魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED_09話

Last-modified: 2014-01-01 (水) 23:37:04

「──く、そっ!?」

 

しくじった。

 

あぁ、しくじったさ。
迫り来るエリオ・モンデアル、檸檬色の噴進式突撃破砕槍『スピーア‐アングリフ』を跳躍で回避という選択をしちまったのがいけなかった。
それからというもの、宙に浮かんだ俺を標的に360゚全方位から一斉に大量の誘導弾が殺到。それに追い立てられる様に慌てて飛翔魔法を展開したら、見事にスバル・ナカジマの目前まで誘導させられて、

「リボルバァー・・・・・・」
「まずい、デスティニー!」
≪ソリドゥス‐フルゴール展開≫
「キャノンッ!!」
「ッ!」

咄嗟に展開した魔力防壁もお構いなしな圧倒的攻撃力に、成す術なく大地へ向かって一直線に吹っ飛ばされているというのが、俺ことシン・アスカの現状だ。

「・・・・・・・・・・・・グガッ!!?」
[シン!? ──くぅ!]

激痛。
背中からもろに激突してしまった身体は派手に大地を砕き、およそ5cm程のクレーターを形成する。それでも肺から空気が抜け、肉体が硬直する程度で済んだのは不幸中の幸いと見るべきか。魔法がなけりゃ脊髄を損傷させてたかも・・・・・・死んでたかもしれない。魔法って凄い。

「クロスミラージュ、カートリッジロード!」
≪ブレイズ‐モード。バレルフィールド展開≫

霞む視界の彼方に、俺に追撃の構えを見せるティアナ・ランスターと、未だ誘導弾から逃げ惑っているキラ・ヤマトがいた。
いや不味いだろコレは。
非常に不味いこの状態。あの攻撃を受けるわけにはいかないのに。ここからどうすればあの脅威から逃れられるかは解るのに。
だが意に反して身体は動かない。意識が混濁してる。魔法を展開する余裕もない上に、キラの援護も期待できない。

「・・・・・・こんな事で」

橙色のミッドチルダ式魔法陣を展開し、二挺の拳銃を俺に向けて突き出すティアナ。アレは、砲撃の構え。
脳が警鐘をガンガン鳴らす。やばい、やばい、やばい。防御も、回避も、迎撃も、不可能・・・・・・!!

「こんな事で俺はッ・・・・・・!!」
「ファントム‐ブレイザー、シュート!!」

できる事は、痛みで途切れそうになる意識を必死に繋ぎ止め、ただ目を見開き眺めるのみだった。
正真正銘絶体絶命。
まだなのかよキラ、アレは──

 

[OSアップデート完了! いけるよ、シン!]

 

その時。
ティアナが発動した直射型遠距離狙撃砲、極太の橙色の輝きが視界を埋め尽くさんとしたその時、
待ち望んでいた叫びが鼓膜を震わせたその時、

「──う、おおぉぉぉぉぉぉぉおぁぁっ!!」

これ以上にないグッドタイミングで、何かが出来るようになったと、理解出来た。

 
 

『第九話 パワーアップ・イベント!』

 
 

時は冒頭より、20分程前に遡る。

 

「はーい、そこまで! 5分休憩していいよー!」

無人世界『カルナージ』の訓練合宿、その宿泊施設の近郊に設置されているアルピーノ謹製アスレチックコースに響く女性の声。それはある一つのトレーニングの終了を意味していた。

「ふぅ・・・・・・」
「つ、疲れ、たぁ」
「やっと終わったよ~」

直後、次々とその場に座り込み、倒れ込むトレーニング参加者達。それを尻目に俺も近場にあった手頃な岩石に腰掛けて、乱れた呼吸を整える為に深呼吸を繰り返した。
ああ、空気のなんと美味いことか。

(流石に、ハードだったな)

