魔動戦記ガンダムRF_05話

Last-modified: 2011-08-13 (土) 22:49:03

ある少女の思い出。

 

私には“力”があった、その“力”は私には持て余すほどのもので、もし暴走すれば沢山の人が傷つく、そんな危険な力だった。

 

私は生まれ育った里から追い出されるように旅に出され、そのまま管理局の人に保護されました。でもそこでも私の“力”を恐れられて、管理局の人達にまるで腫れ物のような扱いを受けていました。そしてその内…私も自分の力を恐れるようになりました。この力は人を不幸にするんだ。この力は存在しちゃいけないんだ、そしてこの力を持つ私もいちゃいけない存在なんだ。そう思うようになっていました…。私の目の前にはいつも私が行っちゃいけない場所があって、私がやっちゃいけないことがあったんです…。

 

ある日私は、あの人に引き取られました。その女神のように優しく微笑むあの人は他の人と違い、私を人間として、一人の女の子として見てくれました。
あの人は私に色々な物を見せてくれて、買ってくれて、聞かせてくれて、教えてくれて、私に進むべき道を指し示してくれたのです。

 

ある日私はあの人に、なんで私に優しくしてくれるんですか?と聞いてみました。
するとあの人は懐かしそうに自分の小さい頃の思い出を話してくれました。

 

その人も昔、大切に思っていた人に拒絶され、存在を否定され、とっても苦しくて辛い思いをしたそうなのです、でもその時、あの人のために戦ってくれた人達がいました、その人達はあの人を本気で心配してくれて、あの人の友達になってくれて、あの人を受け入れてくれたのだそうです。そしてあの人は“自分にはこんなに大切に思ってくれる人達がいる、私はその人達の為に生きよう、そして世界中に私みたいな思いをしている子がいたら、教えてあげよう、『君は一人なんかじゃないよ』って”という思いが芽生えたのだそうです。

 

私はあの人の小さい頃の写真を見せてもらいました、そこにはとても晴れやかに笑っているあの人と、彼女の大切な人達の姿が映っていました。ふと私は、あの人の隣にいた黒い髪にあの人と同じ赤い瞳の少年が気になり、この人は誰ですか?と聞いてみました。あの人は頬を赤らめて“私は私自身だ”と気付かせてくれた子だと言いました。
その子の事を語るあの人の瞳はとっても嬉しそうで、まるで初恋の人を思う少女のような瞳をしていました。

 

私は…興味本位でその子に一度あってみたいとあの人にお願いしました、でもその子は自分の住んでいた遠い世界に帰ってしまい、今はもう会えないのだそうです。
謝ろうとした私に、あの人は奇麗な石がついたペンダントを見せてくれました。
そのペンダントは昔その子がプレゼントしてくれたもので、その子の世界の神様が宿っている石だそうです。
“これを持っていると、遠く離れていてもなんだか彼を近くに感じれるんだ、だから私は寂しくないんだ”と、あの人は嬉しそうに答えてました

 

その時私は…あの人はきっとその男の子に恋しているんだなあと感じました…。

 

アースラがオーブ軍に救出されるその2日前、第12管理世界「聖王教会」
そこにある一室で、アースラの艦長クロノ・ハラオウンと、管理局総務統括官リンディ・ハラオウンは聖王教会の騎士団とある話し合いをしていた。
「フェイト達が行方不明になってもう4日、そして高町さん達が誘拐されて二日たってしまった…。」
クロノは思い詰めた表情で頭を抱えてしまう、そんな彼を友人である本局査察官のヴェロッサ・アコースは慰めるようにクロノの肩をポンポンと叩いた。
「あまり自分を責めるんじゃない…相手が一枚上手だったんだ。」
「……高町さん一家やアリサちゃんにすずかちゃんを攫った一味は、フェイト達を監禁した一味と同一ということは解っています。」
リンディは資料ファイルから数枚の写真を取り出しそこにいる全員に見せる、それには磔にされているシグナムとヴィータの姿や、液体入りの培養槽の中に入れられたなのは、フェイト、はやての姿があった。
「これは誘拐されたアリサちゃんの執事の鮫島さんが犯人一味から預かったものだそうです…。」
「ひどい…!!」
写真をみて修道女のシャッハ・ヌエラは不快そうに顔を歪める。
「シャッハ…ここで憤ってもしょうがないわ。」
「……申し訳ございません、騎士カリム。」
「犯人は一枚のある世界の座標が記されたメモ紙を残していきました。」
「コズミックイラ…ですね。」
「ええ…。」
「7年前、貴方達が担当したPT事件と闇の書事件も…たしかコズミックイラ関係でしたね、彼女達が攫われた研究所もおそらく…。」
「………。」

 

