魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED_08話

Last-modified: 2014-01-01 (水) 22:37:06

「では、部隊長。キラ・ヤマト研修生並びシン・アスカ研修生はこれより、4日間の訓練合宿に行ってきます。・・・・・・すいません、入隊1ヶ月で、いきなり」
「いや構わんよ。あのエース・オブ・エース主催の合宿なのだろう? ならば、誰にとっても得になると私は思うがね」

時空管理局のミッドチルダ次元航空武装隊所属、対悪性魔法生物部機動八課。僕とシンが研修生として所属している部署。その小さな隊舎オフィスで、僕は慣れない管理局式敬礼をしながら部隊長に出立報告しているところだ。
正直、僕達とこの人の仲なら「じゃ、いってきます」だけで済むんだけど、何事にも形式というのが必要なんだってさ。

「観測班の予測では、これから5日間程は平穏らしい。心置無く修練に励んできたまえ。・・・・・・ただ、一つ条件を付けさせてもらうが」
「条件、でありますか?」

そう、この人。新暦68年に魔法の魔の字もない世界から突然ミッドチルダに漂着し、それから長いこと世捨て人をしていたケドしかしJS事件を契機に召喚魔導師として戦術士として頭角を表し、瞬く間に部隊長に就任したという経歴を持つこの黒色長髪の男性。
彼はおもむろに両手を組んで口元を隠し、眼光鋭く声色低く威風堂々大胆不敵に、厳かなオーラを醸し出す。
その余りにも様になっている仕草に、なんかとても嫌な予感がしないでもない。この人がこんな芝居がかったポーズをした時は、決まってロクでもない事が──

「・・・・・・水着女子の生写真を幾つか、見繕ってくれないだろうか?」
「──御断りします、ギルバート・デュランダルさん」
「俺らまだ死にたくないんで」

立場と年齢考えろ中年。

 
 

『第八話 何をするにしても先ずは準備体操から』

 
 

5月も下旬。
時が過ぎるのも早いもので、僕らがこの世界に来て2ヶ月、管理局に就職して1ヶ月が過ぎた。
爽やかで過ごしやすい柔らかな風と陽射しもお別れの時期、自己主張の強い梅雨と真夏が迫っていて。
そろそろこの聖王教会の庭にも立葵や紫陽花が咲く頃だろう。

「なんで、こんな事に・・・・・・」
「僕に言われても仕方ないよ、こればかりは」

ついでにこの時期、学生にとっては定期試験の時期でもある。
そんでもって、ヴィヴィオちゃんやアインハルトちゃん、コロナちゃんリオちゃんらが通う学舎‐St.ヒルデ魔法学院の前期試験期間終了日が今日だった。彼女達は頭脳もかなり優秀みたいでつい先程、良い成績を持って自宅に凱旋したとフェイトからメールが来た。
だから、あの計画もしっかり堂々実行できるわけだ。とっても楽しみで、年甲斐もなく胸が躍る。

「いいなーキラさん旅行いいなー」

うん。これから僕達は、高町なのはとフェイト・T・ハラオウン引率の「異世界旅行兼訓練合宿会」に参加させてもらえる事になっている。この日の為に有給を取った大人達と、赤点追試の恐怖から無事に逃れて試験休みを貰った子ども達が織り成す、4日間の素敵なイベントだ。
集合時刻まではあと1時間と30分。既に荷物を纏め終えた僕は今、シャンテちゃんの部屋にお邪魔している。

「うぅ、陛下達だけズルいですよーぅ。あたしもー」
「でも、そうしたら危ないのはシャンテちゃんでしょ? あ、そこのnはここの数値で・・・・・・、向こうで勉強なんてできる?」
「あーナルホド。じゃあこのzは、・・・・・・・・できる訳ないじゃないですか、旅行先で勉強なんてこのシャンテさんが」
「そんな自信満々で言う事かな」

