魔動戦記ガンダムRF_23話

Last-modified: 2011-08-13 (土) 23:08:51

アークエンジェルやミネルバを始めとしたオーブ艦隊は、アラスカ基地跡に本拠地を構える時の方舟と戦う為、太平洋を横断していた。すると彼らの前に一隻の戦艦が待ち構えていた。

 

~アークエンジェルブリッジ~
「艦長!前方に戦艦が……あれはマーシャンの戦艦、アキダリアです!」
「マーシャン……?何故彼らがここに……。」
そう言って首を傾げるミリアリアとマリューの元に、スウェンから通信が入って来た。
『彼らは俺の協力者です、おそらくサーペントテールもあそこに……皆さんはここで待っていてください。』

 

そしてスウェンはノワールと共に単身アキダリアに乗り込み、ブリッジにやって来た。
「おおスウェン!来てくれたか!」
「お元気そうで何よりですよ。」
「アグニス、ナーエ……久しぶりだな。」
「お久しぶりッス!」
そう言ってスウェンはアグニスとナーエに交互に握手を交わし、久しぶりの再会を喜んでいた。」
「それで状況は?アイツ等の基地はどうなっている?」
「俺達は魔法の事はサッパリだがな、ルネッサという者のお陰で場所の特定や状況の把握が大分楽だったぞ、彼女の話によればやはり基地跡に転移反応とやらが頻繁に起こっているらしい。」
「そうッスか……いよいよ準備が整ったんスね!」
「とにかく俺達も君達の作戦に協力しよう、今サーペントテールの者達や君の友人達も来ているぞ。」
「ミューディーとシャムスが……そうか。」

 

数十分後、アークエンジェルに戻って来たスウェン達は格納庫で自分のストライクEにノワールストライカーを装着する作業に入っていた。
「これでストライクもパワーアップッスね!アニキ!」
「ああ……。」
するとそこにはやてとヴォルケンリッターの面々がスウェン達の様子を見にやって来た。
「あ、スウェン……アキダリアから帰って来たんやな。」
「もうそろそろお昼だしメシに誘うか。」
そう言ってはやて達はこちらに気付いていないスウェンの元に向かおうとした。
「おーい、スウ「やっほ~~~!スウェーン!」
だがそこに、派手な格好をした女性が横からスウェンに抱きついてきた。
「「「「「「「「!!!?」」」」」」」」
「うわっ……!?ミューディーか、こっちに来ていたのか……。」
「俺も居るぜスウェン。」
すると彼女の背後から褐色の肌の青年がやって来た。
「シャムス、お前も来ていたんだな。」
「ああ、今回の件は言わば総仕上げだからな……ロウに頼んで俺達もオーダーメイドのMSを持って来たんだ、ヴェルデバスターとブルデュエルつってな……ん?」
その時シャムスは少し離れた場所で呆気にとられて固まっていた八神家を見付ける。
「お!もしかしてあの子達がお前の言っていた八神家か?」
「え!?うわホントだ!生で見るの初めて!」
「あ……どうも。」
(元気な人達ね……。)
はやて達はシャムス達のテンションに圧倒されながらも、一応ぺこりとお辞儀した。
「あ、はやて、それに皆……彼らはシャムスにミューディー、二人とも子供のころからの付き合いなんだ。」
「子供の頃とは……もしやファントムペインの?」
少し深刻そうなリインフォースの問いに、シャムスは陽気に答えた。
「ん?ああ俺達も頭の中弄くられたクチさ、まあスウェンが早めに逃がしてくれたからコーディネイターに対する憎しみとか全然ねえんだけどな!」
「なんだかシャムスさん映画に出てくる陽気な黒人さんみたいですー……はやてちゃん?」
その時リインⅡは、はやてがミューディーの方をじーっと見ている事に気付いた。

 

はやての心の中
(なんやあの子……オッパイデカッ!そしてなんやあの格好!?ローライズっていうん!?パンツの紐見えているやん!?)

