魔動戦記ガンダムRF_22話

Last-modified: 2011-08-13 (土) 23:08:08

七年前の事、なのはは学校の授業の一環で“将来の夢”という題材で作文を書いていた。
「うーん……。」
しかし書く事が決まらないのか、口と鼻でシャープペンシルを挟みながらあれこれ思案していた。そしてそんな彼女が気になったのか、フェイトとシンが声を掛けてきた。
「どうしたのなのは?書く事が決まらないの?」
「いや、書く事は決まっているんだけど……学校じゃ書けない事っていうか……。」
そのなのはの言葉を聞いて、フェイトとシンはああ、と手を叩いた。
「あそっか、なのはの夢って魔導師になることだもんね。」
「それじゃ学校の宿題ではできないよなー」
「うん……。」
ふと、なのはは胸に掛けていたレイジングハートを手にとってそれを見つめる、そして数か月前の、魔法と出会う前の自分を思い出していた。
(ちょっと前の私は……自分が何になりたいのか解らなかったのに、ユーノ君達と……魔法と出会ったお陰で見つける事が出来たんだよね、なんだか不思議だなぁ。)
「どうしたのなのは?私達の方を見てニヤニヤして?」
「何でもない、シン君は何になりたいの?」
「俺か?俺は……皆を守れるんだったらなんでもいいかなー。」
「あはは、シン君らしいねー。」

 

時は戻り現代、なのははオーブ軍基地の誰もいない格納庫に一人でやって来ていた。
「……レイジングハート。」
『はい。』
なのはは胸に掛けていたレイジングハートを取り出し、それを天高く掲げた。
「レイジングハート……セーットアーップ!」
『…………。』
しかしレイジングハートはうんともすんとも言わず、なのはは落胆の表情を浮かべながら俯いてしまった。
「やっぱり駄目か……。」
「なのは。」
すると落胆するなのはの元に、缶ジュースを二つもったユーノがやってきた。
「ユーノ君……。」
「また……魔法の練習をしていたの?」
「うん、これが毎日の日課だったからね、本局に帰ったらお仕事も沢山残っているし、いつまでも休んでいられないよ。」
「そう……だね……。」
笑顔で語るなのはの顔を、ユーノは少し辛そうな表情で見ながら手に持っていた缶ジュースを彼女に渡した。
「…………。」
そして二人は隣同士になりながら適当な所に座り、無言のまま缶ジュースをちびりちびりと飲んでいた。
「ねえユーノ君。」
ふと、永く続いた沈黙がなのはの一言によって破かれる。
「なんだい?なのは……。」
「私……もう一度魔法が使えるようになるのかな?」
ユーノはその問いに何も答える事が出来なかった。

 

「うーん……やっぱりなのはさんのリンカーコアはまだ修復されていませんね……。」
その頃アースラのメディカルルーム、そこでリンディはシャーリーから以前実施されたなのはの身体検査の結果を聞かされていた。
「そう……時間が経てば治ると思ったけど駄目なのかしらね……。」
「なのはさんが時の方舟に囚われて私達と戦った際、かなり強制的に魔力を放出させられていましたからね……さらになのはさんの場合、7年前の闇の書事件や5年前の大事故の際に負ったリンカーコアの破損も遠因になっているみたいです。このままじゃ一生回復しないかも……。」
「…………。」
リンディは悩ましげに眉間を抑えながら、シャーリーから渡されたカルテを片手にふうっと溜息をついた。
「とにかくこの件は本人に……後はやてちゃん達にも黙っておきましょう、彼女達なら多分必要以上に責任を感じちゃうと思うから……。」
「わ、わかりました……。」

 

