~ジオン公国の光芒~_CSA ◆NXh03Plp3g氏_第27話

Last-modified: 2021-02-12 (金) 14:49:01

「正面、輝点多数……ジオンのMSです!」
 エターナル。それを告げるチーフオペレーターは、メイリン・ホークのオーブ移籍後に、それを継いだプレア・リード少尉。
「やっぱり彼らは、こっちの動きを知る方法があるんだ……」
 キラは、呟くように言ってから、席を立つ。
「行って来るよ、ラクス」
「はい、お気をつけて……」
「他の艦にも迎撃を出すように…………」
 ラクスとキラがしばしの別れを惜しむように見つめあい、
 艦長席のアンドリュー・バルトフェルド“中将”が指示を出しかけたとき……

 ズガオォオォォン……

 ────“戦争”は、暴力的に開始された。

機動戦士ガンダムSEED
 逆襲のシン ~ジオン公国の光芒~

 PHASE-27

 エターナルの艦首、右側面の砲塔────『ミーティア』が、叩き潰されていた。
 破壊は反対側のミーティアにまで及び、爆炎が広がっている。
「くそっ! 隔壁閉鎖だ! 自動消火装置に任せろ!」
 バルトフェルドが、艦長として指示を出していく。

 破壊されたミーティアの周囲からミラージュコロイドの粒子が飛び散り、“犯人”が現れた。
 ジオン公国軍、偵察観測艦『パティ』。
 エターナルに狙いを絞り、隙間を縫って体当たりを敢行してきたのだ。
 もちろん、パティもただでは済まない。質量ではパティの方がずっと小さい。
 艦首の240mmビーム・リボルバーカノンは完全に破壊され、37mmビームガンと30mm機銃を備えるターレットも旋回不能になった。
 バーツ型に搭載されているほとんどの武装が使えなくなったことを意味する。
 パティは軽く後進をかけ、不気味な軋みを上げながらエターナルから離れる。
 その次の刹那、無数の火線がパティを貫き、ほとんど一瞬にして散華した。
 だが、エターナルの被害は深刻だった。

「駄目だ! カタパルトが歪んじまって使えない!」
「なんだって!?」
 コンソールの前で憔悴しきっているバルトフェルドの言葉に、キラは驚愕の声を上げた。
「はやく修理させて!」
「もうやってる!」
 だが、エターナルがパティの体当たりによる混乱に包まれている間にも、ジオンの先鋒MS部隊は近づいてくる。
 
 プラント宇宙軍の搭乗員の質も、L1会戦の頃に比べればずいぶんと“マシ”になっていた。激しい戦闘が始まる。
『ブリッジ! 一体これはどういうことなの!?』
 格納庫で待機していたアンビテンから、ルナマリアの問いただす声が、艦内通信を通じ
て聞こえてくる。
「ジオンの珍走が体当たりしてきやがった! ミーティアとカタパルトがお釈迦だ!
 カタパルトは今直させる、少し待っててくれ!」
 バルトフェルドは、声を荒げてルナマリアに答えた。

 
 この時点での戦力、ジオン側、大型戦闘艦5隻、MS搭載巡洋艦6隻、大型MS空母5隻、護衛艦69隻。MS総数303機。
 
 対するプラント軍側、大型戦闘艦8隻、MS搭載戦闘艦13隻、大型MS空母2隻、駆逐艦69隻。MS総数352機。
 
 なお数ではプラント側に有利だが、決め手となるモビルスーツの数では圧倒的な差はない。
 さらに加えて────

 「『われ敵旗艦奇襲に成功せり。ジオン公国に栄光あれ』以上です」

 マリア艦橋。
 マーシェ・イズミ少尉は、パティが最後に放った通信の内容を受け、できるだけその事実を淡々と伝えた。
「独断専行を……」
 アルテイシアは咎めるような言葉を口にしたが、その様子はどちらかというと優しく、そして哀しげな物だった。
 艦橋全体が、沈痛な空気に包まれる。
「聞きましたか? 敵にはしばらくの間、混乱が期待できます。どれほどの物かはわかりませんが……」
『ああ、でも他の連中にこう伝えてくれ。こんな無茶はしないでくれってな』
 通信用のディスプレィに映るシンが、少しぶっきらぼうに言った。

