魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED_14話

Last-modified: 2014-02-20 (木) 14:17:31

「よし、これで・・・・・・。ストライク、ギガント‐ブースターのチャージは?」
≪完了しています≫
「うん。じゃあいいね二人とも、飛ぶからね?」
「は、はい!」
「大丈夫です、なんとか!」

赤組VS青組のチームバトルを開始して6分経過した今。
僕ら赤組は開始早々に予想外な事態、つまり青組の超長距離制圧砲撃による波状攻撃に曝されて足止めされている。原因はシンとなのはの連携魔法だと特定してるけど、このままでは青組にこの戦い主導権を奪われてしまうばかりか、青組の前衛メンバーに一方的に攻め入られてしまう。
これに対抗する為に、アインハルトちゃんとコロナちゃんが提案した反攻作戦を始めようというのが、赤組の現状なんだね。

 

じゃあ、具体的にどうするのか?
それを実行するには、どんな準備が必要になるのか?

 

「舌を噛まないで、振り落とされないようにしっかりして・・・・・・うん。ティアナ、こっちはいいよ」
「OK。こっちも仕込み終わったわ。カウント15で全員スタート、いくわよ!」
「うん」
「わかった」
「頑張ります!」

まずは。

(15秒後・・・・・・かなりギリギリだ。たしかにベストタイミングではあるけど、先鋒の僕達がしっかりやらないと一気に全滅しかねない)

 

踝まで届くであろう麗しの碧銀の長髪を赤いリボンで独特なツインテールに纏めて、瑠璃と紫晶の瞳が眩しいSt.ヒルデ魔法学院中等科の1年生。端整な面持ちを仄かに紅くして小さな体躯をもっとぎゅっと縮こませてる覇王な彼女、一時的に変身を解いて年相応の子ども姿に戻ってもらったアインハルト・ストラトスを肩車します。

 

次に。

お尻ぐらいまではある亜麻色の長髪をあめ玉を模した髪飾りでツーテールに纏めて、文系少女らしい大人しそうな雰囲気を体現するSt.ヒルデ魔法学院初等科の4年生。年少組の中でも一番華奢であろう小さいその身体を、恥ずかしさを押し殺しながら男の胸板に預けるコロナ・ティミルをお姫さま抱っこします。

(なのはとシンに勝つには、それぐらいの博打が必要ってことか。なんとか、フェイトとノーヴェさんが行動できるように上手くやらなきゃ)

そうやって二人の可愛らしいお嬢様を独占して、ここらで一番背の高い建造物の屋上で、悠々と仁王立ちをします。

 

はい、これで準備完了。ね、簡単でしょ?

 

実に簡単で単純な動作。
まぁ、問題があるとすれば。

二人を抱えるこの僕、キラ・ヤマトの両腕と首筋に感じる、軽くて幼い女の子の柔らかさと暖かさ。風に靡く長髪からふわりと漂う甘い香り。そして、周囲の女性陣から突き刺さる生温かい視線。
そんな場違いなシチュエーションが、意外と苦しくってクセになりそうってことぐらいかな!

 
 

『第十四話 強行突破作戦』

 
 

いやね、勘違いしてもらっちゃ正直困ります。
そりゃあ実際問題、魔法の防護服たるバリアジャケット越しでもこの娘達の身体は触れてて本当にきもちいい。脚なんか良い感じに引き締まってて尚且つプニプニで、シャンプーと石鹸だけじゃない少女特有の良い香りもするし、ロリコン趣味の人の気持ちも解っちゃうぐらいクラクラくること請け合いだ。
そのぐらい、肩車&お姫さま抱っこのコンボは魅力的で破滅的で、それを顔に出した日にゃもう二度と御天道様を拝めなくなること確実だよね。
まぁ僕はロリコンじゃないし、クラクラくる云々の話はモノの喩えで言葉のアヤだから。そこんところ勘違いしないように。
そう、これは作戦に必要なスタイル──それ以上でもそれ以下でもない。決して、やましい気持ちなんか無いんだから。
それにこのぐらいのことで平常心を失うキラ・ヤマトじゃない。かつてフレイと、ラクスといくところまでいった男こそが、ほかでもないこの僕なのだから。