その頃食堂では、フェイトやはやて達ヴォルケンリッターの面々が、なのはの事で話合っていた。
「なのはちゃん……今日も魔法の訓練に行ったんかなぁ。」
「多分ね、あの事故以来朝練はしていなかったのに、ここ最近また始めたみたい。」
「そうか……だが何故高町なのはのリンカーコアだけ消失したのだろう?主はやてやテスタロッサだって同じく奴等に囚われ、同様の洗脳を受けただろうに……。」
「…………。」
そして淡々と話し合うフェイトやはやて達を見て、アイスティーを飲んでいたヴィータは俯いてしまう。その様子に気付いたリインⅡは心配になって彼女に話しかけた。
「どうしたですかヴィータちゃん?なんだか元気なさそうです……。」
「うん……もしかしてなのはの魔法が使えなくなったのは私達のせいなんじゃないかって思って……。」
「ヴィ、ヴィータちゃん……!」
その瞬間、彼女達を取り巻く空気が一瞬で冷たくなってしまった。
「あ、あれ……?どうしたですかみんな?」
「リイン。」
リインフォースは場の空気が悪くなったのをいち早く察知し、妹のリインⅡを手で制した。
「そうやな……なのはちゃんがああなったのも、私らにだって責任があるわな。」
「アタシが……アタシがあの時ちゃんとなのはを守っていればこんな事にならなかったんだ……!」
「…………。」
はやて達ヴォルケンリッターはそれぞれ自分達の過去の行いを悔み、自分を責めていた。
そんな中フェイトだけは、彼女達とは別の理由である悩みを抱えていた……。

 

数分後、フェイトはミネルバに赴き先程の出来事をシンやスウェン達に相談していた。
「そっか……そっちのモチベーションは最悪なんだな。」
「流石に気にするな……とは言えないだろうな、というか闇の書事件は俺も加担していたし……。」
「うん……それもそうなんだけど……。」
シンとスウェンは少し落ち込んでいる様子のフェイトが気になって彼女に声を掛ける。
「どうした?何か悩んでいるのか?」
「うん……なのはがああなったのも元はと言えば時の方舟のせいだし、フェリシアがその事を知ったら傷つくかもって思って……。」
「あ……。」
「む……。」
シンとスウェンは今基地に捕虜として囚われているフェリシアの事を思い出し、深く悩みこんでしまう。
「フェイトはやっぱりフェリシアの事が心配なのか。」
「当然ですよ、生まれ方がちょっと違うからって、あの子は血のつながった妹なんですから……。もちろんなのはの事も心配ですし……。」
「…………。」
そう言ってなのはやフェリシアの事を想うフェイトの横顔を見て、シンもまた頭の中で色々と思案していた。
(フェイトは優しいな……やっぱりプレシアさんの事があったから尚更フェリシアの事が心配なんだな。俺もなんとか出来ないかな……。)

 

そしてシンは考え事をしながら置いてあった缶ジュースに口を付ける。それに気付いたフェイトはある指摘をする。
「あ、あのシン……それ私のオレンジジュースなんだけど……。」
「へ?」
シンはその時初めて、自分の手に取ったジュースがフェイトの物だという事に気付いた。俗に言う間接キッスって奴だった。
「……………。」
「……………。」
「どうした二人とも?顔が郵便ポストみたいだぞ?」
その瞬間、シンとフェイトは顔を真っ赤にし大量に汗を飛び散らせながら反射的に席を立った。
「おおおおれ!レイとルナと一緒にMSシミュレーション訓練してくるー!」
「わわわわたしちょっとキャロの様子見に行ってくるねー!」
「え?おい?」
そして二人はそれぞれ別の方角に足早に去って行った、呆気にとられているスウェンを残して……。
「どうしたというんだ二人とも……?」
「さあ?アニキには多分わかんないッスよー。」
するとそこに、何かの書類を持ったノワールがスウェンの元にやってきた。
「ノワール……シャムス達から連絡が来たのか?」
「はい!調査の方は大分進んでいるそうッス!サーペントテールの皆さんやマーシャンの皆さん……それにジャンク屋の皆さんも手伝ってくれているおかげッスね!」
「そうか、あのストライクEやこの前届いたノワールストライカーを作ってくれたのも彼等のおかげだったな……ここまで戦ってこれたのも彼等のおかげ、そして……。」
スウェンはそのまま、テーブルの上にチョコンと座っていたノワールの頭を撫でた。
「お前がずっと支えてくれていたお陰だ、ありがとうノワール。」
「へへ……どういたしましてッス!」
ノワールは心地よさそうに自分の頭を撫でるスウェンの手をさすっていた……。

