起動魔導士ガンダムRSG_10話

Last-modified: 2011-08-13 (土) 22:21:34

管理局とヴォルケンリッターの砂漠での戦いから数時間後、八神家。
シグナム達は殿を務めたスウェンを一睡もせず待っていたが、とうとう彼は戻らず、気付けば朝になっていた。
「あいつ…結局帰ってこなかったな…。」
居間に重苦しい空気が流れる。
「どうすんだよ…はやてになんて言えば…。」
「むう…。」
そのとき、二階のはやての部屋から誰かが倒れる音がした。
「な、なんだ!?」
全員が様子を見に行くと、そこには苦しそうに胸を抑えて倒れているはやてがいた。
「はやて!」
真っ先にヴィータが駆け寄る。
「動かすな!頭を打っているかもしれん!」
「シャマル!救急車だ!」
「は、はい!!」
「はやて!はやてぇ!」

 

数十分後、海鳴大学病院のとある病室。
「みんな大げさやなあ~。胸がつっただけやん~。」
すっかり持ち直したはやては皆に自分の元気さをアピールする。
「ですが…頭を打ってましたし…。」
「一応大事をとって入院することになりましたので…。」
「もう…ところで…。」
はやてはシグナム達を見てあることに気付く。
「スウェンとノワールはどないしたん?」
ギクッ!という効果音と共に肩を上げるヴォルケンリッターの面々。
「あの…その…。」
「はやて…あの…。」
「ス…スウェンは…。」
「奴は記憶が戻ったらしくて黙って出て行ってしまったのです。」
ザフィーラはこの場を切り抜けるためとっさに嘘をついた。
「え……!?」
目を見開いて驚くはやて。
(ちょっと!ザフィーラ!!)
(仕方なかろう!?本当の事を言っても主を悲しませるだけだ!)
「な…なんで…。」
「大丈夫だよはやて!!アタシ等がちゃんと見つけてくるからさ!!はやては…心配しなくていいよ!」
「そ……そうか?」
ヴィータのフォローでその場はなんとかごまかせた。

 

そして帰り道でのこと。
「闇の書の侵食が進んでいる…急がねばならない。」
今朝のはやての症状は呪いがはやての体を蝕む勢いが増している証拠なのだ。
「あの白い子と赤い羽根の男の子のおかげで大分溜まってきたわ、みんな、がんばりましょう!」
決意を新たにするヴォルケンリッターの面々、だがヴィータだけは心の中で、
(本当にこれでいいのか…?なにかが違う…。)
一人迷っていた。

 

そのころ病室のはやては、
「なんでや…?なんで勝手に居なくなってしまったんや…?うっ!!」
はやては痛む胸を苦しそうに押さえていた。
「ウチ…死んでまうんかなぁ……?」
昔は、ずっと一人ぼっちだった、だから死ぬのは怖くなかった。でも今は大切に、守ってあげなければならない家族がいる、だから今自分は死の恐怖に少なからず怯えている。
『お前の前から居なくなったりしない、ずっと一緒にいてやる。』
そう言ってくれた彼も今は何処かへ行ってしまった。
「スウェンの…嘘つき…。」
はやては誰も居ない病室で、一人泣いていた。

 

数日後、聖祥小学校。
「よう!みんな!」
なのは達の教室にシンとなのはとフェイトが入ってくる。
「あっ!シンじゃない!」
「もう風邪はいいの?」
真っ先にアリサとすずかが駆け寄ってくる。
シンは数日前の戦いで覚醒中にリンカーコアを取られてしまい、なのはより回復に数日ほどかかってしまったのだ。そして今日、久しぶりに登校してきたのだ。
「いやあ、心配かけたな。」
「私達はいいけど…フェイトが尋常でないほど落ち込んでいたわよ。」
「なんか『私がちゃんとやってれば…。』とかつぶやいて負のオーラをかもし出していたよね、それが今では…。」
アリサとすずかはフェイトの方をみる。
「えへへ…よかったー。」
フェイトはまるでこの世の春と言わんばかりにニコニコしていた。
「なのは…あんたが連れてくる友達って変わった子が多いわよね…。」
「うーん、人のこと言えないんじゃ…。」
「なんですって!!!」
暴言を吐いたなのはの頬を一メートル程伸ばすアリサ。
「あふえええ~~~~!!!」
「「「うわあ、痛そう…。」」」
シン、すずか、フェイトはあまりの光景に目を逸らした。