「あ、あの、キラさん。髪の毛が、くすぐったいですっ・・・・・・」
「え、あっごめん」
「ひゃう!?」
「わっ!? ホントごめん!」

前言撤回。少しゾクゾクしてます今。
僕が無意識の内にかぶりを振っていたせいで、どうも髪の毛がアインハルトちゃんの股間付近を刺激してしまったらしい。そのくすぐったさから少女は報告したんだろうけど、それに思わず振り向いてしまった僕のミスだ。
洩れ出た悲鳴は思いの外、思った以上に、可愛らしかった。そしてレアだった。しばらく頭は動かせないねこれは。

「おいそこー。イチャついてねーでサッサと位置につけー」
「イチャついてってそんなノーヴェさん、僕は・・・・・・」

誤解だ。そんないいものじゃない・・・・・・てか、内心恐々としてるんだからねこれでも。
だって、あんまり気分の良いものじゃないでしょう、この娘らにとってはさ。これは作戦の一環だから、仕方なく僕なんかに抱えられて。・・・・・・昨夜に混浴しちゃった手前、僕が言うのも説得力ないんだけどやっぱり、年ごろな女の子には20代半ばの男ってなかなかにイロイロと難しい存在だと思うんだ。下手を打てば「近寄らないでください気持ち悪いです」なんて言われてしまう可能性も・・・・・・
そんな事はないと願いつつ、見た感じはアインハルトちゃんもコロナちゃんも大して気にしてないみたいで胸を撫で下ろす気分。女心って難しくて、ひやひやモノだよいつも。
恐いのは、閉ざされること。こうなのだ、コイツはこんな奴なのだと、そこで信頼を喪うことだ。
まぁたぶん、最近のシンならこういうのも無自覚に上手くやるんじゃないかなぁ。そういうコミュニケーション能力は素直に羨ましい。

「うっせ。あと5秒、3──」
「うわちょまっ」

っていけないいけない、そんなこと考えてる場合じゃないんだった。
ノーヴェさんの言葉とティアナの無言の圧力に小突かれて、慌てて用意されてたスタート【位置】につく。少しでも遅れたら全滅するって、さっき確認したばかりじゃないか。真面目にやろう。

(気持ちを切り替えていかないと、やられる)

僕だってこんなことで、やられたくない。
その【位置】とは、大空に向けレールのように長々と二本平行に展開した先天固有技能『エア‐ライナー』の狭間、この作戦の起点となる座標だ。キーパーソン二人を携えたまま、【そこ】で僕はググッと急いで躰を沈めて魔力を蓄えて、感覚を研ぎ澄ませていく。少女達もキリッとした面持ちになって、より一層と強く僕にしがみついてきて。なんというか、一心同体って感じだ。
目指すは出来うる限りの、最大の跳躍、最大の飛翔。とにかく高く速く飛んで、与えられた任務をこなす。
ちなみにデバイス‐ストライクを起動した僕は今、青と紺で彩られた懐かしい旧地球連合軍の制服姿だ。・・・・・・できればもう着たくなかったけど、この際仕方無い。ストライクといえばやっぱり連合の機体だから、そのイメージがバリアジャケットに如実に顕れちゃうんだから。

(ストライク、か・・・・・・ストライクといえば)

ふと、思い出す。
連合とザフトの戦争に巻き込まれ、GAT‐X105ストライクに初めて搭乗した時を。そして、連合のMSパイロットとして初めてエール・ストライカーを装備し、初めてアークエンジェルのリニアカタパルトから射出された時を。

「──2、1・・・・・・作戦開始だ! ブチかましてこいお前らぁ!!」
≪エレクトロ‐インヴェスター≫
「全速力で、ストライク!」
≪了解。エール‐ブースター点火≫

 

ああ、この加速感、懐かしい。

 