シン達がコズミックイラに帰って行った後、リンディ達はPT事件の主犯格であるプレシア・テスタロッサが残した言葉から、コズミックイラの住人であるシンやスウェンを攫った手口などから考慮し、彼女には共犯者、もしくはバックに巨大な組織がいたと睨んでいた。
「これは僕の憶測ですが…6年前に起こった“クローバー事件”も今回の件に関係していると思われます。」
「レイジングハートとバルディッシュを参考に作られた“オルトロス”とデスティニーとノワールを参考に作られた“エターナル”と“ミーティア01”、“02”がテロリストによってコズミックイラに持ち込まれた事件でしたね…殉職された担当局員は本当に気の毒でした…。」
「我々にもこれ以上の詳細が分からない状態です、調査団を送り出そうとしたその矢先、時空の歪みによってこことコズミックイラの道は完全に途絶えてしまったのですから…。」
「だがその道は…数週間前に修復された。そして…。」
クロノは赤い髪をした少年が映った写真を付けた資料を皆に見せる。
「彼の名はエリオ・モンディアル、フェイトと同じプロジェクトFによって生み出されたクローンです、とある施設で監禁されていたところを管理局が保護し、フェイトが保護者となりました、そして彼を創り出した組織を調べていくうちに…興味深いものを見つけたのです。」
きっかけは、リンディがふと目を通した組織にあった資料だった、そこにはプジェクトFに参加した研究者達の詳細なデータが記されていた、その中にはプレシアの名前はもちろん、彼女達にとってとても興味深いデータが残されていた。

 

「“ヴィア・ヒビキ”」
「……?誰なのですかそのお方は?聞いたことのないお名前ですね…。」
シャッハの質問に、リンディは深く溜息をついて答える。
「私の…古い友人です。」
「ご友人?その方がなぜ…プロジェクトFに?」
「私の知る限りでは彼女は…コズミックイラの人間です。」
「「「ええっ!?」」」
リンディの言葉に、話を聞いていた三人は驚きの声を上げる。
「彼女と私が出会ったのは18年前、ちょうど私は夫とともに当時の闇の書事件を担当していた頃でした、彼女の話では“事故”でこの世界に飛ばされたと言っていました。向こうの世界で何かあったのか、最初は塞ぎ込んでいましたが…学者であった彼女はグレアム提督の誘いで私達の捜査に協力してくれたのです、未完成でしたが闇の書の修正プログラムを作ったのも彼女なんです。でも…。」
「………クライド提督の犠牲を払った後、闇の書ははやてに転生し、ヒビキ女史は姿を晦ますのか…。」
ヴェロッサはハラオウン母子を気遣いながら説明に補足を付け足す。
「その約二年後、プレシアはアリシアを失い、プロジェクトFに参加し、そこでヴィア女史と出会うわけですね…。」
クロノはもう一枚の資料を取り出す。そこにはヴィアが書いたと思われるある計画書にある大きな文字が記されていた。そしてその文字を読み上げたシャッハはその単語の意味が分からず首を傾げる。
「スーパー…コーディネイター?なんですかこれは?」
「コズミックイラには人の遺伝子を操作してより優秀な人類を作る技術があるんです。その様な人をコズミックイラではコーディネイターと呼ぶそうです。現にシンも自分はコーディネイターだと名乗っていました。」
「そう言えば時の庭園で…プレシアはシン君のことをそう呼んでいたわね。」
「ですがこれには“スーパー”がついてますよ?まさかさらに優秀なコーディネイターを作るつもりだったのでしょうか…。」
「恐らく…資料を見る限り、プロジェクトFの非検体を使って研究が続けられていたそうです。まったく、なんて酷い…!」
「その残虐非道な実験が繰り広げられていた研究所が、先日はやて達が向かった研究所というわけだね…。」
「僕等が駆け付けた時にはもう転移した後だった、まったく、まるでいいように踊らされているみたいだ。でも今回の事件にプレシアとヴィアが関係しているのは間違いない。」
そんな不安そうなクロノを見て、リンディは口元を綻ばせる。
「なら今回は…あえて乗ってやろうじゃないの、その誘いに。」
「総務統括官…やはり上の命令とはいえ、貴方まで危険を冒さなくても…。」
そんな彼女に、騎士カリムは不安そうに声をかける。
今回の事件で高ランク魔導士が7人も行方不明になったことに管理局は危機感を覚え、隠居してデスクワークに回っていたリンディをアースラのオブザーバーに任命し、数人の優秀な魔導士を付けてコズミックイラに向かうよう指示していた。
「……私はもう二度と、家族を失いたくないんです。今年のクライド君のお墓参りは皆でしようって約束していますからね♪」
リンディの屈託のない笑顔に、一同はやれやれとため息交じりに笑う。
「わかりました…それでは出発は明日の朝ということで…。」
「我々聖王教会も出来る限り協力します。まだ未来は見えないですけど…もしなにか見えたら直ぐにお伝えします。」
「ま、はやて達を助けだしたらコズミックイラでお土産でも買ってきてくれ♪」
「はは…わかったよ。」
そして五人はそれぞれのやるべきことを成すために席を立った…。

