運命と最強_第16話

Last-modified: 2007-11-19 (月) 13:32:37

闇の書事件から二週間後

 

:ハラオウン家

 

ハラオウン家のリビング、そこには湯気が立つ紅茶が二つあり
「・・・・・・」
「・・・・・・」
カナード・パルスとフェイト・テスタロッサが向かい合って座っていた。
事の発端は、カナードがハラオウン家に訪れたことから始まる。
当初フェイトは、プレアに用があるのではないかと思い、今はエイミィの手伝いでいないことを告げたが
「テスタロッサ、お前に用がある」
といい、今に至る。
当のカナードは座ったまま目を閉じ、腕を組み、長いこと黙ったままである。(ちなみに二分しか経っていません)
フェイトは緊張していた。
異性と二人きりになることは初めてではないが(といっても、クロノやプレアだけだが)、
あまり話したことが無いカナードが、自分に用があるという事で訪問してきたので、否応なく緊張してしまう。
何より今はフェイト以外のハラオウン家の住人はそれぞれ用があり、誰もいないということも緊張感をあげる原因となっていた。
そんな緊張感のせいか、フェイトにとって二分が二時間にも感じられた。
そして、時計の秒針が三回転しようとした時
「テスタロッサ、聞きたいことがある」
カナードが話し出した。
「はっ、はい!なんですか?」
突然の言葉に驚くフェイト、そして
「お前は、アリシア・テスタロッサを怨んだりはしなかったのか?」
フェイトはカナードの質問内容にさらに驚いた。
「どういう・・・ことですか・・・」
驚きながらも質問するフェイト
「プレアから聞いた、あいつがリインフォースを説得している時、『フェイトちゃんも『王道ではない』生き方が出来ました』、
その言葉が引っかかってな。プレアに尋ねたら教えてくれた、お前の出生を」
カナードの言葉を黙って聞くフェイト。
「お前もプレアから聞いたんだろ?俺の出生を。当時の俺は完成体であるキラ・ヤマトを倒して自分の存在を証明しようとしてた。今思えば馬鹿な話しだ」
自嘲気味にに笑うカナード。
「ある意味、俺とお前は似たような存在だ。お目の考えを聞きたいと思ってな」
フェイトは少し沈黙し
「怨んだりは・・しませんでした」
答え始めた。

 

「私が『代わりに作られた』ということを知ったときは、ショックの方が大きかったです・・・・」

 

フェイトは思い出す・・・真実を知らされた時のことを・・・・狂ったように笑う母を

 

「あの時、なのは達がいなかったら・・・私は・・・・ここにはいなかった・・・・」

 

あの時・・・必死になって手を差し伸べてくれたなのは

 

「私は・・アリシアにはなれない・・・アリシアは、私の姉ですから。私はフェイトです。アリシアの妹の、フェイト・テスタロッサです」
カナードを見据え、はっきりと答えた。
「そうか・・・すごいな・・・・・お前は・・・・」
カナードはフェイトを見据え、微笑み答えた
そんなカナードを見て、照れたのか、俯くフェイト。その時
『カナード!!』
突然、シグナムから念話が入った
「なんだ?慌てて」
シグナムの異常な慌てように、いやな予感がするカナード

 

そして

 

「プレアが・・・・・倒れた」

 

それは現実のものとなった。

 
 

カナード達が駆けつけた時には、生命維持装置が付けられたプレアがベッドに寝かされていた。
事の発端は、エイミィの手伝いをしていたプレアが、突然倒れた事からから始まった。
プレアの様子が尋常ではない事がすぐにわかったエイミィは、即座に本局内の医療区画に連絡。
その時、任務の帰りでたまたま本局に居合わせたシグナムとシャマルがいち早くそのことを知り、
シグナムが連絡をし、シャマルが必死に回復魔法を掛けたが、全く効果が無かった。
プレアを診断していた医師が現状を報告する。
プレアの細胞崩壊は、止める事が出来ず、進行を送られることが精一杯であること。
そして、プレアのリンカーコアが跡形も無くなくなっていることも、検査の結果で分かった。
「細胞の崩壊が進んでいます。このままでは・・・・」
言葉に詰まる医師に
「どうにか・・・できねぇのかよ・・・なぁ!!」
ヴィータが医師に掴みかかるが、それをシグナムが抑える。
「正直・・・無理よ・・・・細胞の崩壊が・・・・早すぎるわ・・・」
長時間回復魔法をかけていたのだろう、疲労困憊のシャマルが俯き、震えた声で答えた。
その後、治療の甲斐無く、プレアは目覚めず、二日が過ぎた。

