魔動戦記ガンダムRF_11話

Last-modified: 2011-08-13 (土) 22:54:43

カーペンタリアの激戦から一時間後、アークエンジェルとミネルバはボロボロの船体を引き摺ってオーブに帰還していた。
『シン君の様子はどうですか……?』
タリアはブリッジでアークエンジェルのマリューから通信を受けていた。
「危険な状態みたいなの……一刻も早く病院に搬送しないと……今レイとルナマリアが彼に付いているわ、キラ君達のほうは?」
『こっちは大丈夫みたいです。二人とも軽傷で済んでいるみたいだし……ただフリーダムがめちゃくちゃに壊れてしまって……。』
「一人のエースと一機のエース機を失うなんて……奴らとんでもない戦力を持っているわね。」
『ええ、これからは厳しい戦いになりそうです……。』

 

そのころアークエンジェルの格納庫では、回収した黒いストライクを取り囲むネオ達連合軍から派遣された兵達の姿があった。
「な、なんですかこの騒ぎ……?」
そこにヴィータを医務室に預けて来たシャマルとザフィーラとリイン姉妹がやってくる。
「あ!シャマルさん!この中にはですねー、連合軍の基地にテロ行為を繰り返した凶悪犯が入っているかもしれないんですよー。」
シャマルの疑問に、アウルが得意げに説明し、スティングがそれに補足を加える。
「もしかしたらって話ですよ、似たようなMSなんてこの世界に沢山ありますからねー。」
「大丈夫です!!もし凶悪なテロリストだったら俺が守りますから!」
「勇ましいな……。」
ザフィーラはアウルに関心しながらストライクのコックピットを見る。
「一体どんな人が乗っているんでしょうね?」
「うん……。」
そしてストライクのコックピットが開かれ、そこから紫色のパイロットスーツとヘルメットに身を包んだ男が出て来た。
「連合のパイロットスーツだな……。」
「あ、降りてきたです。」
そのパイロットはワイヤーを使って地面に降り、ネオと対峙する。
「君の所属を教えてくれるか?ストライクのパイロット君?」
ネオの質問に、その男はヘルメットを取って答えた。」
「…………PMC所属の……。」
「「「「!!!!!!」」」」
その時、そのパイロットの素顔を見たシャマルとザフィーラ、そしてリイン姉妹は大きく目を見開く。
「え?どうしたんですかシャマルさん?」
「うそ……!?」
「い、いや!そんなバカな!」

 

「……?」
「お、おい!どこへ!?」
その時、男はシャマル達の姿に気付くと、ネオを押しのけ彼女達の元に駆け寄る。
「みんな……!」
その男は息を切らしながら、シャマル達の顔を一人一人見る。
一方のシャマル達は、その男の表情を見るや否や、彼の名前を一斉に叫ぶ。
「「「スウェン!!」」」

 

