魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED_05話

Last-modified: 2014-02-19 (水) 23:54:11

「ヴィヴィオちゃんは、どうしてストライクアーツを?」

教会のとある一室に眠れる少女、イクスヴェリアちゃんのお見舞いを終えたヴィヴィオちゃんを見送る、その途中。
緋い世界に染まる背中に僕は問いかけていた。
君は、どうして戦うのかと。どうして戦えるのかと。

「わたしは、・・・・・・強くなりたいんです」

振り向いてくれた少女の瞳には、曇りない一つの決意だけが宿っていて。
何故? 必然性はないはずだ。

「まだ自分が何をしたいのか、何をできるのかはよくわからないですけど──」

ないからこそ、それは個人の意思で、純粋だった。

「──大好きで、大切で。わたしを幸せにしてくれた、守りたい人の為に。約束を果たす為に。わたしは強くなるんです。だから・・・・・・」

 

水彩画みたいな景観の中でただ一人、少女は鮮やかに輝いてみえて。
それに僕は再び、性懲りもなく圧倒された。

 
 

『第五話 力の在処、強さの在処』

 
 

まず、いやそろそろ、僕達が使っている【C.E.式】の魔法について説明しようと思う。
C.E.式の魔力運用方式は、物質強化型の【ベルカ式】と純魔力放出型の【ミッドチルダ式】の丁度中間といったような存在。魔法陣も円と三角を合わした感じ。
この術式の最大の特徴は、魔力資質や魔力適性をデバイスを媒介に『自在』にセッティングできるという点にある。やりようによっては誰でも飛翔できるし、誰でも電気変換を使う事が可能だ。設定武装次第では砲撃戦も格闘戦もこなせられる。そして、使用できる魔法はほぼ全て戦闘行為に特化していて、それなりに高水準であるというのも特徴だ。
『高機動型砲撃魔導師ザフィーラさん』だって夢じゃない。

 

勿論、欠点もある。

 

ずばり、使用可能の魔法がモデルとなったMSの武装を模したモノ「でしかない」という点。そして、使用魔法がそれに限定される点。
だから基本的でシンプルな──『直射型射砲撃』『剣撃』『狭範囲盾』『飛翔』──魔法くらいしか使えない上に、魔法の基本中の基本である『リングバインド』や『プロテクション』、『思念誘導弾』、『身体強化』をデバイスに登録できないだけじゃなく、使えなくなるんだ。
これは他の術式に比べて、特殊で特別で奇抜な戦法を持てないということを意味する。
だから僕達に求められる技術は、『いかにして応用性と多様性に乏しい魔法を目標に当てられるか』という実に身体能力頼りのモノになるのは当然とも言えるだろうね。

 

◇◇◇

 

≪接近警報。後方に反応6、距離45≫
「チッ・・・・・・! ストライク、エール‐ブースター全開!!」

エール・ストライカーパックを模した一対の蒼翼。その輝きが増したのを確認して、大地を蹴る。
身体が魔力に導かれ、翼が疾り、まだ太陽も覗いていない早朝の大気を切り裂いた。

「レイジングハート、ディバイン‐シューター!」
≪シュート≫

ミッドチルダ北部、廃棄都市区画。
元臨海第八空港に面したゴーストタウンで、僕はただひたすらに迫り来る桜色の弾丸を回避していた。

 

弾丸回避訓練──シュート・イベーション。

 

我が友人たる高町なのは教導官様が直々に提案・監督・実践してくれる、対魔法射撃の訓練。非電子戦の環境で育ったMSパイロットには重要な試練でもある。
思念誘導弾丸の脅威を、身体に叩き込もうというんだ。
今回のクリア条件は、鍛練用デバイスである『ストライク』を用いて、なのはに一撃を喰らわせるor15分の完全回避(迎撃有り・シールド使用不可)だ。

(くそっ、やっぱり振り切れない。だったら・・・・・・!)