うん、まぁ。
この合宿にはあの覇王っ娘アインハルト・ストラトスも含めてかなりの多人数が参加するのだけど、

「・・・・・・ハァー、なんでウチのはテスト来週なんですかねぇ」

聞いての通り、この橙髪の少女シャンテ・アピニオンは参加できなかったりしまして。
シャンテちゃん自身は熱烈に参加を希望していたんだけどね、これにはちょっとしたワケがある。シスターで騎士といえども、シャンテちゃんは一人の学生であるということだ。
どんな運の廻り合わせか、合宿最終日とシャンテちゃんとこのテスト期間初日が被ってるんだよね。つまり参加するには、途中で一人虚しく旅行先から帰るしかなく、その直後にテストをするという残酷な未来を選ぶしかないんだ。
本当に、なんてタイミング。なんて残酷な運命だろう。いくら魔導師が同時並行思考能力や演算能力に優れているといっても、ちゃんと勉強しなければ勉学で良い成績は取れない。
ついでシャンテちゃん本人の口からも「旅行先で勉強なんかできるはずがない」ときたものだから、せめてとこうして今時間ギリギリまでシャンテちゃんに数学だけでもと教えてる訳なんだけど。

「ここは、コホン・・・・・・愛しのシャンテちゃんの為に、向こうでも僕が勉強を教えてあげるよ☆ ってぐらい言ってくださいよキラさん?」
「声真似禁止。てか誰それ。・・・・・・そうは言っても今僕も解るのは数学と物理だけで、その他は勉強中だしな・・・・・・」

そりゃ僕だってミッドに来てこっち、この机に突っ伏して愚痴を溢してる娘とずっと行動を共にしてきたのだから離れるのは寂しいし、恩返しをしたいのもやまやまなんだよ? でも僕まだミッドチルダ語をマスターしてないし、他の知識もテスト範囲とは全く関係無いものばかりだ。
それにこういっちゃアレだけど、なのはやフェイトといった他の大人達も中学卒業で社会人になったようなものだから、あまり学校の勉学は期待できないんだよね。
この事情から、向こうで誰かが勉強を教えるというのは非現実的だ。

「甲斐性なしのクズが」
「えぇー」

可哀想だけど単独で頑張ってもらうしかない。
だから結局、シャンテちゃん緊急参戦! なんて事にはならなかったのだった。

 

◇◇◇

 

異世界旅行兼訓練合宿会場、その名を『カルナージ』という。
ミッドチルダ首都クラナガン次元港から出発して約4時間程のとこにある無人世界の名称で、僕らが宿泊する予定の施設はその惑星のミッド標準時差7時間な座標にある。赤道に近く、それでいて春のような温暖な気候で大自然豊かな土地みたい。地球じゃあり得ないそのシチュエーションは異世界ならではの産物だ。

「ふぅ・・・・・・あと、少しかな」
「あれ? やっぱりキラくん寝てなかったの?」
「やぁなのは。・・・・・・OS設定が難航しててさ。あのプロジェクトに耐えられる代物となると流石に寝てる時間が勿体無くて」

僕達は現在、そのカルナージへ向かっている臨行の次元船──あらゆる次元世界を内包する次元空間、通称「海」を航行する中型の旅客機──の中にいる。
ビジネスクラスと分類されているこの客室では、大人の脚を存分に伸ばせるぐらい広々とした間隔で座席が設置されていて、快適な海の旅を演出していた。さっき覗いてみたところエコノミークラスもなかなか窮屈を感じない造りになっていたし、きっと揚力や浮力に縛られない次元船最大の特権なんだろうな。
宇宙船と違ってデブリと衝突する危険性もないし、万々歳だ。

「これってキラくんとシンくんが1ヶ月前からずっと取り組んでる奴だよね? C.E.の為の・・・・・・でも、駄目だよ、こんな時ぐらいは休んどかないと。また倒れちゃう」
「なのはが言うなら、うん。わかった・・・・・・フリーダム」
≪データ保存、システム終了・・・・・・完了≫

そんなこんなで乗船から3時間が経過。
問題なく順調に進行する船の中、乗客の大半が眠りこけたり読書をしていたりするなかで一人、一心不乱にプログラミングをしていた僕を高町なのはが発見・接近してきて今に至る。

「どこまで進んだの? それって」
「なのは達のおかげでだいぶカタチになってきてね。今日中には第一段階のが完成すると思うから、後で診てほしいかな」
「りょーかい。レイジングハートと一緒にばっちりチェックしちゃうね」
≪お任せください≫

笑顔で即決了承してくれる彼女とその愛機が、ただひたすらに頼もしく感じる。この娘の漢前クオリティーも一貫して変わらないなぁ。
こんなの見せられたら倒れるわけにはいかないじゃないの。
そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、なのはが空席だった僕の隣に座る。栗色の長髪をツインテールからサイドポニーにチェンジして、すっかり少女から母親になった横顔にちょっと感慨深いものも感じた。