それから数十分後、オーブに帰って来たシャマル達は、スウェンを連れてオーブ軍の病院にやって来ていた。
「それにしてもびっくりしたわよ、貴方がMSに乗って来て……今まで一体何をしていたの?」
「ああ……お前達と別れた後、色んなところを旅して……前の大戦の時、エドモンド・デュクロって人に会ったんだ、それでその人に色々お世話になって、その人の勧めでPMCっていう民間軍事会社に所属していたんだ。」
「なるほど……ところでノワールはどこいったの?」
「あいつはミネルバに送った後……先にこっちに来ている筈だ。」
そしてスウェンはとある病室のドアを開け放つ、そこには病室のベッドで上半身を起こしたヴィータと、彼女の為にリンゴの皮を剥いている青年フォームのノワールと、向かいでベッドで眠っているとある女性がいた。
「え……!!!?」
その女性の姿を見て、シャマル達は本日何回目かの驚きの声を上げる。
「シグナム……!?」
「ん……?あ、お前達……。」
その女性、シグナムはシャマル達の姿を見ると、痛む体に顔をしかめながら上半身を起こした。
「ど、どうしてシグナムがここに……!?」
「実はオイラ達、ここに来る途中時の方舟に遭遇したんス、そこで操られたシグナム姐さんに襲われて……返り討ちのついでに助けだしたんッス。」
「そうだったのか……。」
「とにかく二人とも、無事でよかった……。」
「いいわけあるか……!」
「…………。」
シグナムとヴィータは悔しそうに唇を噛みしめていた。
「はやてもなのはもフェイトも助けだせないばかりか、敵にいいように操られて、お前達に刃を向けたんだぞ……!」
「こんな生き恥をさらすとは……なにがヴォルケンリッターの将だ……!」
二人は悔し涙を流しながら、ベッドに拳を叩きつけた。
「シグナム、ヴィータ……。」
「……。」
「あれ?リイン……?」
その時、シャマルはリインフォースの髪の毛に隠れているリインⅡに気付く。
「どうしたのリイン?かくれんぼ?」
「えと……その……。」
「リイン、スウェンとノワールに顔を見せてあげなさい。」
リインフォースはリインⅡの首根っこをヒョイと掴むと、スウェンとノワールの前に彼女を差し出す。
「あ、あのあの、その……。」
リインⅡは初めて会う家族にどうリアクションしていいか分からず、口籠っていた。
するとスウェンが、彼女の頭を優しく撫でた。
「初めましてだリイン、俺はスウェン・カル・バヤン、こっちは……。」
「ノワールッス!お仲間がまた増えて嬉しいッス!」
ノワールは変身を解いてリインⅡと同じ30センチ程の体長に戻り、ふよふよ浮いて彼女に近づく。
「は……はい!初めましてです!リインフォースツヴァイです!」
リインⅡは緊張しながらスウェンとノワールに自己紹介する。
「しかし……リインフォースと結構似ているな。」
「妹ができてうれしいッス!」
そしてシャマル、ザフィーラ、リインフォースは、改めてスウェン達に向き合う。
「スウェン、改めて……久しぶりだな。ノワールも……。」
「ほんと、なんだか大人になって……。」
「シグナムを助けてくれてありがとう。」
そんな彼等のお礼に、スウェンは少し微笑みながら答えた。
「当然のことをしたまでだ、“家族”だからな……。」

 

そのとき病室に、お見舞い品が入った籠をもったアギトが入って来た。
「おーいシグナム!ノワール!果物貰ってきたぞー!」
「おお、アギト……。」
「え?誰ですかこの子?」
「んー?」
アギトはリインⅡの姿に気付くと、凝視しながら彼女の周りをぐるぐると回り始めた。
「プッ!ちっさ!」
「な……!!?」
突然鼻で笑われ、リインⅡはプンプンと怒り始めた。
「いきなりなんですかアナタは!?そっちの方が小さいです!!」
「んだとー!?」
「はいはい、ストップッス。」
喧嘩を始めたリインⅡとアギトの間にノワールは間に入って手で制する。
ふにゅ ふにゅ
「の、ノワールさぁん……って!」
「どさくさに紛れて胸触んな!」
怒ったアギトはノワールに向けて手から炎を出す。
ボワッ!
「アチャー!!」
「わぁ!ノワールさんが黒こげですー!?」
「いいんだよ!こいつはこれぐらいやんないと!」

 

「スウェン、あの子は……?」
「あの子はアギト、ここに来る途中に偶然出会ってな……シグナムを助ける手助けをしてくれたんだ。」
「何故コズミックイラにユニゾンデバイスが……?」
「…………俺にもわからん、彼女は気付いた時には連合軍の基地で実験体として過していたが、そこの施設の子供達に逃がして貰ったらしい。」
「こいつ……苦労してるんだなぁ。」
一同はリインⅡとノワールとじゃれあうアギトを見て溜息を吐く。
(なんだあの赤いのは……ノワールとどういう関係だ?)
ただ一人、なにやら複雑な表情のリインフォースⅠを除いて……。

 

