先程からのシグナムの態度に疑問を抱きつつも、スウェンはヴィータを探しに行こうと一歩踏み出す、その時だった。
「………!!?」
突然スウェンはシグナムが向かった方向にヴィータの気配を感じたのだ。
(今のはなんだ…?もしや……これが魔法?)
とりあえずスウェンはUターンし、シグナムが向かった方向に歩き出した。

 

人気の無い裏路地、そこにうつ伏せに倒れている甲冑らしきものを身に着けている男が四人。そして、
「ふう…手こずった…助かったシグナム。」
「なに、礼には及ばん。」
騎士服に身を包んだシグナムとヴィータがいた。
「うう……。」
倒れている男達はどうやら生きているようだ。
「悪く思うな、これも主のためだ……リンカーコアはいただくぞ。」
次の瞬間、倒れている四人から光の玉が浮かびあがりヴィータが持っていた闇の書に収まっていった。
「ぐああああ………!!」
うめき声をあげて、男達は完全に意識を失った。
「八ページか…あんま溜まらねーな。」
「仕方あるまい……むっ!」
シグナムは背後に人の気配を感じた。
「何者だ…出て来い。」
その人物は隠れていた建物の影から両手を頭の位置まで挙げて出てくる。
そしてシグナムとヴィータはその人物を目を見開いて驚愕する。
「スエン……!?」
「な……!?貴様は逆方向を……!」
二人に意を返さず、スウェンは倒れている四人を見る。
「そんなことより……これはどうゆうことだ……?」
スウェンの表情は相変わらず無表情だったが、その目だけはどこか怒っているようだった。

 

「はやてが…!?」
場所を公園に移し、スウェンはシグナム達から事情を聞いていた。
「ああ……このままでは主は……死ぬ。」
シグナム達の説明によれば、闇の書の呪いが主であるはやての体を蝕み、このままでははやては足にある麻痺が全身に回り死んでしまうのだという。そしてはやてを救う唯一の手段が、
「闇の書の完成……リンカーコアを集めてはやてを主として覚醒させると言う訳か……。」
「少なくともそれで呪いの進行は止まる、だから……我々は……。」
「こうして魔力を持っている奴らを襲って……でもはやての未来を血で汚したくないから人殺しはしていねえ、それだけは信じてくれよ……。」
ヴィータはまるで親に悪い事を知られてしまった子供のようにしょげてしまう。
話が終わり、スウェンはヴィータが持っている闇の書を見る。
(あんなボロボロの本で人の命が奪われるとはな……)
スウェンは理不尽な現実になんだかやりきれない気持ちになっていた。
ふと、頭の中にある光景が浮かび上がった。

 

八神家とは違う何処かの家の居間で、父親らしき人物と母親らしき人物が自分に話しかけていた。
『そうか、スウェンは天文学者になるのが夢なのか、なら誕生日プレゼントは…望遠鏡で決まりだな。』
『ホント?パパ!』
『よかったわねスウェン。』
『うん!もうすぐこと座流星群の時期なんだ!……』

 

(今のは……俺の記憶………?)
スウェンは改めてシグナムとヴィータを見る。そしてシャマルとザフィーラ、はやての顔が思い浮かんだ。
「家族……か……。」
そしてスウェンの心の中に何かが芽生え、彼を決意させる。
「……………俺には魔導士になる資質があるんだったな……。」
「スウェン……?貴様まさか……!」
「俺に魔法を教えてくれ……そして闇の書の蒐集とやらを手伝わせろ。」
スウェンは無表情だったが、その目はどこか決意に満ちていた。

 

