木星第一開拓コロニー警護隊隊長‐兼‐木星宙域探査隊隊長‐及び‐C.E.の聖剣、雑用係になる!
うん、C.E.だったらそんな見出しの記事が作られるに違いない。
「シャンテちゃーん。花壇の整備ってこんなでいいかな?」
「おー、良い感じじゃん。じゃあ後はわたしがやるからさ、休憩入っていいよん」
「うん」
働かざる者食うべからず。
生きる為には相応の対価──つまり労働が必要だ。お金も必要だ。
しかし、次元漂流者という身分じゃなかなか仕事にはありつけないもので。住民票もないんじゃ仕方ない。手続きだって大変だ。
まぁそういう訳で無職な居候は、居候先の雑用係として畑仕事や給仕、調理・・・・・・つまりは教会のお手伝いをする事になったんだ。
今までMS隊隊長職として書類やマシンを相手にしていた華々しい仕事からは一変、執事への道が見えてきた。
やっぱり責任者とか隊長とかより、こういうのの方が好きかな、気楽で。
「・・・・・・ふぅ」
額を拭って、土にまみれた軍手をポケットに入れる。我ながら良い仕事をしたと思う。
余計な草等を撤去し、煉瓦を磨いて。いろとりどりの春の花々が存分に魅力を発揮できるよう演出。
整然と咲き誇るチューリップ達に、僕は春を実感した。
春。出逢いと別れの季節。
今日、僕は、再会する。
『第四話 集い、踊る色達』
「そういえばさ」
昨日の朝食前に送られたきた、ユーノからのメール。
今日15時あたりに此処に、高町なのは達が来てくれる・・・・・・って内容のそのメール。
現時刻は11時。僕は最高に浮き足だっていた。
「再来週あたりからヴィヴィオちゃん、四年生だっけ?」
「うんそうだよ、始業式。なのはさん曰く、その日は特別な日にするんだってさ」
「特別な日・・・・・・」
楽しみで楽しみで堪らない、待ち遠しい。昨日なんて目が冴えて眠れなかったくらい。自分でも不思議なくらい昂って。
まるで、遠足を明日に控えた子どものように。
「じゃあ僕も、何か贈りたいな」
彼女らと一緒にいた時間はとても短かったけど、多分、今までの人生で一番満たされた日々だった冬。
16歳のあの日から、濁っていくばかりだった心が一時でも鮮やかになった、あの33日間。
それを共に過ごした者達が再び集うなんて、夢を見てる気分だ。
「得意料理を作ってあげるとか?」
「いいね。・・・・よしっ」
「おぉ。気合い入ってますなぁ」
「おかげさまで」
うん、充実した一日になりそうで、期待に胸が高まる。
「ここにいましたか、キラさん」
「あ、オットーさん」
そうして意気込んでた中で、ディードさんの双子の片割れ、オットーさんに呼ばれた。
決して「お父さん」ではない。
女性、らしいんだけど、一人称といい髪型といい執事服といい、少年のようにも見えるヒトだ。
ってか、作為的なものも感じるくらい性別不詳なんだよね。容姿とかはディードさんと瓜二つなのにこうも印象が変わるというのは一つの魔法みたいだ。
「なんですか?」
ていうか、どうしたんだろ。何か僕に用事が? でもなんか如何にも「朗報もってきました」的な感じが。
「キラさんにお客様がおみえです」
「え」
・・・・・・それって、もしかして?