 

次の日、時空管理局本局、アースラが収容されているドッグでは、整備員達がこれから出発する戦艦の物資の積み込みや整備を行っていた、その光景を、廊下の窓から見つめている三人の影があった。
「もうすぐ出発だね…。」
「「………。」」
管理局データベース“無限書庫”の司書長、ユーノ・スクライアは、隣にいたリインフォースと、その妹で体長30センチのユニゾンデバイスリインフォースⅡに声を掛けた。
が、リイン姉妹はある理由でとても落ち込んでおり、返事ができる状態ではなかった。
(無理もないか…未だにみんなの行方がつかめないんだから…。)
リイン姉妹は八神家の一員で、先日の調査には別任務で行くことができず、難を逃れていた。だが彼女達は自分達も付いて行っていればこのような事態にならなかったと思い込んでおり、己を責め続けていた。
(気まずいなあ…どうしたらいいんだろ…。)
深く悩むユーノ、とそこにオレンジ色の髪に犬耳を付けた少女と、フードを被ったピンク髪の少女が小さな白い竜を抱えてやってきた。
「おーい、ユーノ、リインフォース、ついでにちびリイン~。」
「アルフ…?それに君は確かフェイトの…。」
「は、はい!キャロ・ル・ルシエって言います!!この子はフリードリヒです!!」
緊張で声が上ずりながら、ピンク髪の少女キャロは相棒の竜、フリードと共に自己紹介する。
「ちょうどフェイトに会いに遊びにきてたんだよ、まあそれどころじゃなくなってるんだけどね~!」
アルフは異様なテンションで一同に笑顔を振りまく。
「あ、あの……。」
「ほらリインフォースにリインも!!そんなに暗かったら皆を助けられないよ!!ファイトファイト!!」
「あ、アルフ…。」
「んじゃアタシリンディさんの手伝いに行ってくるから!!とっとと元気だすんだよ!!」
そういってアルフは何処かへ行ってしまった。
「アルフさん…すごい無理してましたね。」
「そうだね、彼女もフェイトが攫われて気が気じゃないんだよ…。」
「キュクルー……。」
「よしよしフリード。」
先ほどのアルフを見て心配するフリードを優しく撫でるキャロ。そして彼女はユーノに質問する。
「ユーノさん…アースラはこれからコズミックイラに向かうんですよね…?」
「アルフから聞いたの?まあ…その通りだよ、僕もアルフもリイン達も同行することになったんだ。」
「そうなんですか……あの、ユーノさん、お願いしてもいいですか?」
「……?」
意を決したようにキャロはユーノに自分の願いを言った。
「私も…一緒に連れてってください!!」
「ええっ!?」
キャロの突然の言葉に、ユーノは面喰ってしまう。
「私は…フェイトさんにいっぱいいっぱい助けてもらいました、だから今度は私がフェイトさんを助けたいんです!!お願いします!!」
だがキャロの必死の懇願に、ユーノは応えることができなかった。
「それはだめだよ…キャロはまだ小さいし、まだ正式な局員になってないじゃないか。リンディさんも許可しないよ。」
「そこを…なんとか!!」
「……あまり皆を困らせちゃいけないな。もう大人しく家に帰るんだよ。」
ユーノは少し厳しい口調でキャロを叱りながら、リイン姉妹を引き摺ってアースラの方に向かって行った。
「あ……やっぱりだめか。」
「キュクルー。」
フリードは落ち込むキャロを慰めるように彼女の頬をぺろりと舐めた。
「ありがとうフリード…もう行こうか…。」
そう言ってキャロは後ろを振り向く、その時ふと彼女の目に、アースラに詰め込むために積み重ねられた器材等が入った子供一人入れそうな箱が入ってきた。
「………あ。」
その時キャロの頭上に、電球のマークが浮かび上がった。

 

「自分の行く道は自分で決める、そうですよねフェイトさん!!」

 