 

「主―?どうかしたんですかミューディー殿の格好をジッと見たりして?」
「え?ああいや、今度私のバリアジャケットのデザインを変えよっかなーと思って……ちょっと露出増やそうかと……。」
「あはははは!面白い子ねアナタ!スウェンの言った通りだわ!」

 

その頃ブリッジでは今後の作戦内容を確認するため、カガリとマリュー、そしてリンディがサーペントテールのリーダーである劾とイライジャと会談していた。
「あなたが叢雲劾……話はお父様から聞いておりますわ。父に代わってニュートロンジャマーの件、お礼を言わせて貰います。」
「あの時は……別のデータがラウ・ル・クルーゼによってアズラエルに渡ってしまったので成功したとは言わん。だが今回の依頼は必ず成功させてみる。」
「そういうわけだ歌姫さん、俺たちにどんと任せておけよ。」
そう言って劾の隣にいたイライジャは自信満々に宣言した。
「ふふふ……頼もしいな、さすがは勇名高いサーペントテールだ!マーシャンの面々も手伝ってくれると言っているし……これならユウナ達を助け出せるな!」

 

「……。」
その時シートに腰かけていたマリューは、隣にいたリンディが不安そうな顔をしていることに気づき、彼女に声を掛ける。
「どうしたんですかリンディさん?そんな顔をして……。」
「いえ……何だか嫌な予感がして……このまま彼らの本拠地に進んでも大丈夫なのでしょうか?うまく行き過ぎているような……。」
「考えすぎじゃないですか?私たちの戦力は万全です、もし向こうがどんな戦力を投入したって負ける要素は……。」
「それはわかるんです、でも……。」
リンディは不安な気持ちを振り払えずに、アークエンジェルが向かっているアラスカの方角を見つめていた……。

 

それから二時間後、オーブ艦隊はアラスカ領内に入り、アラスカ基地が視認できるところまで接近した。

 

~ミネルバ格納庫~
『各MSは出撃準備に入ってください!繰り返します!各MS部隊は……。』
ミネルバにメイリンのアナウンスが入り、シン達MSパイロットは自分の愛機に乗り込む準備をしていた。そこに……。
「シン!」
パイロットスーツに着替えたシンのもとに、フェイトがやってきた。
「フェイト……どうしたんだ?ここに居たらヨウラン達の邪魔に……。」
「うん、わかっている、でも……どうしてもシンと話がしたくって。」
「…………。」
そう言ってフェイトはシンの手を握り、不安そうに語りだした。
「もうすぐ出撃なんだね、戦場は放射能汚染がひどいところだから私は行けないけど……アリサ達、大丈夫だよね?」
「もちろんさ、俺達が絶対助け出してやる、だからフェイトは待っていてくれ。」
「う、うん……それと……。」
フェイトはまだ何か言いたそうに、上目づかいでシンの顔を見る。
「フェリシアの事……お願いね。」
「うんわかってる、絶対連れ戻してくる、そして……終わったら俺の話、聞いてくれよな……。」
そしてシンはフェイトの頭を撫でた後、自分の愛機であるデスティニーに乗り込んでいった……。

 

「帰ってきてね……シン。」

 

「はぁ~……見せつけてくれちゃってさ~。」
そんなシンとフェイトの様子をルナマリアはフォースインパルスのコックピットの中で観察していた。
「まるで映画の中のシチュエーションね、物陰で覗いていたヴィーノとヨウランが恥ずかしさのあまり転げまわっているし……。」
ルナははぁっと溜息をつき、そのまま正面のモニターに向き合った。
「まだよ、まだ負けないんだからね……。」

 