◇◇◇
「死ね! 死んでしまえ!」
「はぁ!? ヒトの顔を見るなりなんだよ!!」
まず目に入ったのは、黒だった。
「いやまぁ分かってたよそんな都合の良い展開なんかないって!」
「おいコラ無視か」
しかも男だった。
「正直なんで彼女達が僕に好意的なのかわかんないし! ぶっちゃけ僕って足手纏いだったじゃない?」
「聞けや」
一瞬だけクロノかなって思ったけど、違った。残念なことに。
「でも期待したんだ。なのは達がもしかしたら時間前倒しで来てくれたんじゃないかなって。・・・・でも、でもだからってこんな仕打ちはあんまりだ、こんなのってないよ!!」
それはほぼ毎日、見飽きる程に視てきた黒だった。
「聞けや!!」
「痛い!? ・・・・・・殴ったね。父さんにもぶたれたことないのにっ」
「それが甘ったれなんだよ。殴られもせずに1人前になった奴が・・・・・・って何言わせんだよアンタって人はーー!?」
木星第一開拓コロニー警護隊副隊長‐兼‐木星宙域探査隊副隊長‐及び‐C.E.の魔剣。
シン・アスカ男性21歳。黒髪紅目の相棒が、何故か目前にいた。
…
……
………
予定外の来客。
教会内部にある応接室にて、ディードさんが淹れてくれた紅茶に手をつけないまま、僕らはそこで対峙していた。
「・・・・・・シン、ここで君の顔を見る事になるとは思わなかったよ」
「こっちのセリフだそれ。なんでこうなっちまったんだよ・・・・・・!」
「知らないよ。気付いたらここにいた・・・・・・そうでしょ? 僕も君も」
「・・・・・・っ」
二人揃ってふてくされて、そっぽ向いて。でもチラチラと様子を伺いながら。もし新地球統合政府の連中が見たら腰を抜かしそうな雰囲気で、C.E.最強と謳われる僕とシンは『ここ』にいた。
ホント、なんでこんな所にいるんだろう。なんでこんな事になっているんだろう。あまりにも不可解だ。
不可解すぎる。
「ねぇ憶えてる? ここに来る直前って」
「78年11月25日だよ。自室で寝てた。気づいたらこの世界にいた。わけが分からない」
「やっぱり」
何故【僕達】なんだ?
どっちか一人だけなら、まだ納得できた。次元漂流者はさして珍しくなくて、それが偶々、偶然、天文学的確率で僕だったんだって。
時間移動のイレギュラーも含めてさ。
「僕もそうだった」
でも、なんでシンまでもが?
【キラ・ヤマト】と【シン・アスカ】には共通点が多すぎるぐらいに多い。出身世界、境遇、経験、能力、職場、住所、その他諸々。
そんな二人が、同じ時間軸から、揃って未来の異世界‐ミッドチルダに転移しているなんて。『ここ』に存在しているなんて。
これは本当に、偶然なのか?
「・・・・・・」
「・・・・・・」
沈黙。
一切の音が消え、雰囲気が重くなる。喜べない、疑念が深まるだけの再会。前々から予定していた再会とは真逆なシチュエーション。
勿論、この異国の地で無二の相棒と会えたのは嬉しいし幸運だ。でも、こんな形で会いたくなかったよ。
(何かが、大きな何かが動いているのかもしれない)
楽しくお喋りをするにも、ただ思考に没頭するにも、状況は複雑すぎる。でも黙ってるだけじゃ進まない。
こういう空気苦手。何か話題は・・・・・・、・・・・・・あ、そうだ。
「僕が此処にいるって、なんで分かったの?」
まさか漫然と不思議センサーで僕を捉えたわけでもないだろう。キラがミッドの聖王教会にいるなんて普通想像もできない。
人脈がない中で、色々と知ってる人を捕まるなんて奇跡的な事をしないかぎり不可能だ。
「それは・・・・・・、いやまず、そうだな。俺が目覚めたのは4日前、病院だった」
「うん」
シンもキッカケを欲していたのか、自分から話を始めた。ここに至るまでの経緯を。