 

昼休み、
「ねえみんな、ちょっといい?」
昼食を食べようとしていたシン達を、すずかが集める。
「どうかしたの?すずか?」
「実はね…この前はやてちゃんが具合が悪くなって入院しちゃったんだ、それでよかったらこれからみんなでお見舞いに行かない?」
「!」
「いいわよ、ちょうど塾も休みだしね。」
「フェイトちゃんもいいよね。」
「うん。シン……?どうかしたの?」
フェイトは様子がおかしいシンに気付く。
「い、いや大変だなーって思って…、すずか、いきなり行ったら迷惑になるかもしれないから、事前に連絡を入れといたほうがいいんじゃないか?」
「アンタにしては気が利いたこと言うのね。」
シンははやてが闇の書の主であることを知っていたので、スウェンとの約束の為にも、なのは達に闇の書の主の事を知られるわけにはいかなかった。
(事前に連絡しとけば…後は向こうがなんとかするだろうけど…。)
「じゃあついでだから皆で写メール撮ろ!はやてちゃんにメッセージを送ってあげよう!」

 

そのころ八神家では、シャマルが一人晩御飯の支度をしていた。
「フンフンフーン♪今日はカレー~♪」
そういってシャマルはカレーのルーの中に醤油をドバドバ入れていた。
なぜカレーに醤油を入れているのかというと、シャマルは先日テレビでカレーに醤油を掛けて食べる人を見て、カレーに醤油を沢山入れれば美味しくなると勝手に思い込んでいたのだ。
そこにシャマルの携帯電話にメールが届く、送り主はすずかからだった。
シャマルは内容を読み上げる。
『今日の放課後、五人ではやてちゃんのお見舞いに行ってもいいですか?』
シャマルはメールの内容を見て微笑んでいたが、下に添付されていた写真をみて、携帯電話を落としてしまう。
そこには「はやくよくなってね。」と書かれていた横断幕を持った、すずか、アリサ、そしてなのは、フェイト、シンが写っていた。

 

放課後、シン達ははやてが入院している病院にやってくる。
「さて、病室に着いたわよ。」
そう言うとアリサは病室のドアをノックする。
『あ……どうぞ…。』
すると中から、元気がない返事が返ってきた。
「お邪魔しまーす。」
アリサが先頭になってドアをあける、すると、

 

もわ~ん

 

「「「「「んなっ!?」」」」」
とても禍々しい負のオーラが病室から立ち込めていた。
「あ…すずかちゃん…久しぶり。」
「どっどうしたのはやてちゃん!?この前会ったときよりげっそりしてるよ!?」
あまりにも変わり果てている友人を目にして、すずかは訳も解らず慌てる。
「あんなぁ…あんなぁ…スウェンがなぁ…居なくなってもうたんよ…。」
「!!」
「スウェンて誰?」
「確か…はやての親戚の一人だったはずよ。」
「それがどうして居なくなっちゃったの?」
「実はなぁ…。」
はやては自分が聞いたスウェンの居なくなった経緯を皆に話す。
その光景を、シャマルがサングラスとコートという怪しすぎる格好で、皆のいる病室を覗き込んでいた。
(はやてちゃん…かわいそうに、スウェンが居なくなってから日に日に弱ってきてるみたい…呪いのせいなのかしら…。)
ここ数日気持ち的に弱っていくはやてに、シャマル達はどうしたらいいか困り果てていたのだ。そこに、
「なに…してんです?」
はやての担当医の石田がシャマルに話しかけてきた。

 

