魔動戦記ガンダムRF_17話

Last-modified: 2011-08-13 (土) 23:01:39

どこまでもどこまでも真っ白な世界、そこに私はボロボロのソニックフォームのバリアジャケットを着たままひとりぼっちで佇んでいた。

 

ここは……どこだろう?もしかして夢の中?それとも死後の世界?

 

私は宛てもなく歩き始め、これまでに起こったことを頭の中で整理していた。

 

私は……アリシアに囚われて、操られて、それで……。

 

頭の中にアリシアの私に対する憎悪の表情が浮かぶ、当然だ……私は彼女のお母さんが死ぬ時、呑気に意識を失っていた。

 

ああ、恨まれるのも当然だ、私は母さんが死んだ時、彼に任せっきりでなにもしなかったんだから……。

 

ふと、私は自分の手を見る。その手には真っ赤な血がべっとりと付いていた。

 

そうだ……これはあの時、彼の腕を切り落とした時についた血だ。私は……彼を殺した。いや、もしかしたら生きているのかもしれない、でも……真っ当な人生は送れないだろう。
でもどうしてだろう?悲しい筈なのに涙が出てこない、いや……もしかしたらもう私は泣いていて、涙が枯れ果てているのかもしれない。彼には私と違って本当の家族がいたのに、私と別れた7年間で新しい友達を作っていたかもしれないのに、私は彼の人生を滅茶苦茶にしてしまった。
そもそも……母さんが彼を攫ったりしなければ、私と出会わなければ彼をあんな不幸な目に逢わせずにすんだかもしれない。
私はなんて厄病神なんだろう、彼も、母さんも、友達も、何もかも救えない。私のせいでみんなまでアリシアに恨まれて、悲しい思いをしている。
私が生きている意味なんてあるの?私は生きているだけで回りの人を不幸にしているだけじゃないの?
もしこのまま生き続ければ、今度はアルフや義母さんやお兄ちゃんにまで迷惑をかけてしまうかもしれない。

 

それならいっそ、このまま私は消えてしまったほうがいい、誰かを傷つけるぐらいなら……大切なものを失うぐらいなら……私は消えてしまいたい。

 

体に急激な気だるさが襲う、多分私の体を使っているユニゾンデバイスが、私の力を吸い取っているのだろう。
私は立っていることができず、その場に座りこむ。もう何もしたくない、誰かを傷つけるぐらいなら、いっそ殺してほしいとも思っていた。

 

でも……私にはまだやることがある、これ以上私のせいで誰かを傷つけることがないように、私は今のこの状態をなんとかしなければならない。

 

消えるのは……その後だ。

 

アリシアのオーブ軍基地潜入事件の次の日……作戦会議室に重い空気が流れていた。
「ファクトリーで製造していたストライクフリーダムとインフィニットジャスティスが時の方舟に強奪されただと……!?」
「というか……クライン派がそんなものを作っていたとは初耳ですな、ユニウス条約は一体どうしたのですか?」
「……申し訳ございません。」
ザフト、連合、そしてオーブの司令官達からの質問を受け、ラクスは深く頭を下げた。
「ラクスを責めないでよ!マルキオ導士がこれからの時代に必要になるとか言って彼女に作らせただけなんだから!!」
「ミーティア……もうよいのです。」
弁護するミーティアを手で制するラクス。するとこの話は終わりと言わんばかりにアリューゼが手をパンパンと叩く。
「もう過ぎた事を責めてもしょうがないでしょう?問題はこれからどうするかです。」
「うむ、アリューゼ殿の申す通りだ、ラクス、その二機のMSの能力はどれほどのものなのだ?」
カガリの問いに、ラクスは神妙な顔で答える。
「一言に言えば……前大戦を終結に導いたフリーダムとジャスティスを上回る性能です。」
「絶望的だなそれは……しかも乗り手はフリーダムを落とした奴だぞ?今攻められたら正直全軍で当たってもきついんじゃないか?」
「エターナルが無事だったのがせめてもの救いか……。ダコスタ達も無事らしいし、今こちらに向かっている。」
はぁと溜息をつく一同、そんな時タリアの元に別の所にいたアーサーから通信が入って来た。
『艦長、よろしいでしょうか?』
「ん?どうかしたの?」
『本国から輸送隊が到着しました、後で受領書にサインをお願いします。』
「そう……!わかったわ。」
「タリアさん、もしかして先日言っていた新型が届いたのですか?」
「ええ……ただ一機組み立て中の機体があるんです、少し人材が足りないのでモルゲンレーテの職員を借りても大丈夫ですか?」
「ああ、構わないぞ。」
「新型ですか……これで少しは戦力が強化されればいいんですけどね。」

 

一方その頃、オーブ基地内のMS格納庫……その影になる場所で一人の青年がこそこそと金属でできた箱のようなものを置いていた。
「これでよし。爆弾の設置はこれで終わりだな……。」
その青年……ワイド・ラビ・ナガタはあくどい笑顔を浮かべながらその場を去ろうとしていた。
「くっくっくっ!後はこのスイッチをポチッと押せばこの基地はドカン!手筈通り時の方舟がオーブを占領すれば俺はこの国の王!カガリだけじゃなく国中の女が俺の物だ……!へっへっへっへっ!」
「「…………。」」
そんな彼の様子を、たまたま通りかかったリインⅡとアギトが目撃していた。
「なあリイン、アイツ何一人で笑っていんだ?不気味だぜ。」
「うーん、リイン子供だから解らないです~。」
「うお!!?見つかった!?こうなったら証拠隠滅……!」
そうやってワイドがリインⅡとアギトに襲いかかろうとしていたその時だった。
「二人ともなにしてるの?」
「ん?そいつ何?」
散歩していたアスカ兄妹とアルフ(こいぬフォーム)が通りかかった。
「あ、シンさーん、マユさーん。」
「不審人物見つけたぜ~!」
「ちょ!ちがっ!」
「あ……。」
その時、マユはワイドの顔を見て何かを思い出す。
「ん?どうしたマユ?」
「お兄ちゃん、あの人だよー。」
「あの人?」
「うん、街でマユにナンパしてきて、あまつさえどこかに連れ込んで全年齢版の種なのはクロスSSでは書けないとてもエロいことをしようとしていた人は。」

