起動魔導士ガンダムRSG_11話

Last-modified: 2011-08-13 (土) 22:22:32

シンがクロノに真実を打ち明けてから十数日後、アースラブリッジ。
そこでシンとクロノはある調べ物をしていた。
「ぐう~…眠い。」
ここ数日、シンは睡眠時間を削ってクロノの調べ物の手伝いをしていた。
「今まで大事な事を皆に黙っていた罰だ。まだまだコキ使ってやるからな!」
「それは…ゴメンっていってるじゃ~ん。でも…フェイト達には言うなってどういうことだ?」
あの日、シンに闇の書の情報を聞かされたクロノは、シンにこのことは今は誰にも言うなと言ったのだ。
「…僕の勘が正しければ犯人は恐らく…もし僕らが調べている事が外に漏れたら妨害される恐れがある。」
「………?」
引き続き調べ物を続けるシンとクロノ、だが二人は自分達の行動をとある人物(?)に見られていることに気付いていなかった。

 

そのころアースラが収容されている管理局ベース、そこにある独房にスウェンは闇の書事件の重要参考人として十日ほど投獄されていた。
「どうなの?彼の様子は?」
様子を見に来たリンディは見張りの局員の報告を受けていた。
「だめです…尋問は続けていますがこの十日間、一切何も喋なないのです…。」
「我慢強いわね…どこかで尋問に対する訓練でも受けてたのかしら…まさかね。」
リンディはスウェンのタフネスさに驚いていた。

 

数分後、見張りの交代の時間になり、数十秒独房の見張りが居なくなる。すると、
「よいしょっとッス。」
換気扇の中からノワールがのそりと少量の食料を持って出てきた。
(スマンな…いつもいつも。)
(いいんスよ~。でもオイラのことが管理局の人達にバレてなくてよかったッスね~。)
(ああ、全くだ。)
スウェンは先程支給された味気のないパンに、ノワールが持ってきたジャムとマーガリンをつける。そしてそれを千切り、ノワールに渡す。
(ほれ。)
(お!すいませんね…はむっ。)
しばらく少し豪勢な食事を楽しむ二人(一人と一匹?)
(さて…本題に入るか。)
スウェンはノワールが持ってきたフルーツ牛乳を飲み干すと、真剣な面持ちでノワールを見る。
(まあまあ慌てなさんな、今日仕入れた情報は…。)
スウェンはこの数日、ノワールを使って管理局にある闇の書に関する情報を集めてもらっていたのだ。
(じゃあ情報をまとめよう。闇の書は本当は夜天の書といって元は様々な魔法のデータを収集するものだったが、改変を受けて暴走、転生を繰り返して今ははやての手元にあるという訳か。)
(今の闇…いや夜天の書は完成しても破壊にしか使えない。姉貴達がそれを知らないのは改変の影響だったんッスね…でもヴィータの姉貴は潜在的にちょっと覚えていた。)
(だがそれだと…はやては…。)
完成したら必ず暴走してしまう、そうなるとはやては助からない事になる。
(はやて……!)
(あの…アニキ、実はこんなもの見つけたんス…。)
ノワールは一枚の写真を見せる、そこには自分達を含めた八神家が写っていた。
(これは…!前にはやて達と撮った…!これをどこで!?)
(ここの提督さんが使っている部屋ッスよ、しかもここに居るお偉いさんの中に…「ギル・グレアム」っていう人がいるらしいんッスよ。)
(……!)
ギル・グレアム、ザフィーラが言っていたはやての両親の友人で八神家に支援を行っている人物。それを聞いてスウェンは考えを巡らせる。そして、
(ノワール、次は果物ナイフとケチャップを持ってきてくれ。)
(わっかりやした!何に使うんッスか?)
(それは…。)

 

次の日、日付は12月24日になっていた。
リンディは再びスウェンがいる独房にやってくる。
「はあ…君も強情ね、それじゃいつまでたっても出してもらえないわよ…。」
クロノと同じぐらいの歳の子が独房に押し込められている。リンディはそれが見ていられなかった。すると、
『うう…う…。』
「!?」
突然のうめき声に、リンディは慌てて独房の中を覗く。そこにはスウェンが腹に果物ナイフを刺して血を流したまま倒れていた。
(まさか…!?自分の口を封じるために…!?)
リンディは独房の中に入り、苦しそうにしているスウェンにかけよる。
「君!なんてバカなこと…を…!?」
リンディは自分の手についたスウェンの血に違和感を覚える。
「この匂いは…ケチャップ?」
違和感が確信に変わったその時
「フリ~ズッス。」
背後から何者かに銃らしきものを突きつけられた。
「……やられたわね、古典的な罠に引っかかるなんて…。」
スウェンは起き上がり、腹部から果物ナイフが刺さったケチャップの容器を取り出した。
「おっと動かんでくださいね。おいらのショーティーが火を吹いちゃうッスよ。」
ノワールは魔力を使って180センチほどの大きさになってリンディに銃を突きつけていた。
「君達の要求は何?」
あくまで冷静に対処するリンディ。
「俺達を…グレアムさんの所まで案内してほしい。」

 