残り時間は丁度9分。まだ半分もたってない、先は長い。

天地をぐるぐる廻しながらビルからビル、隙間から隙間、なのはの視界の外へ入るような機動を努める。
それでも時間経過に比例して質と数を増していく弾丸は先程より速く、鋭く、正確に、複雑有機的な軌道を描いてこちらを覆い尽くさんと殺到し、なのは本人もぴったり追随してきていて。
派手な空戦機動を屈指しても、もはや焼石に水状態だ。流石は『エース・オブ・エース』か。
これじゃダメだ。魔力節約の為になるべく攻撃行動をしたくないんだけど、迎撃の必要性がより高くなってきた。
桜色に輝く魔力弾は既に背後5mまでに迫ってきている。
圧迫感。

「・・・・・・換装、ランチャー・モード!」

決断。
最高速状態から全力で制動をかけ逆噴射、一気に運動量を0にし──空中で急停止。歯をくいしばって更に急速後退。ビデオの逆再生のように流れる景色の中、ストライクを砲撃形態に切り替える。
慣性の法則に思いっきり逆らった動きが、身体に強烈な負荷をかけるけどこの際無視。この程度で根を上げては先が思いやられるし、今はミッションクリアが優先だ。

「・・・・・・っ」

そんな僕の無茶なマニューバに少しでも戸惑ってくれたのか、らしくもなく些か単純な直線軌道になってしまった思考制御型誘導弾丸達の隙間を、直感に従って手足を使った重心移動と躰の捻りを組み合わせたモーションで慎重にやり過ごす。
全てがスローに感じる錯覚の中で、身体表面ギリギリを通過していく6つの桜色に冷や汗を感じながら確認すれば弾丸は前方、距離14。
チャンス到来。

≪アグニ&フォトン‐ライフル≫
「当たれぇ!」

左手の魔法陣から発動する蒼の奔流『アグニ』と右手のライフルで、一瞬止まった桜色を狙い撃ち。全弾丸の破壊に成功した。

「やった!」

手加減されているとはいえ、今では完全に格上な彼女の意表を突けたような気がして、思わず胸が高鳴った。
だけど、

「そこで油断しちゃダメだよ!」
≪アクセル‐シューター≫
「うわっ!?」
≪警告。包囲されました≫

なのはとストライクから叱咤されてしまった。
左手に携えた二股の黄金の槍――デバイス‐レイジングハートを横薙一閃、彼女が新たに精製した誘導弾が360゚全方位に。数は20越え。これはヤバイかも。

「・・・・・・ならっ、サーベルを! エール‐ブースターの限界時間は!?」
≪26秒≫
「っ25秒後にソード!」

 

ただ回避するだけじゃ捕まる。
射撃魔法での迎撃も手数が足りない。
なのはに攻撃しようにもストライク唯一かつ最大の直射型砲撃『アグニ』なんかじゃ防御を抜けない。
ストライクには威力を爆発的に増幅させるカートリッジ・システムを組み込んでいない。
ならば。

 

「接近して、斬る!」

できることは、それだけだ。
飛行再開、一目散に全速逃走。
宣言とは裏腹に、なのはに背を向け一直線にすっ飛んだ。何にも邪魔されない限りなら、単純な直線飛行速度はエールのが速い。
まずは飛べる内にこのまま引き離す!

「はぁっ!」

追いかけ、回り込んでくる誘導弾は光剣と『イーゲルシュテルン』で排除。神経を磨り減らして、必要最低限の動きでの対処を心掛けて、どんどんなのはと距離をつけていく。
・・・・・・これで、この状況なら、彼女は──

≪ロード‐カートリッジ。バスター・モード≫
「ディバイーン・・・・・・」

 

──得意とする長距離砲撃を選ぶ。
今がチャンスっ!

 

「い、けぇ!」

反転、逆走、ついで上昇。
あの砲撃を運用する時は、術者は必ず長時間停止しなくちゃいけない。そのチャージ時間を利用して今までとは逆に、魔法陣とレイジングハートを構えるなのはに向かって飛ぶ。

(間に合え!!)

