魔動戦記ガンダムRF_06話

Last-modified: 2011-08-13 (土) 22:50:37

ある少女の夢

 

その少女は愛しき家族と共に、我が家で幸せな時間を過ごしていた。
「ふにゃ~、おはようございます~。」
「おはようリイン、今日は一人で起きられたなあ。」
「当然です!!リインはいつまでもちっちゃいままじゃないのです!!」
愛しき主に褒められて、少女はえへんと胸をはった。すると次々と彼女の大切な家族達が部屋に入ってきた。
「ふう…いい湯だった、む?今日は早いな、リイン。」
「はやてー!ただいまー!」
「はやてちゃーん!お鍋の火を止めてくれますー?」
毎朝訪れる他愛のないやりとり、その少女はそれをとても幸せだと感じていた。

 

大好きなシグナム
大好きなシャマル
大好きなヴィータ
大好きなザフィーラ
大好きなお姉ちゃん
そして…大好きなマイスターはやて
自分を生み出し、育ててくれた皆と共に生きていくことが、その少女の願いでもあった…。

 

ピシピシピシ!
その時、世界がガラスのようにひび割れた。
少女と家族の間に大きな亀裂が走る。
「は…はやてちゃん!」
「リイン!」
はやては少女の元に行こうと亀裂を飛び越えた。だがその時、彼女の足を亀裂の中から出てきた手がつかんだ。
「はやてちゃーん!!」
「リイィーーーン!!!!」
少女は必死に手を伸ばし、はやての手を掴もうとするが間に合わず、彼女は奈落の底に引きずり込まれていった。
「そんな…!!」
すると他の家族達も奈落の底から現れた手に足を掴まれ、次々と暗闇に引きずり込まれていった。
「うわあー!!」
「きゃあー!!」
少女は突然の事に呆然とし、気が付けば世界は少女一人となってしまった。
「はやてちゃん!!お姉ちゃん!!ヴィータちゃん!!シグナム!!シャマル!!ザフィーラ!!」
なんど彼女等の名を叫んでも返事は返ってこない、少女は寂しさに耐えかね、膝をついて泣き出してしまう。
「みんなドコ…!?リインを一人にしないでよ…!」

 

深い深い暗闇の世界、少女は一人泣き続けた…。

 

「リイン!リイン!」
そして少女は、眠っているところを姉に起こされた。
「おねえ…ちゃん?」
「どうしたんだ?随分うなされていたみたいだが…?」
「……ちょっと怖い夢を見たです。心配かけてごめんなさい…。」
「怖い…夢?」
「はいです、はやてちゃん達がいなくなっちゃう夢……あ…!」
「………。」

 

その少女…リインは思い出してしまった。

 

「はやてちゃんは…いなくなっちゃったんですね…。」

 

オーブ軍基地に収容されている時空管理局の戦艦アースラ、その中に設置されている模擬戦室で、シンはクロノ相手に久々に魔法を使った模擬戦をしていた。
「オラオラオラオラァーー!!」
不規則に飛び回りながらビームライフルを放つシン。」
「蒼穹を駆ける白銀の翼、疾れ風の剣…」
対するクロノもスティンガースナイプで応戦する。
空中で激突する光の矢と光の弾、巻き起こる爆煙の中で二人は次の魔法の詠唱に入る。
「薙ぎ払え!デスティニー!!」
「ブレイズキャノン!!」
そして訓練室に耳を劈く様な爆音が響いた…。

 

