~ジオン公国の光芒~_CSA ◆NXh03Plp3g氏_第12話

Last-modified: 2021-02-12 (金) 14:41:07

「こちらが供与を予定しております、ZGAT-204ED、『ウィンダムZe』です」
 クレーンで桟橋に下ろされた、そのMSの名を、キャサリンはまるで、ショウルームのコンパニオンのような口調と素振りで、呼ぶ。
 その姿は、一見、旧連合のGAT-04ウィンダムに酷似していたが、胸周りが、やや厳つくなっていた。
「ZGATということは、旧連合系の機体だと言う事だな」
 カガリはウィンダムZeを見上げつつ、問いかけるように言った。
「けれど、ZGAT系がZGMF系に必ずしも劣るわけではございませんよ。ZGAT-1004F『ネモ・ヴィステージ』の活躍は
 ご存知頂いてるかと存じますけど……」
「ああ、知っている」
 キャサリンがカガリを見ると、カガリは一瞬だけ笑ってそう答えた。
「あの機体は核融合動力をはじめとして、我が軍の軍事機密の塊ですから、おいそれと供与できない事情は
 ご理解いただきたいところなのですけれど……」
「それは承知している。これはバッテリー機か?」
 カガリは幾分苦い顔で頷いてから、訊ね返す。
「パワーエクステンダーの相当品を装備していると、考えてください。それと、イージーデュートリオンシステムを採用しています」
「イージーデュートリオン?」
「受電装置を外付け化した、デュートリオン電送システムです。既にプラント国防軍がドムの後期型で採用していますね。
 デュートリオン電送が不要な場合は、オミットする事で軽量化と稼働時間の延長が図れます。本来はストライカーパックやウィザードなどの
 バックパックシステムに組み込むものなのですが……」
 そこまで言うと、言いにくそうに言葉を濁した。
「肝心のストライカーパックの方が、イージーデュートリオン対応の物が、生産の切り替えが間に合いませんで。
 このウィンダムZeでは、別付けのカートリッジパックを使用するようになっています。もちろん、対応ストライカーパックも使用可能です」
 TPRF(トーマスシティ・パワーモジュール・リサーチインステュート・ファクトリー)では、自軍の主力である核融合MS用のストライカーパックに
生産力を割きたいのが本音だった。その為、対応ストライカーパックも、受電コンバータ部分はカートリッジ式の着脱仕様で設計していた。
「ですが、そちらの方は、日本のフジヤマ社、台湾のK&S社とノックダウン生産が決まっておりまして、数がそろい次第、お届けできますね」
「ノックダウン生産だって!?」
 カガリが驚いたように、視線をウィンダムZeからキャサリンに移した。
「はい。ストライカーパックだけではなく、本体も生産に移る予定です」
 キャサリンは、にこにこと微笑みながら答えた。
「モルゲンレーテも、生産設備は残している……人と資材を集めれば、何とかなるかもしれませんね」
 カガリの傍らで、キサカが言った。
「もし条件が整うようでしたら、担当の者を寄越しますね」
 キャサリンもにっこり笑って、そう言った。
「なるほど、供与用の機体がGAT系というのは、運用する側の都合まで考えているという事か」
 カガリが、感心したように言った。
「はい、特にオーブでしたら、弾薬以外に不都合はないでしょう。消耗品の方は、ある程度は保証させていただきますので、ご安心くださいね」

機動戦士ガンダムSEED
 逆襲のシン ~ジオン公国の光芒~

 PHASE-12

「う……ん……うん……?」
 シンは、徐々に眠りから覚めていく。
 その視界に、仮面を外した、アルテイシアの顔が入った。
「ああ……アルテイシア」
 ゆっくりと身を起こす。
 お互い下の下着だけという姿で、ベッドの中に居た。
「大丈夫? うなされていたみたいよ?」
 心配そうに、アルテイシアは訊ねてる。
「いや……あ、大丈夫だよ」
 シンはアルテイシアを安心させるように、苦笑して見せた。
「水、持って来ようか?」
「いや、いい」
 シンはそう答えると、背が低い割に、逞しいその身体に、長身で豊満なアルテイシアの身体を抱き寄せた。
「なぁ、アルテイシア」
「うん?」
 シンが問いかけると、アルテイシアは小首をかしげるような仕草で、聞き返す。
「俺、最初は君を、利用するつもりだった。キラと、戦うために」
 キラと対峙し、レイに言われて、改めて自覚したそれを、カミングアウトする。
「私もそうだったわ」
 苦笑していくらか悪びれ、アルテイシアは言う。
「でも、いざとなったら俺、アルテイシアに夢中になっちまってて」
「奇遇ね、私もよ」
 悪戯っぽく、アルテイシアは言い返した。
「じゃあ、しょうがないか」
「そゆコト」
 呆れたように言うシン。くすくすと笑うアルテイシア。そして、どちらからともなく口付け、そのまま、横にベッドに倒れこむ。
「けど……ずいぶん厄介な事になったな」
 シンは、難しい顔をして言う。
「奪われた3機のことね」
「ああ……」
 現用の核融合MSが3機、失われた。戦闘によってではない。IFFやカタパルトシステムの ログを総ざらいした結果、
何者か~おそらく、敵~に奪取されたらしい、という結論が出た。

