魔動戦記ガンダムRF_09話

Last-modified: 2011-08-13 (土) 22:52:54

ルナとアルフとのやりとりがあった次の日、アルフ(こいぬフォーム)はシンの自室に呼び出されていた。
「どうしたんだいシン?アタシ達をこんなところに呼び出して?」
「実はな、昨日艦長の許可が取れてプラントにいるウチの家族と通信が出来るようになんたんだ。」
「ええ!?本当かい!?」
「うん、じゃあ今繋げるからな。」
そしてシンは部屋に置いてあったパソコンのモニターを操作する、すると画面に黒い長髪の10歳ぐらいの少女が映し出された。
『やほー♪お兄ちゃん元気―?』
「おおマユ!元気そうだなー、安心したよ。」
シンはモニターに映し出された少女……マユの姿を見て顔を緩ませる。
『今日はどうしたの?会わせたい子がいるって言っていたけど……。』
「うん、実はな……。」
そう言ってシンはアルフを抱え上げ、マユに見せた。
『……?お兄ちゃん、そのわんこ何?』
「このわんこはアルフだぞ。」
「お……おう、初めましてだな……。」
『へ……?』
初めて顔を見るマユに対してアルフはぎこちない挨拶をする、一方マユは頭の計算処理が間に合わず、しばらくフリーズしたように呆けていた。だが次の瞬間。
『ええええぇーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!それがアルフぅーーーーーーーー!!!!!!!!??めちゃくちゃかわいいぃーーーーーーーーーーーー!!!!!』
マユはマイクが壊れんばかりに大声で叫んだ。
「はっはっはっ、興奮しすぎだぞ。」
「そ、そんな大声でかわいいなんて言われたら照れるじゃないかい……///」
するとモニターにマユの他に中年の男女が映し出された。
『こらマユ!こんな時間に何大声出しているの!?』
『お父さんびっくりしちゃったぞ!』
「あ、父さん、母さん。」
「あれがシンの両親かい。」
モニターの向こうでマユは鼻息を荒げながら両親に説明した。
『お兄ちゃんがね!!アルフを連れて来たんだよ!!』
『アルフゥ?またまたそんな御冗談を……。』
「こ、こんにちはー。」
『うお!?犬がしゃべった!!』
『ええ!?まさか本当に……。』
「よーしアルフ、畳みかけてやれ。」
「おう。」
そう言ってアルフは変身魔法を用いて大人フォームに変身した。
『『『おおー!!』』』
マユ達はアルフの変身魔法を目の当たりにして思わず拍手する。一方のアルフは、初めて会ったシンの家族にどう話せばいいか分からずもじもじとしっぽを弄っていた。
『なんでアルフさんがここにいるの!?一体なにがあったの!?ニュースでも色々報道しているし……!』
「それがな……。」

 

シンはこれまで起こったことを自分の家族に洗いざらい説明した。
「と、言う訳なんだ。」
『そうだったの……アルフさんも大変でしたねぇ……。』
「お、お気遣い有難う御座います。」
『お兄ちゃん、フェイトさん大丈夫かな……?変な事されてなきゃいいけど……。』
「うん……。」
マユの心配そうな質問に一瞬表情を曇らせるシン。するとシンの母が気丈にシンを励ますように話しかけた。
『シン、絶対フェイトさん達を助けだすのよ、助けだして今度ウチに招待しなさい、母さんおいしい料理いっぱい作って待っているから。』
『そうだね!マユも待ってる!それでいっぱいお話聞きたいなー。』
『父さんも職探し頑張るからな、シンも無理しない程度に頑張りなさい。』
「父さん、母さん、マユ……。」
家族の励ましの言葉に、シンの心は感謝の気持ちで一杯だった。
「ありがとう……。」
「シン……いい家族じゃないか。」

 

『でも楽しみねえ、フェイトちゃんどれだけ大きくなったかしら。可愛くなっているかもねぇ。』
『マユ達写真の中のフェイトさんしか知らないもんね。』
『うまくいけば義父と息子の嫁の危ない関係に……。』
(いやあ、今から会うのが楽しみだ。)
『父さん、本音と建前逆だよ。』
『は!うっかり!』
『あんたは戯言言う前に職を探せぇー!!』バキャ!
『ひでぶっ!』

 

「訂正だ、とっても愉快な家族だねえ。」
「あははは……マユ、父さん生きてるかー?」
『うん、ギリギリ生きてるよー。』
「そっか……じゃあそろそろ切るぞ、これから訓練なんだ。」
『うん、ちゃんと帰ってきてね、マユ達待ってるから。』
『体には気をつけなさいねー。』
『怪我にも……気を付けろよ……。』
「うん、みんなもね、(特に父さん)それじゃ。」
そしてシンはモニターの電源を切った。
「たく、相変わらずだな。」
「いつもあんな調子かい、でもまあ仲よさそうでいいじゃないか。」
「そうだな……アルフ、絶対フェイト達を助けだそう、そしたら皆、プラントに連れてってやるよ。」
「うん、約束だ……宇宙に行くのアタシ初めてだよ、今から楽しみだねぇ。」
そしてシンは席を立って訓練室に向かおうとした時、部屋に設置してあった電話が鳴り響いた。
「ん?どうしたんだろう……?緊急の呼び出し?」
シンは受話器を取って電話に出た。

