運命のカケラ_04話

Last-modified: 2008-06-15 (日) 00:08:57

 このなのは・種死クロスは
 x={ケモノ(ザフィーラ+アルフ-中身+致命的エラー)}/(はやて+フェイト+なのは)+物理的に別モノ(MSがデバイスになっちゃう設定/魔法素養あり設定)
 および
 y=ちょっとだけ優しくない世界(前途ある魔法少女+敗れた戦士)
 による方程式
 x+y^2(1期)
 を計算する過程からできています。
 
 

 

 
 
――全ては神の試練です。あなたの為に、神がそのような運命をお授けになったのですよ。

 

 自分の目の前でそうほざいた人間を、シンは躊躇なく殴り飛ばしたことがある。
 鍛えて鍛えて鍛えぬいた身体が放つ右ストレートは、清貧を掲げる割に随分とたくさんの脂をつけた顎にめり込み、簡単に粉砕した。
 タイルで舗装された歩道いっぱいに赤や白や透明っぽい何かを撒き散らして飛んでいくソレに視線をやることすら汚らわしいとばかりに、シンは右手を払って歩き出した。

 

――試練の為?神が運命を授けた?ふざけた話だ。

 

 無神論とか宗教の衰退とかそういったものとは無関係に経験論として、シン・アスカは神の存在を信じない。宿命の存在も信じない。あるのはただ、偶然が重なった結果、めぐり合わせの結果論という意味の『運命』だけだ。
 だいたい神なんてものが存在して、そして自分の為にこの人生を演出したとするならば。
 ステラやマユ、父や母やレイやトダカ。それだけではない。ザフトも連合もオーブも関係なく、自分が殺してきた彼らは――

 

――『運命』はそいつだけのものだろ。誰かのために生まれさせられて殺されるなんてこと、あってたまるかよ。

 

 そこまで考えて、シンはしまったと立ち止まった。ぐしゃりと髪を掴み、考えていることを思わず口走る。

 

「……蹴りも入れとくんだった」

 

 数えるのもバカらしいほどの、昔々の話。シン・アスカに記録されている、ひとつの話だった。

 

 
 
 
 
「逃げろ!早く!」

 

 そう言って戻された視線につられて、なのはが視線を向けた先。
 ようやく立ち木を押しのけた何かが、赤い片目をこちらに向けていた。
 

 

「え?え?」
「ぁ?ああ――くそっ!」

 

 混乱して立ち尽くすなのはを置き去りにして、『彼』は弾かれたように飛び出した。
 慣性を無視したかのようなジグザグ軌道で化け物へと踊りかかり、弾かれるのを覚悟で一撃を見舞う。
 突きたてた牙がほとんど傷を与えられてない――当たり前だ、『刃渡り』が短すぎる――事を目の端で確認し、突っ立っている茶色い髪の少女に再度声を飛ばす。

 

「見てわからないのかよこの馬鹿!さっさと逃げろって!!」

 

 びくりと震えて走り出した少女にもう一度だけ視線を投げ、『彼』は数を増した触手の間をすり抜けて距離をとった。あまりの状況の悪さに笑いしか出てこない。
 端から補給など期待できない魔力は枯渇寸前、どてっ腹は大開放中。おまけに周囲は住宅地、とどめにあの少女が逃げ切るまで時間を稼ぐ必要ができてしまった。記憶に残る全ての戦闘を含めた中でも相当悪い条件だと断言できる。

 

「こうなったらあの子供に――いや。ダメだよな、そんなの」

 

 一目で理解できたあの少女の異常性――素養についすがりたくなって、すぐにそれを否定する。
 当たり前だ、あんな幼い少女を『こんな所』に引きずりこむわけにはいかない。このままならおそらく自分は身体を維持できなくなって消えるだろうが、せめてあの少女くらいは……だが。それでいいのか?
 自問しながら身をかがめる『彼』の前で、バケモノが身を振るわせた。水っぽい音と共に新たに触手が伸びてきた。一、二、三……合計6本。そのすべてがうねりながら、先端でゆっくりと『彼』を指し示す。

