魔動戦記ガンダムRF_10話

Last-modified: 2011-08-13 (土) 22:53:32

なのはによって撃墜されたアウルのダガーは、カーペンタリア基地の格納庫に墜落していた。
「あいたたた……、なんだったんだいきなり……。」
破壊されたダガーのコックピットから這いずり出てきたアウル。とそこに、アウルが開けた穴からスティングとステラのダガーが入って来た。
「「アウル!」」
スティングとステラはアウルの姿を見るや否や、コックピットを降りて彼の元に駆け寄る。
「大丈夫か!?アウル!?」
「ああ、なんとかな……。」
「よかった……ところでここドコ?」
「ん……?」
見渡してみるとそこにはさっきまでMSが置かれたような形跡がある大きめの器具があちこちに設置されていた。
「ここ格納庫か……にしてもなんでMSが全くないんだ?ここ軍の基地なのに……。」
「時のなんちゃらがもってっちゃったんじゃねーの?あいつらMS欲しがっているみたいだし。」
「あれ……?」
その時、ステラは何かに気付きシーツに被さった何かが置かれているところへ駆けて行った。
「お、おいステラ!」
「勝手に動くなよ!」
スティングとアウル慌ててステラの後を追う。
「なにしてんだよお前……。」
「コレ……。」
「ん?」
二人はステラが指さす方向を見る、そこには大きなシーツに被さった四機のMSが置いてあった。
「おい!これGじゃね!?シンの乗ってたセカンドシリーズと同系統かな!?」
「おそらくな、でもなんでこいつは運び出されていないんだ?」

 

バッコォォーン!

 

その時、スティング達の背後から大きな轟音が轟き、三人は慌てて後ろを振り返る、そこには……。
「があぁぁぁぁぁ!!!うがあぁぁぁぁぁ!!!」
「ヴィータちゃんやめて!!」
「クソッ!このままじゃ……!」
何かに操られて暴れまわるヴィータに追われたシャマル達がいた。
「シャマルさん!?」
「助けなきゃ……!」
「あ!おい!」
そう言ってステラは懐にしまっていた二本のナイフを取り出し、暴れまわるヴィータに突撃して行った。

 

「ぐぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ヴィータ!」
「なんとか広い所に誘導したぞ、これで……。」
その時、クロノ達を横切ってステラがヴィータに突進していく。
「ステラちゃん!?」
「ぐるあぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「はああああ!!!!」
ステラはいつもののほほんとした雰囲気とは打って変わって、鬼神のような形相でヴィータに切りかかる。
「ぐぅ!」
ステラの一撃目をヴィータはグラーフアイゼンで受ける、ステラはそのままヴィータに次々とナイフを振るう。
「このぉぉぉ!!!」
「がっ…!ぎっ…!」
ヴィータはステラのナイフを交わしていくが、何手かかすって頬や腕等に切り傷ができていた。
「ステラちゃんやめて!」
「ヴィータちゃんを傷つけないで!」
「……!?」
ステラはシャマルとリインⅡの言葉を聞いて、一旦ヴィータから距離を置く。
そこにリインフォースⅠとザフィーラ(狼形体)がステラの両隣に並び立つ。
「ステラ……お前中々やるな。」
「お前とザフィーラはヴィータに隙を作ってくれ、後は私がなんとかする。」

 

「ぐおぁぁぁぁぁ!!!!」
「うわぁ!」
「は、早くしてくれ!」
一方、ヴィータの動きを止めようとクロノ達は善戦するが、地形の不利さも相まって決め手を欠いていた。
「うおおぉぉぉぉ!!!」
ヴィータはいくつもの鉄球を召喚し、手当たり次第にそれをアイゼンで打ち出す。
「おわ!?」
「あぶな!?」
クロノ達はそれをすんでのところでかわすが、その鉄球はそのままスティングとステラの乗って来たダガーを破壊してしまう。
「あー!!!?」
「ありゃ……ご、ごめん……。」
その時、ステラとザフィーラがヴィータの元に一気に駆け、ザフィーラはアイゼンが握られている右手にかみつき、ステラはヴィータの背後に回り込み羽交い締めにする。
「今だ!リインフォース!」
「我が右手に集え、破壊の光……。」
リインフォースは詠唱を開始し、右の掌に魔力を収束させる。
「はぁぁぁぁ!」
そして背中の黒い羽根を大きく広げてヴィータに接近する。そして彼女の胃の部分に右手の掌を押しあてる。
「パルマ……フィオキーナ!!!!」
ドッゴオォォォーン!!!!
リインフォースが叫んだ次の瞬間、ヴィータはステラとザフィーラと一緒に遥か後方に吹き飛ばされる。
「あ、危ないです!」
そう言ってリインⅡはヴィータ達が吹き飛ばされた方向にある機材に魔法を唱える。
ボヨーン
すると見るからに堅そうな機材はスポンジのように柔らかくなり、衝突の衝撃を最小限に和らげた。
「うぇい!?」
「うお……!無茶をする……!」
「ぐが……が……。」
するとステラの腕の中でヴィータは胸を押さえて苦しみ出した。
「大丈夫?気持ち悪いの?」
そう言ってステラはヴィータの背中をさする、するとヴィータの喉に何かがせり上がり、彼女はそのままその中の物を吐き出した。
「シャー!!」
「うわ!なんかギチギチ言ってる!」
そこにはムカデのような白い生き物がうねりをあげていた。
「こんのバケモンが!シャマルさんの家族の中に入り込みやがって!」
アウルは持っていた拳銃でその生き物に鉛玉を数発ぶち込んだ。
「キシャー!!!」
「よっし!」
ムカデを完全に殺しガッツポーズをとるアウル
「よっしじゃない!!これは生かして持って帰って調べなきゃならないんだぞ!」
だがクロノに怒られてしまった。
「す……すんません……。」

 