数分後、アースラのブリッジ、そこでリンディとクロノは新たに配属された局員達の挨拶を受けていた…。
「本局管理補佐官、グリフィス・ロウランです。」
「シャリオ・フィニーノ通信師です!」
「情報処理を担当させていただきますルキノ・リリエ二等陸士です!」
「ふむ、よく来てくれた、僕はアースラの艦長クロノ・ハラオウンだ、こっちはオブザーバーとして乗船しているリンディ・ハラオウン総務統括官。君達の働きには期待している。」
「「「はい!!!」」」
挨拶が終わり、それぞれの持ち場に着く一同。
「ふふふ…クロノくん、すっかり艦長としての威厳が出てきたじゃない。」
その様子を見たクロノの“妻”のエイミィ・ハラオウンはくすくすと嬉しそうに笑う。
「そういう君も、最近は年相応に落ち付きが出てきたじゃないか。」
「ぐっ!反撃されるとは……。」
「はいはい、新婚夫婦の夫婦漫才はほっといて、とっとと出港準備にとりかかってちょうだい。」
「「「はい!」」」
リンディのツッコミで緊張感漂うブリッジの空気が少し柔らかくなっていた。
そんな時、持ち場についていたグリフィスがリンディに話しかける。
「そういえば…今回行くコズミックイラってシンさんの故郷ですよね。」
グリフィスの母、レティ・ロウランはリンディと同期であり、二人は長い友人関係を築いていた。そして7年前のシンのPT事件の裁判のさい、ミッドに移送されたシンの世話係をレティが担当しており、グリフィスと幼馴染のシャリオはその縁で、よくシンに会って年上の彼に遊んでもらっていた。
「そっか…彼、裁判中はミッドのレティのところでお世話になってたんだっけ。」
「僕とシャーリーも弟や妹のように可愛がってくれて…よく妹のマユさんや故郷のコズミックイラの話をしてくれたんです。おかげでシャーリーの機械好きに拍車が掛っちゃいまして…。」
「ぬふふふ…どんなメカがあるのかしら…!」
メガネを光らせ怪しく笑うシャーリーを尻目に、グリフィスはリンディとシンにまつわる思い出話に花を咲かせる。
「シン君のコーディネイター技術に興味を持ったのか、当時の管理局上層部がよく彼の元を訪れていたわね…。」
「でも…なんで管理局は何故コズミックイラとの航行を制限したのでしょう?はっきり言ってあそこの世界は7年前の時点でもコーディネイター技術以外は我々と同様かそれ以上の文明レベルを持っています、もし仲良くなれたらこれほど頼もしい世界はないと思いますが…。」
「それ以上に危険な世界なのよ、万が一我々に牙を向いたら互いの世界がほろびかねない、それを危惧して上層部はなのはさんの世界と同様の処置をとったのだと思うわ……、さっ!おしゃべりはそれまで!そろそろ準備に取り掛かりわよ!」
「「「はい!!!」」」
様々な思いを乗せたアースラは、出会いと再会が待ち受けるコズミックイラへと出発した…。

 

十数時間後、アースラはコズミックイラ付近の時空間まで艦を進めていた。
「もうすぐコズミックイラですね…奴らは出てくるでしょうか?」
「わざわざここを指定したんだ、なんらかのアクションをしてくるとは思うのだが…。」

 

ビー!!ビー!!

 

その時、艦内に警報が鳴り響いた。
「なんだ!?なにがあった!?」
「あ…アースラに接近する物体あり!!数3!!に、20mはあります…!!」
「映像来ます!!」

 

スクリーンには蒼い装甲に両肩に砲身を装着した巨大なロボットが三機映し出されていた。
「なにあれ…!?傀儡兵!?」
「こちらの呼びかけに答えません!!三機からエネルギー反応…!?」
「ディストーションフィールド展開!!何かに捕まって!!!」

 

ドゴーン!!!

 

「うわぁ!!」
「きゃあ!!」
クロノの的確な指示も間に合わず、アースラは謎のロボット軍団から怒涛の砲撃を受けてしまう。
「め、メインエンジン被弾!!本艦は航行不能です!!」
「なんだと…!?こうあっさり落とされるなんて…!!」
「クロノ!!こうなったらコズミックイラに転移してそのまま不時着するわよ!!」
「なっ!!!?」
リンディのとんでもない指示にクロノのみならずその場にいたブリッジクルー全員が仰天する。
「このままじゃみんな時空間を永遠に彷徨うことになるわ!!」
「わ…わかりました!!エイミィ!!クルーに対ショック体制をとるよう指示してくれ!」
「は…はい!!」

 

そしてアースラはコズミックイラに転移した後、地上に不時着し、その後救援に駆け付けたミネルバに救出されるのだった…。

 

ミネルバはアースラを時の方舟の軍から守りぬき、そのまま後から来たオーブ軍と共にアースラクルーの救援活動を行っていた…。

 

「メイリン、アースラと連絡はできた?」
「それはまだですが…シンが向こうの司令官と通信できたそうです。」
「わかったわ、それじゃこっちに回すよう…。」
「それが…“念話で通信しているから俺が伝言を伝えます”って言ってますよ?」
「“念話”?よくわからないけど魔法を使ったのかしら…?しょうがない、シンにアースラはこちらの指示に従うように伝えてと言っといて。」
「了解しました。」

