魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED_10話

Last-modified: 2014-01-16 (木) 10:53:56
 

──C.E.暦の世界は、【世界】というカタチを成していない──

 

鍵は、揃いつつある。
真実の扉を開く、とっておきの鍵。滅びか救いかは未だ誰にも判らず、これからも解らないであろう「可能性」という名の鍵。
それが揃いつつある。

 

故に、私はただ「面白い」と思った。時空管理局提督クロノ・ハラオウンの放った言葉、それこそが扉であるのだから。

 

「――例のアレ、第一段階のが完成したみたいッスね。視てました?」
「君か。ああ、勿論視ていたさ。・・・・・・ふふふ、相変わらず健気な男だよ、彼は」
「そっちも相変わらずニヒルってますね・・・・・・って、何やってんです?」
「なに、日誌みたいなモノだ。存外、ここは刺激的なのでな」

久しく忘れていた其の感情。
ただ眺め、記録だけをしていた私の視界が色付き、意識に音が溢れ、再び時間が動き出す。
だからこその思考。
だからこその考察。
これこそが、私。
全てが空虚である、この空間の中で、無意味と知りながらも。

「はぁナルホド、意外ッスね。でも確かに俺達にできることなんて、そんぐらいしか無いもんなー・・・・・・あ、見ても?」
「構わんよ。大層なモノでもない。いわば、暇潰しの産物でしかないのだから。・・・・・・ククク、この私が暇潰しとはな。くッ、はははははは!」
「うわぁ」

 

鍵は、今も揃いつつある。
C.E.という【世界】を廻る、鍵は。

 
 

『第十話 揺蕩う者の独白』

 
 

≪File‐No.1 C.E.について≫

 

憎しみの焔はやがて、闘争の渦となる。
一つ一つの積み重ねが、連鎖反応の如く世界を覆う激流となり、それはいつしか人間の薄い理性を滅ぼし、本能を解放させるまでに至る。嫉妬と羨望、傲慢と優越感、ナチュラルとコーディネイター、無知と無謀、その果ての戦火。
他人を異物を排除せんと、己の求める未来を明日を手にせんと、ただ己の知る事だけを信じて銃を撃つ。形こそ違えどそれは人の世の常──知恵の実を口にした代価の一つ。
全ては当然の帰結。
C.E.70、2月11日。地球は4度目の世界大戦を経験する。人類の新天地と目されていた、宇宙までもを巻き込んで。
だからこそ私は、そんな哀れで愚かな人類/世界の滅亡を願い求め、実現させようとした。お互いに、もうあってはならない、先のない存在として。数多のモノを切り捨て、虚言で人を弄し、力で踏み潰し、時に運を天に預けて、殺して殺して殺して殺して殺して殺した。私を生み出した全てを道連れにせねばならないと。

だが、世界はそう簡単に終わるモノではなかったらしい。
世界は人類に、更なる可能性を提示した。

泥沼の殺し合いの末、紙一重で『彼』に討たれた私は『彼』の中で揺蕩う意識だけのモノとなり、それにより私はソレを観察・記録する機会に恵まれたのだ。

 

つまりは、コーディネイターとナチュラルの決着を。
ある意味で意外で、ある意味で想定内とも謂える結末を。

 

それを説明するには、まずコーディネイターとは何かという処から説明をせねばなるまい。
ファースト‐コーディネイターたるジョージ・グレン曰く、コーディネイターとは「地球と宇宙の架け橋。今と未来を繋ぐ調整者」である。
しかし彼の言葉は新たな混乱を呼び起こし、彼の存在は人々と時代を蹂躙した。何を得ようと変わらない人間を徒に刺激しただけでしかなかったのは、既にご存知の通りだろう。故に、誰もがジョージ・グレンの真意を忘れ、ナチュラルとコーディネイターは最期まで滅ぼし合う宿命なのだと。

そう、思っていたのだが。

だが彼の言葉を忘れずに、コーディネイターを研究し続けた酔狂なコーディネイターの集団が、確かにいたのだ。そしてC.E.76。遂に、とある研究結果が公表された事により、コーディネイターは本来の役割に就くこととなる。

『調整者』としての役割に。

 

全てを変えたのは、一人の男──いや、もうぼかす必要はないだろう。そう、キラ・ヤマト。我らが素晴らしき宿主の一派がキッカケだった。

全くもって腹立だしい事であるが。

彼の『人類として最高峰の身体』を解析し、『実際のキラ・ヤマト及び其に近しい実力を持つ人物の能力』と比較解析する事によって得られたその結果は、全人類に衝撃を与えた。