そして数分後、カタパルトデッキからデスティニーで出撃したシンは、アキダリアから出撃したアストレイブルーフレームとジンヘッドのザクから通信を受けていた。
『お前がシン・アスカか、こちらはサーペントテールの叢雲劾、今回はよろしく頼む。そしてこっちが……。』
『イライジャだ、よろしく頼むよ……“後輩”君。』
「あんた確か英雄殺しのイライジャ……元ザフト軍だったな、今回はよろしく頼む。」
するとシンの背後からミネルバから出撃したレイのレジェンド、ルナのフォースインパルス、アスランのセイバー、ハイネのグフイグナイデッド、連合の戦艦からはネオのアカツキ、スティングのカオス、アウルのアビス、ステラのガイアが出撃していた。
『シーン!今日はステラとがんばろーねー!』
『ちょっとステラ!抜け駆けするつもり!?』
『なんでそうなるんだよ……。』
『よっしゃ!手柄立ててシャマルさんにほめてもらおっと!』
そしてさらに背後からはアークエンジェルから出撃したキラの修復されたフリーダム、アキダリアから乗り込んだシャムスのヴェルデバスターとミューディーのブルデュエル、そしてノワールストライカーを装備したスウェンのストライクノワールがやってきた。
「キラさん……フリーダム直ったんですね。」
『うん、マードックさんやエリカさんが頑張ってくれてね……。』
『アンタがスウェンの言ってたシンね!よろしく!』
『詳しい自己紹介はこの作戦が終わってからにしようぜ!』
『シン……この戦い、絶対に勝とう、また一歩進むために……。』
「わかっているよ。」

 

「主。」
するとシンの耳元に、ユニゾンデバイスのデスティニーが声を掛けてきた。
「なんだ?デスティニー。」
「…………いつの間にか大所帯になってきましたね。」
「ああ、アリシアの言うとおりになったな“君なら仲間が沢山できる”って。」
「私は……それが無償にうれしいです、主はもう一人ぼっちじゃない、裏切られる事はもうないんですから。」
「はあ?なんだそれ……。」

 

するとシンの元に、ハイネとネオから通信が入ってきた。
『坊主!別の場所で待機していたサーペントテールの仲間が奴らの本拠地の座標を割り出したそうだ!もうすぐ見えてくるぞ!』
『うわっ!なんつーデザインだよ……。』
そう言って時の方舟の本拠地を視認したハイネは思わず驚きの声をあげてしまう。

 

ハイネの視線の先にはまるで絵本の中から飛び出したような、禍々しいオーラを放つ中世風の城が、サイクロプスによって抉られクレーターと化した大地にどんと建てられていた。
『あれが時の方舟の本拠地……あそこにすずか達が……。』
「ああ、みんな心してかかれよ……やつらどんな戦力を隠し持っているかわからないからな……!」
そしてシン達はMSのブースターを吹かし、時の方舟の本拠地に乗り込んでいった。

 

その数分後、時の方舟の本拠地に潜り込んだシン達は巨大な建物の中を奥へ奥へと進んでいた。
『おかしい……静かすぎる、途中でMSは見かけたが抵抗は全くない、それどころか人っ子一人……。』
『スウェンさん、本当にここが時の方舟の本拠地なの?』
ルナの問いに、スウェンや劾は少し動揺しながら答えた。
『風花やルネの話では確かにここのハズなのだが……まさか……。』
『……!おい待て!複数の生命反応があるぞ!』

 

さらに数分後、MSからシン、レイ、スウェン、ネオ、アウル、そして劾はユニゾンや銃で武装しながら生命反応のあった部屋の前まで来ていた。
「ここに奴らが……それとも人質達がいるのかいずれにしても心してかかる必要がある。皆……準備はいいか?」
ネオの問いに答えるように、その場にいた全員が無言で頷き、劾が代表して扉の前に立ち、思いっきり扉を蹴り破った。

 

ドゴオオン!!

 