「「「「「ぽかーん」」」」」
その光景を、見学に来ていたキラ、アスラン、カガリ、レイ、ルナは茫然と見ていた。
「すごいですわ~♪あの方達かなりの使い手ですわね♪」
『スゴイ、スゴイ。』
ただひとり、一緒に来ていたラクスとピンクハロだけは拍手を送っていた。
「どうですか~?魔法を見た感想は?」
モニタリングしていたルキノがくすくす笑いながらキラ達に話しかける。
「ええ、お二人ともとてもお強いのですね。ちょっと憧れてしまいますわ。」
「二人とも難事件をいくつも解決してきたエースですからね~。」
わいわいと二人の話題で盛り上がるラクスとルキノ。呆然としているキラ達は放置だった。そこに…。
「くっそー!!あそこでディレイドバインドを使われるとは…!!」
「あっはっは!いつぞやのリベンジを果たすことができたぞ!!」
模擬戦を終えたクロノとシンがキラ達の元にやってきた。
「お…お疲れ様、シン。」
「正直驚いたぞ…あれだけの魔法を使えるとは…。」
同僚のルナとレイはシンの隠された力にただただ驚いていた。
「ははは…実はこの7年間、こっそり魔法の訓練してたんだ、マユにばらした後はあいつにも教えたっけ。」
「もしかしてアカデミーにいた時もこっそり自主練習してたの!?全然気付かなかったわ!!」
「なるほど…道理で腕が落ちていないと思ったぞ。」
クロノが関心したように頷く。
「ああ…だってお前らと再会した時、俺だけ弱くなってたら嫌だからなあ。」
「ふっ…君らしい。」
そんなシンやクロノ達のやりとりを、カガリは何か考え事をしながら見ていた。そして思いたったようにクロノに問いかける。
「私も使ってみたいな、魔法…。」
「カガリ?」
カガリの思いもよらない言動に驚くアスラン。
「いや、なんか楽しそうだなーって思って…キラも最近習い始めたようだし…。」
「カガリさんもそう思います?なんか面白そう…ラクスさんもそう思いますよね?」
「えっ!?え、ええ…そうですわね…。」
カガリの意見にルナとラクスも同意する。
「ねえシン、私達にも魔法教えてよ。」
「は?お前と…ラクス様と代表にか?」
ルナの提案に頭に?マークを浮かべるシン。
「おお!それはいい!ぜひ教えてほしいぞ!」
「わ…わたくしからもお願いしますわー。」
「ええ…!?どうすっかな…。」
美女三人の懇願に戸惑うシン。その光景をみて、キラとアスランは嫉妬に似た感情が生まれていた。

 

「……俺達も教えてもらいたいな~、魔法。」
「僕も最近習い始めたから一緒にやりたいな~なんて。」
「嫉妬ですか、見苦しい…。」
レイが聞こえないような声で突っ込む。
「いや、俺人に教えるほどじゃないしなあ…。」
「なのはがいてくれればいいんだが…。」
「あ、そういやあいつ教導官になったんだっけ?」
「ああ、教官としてかなり優秀だぞ。」
「そうか…さっさと助けないとなあ…。」
そんな、やりとりをしている一同の元に、突如リインフォースがやってきた。
「く…クロノ!!シン!!た、助けてくれ!」
「り、リインフォース?どうしたんだ血相変えて?」
「り…リインが!!リインⅡが!!」
リインフォースは混乱しているのか、シンの肩を掴んでぶんぶん揺らしていた。
「おおお落ち着け!!お前の妹になにがあったんだ!?」
「リインが…!リインが…!」

 

「リインが家出!?」
落ち着いたリインフォースから事情を聞いたシン達は目を丸くする。
「リインⅡって…確かあの人形みたいにちっちゃい子だよね。」
「それが何故家出を…?」
「じ…実はリインの奴、主はやてを守れなかったことにすごく落ち込んでいて…それで…。」

 

リインフォースの一時間前の回想

 