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

数分後、格納庫では阿鼻叫喚のすさまじい私刑が繰り広げられていた。
「うわああああああ!!!!あついいいいい!!!!!ごめんなさいいいい!!!」
「うん☆謝ってすむ問題じゃねーな☆」
ワイドはシンにボッコボコにされた後ロープでグルグル巻きに縛られ、近くにあったムラサメの手でつるされていた。さらにその下では、火が焚かれワイドを炙っており、おまけにシンが棒でツンツンとワイドの顔を突っついていた。
「お兄ちゃん、あんまりやりすぎると怒られるんじゃない?」
「かまへんかまへん☆」
「あわわわわ……怒りのあまり喋り方がおかしくなっているです……!」
「こえーなシスコンって……。」
「お……お前!一体何やってんだ!?」
とそこに、騒ぎを聞きつけたスウェン、キラ、アスラン、そしてノワールとフリーダムがやって来た。
「見てわからねえ?不審人物を尋問中でございます☆」
「なんだその語尾の☆は!!?」
「とりあえず落ち着け。」
「シン君KOOL!KOOLに!」
「バット使う?」
「なんちゃら症候群ですねわかります。」
「ひいいいいいいい!!!!助けて~!」
「お兄ちゃん、もうあの人も反省しているみたいだし許してあげて、お願い……。」
「うん、わかった。」
マユのお願いを、シンはとてもいい笑顔で聞き入れた。
「「早っ!!!」」
「まったく……やりすぎだぞお前は……。」
そう言ってスウェンはシンの頭をコンっと小突く。
「いやあ、でもこいつから色々と聞き出せたから良しとしようじゃないか。」
「何……?」
するとシン達の元に、金属の箱が入った袋を持ったアルフ(おとなフォーム)がやって来た。
「シン~!マユ~!見つけてきたよ~!」
「わあ、大量だねーアルフ。」
「アルフ……?それは一体?」
「うん?そこでのびている奴が設置した時限爆弾だってさ、そいつ時の方舟と内通してたみたいなんだよ。」
「「「はっ!!?」」」

 

それから数十分後、キラとアスランとスウェンは会議室にいたカガリ達にワイドから聞いた事をありのまま報告した。
「そ……それは本当なのかアスラン!?ナガタ家の人間がそんな事を……!?」
「カガリ……ショックなのはわかる、だがこれは本当のことなんだ。」
「基地を爆破し、そのスキを突いて司令部を占領するとは……全くもって大胆な事をするなあ、時の方舟の司令官は。おそらく先日の潜入事件は下見を兼ねていたのかな?」
バルドフェルドは納得したようにコーヒーに口を付ける。
「作戦の決行は6日後……。今からなら戦力を整えて十分に迎え撃つことができます。」
「ですが……向こうには二機の新型があるのですよ?いかにこちらが戦力を整えても無傷と言うわけには……。」
マリューとタリアの意見に場が静まり返る。その時、カガリがおもむろに立ちあがった。
「私に……一つ提案がある。うまくいけば奴等の虚を突く事が出来るかもしれない。」

 

それから数日後、オーブ軍基地MS格納庫にキラとスウェン、そしてアスランを始めとしたザフトのMSパイロットやスティングを始めとした連合のMSパイロットが、カガリとネオとタリアとアーサーに呼ばれて集まっていた。
「えー、君達に集まって貰ったのはほかでもない、先日我が軍に新型のMSが三機届いた、一機はグフイグナイデッド、ハイネ用にチューンナップされた機体だ。」
「へえ……議長代理も気の効いたことしてくれるな。」
「そして後の二機……ZGMF-X42Sはまだ組み立てに時間が掛かって使えない、そしてZGMF-X666S“レジェンド”のパイロットを誰にするか決めたいんだ。」
「レジェンド……。」
一同はカガリ達の背後に設置されている黒いMS……レジェンドの姿を見て驚きの声を上げる。
「もしかしてコレ、プロヴィデンスの……?」
「ええ、前大戦の最終決戦に投入された機体の発展機よ。」
「ラウ・ル・クルーゼの……。」
キラとアスランはレジェンドの前身である機体……プロヴィデンスに浅からぬ因縁があり、なんとなく身構えていた。
「私は出来ればキラ君に乗ってもらいたいの、ストライクではこの先辛いでしょう?
「ぼ、僕ですか……?」
「艦長、よろしいでしょうか?」
その時、レイが一歩前に出てタリアに意見した。
「ん?どうしたのレイ?」
「俺に……自分にレジェンドを任せては貰えないでしょうか?」
一同はそのレイの言葉に、意外だなという顔をする。
「珍しいじゃん、アンタが自分から意見言うなんて。」
「理由を聞かせてもらえないかしら?」
「…………私的な理由です、自分はキラ・ヤマトよりその機体をうまく扱う自信があります。」
「自信、ね……。」
「き、キラ君はどうするんだい?」
アーサーの問いに、キラはしばらく考え込んだ後、結論を口にした。
「レジェンドのシートはレイ君に譲ります。ストライクも十分直りましたし、もうすぐフリーダムも修復が終わるようですし……。」
「……わかりました、レイ、貴方にレジェンドを託すわ。」
「ありがとうございます、必ず乗りこなしてみせます。」
「じゃあ次は私の番だな、おーい!“アカツキ”をこっちに持ってきてくれー!」
カガリの号令と共に、格納庫に機械が動き出す音が響く、そしてレジェンドの右隣に金色のMSが設置された。
「な……なんだよあのMS!?」
「キンキラキン……ステラびっくり。」
「ま、的になりやすそうな機体だな……。」
「この機体の名は“アカツキ”、わが父ウズミ・ナラ・アスハが私の為に残してくれた機体だ……。」
「言わばオーブを具現化した機体か。」
「ウズミさんがこんな機体を残していたなんて……。」
キラとスウェンは暁の風貌を見て率直な感想を述べる。
「本来なら娘の私が乗るべきなのだが……生憎指令室での仕事が忙しくて乗る事が出来ない、そこでだ。」
カガリは隣にいたネオの肩をポンと叩く。
「大佐に乗って貰いたい。」
「え?俺?いやいや、流石にこの機体に乗るのはその……オーブの方々に悪いというかその……。」
「大佐のウィンダムではこの先心細い、どうせならこいつの性能を引き出せる者が乗った方がいい。お願いできるか?」
カガリの懇願に、ネオはやれやれといった感じで返答した。
「解りました……この機体、有り難く使わせてもらいますよ。」
「そうか……ありがとう。」
そして一同が解散した直後、キラはその場から去ろうとするレイを呼びとめた。
「ちょっとレイ君、少し話があるんだ。」
「……なんでしょうか?」
キラはその言葉を出すのに少しためらったが、意を決してレイにその言葉を投げかける。
「君はもしかして……ラウ・ル・クルーゼの家族かなにかかい?」
レイはキラの問いに少し眉を吊り上げる。
「……何故そう思うのですか?」
「一度だけ彼の素顔を見た事があるんだ、それで少し似ているなって思って……あの機体に乗るのは、彼の意思を継ぐため……僕を倒す為かい?」
キラの真剣な問いに、レイは……。
「ふふっ……。」
少し笑って返した。
「え……?」
レイの予想外の反応にキラは驚いた。
「俺は確かにラウと同じ血が流れています、ですが彼みたいに世界を敵視していません、俺は俺なんです、そうシンが教えてくれました。」
「レイ君……。」
「もちろん貴方を殺して復讐しようとも思っていません、だから安心してください……。」
そういてレイはその場から去っていった。
「僕は僕……か。」
キラはレイの言葉が心に染み渡ったのか、少し嬉しそうに笑いながらレイとは反対方向に歩みを進めた……。