さて、ここで問題です。
二本平行に展開した魔法的レールに、その内部にいる僕に、一定の指向性を持った電撃を付与して一種の魔力的磁界を形成すれば、どうなるでしょう?
答えは簡単。擬似ローレンツ力を用いた即席電磁カタパルトの完成だね。つまり、『エア‐ライナー』と短射程直射型電撃付与砲撃『エレクトロ‐インヴェスター』との合体技によって、僕らはMSよろしく射出されるんだ。
ノーヴェさんとそのデバイス‐ジェットエッジの力強い掛け声と同時に、僕の身体は強い力場に引っ張られ、どんどん加速しながらレールに沿って突き進む。これに応じて蓄えてた力を、これ以上なく煌々と輝く一対の蒼き魔力翼の力を一挙に解放。更に魔力を足裏に集中、爆破してやることで推進力を増強。
順々に加速しながら、ストライクフリーダム以上の速度を叩きだしながら、数えて3年ぶりのカタパルトの感覚に浸りながら、僕らは蒼いレールガンの弾丸となる。

ここに、赤組の反攻作戦の狼煙が上げられた。
現象として結果として、僕とアインハルトちゃんとコロナちゃんは、

「いっ、けぇぇぇぇーーーー!!」

 

三人揃って、一つの流星となって、もう目と鼻の先まで接近していた莫大なエネルギーを擁する桜色の塊『ストレイト‐バスター・クラスターモード』の第六波に、無防備にも頭から突っ込んでいったのだった。

 

◇◇◇

 

ここでちょっと、もう一回復習しよう。

僕らは超長距離制圧砲撃、つまりこのバスターの連撃に曝されていて、これをなんとかする為に行動を開始した。じゃあ、その直後にバスターに突っ込んでいくのは何故?
青組の司令官である高町なのはが放った、この拡散性反応炸裂型超長距離空間爆撃用砲撃『ストレイト‐バスター・クラスターモード』は簡単に喩えちゃうと、何十とばら蒔かれた衝撃信管型の、敵対象を伝播して連鎖爆発を引き起こす高速ミサイル群。一定以上の質量のモノとちょっとでも接触すれば炸裂し、それだけで僕らのライフポイントを容易く消し飛ばしてくれる魔法だ。こっちの防御とか関係無しの破壊力で。
そんな物騒な代物が、酷く美しい桜の光が、みるみるうちに視界の大半を覆い尽くしていく。気分は生身で大気圏突入してる感じ・・・・・・てのは言い過ぎなのかな。
肩車とお姫さま抱っこしながらグダグダと15秒も無駄にしていた内に、相殺されないまま遂に地上30m付近まで接近していたその爆弾達との接触までもう少し。回避も防御も迎撃も無意味な距離まで飛び込んでしかし、これは決してヤケクソでも射出ミスでもない。
僕は己の意思で、この状況を望んで、自分から加速して突っ込んだんだから。

 

それがアインハルト・ストラトスとコロナ・ティミルが提案し、ティアナ・ランスターとフェイト・T・ハラオウンが纏めた作戦の、第一段階目なのだから。

 

◇◇◇

 

「アインハルト、ちゃんッ!」
「いきます!! 覇王流──」

レールカタパルトで射出され、桜色との接触まであと1秒も無いというところで、僕は碧銀の長髪を翻す少女の名を叫ぶ。信頼と激励と叱咤を織り交ぜた、そんな声を。
今できることはそれだけ。あとは、ぎゅっと彼女の細い脚を確と固定してやることだけだ。情けないが、今の僕には本当にそれしかないのだから。
でもそれに気合い裂帛、凛と応える声があった。気にするな、今は信じて頼ってほしいという想いが放たれたように感じて──

 

「 旋 衝 破 !!」

 

──高々と天に掲げられた少女の小さな手が、軽々と、桜の弾丸の一つを叩き落とした。

 

うん、ぺしんって。
触れれば爆発する魔法を、魔法を使わずに、アインハルトちゃんってば素手で払い除けた。

嘘でしょ!? ──って、なのはの・・・・・・いや、ここにいる全員のそんな驚愕の声が聴こえた気がした、感じた気がした。全くの勘だけど、全く同感だよ。
そのまま続けてアインハルトちゃんは謎技術で命中弾を次々と処理していく。時には掴み、時には殴り、時には叩く。そしてベクトルを乱された桜の弾丸は全て、真下の建物だけを盛大に打ち砕くだけに留まった。

 

こうして何事もなく僕達三人は『ストレイト‐バスター・クラスターモード』第六波の弾幕を突破したのだった。
『エール‐ブースター』も解除されることなく、ノーダメージのまま僕達は当初の予定通り、バトルフィールド中央ビル群を目指して青空を翔る。
時間にしては一瞬だけど、魔法を知る者にとっては永遠ともとれる驚愕の現実だったと思う。