 

「んな……」

 

 バケモノの咆哮が響き渡るのと触手が『彼』目掛けて殺到してくるのは、同時だった。
 

 

 ずどん、と新たな地響きに灰色の街が揺れて、なのはは思わず足を止めて背後を振り返った。無茶苦茶に角を曲がっていたせいか、随分と走った割にはあまり直線距離を稼げていなかった。
 灰色の塀の上にちらちらと覗く光景――粉砕されたコンクリートブロックが数メートルも宙を舞い、同じ高さをのたうつ触手に電柱が引き倒される光景に寒気を覚えて再び走り出す。
 何がなんだかわからない。
 見たことのないお化けは出るわ、ちょっと大人っぽい声で喋る子犬は現れるわ。しかも何故かその子犬はお化けと戦って――大怪我をした子犬が。戦って。大怪我で。点滴もしてて。
 脳の外枠を情報がはみ出すように、どんどん考えが支離滅裂になっていく。

 

「あの子犬さん」

 

 なのはは思わず立ち止まり、自分の手を見下ろした。
 ――抱き上げたときの生暖かい感触が蘇る。あんな出血をするような怪我をしたまま、道路や塀を簡単に壊してしまうようなモノと戦って。その上自分に逃げろ、と言って。とても小さな身体が、自分を守るように立っていて。

 

「逃げろって。でも、血、出てたし。でも――」

 

 宙で握った手は、当然何も掴まない。
 ――抱き上げたときの軽さが蘇る。あんな軽い身体で、あんなモノの前に、あそこに、自分を逃がすために立っていて。

 

「――でも、あんな……っ!」

 

 何をしたらいいかもわからないままに踵を返し、来た道を戻りだす。
 なのはという少女がもっと大人だったら。思考を落ち着かせ、情動と危険性を天秤にかけて逃げ出していたかも知れない。
 なのはという少女がもっと子供だったら。そもそも思考することすらできず、泣き喚きながらただ無茶苦茶に走るだけだったかも知れない。

 

 偶然に重なった偶然。それを運命というならば、今ここで高町なのはと言う少女とシン・アスカという存在の運命は明確に交わったのだと言えた。

 

「はっ、はっ、は、あ――」

 

 塀の角から顔を半分だけ出して覗いた光景は、失われ気味だった現実感を更に消し飛ばす程になっていた。
 飛び散った何かによって穴だらけの塀。折れた電柱と切れた電線。抉り返された道路。それでいて一切騒ぎは起こっていない。なのは以外の人間がまるで消えてしまったかのような世界で、黒い小さな身体の『彼』は巨大なバケモノ相手に一歩も引かない戦いを続けていた。
 だが一歩も引かないだけで、劣勢は明らかだ。触手が掠った所から新たに血を流し、突き立てる牙や爪はさほど効いた様子もない。このまま見ていれば遠からず『彼』が触手に貫かれる光景か絞め殺される光景が目の前で展開されるだろう。
 だがなのは自身9歳の子供にすぎず、何ができるわけでもない。見ているしか――見て――見て?

 

「う、ん?」

 

 重要な事が引っかかっている気がして、なのはは必死に戦場の周囲に視線を巡らせる。
 『彼』が大きく動かないせいだろう、容易にコンクリートを粉砕するバケモノの破壊力に比べて、実際に破壊されている範囲は意外に狭い。両脇の塀が崩れたり穴が開いていたりしているが、周囲の住宅そのものはほとんど無傷と言ってよかった。
 破壊されているのは塀、道路、電柱――電線。電柱が倒れることで引っ張られ、千切れた電線からは火花が走っていた。つまりこんな状況でも電気は流れている、ならば。

 

「子犬さん!」

 