先のトレーニングの内容とはズバリ。魔法禁止の上で、某イタリア人配管工兄弟が決死の覚悟でトライしそうなアスレチックフィールドを三時間全力走破する、というものだった。しかも魔力弾による妨害のオマケ付き。高町なのは教導官曰く、基礎運動能力と判断能力の強化を目的とした大人気プログラムを流用・強化したものなのだという。
くそっ、筋肉疲労と精神疲労がハンパじゃないぞコンチクショウ。
見れば、エリオやフェイトといった歴戦の猛者達も疲労困憊死屍累々といった様子で、ニコニコ笑顔でいるのはスバルぐらい。余裕綽々でなのは教導官(審判役ということで、このトレーニングで走ったりはしていない)と談笑してる。化け物かアイツは。
とりあえず、脱落者は出てないみたいだが・・・・・・

「おいキラ。無事か?」
「それなりにかな・・・・・・僕も一応」

大の字仰向けに倒れているこの男。俺の元宿敵であり、元上司であり、現同士であるこの男キラ・ヤマトは意外なことに、苦笑できる程度には体力が残っているようだ。
デスクワークばっかりしていても、流石に「最強最高」を謳い文句にされたり、クローン説や不死身説をまことしやかに囁かれたりされた男は伊達じゃないってか。知れば知る程その表現に疑問を覚えるのがコイツのクオリティーなんだがな。

「真っ先にアンタはリタイアすると思った」
「やめてよね。僕だってフェイト達には負けたく・・・・・・ゴフッ!」

あ、やっぱダメみたいだ。
まぁ俺でもキツかったし、仕方ないか。

「あの、シンさん。キラさんがなんか危なげな咳をしてるんですけど・・・・・・大丈夫なんですか?」

涙目なキラを心配したのか、桃色髪のキャロ・ル・ルシエがこちらにやって来た。自分も疲れているだろうに。

「ああ、大丈夫だろ。コイツの回復力凄いから、すぐ復活するさ」
「そ、そうなんですか・・・・・・?」

自爆に巻き込もうがエクスカリバーで貫こうが問答無用で復活した奴にくれてやる慈悲はない。
とりあえずキャロを安心させてやろうと頭を撫でてやる。絹みたいに柔らかそうだったその髪も、今は汗でびっしょり。

「なぁティアナ」
「ん、何かしら?」

その乱れた髪を梳くように撫でながら、隣で整理体操をしていたティアナにかねてより気になっていた事を訊ねる。

「次って模擬戦だよな。組み合わせってもう?」
「いや、まだね。なのはさんの事だからちゃんと決められてはいるでしょうけど・・・・・・確かに気になるわね」
「珍しいですよね。こういう事で詳細を伏せたままにするなんて」

うーむ。ティアナ達も知らないのか。事前に配布されていたプログラム(旅の栞)にも載ってなかったし、じゃあ俺だけが聞き逃したって線は無さそうだな。

「まぁどちらにしろ、やるからには全力で当たらせてもらうわ」
「そうですね」
「同感」

模擬戦。そう、模擬戦だ。
俺達はこの後、このキャロやティアナといった元機動六課フォワード陣の連中と一緒に模擬戦をする予定になっている。
なんたって魔導師的訓練合宿だ。俺は人も魔法も知らない事ばかりで、それじゃあ色々と不便で面倒だろうということで、お互いの戦闘スタイルや特性を手早く把握できる手段として模擬戦という選択肢が選ばれたとかなんとか。
戦闘力を鍛える場所なんだから戦えば解るだろう、って。
んで、その内容が未だに発表されてない事に首を傾げているのが、今現在の状況というわけだ。できれば事前にチームや形式を知りたかったんだが・・・・・・
まぁこればっかりはな。その時はその時、何が来ようと善良を尽くすだけだな。俺達はみな。
きっと、なんとかなるさ。

 


……
………

 

なんて、気楽に構えてた5分前の自分を殴ってやりたい。あぁ、助走をつけて全力で殴ってやりたいとも。
なーにが「なんとかなるさ」だ。こんな事になっちゃ口が裂けても言えない台詞だぞ。