 もちろん、この事実は、オーブ側には伏せてある。
 もっとも、ソフトウェア面を中心としたブラッシュアップで高性能化したウィンダムZeの性能は、迎撃・局地戦用の軽MSとすれば、
必ずしもゲルググ・シリーズやネモ・ヴィステージに“どうしても勝てない”機体ではなかったが。
「良いんじゃない、ここからが本番でしょう?」
「恐ろしい事を言うな、君は……」
 表情を歪ませて、シンは言う。
「それとも、シンは、あんなボロボロになったストライクフリーダムを倒すだけで、満足だったの?」
「俺としては、それでもよかった」
 アルテイシアの問いかけに、シンはそう、淡々と答えた。
「そうだったんだ。じゃあ、邪魔しちゃったかな。ごめん」
 眉を下げるアルテイシアに、シンは少し慌てて、バタバタと手を振った。
「あ、いや、気にしなくて良い。ジオンのリーダーはあくまでアルテイシアなんだし。それに、そうは言うけど、
 もう一度全力で、対等な機種でやり合ってみたいとも、どこか心の隅にあるのは事実なんだ」
 メサイア戦役では、デスティニーとストライクフリーダムの対決は、常にアスラン・ザラ駆るインフィニットジャスティスの横槍に邪魔されてきた。
 加えて、現在のジオンのMSの設計思想を見るに、デスティニーはあれもこれもと欲張りすぎた過剰武装、極論すれば欠陥機とも言える。
 戦車の黎明期に、複数の旋回砲塔を搭載し、「死角を無くした!」とキャッチコピーで売られた多砲塔戦車なるものが開発された。
 しかし、実際には重量の割りに装甲は薄く、複砲塔では敵の主力戦車に対して威力不足と、結局第二次世界大戦勃発に前後して
姿を消していった。この多砲塔戦車のコンセプトは、まさしくデスティニーの開発コンセプトそのものではなかったか!?
 兵器は、むしろ何かひとつに特化してこそ、その兵器として最大限の能力を引き出せるのだ。その意味でインパルス、
そして後継のインパルスIIは究極といえる。軽量なフレームにシルエットを追加する事で性格を変更させるわけだ。
 ストライクフリーダムは、言うなれば“高機動な火力支援MS”。軽量の為格闘戦もこなせるが、そちらのほうが余禄と考えるべきコンセプトだ。

「そういうことなら、丁度よかったかもしれないわね」
「え?」
 アルテイシアは悪戯っぽく微笑む。
「今月末か来月には、次世代機の最初のコンペティションが出来そうなの」
「もう、かよ!?」
 シンは驚いた口調で聞き返した。それを見て、アルテイシアは肩をすくめる。
「やっと、よ。ゲルググはネクストニューミレニアムシリーズ、ネモはNダガーの後継機の計画を、
 核融合エンジンにあわせてブラッシュアップしただけだし」
「そうか……そうだよな」
 ジオン独立宣言、L1会戦で華々しくデビューしたかに見えたゲルググシリーズとネモ・ヴィステージだが、
実際にはその半年も前に完成し、プラント本国の目から隠れつつ逃れつつ数を確保したのだ。
 トーマス・シティには、休止状態のD-3He核融合発電施設がいくらでもあったので、それらから融合炉やタービンを撤去して、秘密工場に改築していた。
 また、幸いにして、環境的にプラント本国やアーモリー・シティより劣悪なトーマス・シティには、そうそう要人も訪れたがらなかった。