 

数分後、シンや同じく呼び出されたレイとルナは、電話の主のバルトフェルトによってオーブ軍の医療施設に連れてこられた。
「一体どうしたのだ?そんなに慌てて……?」
「実は先程、パトロールをしていたムラサメ隊が海に浮かぶ半壊したディンを発見したそうなんだ。」
「「「えええ!!!?」」」
バルトフェルトの言葉にシン達ザフト組は驚く。
「コックピットには生存者が乗っていて……オーブ軍が保護して今病室で休んでいる。そこで君達に彼から事情を聞いて欲しいんだ。」
「わ、解りました……。」
そして一同が病室に着くと、そこには衰弱しきったザフトの緑のパイロットスーツに身を包んだ男がベッドで寝込んでいた。
「う……?あんた達は……?」
「あ、気付いたみたい。」
「我々はザフト軍ミネルバ所属の者だ、一体なにがあった?良ければ話してくれ。」
「ミネルバ……?そうか、あんた達が……俺はカーペンタリア基地から来た、お願いだ、仲間達を……!」
「落ち着いて、一体なにがあったの?」
男は痛む体に鞭を打って、体を起こす。
「昨日の晩……カーペンタリアが時の箱舟の襲撃を受けた……!」

 

その数十分後、シン達はミネルバのブリーフィングルームに集まっていた。
「彼の話によると、昨日の晩、時の箱舟の物と思われるMSや謎の騎士甲冑のようなロボットに襲撃されたそうです。」
「騎士甲冑?」
『恐らくPT事件の時に使われた傀儡兵の事でしょうね。』
アーサーの疑問に、アースラにいるリンディがモニター越しに答えた。
「何故奴らはそんな事を……?最近動きがないから奴らの行動が全く読めん。」
その時、アスランが何かに気付いたように顔を上げる。
「もしや……奴らはカーペンタリアに運び込まれたミレニアムシリーズやセカンドシリーズを狙ったのか?」
『それって……シン君のインパルスと同時期に作られたっていうMSのことですか?』
「ええ、ですがこの情報はザフト軍の中でしか伝わっていないはず、まさか内通者が…?」
あれこれ悩むアスラン。その時シンがリンディにある情報を話す。
「実は……逃げてきた彼からもう一つ、凄く気になる情報を貰ったんです。」
『情報?』

 

~回想~
『あんた震えているぞ?一体どうしたんだ?』
『ひ…ひいいい!仲間が!仲間が次々とあの悪魔にやられたんだ!俺も殺される!』
『こんなに怯えちゃって……よっぽど怖い思いをしたのね。』
『おちつけ!悪魔ってなんだよ!?』
『し……白い悪魔が!ツインテールの悪魔が杖から光線を放って仲間を消したんだ!俺達も消されちまうぅ!』
『白い悪魔?』
『あー……なんか大体解った。』
~回想終了~

 

『十中八九それなのはさんね。』
「やっぱり……でもなのはがなんでそんなことを…。」
『囚われた家族を人質にされているのか……もしくは洗脳……。』
クロノの言葉にシンの顔は真っ青になっていた。
「艦長!代表!今すぐカーペンタリアへ応援に向かいましょう!」
「そうね……これ以上時の箱舟をのさばらせるわけにはいかないわ。」
『よし、早速準備をしよう。敵は大規模な兵力を保持している可能性がある、至急軍を編成してカーペンタリアに向かおう。』
アークエンジェルにいるバルトフェルトが隣にいたカガリに提案する。
『わかっている、でも……あいつらはそのなのはという魔導士を引き連れているのだろう?MSだけで大丈夫なのか?』
「うーん、たしかに自制心がなくなったなのはほど恐ろしい相手はいないからなぁ、下手したらカーペンタリア基地が地図上から消えるぞ。」
『確かにあの子ならやりかねないわねぇ。』
「そ、そんなにすごいのですか?」
シンとリンディの会話を聞いて不安になったアーサーが問いかけてくる。
「あいつが本気になったら戦艦なんて一発で吹き飛びますよ。俺も何度かあいつの魔法を受けて死にそうになりましたから……。」
「色々苦労しているのね……。」
『そうなると大軍を送り込むと一気に消し飛ばされるかもしれませんよ?』
「なら私達ミネルバ隊が先行して様子を見てきます。私達なら大軍で迎えられても対処できますから。」
『うーん、ミネルバだけでは心許無いかもな、我々アークエンジェルもカーペンタリアに向かおう、二人もいいな?』
『ええ、カガリさん。』
『やれやれ、今日はゆっくりコーヒーでも飲もうと思っていたのだがね。』

 

「リンディさん……相手はあのなのはです、それにもしかしたらフェイト達も……。」
『ええ解ってます、クロノ、ユーノ君と守護騎士達を連れてシン君達と一緒にカーペンタリアに向かってくれるかしら?』
『わかりました。』
「クロノと一緒に戦うのも久しぶりだな、お手柔らかにな。」
『ふふふ、君がどれだけ成長したかこの目で確認させてもらうよ。』

 

そしてシン達はミネルバとアークエンジェルに乗り込み、時の方舟に占領されているであろうカーペンタリア基地へ向かった。

 