更に並行して【とある座標】を目指し遥か高みへ。低い雲を突き抜け、時間の許す限りに全力で。

≪飛行魔法限界値まで5秒、3、2、1、0。エール‐ブースター強制解除、ソード・モードへ移行≫

リミット。
ストライクから無情な宣告が響き、大空翔ける蒼の翼が霧散した。自然、身体は重力に捕らえられて成す術なく落下を開始。

「・・・・・・ッバスターー!!」

自由落下する僕を狙って、これ以上にない最高のタイミングで、彼女が代名詞たる主砲『ディバイン‐バスター』を発射する。
炸裂する桜の閃光、戦艦の主砲並の必殺パワー。全力全開情け無用の遠距離砲撃。
真っ直ぐに、僕を飲み込まんと突き進んでくる。
通常なら回避不可能だ。
でも、

「まだ!!」

勝算はある。
何故なら、僕は今、目的の座標。【なのはの直上】にいるのだから。
両手で力強く握った、ソードストライクの代名詞たる対艦刀‐身の丈程の蒼い太刀『シュベルトゲベール』を前方につきだして、重力も味方に加速加速。
躱す必要なんてない!

「ストライク!」
≪魔力資質変更。同時平行運用から一点圧縮運用へ≫

アンチマジック・コーティングを施された鋒を武器に、持ちうる限りの勇気を胸に。
僕は一つの弾丸となって、桜色の奔流に突っ込んでいった──

 


……
………

 

「──・・・・・・うはぁ、・・・・・・疲れた・・・・・・」
≪状況終了。システムリリース≫
「はい、キラくんお疲れ様ー」
≪お疲れ様でした≫

朝日が昇り、穹と廃墟街を明るく照らし始めた頃、僕はビル屋上で大の字に転がっていた。これは、精神的にキツい。
結局特攻は失敗。あっさり避けられて、最後まで逃げ回るハメになったからなぁ・・・・・・訓練自体は、なんとか転がるように這い回ってクリアはできたけど、できれば二度とやりたくない。
ピンクがしばらくトラウマになるくらい、散々に虐められてしまった。
・・・・・・なのはの事だから、きっとこれも幾度となく繰り返してやるんだろうけどさ。

「・・・・・・ん、なのはもお疲れ。レイジングハートも。・・・・・・ごめんね、いつも朝早くにさ」
≪気にすることはありません≫
「そうだよ。私から提案したんだし」

なのは達と再会して早2週間。
僕ことキラ・ヤマトがこの世界に来て20日。
あれから僕はこうして、時間が合えさえすればヴィヴィオちゃんのママとなっていた高町なのはに、魔法をレクチャーしてもらっている。
基礎知識から始まって理論に応用発展、まとめに実践、豆知識まで。流石は教官にモノを教える教導官だけあって、その手腕は超一流だ。
なのはの熱意に比例して、僕の腕前もぐんぐん上がっていき、今では電子戦闘仕様のAI制御型長距離高誘導ミサイル群相手に立ち向かえる自信すらあるぐらいだもの。
家事に仕事に忙しい筈なのに、いつもありがとう。

「それでも、だよ。──それで、どうかな。見た感じストライクは」
「上々だね。初めて組んだとは思えないくらい素直な子だし、前より性能上がってる。実戦用としても申し分無いくらい」
「マリエルさん達のお陰だよ」

デバイス‐ストライク。僕のもう一つの剣。
その名の通りGAT‐X105を模して製作されたデバイスで、基本は低性能でありながらも換装機能によってオールマイティーに強化できるのがウリだ。
なのはの「初心者の内から高性能特化機に頼ってちゃいけない」という切実な弁に従って、ストライクフリーダムの代わりとして僕と管理局御抱えデバイスマイスターと合同で組んだんだ。
なのはが上々と言うからには、僕が思ってる以上のポテンシャルがあるという事かな。
なんとなく嬉しくなった。