「どうして、どうしてこんな事に・・・・・・」
「アンタが悪いんだ・・・・・・アンタが余計な事言うから・・・・・・」

模擬戦である。
ただし、模擬戦と書いて「イジメ」と読むが。唐突にシグナムさんが5人いる風景を幻視した。
故に、俺もキラもローテンション。どうしてこうなった。

「元機動六課フォワード陣の総攻撃を、俺とアンタの二人だけで10分凌げ・・・・・・とか、無茶ぶりにも程があるっての!」

いや無理だろ、常識的に考えて。よりにもよって4対2とか。
キラ、シンvsスバル、ティアナ、エリオ、キャロとかパワーバランス崩壊必至だろ。
元軍人で実戦経験豊富だとしても、魔法に関してはまだビギナークラスなんだぞ俺達は。対して奴等は魔法戦のプロフェッショナル集団。数でも質でも圧倒的に不利。ジン2機でザク10機に挑むようなものだ。
これなんて罰ゲーム?

「それだけじゃないよシン。僕なんて新しいOSを組みながらやんないといけないんだよ・・・・・・」
「それこそ自業自得だろ」

そもそもの原因は、ここカルナージへ来る際に搭乗した次元船内でキラがなのはに持ち掛けた相談にある。それは、「今日完成予定のC.E.式デバイスの新OS、出来上がったら診てくれないかな」という他愛のない言葉だ。
十中八九、キラとデュランダルさんとユーノらが協同で開発している新OSの事だろう。まだまだ真の完成には程遠いが、思い返せば近日中に第一段階のが完成するとか言ってたし。そして、最終調整は実際に稼動データを取りながらやるのが一番効率が良いとも言ってた。
それをこの馬鹿が馬鹿正直に航空武装隊戦技教導官様へ伝えてしまった結果が、

「あ、じゃあ闇の書事件の時みたいなさ、戦いながらデバイスを調整したアレもう一回観てみたいな。あのスキルが実戦で使えるモノなのかテストもしてみたいし」
「え」

この結果だ。ホントはた迷惑な人だな。
まぁつまり纏めると、この追加プログラムは、

 

1‐キラのスキル再確認。
2‐シンの護衛能力の確認。
3‐新OSの起動実験。
4‐今後の為の、六課組とC.E.組の戦闘力の確認。

 

上記4つを目的として組まれたというわけだ。いや絶対ただの興味本意だろ。1から3は方便だろコレ。
ちなみにさっきフェイトに訊いたところ、あの高町なのはもなかなかのバトルマニアであるという。普段は地味で堅実なやり方を好む人物なのだが、強い人物と出会うと偶に無茶をやらかすらしい。目をつけられたんだろうなぁ。
まぁ兎に角、俺達はこの鬼畜訓練を生き延びなければならない。やるからには負けたくないし。

「・・・・・・で? どんぐらいまで出来てるんだ?」

腹を括ろう。今に重要なのは現状の原因ともいえる新OSについてだ。

「大体90%ってところかな。でもシナプス結合とかルーチン最適化とかもあるから、実戦中にともなるとインストールにはかなりかかる。一度やっちゃえばその後はリアルタイムで調整できるけど」

フルインストールできれば此方にも勝機がある、とはキラの弁。

「随分と自信満々だな。俺達専用のそのシステム・・・・・・概要は聞いたけど、実際はどうなんだ?」
「そこは僕達を信じて欲しいな。僕らなりに魔法を研究した成果なんだから。・・・・・・スタート1分前だ。こっちも準備しよう」
「・・・・・・了解。デスティニー、システム起動!」
「ストライクフリーダム、システム起動!」

こうなったらヤケクソに信じて待つしかないか。
遠く離れて待機をしていた機動六課組が臨戦体勢にシフトしたのを確認して、こっちもデバイスを起動。デスティニーの翼を模したキーホルダーを掲げ、紅の【力】を展開させた。

「しっかり僕を守ってよね」
「努力はする」

いつものヴォルゲンリッターとの模擬戦とはまた違う、初めての大規模戦闘行動。気を引き締めて取り掛かろうじゃないか。

 