その道中でのこと、ミネルバのMS格納庫、そこでシン、レイ、ルナは自分達の搭乗機に乗り、いつでも出撃できるよう待機していた。
「…………。」
そしてシンはコックピットで瞳を閉じながら精神統一をしていた、そこに、
『シンー、ちょっといいか?』
ヴィーノが通信機を通してシンに話しかけてきた。
「ん?どうした?」
『キャロちゃんがさー、お前に話したいことがあるんだって、ちょっと開けるぞー。』
次の瞬間、シンが乗るインパルスのコックピットハッチが開かれ、リフトに乗ったキャロが入って来た。
「す、すいませんシンさん、もうすぐ出撃なのに……。」
「いいよ別に、一体どうした?」
シンは優しい笑顔でキャロに問いかける。
「あの,もしかしたらこれから行くところに……フェイトさんがいるかもしれないんですよね?」
「いや、その可能性があるってだけの話だ。」
「フェイトさん無事ですよね?ひどいこと……されていないですよね?」
「………。」
キャロはとても不安そうな顔で、シンに問いかける。
「私、フェイトさんにすごくお世話になって……生きる希望をもらって……でもフェイトさんが大変な目にあっているのに、なにも出来ない……だからみなさんに“頑張って”って言うことしかできないんです……それがとっても辛くて……。」
「キャロ。」
シンは涙ぐむキャロの頭を優しく撫でた。
「シンさん……。」
「ありがとうキャロ、キャロの気持ちすごくうれしい、大丈夫だ……俺達が絶対フェイト達を助ける、だからもう泣くんじゃない。」
「……はい……。」
『おーいそこのロリコーン、なにいい雰囲気かもしだしてるのー?』
そこにザクウォーリアにのるルナから通信が入って来た。
「ロリ……!お前なんつうこと言うんだ!?」
『あんたねー、女の子に好かれるのはいいけどもうちょっと節操を持ちなさい、じゃないといつか刺されるわよ?』
「うおおおおーい!?俺がいつ女の子にもてた!?」
『え……?こいつマジで言ってんの?』
するとレイとアークエンジェルの方にいるネオが通信に割り込んできた。
『ルナ、そこらへんにしとけ。』
『まあいいじゃないの、お譲ちゃんは彼がモテるのが気に食わなくてああ言っているのさ。』
『大佐!へんなこと言わないでくださいよ!』
『照れるな照れるな~♪命短しなんとやらって奴だ♪』
『~~~~~~!!!!』
「シンさん、“ろりこん”ってなんですか?」
「なんでしょうねレイさん?」
『そこで俺に振るのか!?』
『ネオ~?なんの話~?』
『何楽しそうな話してんだよ!俺も混ぜろ!』
『おいおい……収拾つかなくなるだろ……。』
そして通信回線はステラ達も混ざり大混雑となった。

 

「ははは……なんだか楽しそうだね。」
『そうだな……。』
その様子を、フリーダムに乗るキラとムラサメに乗るアスランは苦笑交じりに伺っていた。
「…………。」
『……?どうしたんだ?キラ?』
アスランは何か悩んでいる様子のキラに話しかける。
「うん……この前戦ったアリシアって子に言われたんだ、クルーゼさんと同じ事を……。」
『キラ……。』

 

人の夢と業の塊、スーパーコーディネイターのキラ・ヤマト♪
故に許されぬ!君という存在は!

 

『キラ。』
そこにアークエンジェルのブリッジでオペレーターをしていたラクスとカガリが通信を入れて来た。
「二人とも……聞いていたの?」
『ええ……キラ、人は生まれ方を選ぶことはできないのです、でも……どう生きていくかは自身で決めるべきなのです。』
『そうだぞキラ、もし悩んでいるなら……私達が力になる、だから自分を卑下するんじゃない。』
「ラクス……カガリ……ありがとう……。」
『やっぱりカガリ達は強いな……。』
その時、各MSのコックピットにミネルバのメイリンから通信が入る。
『もうすぐカーペンタリア基地に到着します、各自いつでも出撃できるよう準備していてください。』
「だとさ、ありがとうなキャロ。」
「いえ……シンさんも頑張ってください。」
そしてキャロが離れるとインパルスのコックピットのハッチが閉まり、シンは横に置いておいたヘルメットを被る。
「待ってろよ……絶対助けてやるから……。」
その時、シンはふとコックピットに飾ってあったある写真を見つめる。

 

その写真には、数年前のシンとマユと、とある少女と女性と、青年二人の姿が映っていた。
「こんな悲しいこと……もう終わらせる。」

 

アークエンジェルブリッジ、そこで艦長のマリューと、ブリッジにいたラクスとバルトフェルトはミネルバのタリアと通信で話し合っていた。
「静かですね……。」
『こちらで通信を送っているのですが……何も反応がないのです。警備もいないみたいですし……。』
「まさか連中、基地の連中をさらっていったのか?」
「どちらにしろ偵察が必要のようです、タリア艦長、お願いできますか?」
『わかりました、シン達を偵察に出しましょう、それと万が一のためにクロノさん達にも付いていってもらったほうがいいかもしれませんね。』
「ええ、お願いします、キラ君達にもいつでも出られるようにしておきますので……。」
「できれば穏便にいければいいのですが……。」
だがラクス達の願望は残念ながら叶うことはなかった……。

 