「やっぱり凄いねキラくん。ブランクあるのにあそこまで動けるなんて。前にも思ったけど、回避能力ズバ抜けてるよね」
「えと、ありがとう・・・・・・。教会でも鍛えてもらってるからね。他はまだからっきしだけど」

でも、あの弾幕をいなしきれた要因は性能ではなく、身体の動かし方そのものの方が大きい。

 

MSがいくら人間と同じように動けるといっても、それは甲冑を着けた人と比較しての話。嵩張る装甲と限定的な関節を持ったMSは、腕組みさえ、あぐらさえ満足にできない。
だから実際今回の訓練中で、MSでは到底避け切れなかっただろう攻撃・状況に多々直面した。
そんなちょっと前なら対応困難な弾丸でも、柔軟な人間の構造でなら対応できたんだ。

ソレを教え、鍛えてくれたディードさんを始めとする聖王教会修道騎士団のみんなには感謝だ。回避し続けていられたのは間違いなく、みんなが教えてくれた事が実を結んだおかげ。
ソレがなければ、たとえストライクフリーダムを用いてもクリアできなかったに違いない。ストライクでもクリアできたのは、そういう事だった。

 

「まぁ他は追々、かな。・・・・・・それとね、観測データを見てたら、少し気になるポイントがあったんだけど」

なのはが少し真面目な貌に。

「なに?」
「レイジングハート、お願い」
≪はい、マスター≫

赤い宝玉に語りかけて、先の訓練中に観測していた僕の魔力データを表示した、空間モニターを展開した。
一体、どういうんだ?

「ここ、このポイント。急に魔力波長が変わったの。それと同時にキラ君の魔力総量も増加してて」
「これは・・・・・・」

モニターは2つ、それぞれ魔力波長と魔力総量を記したモノだった。各々X軸が魔力関係、Y軸が時間を表した単純なグラフ。
因みに魔力波長とは、魔導師の根源たる『リンカーコア』が発する信号の様なモノだ。一人一人独特の波長を持っていて、それで個人を特定できたりできる。

「こんなの、普通は有り得ないんだけど・・・・・・これってやっぱり、あの時の?」

なのはは神妙に、グラフのある一点を指差して。・・・・・・なるほど、確かに奇妙だ。一人の魔導師として問題を理解した。

 

訓練終了残り3分というポイントで、魔力波長がまるで別の誰かに切り替わったかのように、紋様が変化して。右下がりだった魔力量もいきなり跳ね上がってうなぎ登りだ。

 

確かに、普通なら有り得ないな、コレは。
MSに例えるなら、バッテリー機のストライクが突如謎の機体に変化し、謎のエネルギー補給をしたのと同義。ゲームのバグかチートじゃあるまいし、現実には起こり得ない事だ。
でも、僕には心当たりがあった。

「そう、だね。きっと同じだよ。なんていうか、最後の切り札?」

 

誰が名付けたか、それは【SEEDの覚醒】と呼ばれている。

 

「確か、リインフォースさんと戦ってた時だよね。急に動きが良くなって・・・・・・あの時はちゃんと観測されてなかったから、ずっと不思議だったの」

そっかー、切り札だったのかーと納得するなのはを傍目に、僕も内心驚いていた。
そりゃそうだ。訓練終了残り3分時点で【覚醒】させたのは自分自身の意思だけど、アレにこんな副作用があるなんて僕も今初めて知った。

 

アレ・・・・・・【SEEDの覚醒】は、制御こそできるものの未だ謎の、正体不明のチカラだ。
全てがクリアに鋭敏になり、掌握すらできるような、あの得体の知れない感覚。窮地に陥った時や、より多くの力を望んだ時に幾度となく発現した、僕らのオカルトじみた切り札、奥の手だ。
リインフォースさんと戦った時も我武者羅に一か八かで【使用】したというのが現実で、それで実際になんとかなってしまってからは一層そう思うようになって。
だから今日も実験のつもりでやってみたんだけど・・・・・・