 
 触手が荒れ狂う中で振り向いた『彼』の目が驚愕に見開かれ、なのはの指が示す先を辿って疑念に細められ、そして理解したとばかりに頷いてみせた。
 バケモノを中心に『彼』が描いていた円が崩れる。
 最初になのはの前に着地した時と同じ実に綺麗な伸身宙返りで電線の垂れ下がる塀の上へ着地し、力が抜けたかのように腰から崩れ落ちた。
 その姿に好機と見たのか、バケモノが一声吼えて飛び上がる。細められた赤い視線が追う巨体はぐんぐんと真上から迫り、小さな身体を影が覆い隠して。
 新たな土煙と破壊音を切り裂いて、バケモノの苦悶する叫びが響く。
 形容しがたい悲鳴を上げて痙攣するバケモノの姿を見て後ずさるなのはの横に、小さな何かがどさりと降ってきた。

 

「子い……っ、ぁ――」

 

 おっかなびっくり目を向けたなのはが落ちてきた『彼』を抱き上げようとして息を呑む。
 巻かれていた包帯はもはや血で赤黒く染まった布くずと化し、無理やりに切ったまま跳ね回っていたせいで点滴チューブの針が暴れてテープの隙間から出血し、数える気にもならないほどの切り傷や擦り傷が全身を覆い。立っているのがおかしいどころではない、生きているほうがおかしいようにすら見える。
 逆戻りどころか更に酷い状態になってふらりと倒れた『彼』を抱え、なのはは一目散に走り出す。とにかく、遠くへ。
 右、右、左、直進。とにかくバケモノから離れ、逃げるためになのはは走る。いつもならとっくに息が上がっているはずなのにまだ走っていられるのは火事場の馬鹿力という奴なのだろうかと思った時、途切れ途切れの声が胸元から聞こえてきた。

 

「なん……で。逃げてない、ん、だ、よ。お前」
「あ、子犬さ痛っ!」

 

 気を散らしたせいだろう、足がもつれて転倒する。『彼』を押しつぶさないようとっさに肘を出し、すぐにがつんと衝撃。道路にぶつけた膝や肘が痛むが構わず起き上がって――

 

「あ、れ?」

 

 いくら力を込めようとしても、両足がぶるぶると震えるだけで動かない。汗はどこかの栓が壊れたかのようにとめどなく噴出し流れ、息を抑えることすらできずに頭痛で視界が暗くなり、あまりにも大きく、速い心臓の鼓動で耳が痛む。

 

「はぁっ、はぁっ、は、げほっごほっ!」
「馬、鹿。止まったら、もう走れない、だろ」

 

 馬鹿馬鹿と連呼されて反論したいが声が出ない。どうにか道路脇の塀に背中を預け、なのははしばらく息を整える事に専念していた。
 にじんだ涙を拭き、見上げた景色は相変わらずの灰色。どこまでいっても逃げられないような感覚が足元から忍び寄る。じわじわと広がるその感触が首元まで迫ってきた時、なのはの腕の中で『彼』が身をよじった。少しの間に意識がはっきりしてきたのか、だいぶ力の戻った口調でなのはに告げる。

 

「……さっきはありがとな。後はここで休んでろ。俺があいつをなんとかしてくるからさ」
「ダメだよ」

 

 細い腕の中から飛び降りようとした身体を意外な程の力で押しとどめられ、『彼』は困惑したようになのはを見上げた。
 真上から見下ろしてくる瞳が写しているのは、どこか遠い場所。まるで『彼』を過去の誰かに重ねているかのような目をして、行かせまいと腕を閉じている。
 ――高町なのはという少女は、基本的に頑固である。父親が重傷を負った事に始まる一人ぼっちの時期を経てなお、むしろだからこそ明るく穏やか、優しく素直。そんな理想的な少女で『いようとした』反動かも知れない。
 なんにしろ、彼女は素直そうな顔をしていてその実、自分が納得できなければ人の意見を聞かないという困った性質を持っていた。
 そして。
 この場合の納得できない事とはすなわち、『彼』が当然のような顔をして死にに行くこと、であった。