「ところでヴィータちゃんは!?」
「ヴィータちゃん!!起きてー!」
リインⅡは気絶するヴィータの頬をぺちぺちと叩く。するとヴィータは咳き込みながら目を覚ました。
「う……みんな……?」
「あなた、大丈夫?」
目を覚ましたヴィータを気遣ってステラが声を掛ける。
「ん?おめぇ誰だ?」
「私ステラ・ルーシェ。」
「いや、呑気に自己紹介している場合か。」
「あ!そうだ!はやてが危ないんだ!」
そう言ってヴィータは立ち上がる、だが足に力が入らずすぐにへたり込んでしまう。
「あ、あれ……?」
「無茶するな、お前はさっきまでその虫に操られていたんだぞ?」
「とにかくミネルバかアークエンジェルに連絡を……。」
「おーい!お前等ー!」
そこに、シャマル達とは別行動していたハイネがやってくる。
「ハイネじゃないか、今までどこ行ってたんだい?」
「ああ、基地の仲間達を探していたんだ、そしたら全員食堂で縛りあげられていたよ、ついでに通信室の通信も復旧させといた。」
「わかった。とにかくそこに向かおう。」
そのクロノの提案に、アルフが待ったを掛ける。
「そ、その前に上で戦っているシンやルナ達を助けに行かなきゃ!」
「僕等が行ってどうする?あんな巨大なロボット、何機も迫られたら僕等にだって勝ち目が……。」
「うーん、俺達のダガーさえ直ればなー。」
「あ、そうだ。」
その時ステラが何かを思いついたのか、手をポンと叩く。
「なにか妙案があるのか?」
「うん……ステラ達さっきあそこでMS見つけた。それでシン達を助けてあげられる。」
「おいおい!あれはザフト軍のだぞ!?連合の俺達が使ったら怒られるぞ!」
「それだけの問題じゃないだろ……。」
そんなステラ達のやりとりを見ていたハイネは、ニヤリと笑った。
「なんだ?あれ使いたいのか?別にいいぜ、俺が許可する!」
「え……?」
ハイネの意外な言葉に、一同は一斉に彼を見る。
「き、君、あれは大事なものなんじゃ……?」
「いいっつってんだからいいんだよ、俺が全部責任とる。今の状況を打開する方法はそれぐらいだしな。」
「あ、あなた一体何者なんですか?」
シャマルの問に、ハイネはニヤニヤしながら答えた。
「ザフト軍特務隊“フェイス”所属の、ハイネ・ヴェステンフルスだ!よろしくな!」

 

そのころ基地上空では、レイ、ルナ、ネオが時の方舟のMA、“アプサラス”と激しい戦闘を繰り広げていた。
『当たんなさいよー!』
ルナの乗るザクウォーリアのビーム砲を、アプサラスはなにかバリアのようなもので弾き返す。
『おう、どうやら敵さん、ビーム対策はばっちりみたいだな……。』
『ならミサイル攻撃を……。』

 

………………て…………

 

『『!!!!?』』
その時、ネオとレイの頭の中にかすかな声が響いてきた。
『あん?何やってるの二人とも!動きを止めたら……!』
するとアプサラスの中心に設置されている発射口からネオ達に向けてビーム砲が発射された。
『うおぉ!?』
『きゃあ!!』
『ちぃ!』
ネオ達はそれを散開してかわす。
『なんだ……!?今の声は……!?』
『君にも聞こえたか……あのMA、俺達の頭ん中に語りかけてくるぞ。』
『はあ!?あんた達なに言って……!』

 

…………とめて………をとめて…………

 

『………!聞こえたわ!私にもあの子の声!止めてって言ってる!』
『ルナ……?』
ルナの言葉に、レイとネオは驚愕する。
(どういうことだ?俺達はそこまではっきりと聞きとれなかったが……。)

 

その時、地上から幾つものビームが発射され、アプサラスに直撃する。
『ん!?なんだ!?』
三人はビームが来た方角を見る、そこには……。
『カオス!?アビス!?ガイア!?』
緑と青と黒のMS……セカンドシリーズのMS、カオス、アビス、ガイアがアプサラスに攻撃を仕掛けていた。
『いったい誰が乗っている……!?』
その時、ルナ達のMSにその三機から通信が入る。
『やほー、ネオー。』
『またせたなー!』
『加勢に来たぞ!』
『す、ステラ!?カオスとアビスにはスティングとアウルがのっているのか!?』
『あんた達!何勝手にザフトのMSに乗っているのよ!?』
『ちゃんとフェイスの人に許可もらったよー、OSも書き換えてくれたんだー。』
『フェイス……!?』
その時、アプサラスはルナとレイ目がけて体当たりを敢行してきた。
『またぁ!?』
『くっ!』
レイとルナはその攻撃をよける。するとネオがこの場にいた全機に通信を入れてくる。
『お前達、ちょっとここをまかせてもいいか!?フリーダムのパイロット君や赤い彼が気になるんだ。』
『わかった!こっちは任せとけ!』
『むちゃしないでね……ネオ……。』
その時、レイがネオの通信に割り込んできた。
『俺も行きます。なんだか嫌な予感がするんです……。』
『レイ……?わかった、あんたの勘ってよく当たるもんね。』
そしてレイとネオのMSはその場から離脱していった。

 

『…………。』
移動している間、レイは隣を飛んでいるネオのMSをチラチラと横眼で見る。
『ん?俺の顔に何かついているか?』
視線に気付いたネオはレイに話しかける。
『いえ……なんだか貴方、俺の知り合いに似ているもので……。』
『へえ?君もかい、俺も君とよく似た奴を知っている気がするよ。』
『そうですか……ん!?』
その時レイは海に浮かぶ四肢をうしなったとあるMSの残骸を発見する。
『これは……アスラン・ザラのムラサメ!?』
『おいおい……!あの兄ちゃんやられたのか!?』
そして二人は、遠方でキラのフリーダムとカシェルのケンプファーが戦っているところを目撃する。
『バカな……!?フリーダムが押されている。』

 

『く…くそ!!』
キラは自分と互角の戦いを繰り広げ、アスランを撃墜したカシェルに少なからず恐怖を抱いていた。
『はあ……だからいったじゃないですか、僕があなた方に負けるはずはないって。』
『……!』
キラはフリーダムの背中の翼を展開し、二筋の紅いビーム砲をケンプファーに向けて放つ。
『遅い!』
それをケンプファーは難なくかわし、ビームサーベル片手にフリーダムに接近して切りかかる。
『わぁ!?』
驚いたキラは操縦桿を切ってよけようとする、だが……。

 