シャマルと石田は別の場所に移り、はやての容態の事を話していた。
「はやてちゃんの病気はとても難しいものですが、我々も全力を尽くしています。だから…これからもはやてちゃんを支えてあげてくださいね。」
だがシャマルは今にも泣きそうな顔で、頭を抱える。
「でも…!はやてちゃんこのところ元気が無いみたいなんです、私達はどうすれば…!」
「う~ん、今のはやてちゃんの状態は…多分病気のせいじゃないと思いますよ…?」
「へ?」
シャマルは訳が判らず首を傾げる。

 

一方病室では、はやてが皆に自分が元気がない訳を話していた。
「そんでな…スウェンが居なくなって以来、スウェンの顔が頭から離れなくて眠れないんよ…。」
「そうだったの…。」
「どこ行っちゃったんだろうね、スウェンさん…。」
「うん。」
「シン?また様子がおかしいげど…?」
「な、なんでもないよ~。」
なのはとフェイトは先日捕まえた闇の書の騎士達の仲間の少年が、はやての言うスウェンと同一人物ということに気付いてなかった。
唯一事情を理解しているシンは冷や汗をダラダラかいていた。
(スウェンは今管理局に捕まってるなんて言えないし…どうしたらいいんだ…?)
「ちょっとトイレ。」
シンは居たたまれず、病室から出る。
はやては話を続ける。
「どないしたんやろウチ…ホンマ病気とは別に胸が来るしいんや…。食欲もでえへんし…。」
「はやて…?」
なのはとアリサとすずかは、話を聞いてはやての元気がない原因になんとなくピンと来ていた。すると、
「はやて。」
おもむろにフェイトが立ち上がり、はやてのベッドに腰掛ける。
「な…なに?フェイトちゃん?」
「スウェンさんの事、はやてはどう思ってるの?」
「フェイト?なにやっ…。」
「しっ!」
なにやっているのか聞こうとした皆を、立てた人差し指を唇にそえて黙らせるフェイト。
「そうやなあ…初めは、なんか寂しそうな人やなーって思っとったけど…いつの間にかウチがスウェンに励ましてもらってたんや、ウチが病気の事で弱気になっても、抱きしめたり言葉を掛けてくれるんや。ホンマ…スウェンが居てくれて良かったとおもっとる。」
するとフェイトは、はやての手を優しく握る。
「はやては…私と同じなんだね。私も…シンと出会えてよかったなって思ってる。」
「フェイトちゃん…?」
「………。」
唯一事情を知っているなのはだけは二人の会話をしっかりと聞いていた。
「私も…昔は空っぽだったけど、シンが守ってくれたおかげで自分を見つける事ができたんだ。はやてにとってもスウェンさんは特別なんだね。」
「へ…!?え…!?」
「戸惑わなくていいよ、だってそれはとても素敵なことだもの。」
「ウチは……。」
あの夜、星の下で弱い自分を受け止め、不器用ながらも優しく抱きしめてくれた彼。
その日から、なんとなく彼を目で追うようになっていた。
そして彼が居なくなったと聞いたとき、胸に大きな穴があいてしまった。
なんでそうなってしまったのか、“訳”が解らなかった。でもその答えが、今目の前にいるフェイトによって導き出された。
「私はシンが好き。はやても…スウェンさんが好きなんだね。」
その問いかけをはやては、
「…………………………(コクリ)」
否定できなかった。

 