 

彼らは、ナチュラルもコーディネイターでもなく、真の意味での【新人類】として進化を果たしていたのだ。
C.E.76にて政府に確認・発表された【新人類】は6人。

 

キラ・ヤマト
シン・アスカ
アスラン・ザラ
ラクス・クライン
カガリ・ユラ・アスハ
ムウ・ラ・フラガ

 

見ても解る通り、彼らはナチュラルの者もいればコーディネイターの者もいる。血縁関係も性別も年齢もバラバラであり、とある因子の有無すら関係なく、人種という分類上では確とした共通点が存在していない。
つまり、既存の定義には収まらない存在なのだ。
では、【新人類】の定義とは何か?
それは、

 

『脳機能を完全に解放させ、真に宇宙に適応した人類』・『完全空間認識能力保持者』という事。

 

新人類と旧人類との、決定的な差である。
元来、人類とはその脳の半分程しか機能していないモノなのだ。地球の重力という「ゆりかご」に囚われ縛られていた証である。そして、それでは宇宙を生きていけない事は、旧世紀前から解明されていた事実だった。
だから人類は、過酷すぎる新天地‐宇宙環境に適応し、開拓する為にコーディネイターを欲したのだ。未成熟な脳を、外部から補強する為に。ジョージ・グレンの設計図の真髄はそこにある。

 

しかし、【新人類】──

──拡大し人の枠を超えた意識領域が、大気の流れを、粒子の動きを、存在の推移を、ありとあらゆる情報を有機脳/量子場に書き加えることで、周囲の状況全てを朧気ながらも知覚することが出来る『完全空間認識能力』。
世界の命運すら左右する「戦争」と、殺人空間「宇宙」が渦巻くプレッシャーの中ですら生きようと藻掻いた者達が掴んだ、生命のX領域に封印されていた『生きる力』の発現。あえて命名するのであれば、ニュータイプとでも称する存在──

──ならば。

 

肉体・頭脳の制約を受けずに、感覚のまま宇宙を闊歩する事が出来る。覚醒すれば、ナチュラルでもコーディネイターとほぼ同等の能力を得る事が出来る。

皮肉にも、この私と奴の存在がなによりの証明となり、しかもその定義に則ると、私までもが【新人類】に分類されてしまうというのは、最高の冗談だとは思わんかね・・・・・・

そのような力を、将来は万人が、特殊な指導・訓練さえ受ければ、血統も、才能の有無も関係無く持てるようになるのだというのが、彼ら研究者の最終的な発表だった。
コーディネイター達は宇宙という空間で、その比較的優秀な頭脳により『人の業』を標本にし、この新事実を解明・証明してみせたのだ。
世界が沸き、人類が一段階上のステージへ上がった瞬間だ。
これにより、コーディネイターのナチュラルに対するアドバンテージと確執を失う事となる。
何故なら、これからの時代は【生まれながらにしてコーディネイターと同等の能力を持つナチュラル】が生まれる時代なのだから。
コーディネイターとナチュラルが争う理由が消失したのだから。
もっとも、そんな事で人類から争いは無くなりなどしないが、それは全人類の希望となった。

 

コーディネイターは遂に、ジョージ・グレンの唱えた「地球と宇宙の架け橋。今と未来を繋ぐ調整者」を体現する存在となり、当たり前の選べる明日の為に、更なる人類の覚醒を促す為に、外宇宙を目指し始めた。

これが、コーディネイターとナチュラルの決着。ある意味で意外で、ある意味で想定内とも謂える結末だった。そして、4年に渡り燻っていた私の存在理由が消えた瞬間でもあった。
それから約3年間、私の意識は眠りにつく事となる。

あの日、我らが宿主が再び、あの世界に跳ばされるまで。

 

◇◇◇

 

≪File‐No.2 異世界と、その住民について≫

 

初めてその光景を目にした時、私は本当に驚愕し、そして疑問を持った。

何故? 何故こんな世界がある?

第一管理世界‐『ミッドチルダ』。
【魔法】が普及し、魔導師が存在する世界。
別段私にとって、魔法はそれほど新鮮なモノではない。かつて我らが宿主が海鳴市に転移した時に目撃をした経験があり、なにより「そんなモノもあるだろう」としか感じなかったのだから。
所詮は科学の延長でしかないのだと。
人は変わらない。どんなチカラを手にしたところで、本質そのものは変わらない。環境と技術の差異程度では、揺るがない。
そう、本気で思っていた。

しかし、何故だ?