数分後、カーペンタリア基地の滑走路にフォースインパルスとザク二機が降り立った。
「ところどころ破壊されているな、なのはがやったのか……。」
『不気味なほど静かね……この前みたいな化け物やMSがうじゃうじゃしていると思ったけど……。』
『油断するなルナマリア、ここは敵地のど真ん中かもしれないんだぞ?』
「さーって、アルフ達は……お!来た来た。」
するとミネルバが浮遊している方角からクロノ、ユーノ、アルフ(狼フォーム)、ザフィーラ(狼フォーム)、シャマル、リイン姉妹が飛来してきた。そしてシンはクロノに念話で話しかける。
(シン、僕等は先に基地の中に入って人がいないか確かめてくる。)
(ああ、見取り図はさっき渡したよな?油断すんなよ、ここには質量兵器だってあるんだから。)
(わかった、十二分に気を付けるよう皆に伝えておく。)
そしてクロノ達は基地の中へ入って行った。
『シン、彼等は……。』
「ああ、先に基地の中を調べるってさ。」
『ええ!?いつ話したの!?まさか念話ってヤツ!?』
「まあな、俺達も格納庫へ向かうぞ、ミレニアムシリーズが無事かどうか確かめよう。」
そしてシン達は格納庫へ向けてMSを歩かせた……。

 

一方基地内に潜入したクロノ達は、慎重に奥へ奥へと進んでいた。
「ザフィーラ……これって……。」
「ああ、火薬の残り香が充満している、おまけにあたりの壁に銃弾が撃ち込まれている、おそらく戦闘があったんだな……。」
「でも血痕とかはありませんね……。」
「夜に奇襲を受けたと言っていたからな……よほど優秀な兵に襲撃されたのだろう。」
「無事な人……いればいいんだけど……。」
そうシャマルが言葉を発した瞬間、彼女は突然死角から伸びて来た手に捕らえられ、羽がい締めにされこめかみに銃を突きつけられてしまった。
「きゃあ!?」
「シャマル!!?」
「動くんじゃない!!!」
シャマルに銃を突きつけているTシャツにザフトの軍服のズボンを履いたオレンジ色の男はクロノ達に動かないよう指示する。
「よせ!わかったから落ち着け!」
「あ、あわあわ……!」
突然の事に混乱するシャマル、そして男は落ち着いた様子でクロノ達に話しかける。
「なんだお前等……?ザフトでも連合でもオーブでもない……まさか時のなんちゃらの仲間か?」
「僕達は時空管理局の者だ、上官から話は聞いていないのか?」
「時空管理局?アンタ等が?」
男はリインⅡやザフィーラ達を見て不思議そうな顔をする。
「……随分とファンタジーだな。」
「あ!こいつ今私達を馬鹿にしたような顔した!」
「許さないです~!」
「落ち着け。」
「なるほど……上からの話は本当だったのか。」
そう言って男はシャマルを開放した。
「悪かったな乱暴なマネして、俺はハイネ・ヴェステンフルス、ザフト軍のミネルバ配属……の予定だ。」
「ミネルバの……。」
「それよりここで一体何があったんですか?」
ユーノの問いかけにハイネはさあ?と言った感じで右手の手の裏を天にあげる。
「いやあ、俺寝ててさ、なんか銃声で目が覚めてたら……なんか鎧着た大男共と赤い服きた女の子が暴れていたんだよな、それで制圧されて基地の連中はどこか一か所に集められているようなんだよ、俺は機転を利かせて隠れていたってわけ。」
ハイネの説明に、クロノ達、特に八神家の面々は不安そうな表情で恐る恐る彼に問いかける。
「あの……ハイネとかいったな?その少女……赤い帽子にウサギみたいな飾りを付けていなかったか?」
「ん?ああ、ぶっさいくなうさぎだなーって思ってたけど……。」

 

ドゴォン!!!

 

その時、彼等から少し離れたところの壁が破壊され、そこから小さなハンマーのようなものを持った少女が出てくる。
「な、なんだあ!?」
「あ、あれは……!!?」
クロノ達はその少女の姿を確認して、目を見開いてその少女の名前を叫んだ。
「「「「「「「ヴィータ(ちゃん)!?」」」」」」」
「あ……がぐぅ……!!」
ヴィータは胸を苦しそうに抑えながら、グラーフアイゼンをめちゃくちゃに振り回した。
「あぁがああぁぁ!!!!!あああああぁぁぁ!!!!!」
ボコォン!!!
「きゃあ!?」
「ヴィータ!!!やめるんだヴィータ!!」
ザフィーラの呼びかけにヴィータは一瞬動きを止め、震える声で皆に話しかける。
「みんな……はやく……にげ……え…え……うがああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
そしてまた暴れ出し、グラーフアイゼンで辺りをめちゃくちゃに壊し始めた。
「くっ!ストラグルバインド!!」
ユーノはすぐさまバインドでヴィータを縛りあげる、だが……。
「があああああ!!!!!」
ブチィ!!!
すぐさま引きちぎられてしまった。
「だ、駄目だ!」
「ここは一旦引くよ!このままだと……!」
するとヴィータによって破壊された天井の破片がクロノ達に降り注いだ。
「ぬうん!」
ザフィーラはすぐさま人型に変身してその破片を飛び立って蹴り砕いた。
「うおおおお!?ワンちゃんがおっさんになった!!?」
「ワンちゃんでもおっさんでもない!!守護獣だ!!」
「とっととずらかったほうがいいねこれ、このままじゃみんなぺしゃんこだ。」
「そ、そうだな……。」
皆アルフの提案を受け入れ、ヴィータに魔力弾で牽制しながら来た道を逆走した。
「かはっ……がぁ……!」
ヴィータは胸を苦しそうに抑えながらクロノ達を追いかける。
「なあ!あの子ってお前等の知り合いか!?」
ヴィータから逃げながらハイネは隣で並走していたザフィーラに話しかける。
「知り合いというかウチの家族だ!」
「マジかよ!!?軍の基地を襲うなんてどういう教育してんだ!?」
「まったくもって面目ない!」