 

その数分後、モルゲンレーテの職員達によってアークエンジェルに搬入されるアカツキの様子を、ネオは遠い所でジッと見ていた。
「……。」
「あ、大佐……こんなところで何をしているんですか?」
そこに、作業着姿のマリューがやって来た。
「いや、これから俺の愛機になる機体が少し気になってね……。」
「アカツキの事ですか……?」
「ああ……あの機体はウズミ氏がカガリ代表に託したものだ、おいそれとよそ者の自分が果たして乗っていいものか少し不安でね……。」
「ふふっ……貴方もそうやって不安がることもあるんですね……。」
マリューはかつて思いを通わせた今は亡き恋人と、ネオの姿を重ね合わせていた。
「カガリさんは貴方ならアカツキを使いこなせると思って託したんです。自信を持ってください。」
「んー……。」
「貴方ならどんな不可能だって可能に出来ます。だから……自信を持って。」
「不可能を可能に、ねえ……。」
ネオはそのマリューの言葉に、少し懐かしさを感じていた、そして……心の中にあった不安が少しずつ氷解していくような気もちになっていた。
「ありがとうよ、少し気持ちが楽になった……今度お礼に食事でもどう?」
「えええ!?いきなりナンパですか!?もう……//////」
マリューはまんざらでもないといった感じで顔を赤くしていた。

 

(おい!押すなよアウル!)
(しょーがねえだろ!!ここ狭いんだから!!)
(スティング、アウル、邪魔。)
そんな二人の様子を、積み上げられた機材の影からスティング、アウル、ステラが覗き見していた。
(まさかネオがアークエンジェルの艦長さんとデキていたなんてな……。)
(いいなー、俺もシャマルさんとあんな大人の恋愛してみたいぜー。)
(ネオ幸せそう……ステラ嬉しい。)
「何をしているのだお前等?」
するとそこに、たまたま通りかかったザフィーラ(こいぬフォーム)が声を掛けてきた。
「「「うわぁっ!!!?」」」
突然声を掛けられて驚いたスティング達は、積み重ねられていた機材を崩してしまう。
「い……いきなり声をかけんじゃねえよ!」
「び、びっくりしたー!!」
「ザッフィー、めっ。」
「ザッフィー!!!?それ俺の名前か!!?」

 

そんな彼等の様子を、ネオとマリューは苦笑しながら見守っていた。
「まったく、こういうのが気になるお年頃なのかねえ?」
「健全でいいじゃないですか、彼等は戦っている姿よりああいうほうがよっぽど似合っていますよ。」

 

一方その頃、ネオ達いる所とは別の場所……そこでシグナムとヴィータ、そしてリインⅡとアギトがアカツキを見に来ていた。
「すっげー!金ぴかだー!」
「あれでは敵のいい的ではないか……これを作った者は何を考えているのだ……?」
「でもよー、アタシが暮らしていた東アジアでも金ぴかのMSに乗っていた奴がいたぜ?この世界の常識なんじゃね?」
「かっこいいです~♪」
と、そんな彼女達の元にガラの悪そうな三人組が近付いてきた。
「おやおや、いつからここは保育所になったんだい?」
「む……?」
眼帯をつけたオレンジ髪の女性にあからさまに挑発され、シグナム達は彼等を睨みつける
「ヒルダ……失礼だろ。」
「おお、すまないねアンタ達かい?ラクス様と仲良くしている魔法使いってのは?」
「魔導士だ……貴様等は一体何者だ?」
「私達かい?私達はラクス様に仕える親衛隊さ、まずはこれまでラクス様を守ってくれた事に礼を言おう。」
「我々は別に……むしろ助けられてばかりだ。」
眼帯の女性……ヒルダはシグナムの言葉に耳を貸すことなく話を続ける。
「だがね……これからは私達がラクス様を守る、アンタ達は後ろで高見の見物でもしてな。」
「んだとぉ!?調子こきやがって……!」
「やっちまおうぜヴィータ!」
「喧嘩は駄目ですよ~!」
「ふんっ、お子様はおうちでテレビでも見ていな。」
ヒルダはそう言って怒るヴィータ達を鼻で笑うとその場を去って行った。
「まったく……なんだあいつは……。」
「まあ、そのなんだ、あんまり気を悪くしないでくれ。」
そんなシグナム達に、ヒルダの取り巻きであるいかつい顔の男と眼鏡を掛けた男がフォローを入れてくる。
「なんだおまえら?」
「俺はヘルベルトでこっちはマーズ、あのヒルダとはチームを組んでいるんだよ。」
「あの眼帯女の仲間……?チームメイトの行儀作法ぐらいしっかりやれよなー!」
アギトにツッコミを入れられ、ヘルベルトとマーズは苦笑いする。
「ははは、すまないなお嬢ちゃん、アイツも一杯一杯なのさ、自分達がいながらあの二機を簡単に奪われちまったもんだから……次の作戦も機体の修復が間に合いそうにないしな。」
「もしかして貴方達、ファクトリーってところから来たですか?」
「まあな……。」
ヘルベルトは自嘲気味に笑いながらリインⅡを撫でる。
「まあ……あのヒルダとかいう女の気持ちはわかる、我々だってみすみす主達を危険な目にあわせてしまったのだから……。」
「…………。」
シグナムとヴィータは自分の言った言葉で少し俯いてしまう。
「んだー!!もうっ!!!ジメジメすんな!!」
そんな暗い空気をアギトが吹き飛ばした。
「アギト……。」
「あのはやてって奴もちゃんと助けだしたからいいじゃねえか!!いつまでもウジウジ引き摺ってんじゃねー!!!」
「アギトさん……。」
一同はアギトの叱咤を受け、顔に明るさが戻ってくる。
「この嬢ちゃんの言うとおりだな!過ぎた事悔やんでもはじまらねえ……ならこれからの戦いで挽回すりゃいいんだ。」
「まったくその通りだ……お前に気付かされるとはな。」
「へへへー!!」
するとそんな彼等の元に、スティング達がやってくる。
「おーいアギトー!一緒に昼飯いこうぜー!」
「アンタ達もどうだ?」
「今日の日替わり定食はハンバーグ。」
「マジで!?行く行くー!」
「あ!まてよ!アタシも行くぞ!」
「リインもですー!」
そう言ってヴィータ達はシグナムを残してスティング達の元へ駆けていった。
「……お互い全力を尽くそう、パイロットにはパイロットの、魔導士には魔導士の戦い方がある……。」
そしてシグナムもマーズとヘルベルトにそう言い残してヴィータ達の後を追いかけていった。
「やれる事をやれ、か……。」
「まったくその通りだな……さてと、俺達も飯にするか。」
二人は満足そうに笑った後、シグナムとは反対方向に歩いていった……。