「で、3日前の夜に、路上で倒れてた俺を見つけた八神はやてって人が・・・・・・」
「はやてが?」
意外な名前が出た。同時に納得もする。
「やっぱ知り合いか。じゃ、話が早い」
八神はやて・・・・・・あの車椅子の娘。夜天の書の主にして機動六課の部隊長、優しき一家の母。
彼女に拾われたのは運がいいよシン。器量が良さそうだからさ。
「とにかく、はやてがお見舞いに来てな。俺がC.E.出身って言ったらめっちゃ驚いて、じゃあキラ・ヤマトを知っているかって」
あー、なんとなく想像できる。3日前の夜って事は、ユーノから僕がいるって連絡を受けている筈だし。
多分シンはわけもわからないまま呆気にとられて肯定したんだろうな。で、落ち着いてから得意のキレ芸をやって、たしなめられて。
そっからはトントン拍子だろう。
「それでクロノ提督って人に会わされた。・・・・・・色々訊いたし、聞いた。この世界とか、魔法とか、アンタの事とかな」
それで今に至る、か。
ユーノが言ってたサプライズってこれか。まったく、驚いたよ本当。この時間に来させたのは誰の差し金だろね。
けど、うん。これは僕達の転移の謎が深まると同時に、謎を紐解く手掛かりにもなるな。
一人より二人、シンがいれば百人力だ。さっきアスラン・・・・・・じゃなくて錯乱してた時に、邪険に扱った事も謝らないと。
「びっくりでしょ、魔法とか」
「驚かないわけないだろ。人間が飛んでビーム撃ってワープしてんだぞ。全部夢だと思いたかった」
シンが憮然として答える。
わかるよ。一応僕が転移したのは並行世界の地球で、魔法が常識なミッドじゃなかったけどさ。魔法に対するショックはとんでもなかった記憶がある。
完全に常識と日常を覆されたんだもん。
・・・・・・覆されたからこそ、僕は其処に憧れた。
「多分だけど、シンも魔導師だよ」
「そーらしいけど。デスティニーもキーホルダーになってるし、アロンダイトは出てくるし、とんだメルヘンワールドに来ちまったもんだ」
語るその表情は、おどけながらも苦々しい感情が見え隠れしていた。掌に乗せたデスティニーの翼を模したキーホルダーを、血が滲むほど握り締めて。
明らかに、苛立っていた。
いきなりこんな所に飛ばされて、帰路が見えない状況に踊らされて。シンには堪えられないに違いない。
・・・・・・だって彼は、
「メルヘンワールド、ね。・・・・・・シンはやっぱり、帰りたい?」
「あたり前だろ」
僕なんかとは違うから。
「ああ、確かにここは居心地がいいよ、童話の中みたいに。まだ4日しかいないけど分かる。永遠なんてない、こんな筈じゃない事ばかりの世界で、ここは楽園だ。・・・・・・ここに俺達が居座るのは、罪悪だ」
予想はしてたけど、当然の如く即答。僕も感じていた罪悪感と真正面から向き合い、それでもいいじゃないかと逃げたキラとは真逆の答え。
此処をメルヘンワールドと言い切って、揶揄した彼の心はC.E.にある。
「・・・・・・だから、帰りたいの? 僕達を追放したあそこに」
僕達は、地球圏から追放された身だ。
指導者たる僕が、反逆の可能性があるシン・アスカを牽制する。
断罪者たる彼が、暴走の危険性があるキラ・ヤマトを監視する。
それが新地球統合政府から押し付けられた、僕らの歪な関係。
神憑った実力と、偶像的な影響力、看過不可能な危険性を孕んだ二人を封じつつ、まとめて地球圏外に追放する。木星圏開拓計画には、そんな裏の目的もあったりする。
僕達は地球の土どころか、プラントの人工大地を踏むことすら禁じられたんだ。ようやく訪れた平和の代償として。
「あんなんでも故郷だしな。・・・・・・アイツにも会いたいし、まだ抱きしめ足りないし、約束も果たしてないし」