「うわっ!?」
「なんだなんだ!!?」
シン達が一斉に部屋に入ると、そこには時の方舟によって誘拐された連合やプラント、そしてオーブの要人達が目を丸くしてこちらを見ていた。
「落ち着いてください!我々はあなた達を助けにきました!脱出しますのでこちらの指示に従い……。」
「あ、アリサちゃんあれ!」
「もしかして……シン!?それにスウェンさん!」
その時、人質の少女達がシン達に気付いて近づいてきた。
「アリサ!すずか!無事だったか!」
「二人とも大きくなったな……。」
シンとスウェンはアリサとすずかの姿に気付き、とりあえず彼女達が無事だとわかってほっと胸を撫で下ろした。
「あいつらから聞いていたけど……本当に二人とも軍人になっちゃったんだ……。」
「うん、それで士郎さん達は?」
「お姉ちゃんやおじさん達はみんな無事だよ、別室にいるから今連れてくるね。」
「そうか、よかった……。」
すると今度はワイシャツ姿のデュランダルとジブリール、そしてユウナが近づいてきた。
「レイ!まさか君が来てくれるとは……!」
「ギル!無事でよかった……。」
「オイお前達!お前達の隊長はどこだ!?」
するとジブリールが切羽詰まった表情で劾に掴みかかってきた。そしてそれをネオが引き離す。
「落ち着いてください、救援が遅れた事に関しては後ほど弁明しますので……。」
「そういうことを言っているんじゃない!早くヘブンズベースに戻るんだ!」
「はい?」
ネオはジブリールの言っている事が分からず首を傾げる、するとユウナが横から説明を入れてきた。
「君達……ここの薄っぺらい警備を見て何も疑問に思わなかったのかい?君達は嵌められたんだよ……!」

 

するとネオの通信機に、連合の戦艦にいるオペレーターから通信が入ってきた。
『ろ……ロアノーク大佐!応答してください!』
「どうした?そんなに慌てて……。」
『あ、アリューゼ大佐が……アリューゼ大佐が!』
その必死そうなオペレーターの声は、周りにいたシン達にも聞こえていた。
「なんだ?アリューゼ大佐がどうしたんだ?」
するとユウナが眉間を抑えながら悔しそうに答えた。
「全部……全部あの男の陰謀だったんだよ!我々は嵌められたんだ!」

 

数分前、アリューゼの乗る連合軍の戦艦のブリッジでは、オペレーター達がシン達の状況を随時アリューゼに伝えていた。
「MS隊は無事本拠地に乗り込めたようです!」
「ふむ……報告御苦労さま。」
そしてオペレーターの一人が不思議そうに首を傾げ。アリューゼに疑問をぶつけた。
「それにしても静かですね、どうして時の方舟は何も抵抗しないのでしょう?本拠地に敵が入り込んでいるっていうのに……。」
「当然だろう、なぜならこれは罠だからな。」
「罠?それってどういう……。」

 

その瞬間アリューゼに話しかけていたオペレーターは、隣にいた同僚に銃を突き付けられていた。よく見ると周辺のブリッジクルー達も、何人かに銃を突き付けられ身動きができない状態だった。
「なっ……!?お前達一体何を!?」
動揺するオペレーターに、アリューゼは落ち着いた様子で声を掛けた。
「落ち着きなさい君……抵抗しなきゃ何もしないから。それじゃ君達、彼らを縛りあげて。」
銃で武装した兵達はアリューゼの指示に従い、ブリッジに居たクルー達を手錠などで動きを封じてしまった。
「アリューゼさん、先ほど仲間からの通信が入りました、艦内の制圧は成功したようです。」
「うん、それじゃ脱出ポットに全員詰め込んで海に放りこんでおいて。」
「ま、待ってください大佐!あなたは一体……!!?」
アリューゼは縛られどこかへ連れて行かれたオペレーター達の声に耳を貸すことなく、戦艦の制御装置を鼻歌交じりで操作し始めた。
「ふんふんふーん♪ちょうど天使と女神の美尻が見える位置だな……ぽちっとな。」

 

同時刻、アークエンジェルは突如背後から砲撃され、クルー達は大混乱に陥っていた。
「艦長!アリューゼ大佐の艦からミサイルの砲撃です!エンジンに直撃!」
「なんですって!?どうして大佐が……魔法か何かですか!!?」
「いいえ……!!!」
信じられない展開に時の方舟が魔法を使って来たのかと疑うマリュー、だがリンディは先ほどの衝撃で尻もちをついたまま、しまったと言いたげな表情で地面に拳を叩きつけた。
「魔法の反応はありませんでした。これは多分……!」

 

ゴオオオオオン!

 

すると今度はミネルバが背後からアリューゼの艦に砲撃を受け、エンジンを損傷し海に不時着していった。
『ら、ラミアス艦長!無事ですか!大佐が……!』
「こちらは大丈夫です!アリューゼ艦長と通信は!?」
「だめです!こちらからの通信をシャットダウンされています!」
「しょうがない……艦首を向こうに向けて!反撃するわよ!アキダリアにも指示を!」
「了解……!」

 

ドオオオオオン!