この世界は違う。この『魔導師と一般人が共存した世界』は、私にとって受け入れ難い存在だった。
他者より強く、他者より先へ、他者より上へ。それが人だと、そう私は悟っていたのだが、ここでは何故か、ソレが稀薄でしかない。

 

先の通り、長年争い続けたコーディネイターとナチュラルがその矛を収めた理由は、誰もが平等な【能力】を手に入れられる未来を約束されたからだ。現に、C.E.78ではナチュラル・コーディネイター問わず、人類全体の1割が【新人類】に覚醒している。
現金な事ではあるが、それこそが人類が永年望んだ【夢】であるが故に。

しかし、『魔法』に関してはそうはいかない。
我らが宿主と、私の友に調べてもらった研究結果によれば、魔法を操る魔導師の源は『リンカーコア』という一種の器官であるという。この『リンカーコア』は先天的なモノで、後天的に生じることは極稀であり、遺伝で資質が受け継がれる器官なのだと。そして、生成プロセス自体にも謎が多く、リンカーコアの絶対数も少ないときた。
これが顕すのは【絶対的に不平等な能力と才覚】。世襲の如く、多数の凡俗を小数の天才が牛耳る社会。
更には、このミッドチルダの法──時空管理局によって管理世界と登録された土地では“質量兵器禁止”が義務付けられている──の存在も含めれば。

 

非魔導師は、絶対に魔導師に逆らえず、抗えないのだ。

 

普通なら、魔導師が世界を支配・運営するような惨状になっていても、何らおかしくない。
非魔導師を奴隷とし、魔法という名のチカラを振りかざし、世界を謳歌する。魔法というのはソレが出来る──許される──程の、強大な力なのだから。あえて言い換えるのならば、非魔導師は人間、魔導師はMSに該当するだろうか。
其処にあるのは冷たい戦争。人間は、決して勝てない格上の存在を赦す事は出来ない。過激派ともなれば、魔導師を人間扱いしない者──ブルーコスモスのような狂信者──も出てくるだろう。しかし、反撃が出来ない環境なのだ。いくら叫ぼうが力関係は覆らず、下手を打てば叫んだだけで殺されるかもしれないのだから。
非魔導師は発狂し、魔導師はかのパトリック・ザラのように格下を見下す。歪みに歪んだ人間の末路。その先に滅びが確定した冷戦。

 

そうなっていなければ、おかしいのに。
ミッドチルダでは、両者が笑いあって生活していた。

 

お互いを人間と、友と認め、助け合って。
犯罪や暴力、虐待、餓死。実験体にされる者やゴミ以下の扱いされる者も勿論存在してはいるが、その何れもが普通というべきの、生命の営みとして普遍的な出来事として処理できるレベル。
これは一体どういう事だ?
私の“同居人達”は此の光景を「理想」・「平和な日常」と評していたが、私はどうにも違和感が拭えなかった。

稀に、質量兵器を密輸し「管理局は戦力を一極集中させ、世界征服をする気だ」と叫び、管理局に敵対する集団(ある意味、普通の反応だ)の攻撃行動もあるが、其れもやはり一般人にとっては野蛮人としか認知されないようだ。
ここまでくると、平和ボケという言葉も当てはまらない。まるで闘争心をどこかに置き忘れてしまっているかのよう。

ここ数年の間に魔法による大事件が発生したにも拘わらず、日々魔獣の脅威に晒されているにも拘わらず、この日常は一体なんだというのだ?

共に強く、共に先へ、共に上へ。そんな価値観があるとでもいうのか。
これは、もっと深くこの世界を知る必要がある。この状態は何なのか、解析しなければ。
そう、しなければなるまい。

 

◇◇◇

 

≪File‐No.13 C.E.について‐2≫

 

私達の故郷となる、C.E.という暦を冠された地球を内包する【次元世界】そのものが現在、滅亡の危機に瀕しているという。それは言葉であり、情報であり、事実であり。
破滅だった。
あの日、キラ・ヤマトが高町なのはと弾丸回避訓練をした日に、我が宿主が最も信頼を寄せている男たる時空管理局提督クロノ・ハラオウンは言った。