「凄いですっ、アインハルトさん!」
「いえ、そんな・・・・・・褒めないでください。それよりコロナさん」
「はいっ、私も続きます! やろうブランセル!」
≪彼らに一泡吹かせてあげましょう。チェーン‐バインド起動≫

褒めて褒められて、興奮に少し頬を紅潮させる二人。
そんな少女達の健全なやりとりに挟まれて、僕も少しテンションが上がる。よきかなよきかな。

「このまま加速して第七波に突っ込む。突入は10秒後・・・・・・ティアナ、そっちは?」
[問題無いわ。ギリッギリだったけどアインハルトのお陰でコッチも被害無し。さっき手筈通りにノーヴェを担いでフェイトさんが出たところよ]
「わかった──3秒前!」
「はい!」

ティアナとの短い通信を終え、速度そのままにバスターの第七波に突入する。
アインハルトちゃんの変わらぬ返事に頼もしさを感じつつ、僕は魔法についてユーノから習ったことを確認することにした。

「ハァ・・・・・・ッ!」
「もう一回いきます! チェーン‐バインド!」

 

魔法は魔力を源にし、その魔力は塵のように世界に遍在する【魔力素】を、リンカーコアによって体内に取り込むことで精製される。ここで問題となるのがこの魔力素で、これは一種の【原初の粒子】だと考えられている。原初の粒子だけあって万能で、それを操ることが出来ればまさしく事象を自在に操ることができるんだ。
例えば、射撃魔法を撃つ場合。
呪文を唱え、魔力素で収束を司る術式を形成、それに沿って別の魔力素を圧縮・縮退・融合させて純魔力塊を造る。これに移動を司る術式を織り込んだ魔力で覆って指向性を持たせて、更に調えてやることで魔力素の集合体である弾丸が生成される(デバイスがある場合は、この一連の流れをデバイスが肩代わりしてくれる)。そして最後に目標を定めてトリガーを引けば、ミッドチルダ式魔法の初級直射型射撃『シュート‐バレット』となるわけ。
基本的に魔法はそうやって構成されるんだ。射撃も斬撃も捕縛も飛翔も通信も、大体その応用で。魔力塊と、魔力に一定の効果を与える術式と、それら総てを整形する術式という三層構造。科学の延長である魔法の基本だ。

 

重要なのは、魔法は魔力素と術式と術者で完結していること。

 

もし魔法なしで『シュート‐バレット』を再現しようとすれば、莫大なエネルギーで励起させた荷電粒子やプラズマを、これまた莫大なエネルギーと機材で圧縮・縮退・融合して電磁場で指向性を与え、そして射出することになる。うん、ビーム兵器の原理だね。見ての通り、様々な精密機械と高エネルギー、高い技術力が必要になるんだ。魔力素の万能性を説明するにはうってつけだよ。
もっとも純エネルギー体として万能なのであって、錬金術みたいに物質の構成を弄ったり、無から有を創ったり逆に有を無にしたり、因果を操作したり時間を遡ったりといったことは出来ない。それに主な用途は軍事関係ばかりで、一般人の日常生活に深く関わることもないんだ。本当の万能ではないから注意したいね。

 

[こちらフェイト、中央区に進入。キラが到着次第、ノーヴェを投下してシンを抑えにいくよ]
「こちらキラ、第七波突破。ギガント‐ブースターで一気に畳み掛ける」
[了解。第一段階はまずまずね・・・・・・コロナ、パーツの収集率はどう?]
「75%です!」

ふむ。わざと狙われ安いように高度を上げる僕が自ら弾幕に突っ込んで、アインハルトちゃんが『旋衝破』で弾丸を蹴散らし、巻き込まれ砕かれた建物の欠片をコロナちゃんが魔力捕縛鎖『チェーン‐バインド』でどんどん捕まえて牽引していくという流れ作業は、なかなか順調に進んでいるようだ。
それを繰り返している内に、僕らの後方には幾十幾百の空飛ぶ岩塊が形成された。・・・・・・これで75%なら、あと一回突っ込めば100%に達するか?
そして、僕らが攻撃を引き付けたおかげでノーマークだったフェイト&ノーヴェが無事に高層ビル並び立つ中央区に入ったようだった。もっとも進入しただけで、制圧はできないのだけど。