そして数分後、スウェンとノワールはシンが治療を受けている集中治療室にやって来た。
「………。」
治療室がある廊下にはルナ、レイ、メイリン、ヨウラン、ヴィーノ、アルフ(おとなフォーム)が神妙な面持ちで椅子に座っていた。
(うっわ~、なんかもうお通夜みたいな雰囲気ッス……。)
「君達、少しいいか?」
スウェンは一番近くにいたレイに話しかける。
「ん?貴方は確かストライクに乗っていた……?」
「スウェン・カル・バヤン、シンの昔の友人だった者だ、こっちはノワール。」
「こんちゃッス。」
「ふわ!?黒いリインだ!」
「スウェン……!ノワール……!」
アルフはスウェン達の姿に気付くと、真っ先に彼の元に駆け寄る。
「アルフ……相変わらずだな。」
「相変わらずナイスおっぱい。」
「ははは……ノワールも変わらないねぇ……。」
ノワールのボケにアルフは突っ込まず力なく笑うだけだった。
「シンの様子は……?」
「……今、ちょんぎれた右手を繋げているって、でも怪我の度合がひどすぎて……意識も戻らなくて……いつ…いつ死んでもおかしく……ううううっ!!」
アルフは我慢できずに膝をついて泣き始めた。その様子を見て、メイリンとヨウランとヴィーノが憤る。
「ひどいよこんなの……!なんでシンがこんな目に遭わなきゃいけないの……!」
「あのアリシアって女……!フェイトちゃんを使って手負いのシンを笑いながらボコボコにしてやがったんだ……!くっそ!許せねえ……!」
「でもどうして……あの時シンはフリードからその子を守ったんだろ?」
「…………。」
ヴィーノの言葉を聞いてスウェンは少し考え込む。
「私……私だけでもミネルバに残っていれば……シンをこんな目に遭わせなかったのに……!」
悔し泣きで顔を濡らすアルフを、ルナは優しく励ます。
「アルフ……もう泣くんじゃないわよ、アンタが泣いていたらアイツも悲しむだろうからさ。」
そのルナの様子を見て、ノワールは関心したように両腕を組んでうんうんと頷く。
「うーん、あの子気丈ッスね。」
「いや、俺にはあの子が一番無理をしていると思えるがな。」
そしてスウェンは治療室の中が見える窓から、ベッドに寝かされて治療を受けているシンを見る。
シンは呼吸器を付け輸血を受けながら、切り落とされた右手の接合手術を受けていた。
「シン……。」
スウェンは痛々しいシンの姿を心配そうに見つめる。
(シン……すまない、俺がもっと早く駆け付けていれば……。)
そしてスウェンは、一枚の写真をポケットの中から取り出す。それはシンがコックピットに飾っておいたものを焼きまわししたものだった。
(しばらくゆっくり休んでいろ、フェイト達は絶対俺達が助けてやるから……。)

 

一方その頃、アークエンジェルのMS格納庫では、カシェルによって大破させられてしまったフリーダムを見上げるキラとラクスの姿があった。
「ごめんラクス……フリーダムを……。」
「いえ、いいのです、キラが無事戻ってきてくれただけでも、私はうれしいのですから。」
「ありがとう……。」
キラはフリーダムを見上げながら、先ほどカシェルに言われた言葉を思い返していた。
『この世界にとって存在自体害悪のあんた達はここで俺にそれ相応の処罰を下されるんだ。』
(彼は……僕がスーパーコーディネイターだということを知っているのか?それとも……。)
そんな思い悩むキラを見て、ラクスは彼の前に立って手を握る。
「キラ……元気がございませんわね、ならわたくしが元気になる魔法をかけて差し上げますわ。」
「ラクス……。」
ラクスはキラの手を握りながら、何かを念じるように瞳を閉じる。
「キラが……元気になりますように……。」
そんな彼女の様子を見て、キラはクスリと笑う。
「ありがとうラクス……ちょっと元気が出てきた。」
「それは良かったですわ。キラの元気がないと……わたくしも辛いですから……。」
そして二人は、2年前の思い出話を始めた。
「あの時も……君はそうやって僕を慰めてくれたよね。」
「わたくし達が初めて出会った時でしたわね、アークエンジェルで地球に向かっていた貴方達が、ユニウスセブンで漂流していたわたくしの漂流ポットを拾って頂いたときの……。」
二年前、ユニウスセブンで事故に遭い、敵軍であるアークエンジェルに保護されたラクスは、そこで初めてキラと運命的な出会いをはたしていた。
「僕がそこで悩んでいた時も……アスランと殺しあって君に保護された時も……いつも君はそうやって励ましてくれたよね、おかげで僕はそれで何度も立ち上がることができたんだ。」
「うふふふ……だってわたくしは“魔法使い”ですもの、キラを励ます魔法は心得ていますわ。」
「ふふ……いつも君はそういうよね、身近に本物の魔法使いがいるのに……。」
「わたくしは……キラだけの魔法使いですわ。」
「ラクス……。」
そして二人は、まわりに誰もいないことを確認して、お互いの唇を重ねあった。
(そう……わたくしはキラだけの魔法使い……でも……。)