 

そう言ってマリュー達が反撃しようとした矢先に、アリューゼの戦艦は至る所で爆発を起こして沈み、搭載されていた何機かのダガーが戦艦から脱出していった。
「な、なんということ……!」
するとそこに、本拠地に侵入していたネオからアークエンジェルに通信が入ってきた。
『こちらアカツキ、人質は全員救助した……そちらは?』
「大佐……アリューゼ大佐が……。」
『やれやれ、まさかこんなことになっちまうとはな……とにかく人質はそっちに連れていく、もう何もかも手遅れみたいだがな……。』

 

同時刻、ザフト、連合が集結していたヘブンズベース……そこでは今、何百人もの裏切った兵や突如現れたマリアージュ達により、完全に占領状態にあった。
「き……貴様等!こんなことをしてどうするつもりだ!?」
「うるさい!このゴミ共!殺されたくなかったら大人しくしろ!」
そう言ってザフトの緑の軍服を着た青年はザフトの白服を着た中年の男に暴行を加えようとするが、後ろに居た連合軍の男に制止される。
「やめておけ、それより早くMSを運び出すぞ。」
「……ああ、わかった。」
「貴様等!MSを盗み出してなにを……!」
「アナタ達はなにもわかっていないなあ。」
するとそこに、ふてぶてしい態度のユニゾンデバイスのスターゲイザーがやって来た。
「解っていない!?一体なんのことだ!?」
「アナタ達にとってMSは単なる兵器かもしれませんが……僕達にとっては魔人を呼び出す大事な生贄なのですよ。」
「生贄……!?」

 

そして一時間後、時の方舟と戦う為に集められていたザフト軍、連合軍が保有していた約500機のMSは、時の方舟によって総て奪われてしまった……。

 

それから一時間後、カガリ達は助け出した比較的落ちついた様子のデュランダルとユウナをアークエンジェルのブリーフィングルームに招き、彼らから時の方舟と、アリューゼ・ハンスブルグの情報を聞き出していた。
「じゃあアリューゼ大佐の目的は……始めから“CE産のMS”だったというのですか?」
「ああ……彼が言うには、この世界で作られた物だから意味がある、自分達が作った紛い物じゃ意味が無いと言っていたな……。」
「どうやら数年前から準備を進めていたみたいなんだよ……アラスカ基地で捨て駒にされたユーラシア軍の関係者や、プラントのサーカスの関係者に声を掛けてこの日の為に……。」
「えっと……サーカスってなんですか?」
リンディの質問に、隣に居たタリアが説明する。
「プラントでは思うようにコーディネイトできなかった子供を捨てる親がいまして……その子供達を受け入れるのがサーカスという戦闘員育成機関なんです。私もデータでしか見た事ないんですけど……。」
「成程、あの人はこの世界に恨みを持っている人間ばかり集めて革命を起こすつもりなのか、だからMSを……。」
「そのつもりなら……国の主導者である我々はとっくの昔に殺されているよ。」
「どういうことなのです?デュランダル議長……?」
ラクスの質問にデュランダルは置いてあったコーヒーをすすりながら答えた。
「彼は言っていたよ、“私は故郷であるこの世界が大好きだ、だからもうこれ以上戦争で傷つく故郷を見たくない、だから……待っていてくれ。”とね……。」
「どういう事なんだ?それは……。」
すると突如、ブリーフィングルームの扉が何者かによってコンコンとノックされた。
「誰だい?今時素手でノックするなんて……呼び出しブザーを使えばいいのに……。」
「ちょっと待ってくださいね……。」
そう言ってマリューが端末を操作して扉を開く、そこには一枚の写真を持った士郎が立っていた。
「ああすみません、この世界の技術にはまだ疎くって……。」
「士郎さん……?どうしたんですかこんな所に来て?衛生班の治療を受けてなきゃ駄目じゃないですか。」
「リンディさん!ここに居たんですね……ちょうどよかった。」
士郎はリンディの姿を見るや否や、彼女近付き持っていた写真を手渡した。
「あの士郎さん……これは?」
「実は捕まっていた時に首領さんの部屋に招かれた事があるんです、その時この写真を拾って……。」
リンディは士郎に促されその写真を見る、すると彼女の顔はみるみるうちに驚きの表情に変わって行った。
「ど、どうしたんですかリンディさん?顔が怖いですよ?」
「なんですかその写真?赤ちゃんと……母親ですか?」
「この女性……なんだか“あの子”に少し似ていますよね?これって……。」

