魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED_02話

Last-modified: 2014-07-21 (月) 03:05:15

「この子は高町ヴィヴィオ。なのはとフェイトの娘ですよ」
「なん・・・・・・だと・・・・・・?」

衝撃が、脳を貫いた。
娘。つまり子ども。
高町なのはとフェイト・テスタロッサは女の子だったハズ。
え、ちょっ、それってつまり同性間で・・・・・・? まさか、禁断の愛──!?

「あ、養子って意味ですよ?」
「よ、養子。・・・・・・うん養子ね。わかってるよ」

吃驚した。
吃驚したよいきなり何を言うのかと思えばユーノ君、そういうのはちゃんと言わないと。
てっきり本当にあの二人が産んだんだって・・・・・・あれ?
それでも二人の娘ってことは・・・・・・

「え、なにじゃあ、なのはとフェイトが結婚したの? ミッドってそういうのアリなの?」
「違いますよキラさん。正確には、なのはが引き取って、フェイトが後見人になったんです。それで今は三人で一緒に住んでいるんですよ」

おや? あ、うん、その説明で大体は解った。解ったけど、何かとても気になる事が増えたよ?

「ユーノ」
「はい?」

ヴィヴィオという名の、オッドアイが特徴的な少女の肩に手を置いて喋る青年、ユーノ・スクライアに問い掛ける。
きっとこれは、言っちゃいけない事だと予感する。
だけど、言わずにはいられなかった。
だから、僕は言った。

「君のポジションって、なに?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 
 

『第二話 すべき事、できる事、したい事』

 
 

──僕は、今、何をしたいのか──

 

尽きぬ疑問、思いがけない再会、そして新たに知り合った少女。
波乱続きな僕の人生においてもなかなかない、とても刺激的だった今日という日が終りを告げようとしている23時。
青白い双月が演出する、幻想的な3月の夜光に照された病室のベッドの上で、僕はただ悶々と頭を悩ましていた。

原因は、あの少女で間違いないだろう。

高町ヴィヴィオ、St.ヒルデ魔法学院初等科3年生。4月に進級予定。
ユーノと同じく大人になった、高町なのはとフェイト・T・ハラオウンの『二人のママ』と三人で日々を暮らしていて、なんとユーノとは上司部下の関係らしい。
一体どうしてこんな幼い子が仕事なんてとも思ったけど、そういえば以前僕が海鳴市にいた時もなのはとフェイトとユーノは管理局の手伝いをしていたから、多分そういうモノなんだろう。
それで、今日はユーノと二人で、友人のお見舞いをしに教会に来ていて、そんな時に僕とぶつかったんだと。
そう自己紹介した彼女の瞳が、僕の心を掴んで放さず、今という時にも【鮮烈】に意識に焼きついていた。

(純粋で綺麗な、『生』に満ちた瞳だった・・・・・・)

初めてコンタクトした時、とても、なによりもその瞳が美しいと感じた理由が判った気がする。

 

アレは少女の内面を映していた。

 

純粋で、利口で、繊細で、力強くて、今と未来を夢みている。教会のカフェで色々な話をしてくれた少女の端々から、僕はそれを確かに感じられた。
感じられたその『真っ直ぐな想い』は、今の僕には眩し過ぎた。だって、こんな人間に出逢えたのは初めてかもしれないから。
いや、もしかしたら、なのは達も似たような瞳をしていたのかもしれないけど、少なくとも当時はこんな衝撃は受けなかった。
きっと、僕が変わってしまったからだろう。僕にとって、世界は冷たすぎたから。真綿で首を締め付けられるような世界だったから。
だから視界が曇って、あの少女のような人間に気づけず、出逢えなかった。

そうした日々の果てにひょっこり異世界にやってきて。
視界がクリーンになった僕は『希望という名の光』の権化のような彼女と交わった。
その『光』は僕が無意識に見て見ぬふりをしようとしていたモノを炙り出すには充分なぐらいで。