ジャッ!
『くううぅ!』
回避が間に合わずすれ違いざまにフリーダムのシールドが握られた左腕を切り落とされてしまう。
『もう一撃!!』
カシェルはケンプファーを180度ターンさせ、フリーダムの背中に切りかかる。
『させるかぁぁぁぁ!!!』
キラは残った右手にビームサーベルを持たせ、振り返りざまにケンプファーの二撃目をそれで受ける。
『ボディがガラ空き。』
ケンプファーはそのままフリーダムの、人間でいえば下腹部の辺りに爪先をぶち込み、フリーダムを近くに浮かんでいた孤島まで吹き飛ばした。
『うわぁぁぁぁぁぁ!!!!!』
コックピットが壊れんばかりの衝撃がキラを襲う。そしてケンプファーは淡々と肩に装備した二丁のビームバズーカをフリーダムに向けて放つ。
ドガガガガガガガ!!!!!
『あああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』
そのビームはフリーダムの足を、腕を、ビーム砲を、頭を、次々と破壊して胴体だけのダルマにしてしまう。
『つ……強い……!』
『あんたが雑魚なだけだ。』
そう言ってケンプファーに乗るカシェルはキラの前に降り立った。
『ブザマだよな……ま、アンタ等が今までやって来たことを思えば当然の結果だよな。』
『ぼ……僕達が何をしたって言うんだ!?』
キラはカシェルの言っていることが分からず、声を荒げる。
『無自覚……なんですね、まるで独裁者だ、自分がしてきたこと、すべて正しいと思っている。』
『ぼ……僕は平和のために……!』
『平和のためにって言って……何人殺したの?』
『………!?』
その、カシェルの殺気が籠った声に、キラは心臓を鷲掴みにされたような感覚に襲われる。
『何百人も殺したくせに……あんたは何も償っていないじゃないか、さっき落としたアスラン・ザラもそう、アイツは祖国を裏切った最低最悪の野郎だ、そしてあんた等は……いずれそれ以上の下劣な行いをするんだ。』
『な、なんでそんな事わかる!?未来でも見えるとでもいうのか!?』
『さあね、とにかくこの世界にとって存在自体害悪のあんた達はここで俺にそれ相応の処罰を下されるんだ。』
ケンプファーはビームサーベルを逆手に持ち、身動きが取れないフリーダムにそれを突き刺そうとする。
『あ……!あ……!』
『さようなら、本当はあいつがこうしたかったんだろうけど……。』

 

キラは頭の中でこれまで出会って来たある人たちを思い浮かべていた。
フレイ、ムウさん、トール、ナタルさん、エルちゃん、これまでいくら足掻いても守ることが出来なかった大切な人達、結局自分は、自分の命さえ守れずにここで死のうとしていた。
なんて僕は……無意味なんだろう……。
考えてみれば僕は、いるだけで周りの人間を不幸にしていたのかもしれない。
サイからフレイを奪い、あまつさえ彼女を死なせてしまったり、シンの家族の命を危うく奪いそうになったり、エルちゃんの乗るシャトルを守れなかっり……まるで僕は厄病神だ。

 

厄病神?ちがうなぁ、君は人類の欲望の塊!スーパーコーディネイターだよ!キラ・ヤマト君!

 

どこからともなく、あの男の声が響いてくる。

 

君は人類の醜い部分が集合してできた存在!故に……悪しき存在であり滅びなければならない!この私と!この世界と一緒に!

 

大層な演説を雄弁に語りながら、その男は声高々に笑う。
そう言っている間にも、ケンプファーのビームサーベルがフリーダムのコックピットに突き刺さろうとしていた。
もう助からない、そう思ったとたん僕は自然と愛しい人に一言謝罪の言葉を送っていた。

 

「ラクス……ごめん。」

 

バキュー………ン
だがそのビームサーベルは、突如上空から放たれたビームライフルの弾により弾かれてしまい、フリーダムのコックピットに突き刺さることはなかった。
『え……!?』
キラはシンかネオが助けに来たのかと思い、ビームが来た方角を見る、だがそこには、自分の見知らぬ……否、自分のよく知っているものとは違う色のMSが、灰色の翼に漆黒の装甲を身に纏って浮遊していた。
『スト……ライク……!?』
そのとき、ケンプファーに乗るカシェルがそのMSを見るなり、愉快そうに大笑いし始めた。
『あっははははははは!!!まさかこんなタイミングで現れるなんてねえ!!?』
黒いストライクはカシェルの様子に意を介さず、背中のブースター……IWSPの出力を上げてケンプファーに接近する。
『相手になるよ!!スウェン・カル・バヤン!!!』
『はああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!』
黒いMS……ストライクIWSPの対艦刀がケンプファーに振り下ろされる、ケンプファーはそれをもう一本のビームサーベルで受ける。
激しく散る火花、そして激しい鍔競り合いを繰り広げながら、ケンプファーはストライクに通信を入れる。
『久しぶりだねスウェン・カル・バヤン!!家族と友の危機に駆け付けたのかい!?』
『いいや……。』
弾くようにケンプファーと距離をとったストライクは、腰に装備していた二丁のビームライフルショーティーを構えた。
『お前等を……叩きのめしにきた!!!』
そしてショーティーから何十発ものビームの銃弾がケンプファーに発射される。

 

『あのMSは……?』
キラはコックピットの中でストライクとケンプファーの戦いを茫然と見ていた、その時、
『よう坊主、大丈夫か?』
そこにネオのウィンダムが飛来してきた。
『ネオ……さん。』
『あーあ、手ひどくやられたなあ、ムラサメは白い坊主君が回収した。ここはあのストライクに任せてアークエンジェルに戻ろう。』
『はい……。』
『しっかし……あのMS……まさかな。』

 

ウィンダムに運ばれていくフリーダムを見て、ケンプファーに乗っていたカシェルは舌打ちする。
『ちっ!どいつもこいつも邪魔を……!』
『思い通りにいかない、それが生きるってことだ。』
『あっはははははは!君が言うと重いねぇ!薄っぺらい彼とは大違いだ!!』
ショーティーをかわしながらケンプファーはショットガンで応戦する。
『お前達は……いつまでこんな事を続ける気だ?』
『そうだなぁ……この世界に“平和”が訪れるまでかな!?』
『平和……ね、少なくともお前は……やけくそになっているように見えるが?』
『……!?………。』
そのスウェンの言葉に、饒舌だったカシェルの口数が急に少なくなる。
『お前とあのアリシアの事は……シンと“彼女達”から聞いている。』
『何……!?』
そしてその二言目を聞いた瞬間、カシェルの瞳が大きく見開かれる。
『お前は……彼を止めるべきではないのか?フェイトのような悲しい子を次々と生み出して平気でいられるほど……お前は冷血人間ではないはずだ、むしろ今の状況を嘆いて……。』
『黙れ!!!』
ケンプファーはチェーンマインを振り回し、ストライクの背中に装備されたIWSPを破壊する。
『くっ!!』
『首領は……“父さん”は孤独なんだ!!あの人の味方は僕と!あのできそこないの操り人形と!ゲイザーしかいないんだ!だから父さんは僕が守る……!そして父をあんな風にした“あの世界”に鉄鎚を下す!お前に……邪魔なんてされてたまるか!!!』
『……。』
ストライクはパックを破壊されても慌てることなく、右手のショーティーを捨てそのままそこからアンカーランチャーを発射する。
ガシャン!!
『がぁ……!』
それはケンプファーの頭部に直撃し、がっちりと動きを止める。そして左手のショーティーでケンプファーの装甲を半壊させる。
『くそっ!!』
カシェルは悪態をつきながら自爆スイッチを押し、転移魔法でコックピットから脱出する。

 

ドオォォォォォォォォォォン!!!!