 
 
 

二日後

 

:深夜の病室

 

深夜の病室にはただ、機械の音がむなしく響く。
そこにはイスに座ったヴィータが、ただじっとプレアを見ていた。
「・・・目覚めたか・・・・」
その時、病室にカナードとリンディが入室し、ヴィータに尋ねるが
「・・・・・いや・・・」
ヴィータは頭を振り答えた。
「プレアの奴・・・元気になるよな・・・」
ヴィータが不安そうにリンディ達に尋ねる、
「ええ・・・きっと、よくなるわ」
リンディはヴィータの肩に手を置き、答えた。その時
「・・・・あ・・・・あ・・・・」
小さく声を出しながら、プレアは目を覚ました。
「プレア・・・プレア!」
プレアの前まで近づき、顔を覗き込むカナード達
「ヴぃータ・・・・ちゃん・・・カナード・・さん・・・リンディ・・さん・・」
ヴィータ達を確認するように名前を呼ぶプレア。
「担当医を皆を呼んでくるわ」
そう言い、病室をでていくリンディ。
担当医は直に到着し、早速プレアを診断した。
その間、カナード達は病室の外で診断が終わるのを待っていた。
「なのは達は・・・」
カナードがリンディに尋ねる
「今、向かってるわ。でも皆地球にいるから、ここまで来るのには時間が・・・・」
「そうか・・・」
それきり会話が続かなくなる3人。その時
「皆さん・・・・」
担当医が3人を招き入れた。
その後、プレアの願いで担当医は退場してもらい、リンディ達だけになる。そして

 

「時が・・・・来たようです・・・・」
心配そうに自分を見ているカナード達に、プレアは語りだした。
「どういう・・・ことだ・・・」
カナードが尋ねる。
「こうなることは・・・わかっていました・・・僕に・・施されたクローニングは・・・不完全・・なんです・・」
プレアの言葉に絶句する三人。

 

「本当は・・・破棄コロニーでの・・・・カナードさん・・との戦いの・・・時で・・・僕の・・・命は・・・尽きるはずでした」
カナードは思い出す。こちらの世界に来るきっかけとなった戦いを。
「ですか・・・こちらの世界に・・・・来たときに・・・・・形成された・・・・リンカーコアが、
僕の細胞破壊を・・・・・防いで・・・・くれて・・・いたんです。それでも・・・限界があったようです・・・
細胞破壊の・・・・・付加に耐えられずに・・・・・リンカーコアは・・・・消滅・・・してしまいました・・・」
「その結果が・・・これか・・・・」
カナードは壁を思いっきり叩き、悔しそうに呟いた。
「どうして・・そのことを・・・知らせてくれなかったの!事前にわかっていれば・・・何か・・出来た筈よ!」
リンディがプレアに尋ねるが
「ごめんな・・・さい・・・・僕も・・・そんな状態になって・・・初めて・・リンカーコアの働きに・・・気が・・・ついたんです・・・」
プレアが申し訳なさそうに話す。
「ざけんな・・・・」
俯いたヴィータがつぶやく、そして
「ざけんな!!・・・友達になったばっかだろ・・・死ぬんじゃねぇよ!!!」
涙を流しながらプレアに向かって叫んだ。
そんなヴィータを見据えながら、プレアは手を掲げた。
「手を・・・握ってくれるかな・・・もう・・目が・・・・よく見えないから・・・」
ヴィータはプレアの手を握り、涙目でプレアを見据えた。
「暖かい手だね・・・ヴぃーたちゃん・・・・おねがいが・・あります・・・」
「なん・・・だよ・・・」
「どんな・・ときでも・・・どんな・・ことが・・・あっても・・・笑顔を・・忘れないで・・・くだ・・・・・さい」
プレアは微笑み
「笑顔の・・・ヴィータちゃんは・・・かわいいい・・から・・・」
そう呟いた。
「ああ・・・・・約束する・・・」
ヴィータはしっかりと頷いた。
「カナードさん・・・・手を・・・・」
ヴィータは離れ、今度はカナードが手を握る
「カナードさん・・・・お願いが・・・あります・・・」
「なんだ・・・」
「Nジャマーキャンセラーの・・・・・データを・・・マルキオ導師・・・のもとに・・・届けて・・・・もらえませんか・・・・・」
プレアの願いにカナードはしばらく沈黙し
「断る・・・・プレア・・・お前が・・・元気になって・・・自分で・・・やれ」
カナードは声を搾り出すようにして答えた。
そんなカナードを見据え
「おねがい・・・・します・・・」
プレアは微笑み、答えた。
「リンディさん・・・・手を・・・・」
カナードは離れ、今度はリンディが手を握る
「今まで・・・ありがとう・・・・・ございました・・・・・・」
リンディはただ黙って頷いた。