 

その後、ミネルバはアースラをワイヤーで繋ぎながらオーブへと帰還していった。
「あれがシンの言っていたアースラという船か…。」
カガリとラクスは司令室のモニターからドッグに収容されたアースラの様子を見ていた。
「とにかくアースラの司令官とお話してみませんと…タリア艦長に連れてきてもらうようお願いしましょう。」
「わかった…もしもし私だ。」
カガリは置いてあった受話器をとり、タリアにアースラの司令官を連れてくるよう指示した。
数分後…。
『今司令官殿がそちらに向かっているそうです。』
「一人で?道に迷うんじゃ…?」
『いえ…案内は不要だとかで…。』
そのとき、彼女達の目の前に魔方陣のようなものが現れる。
「え!?なんだ!?」
「これはもしや…。」
そして魔方陣の中からエメラルドグリーンの髪をした女性が出てきた。
「すごい…!何も無いところから出てきた!」
「貴方がアースラの司令官ですの?」
「ええ、アースラのオブザーバーのリンディ・ハラオウンです。」
「ワタクシはラクス・クライン、こちらはオーブ首長国代表のカガリ・ユラ・アスハさんですわ。管理局の方。」
「………。」
自分達の素性を知っているラクス達を警戒しながら、リンディはなるべく冷静にカガリ達に向き合った。
「この度は助けていただきありがとうございます。我々の事は…シン君から聞いたのですか?」
「うーん、それもあるんだが…話はタリア艦長が来てからにしよう。」
「それまでお茶でもしましょうか。おいしいコーヒーがあるのですよ。」
「は、はあ…。」
(なんか不思議な雰囲気の司令官ね…。ちょっと若いし…。)
リンディはラクスの雰囲気に少し呑まれそうになっていた。

 

一方、ドッグに収容されたアースラは墜落時に負傷した局員を下ろし、オーブ軍の医療施設で治療を受けていた。
「これは…ひどいな。」
あまりの惨状に、手伝いに来ていたマリューとバルトフェルトは顔をしかめた。
「幸い、死者は出ていないみたいですね…アースラの司令官はとても優秀みたい。」
「とにかく僕達も手伝おう、負傷者が多くて人手が足りていないようだからな。」
二人は急いで局員達の元へ行こうとしたその時、
「すまん!!ちょっと手を貸してくれないか!!」
銀髪の美しい女性に声を掛けられた。
「ん?どうした?」
「この男…足を骨折して動けないんだ、すまないが担架かなにかを持ってきてくれ。」
見ると女性は足がありえない方角に曲がっている管理局員風の男と一緒だった。
「わかった、僕が行こう。」
そう言ってバルトフェルトは担架を取りに医療道具がしまってある倉庫へ向かって行った。
「うう……痛い…。」
痛みからうめき声を上げる局員、そんな彼を、マリューは優しく励ます。
「大丈夫よ、貴方は助かるから…。」
「くっ…こんな時、シャマルがいてくれたら…。」
「えっ!?」
マリューは女性の口から発せられた「シャマル」という名に聞き覚えがあった。
「もしかして貴女、シャマルさんの…?」
「……?なぜ貴女がシャマルの事を?」
その時だった。
「いやあ、助かったよ貴女がいてくれて…。」
「いいんですよ、それより患者さんを…!?」
バルトフェルトが担架を取りに行く時にたまたま会ったシャマルを連れてきていた。
「リイン…フォース!?」
「!!!!シャマル!?」
シャマルと銀髪の女性…リインフォースはお互いの顔を見るや否や、目を見開いて驚く。
「なんだ?どうしたんだシャ…。」
「お姉ちゃ~ん、どうかしたですか……。」
そこにオーブ軍の手伝いに来ていたザフィーラと、体長30センチほどの銀髪の少女…リンフォースⅡがふよふよ浮いてやってきて、シャマル達のように目を見開いた。
「ザ…ザフィーラ!シャマルー!!」
リインは勢いよくシャマルの胸に飛び込み、彼女の胸の中でわんわん泣いた。
「ああ…お前達、無事だったのか…!よかった、本当によかった…!」
「二人とも…アースラに乗っていたのね…!ごめんね、心配掛けて…!」
「………!」
ザフィーラとシャマルとリインフォースもギュッと抱きしめあい、家族と無事再会できた喜びを噛み締めながら目に涙を浮かべていた。

 

「なんかよくわからないけど…よかったわね二人とも…。」
「うーん、感動の再会ってやつか、泣かせるねぇ。」
マリューとバルトフェルトも、感動の場面に遭遇しハンカチ片手に目から出る涙を拭いていた。
「あの…早く医者……。」
骨折した管理局員のことをすっかり忘れながら。

 