 

それから数時間後の事、特にする事がないなのはは基地を出てオーブの海岸沿いをレイジングハートと一緒に散歩していた。
「オーブの風って気持ちいいねレイジングハート、まるで海鳴にいるみたい……。」
『そうですねマイマスター。』
なのははそう言って体をうんと伸ばし、最近下降気味の自分のモチベーションをあげようとしていた。
「うん……?あそこに居るのは……?」
ふと、なのはは自分から離れた場所で誰かが魔法の訓練をしている事に気付く。
『あそこにいるのはマユ・アスカとデスティニーですね。』

 

「それではマユさん、私がこの空き缶を宙に放り投げますのでその間に魔力弾をできる限り命中させてください。」
「わかったよデスティニー!お願いね!」
デスティニーはマユの合図を受け、何も入っていないスチール缶を空に放り投げた、それを確認したマユは指先からピンク色のゴルフボールサイズの魔力弾を放出し、それを宙に浮くスチール缶に向けて飛ばした。
「むむむ……はー!」
マユは人さし指で魔力弾をコントロールしながらスチール缶に当てようとする、しかし魔力弾は空を切るばかりで一向に当たらず、スチール缶は地面に落下しようとしていた。
「もー!これでどうだ!」
やけになったマユは魔力弾を空き缶の真上に移動させ、そのまま指をくいっと下に下ろしてスチール缶を地面に叩き落とした。
「どうデスティニー!?一発当てたよ!」
「う~ん、発想はいいと思うのですがこれは何発当てられるかの訓練でして……。」
マユの問題児っぷりに頭を抱えるデスティニー、すると彼女達の元になのはがぱちぱちと拍手をしながら近づいてきた。
「それでもスピードとパワーは申し分ないよ、あとはもっと力を抜いて冷静さを維持できればもっと良くなると思うな。」
「え!?な、なのはさん!?」

 

数分後、マユとデスティニーは魔法の訓練をいったん中断し、なのはと共に海岸を散歩しながら語り合っていた。
「それにしても驚きだね、マユちゃんが魔法の訓練をしているなんて……。」
「えへへ、3年前からちょっと練習を始めていまして……お兄ちゃんやデスティニーにコーチを頼んでいるんです、まああの戦争以来ずっと自習だったんですけどね、これでも大分うまくなったと思うんですけどねー。」
「いえいえ彼女はまだまだです。いくら私が数年間眠っていたとはいえ、もっとスキルアップしていただかないと……。」
「ぶー!デスティニーのスパルタ教育ママー!」
手厳しい意見を言われたマユは頬をプクーっと膨らまし、自分の隣で浮いているデスティニーを睨みつけた。
そんな微笑ましい光景を見て、なのはは思わず何日か振りに笑みをこぼした。
「にゃはは、仲良しさんなんだね……それにしてもマユちゃん、なんで魔法の練習をしていたの?」
「え?そ、それは……。」
マユはなのはに質問されたとたん、恥ずかしそうに頬を染めながら彼女から視線をそらした。
「あれ?どうしたのマユちゃん?」
「どうということはないです、マユさんは憧れの人を前にして少し緊張しているのですよ。」
「で!デスティニー!」
次の瞬間、マユはハエをつぶすように30センチ程しかないデスティニーの体を両手で挟んだ。
「むぎゅ!」
デスティニーはそのままクルクル回って地面に落下していった。
「私に憧れている……?どういうこと?」
そして不思議そうに質問してくるなのはの雰囲気に押し負け、マユはモジモジしながら語り始めた。
「お、お兄ちゃんから聞いたんです、なのはさんやフェイトさん、はやてさん達の事を……私と同じ年齢だった頃の女の子達がいろんな大事件に関わってそれらを解決に導いたって聞いて、私すごくかっこいいなって思ったんです、アニメや漫画の中にしかいなさそうな女の子達が本当にいるって思うとワクワクしてきて……それでお兄ちゃん達に我儘言って魔法のコーチをして貰っていたんです。二年前の戦争の時に怪我してブランクとかもありますけどね。」
「ほぇー、そうなんだー。」
なのははマユの話を感心した様子で聞いていた、そしてふと目にとまった砂浜に落ちていた空き缶を拾い上げた。
「懐かしいなぁ……私も魔法を覚えたばかりの頃はよく空き缶を使って訓練していたかなー。」
「そうなんですか?他にはどんな事してたんですか?」
マユはなのはの話を目をキラキラさせて聞こうとしていた。対してなのははそんな彼女を見て思わずぷっと吹き出してしまう。
「ふふふっ、マユちゃんって本当に魔法が好きなんだね、よかったら私がコーチになってあげようか?」
「え!?いいんですか!?」
なのはの思いがけない提案に、マユは思わず飛び上がりそうになるぐらい喜んだ。
「ただし、私の教え方はちょーっとスパルタだよ、それでもいい?」
「えへへ!受けて立ちますよ!」