 

『くっ……!』
ストライクは爆風に煽られながらその場で踏ん張り、それが収まると辺りを見回す。するとコックピットのスウェンの頭に、カシェルから念話が流れ込む。
(ふっ……ふふふふふ!さすがだよスウェン・カル・バヤン!ハングリー精神が半端じゃあない、でも次は……僕が勝つよ。)
『……その前に聞きたいことがある。はやてとヴィータは……。』
(赤い子は基地の中にいるよ、そして夜天の王は……あの女剣士と同じようにさせてもらった。)
『なっ……!?おい!!』
スウェンはカシェルに呼びかけるが、返事が返ってくることはなかった。
そしてスウェンはレーダーを操作し、アプサラスと闘っているルナ達の反応を捕える。
『クッ!!』
スウェンは半壊したIWSPのブースターをふかし、急いでルナ達がいる方角へ飛び立っていった……。

 

そのころルナ達は膨大な火力を持つアプサラス相手に善戦していた。
『ステラ!あいつの目を引きつけて!』
『わかった!』
ステラは搭乗機のガイアを狼の姿をしたMA形態に変形させ、海上を走りまわりながら背中のビーム砲でアプサラスに牽制を繰り返す。
『これだけデカけりゃ当たるでしょ!!』
ルナはガナーウィザードのビーム砲にエネルギーを集中させ、それをアプサラスに向けて放つ。
するとアプサラスのビームコートはルナに攻撃された部分から薄くなってきていた。
『そこだ!!』
スティングはカオスの背に装着されている機動兵装ポットからビーム砲とミサイルを放ち、ビームコートが薄まった箇所にさらなる追撃を加える。
『とどめは……俺だぁー!!』
そしてアビスに乗るアウルが雄たけびを上げながら突撃し、槍型の武器ビームランスを突き刺し、そのままアプサラスの装甲ごとビームコートを切り裂いた。
『いよっし!観念しやがれ!』
アビスは胸部に装備されたカリドゥス複相ビーム砲の砲身を、アプサラスのコックピットに向ける。その時、
『やめろぉーーーーーー!!!!』
『『『『!!!!?』』』』
彼方から黒いMS……ストライクが飛来し、アプサラスを守るようにアビスの前に現れた。
『な……なんだよお前!!邪魔すんな!』
『ちょっとまてアウル!この黒いストライク、まさか……!』
『ネオが言っていたあの……!』
そう言ってスティング、アウル、ステラのMSはストライクを取り囲んだ。その後継を見て、ルナはあわてて声を掛ける。
『ちょ!今はそんな事している場合じゃ……!』
『ルナ、ちょっとさがってて、このMSは……。』
『連合の基地を何度も襲っているテロリストなんだよ。』
『はあ!?』
ステラとスティングの言葉に、ルナは声をあげて驚く。

 

だがストライクは囲まれていることを意に返さず、アプサラスのコックピット部分の装甲をはがし始めた。
『おいお前!一体なに……を……!?』
その時アウルは、アプサラスのコックピット部分を映し出しているモニターに、信じられないものが写りこんでいることに気づく。
『お……女の子!?』
アプサラスのコックピットには裸で幾つもの管のようなものに巻かれ、力なくぐったりしている栗毛色の髪をした女の子がいた。
『な、なんだこれ……。』
その時アウルは、ストライクから流れる叫び声を聞いた。
『はやて……!!はやてぇーーーーーーー!!!!!!』
(はやて……!?)

 

バシュー……ン
その時、上空からビームが放たれ、それはアプサラスにとりついていたストライクの、背面に装着された半壊したIWSPを貫いた。
ガクンッ
『うおお……!!!?』
空を飛ぶ術を失ったストライクはそのまま海へ真っ逆さまに落ちて行った。
『あれは!?』
ルナ達はビームが放たれた方角を見る、そこにはゆうに10機以上はあるケンプファーの大軍が魔方陣から召喚されていた。
『おいおい!援軍かよ!』
『あ!アプサラスが……!』
そのうち3機ほどのケンプファーは半壊したアプサラスに取りつき、それを魔方陣のところまで運んでそのまま一緒に転送されていった。
『いっちゃった……。』
『おい!来るぞ!』
そして残ったケンプファーは一斉にルナ達に襲いかかってきた。
『アウル!行くよ!』
『す、ステラ……わかった。』
アウルは海に落ちて行ったストライクを気にしながら、ケンプファーの大軍にスティング達と共に向かっていった。

 

そのころ半壊したミネルバが浮遊する空域では、なのはを抱えたシンと、操られたフェイトとの激しい魔法合戦が繰り広げられていた。
「はああああ!!!!」
ガキィン!
「こなくそー!」
二刀の剣に変形したバルディッシュの斬撃を、シンはアロンダイトを片手で受ける。
「ぐぁ……!なのは重ぇ!!クソ!目を覚ませフェイト!」
シンは徹底的に不利な状況に顔をしかめながら、フェイトに語りかける。だが彼女は聞く耳持たず、シンに次々と切りかかる。
「あああああ!!!!」
「ぐっ……!なのはをどこかに降ろさないと……!」
「私を忘れないでねー♪」
「!!!?」
そのときシンの死角になるところからアリシアが現れ、彼の脇腹にミドルキックをお見舞いする。
「うわぁーーーー!!!?」
シンはそのままなのはもろともミネルバへ吹き飛ばされていった。

 

「おお、ちょうど格納庫あたりに吹っ飛んだわね、行くわよ粗悪品。」
「はい……。」
そしてアリシアとフェイトはシンを追ってミネルバのMS発進口に入って行った…。

 

そのころ格納庫では……。
「いつつ……!」
「……。」
シンがなのはを庇うように抱えたままシーツに包まった機材に打ちつけられていた。
「な、なんだなんだ!?」
「シンと女の子が吹き飛んできたぞ!?」
「シンさん!」
そこにヨウランやヴィーノを始めとした整備班、そしてキャロとフリードが駆け寄ってきた。
「ちょ、ちょうどよかった……ヨウラン、ヴィーノ、なのはを医務室に連れて行ってくれ……。」
シンはそう言いながら起き上り、気を失っているなのはをヴィーノに預けた。
「あ、ああわかった、お前も早く……。」
「いや……俺はフェイト達を止めなきゃ。」
そう言ってアロンダイトを構えたその時、シンの右腋の下の部分にとてつもない激痛が走った。
(ぐっ……!さっきなのはをかばった時肋骨を……!)