「C.E.は既に、【世界】というカタチを成していない」

それは要約すると、

「C.E.が、【世界】ではない」
という文になる。
まことに興味深い言葉だ。ただ面白い。あの罪深き世界に、まだ秘密があったとは。
世界とは、至極単純に、人間を主観にして言ってしまえば『己が生きる場所そのものと定義した空間』である。だとしたら、あの男の言葉はおかしなことだと思うだろう。現在進行形で人が生きてる場所が【世界】ではないとは。
そう、つまりだ。それは一つのモノの見方に過ぎないのだ。正解ではあるが、この局面では不適当。ここでは次元世界における用語としての【世界】を使う。

 

次元世界において【世界】とは、
次元空間に内包されている、幾えにも重なるように入り交じるように存在している単一宇宙――幾千億の星を抱える銀河、幾千の銀河を抱える銀河団、さらに幾ばくの銀河団を抱える沢山の超銀河団を纏めた呼称――を構成している【量子的なモノ】として定義されている。

【世界】に単純な明確な区切りや座標はないという事だ。

不変的不確定。泡のように波のように。「揺らぎ」こそが本質であるソレに、生命は可能性を見出だす。その生命の可能性が更に「揺らぎ」を引き起こし、【世界】は構築され維持され分岐していく。究極の無限。

一つの単一宇宙が属する、明確であり明確でない「存在の場」。それこそが一つの【世界】であり、その【世界】を無限に抱える空間が次元空間――通称「次元の海」――、その全てを総括的に指す場合に管理世界で用いられる単語が「次元世界」だと覚えればよい。

 

クロノ氏が「C.E.は既に【世界】というカタチを成していない」と言った真意は其処にある。

彼は語った。

「アレは普通じゃなかった。
無限に広がっている筈の次元境界線が、解析も干渉もできない『魔力の壁』に封じ込まれ、有限で実態的になって、まるで・・・・・・そう、何もない筈の海に浮かぶ、【卵】のようだった」

そんなモノは、次元世界では【世界】と定義しないのだ。
要するに。

C.E.は、【世界】というカタチを成していない。代わりに、正真正銘正体不明の魔力という閉じた『カタチ』になっていた。

そういうことだ。
特筆すべきは、こと魔法関連においては次元世界一の技術を保持する時空管理局ですら、解析及び干渉ができないという特性か。厄介なことだな。

 

ならば、この現象の原因は一体何なのか?

 

一体何故こんな事に? どうしてこうなった? コレによって齎される未来はなんだ? 知れば誰もが思うことだろう。もっともな疑問だ。
紐解く鍵は、例の魔力の観測──解析・干渉はできなくとも、観測は可能だった──して得たデータを参照したクロノ氏と、考古学者‐兼‐無限書庫司書長たるユーノ・スクライアこそが知る。

「これは、未知ではない」

どうやら太古の時代から、極稀ではあるが認知されている現象らしく、それについて記載されていた古代ベルカの文献・書物・伝承が幾つか無限書庫に存在していた。
そこから得られたデータと、今回の事象を結びつければ、答えは一つへと集約する。
結論から言ってしまえば、一つの『生物』こそが原因であるのだ。

 

『魔法生命体・エヴィデンス』

古代ベルカでは『ベヴァイス』とも、『次元の海を旅する者』『羽付き鯨』とも呼ばれていたソレ。
あらゆるモノを魔力に変換、己の糧とする能力を持つ、次元空間の【外】に棲む『高次元存在』『量子的存在』と目されている存在なのだという。【外】の存在の証明。だから、エヴィデンス(証明)。
文献の一つには、『エヴィデンス』の存在は周囲の空間に絶大な負荷を与えるために、その空間の「次元重力ポテンシャル」が低下し時間信号が乱れ、時間の進みが加速度的に遅延する可能性があるともあったな。

コイツは死期が近づくと、己の子の苗床となるに相応しい【世界】を探し出し、その世界の内部で朽ち果てる。死骸はやがて、その世界に存在する魔力素を媒介に、世界を魔力の『殻』で覆って徐々に魔力へ変換していく。
世界が純粋な魔力に変換されたその時、新たなエヴィデンスが創られる。
その『殼』こそ──クロノが卵と評したそれ──が、今C.E.を覆い、【世界】のカタチを崩している原因。即ち、C.E.は一種の【卵】になっている、ということだ。
そして最後は霧散する運命だと。
そう、ユーノ氏は断言した。