 

つまり、今の僕に【希望】がない事を自覚させられた。

 

だからあんなにも綺麗だと思えたんだ。
不思議なくらいに魅せられて、戸惑うぐらいに。

 

◇◇◇

 

ユーノとヴィヴィオちゃんと別れて、病院の簡素なベッドに潜ってから。
「果たしてキラ・ヤマトは本当にC.E.に帰還したいのか?」という最大の疑問が、徐々に浮上してきた。
今に思いかえせば、この世界で目覚めた時の、自分の反応は異常だったんだとわかる。
あの時、僕は冷静だった。
冷静すぎるほどに。
状況に疑問ばかり抱き、それを静かに考えるだけで、全く焦らない態度。
知っているからと全て解った気になって、ただ分析を続ける姿勢。
コロニーの皆や、これからの身の振りばかり考え、自分の希望や仲間の身を真剣に案じない思考回路。
「帰らなくちゃ」と考えつつも、遂に「帰りたい」とは感じ得なかった心。

(そうであった事こそが異常なんだ)

少しの不安や混乱、責任感はあれど、そこに自身の【希望】は無かった。
どんな者でも、知らない場所で目覚めればパニックになって「ここは何処だ、家に帰りたい」と思うのが普通ではないか。自分は本当はどうしたいのかと、自覚する瞬間・機会ではないのか。
だけど僕はそうはならなかった。

 

今、自覚した。
考えられる理由は一つ。

僕は、平和になり、あの人への誓いと、なのは達との約束を完遂したC.E.には未練が無い、次の『やりたい』事を見出だせなかったんだ。

とても贅沢で、傲慢だと思う。
でも今までの僕には『やるべき』事しかなくて。知らぬ間に心が『凍り付いて』しまっていたんだ。
そして未知の世界にきて本来の『やるべき』事すら喪って。本当に『からっぽ』にならないように【帰還】を『やるべき』事に据えて。

だからきっと今の僕は、C.E.に帰りたいとは思ってない。
向こうでやりたい事なんて無いから。
向こうには親しい人だっている筈なのに。

 

僕自身にも見えていなかった、その本心が、
あの『生』と『未来』に満ちた鮮烈な翆と紅の瞳によって暴かれた。暴かれて、しまった。

(あの人に申し訳がたたないな・・・・・・。──戦い続ける覚悟はある・・・・・・か)

そうなると、あの黒い長髪の男性に誓った言葉──他にも話したい事はあったけど、結局ソレが最期の言葉になってしまった──が、なんだか薄っぺらくなってしまったように感じて。
唯一の救いは、帰還の可能性を見出だした時に焦る事ができた、という事か。そういう意味では、まだ僕は空っぽじゃない。

ただ、やりたい事が分からない・・・・・・

そんな事を思いながら、僕は眠りの世界に堕ちていく。

 

夢は、見なかった。

 

◇◇◇

 

「・・・・・・それよりね、問題は君だよユーノ。あんな可愛い娘達に囲まれてて未だ独身って・・・・・・どういうことなの?」
「そうだ、妻はいいぞ? さっさと漢を見せたらどうだフェレットもどき」
「なっ、そ、そんなの・・・・・・僕は、その・・・・・・僕なんかじゃ」
「そんな弱気でどうするんだよ! 人間いつ死ぬかわからないんだよ!?」

うんうん。ユーノは高町なのは嬢が好きなんだね。でも彼女は彼女の家庭と仕事に構ってばかりで自分の気持ちに気づいてくれないと。そうかそうか可哀想だね血涙ものだねハハハ・・・・・・HU ZA KE RU NA!!
ちゃぶ台を思いっきり叩いて、ぽろぽろ泣き出したユーノを威圧。経験談からその情けなさを咎める。
衝撃でワイングラスや一升瓶が倒れ、中身が垂れ流れちゃってるけど気にしない。知ったことじゃない。
ただ感情のまま、思い付いたままに叫ぶ。