 

それから数日後……オーブの領空を大量のMSが飛翔していた。
「アリシア様……そちらの様子はどうですか?」
『すこぶる良好よ!さすがはフリーダムの後継機ね……!』
ストライクフリーダムに乗るアリシアは上機嫌にアクロバティックに飛翔していた。
『あまりはしゃぐと事故起こしますよ?』
そこに、後ろから付いて来ていたイフリートに乗るフェイトにとりついたままのゲイザーから通信が入る。
『はん!子供じゃないんだからそんなヘマしないわよ!でもいいの?私たち三人と少数のケンプファーだけであのオーブを攻めるなんて……。』
『一応後方に“協力者”の方々を待機させております。ですがこれ以上マリアージュを消費するわけにはいかないのです。それに貴方達の技量とMSなら戦力的には十分でしょう?』
『ええ、まったくその通りだわ!あんな“平和最高~!”とか“戦争はだめだブヒ~!”とか言ってるくせに連合にMSのデータ横流しして私腹肥やしている卑怯者の国なんて軽く捻ってやるわ!』
(うわあ……今のセリフオーブの人間じゃなくてもムカつく……。)
『その意気ですよアリシア様。』
アリシアの様子を見てゲイザーは満足そうに頷く。そして……
「さあ、もうすぐオーブ軍の基地だ。」
三機はオーブの領空に入り、レーダーに遠くにあるオーブ軍基地を映し出した。
『アンタの言う通りなら……もうすぐ内通者が基地内に仕掛けたっていう爆弾が爆発するころよね?』
「はい、そのように……。」
『我々はその混乱に乗じて司令部を制圧。ラクス・クラインとカガリ・ユラ・アスハを人質に取って二週間後のヘブンズベースでの交渉をさらに有利に進める、というプランになっております。』
『うふふ……最高じゃない、あいつ等のあわてる顔が目に浮か……。』
アリシアはその時、潜入捜査の際に出会ったレイのことを思い出す。
(そうか、あいつもいるんだもんねあそこには……巻き込まれてなきゃいいけど……はっ!!?//////なんで私あいつの事気にしてんの!!?//////)
『アリシア様?何顔を赤くしているんですか?』
『ななななな!!?なんでもないわよ!!それよりもホラ!もうすぐ爆破の時間じゃない!!』
そして三人はしばらくオーブ軍基地の様子を窺っていた。
数分後、爆音と共に基地のあちこちから爆発が起こった。
『どうやら成功したみたいですね。』
『よっしゃ!!気合入れていくわよ!!』
そう言ってアリシアとゲイザーはブースターを吹かす、だがカシェルだけは先ほどの爆破に少し不安を感じていた。
(おかしい、爆破の規模が小さすぎる……ちゃんと設置できなかったのか?それとも……。)
その時、基地から数十機のムラサメがアリシア達の元に飛んできた。
『え!?何!?奇襲したはずなのに展開速くない!?』
『まさか……!!?』
「やられた……な、裏をかかれたか。」

 

今から3日前、カガリはブリーフィングルームでMSパイロット達に作戦内容を伝えていた。
「基地を予定通り爆破する……!?本気なのカガリ!?」
「ああ、爆発させるのは一個だけだけどな、そして相手に奇襲が成功したと見せかけて、逆にMS隊で挟み込んでストライクフリーダムとインフィニットジャスティスを取り返す。どうだ、いい作戦だろう?」
カガリが提案した作戦に一同は唖然とする。
「私たちは別にいいですけど……いいんですか?」
「かまわん、建物は後から作り直せばいい、今はあの二機を取り返すことが先決だ。」
そこにネオが、部屋にあったスクリーンに作戦時のMS隊の編成パターンを表示する。
「相手はあの二機……さらに取り巻きの護衛機がつくかもしれない……そこで諸君にはこのようにしてもらいたい。」

 

「始まったみたいだよ、お兄ちゃん。」
オーブ基地が爆破された頃、シンはマユと留守番を言いつけられたリインフォースと共に病院の病室の中にいた。
「ああ……スウェンやレイ達なら大丈夫だろ、俺は自分の体を治すことに専念するよ。お医者さんはもうすぐ退院できるって言ってたし。」
「ふうん、お兄ちゃんなら無理してでもフェイトさんを助けに行くと思ってたけど……。」
「悔しいけど足手まといにはなりたくないからな、それにみんななら大丈夫さ。」
「大人になったな、シン……。」
「わかったよ、早く治してみんなで遊びに行こうね?」
「うん……。」
シンはそう言いながら憂いを帯びた表情で窓の外を見つめた。
(フェイト……ごめんな。)

 