 

その時格納庫の壁が豪快に破壊され、そこからフェイトとアリシアが出てきた。
「なんなのよこの船!発進口が入り組みすぎ!!」
「……。」
「な、何だあの子達……!?」
「フェイトさん!!」
その時、フェイトの姿に気付いたキャロが、ヨウランの制止も聞かず彼女の元に駆け寄って行く。
「あ!キャロ!」
「ん?なにこのガキ?」
「えええ!?フェイトさんが二人……!?」
キャロは隣にいたアリシアに気付き、フェイトと瓜二つなことに驚いた。
「……!!!」
アリシアはそのキャロの言葉にぴくりと反応し、近付いてきた彼女の胸倉を片手で掴んで持ち上げる。
「きゃあ!!」
「キャロ!!」
「やめろアリシア!!」
「うるさい!!このガキ……!人のコンプレックスを!!」

 

「クソ!!」
シンは背中の翼を広げ、一気にアリシア達との距離を縮める。だが……。
「させない。」
ガキイィィィン!!
「くっ!」
フェイトによって行く手を阻まれてしまった。
「やめろフェイト!!キャロが危ないんだぞ!!!」
「うるさい。」
「あはははは!!!いくら呼びかけたって無駄無駄!!とっとと殺し合いなさい!」
アリシアはキャロを掴みながら戦っているシンとフェイトの姿を見てゲラゲラ笑う。その時、
「隙ありだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「こんちくしょぉぉぉぉぉ!!!!」
「キュクルー!!!(怒)」
「な……!?」
アリシアの背後からなのはを医療班に預けて来たヨウランとヴィーノ、そしてキャロをいじめられて怒り心頭のフリードが彼女に飛びかかって来た。
「うおおおお!!!キバってぇ……!!行くぜー!!」
ふにゃん
「きゃあああああ!!?どこ触ってんのよーーー!!?」
「キュクル!!キュクル!!!」
「痛い痛い!!突っつくなこのトカゲ!!」
フリード達の襲撃にアリシアは思わずキャロを放す。
「げほげほ!!よ、ヨウランさん!ヴィーノさん!」
「キャロちゃん逃げろ!!ここは俺達に任せて……!!」
「私の足に触んな!!」
げしげし
「うげ!!」
ヴィーノはアリシアの足にへばりついてそのまま踏まれながら、キャロに逃げるように促す。
「うおおおお!!俺達もキャロちゃんを助けるぞー!!」
「モブキャラなめんなー!!!」
すると次々とミネルバの整備兵達がアリシアに突撃していった。
「よ、よってたかって女の子フルボッコ!?なんて奴ら!!」
アリシアはヨウランとヴィーノに掴まれながら整備兵達から逃げるように走りだした。
そしてヨウランが、アリシアの体を掴みながらシンに向かって叫ぶ。
「いまだシン!!フェイトちゃんの目を覚まさせるんだ!!」
「みんな……ありがとう!」
シンは一旦フェイトから距離を取って、翼を広げて残像を残しながらフェイトにアロンダイトで切りかかる。
「……!」
フェイトも負けじとライオットザンバー・スティンガーを構え、シンに向かって突撃して行く。
「うおおおお!!!!」
「はああああ!!!!」
格納庫内で繰り広げられる雷光と神速のぶつかり合い。
「ぜ、全然見えない……。」
物陰に隠れていたキャロはその光景を見て呆然とする。そして二人の戦いは格納庫に収容されていたMSの予備パーツや、作業用の機材を次々と破壊していった。
その光景を見て、アリシアを追いかけていたマッドが悲痛な叫びを上げる。
「うおおおおい!!シン!もうちょっとうまく戦え!!」
「無茶言わないでください!!!」

 

シンはフェイトと闘いながら思考を巡らせていた。
(くそ……ろっ骨折れてるな……利き腕のほうだからなのはと同じ方法は通用しない……!マジで参ったなこれ……!)
「はぁ!!」
シンはろっ骨の痛みに耐えながら、振り下ろされたフェイトの斬撃をアロンダイトで受ける。
「こんのぉ……いい加減にしろ!!!」
ブォン!!
「!!!」
シンはそのままアロンダイトを振りあげ、フェイトを吹き飛ばし尻もちをつかせる。
「とりゃあああああ!!!」
そして彼女に覆いかぶさるように飛び付き、両手を自分の両手でつかむ。
「捕まえたぞフェイト!!さあ……!!どうすればいいんだ?」
シンはフェイトの動きを止めることには成功するが、その後どうするかは考えていなかった。
「ぐっ……!この……!!」
「あ、暴れるな!!これ以上ここ壊したら怒られるだろ!!……ってこれ……。」
その時シンはある事に気付いた。
「なんかこれ……無理やり押し倒しているみたいだ……。」
「ぎ……!!くぅぅう!」
ふと、シンは視点を下に向ける、そこにはスピードを重視して防御を無視した薄っぺらいバリアジャケットに包まれた、健康的に成長した16歳のフェイトの体があった。
「い、イカン!!こんな時になに考えているんだ俺は!!?///」
ドカーン!!
「うお!?」
その時、シンは横から襲いかかって来た爆風に吹き飛ばされてしまう。
「たく……何乳繰り合ってんの?この変態!!」
そこには衣服を盛大に乱しながらジャガイモのようにボコボコの顔にされたヨウランとヴィーノを両わきに抱えたアリシアがいた。
「しゅまんシン……。」
「あんまもたなかった……。」
「いや、お前等よくやったよ……。」
シンは体を起こしながらアリシアに向き合う。アリシアは怒り心頭といった感じでシンを睨みつけていた。
「マジでムカついた……!!こうなったら本気でアンタをバラバラにしてあげるわ!!」
そういってアリシアはヨウランとヴィーノをポイッと捨て、ポケットから血の色を連想させるような宝石が付いたネックレスを取り出し、それを天高く突き上げる。
「“ブラッドエンド”……シザーフォーム!」
するとアリシアの体が光に包まれ、それが収まるとそこにはフェイトのソニックフォームよりも露出の多い、背中と胸の谷間が露出しているポニーテールのアリシアが、両手に1mはありそうな銀色の爪を装備して佇んでいた。
「さあ……、貴方の血をこの子に吸わせて頂戴!」