「・・・・・・ッ! トラップ!」
「! 設置型バインドですかッ!」

フェイト達に続けとばかりに第八波突破後、ストライク最終最大の加速魔法『ギガント‐ブースター』(これもシャンテちゃん命名。元はMBF‐02ストライクルージュが使ったオプション装備、ストライクブースター)を使って中央区で一際高い、バトルフィールドど真ん中のビルの屋上に向かって加速した途端に、目の前に菖蒲色の巨大なネットが二重三重と顕れた。
これは、青組後衛のルーテシアちゃんの対高速飛翔物捕縛魔法か。弾幕を突破された事態を想定して、事前に設置して隠していたようだ。けど。

(これもやっぱり魔法陣を・・・・・・術式を使わないで、素手で干渉してる)

例によってアインハルトちゃんに網目を力ずくで抉じ開けられて、ネットは役目を果たさないまま崩壊してしまった。僕らの速度は微塵も落ちてはいない。

(術式で調えられた魔力に対抗するには、それに反発する術式と相応の魔力が必要になる・・・・・・ってのが一般的な見解だけど)

魔法は魔力素と術式と術者で完結している。
魔力塊と、魔力に一定の効果を与える術式と、それら総てを整形する術式という三層構造が魔法の基本。
これらから導かれる、アインハルトちゃんの技術の正体ってもしかして──

 

シン、見てるなら君も気づいたでしょ? 僕達の間近にいたみたいだよ、最高の素材は。

 

「・・・・・・ついた! コロナちゃん!」
「はい! いってきます!!」
「あとは、頼みますコロナさん」

思案しているうちに目的地、中央区で一際高いビルの屋上に到着。僕はお姫さま抱っこにしていたコロナちゃんをすれ違いざまに、そこへ投下した。・・・・・・ん、上手く着地したね。魔力鎖で引き連れてた岩塊も規定値に達していて、少女を取り巻くようにフワフワ浮遊している。
ふぅ。軽かったけども腕が楽になったなー。

「ではキラさん。私も参ります」
「3対4になる。頑張って」
「元より私が言いだした我儘、やり遂げてみせますっ・・・・・・いきます!」

続けて肩車にしていたアインハルトちゃんも、今にも中央区に進入しようかという青組の前衛達に向けて投下する。文字通り肩の荷が降りた。それに呼応して、先に中央区にいたフェイトもノーヴェさんを同じポイントに投下した。
これで、碧銀の魔力光を放ちながら大人モードに変身したアインハルトちゃんとノーヴェさんは、青組前衛達の真上から強襲する形となる。ヴィヴィオちゃん、リオちゃん、スバル、エリオが迎撃を開始した。
よし、ナイスなタイミングじゃないか。中央区に入る一歩手前なポイント、状況は混戦だ。このままなら中央区は青組に制圧されない。

「キラ。平気?」
「フェイト。・・・・・・うん大丈夫。じゃあ抑えにいこう、二人を二人で」

フェイトが合流する。戦斧を手に金髪と白いマントを翻す彼女は一瞬笑みを浮かべて、右拳を差し出してきて。それに左拳をコツンと当ててから前衛達の戦いを背後に、一緒に青組後衛に向けて飛翔を再開した。
こうして並んで飛ぶのも久し振りだね。

「作戦通りにね。でも気をつけて。なのは今、多分バスターライフル・モードだ」
「並大抵じゃ近づけないのは解ってる。フェイトもシンが相手なんだから・・・・・・シンの爆発力に注意して」
「お互い様だ」

最後にもう一度拳を打ち合わせて、僕らは違う進路を取る。その次の瞬間には、さっきまで僕らがいた空間を桜色の光線が貫いていた。生身でありながら約20kmも離れていて尚且つ高速飛行している僕らを狙撃するなんて、流石なのは。
当たってはやれないけど! ・・・・・・ん、シンが動いたな。先行したフェイトに向かって打って出た。よしよし予定通りだよシン。
あとはあの娘が動いてくれれば――

[創主コロナと魔導器ブランセルの名のもとに、叩いて砕いて踏み潰せ! 我を護り、地を制するその身に大地の輝きを・・・・・・!!]