 

こうしてマユは毎日なのはの魔法の訓練を受ける約束を取り付けたのだった。
それから数日後の事……。
「それじゃお兄ちゃん、行ってきまーす!」
「マユさんの事はお任せくださいマスター。」
オーブ軍基地の食堂でシン達と朝食を取っていたマユは、そのまま兄と別れてデスティニーを連れてなのはの待つ海岸へ向かって行った。
「怪我とスターライトブレイカーには気をつけろよー。」
「なんて注意の仕方よ……。」
「だがあながち間違いではない、我々も実際あれの威力を目の当たりにしているからな。」
「でもいい傾向じゃないか、あのなのはって子も最近元気を取り戻してきたみたいだしな。」
「そうですね……。」
ハイネの意見にシンは微笑みながら返事をし、そのまま独房のほうに歩み始めた。
「また今日もフェリシアのところに行くのか?」
「ああ……時の方舟の事も聞き出したいからな、みんなも来るか?」
シンの提案に、ルナはあることが気になって質問をぶつけてくる。
「もしかしてさ……フェイトも来るの?」
「うん?ま、まあな……アリシアとリニスも立ち会うみたいだし……。」
「なら行くわ。レイとハイネはどうするの?」
「俺も行こう、彼女の様子が気になる。」
「俺はパス!これからアスランとちょっと話し合いがあるんだ、それじゃあな。」
そしてハイネはシン達と別れ、アスラン達が待つミネルバのある方角に歩いて行った。
「そんじゃ俺達も行くか……そういやフェリシアって名前、随分と定着したなー。」
「まあアリシアって名前が二人もいたら混乱するわ。それにしてもレイ……アンタ最近、随分とフェリシアと仲がいいみたいじゃない、名付け親はアンタだし……。」
「何を言っている、さっさと行くぞ。」
レイはルナの冷やかしをモノともせず、足早に独房の方へ歩いて行った。
「あいつ……まさか照れてんのか?」
「かわいいトコあるじゃない、さ、私たちも……い、行きましょう。」
そう言ってルナはシンの腕を取り、彼の腕を自分の胸に押しつけるようにしながらひっぱって行った。

 

その頃マユとデスティニーは(なぜか持って来ていた)体操服にブルマー、そしてハチマキに着替えてなのはの待つ海岸にやって来た。
「なのはさーん!おはようございまーす!」
「おはようマユちゃん、今日も元気いっぱいだねー。」
「えへへー、あれ?」
その時マユはなのはの隣にユーノがいることに気付いた。
「今日はユーノ君も一緒にマユちゃんの先生をする事になったの。」
「よろしくね、マユちゃん。」
「は、はい!こちらこそお願いします!」
そしてなのはは足もとに置いてあった袋から空き缶を取り出し、それを持ちながらマユにこれからする事の説明を始めた。
「それじゃまず基礎をもっと固めることから始めよっか。マユちゃんは結構練習しているみたいだから、空き缶の数を増やしてみよう。」
「はい!」
そしてマユとなのは達による魔法の練習は夕方まで続いた……。