恐ろしい夢を見てしまいとてつもなく落ち込んでいるリインⅡを励ますため、リインフォースは彼女をオーブ軍基地のMS格納庫へ散歩に連れてきていた。
「ほう、あれがMSか…大きいなリイン。」
「はい……。」
元気のないリインの返事に、リインフォースは悲しそうな顔をする。
(やはり…主を守れなかったことに負い目を感じているんだな…。)
「あら?貴女達はもしかして…?」
そんな彼女達の元に、エリカ・シモンズが花束を持ってやってきた。
「貴女は確か、シャマル達を救ってくれた…?」
「救ったのはカガリ代表よ、私はここに格納されているMSの開発主任をしているエリカ・シモンズ。」
「私はリインフォース、この子はリインⅡです。」
「ふーん。」
エリカは珍しそうに異世界の技術、ユニゾンデバイスをまじまじと見つめる。
「あはは…ところで、その花束は?」
「ああ、これは…今からお墓参りに行こうと思っててね。」
「あ…!その…!」
リインフォースは悪い事を聞いてしまったと思い俯いてしまう。
「あ、ごめんね、湿っぽい話しちゃって…。」
「い、いいんです!あの…誰のお墓参りに?」
「…二年前、ここでテストパイロットをしていた女の子達よ、アサギにマユラにジュリっていうの。二年前…ヤキン・ドゥーエの戦いで戦死しちゃったの。」
「そうなんですか…。」
「………。」
エリカは格納庫にしまわれている旧式MS、M1アストレイを見上げた。
「今でも少し思うの…もし2年前、もっと性能のいいMSを作っていれば、彼女達を死なせることはなかったんじゃないかなって、まあ……もう遅いんだけどね。」
「「………。」」
リイン姉妹はエリカの話を黙って聞いていた。するとエリカは、腕時計に記されている時刻を見て慌て出す。
「大変…!もうこんな時間!お話聞いてくれてありがとう!それじゃあね!」
エリカは手をピッと上げてその場を去って行った。
「この世界も大変なんだな…?リイン?どうした?」
リインフォースはわなわなとふるえるリインの顔を覗き込んだ。
「リインは…リインはこのMSと同じです。私ははやてちゃんを守れなかった…!」
「!!」
リインはぽろぽろと涙を流しながら、今まで貯め込んでいた感情を爆発させる。
「はやてちゃんには…!機動六課っていう夢があった!それなのに私ははやてちゃんの夢を潰してしまった!!私は役立たずです!!」
「リイン!!」
リインフォースは小さなリインの体を掴む。だがすぐに払われてしまった。
「はやてちゃんも!シグナムも!ヴィータちゃんも!誰も守れなかった!私はユニゾンデバイス失格です!」
「ま…待って!」
リインは姉の制止も聞かず、何処かへ飛び去ってしまった。

 

回想終了
「と、言う訳なんだ…!」
「うーん、どこに行ったかわかるか?」
「いや…。」
「あんなちっちゃいの街中に出たらきっと大変なことになるわよ…。」
「先にシャマルとザフィーラが探しに出て行っている。シン達も協力してくれないか!?」
リインフォース瞳を潤ませながらの懇願に、シンはしどろもどろになる。
「わ…わかった、レイ、ルナ、手伝ってくれるか?」
「オッケー!任せなさい!」
「俺も構わんぞ。」
「アスラン、カガリ、ラクス、僕達も…。」
「ああ、わかった!」
そして一同はリイン捜索のため、訓練室を出て行った。
「あ、ラクスさん、ちょっと待ってくれないか?」
その時、最後に出ようとしたラクスはクロノに呼び止められた。
「……?なにか?」
「いや、君にちょっと話があるんだ、君の髪飾りと、そのユニゾンデバイスについて…。」

 

一方、勢いよく飛び出してしまったリインは小さい体のまま、町中をふよふよと彷徨っていた。
「うっ…うっ…!」
涙で濡れた顔を拭いながら町をさまようリイン。そんな彼女を、町中の人は好奇の目で見ていた。
「なに…あれ?」
「ママー、妖精さんがいるー。」
「新型のペットロボか?」
リインはそんな自分に向けられる視線が不快で仕方なかった。
「……もうっ!」
そこで彼女はいったん物陰に隠れ、ぬうんと集中し始める。すると彼女の体が30センチのドールサイズから、150センチほどに伸びた。
「…これでよし。」
そういって表に出ようとしたその時。
ドンッ!
「きゃ!?」
「うわっ!?」
死角から出てきた水色の髪の毛の少年にぶつかってしまった。
「って~!!」
「ご…ごめんなさいです…。」
リインはさっさと謝ると、とっととその場を去って行った。
「あ…!くそっ!逃げやがった…!」
「オイアウル、なにやってんだよ?」
そこに彼の友人らしき黄緑色の髪をした少年がやってきた。
「うっせなー、失礼な女にぶつかられたんだよ!」
「たく…そんなんでいちいちカリカリすんな、もうすぐオーブ軍と合流すんだぞ。」
「わーってるって、たく…次会ったらただじゃおかねえ…ところでステラは?」
「あいつならくるくるとどっか行っちまった、探すの手伝え。」
「ええ~!?めんどくせえなあ…。」