 

写真には、ベッドの上で生まれたばかりの金髪の赤ん坊を抱く、優しそうな黒髪の女性…………プレシアが写っていた。

 

その頃ミネルバの格納庫では、シンとスウェン、そして劾が集まって今後の事を話し合っていた。
「うーん、まさかアリューゼさんが裏切り者だったなんて……。」
「すまない、気付けなかった俺達の責任だ。」
そう言って劾はシンとスウェンに深々と頭を下げた。
「お前の責任じゃない、俺達がアリューゼの正体に気付けなかったから……。」
「まあ過ぎた事は反省するしかないな、そしてこれからをどうするか考えないと……。」
「シン!」
すると彼らの元に、フェイトとシグナムが心配そうに駆け寄って来た。
「スウェン……無事でよかった。」
「シグナムか、はやて達は大丈夫だったか?アークエンジェルもミネルバも大ダメージを負ったらしいが……。」
「みんな怪我はないよ、今は艦の修復を手伝っているところ……とにかく母さんの所に一旦集まって……。」
「劾―!」
するとシン達の元に、8歳程度の女の子……風花と、ウイスキーを持った中年……リードがやって来た。
「風花、リード、お前達どうしてここに……。」
(うわっ、劾さんと同じ制服を着てるって事はこの子もサーペントテールか?マユと年齢は変わらなさそうなのに……。)
「劾を迎えに来たんだよ!やっぱり今回の任務は失敗だったの……?」
不安そうにする風花を、スウェンは優しい声で慰める。
「いや……士郎さん達は助け出せたんだ、これも君達のお陰だ、感謝する……。」
「それでも半分しか依頼をこなせていないからな……。」
「それにしてもアリューゼの野郎……まさかこんな事をしでかすとはな……。」
「……?大佐の事知っているんですか?」
リードから意外な言葉を聞いたシン達は、彼にさらに質問してみる。」
「ああ、俺は昔連合軍に居た事があってな……アリューゼとは飲み友達だったんだ、ユーラシア軍の中でもユーモアのある奴でな……アイツとエドモンドと飲む酒は最高に美味かったぜ。」
リードの口から意外な人物の名前が発せられ、スウェンは目を丸くして驚いた。
「……!?エドモンド・デュクロとも知り合いなのか?俺の恩人なんだ。」
「ほう?そうなのか、アリューゼの仲介で知り合ったんだけどな……アイツがアリューゼの事を知ったら、きっと哀しむだろうなあ……。」
「そうですね……。」
その時、シグナムが何か思い出したのか、隣に居たフェイトに声を掛ける。
「テスタロッサ、そろそろリンディ提督との話し合いの時間だ、シンとスウェンも来い。」
「あ、そうだね、それじゃ……。」
「テスタロッサ……?」
するとシグナムの発言を聞いて何かを思い出したのか、リードは手をポンと叩く。
「お嬢ちゃん、アンタテスタロッサって言うのか、偶然だな……アリューゼの名字もテスタロッサって言うんだぜ。」
「「「「はぁ!!?」」」」
リードの突拍子もない発言に、シンとスウェン、それにフェイトとシグナムは一斉にリードに視線を向ける。
「何を言っているのだアナタは……アリューゼ大佐の名字はハンスブルグだぞ?」
「あ?なんでアンタ達アイツの結婚する前の名字知っているんだ?確かにアイツは昔ハンスブルグだったが、17年ぐらい前に婿養子になって結婚して姓がテスタロッサになったって聞いたけどな……。」

 