 

一方外で格納庫に向かっていたシン達は、ミネルバからある報せを受けていた。
「熱源反応!?」
『うん!この前のケンプファーっていうMSと同じ識別反応!あとリンディさんからもらったデータにあった傀儡兵の反応が複数接近してるよ!』
『シン、どうやら迎え撃つしかないな。』
『こっちはいつでも行けるぞ?』
『今キラさん達とロアノーク大佐達も向かわせているからそれまで頑張って!!』
「わかった!行くぞ二人とも!」
シンの号令と共に三機のMSは空高く跳び上がり、彼方から飛来してきたMS軍団を迎え撃った。

 

その頃どこかにある時の方舟のアジト……そこでカシェルとアリシア、そして白髪の少年がカーペンタリアの様子をモニター越しに観察していた。
「さて……始まったわね。」
「じゃあ俺達も行きましょうか、あの三人の投入の指示はこちらから出す、あとは頼んだぞ。」
「仰せのままに。」
そしてカシェルとアリシアの足元に魔方陣が展開され、二人はカーペンタリアへ転送されていった。

 

同時刻、アークエンジェルでは……。
『どうやら戦闘が開始されたそうです。皆さんも出撃お願いできますか?』
「だとよ!いくぞスティング!アウル!ステラ!」
『おう!』
『へへっ!シンに手柄を横取りされてたまるか!』
『わかった……。』
そしてアークエンジェルのカタパルトデッキが開かれ、そこからネオのウィンダムとスティング達のジェットストライカー装備のダガーLが出撃する。
『ウィンダム発進、お願いします。』
「ネオ・ロアノーク、ウィンダム、出るぞ!」
そしてウィンダムはアークエンジェルから勢いよく飛び出していった。
(……なんだろうか、妙に久しぶりな気分だ……。)
『ネオ?考え事かよ?』
アークエンジェルから出撃して妙な気分になっているネオの様子を気遣い、あとから出撃してきたスティング達が通信を入れてくる。
「あ、ああ大丈夫だ、俺達はザフトと合流して敵を迎撃するぞ!」
『りょーかい!!』

 

そして先へ進んでいくと、フォースインパルスらがケンプファーの軍勢と激しい攻防を繰り広げていた。
『ちっ!数が多すぎるわね!!』
悪態をつきながらルナはガナーザクウォーリアのビーム砲を使って敵の集団を分散させていく。
『そこだ!!』
『おちろぉ!!』
その散らばった敵をシンとレイが丁寧に狙撃して数を減らしていく。だがそれを逃れた一機のケンプファーがショットガンを乱射してレイのブレイズザクファントムに突っ込んでいく。
『くっ!』
『レイ!』
『こっちは大丈夫だ!お前達は……!』
レイは接近してきたケンプファーをすれ違いざまに横に一刀両断する。
『お前達は自分の敵に集中しろ。』
『わかった!ん?あれは……!?』
そのときケンプファーの集団の後方からMSより一回り小さい騎士甲冑のような装甲に身を包んだロボットがシン達に向かってきた。
『あれは……傀儡兵!?』
『それってシンが昔戦ったっていう……?』
『二人とも気を付けろよ、あれは小さいけど魔力のシールドを持っているんだ。』
『わかった……!』
レイはブレイズウィザードを展開して傀儡兵に向けてミサイルを放つ、だがそれは魔力シールドによってほとんど防がれてしまった。
『ちぃ!厄介な!』
『こっちに来るわよ!』
その時シン達の後方から数多のビームが発せられ、傀儡兵を次々と落としていった。
『あれは……アウル達か!?』
そしてシン達ミネルバ隊の近くにネオ隊が降りてくる。
『よう坊主!大分派手に暴れたな!』
『まあ俺ならこんな奴らに手間取ったりしないけどねえ?』
『んだとー!?』
『やめとけ、まだ敵はうじゃうじゃいるんだぞ?』
絡むシンとアウルを諌めながらレイは次々と接近してくるMSらの大軍を見据える。
『よーっし!残りは俺が片づけてやる!お前は指でもしゃぶって見てろ!』
『なんだとー!それはこっちのセリフだ!』
『よく飽きないわね……。』
『でも楽しそう。』
そしてシンとアウルは時の方舟の軍団に向かおうと互いのMSのブースターを吹かす。だがその時、上空から五つのビーム砲が発射され、時の方舟の軍団を一掃してしまった。
『え!?なんだ!?』
『あれって……?』

 