 

「僕には・・・・・家族が・・・いませんでした・・・僕に・・家族の・・・暖かさを与えてくれて・・・うれしかった・・・です」
そんなプレアを、見据え
「だったら・・・家族に・・なりましょう・・・フェイトさんと一緒に・・・・」
目に涙を浮かべ答えた。
「・・・・・ありがとう・・・・お母・・・・さ・・・ん・・・・・」
その言葉に泣き崩れるリンディ。

 

                   そして

 

「ほんと・・・うに・・・・・よか・・った・・・最後に・・・・皆さん・・・・が・・いて・・くれ・・・・・・・て・・・・・」

 

                  一つの命が

 

          「あ・・・・り・・・が・・と・・・う・・・・」           

 

                   尽きた

 
 
 

数分後

 

なのはたちは途中で合流し、プレアの病室を目指してた。その時
「カナードさん?」
壁に力なくもたれ掛かっているカナードを発見した。
「カナード、プレア(プレアは・・・・死んだ」
リインフォースが尋ねる前に、結論を話すカナード。
「そ・・・・そんな・・・」
「嘘・・だよね・・・・」
なのはとフェイトが言葉を放ち、他の皆はただ絶句するだけであった。
「なぜだ・・・・・何故プレアは死んだ・・・・・・」
そんな彼女達を無視し、カナードは言葉を放つ
「誰かのコピーだからか・・・・クローンは・・・死んでも・・・いい人間なのか・・・」
自分の悲しみを
「そんなことは・・・・・無いはずだ・・・・・絶対に・・・・・」
紛らわすために
「うっ・・・・おおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
静かな廊下に、叫び声がこだました。

 
 

数週間後

 

沢山のお墓がある内の一つに、カナードは花を持って佇んでいた。
「ここなら・・安心して眠ることができるだろうな」
プレアの墓の前に花を添えるカナード、そこにはカナードが添えた花のほかにもいくつもの花が備えてあった。
「・・・・あの世界じゃ、いつ墓が吹き飛ぶか分からんからな・・・」
苦笑いしながら呟き、プレアの首飾りを取り出す
「俺達の世界の場所が特定できたらしい・・・お前との約束・・・・果たして来るぞ」
カナードはプレアの首飾りを握り締め、その場を後にした。

 
 

同日時

 

:八神家

 

カナードが元の世界に帰ることなり、八神家では家族だけでお別れ会を開いていた。だが
「・・・・・・・・・」
全員静かに食事を進めるだけであった、そして
「・・・・・帰るなよ・・・・・」
ヴィータが呟き
「帰るなよ・・・なぁ!!ここにいろよ!!」
ヴィータが叫びだした
「ヴィータ!」
シグナムが止めるが
「うっせぇ!!みんなだって同じ気持ちだろ!!」
その言葉に黙る全員
「そのデーターだって、他の奴が活用してるんじゃねぇのか!?」

 

実際、Nジャマーキャンセラーのデータはカナードが持っているやつだけではない。
現に大西洋連邦はそれを増産しており、カナードもそれを奪ってハイペリオンをパワーアップさせた。
ただ、大西洋連邦は戦争に勝つことを第一に考えているため、それを民間目的に使おうとは思っていなかった。

 