その頃、太平洋の深海奥深く、そこにはアークエンジェルの五十倍の大きさはある白い巨大戦艦……“時の方舟”が堂々と佇んでいた、そしてその中にあるMS格納庫では、連合やザフトから奪ったMSが白い繭のようなものに包まれて格納されていた。
「壮観ですね……これで作戦の第一、第二段階は終了しました。後は……。」
「ああ、そうだな、もうすぐ首領の夢が達成されるんだ。」
「……。」
その光景を、ゲイザー、カシェル、そしてフェリシアはそれぞれの思惑を孕みながら見降ろしていた、そこに……。
「皆さま~!大変です~!」
「首領が帰ってきましたー!」
ユニゾンデバイスのソードとランチャーが慌てた様子でカシェル達に駆け寄って来た。
「ほう、それは出迎えなければなりませんね、お二人とも行きましょう。」
「解っている……。」
「……。」

 

数分後、カシェル達は艦内にある王座のような場所にやってきた、そこに……。
「やあやあ皆、留守番御苦労だったね。」
いつもの連合軍の軍服を脱いで、スポーツウェアのような動きやすい格好をしたアリューゼがユニゾンデバイスのエールに案内されてやって来た。
「潜入捜査お疲れ様です首領……いや、アリューゼ様。」
「うーん、潜入捜査ってのはちょっと違うかな?だって僕は今までユーラシア軍所属だったんだから、どっちかって言うと反乱っていうのが正しいかな?」
「ははは、そうでしたね……。」
その時、アリューゼは先ほどまでの笑顔を崩してゲイザーの方を見る。
「ところでさゲイザー、ちょっとこっちに来てくれるかな?」
「……?はあ、なんでしょう?」
ゲイザーは不審に思いながらもアリューゼの元に近付く、次の瞬間。

 

ドッゴオオオオン!!!

 

「ぎゃああああああ!!!?」
突如ゲイザーは右頬を凹ませながら空中に吹き飛ばされてしまった。
(こ、攻撃が見えなかった……!)
突然の事に、カシェルとフェリシアは肩をすくめて縮み上がってしまう。
そしてアリューゼはゲイザーが地面に落下したのを確認すると、まるで汚物を見るような目でゲイザーを見下した。
「君さ……僕の娘を殺そうとしただろ?」
「な……何を……そんなことは……。」
「シン君達のMSにね……残っていたんだよ、君がそこのアリシアに暴言やら正体やらベラベラ喋っているところ……ひどいなあ、君をいじめたアリシアも悪いけど、何も殺す事ないじゃないか……。」
「ご……ごめんなさ……!」
ゲイザーはこのままでは殺されると思い、必死になってアリューゼに謝り続けた。
その様子を見てアリューゼはにっこり笑った。
「まあ……素直に謝ってくれるのならもう許してあげるよ、アリシアもカシェルもそれでいいね?」
「は……はい……!」
「解りました、お父さん……!」
そしてアリューゼは体をうんと伸ばし、近くにあった王座にどさっと座った。
「さてと……MS達が羽化するのはまだもうちょっと先だし、それまで掃除でもするかな?でもちょっと休みたいしな……。」
「あの……アリューゼ様……。」
その時、フェリシアが恐る恐るアリューゼに声を掛ける。
「どうしたんだいアリシア?いつものようにお父さんと呼んでくれ……ああそうか、ゲイザーの言っていた事を気にしているんだな、しょうがない……部屋で一緒に話し合おうか。」
「はい……。」
アリューゼはそう言ってフェリシアの肩を抱き寄せ、そのまま王座のある部屋を去って行った……。

 

「相変わらず恐ろしい人だ……大丈夫か?」
「え、ええ……すみません。」
アリューゼ達が去った後、カシェルは部屋の片隅で蹲っていたゲイザーを抱き起こした。
「とにかく早く治療してもらえ、俺達の作戦はここからが本番なんだからな……。」
「解っていますよ……ただちに取り掛かります。」
そう言ってゲイザーは負傷した体を引き摺りながら部屋を出て行った。
「……俺も準備するか、ここからが本番だしな……。」

 

そして新たな運命は動き出す、始めからあった運命を飲み込むように……。