一方そのころ、大量のムラサメの部隊に囲まれたアリシア達は、臆することなく不利な状況に対応していた。
『ふん!羽虫が何匹襲いかかろうともこの機体の敵じゃないわ!!』
そう言ってアリシアはストライクフリーダムの背中に装備されたビッド型の兵器、スーパードラグーンを射出し、次々とムラサメを落としていった。
『やりい♪一分で8機を撃墜したわ!』
「アリシア様、油断していると上げ足をとられます!」
『へーきヘーき♪ん……?』
その時、アリシア達の元にレジェンドと空戦用のバックパック“オオワシ”を装備したアカツキがやって来た。
『ひゅー♪こりゃまたエライのが来たな!!』
『大佐、真面目にやってください。』
『何?あのバカみたいに金ぴかのMS?もしかしてアレがそうなの!!?それに隣にいるのは……。』
「プロヴィデンス!?だが形が……!?」
『どうやら向こうも新型を投入してきたようです。』
その時、レジェンドとアカツキの背後からスウェンの乗るストライクE、ルナの乗るインパルスとスティングの乗るカオスがやって来た。
『ネオ!俺達はどうすればいい!?』
『作戦通りこの二機は俺達にまかせろ、お前はアホ毛の嬢ちゃんとムッツリ君とムラサメ隊と共にケンプファー隊を掃討しろ。』
『わかった!』
『すまない、任せる。』
そう言ってストライクEとインパルスとカオスはその場を去って行った。
『逃がすか!!』
『アリシア様抑えてください、彼等は私が相手をします、貴方達はあの新型を……。』
『ちっ!しょうがないわね……!』
ルナ達の元へ行くゲイザーを見送った後、アリシアとカシェルは改めてレイとネオに向き合う。
「さて……新型の性能、どれほどのものか見せてもらうよ!」
そう言ってカシェルはジャスティスの背面に装備されたファトゥム01からハイパーフォルティスビーム砲をレイ達に向けて放つ。
『おっと。』
だがその攻撃は簡単にかわせる……否、かわさせた。
『甘いのよ!ドラグーン!!』
二機が散開したのを見計らって、アリシアはスーパードラグーンで攻撃する。
『させるか!!』
対するレイはレジェンドの背後に装備された大型のドラグーン二基を射出し、そこから放たれた計10門のビームでアリシアのスーパードラグーンを次々と落としていった。
『なっ……!?そんなのあり!!?』
『ほらほら子猫ちゃん、俺を忘れてもらっちゃあ困るね。』
スーパードラグーンを落とされ動揺するアリシア達に、レイとネオはビームライフルを使って射撃をお見舞いする。
『くっ……!』
「一筋縄では行かないか……。」
アリシアとカシェルは散開し、レイ達のビーム攻撃をCIWSで反撃しながら避けまくった。
「くっ……!(ガクンッ!)ん!!?」
その時、海面すれすれを飛んでいたジャスティスの足にワイヤーのような物が絡みつく。
「これはパンツァーアイゼン……!?うわっ!!」
そのままカシェルの乗るジャスティスは海中に引きずり込まれていった。
『カシェル!!』
『おお!どうやらうまくいったみたいだな。んじゃ俺達はフリーダムに集中するぞ!』

 

「こ、これは……!?」
海中に引きずり込まれたカシェルは足に絡みついたワイヤーを切り裂き、辺りを見回す、するとソードストライカーを装備したストライクと、ビームランスを構えたアビスを見つけた。
『へっへっへつ……海中ならビーム兵器が使えないだろ!』
『アウル君、サポートは任せて。』
(まずい……!海中用のMS!おまけに水の抵抗が一番少ないソードストライク……!これは少しやばいか!?)
そう思いながらカシェルは頬に一筋の汗を流した。

 

「こんのぉー!!一体何なのよ!!?」
カシェルと引き離されたアリシアはレイとネオのコンビネーションの猛攻に晒されていた。
『ほれほれ!どうしたどうしたー!』
『ノリノリですね大佐。』
「くっそー!調子のってんじゃないわよ!」
そう言ってアリシアは機器を操作し、レジェンドとアカツキに通信を入れる。
「くおらー!!か弱い女の子に二人掛かりってどんな鬼畜よ!!」
『……!!?』
レイはモニターに映し出されたアリシアの顔を見て驚く。
『お前は……アリシア・テスタロッサ!?』
「ん……?あー!アンタは!?」
『なんだなんだ知り合いか?戦場で芽生えた恋って奴?』
アリシアとレイはネオの茶化す声を無視して話を続ける。
「まさかアンタのような病弱君がそんな機体に乗っているなんてねー。」
『貴様こそ……まさかその機体に乗っているとはな。』
二人は互いにビームライフルを持ち激しい銃撃戦を繰り広げる。
『顔見知りとはいえ容赦はできない、お前はシンを傷つけたからな!』
「何?アイツと知り合いなの!?ならこっちだって容赦しないわ!」
アリシアはそう言って残ったドラグーンをすべて射出し、両手に二丁のビームライフルを構え、腰部に装備された2門のクスィフィアスレール砲をレイやネオに向ける。
「さあ……!これで吹き飛びなさい!!」
『レイ!俺の後ろに来い!』
『はい……!』
レイは指示に従い、ネオのアカツキの後ろに自分のレジェンドを移動させた。
「あらら、どうせ吹き飛ぶなら一機だけってこと?美しい自己犠牲ね!でもこいつならまとめて吹き飛ばす事ができるのよ!」
対してフリーダムは胸部に装備されているカリドゥス複相ビーム砲に光を集束させていく。
「これで……!いっけぇー!!」
そしてストライクフリーダムの全銃口から一気にビームが放たれ、ネオのアカツキに襲いかかる。
『かかったな……!!』
ネオはビームの雨が自分に迫っているにも関わらず、コックピットで不敵に笑っていた。
そしてアカツキの装甲にストライクフリーダムのビームが当たった瞬間、アリシアの目に信じられないものが映った。
「……!?ビームが反射した……!?(ドゴォン!)きゃああああ!!!?」
アカツキに当たったビームはすべて反射され、ストライクフリーダムや背後で戦っていたケンプファーの部隊に当たる。
『今だ!行け!』
『はあああああ!!!』
ストライクフリーダムが怯んだスキにレイはレジェンドのブースターをふかしビームジャべリンを構えながら突撃する。
「ひっ!?」
アリシアは死の恐怖を感じ逃げようとしてレジェンドに背を向ける。するとそのままレジェンドにストライクフリーダムの背中を切られ、ドラグーンが付いた翼を切り落とされてしまう。
「きゃあああああ!!!?」
そしてストライクフリーダムはそのまま近くに浮かんでいた無人島に落下していった。レイとネオは追いかけようとしなかった。
『こいつはただ金色の装甲をしてるわけじゃない、“ヤタノカガミ”っていうビームを反射する特殊装甲が積まれているんだ。』
『やりましたね大佐、彼女はステラ達に任せましょう。』
『そうだな、俺達はスティング達の援護に行くぞ、ついて来い!』
ネオはそのままケンプファーの残存部隊がいる戦場へと飛び立っていった。
『…………残念だな、これでお別れだ、アリシア・テスタロッサ。』
レイはそう言い残してその場を去って行った……。