 

「はああああ!!!!」
するとシンとは別方向に飛ばされていたフェイトがシンに襲いかかる、それと同時にアリシアもシンに向かって切りかかって来た。
「うお!?」
シンはアリシアとフェイトの同時攻撃を二本のフラッシュエッジで防ぐ。
「そらそら!!さっさと切り裂かれろ!!」
「たぁー!!」
「ぐっ……!くそっ!」
シンはアリシアとフェイトの同時攻撃に四苦八苦する、そのとき彼の怪我をしている脇腹に電流が流れたような痛みが走る。
「がぁ……!」
「ふーん、そこ怪我しているんだ。」
アリシアはシンの状態に気付き、彼の怪我をしたほうの脇腹に鋭いミドルキックをお見舞いする。
「いっ……でぇーーー!!!?」
シンはあまりの激痛に悲鳴にも似た声を上げる、そのスキをアリシアは見逃さなかった。
「さあ見せてあげるわ!私の必殺技!」
アリシアはそう言ってシンの顎にバク転で勢いを付けた蹴りをお見舞いし、彼を宙に浮かせる。
「はあ!」
アリシアはそのまま飛び上り、すれ違いざまにシンを爪で切りつける。
ズバッ!
「ぐあ……!!」
「まだまだぁ!!」
アリシアはそのまま壁を蹴ってシンのところに飛び、再びすれ違いざまに切りつける。
それをほんの刹那の内に何十回も繰り返し、シンの体をズタズタにしていく。
「うぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「あっはははははははは!!!!その悲鳴最高……!!もうゾクゾクしてきた!」
そして力なく宙を浮くシンの上に飛んだアリシアは、そのまま天井を腕で押して高速で彼目がけて落下し、ものすごい勢いでシンを床に踏みつけた。
ズズー……ン
そのあまりの衝撃に、ミネルバは大きく揺れる。
「し…シンーーー!!!」
「あ、ありゃ死んだだろ……。」
その光景を見ていたヴィーノとヨウランは思わずその光景から目をそむけた。
「うふふふ……お母さんやったよ……!仇はとったよ!」
アリシアはシンを踏みつけたまま、プレシアを想い目に涙を浮かべていた。そのとき、
「どいてください!!」
「きゃ!?」
突然後ろからキャロが現れ、アリシアを突き飛ばし、うめき声を上げているシンに駆け寄った。
「シンさん!!シンさん!!」
「う……ぐ……!いてえ……!」
「ひ、ひどい怪我……!」
そう言ってキャロは両手に魔力を貯め、覚えたてで未熟な治癒魔法をシンに掛ける。
その光景を見て、アリシアは体を起こしながらキャロの行動を鼻で笑う。
「そんな奴助けてなんになるっていうの?アンタそいつのこと好きなの?」
そのアリシアの問いかけに、キャロは凛とした表情で答える。
「この人は……私の大切な人の……大切な人なんです!!もしこの人になにかあったら……そこにいるフェイトさんが悲しみます!!」
「……!」
キャロは黙って佇んでいるフェイトを見ながら、アリシアに言い放った。するとアリシアの表情がみるみると怒りで赤くなっていく。
「なんでよ……!なんで母さんを殺したこいつらが!!こんなに沢山の奴らに慕われているのよ!!?」
「私は……2人に昔なにがあったのか詳しくは知りません……でもこの二人は貴方のお母さんを助けられなかったことをずっと悔やんでいて……悲しんでいました!だからもう……!二人を許してあげて!!」
キャロは涙を流しながらアリシアに訴える、その涙は、倒れているシンの頬に滴り落ちた。

 

「う……うるさぁーい!!!」
キャロの言葉にどこにむければいいか分からない怒りに苛まれたアリシアは、そのまま彼女との距離を縮め思いきり蹴飛ばす。
「きゃ!!」
「あんたに何が解るの!?私がこれまでどんな思いで生きて来たか!!?当事者じゃないあんたになにが解るっていうのよぉぉぉぉ!!!?」
「う……。」
キャロは蹴飛ばされた痛みに耐えながら、それでもなおアリシアに必死に語りかける。
「私は家族に捨てられました……、だからもう……私みたいに家族に拒絶されるような人、見たくないんです……!」
「……!!!」
アリシアは完全に頭に血がのぼり、キャロの胸倉を爪をしまった右手でつかみ、左手に装備した爪をキャロの首筋に押し当てる。
「そんなに見たくないなら……永遠に見れないようにしてあげるわ!!」
「!!!」
そしてアリシアの狂刃がキャロの喉元に突き刺されようとしていたその時だった。
「ギュアアア!!!」
「きゃあ!?」
フリードがアリシアに襲いかかり、キャロを助けだした。
「ギュアアア!!!ギュアアア!!!」
「このトカゲ……!!また!」
「げほっ!げほっ!……フリード……!?」
そのときキャロは、フリードの鳴き声がいつもと違う事に気付き、倒れているヨウランやヴィーノ達に向かって叫んだ。
「み……皆さんにげてください!!!早く!!!」
「キャ、キャロ?」
「な、なにいきなり……?」
周りの人間はキャロが何を言っているか分からずただただうろたえていた。
「ギュアアアアアアアア!!!!」
「フリードやめて!!私は大丈夫だから!!!」
そのとき、フリードの全身が光に包まれて……。

 

同時刻、ミネルバブリッジ。
「格納庫の状況はどうなっているの!?」
「解りません……!カメラが何かの拍子で壊れたみたいで……整備班の人達とも連絡が付かないんです!!」
「くっ……だれか様子を見に……!」
「わ、私は嫌ですよ!?」
ズズー……ン
「きゃあ!?」
「うわ!また揺れた!」
「一体何なのよ!!もう!!」
その時、カメラの機能が回復したのか、メイリンがモニタリングしていた画面が格納庫の様子を映し出していた。
「あ!艦長!格納庫のモニターが回復……し……。」
その時メイリンは、モニターに信じられないものが映し出され、思わず言葉を失う。
「ど、どうしたメイリン?早く報告を……。」
「ど……どうして……フリードが……!」
「フリード?」
メイリンの言葉が気になったタリアは、モニターを自分で操作し大きめのスクリーンに出してみた。
「な……!?」
「なんじゃこりゃああああ!!!!?」
スクリーンには、体長十メートルはある白い竜が格納庫で大暴れしていた。