――っと、始まってくれたか。
コロナちゃんの魔法が、始まった。呪文を詠唱する流麗とした少女の声が溢れる魔力にのって、意図せず全域に響き渡る。
殆どの人がコロナちゃんを注目している最中でも、続けざまに精密砲撃を繰り出すなのはに舌を巻きつつ後方を視てみれば、宙に浮かんだコロナちゃんが亜麻色の魔力光に包まれていた。もはや一個の球となったソレはみるみる大きくなっていって刹那、幾百の魔力鎖を一気に、己に向けて引寄せた。岩塊が、圧倒的質量が少女に殺到して──爆発。
爆発して、破裂して、崩壊して、轟音が鳴り響く。あまりの出来事に戦場が一瞬、静寂に包まれた。其れ程までの衝撃。

[ゴーレム・クリエイション! 来て、ゴライアスMK‐Ⅱ!!」

しかして再び響き渡る、コロナちゃんの声。けど少女の姿はどこにもなく、岩に圧し潰されたわけでもなく、代わりに──

 

光の中から、岩と鋼鉄の巨人が顕れた。

 

高さは大体20mぐらいかな? 筋骨隆々でガッチリとした岩の体躯に、金のラインを入れた漆黒の騎士甲冑という出で立ちは鉄の城を連想させる。MSとは全く意匠が違う、ファンタスティックな番人。まるでスーパーロボットだ。
岩を連ねて造ったと思われる長大なモーニングスターを手に、巨人は悠々堂々と天に聳え立つ。

「・・・・・・あれが、ゴライアスMK‐Ⅱ」

逆転の切り札の一つ。
正直カッコいい。
格闘技も魔法戦もそんなに得意じゃないコロナちゃんが唯一絶対とする得意魔法、端末を核に魔力を込めて練った物質を望む形に変えて自在に操る『ゴーレム創成』による所業。アレの内部、胸部付近にコロナちゃんはいる筈だ。
もともとの『ゴライアス』は大体10mぐらいのもので、ゴーレムの構成するパーツもわざわざ集める必要も無いし、コロナちゃんも外部から操作するらしいんだけど。強化版の『ゴライアスMK‐Ⅱ』はただ大きいだけじゃなく強度や素早さ、創成難度、消費魔力とかが通常の三倍で、主に防衛戦を得意としているとか。

[ゴー! ゴライアス!!]

そんなゴーレムがコロナちゃんの操作のもと、ビルを蹴って赤組と青組の前衛が入り乱れる戦場に飛び込んだ。2対4で押されっぱなしだったアインハルトちゃんとノーヴェさんは冷静にスマートに、青組のみんなは大慌てで退避して、巨体は無遠慮に大胆に着地する。
盛大な土埃と破砕音をカルナージにプレゼントして、

 

赤組反攻作戦の第二段階目がスタートした。

 

≪警告。シエル‐ディストラクション、数64≫
「突っ切る!」

第一段階目は滞りなく成功だ。青組前衛と、アインハルトちゃんとノーヴェさんとコロナちゃんを、中央区ギリギリ手前で混戦に持ち込ませる。その為に僕とフェイトが運び屋になって、赤組後衛を護りつつ強引に進撃する。ティアナの采配通りだ。
続けて第二段階。前衛組はゴーレムを核に、中央区を制圧されないように防衛戦。赤組の制圧砲撃を封じる為にフェイトはシンを、僕はなのはを抑えにいく。そして後衛は第三段階に向けて準備を続ける、といった具合だ。・・・・・・まぁ実際、事前に決められたのは誰が何処で何時にどうするかってだけで、具体的な方法は各人のアドリブ任せなんだケドね。
あ、そうそう。なんでフェイトがなのはを、僕がシンを相手にしないのか、結局シンは何をやったのかについてはまた後で説明しよう。
これからはちょっと自分の事に集中したいから。

「――見えた。やっぱりバスターライフル・モード・・・・・・頑張ろうストライク」
≪可能な限りは。・・・・・・ディバイン‐バスター、来ます≫

 

