起動魔導士ガンダムR_01話

Last-modified: 2011-08-13 (土) 22:02:37

 CE66、オーブのとある町で9歳の少年が下校中に行方不明になる事件が発生した。
少年はコーディネイターであったため、当初はブルーコスモスの仕業ではないかとささやかれていた。だが、少年の行方の手掛かりは何一つつかめなかった…。

 

「……な…い……」
僕を呼ぶのは誰?
「…きな…い…み」
この声は誰だろう?知っている人のものではない。
「起きなさい、君。」
その声で少年は目を覚ます。

 

「やっと起きたのね。」
声がした方を向くと、そこには黒いドレスのようなものを着た女性が立っていた。
「あの…あなたは?」
恐る恐るその女性に声を掛ける。
「怖がらなくていいわ。私はプレシア・テスタロッサ、貴方の名前は?」
「俺…?俺はシン・アスカっていいます。あの…プレシアさん…。」
「どうしたの?シン君?」
「ここは一体どこですか?あなたは一体何なんですか?」
「落ち着いて、まずは今まであったことをゆっくり話してくれないかしら?」
シンはプレシアの言う通り順を追って説明していった。通っている学校から家に帰る途中足元が突然光り、気が付いたらここにいたのだという。
「そうだったの…。」
「あの、出来れば早く家に帰りたいんですけど…父さんも母さんも心配してるだろうし…」
どれだけ眠っていたかはわからないが遅くなりすぎると叱られるかもしれない。だがプレシアの返答はシンのまったく予想していないものだった。
「まずはね…ここは貴方の暮らしていた世界ではないの…」

 

プレシアの話によると、ここは高時空間内にある時の庭園と呼ばれる場所、シンの住む世界とは全く違う、魔法が発展している世界、シンはなんらかの原因でこの時の庭園にとばされてきたのだという。そして、
「家に帰れない…?」
シンの世界はどこにあるかプレシアにも判らず、シンを元の世界に帰すことはほぼ不可能だという。
「そ…そんな…」
もう帰れない?父さんや母さん、マユにもう会えない?次々と不都合な事実がまだ幼いシンの心につきささる。
「う…うう…」
そんなことを考えてしまったのでシンは声を殺して泣いてしまう。
「まあ落ち着きなさい、全く方法が無い訳ではないわ。」
そう言うとプレシアは端末のようなものをとりだす。そしてそこに宝石のようなものが映し出された。
「グスッ…、これはなんですか…?」
「これはジュエルシードといってね…数を揃えればどんな願いもかなうのよ。」
プレシアはとある研究のためジュエルシードを集めておりすでに何個か回収済みだという。
「そこでね、きみにも集めるのを手伝ってほしいのよ。」
そしてプレシアはビー玉のようなものをシンに見せる。
「うわあ…きれい…。」
『お褒めいただいて光栄です。』
「うわっ!?しゃべった!?」
「これはデバイス、これがあれば君にも魔法が使えるのよ。」
プレシアはデバイスをシンに手渡す。そして
「入りなさい、フェイト。」
プレシアの声で部屋の扉が開かれる。するとそこにはシンと同じくらいの歳の金髪のツインテールの少女がたっていた。
(…かわいい娘だな…でも…なんだか元気が無い…?)
「この子はフェイト、この子が今ジュエルシードを集めているのよ。君にはそのデバイスを使ってその子の手伝いをして欲しいのよ。」
「え?でも俺コレの使い方まったくわからないんですけど…。」
「それはフェイトに教えてもらいなさい、大丈夫、貴方は素質があるからすぐおぼえられるわ、フェイト、頼むわよ。」
「はい、母さん。」
そしてフェイトはシンをつれて部屋を後にする。一人取り残されるプレシアは、
「出来損ないの役にたつのかしら…あのコーディネイター…。」
一人つぶやいた。

 

こうしてシンは元の世界に戻るため、フェイトと共に第97管理外世界でジュエルシード集めをすることになった。そして数日後…。

 