一同はビーム砲が発せられた方角を見る、そこには背中の翼を広げ浮遊しているキラの乗るフリーダムと、アスランの乗るムラサメがあった。
『みなさん大丈夫ですか!?』
『おお、あれがフリーダムか……実物は初めて見たな。』
『こっちは大丈夫ですよー。』
『なんだよ、俺達の分まで落としやがって。』
『アウル、いい加減にしとけ。』
シンは戦闘が一段落したと思い、ミネルバのメイリンに状況を確認する。
『メイリン……基地内に潜入したクロノ達から連絡は?』
『それが一向に連絡が付かないの、もしかしたら中でも……。』
『わかった、俺達がタイミングを見て確認しに行く。』
そしてシンはメイリンとの通信を切る、そこにアスランとネオがインパルスに通信を入れて来た。
『どうするんだ坊主?敵はあらかた片付いているが……。』
『いや、確かにクロノ達は気になるけど……そうも言ってられない。』
『何……?』
シンは先ほどから傀儡兵とは別の膨大な魔力を感じていた、すると上空に魔方陣が現れ、そこから深緑の迷彩柄風にカラーリングされたケンプファーが現れた。
『あれは……?』
『おお、いかにも隊長機っぽいもんが出てきたな。』
『ネオもたいちょうき』
『あんたら緊張感なさすぎ。』
すると迷彩柄のケンプファーから通信が入る。
『やあ久し振り、シン・アスカ、キラ・ヤマト、その他諸々。』
『『『『その他諸々!?』』』』
『お前は……カシェルか。』
『……!あの時の……!』
『おやまあ随分若いパイロットだな、そのマスクどこで買ったんだい?』
そのときケンプファーに乗るカシェルはネオとレイの存在に気付くと鼻でふふんと笑った。
『まさか貴方達までいるなんてね、お父上のことはよく存じ上げておりますよ、“少佐”。』
『『『!!!!!?』』』
そのカシェルの言葉を聞いてキラ、アスラン、そしてレイは大きく目を見開く。
『父親ぁ?俺にそんなのいないぞ?』
『まあ当然の反応ですよね、可哀想な人だ貴方は……。』
『おいおいおい!!俺をその他扱いな上に訳わかんない話すんなや!』
そう言ってアウルはバーニアをふかしてカシェルのケンプファーに突っ込んでいく。
『アウル!!』
『おらおらー!!今度は何機落とせっかなー!?』
そしてアウルはダガーのビームサーベルを取り出しケンプファーに切りかかる。
『やれやれ……典型的な雑魚の行動ですね、そんなことしてると……。』

 

次の瞬間、アウルのダガーの頭上から桜色の光線が放たれ、彼はそれに呑まれてしまった。
『あ……アウルーーーー!!!!』
アウルのダガーはところどころ爆発を上げ、カーペンタリア基地の格納庫へ向けて墜落して行った。
『スティング!アウル!お前達はアウルを追いかけろ!』
『わ、わかった!』
『アウル!アウルー!!』
そしてスティングとステラは墜落して行くアウルのダガーを追いかけて行った。
『あれは……!』
シン達はアウルを落としたビーム砲が発せられた方角を見る、そこには白いバリアジャケットに身を包んだ茶色い髪の少女が飛翔していた。

 

『なのは……高町なのは!!!』

 

「…………。」
なのはは光のない瞳でシン達を見据えながら、レイジングハートを構えた。
『や……やっば……!』
『え?何?』
『なんとなくやばそうだな、俺達も逃げるぞ。』
シンは慌ててその場から全速力で退避し、その後をキラ達が付いていく。
「スターライト……ブレイカー。」
そしてレイジングハートの先端に収束していた魔力が一気に解放され、極太の桜色の光となってシン達に襲いかかった。
『うおおおお!!?』
『何あれ!?タンホイザー!?』
シン達はスターライトブレイカーを寸でのところでかわす、そして行先を失ったスターライトブレイカーは海面に直撃し、大型ミサイルが直撃したような大爆発を起こした。
『こ、これは……!!』
『あの子本当に人間か!?』
『あいつが本気になったら街一つ消し飛ばしかねんからなぁ。』
『それを先に言え!……ってまた構えたぞ!?』
スターライトブレイカーを撃ち終えたなのはは休む間もなく二射目の態勢に入った。
『あれ……?でもこっちに向けてないね?』
『ま……まさか!』

 

同時刻、ミネルバブリッジ、そこでタリア達はシン達から通信を受けていた。
『艦長!!ミネルバをその場から退避させてください!!』
「え?いきなり何を……?」
『早く!!海の藻屑になりたいんですか!?』
シンの鬼気迫る様子に驚きながらタリアは操舵手に指示する。
「か、艦首回頭!ミネルバはこの場から離脱を……!」
そのときメイリンが悲痛な叫びにも似た声を上げる。
「艦長!!膨大なエネルギーがこちらに……!」

 

ボゴーン!