「僕がいうのもなんだけど、なのはは寝てなくていいの? てか、なんでここに?」
「なんか目が覚めちゃって。それでみんなはどうかなのかなって見て回ってたの。キラくんだけ起きてるんだもん」
「そうなんだ」

なるほど。4時間の短い旅といっても、4時間だ。寝るなりなんなりしないと退屈だし、更に起きてるのが自分だけってのは存外キツいもんだ。
じゃあ、付き合ってあげようかな。とりとめない世間話も悪くない。

「そういやさ、ヴィヴィオちゃんどうだった? 直前までアインハルトちゃんが参加すること秘密にしてたじゃない」
「あぁ、うん。凄い喜びようだったよヴィヴィオ。ここ最近じゃ珍しいぐらいはしゃいで」
「見てみたかったなぁ。それ」

ちらりと、左斜め後ろの席に座っている少女達を視認する。そこには今まさに話題の中心となっている高町ヴィヴィオとアインハルト・ストラトスが、身を寄せ合ってすやすやと眠っていた。実に微笑ましい光景。
約1ヶ月前に行われたアラル港湾埠頭・廃棄倉庫区画での運命的な激闘以降、ヴィヴィオちゃんとアインハルトちゃんが深めてきた親交の顕れだ。

「随分と仲良くなったみたいだよね。会う度にアインハルトさんと今日はどうのって話をしてくれるし」
「うーん。わたしとしては、そういう友達がいてくれて嬉しいんだけど、ちょっぴり妬けるというか複雑な気分というか」
「君にとってのフェイトみたいな存在なんじゃないかな」
「あぁ、そういう。お母さんも同じ気分だったのかなぁ」

同じ学校の生徒で格闘技者同士、古代ベルカ出身同士な二人の少女は何かと波長と相性が合うらしく、自然とお互いが気になる関係になっていくのは道理だったわけで。
聞いた話を分析したところ、明るく朗らかなヴィヴィオちゃんが積極的にアタックをし、クールで奥ゆかしいアインハルト4年生と中学1年生という組み合わせで尚且つ出逢って間もないのだから、それ相応に控えめな感じみたいだけど。
うん。というわけでヴィヴィオちゃんは、サプライズとされてたアインハルトちゃんの合宿参加に舞い上がったんだ。毎日の登下校で会えるかどうかすらが楽しみだって人と突然4日間お泊まりが出来るとなりゃ、そりゃね。

「だと思うよ? 僕も桃子さんとアリサの、そういう愚痴を聞いたし」
「えぇ? いつ?」
「えーと、桃子さんのは翆屋を手伝ってる時に偶々。アリサのは・・・・・・憶えてるかな。みんなで聖祥の冬季試験に向けて勉強会したの」
「うん、もちろん。・・・・・・懐かしいね。フェイトちゃんが国文苦手だからみんなで教えようって集まったのにいつのまにか、わたしとフェイトちゃんとキラくんが揃ってクロノくんに国文を教えられてたってのは流石にビックリだったよ」

あれは4年前、なのは達からすれば14年前か。守護騎士達とのファーストコンタクトから数日後って時すらも、当時小学3年生のなのは達はテストに追われてたんだ。学生とテストは切っても離せないものだから。
会場はアリサ・バニングスの邸宅で、僕とクロノとユーノ(人間形態)が特別講師として参加して、クロノが無双を誇った。僕とユーノは得意科目以外ダメダメだったから・・・・

「クロノは何者なんだっていう。あれは凹んだなぁ」

会話してる内に色々と思い出してきた。
なにかとお互いにべったりだったな、なのはとフェイト。なのはは無意識無自覚に、フェイトはちょっぴり意識しながら照れながら。勉強会の時も当然の如く隣同士だったし、しかもそれで勉強が疎かになるわけでもなく寧ろかなり効率性と集中力が上がっていたのだからきっと天性のコンビなんだろうなぁ。
アリサ達が嫉妬するわけだ。