◇◇◇

 

余談だが、俺達のバリアジャケット――魔法的防護服――はザフトの軍服を模して・・・・・・っていうか、そのままデザインを流用したモノを使っている。つまり俺がザフトレッドで、キラがザフトホワイト。ちょっとばかしアレンジは入れてるけどな。
これにはいくつか逸話と理由があるがその中でも、この軍服に謂わば『楔』のような効果を期待したというのが一番の理由だ。
自分の所属、業、最終目標を忘れない為の、あまりにも分かりやすい楔を得たかったから。
だから、俺は今も赤を纏っている。

 

◇◇◇

 

[さぁ、避けて防いで駆け抜けて! 大和魂でいってみよう!!]
[頑張ってね、みんな]
≪模擬戦、開始です≫

「なのはさんとフェイトさんの手前、ミスはできない。・・・・・・いくわよスバル、エリオ、キャロ!」
「「「応!!!」」」
≪クロスファイア‐シュート≫
「やってやるさ、こんちくしょー!」
≪デリュージー‐リニアバレット≫
「シン! 任せたよ!」
≪ピクウス‐バルカン≫

俺とキラの・・・・・・守備側にとっての勝利条件は、とにかく生き延びればいい。OSが完成しようがしまいが、最悪直撃をもらわなければそれでいいんだ。そして俺とキラは空戦魔導師であり、アイツら4人は陸戦魔導師である。比較的やりやすいシチュエーションな筈。
だからなんとかなるだろうと踏んでいたのだが・・・・・・正直甘く見てたと言わざるをえない。

 

ニコニコ笑顔のなのは教導官と、少し呆れ気味のフェイト執務官の掛け声によって始まった模擬戦は、戦闘開始から6分の頃にターニングポイントを迎えた。
限界は、あっさりと訪れる。

 

縦横無尽に飛び交う魔法の道『ウィング‐ロード』に退路を断たれ、ティアナとキャロの飽和射撃の対応に追われ、突撃してくるスバルとエリオに弾き飛ばされる。この連携攻撃により、着実に神経と体力を削りとられている。
手数も火力も戦術もなにもかもが足りなかった。

「でぇぇい!」
「チィッ!」

連結刀エクスカリバーでスバルの拳を受けとめ、衝撃を利用しながら後方にステップ。さらに迫る脚撃と、直上から放たれたキャロの桃色な思念誘導弾『シューティング‐レイ』を回避する。

「このっ・・・・・・、調子に乗るなァ!!」
「やって、ケリュケイオン!」
≪チェーン‐バインド≫
「な、また!?」

が、直後。突如背後より出現した桃色の鎖で二重三重と雁字搦めに捕縛されてしまった。来ると判ってはいたのに、厄介極まりないな「魔法」ってのは!
つーか、マジでなんなんだよ。
瞬間移動したり分身したり、どこからともなくワイヤーが顕れたり、ビームが曲がって追いかけてきたり。複雑怪奇で荒唐無稽、厄介にも程がある代物・・・・・・俺達唯一の取り柄であるところの基礎身体能力と戦闘経験を軽く上回るコレは明確な「脅威」そのものじゃないか。こっちは真っ直ぐ単純な攻撃しかできないのに。
故に、新OSを構築しているキラを護るように立ち回らければならないのに、ぶっちゃけ自分の身を守るのに精一杯になりつつある。
情けない!

「うぉらぁぁぁぁ!」
≪バインド強制解除。フラッシュ‐エッジ&パワー‐スラスター≫
「は、速!?」
「エリオ! そっち行った!」

もっと情けないのは、こんな時でもフルパフォーマンスの戦闘力を発揮できない自分自身だが。
八神家のおかげで魔法には大分慣れたつもりだけど、未だ思った通りに動けないというのは想像以上に苛つく。【俺】はこんなもんじゃないのに!
ええい、こんなことでやられてたまるか。負けじと気合いを込めて、強引に急速退避。

「デスティニー、ライフルを! 全部撃ち落としてやる!」

紅の魔力を撒き散らし、二人を牽制しつつ一気に距離を離しながら尚もしつこく追従してくる誘導弾群を視認。数は6、なるだけ減らしてやる。相対速度と未来予測位置を計算に入れて・・・・・・!