 

一方無人島にストライクフリーダムを不時着させたアリシアは、コックピットから降り露出度の高いバリアジャケット姿に変身した。
「くそっ!!まさかあんなものを持っていたなんて……!こうなったらもう機体を捨てて撤退するしか……!」
『逃がさない。』
するとアリシアの元にステラの乗ったガイア(MS形態)が降り立った。
「ガイア……!?私を捕まえにきたの!?……ん?」
アリシアはふと、ガイアの手の上に数人の人が乗っている事に気付く。
ガイアの手の上にはリインⅡとユニゾンしたバリアジャケット姿のはやて、シグナム、ヴィータ、ザフィーラ(狼フォーム)、そしてアルフ(おとなフォーム)がいた。
「ありがとなステラちゃん、ここでええで。」
『わかった。』
ガイアは自分の手のひらからはやて達を下ろすと、自分は一歩後ろに下がった。
「八神はやて……!?ヴォルケンリッター!?」
「お初……ってわけやないな、うちらは一度会っとるし。」
「貴様等には随分と世話になった。できればその恩を返したいのだがな……。」
「なあに!?全員で来るっていうの!?いいよ……あの時みたいに返り討ちにしてあげる!」
アリシアはそう言って1mほどもある爪……ブラッドエンドを召喚する。
「落ち着けよ、お前と戦うのはアタシ等じゃあない。」
そう言ってはやて達はある者を通すために道を空ける。そこから……アルフが通ってきた。
「あんたは確か……フェイトの使い魔だったわね?」
「ああ、アルフっつうもんだ、うちのフェイトが世話になっているようだね……でもさ、いいかげん返してくれないかい?」
「やーよ!母さんを死なせた苦しみ……これでもまだ足りないんだから!!」
「そうかい……。」
そういい終えた瞬間、アルフは口の端を吊り上げる。アリシアにはそれが笑っているように見えた。
「何?何がおかしいの?」
「いやあ……私はこう見えても狼なのさ、それで肉が大好物でね……これまで色んな肉を食べてきた、でもね……。」
アルフの口はどんどん釣り上がっていく、もう裂けてしまっているようにも見えていた。その光景を見て、アリシアは戦慄する。
「あ、アンタ一体……!?」
「でもね、ひとつだけ食べた事がない肉があるんだ、それはね……人の肉。」
アルフの体が盛り上がっていき、服が裂けオレンジ色の体毛があらわになっていく、さらに手には獣のような凶悪な爪が生えてきた。
「ひっ……!!?」
「ねえ……?アンタっておいしいの?」
そしてアルフは巨大なオレンジ色の狼に変身した。
「わ……私はフェイトと同じ顔をしているのよ!?そんな奴を食べようなんて……!!」
『アンタフェイトと同じ顔が嫌なんだってねえ、ならその顔面……グチャグチャに噛み砕いてあげるよ、フェイトやシンを傷つけたアンタなら心が痛まないしさ……。』
「こ、この……!!」
刹那、アルフは口を大きくあけてアリシアの喉目掛けて飛び掛る。
「グルアアアアァァァァァ!!!!!」
「ひぃ!!?」
アリシアはあまりの迫力に臆しながらも、身を捻ってアルフの攻撃を避けた。
「あ、あんた達いいの!!?こんなリンチ許して……!」
「うちらは立会人や、食われそうになったら助けたる、もっとも……見て見ぬふりするかもしれへんが。」
「逃げようとしても無駄だぞ、ここら辺一帯に結界張っているから。」
「は、はははは……!覚えておきなさいよ……!」
アリシアははやて達に悪態をついた後、自分に迫ってきたアルフに爪を突き刺そうとする。
「グオアアアア!!!」
アルフはそれを魔力壁で受け止め、そのまま突き進もうとする。
「な、なんてパワーなの!?」
アリシアは少しずつ後ろに押されていき、心にあせりが生じていた。
『アンタがプレシアを想っているのはわかっているさ、でもアタシはあの女を一生許さない……一生懸命尽くしていたフェイトに、あの女は褒める変わりに鞭を打った、あの子を人形だと言って捨てた、止めようとしたシンを殺そうとした、そしてその事を謝ろうとせず勝手に死んでいった、そんなクソ女の仇と言って娘のアンタはなのはとはやての夢を奪った、ザフィーラ達を傷つけた……!』
その時、ブラッドエンドの刀身にヒビが入って行く。
「あ……ああああ……!!!」
『ねえ、わかるかい?アンタ達親子はねえ……私の大切な人を理不尽に傷つけたんだよ?なんでフェイト達がこんな目に合わされなきゃいけないのさ!!!?ならさあ……アタシのこの復讐は正当なものだよねえ!!!?』

 