「それに、すれ違ったまま死に別れ、なんて事もあるかもしれないんだ・・・・・・クロノとエイミィさんみたいにさ!」
「はっはっは、俺? いや俺はともかくアイツまで勝手に殺すんじゃない殺すぞコラ」
「あーもう、好き勝手言わないでよ! そりゃ僕だって恋愛とかそういうのは夢見てたさ男だから!! なのはとか正直可愛いし、最近なんかエロいし! だけど僕は──」
「フェレットだからか?」
「──そう、フェレットだから超えられない身分と種族の壁が・・・・・・って違うよクロノ!」
「何が違う、何故違う!?」
「キャラ変わってるぞキラ」

クロノ秘蔵の高級ウイスキーを割らずにがぶ飲みし、大振りなフライドチキンにかぶり付いて、クロノとユーノの杯をワインで勝手に満たしていく。ついでにポテトを口に突っ込んでいく。
正直もうワケがわからないかった。
熱に浮かされて、なんだか夢心地。なにもかもがゴチャマゼになってトロトロ融けていく。

「人格崩壊を気にして酒は飲めないよ。・・・・・・覚悟はある、僕は飲む」
「仕事とか仕事とか仕事とか毎日やってられないよマジで! どっかの提督は勝手にどんどん仕事増やすし! まぁその分蓄積されてたお金で先週なのはをディナーに誘えたからいいんだけどねっ! どうも有り難う!!」
「そりゃあどういたし──って待てユーノちょっと待てソイツはマズイ落ち着け!!」
「ユーノ、遂にヤるの? なら僕は君を討つ!」
「うぅああああぁああぁぁぁーー!!」

 


……
………

 

「まったく、酷い目にあった」
「ごめんなさい」
「返す言葉もありません・・・・・・」

15時。この世界での目覚めから数えて3日目の昼。
真っ昼間から酒に溺れた駄目な大人が三人もいた。
僕達だった。イヤね、大人って。

 

約7時間前の午前8時といえば。えーと、今朝の僕は、多忙の身の筈なのに宣言通りに来訪してくれたユーノの薦めで、一緒に時空管理局に参上して。
そしてユーノが事前にアポを取ってくれていたのか、今や『提督』という重役でありながらも無理やりに時間をとってくれたクロノ・ハラオウンと再会したんだよ。
見事にイイオトコになったクロノと熱い抱擁を交わして──年が近い同性という事で、当時は一番気の合う者同士だった──から、そうして・・・・・・、・・・・・・うん、ここまではちゃんと憶えてる。
そのあとは・・・・・・そう、クロノの応接室に案内されて、そこにちょっとした食べ物が用意されていて・・・・・・残念ながらそこからが不明だ。

 

気がつけば、この有様だったんだよ。

 

追加注文されたらしきファストフードの残骸の山。
、そこらじゅうに飛び散って水溜まりを形成してるアルコール。
派手に吹き飛んだ高級そうなソファー。
そんな部屋で寝転んで──気絶して──いた、ぐちゃぐちゃな僕とユーノとクロノ。

うーん、なんという惨状。きっと壮絶は酒乱がいたに違いない。
それにしても、お酒で記憶が飛ぶなんて初めてだなぁ。噂でしか聞いたことなかったけどホントにあったんだ。

「おい手を動かせ」
「う。・・・・・・や、やってるよ」

とにかく後始末をしないと。
現在みんなで片付け中だ。
さっさっと応接室の真の姿を取り戻さないと・・・・・・クロノからの不機嫌オーラが半端ないんだもの。殺されそう。
状況からして、僕らと一緒に暴れてたくせにさ・・・・・・って違う違う。それは言い訳にならないって。

(でも、それにしてもなんでこんな? 僕は今まで録に酔ったことはないし、訊けばユーノとクロノもお酒に強いらしいし)