 

その頃、シン、ルナ、レイはアルフ(こいぬフォーム)を引き連れてリイン捜索のため町を訪れていた。
「アルフ、リインの匂いわかるか?」
「まかせておくれよ~!絶対見つけ出すから~!」
「ふむ…こういうときに警察犬みたいのがいると助かるな。」
するとアルフはレイを睨みつける。
「コラッ!アタシは狼だよ!」
「う…スマン。」
素直に謝るレイに、シンとルナはプッと吹き出してしまう。
(珍しいわね、あいつがあんな顔するなんて…。)
(やっぱ俺達の雰囲気とアルフ達の雰囲気は違うからな、変わらずにはいられないのさ。)
そうこう言っている内に、一同は大きな噴水がある広場にやってきた。
「アルフ…リインはどこいったんだ?」
「ちょっと待ちな、今匂いを探している…。」
そう言ってアルフは鼻をひくひくさせながら辺りを見回す。
ふと、シンは広場の中央に、嬉しそうに舞う金髪の少女を見つけた。
「~♪」
「何かしらアレ?」
「最近熱いからな。」
「おいおい…。」
その時、少女はくるくる舞いながら噴水に近付いていた。
「……あのままでは落ちるな。」
「ちょっとあなた!危ないわよ!」
「!!」
するとルナの呼びかけに驚いた少女は足をもつれさせ、噴水に落ちそうになっっていた。
「危ない!」
シンはすぐさま少女の元に駆け寄った。
「うわ~あ~!?」
噴水に落ちないよう腕を振り回しふんばる少女。その時、
「よっと!」
シンが少女の体を抱きしめるようにして支えた。
「……?」
「だ、大丈夫か?」
「うん……?!」
少女は何かに気付くと、突然乱暴にシンを振り払った。
「な、なんだよ…!?」
「……。」
少女は何も言わず、シンを睨みつけながらその場を去って行った。
「なんだよ、人がせっかく助けたのに…。」
そこに一部始終を見ていたルナ達があきれ顔でシンに教えてあげた。
「あんた…あの子の胸触ってたわよ。」
「え゛!?」
「あーあ、ラッキースケベは変わってないんだねえ…。」
「は?シンは貴方達“にも”そう言われているのですか?」
「“にも”って…ああ、だいたい察したわ。」
「たく…さっさと行くわよ。」
そして一同はリイン探索を再開した。その途中、シンは先ほど助けた少女のことを思い出していた。
(なんでだろう…?あの女の子、なんかフェイトとなんとなく似てたな…。)

 

その頃、先程リインとぶつかった少年達は、ステラという自分達の仲間である少女を探していた。
「あのバカ…一体どこいったんだよ…。」
「アウル、なにカリカリしてんだよ?」
「っせ~な!」
アウルと呼ばれた水色の髪の少年は、つかつかと前へ前へと進んで行った。すると

 

ドンッ!

 

「なあ!?」
「きゃっ!!」

 

またも横から出てきた女性にぶつかってしまう。
「いって~!てめえ!どこに目を付けて…!!」
「あ!ご、ごめんなさい!!怪我はない?」
「へ?」
アウルにぶつかった緑色の服を着た女性は、彼に怪我がないか聞いてきた。
「え?あ?まあ、大丈夫です…。」
「ほっ…よかった~。」
安心したように女性はアウルの頭をなでる。
「え…!?///」
「ごめんなさい、私急いでいて…ほんとごめんね!!」
そう言って両手を合わせながら、その女性は何処かに行ってしまった。そこにアウルの仲間の黄緑色の髪の少年がやってくる。
「アウルー大丈夫かー?……アウル?」
「///」
「お、お前どうしたんだ!?顔真っ赤だぞ!?」
少年の問いかけに、アウルは口をパクパクさせながら答えた。
「女神だ……///」
「はい?」
「あ、スティングー、アウルー、なにしてんのー?」

 

「シャマル、一体何をやっていたんだ?早く探すぞ」
「う…うん、ごめんね…。」
アウル達と少し離れたところで、女性…シャマルはザフィーラと合流し、彼と共にリインⅡを探策を再開した。アウルにある感情を植え付けながら…。