その瞬間、ブラッドエンドは粉々に砕け、アルフはそのままアリシアの右腕に噛み付いた。
「きゃあああああ!!!!?」
「ガウウウウウウウウウ!!!!」
アルフはアリシアの右腕を咬んだまま彼女の体を引きずりまわした。
「痛い!!?痛いいいいいい!!!」
アリシアは必死にアルフの牙から逃れようともがくが、かえって牙が彼女の腕に食い込んでいくだけだった。そしてメキメキと骨が砕ける音がする。
(こ、このままじゃ食いちぎられる……!!)
そう思ったアリシアは左手で地面の土を掴み、アルフの目にそれをかける。
「ギャウウウウウ!!!!?」
アルフは視界を奪われその場で暴れまわり、アリシアを近くの大木に投げつけた。
「ガハッ!!」
アリシアは背中に強い衝撃を受け地面にのた打ち回る。そして咬まれた自分の右腕を見る。
「うっ!?」
右腕は酷く裂傷し、大量に血を流していた。アリシアは手のひらを動かし、神経が繋がっていることを確認する。
『おやあ?まだ動くのかい?アンタがフェイトに切らせたシンの右腕はまだ満足に動かせないっていうのに……。』
アルフは目の土を取り、そのままアリシアに迫った。
「く……来るな!来るなああああああ!!!!!」
アリシアは左手で何度も何度も土を掻き上げてそれをアルフの目にめがけて投げつける。しかしアルフはまったく怯まなかった。
『アタシが怖いのかい……?いいねえ、恐怖で冷えあがった血は美味なんだろうねぇ。』
「い、いやああああ……!」
アリシアは下腹部にくるとある感覚を必死に抑えながら、地べたを這い蹲ってアルフから逃げようとした、が……。
『にがさないよ!』
前足で背中を押さえつけられ動きを封じられる。
『さあ……きれいに食べてあげるからね。』
「いや……!助けて!お母さん!!」
アリシアは自分が無残な肉塊になる未来を想像し、思わず悲鳴を上げた。その時、
「……!アルフ!上だ!」
ザフィーラが上空からエメラルドグリーンの輪がアルフに向かっていることに気づき、彼女に警告する。
『うわっ!?』
アルフはそれをバックステップでかわす。
そして彼女とアリシアの間に、フェイトに取り付いたゲイザーが降り立った。
「アリシア様、大丈夫ですか?」
「あ……は……。」
ゲイザーの呼びかけても、アリシアは恐怖のあまり放心状態でロクに返事ができず、そのままどこかへ逃げていった。
「アンタかい……!フェイトにとりついているクソ野郎は……!」
「うちとアルフはアリシアを!こいつはシグナム達に任せたで!」
そう言ってはやてとアルフはアリシアを追いかけていき、シグナム、ヴィータ、ザフィーラはゲイザーに向かって一斉に構える。
(ちっ!人数が多すぎる……!次から次へと状況を不利にしやがって……!)
ゲイザーは蹲るアリシアが去って行った方向を鬱陶しそうに睨み付ける、そしてはやて達に違和感を覚える。
(おかしい……ヴォルケンリッターが全員いない……?)
「うおりゃあああああ!!!!!」
ゲイザーはそう考えているうちにヴィータに襲われ、彼女の攻撃を避けるため上空高く飛び上がる。
「逃がさん!」
『シュランゲフォルム!』
シグナムはすかさずレヴァンティンでゲイザーを追撃するが、ヴォワチュール・リュミエールで弾かれてしまう。
「そんな攻撃が私に効くと……!」
「うおおおおお!!」
その時、ザフィーラがゲイザーに襲い掛かり、ゲイザーを守るヴォワチュール・リュミエールに拳をぶつける。
「くっ……!そんな原始的な攻撃で!」
「我が拳をただの拳と思うな!」
ザフィーラは自分の拳の皮膚がヴォワチュール・リュミエールの熱で剥がれようとも攻撃の手を休めなかった。
「う、お……!」
「キラとラクスに救われた命……!今ここで使わせてもらう!」

 

一方その頃、ケンプファーの部隊と戦っていたスウェン達は、後から増援に来たアスランとハイネの援護もあってか戦いを有利に進めていた。
『おらー!ザクとは違うんだよ!ザクとは!!』
そう言ってハイネはオレンジ色のグフイグナイテッドのスレイヤーウイップを使って次々とケンプファーを落としていった。
『ハイネ!あまり先行するな!狙われるぞ!』
『へーきへーき!』
その時、背後からイフリートがビームソードを持ってハイネのグフイグナイテッドに襲いかかってきた。
『危ないハイネ!』
アスランはハイネに襲いかかろうとしたイフリートを砲撃で撃墜した。
『すまないアスラン!助かった!』
『まったく……背後の注意ぐらい怠るな!』

 

『あそこは大丈夫そうね……。』
そんな二人の様子を、ルナやスティング達が戦いながら見ていた。
『ああ、アウル達も有利に進めているみたいだし、この戦いは俺達の勝ちだな。』
『油断しちゃ駄目ッス!奴等の事だから新兵器とか投下してくるッス!』
『ノワールの言うとおりね……引き続き警戒を……!!?』
その時、ルナ達のコックピットに新手のMSの到来を知らせる警報が鳴り響く。
『何だ!?本当に来たのか!?』
『ちょ、ちょっとまって!この識別信号……マーシャン!!?』
すると彼方から二機のMSが飛来してくる、一機は赤いボディに白い手足のGタイプ、そしてもう一機はシビリアンアストレイだった。
『こちら火星使節団のリーダー、アグニス・ブラーエ、そちらにスウェン・カル・バヤンかシン・アスカはいるか?』
『ああん!?なんでマーシャンがシン達に用があんだよ?こっちは戦闘中だ!!』
『なあなあルナ、“まーしゃん”ってなんだ?』
ストライクEのコックピットにいたアギトはルナに質問する。
『火星に住んでいるコーディネイター達の事よ、今は使節団が地球に降り立っているって聞いたけど……そうか。』
名指しされたスウェンは白と赤のGに通信を入れた。
『相変わらず乱暴な物言いだな、アグニス。』
『ふっ……許せ、こういうのは生来のものでな。』
(なんだ……?スウェンの知り合いか……?)
『お前達がここに来たという事は……。』
『ああ、“裏付け”はすべて終わっている、データもジェス達に渡した。』
その時、シビリアンアストレイから騒がしい声が聞こえてくる。
『ね、ねえスウェン!フェイトとあの子はドコ!?』
『落ち着いてください、今こちらで位置を特定しました。』
(女の子の声……?しかも二人……?)
スティングはいまいち状況が掴めず混乱していた。するとそんな彼の元にスウェンから通信が入る。
『ルナ、スティング、ここは任せる、俺は彼等をはやて達の元に案内する。』
『え!!?おい!!?』
スティングは勝手な行動をとろうとするスウェンを止めようとするが、ルナに手で制されてしまう。
『ルナ……?』
『了解したわ……その、なんて言ったらいいかわからないけど……。』
『悪いな、気を使わせて……。』
そう言ってスウェンのストライクEはマーシャンのMSと一緒にはやて達の元へ向かって行った。そこに、戦闘を終えて一段落していたアスランとハイネがやって来た。
『……?ルナ、スウェンはどうしたんだ?』
『彼等は……はやて達の元に行きました、私達は……残存勢力を掃討しましょう。』
『…………?』
一同はルナの様子に不審感を覚えながらも、取りあえず彼女の言葉に従ってそれぞれの戦場に向かって行った…

 