さて。予備機として携行していたデバイス‐ストライクをメインに据えて、ストライクフリーダムをディアクティブ・モード──所謂、省エネ形態に移行させた理由は二つある。

一つは、先のなのはとの魔砲の撃ち合いですっかり魔力をスッカラカンにしてしまった僕が、早急に魔力を回復する為。フリーダムには魔力回復機関ハイパーデュートリオンの稼働に全力を尽くしてもらって、その間は魔力貯蔵タンク(つまるところバッテリー)で駆動するストライク・・・・・・それもエール、ソード、ランチャー全部乗せのパーフェクト・モードで補おうという算段だ。パーフェクトは大容量の追加魔力貯蔵タンクを持ってるから、繋ぎには丁度良い。
魔法のデバイスとしては貧弱な部類に入るストライクだけど、踏ん張りどころ。

二つ目は、ティアナのクロスミラージュとフリーダムが結んだ高速情報リンクシステムを継続する為。
フリーダムを完全に待機モードにさせると途切れちゃうからね。それは後々の行動に支障をきたしちゃうのでダメ。

そんなこんなで、ストライクで高町なのはと戦わなくちゃならない。パーフェクト・モードを選択したのはそれを見越してのことでもあって、弱いなら弱いなりに頑張らなくちゃ。

 

「ギガント‐ブースター解除、アグニ&ライフル!」
≪発射≫

対空拡散性直射型中距離制圧砲撃『シエル‐ディストラクション』をなんとか回避しきったところで、クォーターラインを通過したところで、視認する遥か彼方に霞む人影。身の丈以上の、アンチマテリアルライフルに類似した形状に変型させたレイジングハートを両手で構えた高町なのはが、主砲『ディバイン‐バスター』を発射する。
使用魔力をとにかく射砲撃関係に特化させて、それ以外を完全に切り捨てた超々遠距離砲撃戦用形態バスターライフル・モード──射砲撃に限れば威力も速射性能も精密さも、彼女の全力全開限界突破形態であるエクシード・モード‐ブラスター3のそれを軽く凌駕して、それでいて負担や危険性が少ない完全後方支援用形態の一撃だ。
うん、絶対にそんなものに当たるわけにはいかない。減速してバレルロール一回、射線をずらしてこっちも砲撃と射撃で対抗、牽制。通常のものより太く速く眩しい光線をギリギリでかわして、再度加速。
あの形態の明確な弱点に、近接戦どころか飛行も防御もまるでダメダメなところが挙げられる。撃ち合いの距離に持ち込めさえすれば今の彼女は体捌きのみで回避するしかないわけで。
ならその隙を狙って、『イーゲルシュテルン』と『ショルダーミサイル』を撃ちまくりながら身の丈程の蒼い太刀『シュベルトゲベール』を右手に、左手の大型実体シールドを掲げて、回避しながら防御しながらグルグルと強引に突撃するのが最善策だよね。
とにもかくにも滅茶苦茶に我武者羅に、今の僕とストライクは空戦も接近戦も射砲撃戦もできるんだとアピールする。

「この前より速くなった! レイジングハート、モードチェンジいくよ!」
≪はいマスター。根比べは望むところですね≫

と、風にのってそんな会話が聴こえてきた。砲撃だけじゃ止められないと、なのはとレイジングハートはどうやら形態を変更してくれるらしい。・・・・・・これで、なのはの遠距離砲撃は事実上封じられた。
なら、僕は!

≪シュベルトゲベール、フルパワー≫
「せぇぇーーぁあ!!」

レイジングハートのモードチェンジを待たずに、一息になのはらの懐に飛び込む。
どんなトラップを仕掛けてあろうが防御魔法を使おうが関係ない。あらゆる魔法を切り裂くこの必殺の太刀を用いて、この作戦の全てを乗せて、ただ渾身の一撃を見舞ってやればいい。その他の可能性は微塵も考えなくていい。

 

僕はある種の確信を得て、『シュベルトゲベール』を両手で思いっきり振り上げて。
そして思うがまま、思いっきり振り下ろした。

 

だから、
ガ、ギンッ! と、甲高く硬質な激突音で。
蒼い太刀が、突如なのはの眼前に顕れた白亜の巨盾に阻まれて、急激に運動エネルギーを失っていく様子を視て僕は。

その盾の影から、動きを止めた僕の首を目掛けて疾る、二振りの黄金の刃の存在を確認して僕は。

 