 

「きゃあ!?」
「みゃあ!?」
「フォンドボォォォォォォウ!!!!!」
次の瞬間大きな衝撃がミネルバを襲い、艦は大きく傾いてしまった。
「な、何があったの!?」
「だ、ダガーを落とした光線と同種のものがこっちに向けられたみたいです!第二、第三、第四ブロック被弾!第五で火災が発生しています!!」
「艦長ぉ!!」
「少し黙ってて!!消化班を第五ブロックに向かわせて!!あとシン達をこっちに呼び戻しなさい!!」
怒号飛び交うブリッジ、そんな中メイリンはモニターにある反応を見つける。
「な、何これ……女の子?」
「ど、どうしたメイリン?」
「女の子が……白い服を着た女の子がこっちに向かってきます!!」
ブリッジクルーは一斉にモニターを見る、そこには足に桜色の翼を生やしてこちらに向かってくるなのはの姿があった。
「まさかさっきの光線……あの子が……。」
「か、艦長!なんかあの子杖みたいなのこっちに向けてますよ!?」

 

「エクセリオンバスターバレル展開、中距離砲撃モード。」
柄が伸び、レイジングハート本体から桜色の翼が生える。
そして、魔力による衝撃波を放っち、ミネルバの自由を強制的に奪う。
「回避を!はやく!」
「だめです!舵がききません!」
「そ、そんな……!」
「エクセリオンバスターフォースバースト、ブレイクシュート。」
放たれたエクセリオンバスターは四つに裂け、そのすべてがミネルバに襲い掛かる。
「あ……あ……。」
「うわぁぁぁぁぁ!?かんちょおおおお!!!!?」
「お……おねえちゃーーーーん!!!」

 

『させるかあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!』
その時、駆け付けたシンのフォースインパルスがなのはとミネルバの間に割って入り、ひとつに収束したエクセリオンバスターをインパルスのシールドで受け止めた。
「シン!?」
「む、無茶だぞシン!インパルスの装甲が持たない!!」
「シーン!」

 

一方、カシェルと対峙するキラ達は……。
『ふぅん、シン・アスカに彼女を追いかけさせるんですね、一機だけ行かせてよかったんですか?あの白い子強いですよ?』
『彼は彼女の事を一番理解している。だから一人で十分だと思ったんだ。』
『それにどうせまだ隠し玉持ってるんだろ?惜しまずに出していいんだぞ?』
『ふふっ……やはり歴戦の勇士は違う、それではお言葉に甘えて……。』
そのときカシェルのMSの背後から直径30メートルはある魔方陣が現れ、そこからジンの頭を取り付けたほぼ球形の巨大なMAが現れた。
『な、なにあれ!?MA!?』
『バカな……“イノセントアプサラス”!?』
『おいおい!またザフトの試作機かい!?一体どこから設計図盗んでいるんだ!?』
『盗んだなんて失礼な、譲ってもらったんですよ。それで二機作ったんですけどどこかのバカ女が一機壊しやがりましたけどね。』
『譲ってもらった……?』
アスランはカシェルの“譲ってもらった”という言葉に反応する。
『さあどうします?僕は是非そこのフリーダムとムラサメと闘ってみたいのですが……。』
『だとよ、あのMAは俺とザフトの少年君達に任せとけ!』
そう言ってネオはレイとルナを引き連れてアプサラスへと向かって行った。
『よしキラ、やるぞ……!』
『僕等が勝ったら……何故こんなことするか話して貰うよ。』
するとカシェルは鼻で笑いながらキラの言葉をあしらう。
『僕に勝つ?ないない、あんたらみたいな人に負ける気がしないから。』

 

その頃シンはなのはのエクセリオンバスターをインパルスで防ぎながら冷や汗をかいていた。
実際インパルスのVPS装甲はエクセリオンバスターによってジワジワと削られており、このままではミネルバごと貫かれてしまいそうだったのだ。
(このままじゃ自滅するな……こうなったら!!)
シンはパイロットスーツの中をまさぐり、赤いビー玉を取り出した。
「……………。」
なのははエクセリオンバスターを防がれても動揺することなく、インパルスに照射を続ける。するとインパルスはバラバラと分解を始め、パーツが海に落下して行く。
「……………?」
だがエクセリオンバスターはミネルバに届くことなく、むしろなにか大きな力で押し込まれていた。

 

なのははうつろな瞳で自分の魔法を押しこんでいる力の正体を確認する。
「……………!」
そしてその力の正体を知り驚いたように体をビクッと震わせる。
「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」
自分の魔法を押さえこんでいるもの、それはコックピットの中で変身しインパルスを乗り捨てたシンが、右手にありったけの魔力を収束させたパルマフィオキーナでエクセリオンバスターを四つに裂きながら少しずつなのはに近付いていた。
「負けてたまるかぁーーーーー!!!!」
シンは自分を鼓舞するように大声をあげ、なのはとの距離を少しずつ縮めていく。
(小さい頃は一度もなのはに勝ったことがなかった!一回目はクロノに気を取られて、二回目は火力に気を取られてバインドを掛けられた、だが今度は……俺の間合に持ち込み一気に叩く!)
そしてシンはエクセリオンバスターをすべて切り裂き、なのはに6mほどまで接近する。
「ん!?」
だがその時、シンは背中に妙な殺気を感じ左手にフラッシュエッジを持って振り返りざまにそれをブーメランのように投げる。
すると後方に三角形の形をしたビッドが複数浮かんでおり、それはフラッシュエッジによってすべて撃ち落とされた。
「あぶねえー!クロノが言っていたブラスタービッドか……。」
そしてシンは再びなのはに向き直る。
「レイジングハート、ストライクフレーム。」
なのはは無機質な声でカートリッジを五発消費すると、レイジングハートの先端に桜色の魔力刃が装着された。
「おもしれえ……!接近戦は負けない!」
シンも負けじと背中の翼を粒子をまき散らしながら大きく広げ、アロンダイトを両手に持って構え、その先端をなのはに向ける。