海鳴市郊外のとある森林、そこにシンは一人たたずんでいた。右手にはライフルのようなものがにぎられている。あたりには風になびく葉の音がカサカサと響いている。
次の瞬間、四方の草むらから黄色とオレンジ色の光弾が飛び出す、その数は10、すべてシンに向かって襲い掛かる。シンは手にもったライフルで光弾を撃ち落としてゆく、
1,2,3,4、前方からきた光弾をすべて撃ち落とし、
5,6,7,8,9、後方からきた光弾もすべておとす。
そして最後の一つが上空からシンの後頭部めがけて襲い掛かる。
「ディスティニー、フラッシュエッジ。」
『了解です。』
声に呼応するかのようにシンの左手に光る剣のようなものが握られる。そして光弾のほうを振り返り、
バシュ!!
光弾を切り払った。

 

「はい、終了~。」
声がした方を向くシン、そこにはオレンジ色の髪に犬耳のようなものをはやした女性と、金髪でツインテールの少女が立っていた。
「アルフさん!フェイトちゃん!」
シンは二人に駆け寄る。
「どうでした!?俺の魔法?」
シンは先程の魔法の訓練の出来具合を二人に聞く。だが、
「うん……初心者にしてはまあまあじゃない?」
アルフの答えは素っ気無いものだった。
「とりあえず私達はジュエルシード探索に行くからあんたは先にアジトにもどってな。」
「え……あ…。」
シンが返事をする前に二人はその場を去ってしまった。
一人その場に取り残されるシン。
「ディスティニー、俺……あの二人に嫌われてるのかな?」
『さあ?私にはわかりません。』

 

「アルフ……、さっきのは良くないと思うな…、シン君がかわいそうだよ。」
「フェイト…でも…」
さっきの場所からだいぶ離れたところでフェイトと人形態のアルフは先程のシンとのやりとりについて話し合っていた。
「だってあいつ、得体が知れないんだもん…」
初めて会った数日前までは魔法など一切知らず、狼形態のアルフが喋ったことにとても驚いていたような子供が、ここ数日でフェイトに匹敵する魔法の技術を身に着けてしまったのだ。
「それにあの女は私達を手伝わせるために連れてきたらしいけど……、そんなの私達だけで十分じゃないか!」
「でも私達が遅いのは事実だし……」
「そんなの!あの女がわがまま言ってるようなもんじゃないか!それに…フェイトだってあいつとはあまり話しないじゃないか。」
「う……。」
痛いところを突かれフェイトは顔をしかめる。
「だって……。」
「だって?」
「私…男の人となんて話したことないんだもん、どうすればいいかわからないよ…。」
今までフェイトの周りにいた人間はフェイトが覚えているだけで女ばかりで、いわばシンはフェイトにとって初めて会う男なのだ。
しばらく沈黙したあと、二人は深くため息をつく。
「とりあえず後で謝ろう、さすがにかわいそうだよ。」
「わかったよフェイ………!!?」
突然二人の会話が止まる。
「アルフ……いまのは伐採所があった方向だね…。」
「ああ、今の魔力反応……ジュエルシード!!」
アルフは人形態から狼形態に変身する。
「まって!シン君はどうするの!?」
「アイツは勝手にアジトにっ戻ってるよ!それよりも急がないとまたあの白い子に邪魔されるよ!」
そう言ってアルフは飛びたっていった。
「ごめんねシン君……、待ってよアルフ!!」
とりあえずフェイトはジュエルシードの確保を優先するため、アルフと共に飛び立っていった。

 

「うわっ…これは…。」
フェイト達が見たもの、それはジュエルシードが憑依した樹木が何本もあるツタをうならせて、伐採のための機材や木材を運ぶためのトラックを破壊していた。そして、
「人が襲われている!?」
よく見るとツタに何人か縛られている。ここの作業員だろうか、
「助けなきゃ……バルディッシュ!!」
『Yes,sir』
フェイトは手に持っていたデバイス『バルディッシュ』を鎌状に変形させ、化け物に突撃してゆく
「フォトンランサー!」
フェイトから放たれた光弾はすべて化け物に命中する。そのスキに
「はぁぁ!!」
作業員達を捕らえていたツタをすべてバルディッシュで切り裂く。
「ゴガァアアアアア!!」
攻撃が効いたのか苦しむ化け物。
「アルフ!その人達は!?」
「大丈夫、みんな気絶しているだけだよ。」
アルフは作業員達を回収し安全なところまで運んでいく。それを確認したフェイトは、
「一気に決める……、アークセイバー!!」
光の刃で化け物を切り倒した。
「やったねフェイト~♪」
もどってきたアルフがフェイトにねぎらいの言葉をかける。
「早速封印を……」
フェイトに駆け寄ろうとするアルフ、だが次の瞬間、
ドカッ!!
「うぐっ!!?」
ドカーン!
「アルフ!?」
さっきまでいたアルフが視界から消える、フェイトは一瞬何が起こったかわからずあたりを見回し、そしてすぐ破壊されたトラックにうちつけられ気を失ってるアルフを見つける。
シュババ!!
「きゃあ!?」
アルフに気を取られ反応が遅れてしまいフェイトはツタに捕まってしまう。
「も…もう再生している…?」
先程フェイトが攻撃した箇所はもうすでに再生していた。
「う…ぐう……。」
フェイトの腹に、腕に、足に、そして首にツタが締まってゆく。
「ア……アルフ………。」
アルフは気絶したまま目を覚まさない。ツタの締まる強さはどんどん強くなっていく。
「お……母…さ………」
頭の中におぼろげながら幼い日の思い出が駆け巡っていく、