救助活動も一段落し、リイン姉妹はクロノ、エイミィ、アルフ(少女形態)、ユーノをザフィーラとシャマルが待つオーブ軍基地の一室に呼び出した。
「二人とも…!よく無事で…!」
「ザフィーラ~!心配したんだよー!」
「ええ…でもはやてちゃん達が…。」
「すまない、俺達が不甲斐ないばかりに…。」
皆、お互いの無事を確かめあい、ほっと息を吐き安堵する。
「それはこちらでも把握している。でもなぜ君達がここに…?」
「ああ、それはだな…。」
クロノの質問にザフィーラが答えようとしたその時、彼等がいる部屋に手伝いを終えたキラとアスランが入ってきた。
「あ……お邪魔でしたか?」
「……貴方達は誰ですか?」
「私達はこのキラ君とアスラン君達に助けられたの、命の恩人なのよ。」
「そうだったのか…すまない、アースラを代表してお礼を言わせてもらう。ありがとう…。」
「ありがとうです!!本当にありがとうです!!」
「いえ…いいんですよ、困った人は放っておけませんから。」
「それより…貴方達にとても会いたがっている人がいますよ。」
「「「「「「会いたい人?」」」」」」
「ふふふ…みんなびっくりするわよ。」
そこに、赤いパイロットスーツを着たままのシンが部屋に入ってきた。
「みんな……久しぶりだな。」
「………シンか!?」
「ええ!?ウソ!?ほんとにシン君なの!?」
「えええええ!?君、こんなとこで何やっているのさ!?」
「シ…シン・アスカ!?」
「………!?」
思いがけない人物との7年ぶりの再会にクロノ達は目を見開く。
「うおー!!懐かしいな!!みんなでかくな……アルフだけ縮んだ?」
「…!!」
するとアルフが、ぶつかるようにシンに抱きついた。
「イテッ…ははは、加減を知らないのは相変わらずだな…。」
「ほ…ほんとにシンなのかい!?夢じゃ…ないのかい!?」
「ああ……シンだよ、久しぶりだなアルフ。」
そう言ってシンはアルフの頭を優しくなでた。
「う…!うわーん!シン!シンー!!!」
アルフは今まで心に貯め込んでいたものを吐き出すように、これでもかというぐらい声を上げて泣いた。
「シン君…?その宇宙服みたいな格好は…?」
「うん…俺、オーブからプラントに引っ越して、今はザフト軍に在籍しているんだ。」
「彼、あのMSから貴方達の艦を必死に守ったんですよ。」
キラの補足に、クロノ達はもう驚いてばかりだった。
「MS…?あの傀儡兵のことか?」
「もしかして…青いロボットから私達を守ってくれたロボットに乗っていたのって…!?」
「ああ、インパルスに乗っていたのは俺だよ。」
「えー!?」
「ホント…君っていつも登場が派手だよね…タイミングも最高だしさ…。」
「へへへ…ん?」
シンはリインフォースの背中に隠れているリインに気付く。
「もしかして…その子シャマルが言っていた…?」
「あ、ほらリインちゃん、シン君に挨拶しなさい。」
シャマルに促され、リインはもじもじしながらシン達の前に立った。
「…?ペットロボか?」
「それにしてはよく出来てるよね。」
「ははは、そういえばキラさん達はユニゾンデバイスって知らないですよね、まあ魔導士を補助してくれる妖精みたいなもんですよ。」
「「妖精!?」」
「は…はい!!リインフォースⅡと申します!!シンさんのことははやてちゃんやフェイトさんに聞いています!!」
「そっか…よろしくな、リイン。」
「は…はい!!」
笑顔で自分の体を撫でてくれたシンに、リインは精一杯の笑顔で答えた。

 

再会を喜び合うシン達を、少し離れた位置でキラとアスランは見守っていた。
「なんか彼、沢山の個性豊かな友人がいるんだね…。」
「あいつの人格が自然と彼を引きつけるのかもな、最初会った時はトゲトゲしい奴だと思ったが…。」
「そう?シンは話してみるとけっこう面白いよ?」
「え!?お前話したのか!?いつ!?」
「会った日の夜と…今日の出撃前に。」
「…………。」
アスランはなんだかキラに取り残されたような、そんな気持ちに苛まれていた。

 