 

「な、なによこれえええ!!!?」
アリシアは混乱していた、突然あのフリードが10mほどに巨大化し、大暴れしながら自分に襲いかかって来た。
「フリードやめて!フリード!」
「キャロちゃん危ない!」
「こ、ここから逃げるぞ!!」
フリードを止めようとしているキャロをヴィーノは必死で止めながら、大けがをしているシンを肩で担いだヨウランと一緒に逃げようとする、その時、
「ヨウ……ラン……。」
気絶していたシンがうっすらと目を覚ました。
「喋るなよ!お前いつ死んでもおかしくないんだぞ!?」
「フェイトは……!?アリシアは……?」
「か、彼女達は……。」

 

「くっ!フェイト!」
アリシアはフェイトに凶暴化したフリードを止めるよう指示する。
「はっ!」
フェイトはフリードの両足にバインドを試みるが……。
「ギャオオオオオ!!!!」
ブチィ!
いとも簡単に引きちぎられた。そしてフリードは隣にあった予備のチェストフライヤーを見つけると、それをアリシア目がけて力いっぱいサッカーボールのように蹴る。
「あ……!やば……!」
アリシアは突然の事に身動きすることができなかった。そしてフリードによって蹴り飛ばされたチェストフライヤーは、轟音を立ててアリシアの居た場所を押しつぶした。
「あ、あれ?生きてる……!?」
だが、アリシアが横から飛びついて来た人物に庇われたことにより、それに押しつぶされることはなかった。
「あ……アンタ……!!」
「ぐ……う……!!」
アリシアを庇ったのは、彼女によって重傷を負わされたシンだった。
「な……なにしてんのよ!!私はアンタの敵なのよ!!仇に助けられたっ……て……!?」
そのときアリシアは、シンが両目から大粒の涙を流している事に気付いた。
「な、何泣いて……。」
「……ごめん……。」
「……!?」
シンは涙を流しながら、淡々とアリシアに謝罪の言葉を投げかけた。
「俺があの時……プレシアさんを止めていれば……!手を伸ばすことができていたら……!俺に力があったら……こんなことにならなかった……!君を……フェイトを悲しい目に会わせなくて済んだのに……!」
「………。」

 

「ギュアアア……!!!!」
そのとき、フリードが断末魔のような悲鳴をあげながら崩れるように倒れた。
「フェイト……!」
シンの視線の先にはライオットザンバー・スティンガーを持ったフェイトが、倒れているフリードの上に立っていた。
「くっ……!」
「ちょ!あんた!その怪我であいつに挑む気!!?死ぬ気なの!?」
アリシアの先程までの言動とは矛盾している言葉に、シンは小さく微笑みながら答えた。
「約束したから……守ってあげるって……。」
そしてシンは血まみれの体で、アロンダイトを構えながらフェイトに向き合った。

「…………。」
「懐かしいな、昔お前に魔法を教えてもらった時や、二人で模擬戦した時も、こうやってやり合ったっけ……。」
シンは昔を懐かしむように、返事は返ってこないと知りつつもフェイトに話しかける。

 

そして辺りは異様な静寂に包まれる。シンとフェイトはお互いの愛用の武器を構えながら、じりじりと互いの距離を詰めていく。

 

カタン。
静寂が支配した格納庫にどこからか物が倒れる音が響いた。
その音が合図になったのか、シンとフェイトは互いに弾かれるように飛びだした。

 

刹那、二つの人影が交差し、閃光が放たれる。立つ位置が変わったシンとフェイトは、しばらく武器を構えたまま動かなかった。

 

ボトッ

 

そのとき、シンは右手に持っていたアロンダイトを、“右手ごと”床に落とした。
「はは……は……フェイトは……強いなぁ……。」
シンは手首を切り落とされ血を噴き出している右腕を見つめながら、それまでの無茶が祟ってそのまま意識を失いうつ伏せに倒れてしまう。
「シン……さ……!」
「キャロちゃん!!見るんじゃない!!」
「ちっくしょおおお!!!!」
ヨウラン達はすぐさま倒れたシンの元に駆け寄る。その光景を、アリシアは口をパクパクさせながら見ていた。
「あ…………。」
一方フェイトは、倒れているシンと彼に必死に呼びかけるヴィーノを虚ろな目で見ていた。
「シン!シン!畜生!!こいつ脈弱まってる!!そんな怪我で無茶するから……!」
「い、医療班早く!こいつ死んじゃう!」
フェイトは血溜まりに沈むシンを見ながら口を開く。
「シ……ン……?(ドンッ)う!」
次の瞬間、フェイトの首筋のに重い衝撃が走り、彼女はそのまま気を失った。
「やれやれ危なかった……、ここで正気に戻られたらきついんですよ。」
「アンタ……!」
そこには突如現れた白髪のエメラルドグリーンの瞳の少年が、気絶したフェイトを抱えて立っていた。
「アリシア様お手柄ですよ、高町なのはとヴィータは奪われましたが、ミネルバを半壊状態まで追い込み、あまつさえ厄介なシン・アスカをここまで追い詰めたのですから。主も御喜びになられるでしょう。」
「え、ええ……。」
「あとはこちらで後始末をしておきます、貴女は撤退を。」
少年は気絶したフェイトをアリシアに渡す。
「わ、わかったわ……。」
そしてアリシアの足元に魔方陣が現れ、彼女はフェイトと共に何処かへ転移して行った。
「さて、と……。」
改めて少年は倒れているシンを一瞥し、周りにいたヨウラン達にバインドを掛ける。
「「うわっ!?」」
「きゃあ!!」
「ここで生かしておくと後々やっかいなんですよ、だから……ご退場願います、シン・アスカ。」
少年は手に緑色の輪っかを召喚し、それをシンの首に押し当てる。
「や……やめろぉー!!」
「やめてぇー!!」

 