こんなのは本当、初体験だ。
あ、そういえばいつかアスランが愚痴ってたっけ。とある会談が失敗に終わった後のカガリの自棄酒が凄かったって・・・・・・

(あー)

自棄酒か。
唐突に思い至った。
お酒の一滴で、今まで抑えてたモノが暴走しちゃったのかな、みんな。
曖昧な記憶だけど、言動が意味不明だった僕はともかくユーノは終始愚痴ばかりだった気がするし、クロノも似たり寄ったり(+惚気)だった気がする。

思わぬ再会で箍が外れちゃったのかもしれないね。
みとめたくないものだな。自分自身の、若さ故の過ちというものを・・・・・・

「手を動かせ、手を」
「頭を動かしちゃ、ダメかな?」
「ダメだ」

 

◇◇◇

 

「・・・・・・これが・・・・・・」
「ああ、こっちがここ15年の・・・・・・なのは達が大きく関わった事件の報告書、及び映像資料だ」

片付けを終えて、少しみんなで頭を冷やし終えたのが16時半。ようやく僕達は本来の目的を果たそうとしていた。
うん、わざわざ再会を喜ぶ会をやる為だけにここに来たわけじゃないんだよ。ユーノもクロノも多忙の身なんだから。
だからせっかくの休日を返上してまで僕なんかの希望に沿ってくれている彼らには、感謝してもしたりないんだよね。

(いつかちゃんとお礼をしないと)

まず、僕が求めたのは情報だった。
ミッドチルダ及び海鳴市の近状、情勢、世論。なのは達や管理局の今まで。その記録と情報の閲覧を、僕は第一の要望としてクロノに依頼したんだ。そうしてクロノに呈示されたのが、コレだ。

この映像資料と報告書。

 

その始まりは新暦65年春、なのはちゃんとフェイトちゃんの始まりの物語でもある、海鳴市を舞台にした遺失遺産の違法使用による次元災害未遂事件。通称『Plecia.Tertarossa事件』から。

 

次に次元転移をした僕も関わり、八神家のヴォルケンリッター相手に奔走した、懐かしい同年冬の『闇の書事件』。またそれに連なる一連の騒動。

 

さらに67年の、衝撃の『なのは撃墜』があるかと思えば、71年の『ミッド臨海空港大規模火災事件』があって。

 

これら全てがたった一つであり、前代未聞最大規模の事件へ集約される。
一人の狂人と管理局の闇が引き起こし、数多の悲劇と願望、出逢いと絆が生まれた75年の『Jail.Scaglietti事件』へと。
ヴィヴィオちゃんはこの時になのは達機動六課に保護されたんだって。

 

それで最後に、「冥王」イクスヴェリアを巡り様々な思惑が交錯した78年の『マリアージュ事件』があって。

 

「・・・・・・凄いな、これは」

正に激動の記録──いや、動乱と言ってもいいぐらい密度。なんて時代だ。
目まぐるしく変化していく展開に驚きを隠せない。
一番の驚きは、こんな短期間に連続して発生した事件に主に関わっていたのが未成年の子ども達であり、それでも健全に育っているという事だ。
精神も病まず、希望に満ちた終らない明日へ歩いていけるその姿。
悲しみばかりではなく、笑顔もちゃんとあるなんて。

「やっぱり強いよ、君たちは」
「そんなこと・・・・・・ただ全力だっただけですよ」

映像の中の子ども達は、よく知った幼い姿から、凛とした大人の姿へ。
小さな勇気は気高き強さへ。

 

──みんな本当に大きく強く、美しくなったんだ。

 

14年と5年という時の流れを実感する。
歩んだ時間そのもの──23年、生きた時間──は同じ筈なのに、この違いはなんだ。
僕はあの時から何も変わってない。容姿も、思考基準も。強いていうならば、つまらない人間になったという事ぐらいかな・・・・・・
無性に、悔しかった。