 

その頃時の方舟のアジトでは、カーペンタリア基地から帰還したアリシアとスターゲイザーがある部屋に向かっていた。
「フェイトの洗脳が解けかかっているですって?」
「ええ……それで今、禁断症状が出始めたようで……八神はやてとは別の場所に移させました。」
そして二人は、フェイトが拘束されている部屋にやって来た。
部屋の中にはソニックフォームのままのフェイトが、部屋の片隅でガタガタと震えていた。
「う……!あぁ……!」
「何アレ?あの粗悪品どうしたの?」
「どうやらゆりかごの副作用のようですね。彼女には幻覚が見えているようです。」
「えー?あれって改良したんじゃなかったの?まったく雑な仕事するわねー。」
「この副作用は主が彼女達が奪い返された場合を想定して残しておいたものです。」
「ああ、なるほど……。」
そしてアリシアは怯えるフェイトに近寄って行く。
「うふふふふ♪いい気味ね、一体何が見えているっていうの?」
「…………!!!!」
その時、フェイトはアリシアの姿を見るや否や、大きな悲鳴を上げる。
「いっ……!嫌あぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「うわ!?なによいきなり!!?」
「ご、ごめんなさい母さん!私ちゃんとやるから……だから叩かないで!痛くしないでぇ!」
「!!!!」
その泣き叫ぶフェイトの様子を見て、スターゲイザーはやっぱりといった顔になる。
「どうやら彼女は……トラウマを引き起こしているようです。プレシアに虐待されていたあのころを……、彼女の目の前にはまぼろしのプレシアがいるんでしょうね。」
その時、アリシアはフェイトの胸倉を乱暴に掴み、ポケットに入れていたスタンガンの電源を入れ、彼女の腹に押し当てた。
バリバリバリ!
「うっ……!」
フェイトはそのまま壁に凭れかかる様に倒れた。
「少し乱暴じゃないですか?」
するとアリシアは鬼の形相でスターゲイザーを睨む。
「この粗悪品はねぇ……!お母さんを死なせたばかりか!!悪魔扱いしてんのよ!!?これでもまだ足りないぐらいだわ!!」
そう言ってアリシアは不愉快そうに部屋から出て、ドアを乱暴に閉める。
「やれやれ……思い出の中の美しい母親の像を壊したくないからって、事実から目を背けるのもどうかと思いますけどね……。」
そしてスターゲイザーは気絶しているフェイトに歩みより、彼女の顔を覗き込む。
「う……。」
「まったく、可愛そうに……本来なら貴女はこんなひどい思いをせずにすんだはずなのに、全くもって申し訳ない事をしました。」
スターゲイザーはフェイトの頬を撫でながら、彼女の顔に付いた泥を取ってあげる。
「しかし貴女は美しい……あの女と同じ顔、同じ遺伝子とは思えないほどに……やはり環境の違いですかねぇ。」
スターゲイザーはフェイトの顎を持ち上げ、その瞳を見る。フェイトの瞳は光のない紅に染まっていた。
「んっ……。」
「やはり貴女は……“植え付けられて”いr(スコーン!)おご!?」
その時スターゲイザーの脳天に、カシェルの鋭いかかと落としが炸裂した。
「ちょ!痛い!シャレにならないぐらい痛い!」
「お前は……何捕虜にセクハラしてんだ?」
「いたたた……!ご、誤解ですって!私はただ彼女の瞳が綺麗だなーって思って……!第一貴方が望んでいる展開は作者の技量的に無理ですし!このSSは全年齢対象です!えっちなのはいけないと思います!いけなくはないけど!!」
「はあ……わかったわかった、とにかくお前はアレの準備に取り掛かれ、もう直ぐ時間だろ?」
「はい……了解しました。」
スターゲイザーは脳天をさすりながらその場を去り、部屋にはカシェルとフェイトしかいなかった。
「…………。」
「ごめんなさい……ごめんなさい……かあさん……。」
フェイトは消え入りそうな声で何度も何度も呟いていた。
そしてカシェルは、何も言わずにフェイトに治癒魔法を掛けた。
「ごめ……さ……。」
その心地よい光を当てられ、フェイトは心地よく眠る様に気を失った。
「…………アンタも……親の為に必死だったんだな……。」
そこに、バイザーを付けた長身の女が二人入って来た。
「マリアージュ、彼女を研究室へ……もう一度ゆりかごに入れる。
「「かしこまりました」」
二体のマリアージュはフェイトの腕を持ち、彼女を研究室へ連れて行った。その光景をカシェルはジッと見ていた。
「……。」
その仮面の奥には、何色か分からない瞳が決意と覚悟の光を放っていた。