シンにはまだC.E.に用があって、愛着もあり、愛する者もいる。あそこに彼の全てがある。
左薬指に在る指輪がソレを証明していた。
この世界には、ソレがないから。
「だから俺は・・・・・・!」
僕なんかとは正反対。絶対に真似できない。
でも、だったら、だからこそ。
「わかった、君がそうしたいなら手伝うよ」
「・・・・・・いいのかよ? アンタ、此処に居座る気まんまんなんだろ?」
「まぁ、そうでもあるんだけどね」
シンが帰りたいのなら、手伝わないわけにはいかない。そうしたいという気持ちも、僕の中にあるから。
そもそも立場上、残念ながら帰らないわけにはいかないし。
「ほっとけないよ。君は絶対に帰るべきだ」
「もとよりそのつもりだ。・・・・・・まぁ、帰るには最低でも1年はかかるらしいけどな」
「クロノ曰くね。仕方ないよ」
シンの表情から怒気が失せ、力の抜けた顔になる。慌てたって、もうどうしようもないから・・・・
「はぁ~~」
目的の未発見【世界】を、無限に広がる次元空間から特定するのは大変困難とのこと。
だから僕達が焦って喚いて暴れてもどうにもならないのが現実だ。問題は、帰還までにちゃんと様々な手続きを終えられて、生きていられるか。いつまでも無職の居候じゃいられない。
「その、帰るまでの期間さ・・・・・・僕はやっぱり、管理局に入ろうと思う」
でも、できることが無いってわけじゃない。
「・・・・・・一応聞いとくけど、どんな理由だよ?」
「うん。一つは、どうして僕達がここに来たのかを調べる為。もう一つは、C.E.発見の手伝いをする為」
手をこまねいて待機してるなんて、そんなのできないでしょ。
無限書庫の利用や情報の整理、実際にC.E.を探す等、積極的に動くのだったら管理局員の立場は便利だし必須だ。ついでに、クロノやユーノといった要人・知識人との接触も楽になる。
「うまくやれば半年ぐらいは短縮できる。あとは確実に身分とお金を得る為に」
これは切実な生命の問題に対処する手段。詳細は言わずもがな、それが手っ取り早く堅実だから。管理局には次元漂流者枠もあるしね。
この程度には、できる事はある。シンの希望に沿って動く事はできるんだ。
「なるほどな・・・・・・それで全部か?」
「え?」
「違うだろ。天然ロクデナシのアンタがそんな殊勝な理由で動くかよ」
「・・・・・・流石」
やっぱりシンに隠し事はできないか。最近なんか変なところで鋭い。普段は鈍くて他人の心情なんて気にもとめないクセにさ。
だいたい、シンのクセになんでもお見通しだっていう態度も気に入らない。
(スルーしてくれてもいいのに指摘してくるあたりは鈍感だけどさ)
確かに言うのが恥ずかしいから敢えて伏せた理由がある。察してほしかったケド・・・・・・まぁ白状してしまおう。はぐらかしたら後が怖いし。
「うん、凄い独善的なんだけどさ」
自分でもわからない欲求を、吐き出してしまおう。
最大の理由を。
「・・・・・・僕が頑張って、少しでも彼女達の平穏を守る事ができるのなら。その為なら、なんだってしたいと思うから、だよ」
彼女達・・・・・・なのはやフェイト、ヴィヴィオちゃん、教会のみんな、この世界の人々。
暗部さえあれど、それが全てじゃないと完全に言いきれる世界。
「なんでここまで守りたいなんて思うのかはわからない。もしかしたら強迫観念なのかもしれないし、条件反射かもしれない。判断基準が間違っているのかも、わからない」
シンは黙って先を促してくれる。
「けど・・・・・・でも、それが僕が力を持ってしまった意味だと思うし、罪滅ぼしなんだとも思う。そうするべきで、そうしたい」