 ────閑話休題。

「それに、フルモデルチェンジというよりは、大マイナーチェンジ程度になりそうだしね」
「そうか」
 妙に楽しそうに言うアルテイシアに、シンは興味ないわけではないものの、あっさりとした口調で返す。
「それに、Gタイプも用意してあるわ。そっちの方は、期待してて良いわよ」
 不敵に笑い、アルテイシアはシンを見る。
「それって、あの、ハズカシイ機体だろ?」
「あ、もうアウトライン見てたんだ」
 シンは、あからさまに嫌そうな顔をした。
 TPRF-1(パワーモジュール・リサーチインスティテュート・ファクトリー・1=TPRF・トーマス1研究開発工場)で見せられたそのデザインは、
なんと言うか、水中型などの特殊用途でないとするのなら、おおよそモビルスーツの常識的なデザインを逸していた。
 特に、背後に搭載されるドラグーン・システムの配置が。
「ストライクフリーダムの欠点を補ったら、あんな形になったって言うけど……」
「フリーダム云々はともかく、できれば、ちょっと遠慮したい雰囲気」
「あはは」
 アルテイシアの説明にも、シンの顔は苦いままだ。
「でも、シンに用意される機体は、それとは別だから、安心して」
「良かった」
 アルテイシアの言葉に、シンは本気で安心したように、文字通り胸をなでおろした。
「第一、シンは、ドラグーン苦手でしょ?」
「使おうと思えば使えないことはないけどな、今のジオンのドラグーン技術なら」
 アルテイシアの悪戯っぽい問いかけに、シンは苦笑しながら答える。
「ってことは、アレに乗らされるのはイザークかレイか。可哀想に」
 可哀想、と言いつつ、口元でにやつくシン。特にイザークがそれに乗らされたとき、どんな顔をするか想像すると、
それだけで吹きだしそうになる。
「そうね」
 ぷぷっと吹きだすアルテイシア。実は、同じようにイザークの顔を想像した。と言うか、ジオン本国でそのアウトラインを見たときに、
エザリアと2人、その話題で腹を抱えて悶 絶したのは最重要国家機密である。
「それより、あ、話変わるけどさ」
「ん?」
 シンの方から、話題を振った。
「クレハが……」
「なによ、彼女と過ごしている最中に、別の女の話題?」
 シンが持ち出した名前に、アルテイシアはむっ、と不機嫌そうな顔をして見せた。
「あ、いや、ごめん」
「あ、冗談冗談」
 シンが本当に申し訳なさそうに言うと、アルテイシアは慌てて手を振った。
「判ってる、キラ相手にあそこまでやるとは思わなかった、って言うんでしょ?」
「ああ……驚いたよ。訓練に大して時間をかけてあげられたわけでもないのに」
 シンは本当に感心したように言うが、アルテイシアは悪戯っぽく笑う。
「私から見れば、当然だと思ったけどね」
「え? だってキラ相手だぜ? いくらゲルググの性能が良いったって……」
 シンが、軽く驚いたような顔をする。すると、アルテイシアは、少し呆れの混じった苦笑をした。
「キラは、正規の軍事訓練も、MS搭乗訓練も、受けてないわよ」
「いや、そうかもしれないけど……」
「いいえ、そんな甘い物じゃないわ。そもそも、GAT-X105は連合が最初に運用したMSだもの。
 キラにはマニュアルひとつ与えられなかった、全部我流」
 アルテイシアは、不敵に微笑みながら言う。
「それに比べて、クレハはシンに、レイ、イザーク。短期間とは言えかつてのZAFTのトップエース達が
 鍛え上げたのよ。キラより強くて当たり前だわ」
「そうか……」
 シンは僅かに考えた。MS搭乗訓練もさることながら、軍事訓練を受けていない、というのが大きいのかもしれない。
 デストロイ戦や、各々先代のフリーダムとインパルスとでやりあったとき、そして先ほどのクレハ戦。一旦自分の戦闘スタイルが崩れると、
フルバースト乱射や一直線に逃走したりと、戦術も機体特性もへったくれもない行動を繰り返す。
 と、言うのがシンの考察だった。
「それにしても……私思うのよね」
「え?」
 アルテイシアの声に、深い思考から、シンは引き戻された。
「彼女、とっても人受けのいい性格してるでしょ」
「うん……、ってもしかして」
 ニヤニヤと笑う、アルテイシアに、シンも思わず含み笑いしてしまう。
「キラのクローンとは思えないわよね!」
「それ、レイやイザークも言ってたぜ!」
 そう言って、2人してあははは、と笑った。

 
 