少年はシンの首を刎ねようと輪っかを大きく振りあげる。その時、
「おおーっと!そこまでッス!」
何者かが少年の後頭部に拳銃のような武器を押し当てていた。
「ふふふ……まさか君がこんなタイミングで来るなんてね……。」
少年はその人物の事を知っているのか、フランクな態度で話しかける。
「アギトぉ!」
「おう!わかってるぜ!!」
そのとき、どこからかリインⅡのように体長30センチ程しかない赤い髪の少女が飛来し、ヨウラン達のバインドを解いていく。
「お、お前は……!?」
「なんだ!?リインの仲間か!?」
「んなこたあどうだっていいんだよ。それよりこいつを早く医者に見せないと……。」
「あ、ああ……。」
ヨウランとヴィーノはシンと彼の切り落とされた右手首を持って格納庫から出ていく。
「アギトはキャロちゃんを守っていてくださいッス。」
「よっしゃ!任せとけ!」

 

そして銃を向けていた、褐色の肌に黒い短めの髪、そしてリインⅡのバリアジャケットを黒くしたような12歳ほどの少年は、白髪の少年の前に立つ。
「……久しぶりだね、ノワール。」
「ああ、もう十年ぐらい振りッスかねえ……。“スターゲイザー”」
「“ッス”?なにその口癖?会わないうちに随分とキャラを変えたんだね。」
「いやあ、こっちのほうが女の子にモテモテなんすよ~♪」
まるで久しぶりに出会った友人同士の会話をするノワールとスターゲイザー。
「残念だったよ、君が我が主の誘いを断ったと聞いた時は……君なら僕たちの考えに賛同してくれると思っていたんだけどねえ。」
「はやて姉さん達を人質に取っておいてよく言うッスねぇ。」
「彼女達はデータ取りのために協力してもらっているにすぎない、事が終われば返してあげるよ?」
「彼女達の……“故郷”を破壊して……か?」
ふと、ノワールが持つ雰囲気が刃物のように鋭くなり、辺りの空気が冷たくなる。
「ノワール……、“デスティニー”も“フリーダム”も何も分かっていない。この世界をこんな風にしたのは……“二つの物語を繋げた”僕たちのせいでもあるんだよ?だったら責任をとるのが筋だろう?」
「責任?お前が戦っているのは“私怨”のためだろうが!!お前らがやろうとしていることは大体わかる……!一刻も早くこんなバカげたことはやめるんだ!」
「僕たちの夢を……!!!台無しにしたのは奴らだ!!奴らが余計な事をしなければ!血のバレンタインも!!エイプリルフールクライシスも!!あの戦争も起きなかった!!ジェネシスも作られることは……!僕達がユニウスセブンを隠さなかったらまた同じことが繰り返されたんだぞ!?」
「俺だってムカついてんだよ!!でもあそこには無関係のやつらのほうが多いだろうが!!」
「奴らは数多の世界を渡る術を持つが故に!!この“SEEDの世界”や他の“物語”を破壊する恐れがあるんだ!危険要素は少しでも多く潰すに限るだろ!」
「その為の“イクスヴェリア”か……!あんな死者を侮辱するようなものを持ち出して!!」
「あれは主が偶然トレディアと知り合って手に入れたものだ!」
「詭弁だぞそれは……!彼女の出番はまだ6年も先じゃないか!!!」
「いいじゃないか!どうせもうすぐあの世界は我が主達が滅ぼすんだ!奴らには当然の報いなんだよ!!」

 

ノワールとスターゲイザーの激しい言い争いに、キャロとアギトは圧倒されていた。
「あ、あの二人は一体何を話しているんですか?」
「さあ?私はあいつと会ってまだ日が浅いからなぁ。」

 

「はあ!はあ!話し合ってもラチが明かない……!なんなら戦って白黒つけてやろうか!?」
そう言ってノワールは銃型の装備、ショーティーの銃口をスターゲイザーに向ける。
「今日はやめておくよ……どうせならパートナーと一緒のほうがいいだろ……?まあ今度は右手以外も切り落としてやるけどね!!」
「やってみろよ……!俺は苦しめられたみんなの分、お前をボッコボコにしてやるけどね!!」
「ふはははは!楽しみにしているよ!!」
そしてノワールと壮絶な舌戦を繰り広げたスターゲイザーは、転移魔法でその場から消え去った。
「くそっ!!ムカつく!!!」
ポン!
その時、ノワールの体が間抜けな音と共に煙に包まれ、それが晴れると彼はアギトのように30センチほどの妖精のような姿になった。そしてぽかんとしているキャロとアギトに気づくと、バツが悪そうに頭を掻きながら彼女達の元に寄っていく。
「あ、あの……今の事……みんなには言わないで欲しいッス、オイラみんなに嫌われたくないッスから……。」
「はあ……わかりました……。」
「しょーがねーな、いつかちゃんと教えてくれよ?」
「あ、ありがとうッス~!」
そう言ってノワールはアギトに飛びついた。
「ぎゃー!!///変なとこ触んな!!///」
「はふ~ん♪すべすべおへそ~♪」
「な、なんなのこの子達……?」

 

その頃海上でケンプファーの大軍を全滅させたルナ達は、アークエンジェルから報告を受けていた。
『じゃあステラ達の言うとおり、基地のみんなは全員無事なんですね?』
『ええ、彼らの調べではMSは大量に盗まれていたけど、人的被害は0だそうよ。』
『よかった……ところでミネルバは?さっきから通信しようにも繋がらなくて……。』
その時、ルナのコックピットにミネルバのメイリンから通信が入る。
『お姉ちゃん……!お姉ちゃん……!』
『ど、どうしたのメイリン?泣いてるの?』
いつもと様子の違う妹を見て、ルナは一抹の不安を覚える。
『し……シンが……シンがぁ……!!』
『………!?』
そしてシンの名前を聞いたとたん、彼女の心臓はあまりの恐怖に止まりそうになっていた……。

 

そのころ海面に浮かぶストライクの上で、スウェンは被っていたヘルメットを思いっきり投げつける。
「くそっ!届かなかった……!はやて……!」
スウェンは歯が砕けんばかりにギリギリと歯を食いしばっていた。
「このままじゃ終わらないぞ……!時の方舟……!」

 

そんな光景を、遠くにある孤島から観察する一匹の薄茶毛色の猫とフードを被った一人の少女の姿があった。
「取り返したものもありましたが……失ったもののほうが多いようですね……。」
「……シンとスウェン、大丈夫かな……?」
「さあ?彼等を信じるしかないでしょう、私達は私達がするべきことをするだけです。」
「うん……。」
そう言いながら少女と猫はその場を去っていた。
その間際、少女は振り向いてスウェンのストライクを見る。
(二人とも、無事でいてね……。)
そして辺りに一陣の風が吹き、少女達の姿は完全に消えていた……。