「はやてちゃんが…スウェンの事を…!?」
一方シャマルは、石田からはやてのスウェンに対する恋心について聞かされていた。
「ええ、みなさんが居ないとき、よく相談に乗ってあげてたんですよ。もっともそれが恋だってことは、本人はまだ気付いてないみたいですけどね。」
シャマルは話を聞いて、これまでの事を思い出していた。
主のスウェンに対する視線、行動、話のネタ。
確かに自分達は主に愛されているが、スウェンのそれは全く別種のものだと感じてはいた。
「はやてちゃん…スウェン君が来てから血色がよくなってきてるんですよ?恋の力って凄いですね。」
はやてがスウェンに恋をしている。シャマルはそれがはやての生きる力になってうれしい反面、自分達よりはやてといる期間が短い彼が、はやての特別な存在になったという事に少し嫉妬心が芽生えていた。
(ちょっと…悔しいかな。)
その時、
「あの…ちょっといいですか?」
シャマルと石田は後ろから少年に声を掛けられる。
「…!?」
「君は…はやてちゃんのお友達の…。」
「シンっていいます。あの…そっちのお姉さんに話があるんですが…。」
シンはシャマルを指名した。
「…?わかったわ、ちょっと席を外すわね。」
そういって石田は何処かへ去っていった。
同じ病院の長椅子に腰掛けるシンとシャマル。
「…スウェンは今どうしてます?」
静かな口調ながらも、シンに対する警戒心は解かないシャマル。
「今管理局の基地にいるよ。何も喋ってないらしいけど…一応元気だよ。」
それを聞いて、シャマルはほっと胸を撫で下ろす。
「なあ、もうこんな事やめにしようよ、これじゃはやてが可哀相だし…闇の書が完成したら…。」
「私達は止まれないんです。邪魔はさせません。」
シンの停戦の呼びかけにシャマルは応じなかった。
「アンタ達の気持ちも解るよ…でもこのままじゃみんな悲しい想いをするだけ…。」
「貴方に…!何が解るっていうんです…!?私達はただ主と一緒にいつまでも平穏に暮らしたいだけなんです…!」
シャマルは涙まじりでシンに訴えかけた。
「俺は…ただもうプレシアさんみたいな人を出したくないだけなんだ!それを…なんで解ってくれないんだよ…!」
かつて、自分の娘を生き返らせようとして、自分を愛してくれている者を傷つけて、多くの人間を傷付けて、結局なにも得ることが出来ずに死んでいったプレシア。
今目の前にいる彼女とその仲間達も、プレシアと同じような事をしようとしていた。
「アンタ達とは…戦いたくないんだよ…。」
シンは塞ぎ込むシャマルを残してその場を後にした。

 

「あれシン君?遅かったねー?」
病室に戻るとそこには楽しそうにお喋りをしているなのは達がいた。
「お!想い人の登場やで~。」
「は、はやて~!」
フェイトをからかうはやて。
「あれ…?さっきまであんなに元気がなかったのに…?」
「うん、フェイトちゃんに励まされてな…スウェンが見つかるまでウジウジするのはやめよう思うたんよ。彼の事、信じてあげないとな。」
「そっか…。」
はやての笑顔を見てとりあえず安心するシン。
「じゃあ私達そろそろ行くね。」
窓の外を見ると、空は暗くなっていた。
「うん、またな。」
「この前の約束、ちゃんと覚えてなさいよ。」
「じゃあねはやて、お互いがんばろう。」
そしてシン達は自分達の家に帰っていった。

 

「はやてちゃん、ごきげんですね~。」
シン達が帰ったのを見計らって、シャマルははやての病室に入る。
「うん、また友達ができたんよー。あ!」
はやては窓の外をみる。空には一番星がぽつんと浮かんでいた。
「星や…スウェンも見とるかなぁ。」
「そうですね…。」
二人はその星に、今は遠く離れている彼との再会を星に願った。

 

その夜、ハラオウン邸。
「どうしたんだシン?僕を呼び出して…?」
シンはある事実を伝えるため、クロノを自分の部屋に呼び出した。
(もう…プレシアさんみたいな人を出したくないから…ゴメン、スウェン。)
心のなかで、シンはスウェンに約束を破ったことを詫びる、そしてそれと同時に、
ある誓いを立てる。
(はやては…俺達が助けてやるから!)
「実は…今まで俺、皆に黙っていたことがあるんだ…。」
「………。」
クロノは何も言わず、黙ってシンの話を聞いていた。
「闇の書の主は…八神はやてだ。」
そしてシンは、自分が知る限りの情報を、クロノに伝えた。

 

クリスマスイブまで、あと二週間足らず。