 

そのころリインⅡはふらふらな足取りで街を出て、海岸沿いにある何かの記念碑が建てられた公園にやってきた。
「うう……変身魔法は体力を使うから疲れちゃったです…。」
リインⅡは体のサイズを元に戻し、そのまま花畑に仰向けに寝転がった。
「はあ…。」
そしてリインⅡはそのまま瞳を閉じた。
(リイン…みんなに何も恩返しができなかった…ダメダメデバイスです…ごめんなさいはやてちゃん…もうリイン、このまま消えちゃいたいです。神様…リインはどうなってもいいです、だから…はやてちゃんとヴィータちゃんとシグナムを助けてください…。)

 

そしてリインⅡはそのまま、夢の世界へと入り込んで行った…。

 

どれぐらいそうしていたのだろうか、日は少しずつ傾きかけ、先程まで晴れていた空に黒い雲が掛っていた。そしてポツリポツリと天から雫が舞い落ち、数十秒後には激しい夕立ちとなっていた。

 

「ん…?」
リインⅡは辺りの雨の音に目を覚ます。そして自分の頭上に大きな葉っぱが傘のように差されていることに気付いた。
「あ、起きたんですね。」
リインは声がした方を向く、そこには30センチ程の赤いボーイッシュの髪型の少女が傍らに座っていた。
「貴女は誰ですか?リインと同じユニゾンデバイスみたいですけど…?」
「私は…貴女達と全く違う、でも似ている存在。」
「………?とにかくありがとうございます…。」
「貴女はどうしてこんなところで悲しそうに眠っていたんですか?こんなところで寝ていると風邪を引きますよ?」
「なんでもないです、なんでも…。」
リインは起き上がり、その少女の隣に座った。
そしてしばらくの沈黙の後、少女はぽつりぽつりとリインに向かって話し始めた。
「オーブはどうですか?ここはとってもいいところですよ。私の主の生まれ故郷なんです。」
「そうなんですか…私は最近来たばっかりなので、まだちょっと…。」
「そうですか…。」
リインⅡは会話が途切れて気まずくならないように、今度は自分から話題を振ってみた。
「あの…あなたのマスターってどんな人ですか?よかったら…教えてくれませんか?」
「…とっても純粋で、正義感の強い人です。私もよく可愛がってくれました、でも…。」
その少女は何かを思い出し、そのまま俯いてしまった。
「……?どうかしたですか?」
「私は…主を一度救えなかった。従者失格なんです…。」
「……。」
リインはなんとなく、その少女と自分の境遇が似ていると思い、親近感が湧いてきていた。
「貴女はリインと一緒なんですね…リインもはやてちゃんを守れなかったです…お互い辛いですね……?」
その時、少女のエメラルドグリーンの瞳から、大粒の涙が次々と零れ始めた。
「ごめんなさい…!ごめんなさい…!」
「ど、どうしたんですか!?リインなんか悪いこと言っちゃったですか!?」
少女は首をフルフルと振った。
「全部…全部私達が悪いんです!自分達の勝手な都合で、物語を無理やり繋げたから!貴方達の物語が…!!」
「り、リイン貴女が何を言っているか分からないですよ!!」
リインはとりあえず少女を落ち着かせようと、彼女の肩を掴もうとした、だが…

 

スカッ

 

「え…!?」

 

その少女を掴むことは出来なかった、よく見ると彼女の体は半透明で、序々に消えていた。
「これ…は…。」
『リインフォースⅡ…貴女にお願いがあります。』
少女はかすれた声で、リインフォースにお願いをした。
『貴女達の物語は…もうすぐ滅びようとしています、だけどここにいれば…貴方達は巻き込まれない。だから…!』
そして少女は、完全に消える間際にリインにこう言い残した。
『私達がフェイトさん達を助ける、だから…落ち込まないで。』

 