 

その日の夕方の事、オーブの人が行き交う繁華街を一人の少年……眼鏡に学生服といった格好で変装したカシェルが歩いていた。
「ここに来るのは二回目か……。」
ゲイザーからとある任務を受けたカシェルは、ある情報を集める為オーブ軍基地に向かっていた。
「“囚われているアリシアを迅速に保護し、あわよくば処分しろ。”か……。」
そう一言つぶやいた後、カシェルは深く溜め息をついた。
「なんでわざわざ俺にやらせるんだよ……まさかあいつ俺の忠誠心を測っているのか?とにかくなんとかして基地に潜り込まなきゃな……。」
その時、彼の携帯電話に一通のメールが届いた着信音が鳴り響いた。
「メール……?一体誰から……?」
カシェルは不思議に思いながらメールの内容を確認する、そして差出人を見て目を見開いた。
「なんであの人がこんなものを……!?と、とにかく準備しなきゃ……!」
そう言ってカシェルは慌ててある場所に向かって歩を進めたのだった……。

 

そのころ、オーブ軍基地にある捕虜収容所……そこにある牢屋の中にフェリシアは体育座りをしながらじっと息を潜めていた。
(はぁ……私これからどうなっちゃうんだろ?もしかしたらゲイザーが私を消しにくるかもしれないし、このままオーブ軍に処刑されるかもしれないし……。)
フェリシアは自分に訪れるかもしれない暗い未来に、少しばかり憂鬱になっていた。

 

カシャン

 

その時、鉄格子の向こうで何か金属の物体が落ちる音が聞こえてきた。
「……?」
フェリシアは恐る恐る鉄格子の向こうを見る、すると地面に鍵が彼女の手に届く位置に置いてあった。
「この鍵……もしかしてこの牢屋の?まさか……?」
(アリシア。)
するとフェリシアの耳に、とても小さな声で彼女に話しかけてくる男の声が入ってきた。
「もしかして貴方は……!?」
(そのまま黙って聞け、今夜一時、そのカギを使ってここから脱出し、格納庫にあるムラサメを使ってこの基地から逃げろ、外にはカシェルも待っている。)
「な……ちょっと待ってよ!」
だがその声の主はフェリシアの制止も聞かずにどこかへ行ってしまった。
「これを使って逃げろだなんて……!でも……!」
フェリシアは自分の元々の使命と、ここにいるフェイトやアリシア、そしてレイ達の顔を思い浮かべ心の中で葛藤する。
(私は……あの人の為に……。)

 

その日の夜、シンとレイはミネルバの自室でフェリシアのことについて話し合っていた。
「なあレイ、フェリシアはこれからどうなるんだろうな?」
「こればかりは俺にもわからん、彼女は管理局でいう時空犯罪者であるし、コズミックイラの人間にとっては高官達を誘拐した重罪人だ、まずどっちに引き渡すかで論じることになるだろう。」
「そうか……俺としては弁護してあげたいんだけどな、あの子は自分の生い立ちも知らず自分がアリシアだと思い込んであんなことをしてしまったんだ。それでも納得できない人は絶対いるだろうけど。」
「難しいものだな……。」
その時、彼らの部屋に慌てた様子のルナマリアが入ってくる。
「ふ……二人とも!大変よ!」
「どーしたんだよルナマリア?ノックぐらいしろよ。」
「そんな場合じゃないのよ!フェリシアが……!」
「フェリシアがどうかしたのか?」
ルナは走った事により乱れた息を深呼吸して整え、シン達に向かって叫んだ。
「フェリシアが……脱走しちゃったのよ!」

 

数分後、オーブ市街上空に一機のMA状態のムラサメが飛翔していた。そしてその背後を、別のムラサメが追いかけていた。
『そこのムラサメー!止まらないと攻撃するぞ!』
『よせ!ここは市街地だ!市街地に墜落したら大変なことになるぞ!』
『くそっ……!それならどうすればいいっていうんですか!!?』

 