 

うーん、まさか魔力関係にも恩恵があるだなんて。乱発こそできないけど、これはいよいよ切り札だ。
思わぬ収穫だね。

「ブラスターみたいなものかな・・・・・・念のために、このデータはシャマルさんに送っとくね」

これで今日の早朝訓練は終了かな。本日二番目に重用な予定を消化完了、ここまでは順調そのもの。

「さて、今日のところはこれで御仕舞い。私は仕事に行くけど、キラくんはクロノくんに呼ばれてるんだっけ?」
「うん、昨日メールでね」

 

次は今日の、一番の予定だ。
昨夜、管理局の提督であるクロノからの呼び出しメールがきた。内容は直接話したい、来てくれ・・・・・・と。
それはきっと、とても重要な事項。
何かが始まる予感がした。

 

「じゃあ途中まで一緒に行こっか?」
「そうだね」

飛翔魔法を用いて廃棄都市区画から離脱、ミッド中央区方面へゆるりと空中散歩としゃれこむ。
その途中、先導する純白のバリアジャケットの背に、僕は語りかけた。

「なのははさ、強くなりたいって思ったことある?」
「あるよ、いっぱい。どうしたの?」
「ん・・・・・・なんとなく」

強さ、力。求める心は数知れない。求める意味も、その先の結果も。
その在処はどこにある?

「キッカケは、やっぱりフェイトちゃん。明確に強くなりたい! って思うようになったのは」
「高町式交渉術ってやつ」
「もう、茶化さないでよー」

フェイトも守護騎士も、シンもアスランも、みんな力を望んだ覚えがあるという。
ヴィヴィオちゃんも、シャンテちゃんも。
どんな環境であろうと各々のやり方で、強くあろうと努力している。

「それで『エース・オブ・エース』まで上り詰めちゃったんだ。一部じゃ『管理局の白い悪魔』って呼ばれて・・・・・・」
「キラくんっ!!」
「はは、ごめん」

つくづく正反対だなぁって思う。
特に聴いたところ、高町ヴィヴィオの性質は近接戦闘型じゃないらしいのに、総合格闘技‐ストライクアーツでがんばってる。
比較ばっかりする気はない(てか、そればっかしてた気がする)けど、そういう意味じゃ自身の設定が怨めしい。最初からいろんな適性・能力を持っていて、特に(表面上)できない事はない。
認めたくないけど僕はいわゆる、創作物における万能天才キャラだ。少年誌の主人公になれないタイプ。主人公ってのはもっとこう、努力とか過程とかを重視する奴だと思うから。
まぁ実際、あんまり強くなりたいって思ったことないし。

「でも実際問題、雑誌でそーいう紹介されてるのはどうなんだろ」
「うぅ・・・・・・わたし、そんなに・・・・・・? ヴィータちゃんに悪魔でいーよとか言っちゃったから・・・・・・?」
「え、流石にないんじゃないかな。14年前のだよ?」
「パパラッチはどこに潜んでるかわかんないんだよ・・・・・・」
「・・・・・・なんか、ホントごめん」

強くなろう。主人公になろう。今までの自分とはサヨナラ。自身の設定はドブに棄てろ。
今度こそ守れるように、彼女達よりももっと強くなろう。
しょんぼりとしたなのはを慰めながら、僕はそう決意した。

 

背後から忍びよる何かを、振り切るように。

 

◇◇◇

 

「C.E.が見つかったの? クロノ」

呼び出され、指定された場所に到着しだい、開口一番にそう言ってみた。
当てずっぽうでもなんでもなく、思い当たる節はコレしかないからね。

「ああ、見つかったんだ、想定より速く・・・・・・速すぎるほどに」

僕の発言を予測していたかのように、クロノ・ハラオウンは淀みなく返答。その顔は真剣で、緊張していて。暗い雰囲気を纏っていて。
部屋は綺麗に片付いていて清廉潔白な感じがするのに、重苦しい、後ろめたい空気で満たされていた。
それは確実に、ここにシンが呼び出されていない事に関係している。