 

 
「なんだか君、凄くイヤな顔してる。だからダメ」
「はぁ?……あぁ」

 

 『彼の』怪訝な顔にひらめきが走り、一転して真剣に言葉を探し始めた。まるで、つながりのわかりにくい会話をする、子供のような会話をする相手に覚えがある、というように。

 

「あのな、このままじゃ俺もお前もあいつ……あのバケモノに殺される。わかるだろ?」
「だったら君も逃げようよ。どうしてあっちに行くの?」
「だから逃げ切れないんだって。お前はわからないだろうけど、あいつがどんどん近づいてきてる。やばいんだよ」

 

 言い聞かせるような『彼』の言葉を聴いてもなお、なのはは折れなかった。それどころか死んじゃダメだよ、と言って上半身と膝で思い切り『彼』を包み込む。
 ぐぎぅ、といううめき声を最後に『彼』が動きを止めてしばらく経った頃。なのはの膝と腕に挟まれた空間から静かな声が響いた。

 

「あれは問答無用な代物だ。それはわかるだろ?」
「うん」
「――あいつを殺さないと俺たちが殺される。それがどういうことかも、わかるんだな?」

 

 なのはの返答はなく、しばしの沈黙が満ちる。

 

「…………」

 

 なのはが今よりもっと、もっと小さい頃。死亡事故や殺人事件、遠い国での紛争を連日のように報道し続けるニュースに疑問を持ち、士郎に尋ねたことがある。

 

――どうして、毎日どこかで人が死んじゃうの?

 

 そのときの士郎が見せた顔は、今でも思い出せる。困ったような笑み、のようでいて酷く疲れた笑み。

 

――世界では、誰も死なないというわけにはいかないことがあってね。勿論、誰も死なないのが一番だけれど。

 

 その答えの後に続けられた一言。

 

――人間だけじゃない。動物も植物も皆、命を選んで、取り合って生きているんだよ。この世界はね。

 

 その言葉がまるでなのはではない誰かに聞かせているような気がして、その時は首をかしげたものだった。

 

「うん」

 

 長いような短いような沈黙を挟んだ、問いかけへの短い返答。
 今なら、あの言葉が少しだけわかる気がする。

 

 そうだ。世界はきっと、優しくない。

 

「……わかったよ」
「あっ」

 

 声と共に激しく暴れだした『彼』は意表を突かれて緩んだなのはの腕の中を抜け出し、何かを諦め、また何かを決心したようになのはを見上げた。

 

「今回だけでいい、手伝ってくれ。これを」

 

 言って、首元に下げていた赤い宝玉を咥えて差し出す。おずおずとそれを摘み上げたなのはの顔が、透き通った表面に映りこむ。無機物なのに温度を感じさせるそれは、なのはの手に移った途端脈打つように光を発しだした。

 

「目を閉じて。手のひらに……これに神経を集中するんだ。ぱっと見でわかる、お前ならやれるよ」

 

 言葉の意味を噛み砕く余裕もなく胸元で両手を使って握り締めた時、道路を小さな振動が伝わってきた。数秒ごとに響くそれは、段々と大きく、近づいてくる。

 

「俺の後に続けてくれ。――我、使命を受けし者なり」
「我……使命を受けし者なり」

 

 ぼんやりとした光がなのはの顔を照らし出す。それにも気づかない様子で、なのははひたすらに集中を続けていた。
 それを見上げる『彼』の血の色をした目が、一度だけ瞬いて。

 

「契約の下、その力を解き放て」
「え、と。契約の下、その力を解き放て」

 

 どくん、と宝玉の奥が揺らぎ。

 

「風は空に、星は天に」
「風は空に、星は天に」

 

 赤色をした熱と鼓動は、なのはの周囲を包み始めて。

 

「そして、不屈の心は」
「そして、不屈の心は――」

 

 導くように告げる『彼』の口と、誘われるように告げるなのはの口が、同時にその言葉を紡ぎ出す。

 