「確かこの辺に……!」
アリシアはコックピットの中でレーダーを操作しある機体を探していた。その時彼女の眼の前にM1アストレイが姿を現した。
『援軍か!?すまないがその機体を取り押さえてくれ!』
『…………。』
オーブ兵の指示に呼応するように、M1アストレイはビームライフルを構え、そのまま二回引鉄を引いた。

 

ボォォォォン!
『うわあああ!!?』
ドォォォォン!
『あああああ!!?』

 

だがビームライフルから放たれたビームはオーブ兵達の乗っていたムラサメの翼に直撃し、二機は人気のない森へ緊急着陸していった。
「……相変わらず腕はいいようね、カシェル。」
『お迎えにあがりました、アリシア様』
「私はアリシアじゃないんでしょ?そんなに礼儀正しくしなくていいわよ。」
『…………。』

 

「フェリシアーーー!」
その時、彼女達の背後からシンの乗ったデスティニー、ルナとレイが乗った二機のザク、そしてバリアジャケットに身を包んだフェイトと彼女の背中に乗ったアリシアがやってきた。
「まってアリシア!どうして……どうして脱走なんか!!?」
「逃げたりしたら罪が重くなるんだよ!?今ならまだ間に合う!早く戻ってきて!」
必死に懇願するフェイトとアリシアを見て、フェリシアは首を横に振った。
「ごめんね、私……どうしてもある人に確かめたいことがあるの、だから……さようなら。」
「そんな……!フェリシア!」

 

一方シン達はM1アストレイに乗るカシェルに通信を入れていた。
『お前……!フェリシアを連れて行ってどうするつもりだ!?また彼女を利用するつもりか!!?』
『…………!』
シンの訴えに対し、カシェルは少し苛立ちを含みながら話した。
『シン・アスカ、君たちに言っておきたいことがある、よく聞くんだ……!君たちはこれからもう“何もするな”、MSは貰うが人質はちゃんと返す、その代わりお前達は“この世界”から一歩も出るんじゃない、いいね……!』
『な……!?なんだよそれ!?おい!?』
そう言ってシンはカシェルとフェリシアを止めようとしたが、彼女達のMSの足もとに魔法陣が現われ彼等はその中に入ってどこかへ転移してしまった。
「フェリシアー!!」
『クソッ……!何故だフェリシア!』
『レイ……。』
いなくなってしまったフェリシアを思い、フェイトとアリシア、そしてレイは悔しそうに歯ぎしりし、シンは彼らに慰めの言葉を掛ける、そんなシンにルナマリアが通信を入れてきた。
『シン……さっきカシェルが言っていた言葉……一体何だったんだろう?』
『さあな、とにかく一度基地に戻ろう……皆に報告しなきゃいけないしな、ほらフェイト。』
「うん……行こうアリシア。」
シンに促され、フェイトとアリシアはデスティニーの手に乗り、レイ達と共にオーブ軍基地に戻って行った……。

 

次の日、オーブ軍基地の指令室、そこでカガリ、ラクス、タリア、マリュー、ネオ、リンディ、そしてアリューゼは一同に会して今後の事を話し合っていた。
「まさかフェリシアさんが逃げ出してしまうとは……彼女にはワタクシ達の思いが届かなかったのでしょうか?」
「残念だがな……そうとしか考えられないだろう、全く持って残念だ……。」
ラクスとカガリはフェリシアを想ってとても残念そうに俯いていた、そんな彼女達に、年上であるマリュー、タリア、リンディが声を掛ける。
「ラクスさんやカガリさんのせいじゃありませんよ、だから元気だしてください。」
「それにしても何故フェリシアはあの牢から脱出できたのでしょう?鍵は掛かっていた筈なのに……。」
「それが解らないのよね……部下の話によると鍵がいつの間にか無くなっていたみたいなんだけど……。」
(まさか内通者が?でもここの人達を疑うのはちょっと……。)

 