≪フォトン‐ライフル転送≫
「行けよ!」

地面スレスレを高速飛行しながら、右手に顕れたライフルを慎重に構え、狙って狙って、9回トリガーを引いた。

「・・・・・・は?」

引いて、射出された紅の弾丸は全て明後日の彼方へ飛んでいったのだった。
変わらない状況。6つの誘導弾は健在で、複雑な軌道を描きながら追ってくる。
つまり、外した。
俺が? 狙いは完璧だった筈だ。おいおいルナじゃあるまいし、これは・・・・・・って、いや、考えてる場合じゃない!

「あれは・・・・・・エリオ、させるかッ!」
「見つかった!? でも!!」

ダッシュ。
アンチ・マジックコーティングが施された2本の大剣を振り回して『シューティング‐レイ』を排除しつつ、キラに肉薄しつつあったエリオへアタック。ジェット推進装置を備えた槍型のデバイス・ストラーダとの数号の打ち合いの後、無理矢理に鍔競り合いに持ち込んだ。
護衛対象をやらせてやるかよ。

「押し切ってやる!」
「ぐぅ・・・・・・! ストラーダ!!」
≪ロード‐カートリッジ。スタール‐メッサー起動≫
「とりゃぁ!」
「ぬあっ!?」
≪エクスカリバー破損。修復不可≫

エリオの槍がガシャコンと薬莢を排出、檸檬色に輝くと同時に俺の大剣2本が揃ってスッパリ両断。ただの鉄屑と化した。
嘘だろ。こんな簡単に?
更にエリオは間髪入れずストラーダを振りかぶり、追撃の意思を見せる。

「なろ・・・・・・!」
「シンしゃがんでっ!」
≪クスィフィアス&カリドゥス≫
「うわ、わっと!?」
「悪い、助かった・・・・・・、まだかよ!?」
「もう少し耐えて!」

それを妨害したのは護衛対象の威嚇射撃の嵐で、屈辱的だがなんとか当面のピンチは脱せられた。
とりあえず折れた大剣の代わりに紅き光剣『ヴァジュラ‐サーベル』を装備。ユニゾンしている『コア‐ユニット』さえ無事なら武器破損は大した問題じゃないが・・・・・・
状況は最悪だ。

「肉体の限界か・・・・・・ッ」

サーベルを保持している俺の腕が、細かく絶えず痙攣していた。
分析してみれば単純な理由だ。過激な訓練による疲労、不慣れな生身での連続戦闘、魔法に対する極限の警戒心。それら要因が積み重なった結果、筋肉に限界がきた。
バインドに呆気なく捕まったのも、照準がブレたのも、簡単に武器を折られたのも、必然といえば必然だったんだ。

≪接近警報≫
「しまっ!?」
「油断大敵! いくよ、マッハキャリバー!!」
≪ギア‐セカンド。やってやりましょう相棒≫

そんな事を今更考えていたのが仇になったか。いつの間にか、ゴツい歯車付き籠手を装着した右腕を構えた青髪ハチマチに肉薄されていて。

(防御、間に合うか!?)

咄嗟に両手の『ヴァジュラ』で対処しようとするが、吹き荒れるシューティングアーツの連撃に翻弄される。目では追えるのに、やはり躰がついていかない。
次第に、迎撃のリズムを崩されていく。

「サーベルのパワーが負けてる!? えぇい!!」
「やぁられろぉぉッ!」
≪キャリバー‐ショット≫
「やられるかぁ!!」

そして遂に俺の頭部を完璧に捉えた一閃をスバルが繰り出そうとしたその瞬間、俺は咄嗟の判断で間一髪急降下。思いっきり地面に身を伏す事でなんとか逃れられた。

結果、その行動はマズかった。

「スピーアァ・・・・・・アングリフ!」

着地によって発生した硬直を狙った攻撃。エリオの突撃。それに対する俺の選択、屈めた躰を思いっきり伸ばす事で発生する、上方への跳躍へと繋がっていたのだから──

 