一人だけになったその場所で、リインは茫然と立ちすくんでいた、そこに…。
「あら…?あなたは…リインちゃん?」
さきほど格納庫で会ったエリカ・シモンズが花束と傘をもってやってきた。
「あ…えと、その…。」
「どうしたのこんなところで…?みんな探してたわよ?」
「は、はい…ごめんなさいです。あの、どうして貴女がここに…。」
リインⅡの質問に。エリカは少し寂しそうに答えた。
「ああ、ここにね…彼女達が眠っている共同墓地なの。」

 

エリカに連れられて、リインは大きな墓石の前にやってきていた。
「みんな久しぶりね…そっちは楽しくやっている?」
そう言いながらエリカは墓石に花を添えた。
「リインも…お花あげていいですか?」
「いいわよ、この子たちも喜ぶわ…。」
リインⅡは先ほど摘んできた花を墓石に添えた。するとエリカは、下で眠っているアサギ達の事を語り始めた。
「この子達はよく…私の手伝いをしてくれたの、M1が完成出来たのもこの子達のお蔭なのよ。だから救えた命があった、感謝しても有り余るくらいよ。」
「MSってすごいですね…私とは大違いです…。」
リインⅡのその言葉を聞いて、エリカは少し険しい表情になる。
「リインちゃん、そんなに自分を卑下しちゃだめよ?大切な物を失っても…生きているならまだなにか出来ることがあるはずよ。」
「え…?」

 

そこに、リインⅡを探していたシャマルとザフィーラ、そしてリインフォースⅠが駆けよってきた。
「リイン!」
「リインちゃん!」

 

「お姉ちゃん…?みんな…?わぷっ!?」
リインⅡは突然リインⅠに抱き締められ困惑する。
「バカ者ぉ…!心配させて…!もしお前に何かあったら私達はどうすればいいんだ!!」
「リイン、シン達もお前の事を探しているんだぞ。帰ったらちゃんと謝っておくんだ。」
「シンさん達が…?」
「そうよ、みんなリインを心配してたんだから…。」
「リインのために…。」
「ふふふ…私はお邪魔みたいね。」
エリカは微笑みながらその場を去って行った。
「……お姉ちゃん、シャマル、ザフィーラ…。」
「?どうしたのリインちゃん?」
「こんな私でも…よわっちい私にも、なにか出来ることがあるのかな…?」
「何を言っている、私達には五人を救うという使命があるじゃないか。」
「はやてちゃんもシグナムもヴィータちゃんもきっと無事…みんなで力を合わせれば、きっと助けだせるわよ!」
「…そうですよね、早く助けないとですね…。」
そしてリインⅡはリインⅠの肩に座った。
「さあ帰ろう、皆心配しているぞ。」
「はいです…。」

 

そして四人は、仲間達が待つ場所へと帰って行った…。

 

この二つの世界が交わった物語は、今回のリインⅡのようにそれぞれの世界の登場人物達に様々なものを植え付けていた。
けどそれは…いいことばかりとは限らないのかもしれない。

 

どこかにある、時の方舟のアジトの研究室…。

 

そこにある大きな三つのカプセルの中に、なのは、フェイト、はやては寝かされていた。
「順調のようね…。」
「ええ、彼女達は僕たちの忠実な駒になり、アレの立派なコアになってくれるでしょう。」
「でも…コズミックイラの奴らもえげつない技術を作ったわね…まあ私はフェイトに復讐できるからいいけど…。」
「……管理局ほどじゃないですけどね。まあこの“ゆりかご”の性能は折紙付きですよ、もし彼女達があいつらに取り返されても…我々に牙を向くことはできないですからね。」

 

そんな中、はやては一人、うっすらとカプセルの中で目を覚ました。視界に入るのはガラス越しにみえる天井、彼女は覚醒してない頭を懸命に働かせた。
(ウチ、なんでここにいるんやろ…?思い出せへん…みんな無事なんかな…?)
そのときはやては、自分の記憶に妙な違和感を感じた。
(みんな…?みんなって…だれやっけ?なんで…なんで思い出せへんのや?)
そしてはやては、そのまま瞳を閉じて再び夢の世界へと旅立って行った。
(まあ…ええか、考えるのしんどいわ…もう寝てまおう、夢の中なら…思い出せるかも…。)

 

そして彼女は“家族の思い出”を、とても深いところにしまい、蓋をしてカギを掛けてしまった。