一方、カガリ達に呼び出されていたリンディは、彼女達にこれまで起こった“時の方舟”の蛮行を聞かされ、顔面蒼白になっていた。
「シンの報告を照らし合わせると…貴方達の追っている組織と、時の方舟は同一の組織ということになりますね。」
「ふーむ、これは思ったより複雑なことになってきたぞ。」
「ジュエル…シード。」
カガリ、ラクス、タリアはリンディから貰った“時の方舟”が関わっていると思われるPT事件関連の資料を読みながらため息を付く。その時、ラクスは何やら思い詰めたように俯くリンディに気が付く。
「……。」
「どうかしましたか?顔色が優れないようですが…具合でも?」
リンディは静かに首を振ると席を立ち、カガリ達に向けて頭を下げた。突然のリンディの行動に、カガリ達は混乱する。
「ど、どうしたのだ突然!?」
「………彼等“時の方舟”がオーブに攻撃する際使った闇の書の防衛プログラム…あれは我々管理局…いや、私の至らなさから取り逃がしてしまったものです…。」
「「「………。」」」
会議室に重苦しい空気が流れ込んだ。
「私があの時もっと念入りにコアの行方を探り、しっかり破壊しておけば…この世界に迷惑をかけることはなかった!本当にごめんなさい!!」
リンディはとても深く、そのまま前に転がりそうになるくらい頭を下げた。そんな彼女に、ラクスとカガリは優しく声を掛けた。
「頭を上げてください、リンディさん。」
「悪いのは貴女を出し抜いて利用した時の方舟だ、それに私もかつて理想にしばられて民に辛い思いをさせてしまったんだ…私に貴女を責める資格はない。」
「でも…でも!!」
すると先ほどまで黙り込んでいたタリアが口を開く。
「なら…私達に協力してくれませんか?」
「協力…?貴方達にですか?」
「私達の軍は魔法に疎い…できれば貴方達管理局の知恵を貸していただきたい。この難局…我々が一致団結すればきっと乗り越えられる。」
「他の方々にはワタクシ達が説明しておきます。お願い…できますか?」
三人の懇願にリンディは意を決したように顔を上げる。
「わかりました…私のすべてを掛けて、管理局に貴女達と協力できるよう陳情しておきます。もう秘匿事項がどうのこうのと言える状況ではないですからね。」
「ありがとうリンディさん!!」
カガリはリンディの手を取り、皆を…コズミックイラを代表して感謝の言葉を送った。

 

同時刻、中央アジアファントムペイン基地
ここの司令室で、オーブの合同会議に参加しなかった連合軍の高官達は、なにやら話し合いをしていた。
「奴らの居場所はまだわからんのか!?コープランド大統領達が攫われてもう5日もたっているんだぞ!?それにあそこにはあのお方が…!」
「落ち着け…奴らは得体のしれない兵器を使うのだ、ミラージュコロイド以上のステルス機能を持っていてもおかしくはない。」
「おのれ!!こんな時に管理局の奴ら連絡が付けられんとは!」
「無茶を言うな、奴らとの交信はもう6年も途絶えているのだぞ。」
「奴らめ…!高い金を払ったというのに!よこしたのは訳のわからん妖精だとはな…ん?妖精…。」
ヒステリックに辺りにどなり散らしていた男は、急に何かを思い出したようにニヤリと笑った。
「どうしたのですか…?」
「確か妖精を逃がした3人は、高い魔力値を所持していたな…。」
「ええ、データにはそのように…。」
「ネオ・ロアノークにその三人と共にオーブの援軍に向かえと指示しろ。もちろんファントムペインだという事を悟られないようにな。」
「オーブに…ですか!?今あそこにはザフトが駐留しているのですよ!?それに奴は…!」
「もし記憶が戻りそうなったら消せばいい、あの三人も不安定な失敗作、せいぜい“時の方舟”のデータを死んででも収集してもらうさ。ふむ…だがそれだと心もとない、誰か監視役に…。」
その時、司令室の奥で金髪オールバックの青い瞳の男が手を挙げた。
「おお!アリューゼ大佐!行ってくれるのか!?」
「はい…オーブという国、一度でいいから観光してみたいと思ってましたから。」
「ふん…まあいい、この任務君に任せるぞ、アリューゼ・ハンスブルグ大佐。」
「了解しました、その任務謹んでお受けしましょう。」
その男…アリューゼは不敵に笑いながら男たちに敬礼した。

 

おまけ
シンがアルフ達と感動の再会を果たし、リンディ達が契りを交わし、ファントムペインが何やら怪しい事をたくらんでいた頃。
アースラが収容されたドッグでは、引き続きオーブやザフトの整備兵や、アースラの動けるクルー達が作業していた。