「・・・・・・」

 

それからも他に、色んな資料を読み解いていく。世界の歴史、経済の仕組みなど、ありとあらゆるものを。

 

「これが最後の資料。最新版だよ」
「ん、ストライク・・・・・・アーツ?」

そして最後の最後で、意外な情報がきた。
明らかに今までとはベクトルが異なる、とある格闘技の資料。ストライクアーツ。
どうやら総合格闘技みたいだけど。

「そう、このミッドチルダで最も競技人口が多い格闘技だ」

うん。格闘技みたいだね。でもそれを僕に教えて、どうなるんだ? 僕にやれとでも?

意図が読めない。なんでこんなものを・・・・・・

「ソレを、あのヴィヴィオがやってるんですよ」
「え?」

はい? なんだって?
あの娘が、あの小さい躰で? 小学生の女の子が格闘技?
いやそれ以上に、司書さんって聞いたんだけど自己紹介で。・・・・・・格闘技ってあれでしょ、世界共通でパンチやキックをするスポーツの総称でしょ。それを司書が?

「ヴィヴィオはアスリートでもあるんだ。意外だろう?」
「ほら、子は親に似るっていうし」
「うん、まぁ。・・・・・・ずいぶんとアグレッシブっていうか、なんていうか・・・・・・」

人は見かけによらないとは云うけどさ。
ちょっと想像してみる。
メガネと白衣と本を装備したモヤシが、マッスルマン相手に互角に殴りあう様を。

(うわぁ)

なんだろう、とんでもない世界観だ。
コーディネイターでもそんな事をこなせる人は少ない。
いやまぁ、あの娘達の娘なら道理・・・・・・なのかな。人間が戦艦の主砲並みの光線を撃つ世界観だもの。
この魔法の世界はさ。
ならうん、そんなナチュラルにハイブリットな人がいたっておかしくはないよね。

「っと。すまないキラ、そろそろ時間だ。ユーノ、お前はどうする?」

緑茶を飲みながら会談をしていれば、おもむろにクロノは時計を見ながら立ち上がった。
休日といっても予定がないわけではない。これから人と会う約束をしているんだって。

「そうだね。僕はキラさんを教会に送ってから、一度無限書庫に行くよ」
「えと、本当にありがとう二人とも。僕のために・・・・・・」

それに応じて僕達も立ち上がる。
二人の好意のおかげで大体の情報を手に入れることはできた。まぁこの格闘技の資料はどう扱ったらいいのかわからないけどさ。
これらをどう使うかは僕しだいだ。

「気にするな。C.E.の事はもう一度こちらで調べてみる。時間のズレの事も含めて、見落としがあるかもわからないからな」
「あ、そうだキラさん。コレが僕の連絡先コード。モニターを呼び出せば使えるから、困ったら連絡してください。使い方、覚えてますか?」
「使い方?」

何の?

「魔法のですよ。あとデバイスの」
「・・・・・・そういえば、使えるんだっけ僕も。魔法とか」

これからだ。
このまま異世界に骨を埋めるか、己の役割の為に帰還を志すか。
新しい僕の道を、見つけるか。
全てはここから分岐する。

 

◇◇◇

 

ユーノに魔法の基礎を軽く教えてもらいながら教会に帰る途中、とある一つの、今更すぎる問いが僕の中で生まれた。

 

──今まで僕が戦ってきた理由は、戦えた理由は、なんだったのか──

 

そんな今更な、だけど重要な問いが、目の前にあった。

思い出す。

初めての戦争の時。
ストライクに搭乗していた時は友達を守る為、生き残る為に。仕方ないから嫌々と戦って、沢山の人を殺した。
フリーダムに乗ってからは戦争を終わせる為に、ラクスの為に、自分が戦う理由と状況があるからと戦って、やっぱり殺した。
この時の僕は、それでもと叫びながら、課せられた【目的】の為に戦っていた。