「・・・・・・来たよ、なのは」
「うん。・・・・・・多分こうなるんじゃないかって、思ってた。待ってたよキラくん」

 

全てが上手くいったと、これからもとりあえずは上手くいくと、そう心から思えたんだ。

 
 

──────続く

 
 
 
 
 
 

◇◇◇

 

「で、結局。あんなに息巻いて出ていった挙げ句? あの魔導師どもに瞬殺されちゃって尻尾巻いて逃げてきた、と」
『ぐ・・・・・・!』

小さなノートパソコンのモニターに映る、趣味の悪い青紫のリップを好む白髪の男・・・・・・有り体に言ってしまえばいかにも悪趣味で不健康そうな男が、これまた色白の顔面を蒼白にして歯噛みする。
正直、良い気味だ。清々すると思う。

「過去前例がない程に、あーんな沢山の武器と人員を揃えといて。アナタ一体なにをやってたんですかねェ? タダじゃないんですよ? この私に任せたまえと大口を叩いたのは──」
『わ、わかっている! そのような事は!』
「──ふーん?」

いつもは無駄に尊大な口調で我儘ほざいてる奴が、大失敗かまして怒りに打ち震える様は極上のワインに匹敵する。それでまた指摘してあげたら逆上するものだからオツマミにも事欠かない。
全く、なんでこんな奴が僕の後釜で、しかも今はコンビなんぞを組まなくてならないのか。姑息で卑怯なこの男が実動部隊を率い、この僕が後方でバックアップに回るという現状・・・・・・どう考えても僕一人でやった方が効率的なんだからさぁ。
上の思惑は理解しかねる。

『・・・・・・ふ、ふ。確かに私は貴方の言う通り、失敗はしました。ですが、しかしですね』
「?」

俯いてたと思ったらなんかいきなり得意気な顔になりやがった。声は震えているが、なんだコイツ気持ち悪い。
ですが? しかし? なにを寝言を。

『私の策は一つではないのですよ・・・・・・! そう! 確かに私は失敗しました。大戦力を率いていながら、何もできず、無惨に敗退しました。・・・・・・それも利用できると言ってるんです』
「・・・・・・なに?」
『あの連中はどう思うでしょう? どんな手を尽くそうと、装備をかき集めようと、普通の人間によるテロ等恐れるに足らず。この私のあの部隊を労せず倒したことで、そんな認識が生まれたのです』

ふむ、コイツも少しは頭が回るらしいが・・・・・・何をするつもりだ。調子が出てきたのか、いつものウザい演技がかった大仰な仕草で、妄想を根拠に説明を始めた。チッ、つまらん。
・・・・・・だが、もうコイツが使える武装は少ない筈だぞ。奴の部隊の次に出撃する筈だった本隊の武器は全て、モニター越しのコイツがヘマした時点で上が回収したのだから。

『成功はしたかったが、失敗しても構わない・・・・・・あの化物どもが相手なんですよ。その策は既に打ってある』
「ほう」
『明後日にグリューエンを攻める』
「ッ!? まて・・・・・・!!」

 

コイツ、今なんて言いやがった!?

 

「バカが、時期尚早だ! それに装備も無いまま彼処を落とせるか!!」
『MSF発生装置は既に手配してありますし、兵器も此方のツテで用意しています。奴等が油断している今こそがチャンスなのですよ! そうそう、あの人形どもも使わせて戴きます』
「貴様ッ!」

・・・・・・クソ、錯乱してやがる。歪みに歪んだ色白な顔面にはいつになく熱を帯び、一つの狂気を惜しみ無く曝け出している。
駄目だ。コイツはもう止まらない。

『落ち着いてください。少し予定が繰り上がった、ただそれだけのことです。貴方も上も、望んでいたことでしょう?』
「・・・・・・わかった。だが、これは勿論報告させてもらう。やるからには、もうイレギュラーがどうとかいった言い訳は使わせないからな」
『当然です。まぁ、そこで座って観ていてください。では』
「健闘は祈ってあげますよ」

仕方ない、今は様子見をするしか。だが見物ではある。
ならせいぜい楽しませてくれよ。君の最後の悪足掻きをさ?

 
 

『「蒼き清浄なる世界の為に」』

 
 

──────To Be Continued

 
 

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