彼女達に争いをさせない。それは咎人たる自分が引き受けると。
かつてシンは言った。普通に平和に暮らしている人達は守られるべきだと。そう、魔法の力があるとはいえ、僕からみればミッドの大半の人達は『そういう人』だ。 守りたい人だ。
だから。
「彼女達をこの手で、今度こそ守りたい。そんな欲求がある」
だから最後まで淀みなく。力を持つ者としての責務を交えつつ。僕は相棒に己の欲求を伝えた。
「いいんじゃねーか。仕事から逃げまくってたアンタが進んで仕事をしようってんだ。止める理由がない」
「・・・・・・ありがとう」
「そういう事なら、どのみち他にやる事ないし、勧誘されてたところだし・・・・俺もやってやる」
欲求は通り、道が拓けた。
ぶっきらぼうにでもちゃんと支持を表してくれた相棒に、ただ頭が下がる思いだった。
◇◇◇
「キーラーくーん!!」
「・・・・・・! っなのはちゃん!!」
16時57分。
シンと二人で教会正門で待機していると、とてもとても懐かしい声が風にのって届いてきた。
反応し、顔を上げれば。
「キラー!」
「キラくん!」
「フェイトちゃん・・・・・・はやてちゃんも!」
映像記録でしか知らなかった、大人になったあの娘達がいた。
14年という歳月が、いよいよ現実味を帯びてくる。
「みんな・・・・・・本当に大きくなったんだね。見違えたよ」
「にゃはは・・・・・・そうかな?」
「ユーノから連絡があった時は、本当に驚いたんだ。また会えるなんて、思わなかったから・・・・・・。久しぶりです、キラ」
「なんや随分と見る目があるなぁ。14年前とはダンチやね。会えて嬉しいよキラ君」
共にヴィヴィオちゃんの手を引いて歩いてくる、なのはちゃんとフェイトちゃん。そこから少し遅れて八神家こと、はやてちゃんと守護騎士の皆。
オトナの女性特有の、優しい丸みをもった肉体だけじゃない。貫禄や落ち着きを手に入れた彼女達はビックリするほど美しく、大きな存在になって僕の前に現れた。
初めて会った時は9歳で9つ年下の女の子、今は23歳で同い年。
「キラ君とはちゃんとお話しできた?」
「ええ、まぁおかげさまで」
「・・・・・・やっぱり、はやてちゃんの差し金だったんだ?」
「なんや差し金って人聞きの悪いー」
僕が再会を願った人達。
「はやて。この人が?」
「そ、シン・アスカ君21歳。ほら挨拶っ」
「・・・・・・よろしく。コイツの世話係です」
「ちょっとまって」
「んだよ事実だろ」
「どうしようフェイトちゃん否定しきれない」
「あ、あはは・・・・・・」
やっぱりこそばゆい。想像以上に高陽していて止められない。
てかこうすっかりオトナになってると、ちゃん付けもなんか気恥ずかしいな。ユーノみたいに呼び捨てにするか?
「こんにちは、ヴィヴィオちゃん。来てくれて、嬉しいよ」
「こんにちはキラさん! ちゃんとお話、してみたかったんです。・・・・・・これからよろしくお願いしますっ」
「うん、僕もそうだったよ。・・・・・・よろしくね」
三人娘と会話を交わした後、腰を屈めて相変わらず綺麗な瞳をもった少女と対面する。
高町ヴィヴィオ。二種の宝石を持つ少女。
思い起こせば、この娘とぶつかったのが全てのキッカケだったんだ。今僕達が集う事ができたのは、この娘のおかげなのかな、やっぱり。
「おいおい、あたし達は無視か?いい根性になったなコノヤロー」
「そんな、無視なんか。知ってはいたけど、そっちは変わってないんだねヴィータ」
そして、守護騎士達。
その出自から、刻の流れに比例せず、姿形が変わらない誇り高き者達。
「アンタも変わってねーじゃねぇかよ」
・・・・・・それを言われると弱いな。僕は4年前から大して変わってないから。髪の毛が伸びたぐらい?