 

転機はブレイク・ザ・ワールド。メサイア戦役。・・・・・・二度目の戦争の時。
あの時から僕は、自分の心の【欲求】に従って、自主的に戦い始めた。
オーブを討たせたくないから、憎しみの連鎖を止めたいから、人間の可能性を守りたかったから。人を殺すことになっても、殺されることになってももう自分が戦わなくちゃと。自分勝手でも傲慢でもそれでいいと。
4年前の海鳴市の時もそうだ。
あの娘達を助けたい守りたいと素直に思ったから、僕は自分から魔法を使って天を翔た。

 

その果てに沢山の人の命を奪った事を知りながら。知りながらも突き進んだ。
それからは、海鳴市からC.E.に帰還してからは、僕は誓いと約束を果たす為に、行動し始めた。
そして僕の【欲求】と【目的】は消失した。
でも、やりたい事は無くとも、為すべき事は山程あって・・・・・・

これが答えだ、キラ・ヤマト。

 

──僕は、今、何をしたいのか──

 

再び、問う。

今の僕には為すべき事もない。ただ流されるまま「必要だ」と思った事をやるだけで。
気付いているんだよ。
今まさにユーノに教えてもらっている『魔法』を僕が使う必要も義務もないんだって事ぐらい。
連絡を取り合いたいのなら、それ専用の通信端末を使えばいいだけのこと。

それでも。
それを分かっていながらも、僕はユーノに魔法の基礎を教えてくれと願った。
それこそが、答え。

僕はあの資料を、悲劇を食い止めようと必死に戦い続ける彼女達を見て、未来に羽ばたこうと輝くあの娘達を見て。
やっぱり僕は『守りたい』と思って──【希望】を持って──しまったのだから。どうしてその結論に達するのかは、わからないけど。
勿論、彼女達は僕に護られるまでもないとは解っているし、具体的にどうすればいいのかも分からないけれど。

だけど、僕は再び戦おうと決めた。
剣を取り、僕だけの戦いを。
僕の想いの為に、戦いたいんだ。

 

「──あれは・・・・・・?」
「あぁ、シャンテ?」

教会についたのと、決意は同時で。僕達は紺に染まる世界の中に、華麗にトンファーを振り回す修道女姿の少女を見た。
・・・・・・戦うシスターさん?
誰?

「ユーノ、あの娘は・・・・・・」
「シスター・シャンテ、ヴィヴィオの友達ですよ。鍛練中みたいだね」
「・・・・・・成る程、ね」

クルクルと木製トンファーを繰りながら鋭くステップを踏み抜く、橙の髪をもった少女。なかなかの機動だ。鋭角なショートステップからの一閃は見事と称賛するに値する。
・・・・・・彼女も戦ったりするのかな?
ヴィヴィオちゃんも、アレ程の動きを出来るのかな?
どうもこの世界は予想以上に刺激が多いらしい。

「ユーノ」
「何ですか?」

気づけば僕は、いつの間にか同じ背丈、年齢になってしまっていた青年にまた一つ、我儘を言ってしまっていた。

「みんなに、会いたい。今日じゃなくていいんだ。・・・・・・・・・・・・駄目かな?」
「そう言うと思ってました。全然駄目じゃないですよ。・・・・・・実はさっきクロノと一緒に、みんなに連絡を回してたんです。だから明日か明後日に、ここに集合で」
「・・・・・・・・・・・・ありがとう、ユーノ」

頑張る人の姿が、僕のナニかに火をつける。まだまだ小さいその火は、無くしてしまった僕の大切なモノであると予感する。その正体を明確にしたくて。
みんなに会えば、わかるのではないかと感じたから。

 

僕は再会の時を待つ。自分の決めた【道】を胸に抱きながら。

 
 

──────続く

 
 

前>第一話 次>第三話