まったくもって馬鹿馬鹿しい。懐かしいエヴィデンスの名は兎も角、いかにも三流の阿呆が考えそうなフィクション的設定とは思わんかね。真面目に議論するのも時間の無駄。一笑にて吹き飛ばせられるようなファンタジー。
しかし、そうはできないのが現実が現実たる由縁。残念ながら事実のようだ。というのも、裏付けになるモノが確かに実在しているからである。
断言、確信には、相応の理由がある。

覚えているだろうか? キラ・ヤマトが倒れた日の朝に、高町なのは嬢が指摘していたモノを。
それは【SEED】と、その魔力波長について。それは一見すると只のグラフのようなモノ。
だが、ある情報を幾つか付随させていけば、最低最悪の結果を見出だせる、そんなモノだ。
つまりは。

 

【SEED】を顕現させた時に発せられる魔力波長と、管理局が観測した『殼』の発する魔力波長は、同一なモノだったのだ。

魔力波長とは、シグナルだ。一人一人独特の波長を持っており、同一であるのは一卵性双子以外には文字通り有り得ない。
ならば何故同一なのか。答えはシンプル、【SEED因子】そのものが『エヴィデンスの遺伝子情報体』なのだ。

かつてC.E.には、一つの都市伝説があった。その名を「超人計画」という。
曰く、地球外生命体の証明である『エヴィデンス01』の細胞から採れた遺伝子を、人間の遺伝子と掛け合わせて「超人」を造ろうとした研究者がいた。その研究者により世界には無数の「無自覚な被験体」がいる・・・・・・という子ども騙しにもならない眉唾物。
実際、有り得ない話だ。
『エヴィデンス01』周辺の警備はどこよりも厳しく、そんな得体の知れない研究をしようとする人物は近づけない。そもそも遺伝子の型がまったく違うのだから拒絶反応が出て失敗するのが当然なのだから。
だから、都市伝説。
しかし、真実。
数えて百はいるだろう成功体が今もC.E.に生きている。人類の狂気の産物は、キラ・ヤマトやシン・アスカを始めとした者達は、デュランダルが捜し求めたキメラ達は、実在している。研究者達の思惑通り、規格外のスペックを発揮して。
もっとも、「優れた種への進化の要素であることを運命付けられた因子」には成り得なかったがな。真逆、破滅の因子。
因みに【SEED】の能力は『エヴィデンス』の能力に準じている。ならば“私”が今こうして存在し語っている理由は、もうお分かりのことだろう?

 

さぁ、ここまでを纏めよう。

【SEED】は『エヴィデンス01』の遺伝子情報体。
【SEED】と『エヴィデンス』の魔力波長は同一。
ジョージ・グレンのクジラ石『エヴィデンス01』は『エヴィデンス』の死骸そのもの。
だからC.E.は【卵】であると認定された。近い将来に消滅する。
証明完了。単純な構図だ。
これが、あの罪深い世界の新たな秘密。

 

この説が、彼らの総てを破壊した。彼らの前提も、決意も、思考能力さえも。
全てを、停止させ、亡くしかけた。
当然といえば当然だろうか。
私には全く理解できないが、やはり今までの自分を構成してきた総てが一瞬にして、成す術なく「無かったこと」にされるというのは。古代ギリシアの演劇におけるデウス・エクス・マキナか、または旧ジャパンの歌舞伎におけるどんでん返しか・・・・・・そんな運命に「無駄だった」言われるというのは。
過去と現在と未来が地続きならば、過去を喪うことは当たり前の選べる明日を失うと同義であり、それはあの戦争を生き抜いた者にとっての「死」だ。彼らには耐え難いことだろう。故に、彼らは壊れかけた。
故郷に未練はないと粋がっていたキラ・ヤマトは発狂し、6日間の眠りについた。
故郷に帰るのだと決意していたシン・アスカは、キラからこの事実を聞き、一時塞ぎ込んだ。
私には全く理解できないが、そうなった。

 

今もC.E.は、他の霧散した【世界】と同じく、消滅の一途を辿っている。
何も知らない愚者共を、優しく擁しながら。

 

◇◇◇

 

≪File‐No.14 C.E.の救済方法について≫

 

情報習得中。
情報精査中。
ただ現段階で言える事は、

 