「だから(ヴィータ」
ヴィータの言葉をカナードが遮った。
「これは・・・・プレアの、頼みだ」
カナードの言葉に黙るヴィータ。
「確かに、お前の言うとおり、Nジャマーキャンセラーのデータは増産している。だが、連中はそれを戦争目的でしか使用していない。
もし、俺が帰った後でも戦争が続いていたのなら、間違いなくこれは必要になる」
カナードの言葉に俯き、黙るヴィータ。そんなヴィータに近づき、抱きしめるはやて。
「そうや・・・だから・・今夜は皆でカナードを笑顔で送って・・・あげよって・・・」
だが、はやても限界であった。
一人の寂しい生活から自分を救ってくれたのはカナードだった。
口が悪くぶっきらぼうだが、やさしく頼りになり、自分やヴォルケンリッター、リインフォースを救ってくれた人。
そんな兄、もしくはそれ以上の存在だったカナードがいなくなることはヴィータ以上に、はやてとっては辛いものであった。

 

「せやから・・・・せやからぁ・・・・・」
今すぐ泣き出しそうなはやてに、リインフォースが寄り添う。その光景を見据えるカナード。
「とにかく・・・・俺は帰る。それは決定事項だ、だからヴィータ」
「なん・・だよ・・・・」
消え入りそうな声で返事をするヴィータ。
「俺が帰ってくまで、俺の部屋に悪戯なんかするな。またデータ消えて徹夜するのはゴメンだからな」
「へっ?」
間の抜けた声で返事をするヴィータ。そんなヴィータを無視して言葉を続けるカナード
「シグナム、お前はも少し気楽に生きろ。これからは気楽な生活の方が多くなるのだからな」
「シャマル、お前は料理の腕を上げろ・・・・それが第一目標だ」
「ザフィーラ、この中で男はお前だけだ、肩身が狭いが、皆を頼むぞ」
「リインフォース、マスタープログラムとしてのお前の人生は終った。これからははやての騎士として、一人の女として生きろ」
「はやて、お(ちょいまち!!」
カナードの言葉を遮るはやて
「カナード・・・かえってくるんか?」
はやての問いに
「何を言っている?当たり前だろ」
カナードは当然のように答えた。
「俺の家はここで、俺の家族はお前達だ。家族の元に返ってくるのは当然ではないのか?」
その言葉に
「「「「「だったら・・・最初から・・・・・いえーーーー!!!!!」」」」」
皆の叫びが近所にこだました。

 

その後、最初の暗さが嘘のようにお別れ会は盛り上がった。
そんな中
「なぁ、カナード。あの時、私になにをいおうとしたん?」
はやてはオレンジジュースを飲んでいるカナードに尋ねた
はやての問いに、酔っ払って抱きついてきたシャマルを引き剥がしながら
「お前は、シグナム達の幸せを第一に考えてる。それは悪くは無い。だが、自分の幸せも考えろと言いたかったんだ」
「せやけど、うちは幸せや、こないな沢山の家族が出来て」
はやては騒いでいるヴィータ達を微笑ましく見詰めながら答えた。
「それならシグナム達も同じだ。お前のような主、いや、家族が出来て幸せだろう。」
カナードはいい感じに酔っぱらっているシグナム達を見ながら
「お前がシグナム達の幸せを望んでいるように、シグナム達もお目の幸せを心から望んでいる。無論俺もだ。それを忘れるな」
カナードははやてを見据え答え
「うん!」
はやてもカナードを見据え答えた。

 

「それで・・・何時頃帰ってくるのだ?」
お酒がはいっているのか、顔がほのかに赤いシグナムが尋ねた
「データを渡すのは直に終る、だが・・・・やることが出来た・・・・」
「やることとは?」
リインフォースが尋ねる
「ああ、ちょっとした野暮用だ・・・・だから三ケ月、長くて半年といった所か・・・」
カナードがやろうとしている事、それはプレアのような存在を作ってる所を徹底的に叩き潰すことだった。
「そうか・・・・・ほんなら・・・少しの間のお別れやな。せやけど、無茶はせんといてな」
「気をつけてね、帰ってきたら、美味しい料理でびっくりさせてあげるから」
「帰ってきたら、手合わせをするぞ。おまえとは、戦ってみたかったからな」
「お前が何をするかは分からんが、健闘を祈るぞ」
「早く帰ってこいよ!帰ってきたら一緒に、プレアのお墓に行こうな」
「主たちと一緒に、帰りを待っている・・・・どうか無事で」
それぞれカナードに思いを伝えるはやて達。
「ああ・・・・行って来る」
カナードは微笑み、答えた。

 

翌日、カナードは皆に見送られ、転送装置で元いた世界に帰還する

 

       そして・・・約束通りに、彼は帰ってくる

 
 
 
 
 

             10年後に

 

END
運命と最強_番外編前編