アースラの物資をしまってある倉庫…ここは墜落のショックで荷物が散乱し、片付けにきたシャーリーとルキノは途方に暮れていた。
「うわー…荷物ごちゃごちゃ、私達だけじゃ明日の朝になっちゃうわね…。」
「しょうがないですよ、男の人達はほとんど怪我しちゃうし、グリフィスさん達は他のところで手一杯ですし…。」
「はー…しょうがない、私達だけでやるか…。」
二人は深く溜息をつき、作業に取り掛かろうとしたその時、倉庫にザフトの整備兵三人が入ってきた。
「あーあ、こりゃひでぇな。」
「うえ~、ほんとにこれ片づけなきゃダメっすか?」
「ぐたぐた言ってねえでさっさと作業にとりかかれ!!」
「「は…はいいっ!!」」
若い整備兵達は中年の整備班長にどやされ、急いで片付け作業に取り掛かった。
「あの…貴方達は?」
ルキノは見慣れない男達に声を掛ける。
「ああ、俺はザフト軍ミネルバ所属のマッドというもんだ。タリア艦長とクロノ艦長に頼まれてここの手伝いに来たんだ……おいヨウラン!!ヴィーノ!!ここ崩れやすくなっているから気を付けろよ!!」
「「へーい!!」」
「ミネルバから…?どうもありがとうございます!!」
「へへ、いいってことよ。」

 

数十分後……。
「すんませーん、これどこに持ってけばいいんすかー?」
「あ、それは食糧なんでー、あっちにまとめて置いておいてくださーい!」
5人で分担しての片づけ作業は当初の予定より数段早く進んでいた。
「んー!」
「おいおい、こりゃ女の子には重すぎだろ、ここは俺がやっといてやるからアンタは向こうの軽い荷物を片してくれや。」
「す、すいません…ありがとうございます。」

 

(おいヴィーノ、班長やけにルキノさんに優しくねえか?俺らの時とは大違いだ…。)
(大方女の子の前で張り切ってるんだろ。)
「きーこーえーてんぞー!!!」
「ひいい!?」
「すんませーん!!」
「ふふふ…おもしろい人たち…あら?」
ルキノはふと、シャーリーが高く積み上げられている段ボールの、一番下の段ボールを取ろうとしていることに気付く。
「シャーリーさーん!危ないですよー?」
「へーきへーき!これ先端しかのっかってないからー!よいしょっと!!」
シャーリーはその一番下の段ボールを勢いよく引っこ抜いた、その時、抜いた時の衝動で積み重ねられた段ボールがシャーリーに向かって倒れようとしていた。
「あ…危ない!!」
「え?きゃー!?」
「ちい…!!」
その時、ヨウランは素早くシャーリーに飛びつき、身を呈して彼女を落下する段ボールから守った。
「ヨウラン!!」
「シャーリーさん!!」
「二人とも大丈夫か!?」
三人は慌ててヨウランとシャーリーの元に駆け寄る。
「ぐっ…はい、大丈夫です…。」
「いたた…あ!ごめんなさい!!怪我は無いですか!?」
シャーリーは自分を守ってくれたヨウランを気遣う。
「これぐらい班長の鉄拳に比べたらなんでもないっすよ。」
「そうですか、よかったー………!///」
シャーリーは急に顔を赤くし、ヨウランから目をそらした。
「あれ?どうかしました。?」
「ヨウラン!ヨウラン!」
「なんだよヴィー……!!」
ヨウランはその時はじめて、自分がシャーリーを押し倒しているような体勢になっていることに気付き、慌てて彼女から飛び退いた。
「のわあああああ!!?すんません!!!!」
「あ!いえ!!大丈夫です……///」
そして二人の間に妙な空気と沈黙が流れた。
(えええー!?何だこの空気!?)
(ちょ!どうしたらいいのコレ!?)
ルキノとヴィーノはどうしていいか分からず、ただただオロオロしていた。その時。

 

キュクルー

 

「ん…?」

 

静かになった倉庫に、動物のような声が聞こえた。
「ヨウラン、ヴィーノ、お譲ちゃん達、なにか聞こえなかったか?」
「は、はい!聞こえました!」
「一体なんだろ…?ヨウラン、お前は…。」
「へ?ななななんだ!?」
「なななななんでしょうか!?」
「……悪い、なんでもないわ。」
「こっちから聞こえたぞ…。」
マッドは声がした方へ向かう、するとそこにガサゴソと動く怪しげな箱があった。
『キュクルー。』
「おい!!中になんかいんぞ!!」
「ええええ!?そんなはずは…!!」
「と、とにかくあけてみましょう!!」
ヴィーノはその箱のロックを外し、慎重に蓋を開け放つ、中には…。
「キュクルー。」
「はうう…目が回る~。」
白いトカゲに羽が生えたような生き物と、フードを被ったピンク髪の7歳ぐらいの少女が目を回していた。
「お…女の子!?ドラゴン!?」
「ミッドチルダって変わったもん箱に詰めるんだな~、カルチャーショックってやつか?」
「ええ!?キャロちゃん!?フリード!?なんでこんなところに!?」

 

コズミックイラにまた一つ、大きな“力”が降臨した。その力がその世界をどのような“運命”に導くかは、まだ誰にもわからない…。

 
 

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