「そっちは・・・・なんか雰囲気が丸くなったね?」
「ま、いつまでも尖ってちゃいられないからな」
「はやてちゃんと共に生きていくと決めましたから」
「そういうことだ。・・・・・・機会があれば、また手合わせを頼むがな」
シャマルさんにシグナムさん・・・・・・こんな優しい顔ができる人だったんだ。僕には戦いの記憶しかなかったから新鮮だ。
感嘆を抱きつつ、シグナムさんの発言は華麗にスルー。次に小さな二人に挨拶。
「あ、そっか。こっちの二人は初めましてだね。よろしくね」
「はい、リインフォースⅡですっ! リインとお呼びくださいー」
「アギトだ。まぁよろしく」
「うん、よろしく。・・・・・・ところでザフィーラは?」
「ここだ」
「・・・・・・子犬?」
「守護獣だ」
「そう・・・・・・」
一通り挨拶を終えて、僕達は揃って移動。教会内部へ──ディードさんやシャンテちゃん達が用意してくれたパーティー会場へ向かう。
みんな、笑顔だった。談笑して、笑いあって。
歓迎してくれてる。喜んでいる。長い時を経ても、久方の邂逅を暖かく彩るこの素敵な繋がりが、目頭を熱くさせる。
(やっぱり、僕を友達として認識してくれてるんだ)
さて。またも白状することになるけど、実はというと僕は、彼女達に対して一つの疑問を抱いていた。
それは、
──何故、こんなにも僕に笑顔を向けてくれるのか?
というシンプルなもの。
確かに僕は、戦ってる彼女達を視て護りたいと想ったし、一緒に空を翔けて魔法を使った。色んな人と友達になれたし、命を削りあったりもした。
『闇の書事件』に巻き込まれた僕の行動は、『クロノと共に仮面の男に立ち向かい、なのは達と共にヴォルケンリッターと剣を交え、最終的には和解し、闇の書の闇を討伐した』というもの。
でも、それはただの結果だ。
(僕がいてもいなくても、結局はあの結末になってたんじゃないか?)
その過程に、僕の意思は介在していなかった。
だってそうだろう。僕がいて歴史が変わったとしても、それは微細なレベルの変化でしかなくて、本筋は変革しなかったに違いない。
『クロノが仮面の男に立ち向かい、なのは達がヴォルケンリッターと剣を交え、最終的には和解し、闇の書の闇を討伐した』という本筋は。
あの時の僕は、ちっぽけだったから。
魔導師としても初心者で、役立つどころか足を引っ張る事のが多かった。僕自身としても、幼い彼女達に何もしてあげられなかった。
想いがあっても、力がなかった。
存在する事と、成した事でプラマイ0になるような。そんなのだったんだ。
──なんで彼女達が僕に好意的なのかわかんない。
そうするだけのファクターがないのに。
だから僕は正直、この再会は不安だった。ひょっとしたら何かの間違いじゃないかって。14年前の役立たずの事なんかスッキリ忘れてるんじゃないかって。
(そんなこと、なかった)
そんな自意識過剰な疑問は、彼女達の顔をみた瞬間に吹き飛んだ。遥か彼方、銀河の果てまで。
少しでも疑った自分が恥ずかしい。彼女達とふれ合って、クロノにデータを見せて貰って、そういう娘達じゃなかった事を知っていたのにね。
「じゃあシンくんは今、はやてちゃんの家にお世話になってるんだ?」
「成りゆきでそういう事になったんよー」
僕達は変わらず友達で、
「キラくんはこれからどうするの?」
「管理局に入るつもりだけど、当分はここでお世話になるのかな。手伝いしながら、ディードさん達が鍛練の相手になってくれるって」
一緒に歩んでいける輪の一つで、未知たる白いキャンバスを描いていける。
「そうなんだ。じゃあたまにはウチに遊びにきたらどうかな? 近いし、わたし達はいつでも歓迎だから」
「キラなら、うん。時間が合えば魔法の勉強も見てあげられるし、ヴィヴィオも喜ぶと思う」
「いいの?」
「ママ達も私も問題なしです!」
「じゃあ、そうさせてもらおうかな」
これからの未来に希望を予感して、僕らは鮮烈の日々を歩き始めた。
すぐ近くに、すぐ後ろに、致命的な破綻が待ち伏せているとも知らずに。
──────続く