「──・・・・・・やっぱり、ダメな結果だったんだね? ここにシンを呼ばない方がいいと、君が判断するってことは」

事実確認。
僕らの故郷、C.E.がこんな短時間で発見される事は、実は僕とクロノにとっては問題だった。予定外といってもいい。
そしてクロノの態度から察するに、二つあった仮説のうちの『悪い方』が現実となってしまったということも確定。
この発見によって、懸念材料はオセロで挟まれた駒のように、害悪になった。
発見された事自体は喜ばしいのに、奇妙な二律背反だよ。

 

説明しよう。

僕達、キラ・ヤマトとシン・アスカは間違いなくC.E.78から、この新暦79年のミッドチルダにやってきた。
でも、それはおかしい事なのだと、再会した時にユーノ・スクライアは言った。次元世界に流れる【時間】は同一の速度であり、絶対の法則なのだからとも。
だから、初めて僕が次元転移をした時の『C.E.74と新暦65年』を基準とするならば、新暦79年の今ならC.E.は88、僕は33歳でなければならない。

それで僕らはこの状況に対し、

 

『今回の転移は異常で、C.E.78から10年未来の新暦79年へとタイムワープをした』という仮説Aと、
『実は前回のキラの次元転移こそが異常で、今回は正常。タイムワープはしてなかった』という仮説Bの二つを立てた。

 

どちらが真実かは不明だったが、今ハッキリした。選ばれたのは仮説A、悪い方なのだと。

現実として、管理局は確かにC.E.を発見したがそこはC.E.88であり、僕ら【過去人】はそう簡単に帰還する事はできず、解決すべき難題ばかり積み重なっているんだ。
未だ確立してない時間移動技術の事も踏まえて、改めてどう対処すべきか。

そこで問題となるのがシン・アスカの境遇と性格だ。

流石は管理局提督クロノ、初めてシンと会った時に彼の性格と危うさを感じとり、罪悪感がありながらも仮説Bだけを話したそうだ。
シンは短絡的で視野が狭い。人恋しいクセに不器用で意地っ張り。でも、何処までも純粋でまっすぐで、心優しい人。
そんな彼に、愛しい人と引き離されて、帰還を本心から希望していて、魔法にもまだ馴染みがなくて、苛立っている彼に「帰れない」と告げてしまったらどうなるだろう。

きっと、良くない事が起こる。

だから僕とクロノとユーノは、もっとシンがこの世界に心を開いてくれてから、仮説Aについて話そうと考えていた。
C.E.が見つかる頃にはきっと大丈夫だろうと思って。いつか遠くない未来には、この世界に心を開いてくれると信じて。
でも発見してしまった。あまりにも速すぎる。予定では(平均値から導いた結果から)、最短でも1年はかかる筈だったのに、たった3週間ぐらいで。
シンの心は未だ頑ななままなのに。
だから、今ここに、シンはいないんだ。

 

「・・・・・・、・・・・・・いや。事態はこちらの想定以上に切迫している。今C.E.という世界は滅亡の危機に瀕しているといっても、過言ではない」
「え?」

 

それだけ。
・・・・・・たったそれだけの理由だと思っていたのに。
他に問題はないと思っていたのに。

「単刀直入に言う。・・・・・・C.E.は──」

後はどうやってシンに伝えて説得して、帰還方法を模索するのかという事だけを考えていたのに。
なんでこうなるんだ。
クロノの、この世界で一番頼れる男の重く鋭い言葉は、

 

「──既に【世界】というカタチを成していなかった」

 

総てを破壊した。
僕の前提も、決意も、思考能力さえも。
全てを、停止させたのだった。

 
 

──────続く

 
 

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