その頃シグナム達はゲイザーに取りつかれたフェイトを助け出そうと奮闘していた。
「うおおおおお!!!」
「ぐっ……!」
ヴォワチュール・リュミエールに次々と拳を撃ち込むザフィーラ、すると魔力を消費したのか、ヴォワチュール・リュミエールの出力がどんどん落ちていった。
「こ……このままでは……!」
「にがすかぁー!!」
「くらえぇー!!」
怯んだゲイザーにシグナムとヴィータが追撃を加える。そしてついに三本あるヴォワチュール・リュミエールのうち一本が砕けた。
「くっ……!たかが一本壊したぐらいで……!」
「今だ!シャマル!」
「……!!?」
ゲイザーがシグナムのその言葉を理解した時には、もうすべてが手遅れだった。
「ふふふ……やってくれましたね……!」
ゲイザーがとりついているフェイトの体には、彼女のリンカーコアを掴んだシャマルの手が生えていた。
「彼女の姿がないと思ったら……ガイアのコックピットに隠れていたのですか……!」
「もうテスタロッサの体は使えんぞ……どうする?」
「はあ……しょうがない。ここは退きましょう。もうこの体は使い物になりませんしね。」
「何……!?」
そう言ってゲイザーはどこからか野球ボール程の大きさの閃光弾をとりだした。
「「「!!!」」」
ゲイザーがピンを抜いた瞬間、あたりに強い光が放たれる。
「くっ……!」
「やられたな……!」
「テスタロッサは!?」
光が収まりシグナム達は辺りを見回す、そこにはぐったりと倒れているフェイトしかいなかった。
「フェイト!」
「テスタロッサ!」
シグナム達はすぐさまフェイトの元に駆け寄った。
「あいつは……逃げたみたいだな。」
「ああ、でもこれで洗脳されていた全員を助け出せた。まずは良しとしよう……。」
ザフィーラとヴィータはそう言って胸を撫で下ろす、が……その空気はシグナムの只ならぬ様子で吹き飛ばされてしまう。
「おい……?テスタロッサ!!?おい!!?」
シグナムはフェイトを抱き上げて何度も呼びかける、しかし彼女は光のない目を大きく見開きながらぐったりしていた。
「お、おい……フェイト!?どうしたんだよ!!?」
「まずい……!シャマル!すぐにこっちに来てくれ!」
「テスタロッサ!!!おい!!!テスタロッサーーーーー!!!!!」
シグナム達の必死の呼びかけもむなしく、フェイトが意識を取り戻すことはなかった。

 

一方はやてとアルフは、森の中に逃げたアリシアを探し回っていた。
『どこだぁー!!!アリシアァァー!!!?』
「アルフ、少し落ち着きいや。リイン、索敵はどないなっとる?」
『まだ遠くには行ってないみたいです。それにしてもアルフさん……怖いです……。』
「無理もない、あんな舐めた真似されたら誰だって怒るで。」
『ふええ……はやてちゃんもこわいです……。』
その時、アルフはアリシアのものと思われる血痕を見つける。
『こっちに逃げたのかい……!無駄なことを……!』
そう言ってアルフは血痕の後を追う。その時リインⅡはある事に気付いて大声を上げる。
『アルフさん!上です!!』
「でやあああああ!!!!」
「!!!」
すると木の上からアリシアがブラッドエンドをアルフに突き刺そうと襲いかかって来た。
『くっ!!?』
アルフはそれを寸でのところでかわし、地面に着地したアリシアと対峙する。
「もうやめえや、その怪我でウチらに勝てるわけないやろ?」
「うるさい……!あの汚らしい人形の仲間のくせに指図すんじゃないわよ!!」
『へえ……!そんなに食い殺されたいんだ?なら望み通りにしてやるよ!』
アルフはフェイトを侮辱され怒りが頂点に達し、アリシアに向かって大きく吠えた。
「私は母さんの仇を討つの……!こんな所でアンタ達に邪魔されるわけには……いかないのよぉー!!」
そう言ってアリシアははやて達の元に突撃していった。だがその時……。

 

「おまちください!!!」
突如彼女達の間にフードを被った黒いコート姿の女性が空から降り立ちアリシアとアルフ達の間に入った。
「きゃ!!?」
「な、なんや!?」
『なんだいあんたは!!?あんたも時の方舟か!!?』
「ふふふ……変わってませんね、アルフ。」
その女性はアルフの威嚇に動じることなく、軽くあしらってみせた。
『な、なんでアタシの名前を……?』
「解らないのも無理ありませんね……貴方と会ったのは小さい時でしたから……。」
そう言ってその女性はフードを取り、栗毛色のショートヘアに白い帽子を被った自分の姿をさらした。
『…………!!!!!?あ……アンタ……!!?なんで……!!?』
『え?お知り合いですか?』
その時、彼女達の元にシビリアンアストレイとストライクEが降りてきた。
「はやて!少し待ってくれ!」
「スウェン……?」
はやてはストライクEから降りてきたスウェン達に問い詰める。
「な……なんやあの人!?スウェンの知り合いかいな!?」
「はやて姉さん落ち着いて!これには空よりも広く海よりも深い事情があるッス!」
「これが落ち着いてられるか!!アリシアには一発どつかんと収まりが……!」
その時、スウェンははやての肩をガツッと掴む。
「スウェン……!?」
「すまない……こうなったのもすべて、俺達がしっかりしていなかったからだ……許してくれとは言わない。」
『な、なんでスウェンさんが謝るです?リイン訳が解らないです……。』
「事情は私が話すよ、スウェン。」
するとシビリアンアストレイから黒いパイロットスーツ姿のヘルメットを被った小学生ぐらいの子供が降りてきて、アリシアの前に立った。
「な……なによアンタ!?私の邪魔をしないで!」
アリシアは明確な敵意をその少女に向ける。
「もうやめて……アナタはあの人達に利用されているだけなのよ。」
「利用!!?何を言っているの!!?」

 

その時、少女は被っていたヘルメットを取った、するとその少女の美しい金髪がハラリと舞い、その隙間から赤い瞳が垣間見えていた。

 

「「「「なっ……!!!?」」」」
アルフ、はやて、リインⅡ、そしてアリシアはその少女の顔を見て、まるで幽霊をみたかのように驚いていた。

 

「フェイト……ちゃん?」
その少女は体格は違えど、アリシアと……フェイトと同じ顔をしていた。そして幼き日のフェイトの姿を知っているはやてとアルフは、思わず少女をフェイトと勘違いしてしまった。

 

「な、なによ!?なんでアンタ……私と同じ顔しているのよ!!?」
「“私が君に似ている”んじゃない。“君が私に似ている”のよ。」
少女はとても悲しそうな顔でアリシアを見つめる。

 

そんな中、スウェンが混乱しているアリシアに……ただ冷淡に“真実”を打ち明けた。

 

「ここにいる子が……正真正銘、本物の“アリシア・テスタロッサ”なんだ。君はフェイトと同じ……いや、それを超える存在……。」

 

“プロジェクトフォーチューン”で生み出された、量産型スーパーコーディネイターの試作クローンなんだ。