「それで?俺達はこれからどうするんです?このままヘブンズベースに向かってアイツ等と雌雄を付けるんですか?」
「君はどう思うのかね?ネオ・ロアノーク大佐。」
「俺は……このままヘブンズベースに向かうのはどうかと思いますね、アイツ等がなんで高官達やなのはちゃんの親達を攫ってまで俺達のMSを欲しがるのか……そこんとこがどうも解らなくて。」
「確かにな……。」

 

「失礼します。」
すると会議室にノートパソコンを持ったスウェンが入って来た。
「あらスウェン君?どうかしたの?」
「ちょっと皆さんに伝えておきたい情報がありまして……。」
「情報?一体なんですの?」
「コレを見てください。」
そう言ってスウェンはパソコンを会議室にあるモニターに繋ぎ、クレーターのような場所の見取り図を皆に見せる。
「これは……どこかの爆心地なのスウェン君?」
「……!ここってまさか……!」
リンディは見取り図を見てもピンと来ていなかったが、マリューは何かに気付いたのか思わず席から立ち上がった。
「ここはもしかして……アラスカ基地なの?」
「基地?私にはクレーターにしか見えませんが……。」
いまいち状況が飲み込めていないリンディに、カガリとマリューが解りやすく解説する。
「正確には基地があった場所だな、あそこは二年前まで連合軍の最高司令本部があったんだ、でも戦争でザフト軍に攻められて……いや、連合軍がザフト軍を誘いこんである兵器を使って基地ごと焼き払ってしまったんだ。」
「サイクロプスという兵器を使って……巨大な電子レンジのようなものと思ってください、当時私達アークエンジェルのメンバーもその場に居合わせていました。もしムウやキラ君が助けてくれなかったら今頃私はここに居ないでしょう。」
「そ、そんな恐ろしい兵器があるなんて……!」
リンディはサイクロプスの威力をカガリ達の説明とクレーターと化した基地跡の映像を見て知って思わず身震いする。
「それで?君は何故アラスカ基地の映像をわざわざ見せようなんて思ったんだい?あ、まさか……。」
「そのまさかです、俺はここに来る前、サーペントテールという傭兵と接触し、彼らにある依頼をしました、その依頼の内容は……。」
「時の方舟の……本拠地を捜索させたのですね?」
ラクスの問いにスウェンはコクンと頷き、さらに話を続ける。

 

「ここはサイクロプスの影響で高濃度の放射能がばら撒かれて立ち入り禁止になっています、でも時の方舟はそれを逆手にとって結界を張ってここに本拠地を構えているのです。」
「成程……道理で見付からないわけね、次元空間なら管理局補足されるかもしれないし……うまく考えたものだわ。」
「だから彼女達は移動に転移魔法を使っていたんですね、本拠地の周りにある放射能を浴びないように……。」
「ふむ……よくやってくれたなスウェン、さて……この情報をどのように有益に使うか。」
そう言って会議室にいた全員が何かいい作戦がないか思案する、そして数分後……アリューゼが口を開いた。
「こうしてはどうでしょう?我々だけでアラスカ基地に赴き、奴等の本拠地を占拠するのです、そうすれば時の方舟のバカげた要求を飲むことはしないで済む。」
「うーん……どうだろうか?アイツ等も相当な戦力をあそこに配置している筈だぞ。」
「そこは大丈夫でしょう、我々にはフリーダムやデスティニーといった一対複数に適した機体を持っている、決して無謀な作戦とは言えないです。」
「いかがいたします?カガリさん?」
「…………。」
ラクスにの問いかけにカガリはしばらく考え込み、そして答えを出した。
「よし……!我々オーブはヘブンズベースに合流せず、アラスカ基地に行ってみよう!そして人質達を救出し奴等の野望を阻止する!タリア艦長、アリューゼ大佐、すまないがアナタ達の上司に我々の作戦の内容を伝えておいてくれ。」
「「わかりました。」」

 

こうしてカガリ達は急遽予定を変更し、ヘブンズベースは連合とザフトの本隊に任せてアラスカ基地跡に向かうのだった……。

 