『現在、同乗の技術者に見せていますが、驚くべき構造だと言っています』
 『カルメ』の艦長が、直接(とはいっても、経路的にはカーペンタリアで中継して)
大統領執務室につながるチャンネルで、プラントに報告していた。
「それほど、素晴らしい技術が詰め込まれていると言う事なのですね?」
 ラクスは、モニター越しに聞き返す。技術的に造詣は深くないが、今後、解析と、言ってしまえばデッド・コピーの製造に、
どれだけ手間がかかるかという問題がある。
『いいえ、むしろ逆です』
「逆?」
 ラクスは、首をかしげる。
『こんな方法があったのか、ってぐらいですよ! 確かに、開発陣はたいしたものですが、個々の技術は、
 A.D.時代に基礎研究が終わっていた物を寄せ集めてます。ああ、通りで短期間でこれだけ用意できるわけだ』
 予めプラズマを作り出しておくのではなく、常温核融合で自由中性子を含む加熱ガスを発生させ、
ジェットノズルで炉内に噴射して熱核融合を開始する。
 核分裂の場合、自ら熱電荷を帯びた、いわゆる高速中性子が、次の核物質にぶつかる事で反応を連鎖していき
熱出力を得る。ニュートロンジャマーは、中性子が『自分勝手に』動く事を抑止する為、核分裂反応は抑えられる。
 しかし、そもそもD-D核融合反応で副生成物となる中性子は熱電荷を帯びているわけではない。
 熱と圧力で物理的にジェット噴射化させている為、ニュートロンジャマーの効果は薄い。
 一旦熱核融合が開始されれば、反応中の重水素はその熱でプラズマ化する。このプラズマ閉じ込めに、
大規模な電磁石を使用することが、核融合設備の小型化を阻害してきた。
だが、ミズノ式炉では、永久磁石によるミラー閉じ込めとすることで、この問題を解決していた。もっともこれも、点火方式の恩恵である。
 磁気ミラー閉じ込めは完全にクローズしていないので、核分裂炉よろしく圧力容器が必要になる。炭化タンタル系の合金で構成されており、
それをぐるりと冷却用のウォーター・ジャケットで取り囲む事で、炉外周部の温度は3000~4000℃に保っている。
 そしてこのウォーター・ジャケットの冷却液から熱出力を取り出すのだ。
 画期的な構造ではあったが、何れもA.D.21世紀末までには実証されていた技術である。
ラクスが知る由もないが、「ミズノ式」「パターソン結晶」と言う名称は、それぞれA.D.20世紀末からA.D.21世紀にかけて
常温核融合の権威であった科学者から取られたのだ。

───以上、閑話休題、薀蓄失礼。

「それでは、こちらで生産する事に障害は少ない、というわけですわね」
 一見、無邪気な感じさえする笑みで、ラクスは言った。
 ストライクフリーダム、及び汎用機であるドムシリーズの後継機計画はずいぶん前に始めていたが、動力源の問題で頓挫している。
 ジオンの核融合炉エンジンユニットを物に出来れば、これらは解決するだろう。

『資材と燃料の確保の問題がありますが、それ以外は比較的、ハードルは低いと感じます』
「判りましたわ。後は、素材など更に詳細な分析ですわね。あなた方はパナマへ向かい、そのままマイウス・シティーへ向かってください」
『了解しました』
 モニターの向こうの艦長が、敬礼したのを見て、ラクスは通信を切った。
「さて、問題はキラの方ですわね」
 ラクスの顔が曇る。ストライクフリーダムをボロボロにされたと言っていた。
 キラの行動はラクスの予想通りだった。オーブがジオンと組めば必ずちょっかいを出しに行く。自発的に行かなかったとしても、
ラクスがちょいと背中を押せば良いだけの話だった。
 今のストライクフリーダムでは、シン、もしくはイザークの操る核融合MSには“勝てない”ことも、織込み済みだった
 けれども、まさか今までノーマークだったパイロットに、それも継戦能力を奪われるまでになるとは思っていなかった。
 さらに、アルテイシア公の素顔。自分と出会う前のキラを知る女性。
 キラの精神的なダメージは計り知れないだろう。
 ラクスの気が更に重くなる。キラは手駒としても大事だが、それは彼が最強、最高のスーパーコーディネィターであるという
前提に成り立っている。それ以上に、個人的にキラに鬱屈していて欲しくないし、“自分の愛するキラ”でいて欲しい。
 ラクスは自分でコンソールを操作し、回線を繋いだ。
『こちら、フェブラリウス2、生体工学研究所です。大統領閣下』
 神妙な面持ちの、研究施設の責任者である男が、そう言った。
「『最適化』プロジェクトの進捗状況を、報告していただけますでしょうか?」

 ラクスは、聖母のように微笑みながら、それを訊ねた。