……
………

 

そして、場面は冒頭へ追い付く。

 

[OSアップデート完了! いけるよ、シン!]
≪受信完了。システムG.U.N.D.A.Mを起動します≫

デバイス‐デスティニーが、キラから送られたデータを受信・開封したと同時に。

圧倒的違和感が全身を襲い、己の全身が消失したかの様な感覚を得た。

嫌悪感は無い。
それどころか全身の感覚が異様なまでに澄みきっていて、いっそ爽快感すら覚える。
これは、あれだ。
【SEED】を覚醒させた時のアレに似てる。
自己意識と現実空間だけが全てを構成する世界。

 

これが、【そう】なのか。

 

そんな事を徒然と考えられるぐらいには、目の前まで迫る橙色の砲撃は遅く感じられて。

「う、おおぉぉぉぉぉぉぉおぁぁっ!!」

気がついたら俺は、『ファントム‐ブレイザー』の範囲圏外へと逃れていた。さっきまで躰も魔法も動かなかったのに、けどこれが当然なのだと。
疑問は放置しそのまま飛翔魔法を展開、再び生成された誘導弾群へと悠々ライフルを向ける。奇しくも先程と同じ状況になるが、今度は外さないという絶対なる確信があった。
脳内に直接表示されたレティクルとターゲットマーカーに従い、17つの弾丸を照準する。それに伴いライフルを保持した右腕が自動的に動き、12回トリガーを引く。
全弾命中。誘導弾の殲滅を確認。・・・・レーダーに感、7時方向、距離12、識別名エリオ・モンディアル。

「──」

できる筈だ。やれる筈だ。やろうにも今までできなかった事が。ここには疲労と痛覚に悲鳴を上げる肉体は存在しない。だからただイメージをする。

 

キラに訊いた概要の通りなら、できると俺は理解しているのだから。
未熟な魔導師としてのシン・アスカではなく、ZGMF‐X42S‐DMのパイロットとしてのシン・アスカならば。

 

反転し目前にエリオを捉え、挙動を観察・・・・・・状況確定、未来決定。エリオは、左から右に槍を振り抜くようだ。なら。

「これで・・・・・・えぇ!!??」
「──」

俺は速度を上げてエリオに突進。少年が絶好のチャンスとストラーダを思いっきり横薙ぎに振るって・・・・・・まさか思いもよらなかっただろう。俺がストラーダの柄を踏み台に、人力のカタパルトとして利用するなんて。エリオの馬鹿力と槍の運動エネルギーを吸収して更に加速、同じような行動をとったキラとほぼ同時期にフォワード陣の包囲網から脱出したのだった。

「──はァ・・・・・・なんて仕様だよ、コレ。デスティニー、システム参照」

高揚から醒め、同時に今平然と行っていた行為の無茶苦茶さを改めて自覚した。
今まで理想としつつも実践できなかった動き。それが何故かOSがインストールされた瞬間から出来るようになった。まるでMSを操縦してるみたいに正確に身体を動かせるし、筋肉の痙攣も治まってる。
一体、どんな手品だよ?

≪了解、詳細情報を表示します。・・・・・・

 

General
Unison
Neuro-Link
Drive
Artificial-Brain
Medium
          Synthesis-SYSTEM Ver.1

総体融合型神経接続によって駆動する人工脳媒体の統合システム

 

命名、システムG.U.N.D.A.M。
これは私達『MSを模したC.E.式デバイス』の特長である、自身の能力・設定をマイスターにリンクさせる能力の強化及び、コア‐ユニットをユニゾンさせる特性を利用したものです。
デバイスが記録している情報・機能を魔力化し人工脳として形成、マイスターの有機脳及び神経と接続・同期する事により量子領域を拡大、マイスターのイメージをそのまま身体にトレースさせる事が可能となりました。
言わば、マスターはMSに搭乗している状態に近い感覚を得たという事になります≫
「要は、身体がMSで、意識がパイロットってか。肉体の状況に関わらずに、考えてる通りの精密動作が可能・・・・・・無茶苦茶だ」