次の日の夜中、はやてが眠っている間スウェンとヴォルケンリッターはとある小学校の校庭にやってくる。
「さてと……結界も張ったし……ここなら思いっきり教えられるわ。」
「スウェン……本当にいいのか……?」
ザフィーラ(人型)がスウェンに覚悟を問う。
「はやてには恩がある……、出来る事なら力になりたい。」
スウェンは軽く準備体操をしながら答えた。
「だが資質があるとはいえ……貴様のそのデバイスを起動させなければ何も始まらんぞ?」
シグナムに言われてスウェンは自分の手の中にある黒いビー玉……八神家に拾われたときに持っていたデバイスを見る。
「そうだなー、まずはソイツの名前を呼ばなきゃなー。」
「だが…俺は自分の本当の名前すら思い出せんのだが……。」
そして次々とヴォルケンズは意見を挙げていく。
「いっそぶん殴ってみるか?案外記憶がもどるかもな。」
「いや、ショックを与えるならシャマルの料理を食べさせたほうが……。」
「ちょっとシグナム!!それどうゆう意味!?」
「お前ら……スウェンを何だと…。」
「おい!ボーっとしてないでテメエもなんか考えろ!自分の事だろ!」
ヴィータに怒られて、スウェンはデバイスを右手の親指と人差し指で持つ。
(名前と言われてもな……俺には全く……。)
その時だった。

 

『この子の名は“ノワール”、貴方の剣の名前です。』

 

「!?」
何故か頭の中に何者かの声が浮かびあがった。
(今のは……俺の記憶………!?)
スウェンは再びそのデバイスを見てその名前を口にする。

 

「ノワール。」

 

すると、スウェンのデバイス…ノワールはスウェンの手を離れ、彼の目線より高く浮かび上がった。そして何かが割れる音と共に球体のノワールにヒビが入った。
「!?」
「な……壊れてんじゃん!」
「しっ!ちょっと静かに…!」
「なんだこの特異な魔力反応は……!?」
「…………。」
ヒビの入ったノワールを見て様々な反応を見せるヴォルケンズ。そしてノワールを中心に膨大な光が発せられる。
「「「「「………!!!?」」」」」
あまりの光の量にヴォルケンリッターは目を腕で覆う。
その時そこにいた全員が、何かが割れる音を聞いた。

 

光が収まり、ヴォルケンリッターは目を開ける。そして、
「スウェン……!?その手に居るのは……!?」
ザフィーラが代表してソレを指差す。
スウェンの手に乗っていたのは、
「う~ん…むにゃむにゃ……。」
体長が30cm程しかない、肌は日焼けした様に黒く、短めの黒い髪をした12,3歳ぐらいの少年が、全裸で眠っていたのだ。
「「「「ユニゾンデバイス!!?」」」」
「うえっ!?」
ヴォルケンリッターの声に驚いて少年は起き上がる、その時の目はマンガみたいに3の形をしていた。
「うー………。」
目をゴシゴシと擦り、少年はスウェンを見る。
「………。」
「………。」
見つめあう少年とスウェン。開かれた少年の目は星の光を思わせるような金色をしていた。
「アンタの名前は?」
ガラの悪い声で少年が名前を聞いてきた。
「スウェン・カル・バヤン……らしい。」
「オイラノワールっていうんだ!よろしくな!スウェンのアニキ!」
その少年、ノワールは元気良く自己紹介した。
「……………。」
「「「「……………。」」」」
次に発する言葉が見つからず、辺りに沈黙が流れる。
「あれ?どうしたんッスかアニキ?そんなキツネに化かされたような顔して?」
ノワールは心配そうにスウェンの顔を覗き込む。そのとき、

 

「かっ…!かわいい――!」
「うおわ!?」
シャマルは突然スウェンの手からノワールを奪い、彼に頬ずりする。
「な……なんだこのおば…」
「なんだこいつなんだこいつ!!?」
今度はヴィータが指で何度も突っつく
「だああ~突っつくな~。」
「みっ……みんな落ち着け!!」
「ワンワンワンワンワンワンワン!!!」
ヴォルケンズはまるで「突然スウェンが我が家に捨てられた子犬を拾って連れてきた!」というような感じのリアクションをしていた。
「シグナム……レヴァンティンをしまえ……あとザフィーラ、人型でワンワン吠えるな。」
スウェンだけは冷静だった

 