「あの時コッソリね、いつも二人の世界を創ってて羨ましいって言ってた。かなり遠回しに」
「あはは・・・・・・よく注意されてたっけ。うん、今もされてる気がする」

こう比べてみると色々と似てる気がするな。いつも一緒に行動していた人が、ある日いきなり現れた人とかなり親密になって・・・・・・そう、まるで運命の出逢いの前座にされたような。実際はそんな事はないケド、ちょっとした淋しさを覚えたんだろうね。桃子さんもアリサもなのはも、もしかしたらフェイトも。
まぁもっとも、その愚痴を言ってたアリサもすずかとべったりなんだから他人の事言えないと思うけど。みんな自分のそういうところには案外気づかないものなのかも。良くも悪くも、誰もが羨むコンビってのは。
人間関係って難しいから、断言なんてできないけど。

「そんなだから週刊誌にあんな事書かれるんだよ?」
「あ、それは言わない約束でしょ~!」

 

けど一つ。確実と言える事は、あの少女二人がコンビと称される日もそう遠くないって事だ。

 

◇◇◇

 

23歳同士の、19歳と9歳と時じゃまったく想像もしなかった、対等でオトナっぽい内容の会話から1時間。僕らは安全無事にカルナージに到着した。
小さく、ほぼ無人な施設のロビーでの色々な手続きを完了させてぞろぞろと地下駐車場へ移動し、目的地まで行く為の小型車2台をレンタルした。フェイト曰く、ここには11人載れる車は配備されていないからだってさ。無人世界だから仕方ない。
というわけで、急遽開催されたグループ分けの為のジャンケン大会。約5分かけて決定したその結果を、合宿参加者の紹介も兼ねてここで表記する。

 

Aグループ
 高町なのは
 キラ・ヤマト
 スバル・ナカジマ
 アインハルト・ストラトス
 コロナ・ティミル

 

Bグループ
 フェイト・T・ハラオウン
 シン・アスカ
 ノーヴェ・ナカジマ
 ティアナ・ランスター
 高町ヴィヴィオ
 リオ・ウェズリー

 

天の意思かどうかはわからない・・・・・・てか何か作為的なものを感じるケド、なかなか珍しい組合わせに相成ったね。いつものコンビが見事にバラバラだ。
いつもヴィヴィオちゃんかノーヴェさんと行動していたアインハルトちゃんは少し戸惑い気味だったな。ここはなんとか僕がフォローしないと。

「はーい、みんなシートベルトつけてね。出発するよー」
「スバルさんが運転するんだ?」
「えぇ、まぁ。・・・・・・あっ、あたしの事はスバルって呼び捨てでいいですよ」
「ん、了解。帰りは僕が運転するよ」

とりあえず、Aグループ出発だ。
指定された白い軽自動車の助手席になのはが、後部座席に僕とアインハルトちゃん、コロナちゃんが乗り込んで、

「よろしくねスバル」
「はい、なのはさん。いきますよー」

スバルが手慣れた仕草でギアをドライブにシフト、ペダルを踏み入れた。年代物のエンジンが低く大きく唸りを上げ、車体が細かく震動し、タイヤが発生したエネルギーの大部分を地面へ伝達、力強く前進開始。
黒い軽自動車に先行する形で、暗く無機質で長い螺旋状のスロープを昇っていく。そのまま走ること数十秒、到着までどんな道のりなのかなと考えている最中、遠くに光が現れて、近づいては溢れ、

「・・・・・・! ・・・・・・これは」

見渡す限りの翆と蒼、咲き誇り萌える花々、遥かに映える山々、舞い躍る蝶々、清々しくも猛々しい一陣の風。そんなお伽噺のような光景が、目の前に広がった。

地下駐車場から脱した軽自動車2台が、その中を突っ切って往く。窓の外、その全てが広大で、澄んでいて、想像以上だった。全身が圧倒され、存在の全てを包んでくれるかのような感覚に細胞が震える。
唐突で突然で予想外。それは生物としての歓喜だった。いや、ホント凄い。ミッドの自然も凄いと思ったけど、これは桁違いで。これが、本物の自然というモノなのか・・・・・・

「生きててよかった・・・・・・」

無意識に、窓に顔を近づけながら、そう呟いていた。きっとシンも茫然と魅入っているに違いない。
だって、これは僕らが目指した理想郷、失われた未來そのものなんだから。

「・・・・・・キラさんは、こういうのは初めてなんですか?」
「あっ・・・・・・」

かなり大袈裟な発言に興味が湧いたのか、隣のアインハルトちゃんが訊ねてきて、ちょっとした自失状態から醒める。
彼女もこの大自然に感動しているような面持ちだけど、まぁ流石に「生きててよかった」なんて思わないよね、普通。