『――この胸に。――この手に魔法を!レイジングハート、セットアップ!』

 

[Stand by ready. Set up]

 

 宝玉――レイジングハートそのものであり、『彼』の本体の内蔵元でもあるソレに光で文字がつづられると同時、少女は左手を高く掲げた。

 

<――認証完了。最低起動供給値クリア。初期調整完了、起動プロセス開始>

 

 起動準備が完了したことを示すそのメッセージが『彼』の脳裏に流れた瞬間、莫大な量の光が紅の宝玉からほとばしった。
 桜色に染まったその光は一帯を包んで巨大な円柱となり、二十メートル程の距離に着地したバケモノの鼻先をかすめ、空に溜まった雲に真円の穴を開けて遥か天空まで貫いていく。
 構築されたラインを通して供給されてくる、思わず笑ってしまうような魔力量。『彼』の全身を満たして余りあるそれは、外殻表層ばかりか深層部に負った損傷をも、瞬時とはいかないもの分単位で修復していく。

 

「ななな何コレぇ!?」

 

 久々の感覚に恍惚としていた意識を少女の悲鳴に引き戻され、『彼』は呆けていた顔を引き締めた。システムはまだ起動中。完全に作動状態に持っていくにはまだプロセスが必要なのだ。口ばかりか全身から再生に伴う湯気を吹いているのがマヌケだが、それは致し方ない。

 

「大丈夫、力がまとまってないだけだ!落ち着いてイメージを組むぞ、まずは魔法を制御する杖、次に装こ……違うな。服とか鎧!」
「え、ええ!?急に言われても……えーとえーと」

 

 困った顔のまま目を閉じた少女から最初はおぼろげに、そしてどんどん詳細に構築されたイメージが送られてくる。

 

「と、とりあえずこれで!」

 

 金と桜色、そして白で構成された杖と、彼女にとって着慣れた服の輪郭。『彼』が補完してやるまでもなく、すさまじい情報量によってその手触りまでもが伝わってきていた。

 

――色、形、何の誘導もナシでこの精度?この子供……よっぽど空間とか物体とかをイメージするのに慣れてるの、か?

 

 レイジングハートのシステムは、そんな新たな主のイメージを即座に反映する。桜色の光が乱舞し、細かな部品となりながら、少女の思い描いたとおりに外装が組み上げられた。
 外殻を増やした宝玉の周りを囲む、黄金の弓月。桜色と白に分かれた柄の周囲を囲むように月の下部から2つの突起と補強部が伸び、もう一端には円錐を2つ合わせた石突が小さく埋め込まれている杖――デバイスシステムの端末外装。
 彼女の通う小学校の制服を基本に、黒のインナー、白い生地の襟元や裾、袖口に青や金のラインが走り、胸元に赤いリボンをつけた服――バリアジャケット。

 

 魔力に引きずられて起きる風と飛び散る桜色の光に体毛をなびかせながら、『彼』はよどみなく展開され、終了したプロセスに安堵の息を吐いた。

 

「予想外……ってか。何かおかしいぞ、ここまでだと」

 

 軽い音を立てて、浮き上がっていた少女の足が地面に戻る。分解再構成された服装に身を包み、杖を握り締めた彼女は――閉じていた目を開けるなり、おろおろと自分の身体を見回した。

 

「え、ええ!?うそ、何コレ!?」
「あー……っと!」
「あ……!」

 

 涙目になってまでの『常識的な』リアクションにため息を吐こうとして、『彼』は背後を振り返った。
 荒れ狂っていた魔力が収まったせいだろう、足が止まっていたバケモノが再び飛び上がり、『彼』と少女の前に着地する。
 その巨体が生み出す単純な迫力、真正面から吹き付ける殺気と振動。未だ煙を吹き続け、治りきっていない身体の重心を下げる『彼』の隣で、杖を抱きしめた少女がびくりと震えて後ずさった。