「ユニゾンデバイス?」
「ええ、融合騎ともいって術者と融合して魔法を使うのよ、本来は能力向上をサポートするためのデバイスなんだけど……。」
シャマルはスウェンにユニゾンデバイスについて説明を受けていた、すると、
「ちっちっちっ、オイラはそんじょそこらのデバイスとはちがう、最新型の“G”ユニゾンデバイスなんだ!」
えへんと胸をはるノワール。
「“G”?“G”とはなんの“G”なんだ?」
ザフィーラが質問する。
「さあ?」
スウェン以外が盛大にずっこけた。
「とにかく…お前の力を見せてくれないか?」
「アニキの頼みじゃ断れね~な~、じゃあ『セットアップ』って叫んでくれよ!」
「セットアップ。」
ほぼ棒読みで言うスウェン、するとノワールは彼の体に取り込まれていった。だが、
「…………。」
「……何も起きねーな。」
「変ねー?髪の色とか変わったりしないのかしら?」
そのとき、突然羽根を羽ばたかせる音と共に、スウェンの背中から黒や灰色をした鉄の翼が現れる。そして瞳の色が金色に変わった。
「きゃあ!?」
「いっ……いきなり出すな!驚くだろうが!」
「………俺に言われても……。」
またヴィータに怒られてしまい、スウェンは無表情ながらもどこか落ち込こんだようにしょげてしまう。

 

『アニキー?聞こえますー?』
するとスウェンの頭の中にノワールの声が聞こえた。
「ああ聞こえる、これが魔法か……。」
『さっそく何か使ってみますー?』
「ああ。」
するとスウェンの両手に二丁の拳銃が現れる。
『それはショーティーッスね、試し撃ちしてみます?』
「いいだろう……誰かこれを投げてくれないか?」
そういってスウェンは偶然足元に転がっていた空き缶を手に取る。
「では俺が……。」
ザフィーラはスウェンから空き缶を受け取り、それを天高く放り投げる。
「!」
スウェンは二丁のショーティーを構え、宙に浮く空き缶に狙いを定める。
そしてショーティーから何十発ものビーム弾が目にも止まらぬ速さで連射されていく。空き缶はそのビーム弾の雨をモロに受け、地面に落ちる頃には原型を留めておらずただの鉄片になっていた。
「すっ……すげえ……。」
ヴォルケンズはその光景をただ唖然として見ていた。
「なるほど……この他には……?」
突然スウェンの背中から羽根が消え、彼の手の中にノワールが倒れこむ。
「どうした?ノワール?」
「アニキィ……オイラもうだめだぁ……腹減った……。」
そしてノワールはそのまま目を閉じた。
「どうやら魔力を使い果たしたようだな……。」
「しょうがないわよ、ノワールはまだ生まれたばかりの赤ちゃんなんだから…。」
「コイツ口悪いけど…可愛い寝顔してんなー。」
「お前が口調をどうのこうの言うな……今日はここまでのようだな。」
「………ああ。」
そしてスウェンは空を見上げる。空には幾つもの星が燦然と光輝いていた。
(少しずつだが思い出してきている……みんなといればいつか解るのだろうか……俺が何者なのか……。)
「どうしたスウェン?空を見上げて?」
シグナムがスウェンに話しかける。
「いや………星が綺麗だと思って……。」
「またそれ~?スウェンも好きよね~。」
「もう帰ろーぜー、腹減ったよー。」
「そうだな……行こうか。」
我が家に帰っていくスウェン達、そんな彼らを星達はいつまでも照らしていた。

 

次の日の朝。
「うわ~めっちゃかわええな~♡」
はやてはノワールを見せられ、彼を人差し指でなでる。
「朝起きたら起動していたんだ……。」
本当のことは言えないので、スウェンは適当に誤魔化した。
「はやて……ノワールを飼ってもいいか?世話はちゃんとするから………。」
「うん!ええよー。でも大切に育てなあかんよ?」
「オイラペット扱いッスか!?」
この日、八神家にまた新たな家族が加わった。