「・・・・・・えと、うん、僕は基本的に宇宙に住んでたから。こういうのは絵本の中にしかね」
「え、宇宙、ですか・・・・・・!?」

あ、アインハルトちゃん驚いてる。眼を丸くしちゃって、結構レアかもしれない。てか視てみれば、なのはを除いた全員が同じ表情だった。
それもそうか。資源競争がないミッドじゃ宇宙は一般的じゃないもの。世界をある程度自由に移動できるから、宇宙開発が進んでないんだよね。驚くのも無理はないか。

「あぁ、コロニーっていってね・・・・・・」

そういえば僕って23歳だけど、ちゃんと地球に住んでいたのはたった3年だけだ。その地球も温暖現象や土地開発、戦争のせいで自然は殆んど喪われてしまって、こんな景色は本当に絵本の世界だけだった。
まさか、生きている内に本物を目にできるなんて。・・・・・・ラクス達にも見せてあげたかったな・・・・・・

「──では、基本はソーラーセイルによる反射なんですね。天体の重力を利用するという事は、この数値で変動するんですか?」
「うん、そうだよ。そこの数式にこの数値を当てはめて・・・・・・そうするとここベクトルが変わって人工重力ができるんだ。・・・・・・てかやっぱり凄いね、君たちは。ちょっと設計式を見せただけなのに」
「いえ、そんな・・・・・・」
「教え方が丁寧でしたから・・・・・・──あ。アレでしょうか、宿泊先のホテルというのは」

少しだけ照れた様子のコロナちゃんとアインハルトちゃんが前方を指差してプチ講義は中断。コロニーやプラントの仕組みを教えている内に、目的の施設に到着したみたいだ。
はからずも、アインハルトちゃんのフォローに成功していたみたい。

「ホテル・アルピーノ・・・・・・」

展開していた空間モニターを消して、その建物を注視する。

「あー・・・・・・聞いてはいたけど、なんか色々増えてるねぇ」
「そうですね・・・・・・あの建物も以前は無かったですし」

白壁三階の建物と、木の板で組まれたロッジ。なのはとスバルが言う増えたモノは僕には判断できないけど、なんか良さげな雰囲気は感じ取れた。
あそこで僕らは4日間の生活をすることになるんだね。

 


……
………

 

「みんな、いらっしゃ~い♪」
「こんにちはー」
「お世話になりまーすっ」

紫の髪の女の子、ルーテシア・アルピーノちゃんとその母親、メガーヌ・アルピーノさんの明るい出迎えに、なのはとフェイトが率先して応える。それに少し遅れて僕らも頭を下げた。

“・・・・・・ねぇシン”
“なんだよ”
“いい加減フラグ乱立させるの止めない?”
“俺だって好きでやってるわけじゃない・・・・・・”

と、同時に念話でシンに釘を刺す。
そんなに信用ないのかよ・・・・・・ってシンが遠い瞳で呟いてるけど、ねぇ?
車から出たきたリオちゃんは頬を紅潮させてて、シンはどこか気まずそうで、他の皆はニコニコしてたんだもん。怪しむなってのが無理だよ。
とりあえずノーヴェさんに確認をとってみよう。

 

Q 何があったんですか?
A 寝てたシンがカーブの際に倒れてさ、リオの腿を枕にしちゃったんだよ。

 

ラッキースケベの異名は伊達じゃない。なんて羨ま・・・・・・けしからん事を。一体、何人の女の子とフラグを建てれば気が済むんだろうか。

「あまり怒らないであげてね。シンにはいつもの事だから」
「あ、大丈夫ですよ、そんな・・・・・・ちょっと恥ずかったですケド、気にしてませんからっ」

手をパタパタ振ったリオちゃんもシンを庇ってくれて、

「それにシンおに・・・・・・さん、はやてさん達の為に毎日遅くまで手伝ってくれてるみたいで・・・・・・仕事も頑張ってくれてるから仕方ないと思います」
「そっか。・・・・・・うん、そうだね」

コロナちゃんもシンのフォローに回る。なんて良くできた娘なんだろう、この少女達は。・・・・・・、・・・・・・いやちょっとまて。今お兄ちゃんって言いかけてなかった?