なるほど。そういう理屈。
なんつーもんを造りやがったあの人達は。

≪また、量子領域の拡大のより登録魔法の汎用性も上昇しました≫
「・・・・・・なら、こうだ!」

接近反応有り。エリオとスバルが此方に追いついたか・・・・・・考えてても仕方ない。今はやるだけ。
両手に対艦刀『アロンダイト』を装備、『ヴォアチュール‐リュミエール』で慣性と負担を無視した鋭角に過ぎる飛翔でフェイントをかけながら、新たな魔法のイメージを創造。今度は俺のターンだ!
まずはエリオへのリベンジに集中したい。他の奴の妨害はいらない。だから、隔離させてもらう。

「フラッシュ‐エッジ──セーイル‐サテライト!」

その数、通常の3倍。
普通なら、ブーメランのような軌道を描く誘導制御型回転魔力刃を2つまで生成する『フラッシュ‐エッジ』を、いつになく溢れ出るイメージで強化する。一気に6つも生成した紅い回転魔力刃を、俺とエリオを中心に高速で球を描くように展開させた。それはあらゆる妨害を切り裂き遮断する、男二人のデスマッチ‐フィールドだ。現に、ティアナの弾丸は紅い刃の壁にかき消され、スバルも攻めあぐねている。
これも魔法運用における汎用性上昇の結果、システムG.U.N.D.A.Mの恩恵か。
邪魔者はいない。勝負だ、エリオ。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「くぅらえぇぇぇぇぇぇ!!」

俺とエリオの雄叫びが同期。お互いがお互いの得物を高速で打ち合い続ける。今度は遅れはとらない。猛々しい槍撃を確実に迎撃していける。互角に戦える。
目で追えるのならば、肉体は動いてくれるのだから。生身の柔軟さと機械の精密さで、とんでもないスピードで大刀アロンダイトを操っていく。急変した俺の剣捌きに焦りを感じたのか、エリオの動きが少し鈍くなった。
今しかない、

「パルマ!」
≪フィオキーナ──インパルス‐バレット≫
「えっ!? わぁ!」

勝機は。
そう確信しておもむろにストラーダの柄を掴み、衝撃特化の『パルマ‐フィオキーナ』──零距離必殺の魔法を炸裂させる。その結果、強い衝撃を受けた槍もろともエリオが空高く吹き飛んでいった。

・・・・・・よし!!

タイマンで、漸く満足のいく一撃を見舞う事が出来た。その事実に少し胸が高鳴る。

そうだ、この動きこそが【俺】だ。

でもまだ、次はスバルがいる。距離は4、さっさと終わらせてやる。そして俺は──

≪勿論、欠点もあります≫
「──な?」

けど、
このヤル気に水を差すように、

 

≪現状、システム最大稼働時間は2分です。・・・・・・タイムリミット、システムを終了します≫

 

「・・・・・・な、──~~~~ィ!?」

デスティニーが無慈悲無情に事実を告げた。
途端に崩れて、折れて、倒れそうになる身体。トンでもない痛みが全身を貫く。・・・・・・筋肉痛? マジでか。このタイミングで?
指先を動かす事すらもどかしい。今度こそ完璧に動けない。いやいやいや、ここで諦めるわけにはいかない。こんな不意打ちな結末なんか認めない。
なんなんだこの肩透かしな結末は。

「ん?」

ふと、瞼に眩しい光が感じられた。なんだろう。この空色の光は・・・・・・──────

 

そこで俺の意識はスバルの『ディバイン‐バスター』によって刈り取られた。訓練終了、その1分前の出来事だったらしい。
とりあえず後で一発キラを殴っとこう。

 
 

──────続く

 
 

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