 

高町なのはは戦場にいた、あたりには仲間達の屍が転がっており、彼女は近くにいたフェイトの屍を抱え上げる。
「フェイトちゃん……!フェイトちゃん!」
必死に呼びかけるが返事がない。なのはは周りの仲間達にも必死で呼びかける。
「はやてちゃん!ヴィータちゃん!シグナムさん!シャマルさん!ザフィーラさん!」
返事は返ってこない、なのはは目に悔し涙を浮かべて、天に向かって叫んだ。
「どうして……!どうして私は何も守れないの!?どうして!!?」
『それは……君の翼が折れているからだよ。』
「!!!?」
突然背後から話しかけられ、なのはは後ろを振り向く、そこには……。
「わ……私!?」
9歳の頃の姿のなのはがいた。
「翼……!?」
『背中を見て、貴方の翼は……。』
なのはは恐る恐る自分自身の背中を覗き込む、そこには血で赤く染まった折れた天使の翼があった。
「あ……!あ……!」
『翼があっても飛べないのなら……あなたは戦えない、あの大好きな青空へ行くことも出来ない、何もかも守れない。』
「やめて……!やめてぇ……!」
『魔法が使えない貴女は……何の価値もないの。』
そのナイフのような一言に、なのはの心は貫かれてしまった。

 

「いっ……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「うわっ!!?」
「はぁっ!はあっ!……あ、あれ?ここは……?」
気が付くとなのはは汗だくでアースラの医務室のベッドで寝かされていた。
「なのは……!気が付いたんだ!よかった~!」
「ユーノ……くん……?私、一体今まで何を……?」
「それは……。」
そしてユーノは、これまでの出来事と今の状況をなのはに説明する。
「お母さん達やアリサちゃん達が人質に……!?」
「うん、それで皆必死に捜査しているんだ、コズミックイラの人達も協力してくれている。」
「そ、そうだったんだ……ごめんね、迷惑かけちゃって……シン君は?」
「うん……それがどうも危ないらしい、で、でも大丈夫だよ!彼の事だからケロッとした顔で戻ってくるよ!」
「…………。」
ユーノの励ましの言葉を、なのはは全然聞いていなかった。
なのはは自分だけでなく仲間達を洗脳してコズミックイラの人々を襲わせただけでなく、自分の家族や友人達を人質にとり、シンを重体に追い込んだ時の方舟に激しい怒りを感じていた。
「なんで……!?なんでこんなひどい事を……!許せない……!」
「僕等も同じ想いだよ、だから後は任せて……。」
「ううん!私も戦うよ!もう平気だから!」
そう言ってなのはは置いてあったレイジングハートを手に持つ。
「みんなを守りたいの……力を貸してね、レイジングハート。」
『…………』
「レイジングハート?」
なのはは返事が返ってこないレイジングハートを不思議そうに見つめる。そんな彼女を見て、ユーノはとてもバツが悪そうに話した。
「なのは……落ち着いて聞いてほしい。」