「キラさん、シンさんっ。こっち、ちょっといいですか?」
「ん、どうしたのヴィヴィオちゃん」

そんなこんなしてたら、ヴィヴィオちゃんがトコトコといった感じでやってきた。

「えと、自己紹介です。全員揃ったので」

あぁ、それって現地合流の二人が来たって事ね。じゃあ行くしかない。

「リオは直接会うのは初めてだね」
「今までモニター越しだったもんね」
「うん、モニターで見るより可愛いねリオは」
「ほんとー? ルールーも可愛いよ」
「すまん、遅れた」
「大丈夫です、待ってません」

集ったのは僕とシンと、ヴィヴィオちゃんとアインハルトちゃんとリオちゃん、先の紫髪の少女に赤髪の少年、桃髪の少女と・・・・・・白い、ドラゴン。
もう驚かないからね。ここは魔法の世界なんだから。なんでもアリなんだから。

「よし、まずは僕から。・・・・・・初めまして、エリオ・モンディアルです」
「キャロ・ル・ルシエと、飛竜のフリードです」

この二人組はフェイトの養子で、実の子供と言っても差し支えない存在らしい。

「で、私がルーテシア・アルピーノ。ここの住民です。一人ちびっこがいるけど、私達三人14歳で同い年」
「もう、ルーちゃんっ! わたしも1.5cm伸びたんだから!」
「変わらないじゃない」

うん、なんだか愉快な三人組(+一匹)みたいだ。
キャロちゃん、ヴィヴィオちゃん達と同じぐらいの背丈みたいだし・・・・・・気にしてるみたいだね。っていうか、いつから比べて1.5cmなんだろう・・・・・・

「じゃ、次は俺だな。シン・アスカ21歳だ。よろしくな」

相方の簡潔な自己紹介に続く。

「キラ・ヤマトです。僕は23歳で・・・・・・、よろしくね」

特にエリオ君。君とは是非とも友情を築きたい。
なんたってエリオ君は男の子。つまり、この合宿に参加する三人目の男性で。

“仲間が増えるよ。やったねシン”
“あぁ。・・・・・・男女比がおかしいからな、此処。少しでも同類が欲しいってのが本音だ”

参加人数13人+宿主2人で、男女比1:4。うん、男少なすぎだよね。どうしてこうなった。
ところで僕達が参加していなかったら、男性はエリオ君だけだったのだろうか。・・・・・・考えないであげよう。
せめてユーノがいればな少しはなぁ。残念でならない。

「シンさんに、キラさんですね。フェイトさんからお話しを伺っていますっ」
「よろしくお願いします! ──・・・・・・? ・・・・・・??」

歳上男性二人の妖しい視線を浴びて戸惑い気味の少年。大丈夫、捕って食いやしないからさ・・・・・・
さ、次は君の番だよ。

「アインハルト・ストラトスですッ・・・・・・」

ちょっとだけ上擦った感じで、碧銀の覇王少女。アインハルトちゃんて、結構な照れ屋さんなのかも。基本クールだけど、時折こういう可愛らしさを見せてくれるあたりは年相応だ。

「うん」
「よろしくね、アインハルト」

そんな少女を朗らかに受け入れる二人の納得のウェルカム感は、流石フェイトの家族という事だけある。

「さて、お昼の前に大人のみんなはトレーニングでしょ。子供たちはどこに遊びに行く?」

さて。消化すべきイベントを全て終えると、ここでは一番年長なメガーヌさんが早速と僕達に選択肢を提示してくれて、

「やっぱりまずは川遊びかなと。お嬢も来るだろ?」
「うん!」
「アインハルトもこっち来いな」
「はい」

今やみんなの姉御的な存在のノーヴェさんが即座に選び取る。
早速と子供達は川遊びか。となると僕ら大人組は、

「じゃ、着替えてアスレチック前に集合にしよう!」
「はいッ!」
「こっちは水着に着替えてロッジ裏に集合!」
「はーいっ!」

なのは教導官殿直々の地獄トレーニングになるわけだ。早速ね。
ともあれ元軍人として、男として遅れをとるわけにはいかないね。2ヵ月間の鍛練の成果、今こそ発揮する時。気合いを入れていこう!

(・・・・・・なんとか完走はしたいなぁ・・・・・・・・・・・・)

 

異世界旅行兼訓練合宿会、その幕が今、上がる。

 
 

──────続く

 
 

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