それから数日後、時の方舟がMSと高官達の交換を指定した日の前日、アークエンジェルとミネルバ、そして数隻のオーブ軍の軍艦とアリューゼが乗ってきた連合軍の戦艦はアラスカへ向かう為に太平洋上を横断していた。
そしてミネルバの船内ではシンとフェイトはお互いに語り合いながら窓の外の景色を見つめていた。
「もうすぐ決戦だね、シン……。」
「ああ、そうだな……長いようで短かった戦いもこれでようやく終わるんだ。」
「うん……。」
フェイトはふと、視線を下に向けシンの手を見る。
(今なら……握っても大丈夫だよね?)
そんな事を考えながらフェイトはシンと手を繋ごうか大いに悩んでいた。
(どうしよう?昔みたいに握って嫌がられたりしたら……でもこんなチャンス滅多にないし……。)
「フェイト、ちょっといいか?」
「ふぇ!!?」
その時、シンは意を決したかのようにフェイトに声を掛け、彼女を驚かせてしまう。
「どどど!どうしたのかなシン!!?」
「あ、あのさ……今回の戦いが終わったらフェイト達、ミッドチルダに帰っちゃうんだよな?」
「う……うん、まあね。」
「…………。」
シンは何か言いたそうにしているのだが、何故が踏ん切りがつかず前髪をくるくると指に捲いていた。

 

フェイトの心の中
(どうしたんだろうシン……まさか告白?ははっ、まさか、自意識過剰すぎるよ私。)

 

シンの心の中
(もうすぐ離れ離れになるし、今回の作戦でもしもって事もあるし、やっぱり……言っておいた方がいいのかな?)

 

そんな二人の様子を、シンの相棒であるユニゾンデバイスのデスティニーはゴミ箱の影から生温かい目で見守っていた。
(主!そこです!ガツンと言ってブチュッといっちゃってください!)

 

(なんか変なプレッシャーを感じる……。)
「ど、どうしたのシン?具合悪いの?」
「そ、そうじゃない、実はその……フェイトに聞いてもらいたいことがあって、その……。」

 

「おや?君達こんな所で何をしているんだい?」
するとシン達の元に、アリューゼが陽気に声を掛けてきた。
「あ、アリューゼ大佐……。」
「こ、こんにちは……。」
(こ……この親父!主の一世一代の告白の邪魔をして……!)
その時アリューゼは2人の様子に気付いたのか、ばつが悪そうに頭を掻いた。
「ありゃりゃ……こりゃいい雰囲気だったのに邪魔しちゃったかな?」
「ほうぇ!!?」
「い……いやいやいや!そんな事は……!」
「はっはっは!なんだか君達を見ていると昔の私を思い出すよ!特にフェイト君は私の妻の若い頃にそっくりだ。」
「ど、どうも……。」
そしてアリューゼは去り際に、シンの耳元でそっと囁いた。
(大切にするんだぞ……あんな女神みたいな子、そうそう出会えるものじゃないからな。)
「え?あの……。」
アリューゼはそのままどこかへ行ってしまい、その場にはシンとフェイトが呆気にとられたまま取り残されていた。
「シン……?さっきアリューゼさんになんて言われたの?」
「いや……なんでもない、それよりもフェイト。」
そう言ってシンはフェイト正面に立ち、彼女の目をしっかりと見据えた。
「な、なんでしょう!?」
「あのさ……もしこの戦いが終わったらさ、俺……フェイトに言いたい事があるんだ、もしその時になったら聞いてもらえるかな?」
「言いたい事?一体何を……?」

 

すると彼らの元に、今度はマユとキャロがやって来た。
「おにいちゃーん!フェイトさーん!クロノさんが会議始めるからお兄ちゃんを呼んで来いってー!」
「早く来てくださーい!」

 

「あ……作戦会議かな?」
「そうみたいだね、それじゃ行こうか。」
2人はお互い頷くと、マユとキャロと共にブリーフィングルームへ向かって行った。

 

「ちっ……!邪魔が入ったか!」
その様子を見ていたデスティニーは悔しそうに指をパチンと鳴らした。

 

そしてアークエンジェルとミネルバはアラスカ基地に向かって着々と進んでいた、その先に……とても悲しい真実が待っているとも知らずに。