 

「なのはのリンカーコアが消えた?」
一方アースラに報告にきたスウェンとノワールは、シャリーとグリフィスからなのはの今の状態を聞いていた。
「ええ、時の方舟に洗脳されたことが原因で、リンカーコアが大きく傷ついたらしいんです。修復の見込みも……。」
「そんな……。」
シャーリーはメガネを取り、嗚咽を漏らしながら涙を流していた。
「なのはさん……最近やっと飛べるようになったのに、こんな事になるなんて……!」
「……なのはになにかあったのか?」
「なのはさん……五年前に任務中に事故にあって、魔法どころか二度と歩けなくなるかもしれない大けがを負ったんです……それでも最近、やっと体を治して復帰できたのに……!まさかこんなことになるなんて……!」
「シャーリー……。」
シャーリーを励ますグリフィスの様子を、スウェンとノワールは複雑そうな顔で見ていた。
「7年の間、皆にもいろんなことがあったんだな……ノワール?どうした?」
スウェンはその時、怒り心頭といった表情のノワールに気付く。
「え?あ!はい?なんッスか?」
「一体どうしたんだ?鬼みたいな顔だったぞ?」
「き……気のせいッスよ~!」
と、そんな彼等の元に、クロノがやってくる。
「スウェン……少しいいか?君が持って来てくれたデータについて、アスハ代表達が君の話を聞きたいらしいんだ。」
「……わかった、ノワールはここで待ってろ。」
「へーい。」

 

そしてカガリ達が待つ会議室に向かう道中、スウェンとクロノは他愛のない会話をしていた。
「何!?お前エイミィと結婚したのか……!?」
「あ、ああ……シンには言いそびれてしまっていたんだけどね……。」
「そうか……おめでとう、今度お祝いの品を送らせてもらう。」
「フェイト達を無事助け出してこの事件を解決したらな。」
そして二人はカガリ達の待つ会議室にやってくる。
「皆さん、スウェン・カル・バヤンをお連れし……!?」
その時クロノとスウェンは、会議室のスクリーンに時の方舟の首領が映っている事に気付く。
「代表、これは!?」
「クロノ提督か、つい先ほど時の方舟から全世界に通達が入ったんだ、今始まるぞ。」
会議室にいた全員がそのスクリーンに釘付けになる。

 

『皆さんお久しぶりです。我々は時の方舟……今日は先日お話した全世界のMSの納入期限をお伝えにまいりました。』

 

「これが……時の方舟の首領……。」
その場に同席していたアリューゼが、ポツリと言葉を漏らす。

 

『今日は8月の24日、それから40日後の10月2日に我々は連合軍基地のヘブンズベースに現れます。あなた方は我々が先日指定した通り、全世界のMSをそこに運んでおいてください。我々がそれをすべて運び出した後、人質はすべて返還させていただきます。』

 

「うーん、相変わらず無茶苦茶なことを言っているねぇ。」
「そんな事……ほぼ不可能なのに……。」

 

『なお……反抗的な態度はとらないほうがよろしいかと……我々はあなた方の軍と十分渡り合える戦力を保有しておりますので……。』

 

「か、艦長!この人我々を挑発していますよ!?」
「ちょっと静かにして!」

 

『今……その証拠をお見せ致します。』
すると画面が切り替わり、カーペンタリア基地がケンプファーやアプサラス、そして白いバリアジャケットを着た魔導士によって攻撃されている光景が映し出されていた。

 

「これは……なのはか。」
「なるほど、彼女の破壊力なら宣伝効果抜群だろうな。」

 

そして再び画面が切り替わり、仮面を付けた時の方舟の首領が写し出された。
『このように……カーペンタリアの二の舞にされたくなかったら、反抗的な態度はとらないほうがよろしいかと……カーペンタリアの兵の命は奪わずに済みましたが、次もうまくいくとは限りません、一つしかない命、大事にしてください。それでは今日はこのへんで……。』