 

まるで時が止まったかのように訪れる静寂、そしてシンは大きく息を吸ってそのままなのはに突撃する。
そしてほぼ同じタイミングで、レイジングハートを突き出しながらシンに突撃する。
縮んでいく両者の距離、そしてシンは眉間にレイジングハートの剣先が突き刺さりそうになるギリギリのタイミングで右に体を捻ってかわし、レイジングハートをアロンダイトで打ち上げた。
「……!!!」
「あらかじめ言っておく!!めっちゃ痛いけど我慢しろ!!」
そう言ってシンは再び右手に魔力を収束させ、そのままなのはの腹部を鷲掴みした。
「うおおぉぉぉぉ!!!!」
バコォン!
「かはっ!!!?」
爆音と共に魔力がなのはの背中を通り抜け、彼女のバリアジャケットの背中部分が破れる。
「あ……は……。」
そしてなのははそのまま力尽き海に真っ逆さまに落ちて行った。
「なのは!」
シンは慌ててなのはを追いかけ、彼女が海に着水する直前に抱きとめる。
「あ、あぶなー!」
そう言ってシンは気絶したなのはを左肩にしょい込んだ。
「たく、むちゃすんなよな……(ズキッ)痛っ!?」
シンは痛みが襲った左手を見る、左手はエクセリオンバスターを受けたことにより焼けただれ、所々筋肉の線維が見えていた。
「う、うわ……!見たら急に痛くなった……!」
シンは応急処置としてなのはのバリアジャケットの破れた部分から布を拝借し、左手にその布を巻きつけて口で器用に縛る。
「さて……大丈夫かレイジングハート?」
シンは改めてなのはの相棒のレイジングハートに話しかける。
『はい、シン・アスカ、お久しぶりですね。』
「ああ、それにしてもこいつは一体どうしたんだ?なんか正気じゃなかったみたいだけど?」
『私にもよく……主が敵に捕まった直後、私と主は別々の場所に移動させられたので……再会したときにはもう……。』
「わかった……とにかくミネルバに戻ろう、なのはを早く治療しなきゃ……。」

 

ぱちぱちぱち

 

「……!?」
その時どこからともなく拍手の音が鳴り響き、シンはなのはを抱えたままアロンダイトを左手で持つ。そして拍手がした方角を見る、そこには黒いゴスロリ衣装のようなバリアジャケットに身を包んだアリシアが浮かんでいた。
「アリシア……。」
「見事だったわシン・アスカ、まさか高町なのはを倒すとは思わなかったわ。」
アリシアは目で笑いながらシンに向けて膨大な敵意を向けていた。そんな彼女を、シンは悲しそうな瞳で見つめる。
「もうやめろよこんなこと……!こんなことしてもプレシアさんは……。」
「“喜ばない”とでも言いたいの?私思うんだけどさ~、ドラマとかで探偵役が犯人にそう言う言葉投げつけるところみるとホントその探偵惨殺してやりたいのよね~、“お前になにがわかるんだ”ってね!ましてやそれが……!母さんを死に追いやったご本人から言われたらなおさらなのよ!」
「……確かにあれは俺が全部悪いんだ、だから……。」
「あははは!自分だけ罪を被るの?カッコイイー♪でもダメ私はね……あんた達二人を死ぬより辛い目に会わせるって心に決めているから!」
「二人……!!?」
アリシアは右手を高らかに上げて指をパチンと鳴らす、すると彼女の隣に魔方陣が現れ、ある人物が現れる。
「!!!!!?」
シンはその人物の姿を見て大きく目を見開く、そしてその人物は無表情に口を開いた。
「バルディッシュ……真ソニックフォーム。」
『イエッサー。』
そしてその人物はレオタードのような露出の多いバリアジャケットに身を包み、金色の刃をした二本の剣を構えた。
「さあシン・アスカ、ミネルバと高町なのはを守りながら……私と、守ると約束した女の子と闘えるかしら?」
シンの頭は真っ白になっており、アリシアの言葉は聞こえていなかった。
そして彼は、精一杯、声を震わせて、どこか心の中でこうなるんじゃないかと予想していたのに、自分が刃を向けられているのが信じられなくて、その人物の名前を叫んだ。

 

「フェイト……!フェイト・テスタロッサ……!!!」

 

一方そのころ、カーペンタリアに向かう一機の黒いMSの姿があった。
「もうすぐだな……。」
「アニキ、本当にいいんですか?オイラ達ブルーコスモスではお尋ね者なんスよ?」
「家族のピンチなんだ、うまく立ち回ればはやて達を助けだせる、コソコソするのはやめだ、俺達の戦いを……もう終わらせるんだ、お前にも手伝ってもらうぞ。」
「まかせとけ!旦那にゃ色々と借りを作っちまったしな!」
「ああ、期待している。」
そして黒いMSのパイロットは、操縦桿を強く握り締めた。
(シン……はやて……みんな……無事でいてくれ……!)
MSは最大加速でカーペンタリアへと向かっていた……。