 

ああ……自分はもう死ぬんだ…。
アルフ…ちゃんとにげられるかな………?
お母さん……役に立てなくてごめんなさい……。
あの白い子……できれば謝りたかったな……。
あ…そうだ…、シン君にもちゃんと……謝って…なかっ……

 

「うおおおおおおおおおおお!!!」
「!?」
突如上空から複数のビームが化け物に襲い掛かり、フェイトを絡めていたツタが緩む。
意識がもどりフェイトはビームがきたほうをみるその瞳に映ったのは、
「シン…君…?」

 

「ディスティニー、ビームブーメランだ!!」
『了解。』
シンはフラッシュエッジをブーメラン形態にして投げつける。フェイトを絡めていたツタはすべてそれに切り裂かれ、落下するフェイトをシンは空中で抱きとめる。
「大丈夫!?フェイトちゃん!?」
「う……うん。シン君どうしてここに……?」
「ディスティニーがここのことを教えてくれたんだよ。それよりも…。」
化け物は今だ暴れまわっている。このままでは被害は広がる一方だ。
「もっと大きな攻撃じゃなきゃ…でも…」
スキが大きい攻撃だとまたあのツタにつかまるかもしれない。
「それなら…。」
シンはフェイトを一度地上に降ろし、
「俺が囮になるよ。」
「えっ!?シン君無茶だよ!!」
自分達でも手を焼くのにまだ魔法を覚えて間もないシンが相手をするのは危険すぎる。
「大丈夫だよ、避けたりするぐらいなら俺にもできるから。」
「でも…。」
フェイトはまだ迷っていた、そんなフェイトにシンは、
「大丈夫。」
シンはフェイトの頭を優しく撫で、
「俺がちゃんと守ってあげるから。」
そういって化け物の方へ向かっていった。

 

「…………。」
『マスター。』
「えっ!?あっ!なに!?バルディッシュ!?」
『サンダーレイジはいつでもいけますが?』
「あっ!ああ!そうだったね!」
フェイトはサンダーレイジを放つため空高く舞い上がる。
「こっちだ!この化け物!」
シンはフラッシュエッジでツタを切り払いながらビームライフルで本体に攻撃する。
(シン君いくよ!そのままじゃ巻き込まれるからはなれて!)
念話で合図を受け、シンは上空へ舞い上がる
「サンダー…。」
バルディッシュの刃部分に光が集まり、
「レイジーー!!」
雷光が放たれ、化け物は跡形も無く吹き飛び、そこにはポツンとジュエルシードが浮かんでいた。

 

ジュエルシードを封印し、アルフを起こしてアジトへもどるその帰り道。
「……さっきはゴメン、なんかアンタを避けるような真似をして…。」
アルフは先程の魔法の訓練のときについてシンに謝罪した。
「別にいいよ、もう気にしてないから。」
「でもそれじゃあ……私達の気がすまないよ……。」
「う~ん、じゃあさ、『シン君』とか『アンタ』じゃなくてさ、『シン』って呼び捨てで呼んでくれよ、その代わり俺も二人のこと呼び捨てで呼ぶからさ。」
「え……それでいいの…?」
「これからずっとお世話になるんだからずっと他人行儀じゃお互い疲れちゃうよ。だからこれからもよろしく、フェイト、アルフ。」
「…うん、わかったよシン。」
「これからもよろしく、シ…シン。」

 

こうしてシンの初の魔法の実戦は無事幕を閉じたのだった…。

 
 

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