執務官室、そこでグレアムはある探し物をしていた。
「おかしいな、ここに置いたはずなのに…。」
すると、
『グレアム提督、失礼します。』
挨拶と共にリンディが入ってきた。
「どうしたんだい………!?」
グレアムは何者かに銃を突きつけられているリンディを見て驚く。
「動かないでくださいね~。ズドン!ッスから!」
「探し物はこれですか?」
グレアムはノワールの後ろから出てきたスウェンに、探していた八神家が写っている写真を渡される。
「なるほど…ユニゾンデバイスのことを失念していたよ。今度独房を改良するように言わなければな…。」
「大体の事情は解っています。仮面の男に指示を送っていたのは…貴方ですね。貴方ははやての両親の友人と言って、ずっと彼女を監視していたんですね。」
「なんですって…!?」
スウェンの話を横で聞いていたリンディは驚く。
「内部からならハッキングし放題、オイラ達の戦いに武力介入し放題ッスもんね~。」
「貴方の目的はある兵器で闇の書を主ごと封印して、どこか人の手の届かない所に保管する…。これは俺の推測ですがね。」
「まったくもってその通りだよ。」
グレアムは足掻こうともせず、ただ淡々とスウェンの話を聞いていた。
「まさか…!提督はデュランダルを使うつもりですか!?確かにアレがあれば…でも…!」
「そう…氷結が掛けられるのは暴走が始まる瞬間の数分だけだ…。」
その言葉を聞いて、スウェンはナイフのような目つきでグレアムを睨む。
「ここの法律も調べさせてもらいました、その瞬間は…!まだはやてはそんな事をされるほどの犯罪者ではないはずだ!それなのにアンタは…!!!」
先程まで冷静だったのとは打って変わり、スウェンの表情には怒りが満ち溢れていた。
「……身寄りのないあの子を見て…心は病んだが、運命だとも思った。永遠の眠りにつく前ぐらい幸せにしてあげたかった………偽善だな。」
「まったくッスよ…はやての姉貴自身にはなんの罪もないのに…。」
グレアムの身勝手とも取れる話に、ノワールは完全否定の言葉を吐き捨てた。

 

「全く…シン・アスカといい君といい、コズミックイラの人間にはしてやられたよ。」
グレアムの言葉に、リンディは大きく目を見開く。
「コズミックイラ…!?提督は彼がコズミックイラから来た人間だというんですか!?」
「コズミック…イラ…?」
スウェンは聞いた事の無い…否、記憶にない単語に戸惑う。
「五ヶ月前…彼女を監視していたら付近にコズミックイラからの転移反応があった、恐らく何者かの手によるものだろう、そこのノワール君も恐らく同じ人物、もしくは組織に作られたデバイスだと私は推測する。」
「「………。」」
スウェンとノワールはここで自分達の出自が明らかになるとは思いもよらなかった。
そのとき、リンディが静かに口を開いた。
「提督…提督のプランにはもう一つ、法以外にも大きな欠点があります。凍結の解除は容易に行えます。いつかは憎しみと怒りで誰かが封印を解いてしまう。あと…。」
リンディはノワールに銃を向けられているのも厭わず、グレアムに歩み寄る。
「動いちゃダメって…!」
「待てノワール!」
リンディを止めようとしたノワールを、スウェンが声で制する。
そのままリンディはグレアムの近くまで歩み寄り、そのまま彼の頬を思いっきり引っ叩いた。
「貴方がそんな事をして仇をとっても…!クライドもクロノも私も喜びません!!!」
リンディはグレアムの悲しい行動に涙していた。そこに、
「母さん!」
「リンディさん!」
騒ぎを聞きつけたシンとクロノ、そして数名の局員が部屋に駆けつけた。
「あちゃ~、人質に逃げられちゃうし…八方塞がりッスね。」
「誰だお前!?」
見知らぬ青年に思わず突っ込むシン。
「クロノ……。」
グレアムは悲しそうな顔で自分を見ているクロノと目が合う。
「提督、シンと一緒にすべて調べさせていただきました。仮面の男…リーゼ達に指示を送っていたのは貴方ですね。」
「リーゼ……!?」
スウェンはこの場にいないグレアムの使い魔の事をすっかり忘れていた。
その時、基地中に警報が鳴り響く。リンディは慌ててアースラブリッジにいるエイミィと通信を繋ぐ。
「どうしたの!?一体何があったの!?」
『そ…それが海鳴大学病院付近で結界が張られていて…!!』
その報告を横で聞いていたシンとスウェン。
「病院…!?今日はフェイト達がはやてのお見舞いに…!!」
「「……!」」
スウェンとノワールはその言葉を聞いてその場から去ろうとする。
「まて!貴様等は…!」
だが行く手を局員に遮られてしまう。
「邪魔をするのなら…!」
力ずくで通ろうとするスウェン。
「待て…行かせてやれ。」
クロノの一言で局員は戸惑いながらも道を空ける。
「お前は……。」
「今何が大事かくらい僕にも判るよ、君達はグレアム提督の捕縛とリンディ提督の保護を、僕とシンは彼と一緒に現場に向かう。」
「判った、急ごうスウェン。」
クロノに促がされ、スウェンとノワールとシンは転移装置へ向かっていった。

 

「クロノ…成長したな。」
「ええ…なのはさん達に会ってから、あの子は大分変わりましたよ。」
「そうだな…もう私達の出る幕は無いのだろうな…。」
グレアムは弟子の成長を目の当たりにして、少し微笑んでいた。

 

転移装置にやってきた四人。
「ノワール、ユニゾンするぞ。」
「あいよ!」
そう言うとノワールは青年の姿から元の妖精の姿に戻る。
「な…!?ユニゾンデバイスだったのか!?」
「すっげー!妖精だ!」
「話は後だ…やってくれ。」
そして足元に円形の魔法陣が展開される。
「ノワール、ユニゾン・イン!」
「デスティニー!セットアップ!」
「僕らも行くぞ、S2U。」

 

そして魔法陣から光が放たれ、三人は海鳴市上空に転移していった。
(はやて…みんな…無事でいてくれ!)
(フェイト…!なのは…!)
それぞれ大切な人の無事を祈るシンとスウェン、だが彼らが見たものはクリスタルケージに閉じ込められたなのはとフェイト、そして光る魔法陣の上で絶望の叫びを上げているはやての姿だった。