 

そしてスクリーンはノイズしか映らなくなっていた。
「うーん……これは……。」
「完全にこちらを舐めているねぇ。」
会議室で首領の演説を聞いていたカガリ達は皆一斉に口を開き、演説に対して憤りの声を上げていた。

 

「スウェン……君はどう思う?」
クロノの問いに、スウェンはしばらく考え込んだ後に答えた。
「……全世界のMSを、一か月ちょっとで集めるなんてほぼ不可能だ、そんなこと向こうだって解っているだろう。」
「へえ、中々鋭いね。どういうことだい?」
スウェンの意見に興味をもったのか、会議室にいたアリューゼが話しかけてくる。
「彼等の目的は別にあるのかもしれません、例えば……この事件をきっかけに、コズミックイラ全人類を一つにしようとしているとか……。」
そのスウェンの言葉に、会議室にいた全員がハッとなる。
「おいおい!いくらなんでも夢物語すぎるだろ!?」
「そ、そうですよ!戦争は終わったとはいえ、ナチュラルとコーディネイターの仲はまだ……!」
「でも……現にこうして我々は、協力しあって、時の方舟に挑んでいる。」
バルドフェルドとアーサーの言葉を、カガリがぴしゃりと遮る。
「と、なると……私達は彼等の掌で踊らされているのね……。」
「まだそう決まった訳ではないですけど、でも……。」
「だからと言って、人を傷つけていいはずがない。なのは達もシンも……彼等に傷つけられたんだ。」
「「「「「……………。」」」」」
スウェンの言葉に、会議室はシンと静まり返る。そしてクロノの一言でその沈黙が破られた。
「だが……彼等はどれほどの戦力をもっているのだろうか、コズミックイラ全世界を敵に回すことがどれだけ骨が折れることか解っているだろうに。」
「彼等には……、キラ・ヤマトすら撃墜できるエースや、シグナム達を倒せる程の魔導士がいる、一人のエースの存在が戦局を左右するこのご時世、彼等には大きな強みになっているんだろうな。」
「だが彼等も人間だろう、人海戦術で攻められれば必ず……。」
クロノの言葉に、スウェンは首を横に振る。
「彼等には……コズミックイラ全人類を敵にしても対抗できる“手段”を持っています。」
「“手段”……?」
会議室にいた人間全員がスウェンに注目する。
「どういうこと……?まさかジェネシスみたいな……!?」
タリアの質問に、スウェンは首を横に振る。
「いや……それよりももっと……俺達コズミックイラの人間にとって因果応報、自業自得なものです。」
「……?」
全員がスウェンの動向に注目する中、彼はモニターを操作し、スクリーンにある赤い髪の少女の写真を映し出す。
「スウェン、この子は……?」
「この子は……。」
スウェンはその少女の名前を呼ぶのを少しためらい俯き、そして改めて顔を上げる。
「この子は……“イクスヴェリア”、古代ベルカのガレアの王、彼等はこの子を使って……コズミックイラに存在する“死体”を、すべて兵隊に変えることができるんです。」

 