あんな世界でも、やはり彼らは救いたい、一度はまた帰りたい、散っていった想いを無駄にはすまいと願ったこと。

その願いに、我が友人たるギルバート・デュランダルも同調したこと。

多くの人間が、『C.E.救済プロジェクト』に参加。その為に、あの糞のような世界の為に、平和なミッドチルダを巻き込んでしまう可能性があること。

プロジェクトの中核が、現在構築中の「システムG.U.N.D.A.M」であること。

計画成功の確率は、現段階の計算上では8%であり、計画実行時のキラ・ヤマト及びシン・アスカの生存率は10%にも満たないこと。

 

ただ、これだけである。

 


……
………

 

「・・・・・・いや、これ誰に読ませるつもりで書いたんです?」

私の言葉を連ねただけの紙束から目を離すなり、久方ぶりに姿を顕した焦茶の髪をパーマ気味にした少年は、呆れたようにそう言った。
ぴらぴらと私の紙束振る仕草で、同時に「アンタもなかなかに暇人ですね可哀想に」とも語っている。私の“同居人”の一人たるこの少年との付き合いはもう7年ほどになるが、言うようになったものだ。

「ふむ。誰に、とは?」
「だってですよ。この日誌というかなんてというか、もっと淡々と事実だけが書いてあると思ったのに妙に凝ってるっつか。これじゃログってより誰かに読ませる為のリリカルなエッセイですって」

これは異なことを。この虚無の空間で、他人の為に情緒的なエッセイを書く阿呆が何処にいるというのだ。私だとでも言いたいのかね?
そんな事は認めんぞ。

「言ったろうに。暇潰しの産物だと・・・・・・私には君やお姫様達のように、悠久の時という魔物を討ち倒せる趣味を持ち合わせているわけではないのだからな」
「定年退職した仕事人間みたいな物言いしないでくださいよ」

ズバズバと言ってくれるではないか。

「バカは死んでも治らないという。私の言葉の使い方・・・・・・本質も、また同じということだろう。君がエッセイと評したソレもまた同じく、変わらない私のとりとめない独白の塊なのだ」
「よくもポンポンとそんな芝居がかった台詞を――ってか、素面でッスか。軍人やるより作家やった方が良かったんじゃないですかね」
「ifになんの価値がある? ・・・・・・まぁ、いい。エッセイでも構わん」
「年季を感じる流石の開き直り。キラが苦戦したわけだ・・・・・・って、そうじゃなくて」

軽口の応酬を繰り返していく内に、どうやら当初の話題を思い出したようだ。彼的に脱線していた流れを強引に修正。ここら辺の迂闊さは変わっていないようだな。
しかし、ふむ、エッセイか。意識して書いてやっても面白いかもしれん。暇潰しにな。

「アナタから視て、あのOS、どう思います?」
「システムG.U.N.D.A.M、といったか。なかなかに乙なネーミングだな」
「ガンダムって、ストライクとかのOSもそんなでしたよね?」
「狙ったのだろう。・・・・・・どうかと問われれば、まず正気を疑う出来だと応えるが。無茶無謀傲慢極まりない」
「やっぱ、そうですか・・・・・・」

システムG.U.N.D.A.M
躰を魔力で内部制御するそのシステムは、脳と身体に多大な負荷をかける。乱用すれば廃人にもなりかねない、メリット以上にリスクが大きいのだ。
そうしなければ達成出来ない目的なのだが、それこそが不幸。

「ふっ・・・・・・だが、今更どんな道を選ぼうが最終的な運命は変わらん。あの男達が何かを護りたいと思う事、それがどんな道を辿ろうがもはや運命的必然なのだから」
「運命・・・・・・」

だが、だからこそ面白い。見届けたいとも思う。この私を否定した男が辿る、この先の結末をな。
その為に、我が力を貸してやるのも一興というものだ。

「そう悲観することではない。賭けてみてはどうかな?」
「賭け?」
「死者の上に立つ生者達が紡ぐ、可能性という名の未来に」
「なるほどね。だったら俺は、俺の親友とその親友と、アイツらが信じる新しい仲間のハッピーエンドを信じますよ、クルーゼさん」
「君らしいな、トール・ケーニヒ」

 

世界は廻る。
様々な事象を組み合わせ繋ぎ合わせ、あるべき未来を構築しながら。世界から拒絶された真白の空間さえ、永劫を刻む夢さえ覆って世界はただただ廻る。
そして、真実の扉を造っていく。亡者をも取り込んだ、歪の鍵と共に。

 
 

──────続く

 
 

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