その頃オーブ軍のMS格納庫では、ハイネ、アスラン、スティング、アウル、ステラが、カオス、アビス、ガイア、セイバーの前でミネルバ整備班長のマッドからある説明を受けていた。
「OSの書き換えができない?」
「ああ、無理やり書き換えたせいで修正するのにここの設備じゃ数か月掛っちまう、つまりこの三機はそこの連合軍の子達しか使えなくなっちまったんだ。」
「あははー……マジで?」
「後先考えずに行動に移すから……。」
「でもまあ、艦長はこの三機をそこの子達に任せるらしいけどな、今は連合と同盟してるし……。」
「へえ、じゃあこのMS、俺達の物になるのかー。」
「油断すんなよ、いい機体に乗っているからって戦果が挙げられるとは限らないからな。」
「ステラがんばる……シンの分も……。」
スティング達が自分の乗機となった機体の前で盛り上がっている一方、アスランとハイネは神妙な面持ちで話し始めた。
「このセイバーはエルスマン議長代行がお前にと……。」
「セイバー……。」
アスランは複雑な表情で、自分の乗機となるセイバーを見上げる。そんな彼の心情を察してか、ハイネはポンと肩を叩く。
「お前……時の方舟のエースに撃墜されたんだってな。」
「……ああ、“お前とは性根が違う”と言われてしまったよ……彼は知っていたんだ、前大戦、俺がザフトを……父を裏切ってラクス達と共に戦った事を……。」
「……俺はお前の事情はよく知らないが、お前は悩みに悩んで決断したんだろ?」
「俺自身はそうだ……でも他人から見たら俺は肉親を……ザフトを裏切った男に見えるのかもな。」
アスランは自嘲気味に笑う、その様子を見てハイネは彼の背中をバンッと叩く。
「いっ……!」
「割り切れよ……じゃないと死ぬぜ。悩んでばかりいるとハゲるぞ。」
「は、ははは……そんなに禿げてきてるか……?」

 

とそこに、ヴィータとシグナムを連れたリインⅡがやって来た。
「みなさーん♪ここがMS格納庫でーす♪」
「「………。」」
「おーいリイン、なにしてんだー?」
そこにリインの姿に気付いたスティング、アウル、ステラが彼女達に駆け寄って来た。
「……?リイン、この子達は?」
「この人達はステラちゃんにアウルさん、それにスティングさんです♪リインのお友達なのです♪」
「こんにちはー。」
「どうも!シャマルのご家族の方達ですね!」
「ところで何をしてたんだ?」
「実は……落ち込んでいる二人を元気づけようと、基地の中を案内してたです、ほんとはなのはさんも誘ったんですけど、断られちゃって……。」
「……手間をかけたな。」
「ごめんな……。」
シグナムとヴィータは覇気のない声でリインⅡに謝る。
(うわ……ジメジメしてんな……。)
(よほど屈辱だったんだな、時の方舟に操られたことが……。)
その時、リインⅡはあることに気付き、何かを探すように辺りをキョロキョロと見回す。
「?どうかしたの?リイン?」
「いえ……実はもう一人連れてきたんですけど、はぐれちゃったみたいで……。」

 

その時、リイン達もとにアギトが飛んでくる。
「わりーわりー!色々見てたらはぐれちまったよ!」
「もう!迷子になっても知りませんよ!アギトちゃん!」

 

そのアギトの姿を見て、スティング、アウル、ステラは目を丸くする。
「あ……!あ……!」
「う、うそだろ……!?」
「ん……?」
アギトもスティング達の姿に気付き、驚きの表情をあげる。
「えっ……!?な、なんで……!?」
するとステラがアギトの傍に駆け寄り、彼女の名前を呼んだ。
「アギト?アギトなの?」
「う……うんっ!お、お前まさか……ステラか!?後ろにいるのは……スティングにアウル!?」
「や、やっぱりアギトだ!!」
スティングとアウルもアギトのもとに駆け寄る。そしてステラは彼女を手で優しく抱きこんだ。
「アギト……!会いたかった、ステラうれしい……。」
「うん!私もだよぉ!まさかこんなところでお前達に会えるなんて!」
「アギト……アギトぉ……!」
ステラとアギトはお互い目に涙を浮かべながら抱きしめ合った。
「……?これはどういうことだ?リイン?」
「もしかして……ステラちゃんが言っていたアギトって……このアギトさんのことですか!?」
「そうだよ!すっげー偶然!奇跡だぜ!」
「ああ……こんなことあるんだな……。」

 

そんな感動の再会の場面を、ノワールが物陰で観察していた。
「やっぱり……俺達の知らないところでも、二つの物語が融合してきている……さて、どうしたものか。」

 

この小さな小さな再会が、絶望に彩られてきたこの物語に小さな光を差し込ませる。
それが何かが始まる前兆なのか、何かが崩壊していく前触れなのか、その“行方”は、まだ誰にもわからない……。

 
 

外伝