 マリアの右舷発艦デッキの扉が開放される。
「シン・アスカ、エンデューリングジャスティス、出るっ」
 ガイドLEDが、格納庫側から前方へ向かって順次点灯する。
 リニアカタパルトが作動し、エンデューリングジャスティスを打ち出した。

「クレハ・バレル、ミーア、いっきまーす!」
 続いて、ミーアがリニアカタパルトから発進する。
 VPS装甲でピンクに染まった補助翼が、まるで風にたなびくように開いた。

「ちぇーっ、結局あたしだけ量産機かよ」
 コニールはぼやくように言いながら、発進待機位置に入る。
『キミは、その機体でも充分強いから……』
 通信用ディスプレイに、レイの顔が映る。どこかはにかんだ様子だ。
「そりゃ、女の子へのほめ言葉じゃないぞ」
 にやっと笑いながら、コニールはそう返した。
『そ、そうか……っ』
 レイは顔を紅潮させて、目を伏せてしまう。コニールはそれを見て笑った後、レバーを握りなおした。
「コニール・アルメタ、ジム・クロスウィズ、出るよっ」
 リニアカタパルトから、エールストライカー装備のジム・クロスウィズが射出され、
 エンデューリングジャスティスとミーアを追いかけていく。

「レイ・ザ・バレル、インパルスII、出る」
 ミーアやインビシビリティレジェンドの性能評価用として製造された『ガンバレルドラグーン』、
それを装備する『ナイトホークシルエット』を背負い、インパルスIIはレイの操縦で飛び出して行った。

 前線では5隻のMS空母から飛び立ったジオンのMS部隊と、プラントの迎撃MSとが激しい戦闘を演じている。
 初っ端、旗艦に奇襲攻撃を受けたショックで浮き足立っていたのか、位置的にはかなり
プラント艦隊に近い位置での戦闘となっている。だが、迎撃のプラントMSも一歩も引かない。
 ニュー・ジン・バンシーが一気に間合いを詰める。振り下ろされるファルシオン・ビームサーベルを、
ギャン・カビナンターのバックラーが受け止める。激しく火花が散る。
 
 別のニュー・ジン・ソルジャーがビームサーベルで、突きを入れてくる。ギャン・カビナンターは捻ってかわし、
シールドに内蔵された『ヒルドールヴ』3連装ビームガンでニュー・ジン・ソルジャーを撃ち抜く。
 だが、射撃の一瞬を突かれ、ニュー・ジン・バンシーにファルシオンで袈裟斬りにされる。
 
 ギャン・カビナンターが上段から斬りつけてくる。ニュー・ジン・ソルジャーがそれをシールドを構えて受け止める。
ニュー・ジン・ソルジャーがシールドを抱えたまま横から薙ごうとするが、ギャン・カビナンターは一気に後退して間合いを稼ぐ。
そこへニュー・ジン・バンシーが240mmイオンビーム・リボルバーカノンで、撃ちかける。
ビームはスクリーミングニンバスで弾かれる。だが、同時にニュー・ジン・ソルジャーの放った、
レーザーヒートブーメランが迫ってきて、スクリーミングニンバスと火花を散らしつつ、ギャン・カビナンターの胴体に突き刺さった。

プラント軍MSもジオン側に被害を強いていたが、2機1組の集団戦を取り入れているジオン軍MSは、その戦術の強さを見せ付ける。
しかし、プラント軍側もまったくの無策ではない。
「本艦の上方、大型艦、高速で接近します!」
 ミシェイルの艦橋で、ジョージ・グラディス少尉が、オペレーター席で声を上げた。
 暗闇の中から、赤を基調としたモビルスーツが、姿を現した。
 
 ZGMF-317F/X『パクフアープ』。

 ギャン・カビナンターをベースとしつつさらに強化した、プラント軍初の量産核融合MS
……に、なるはずの機体。全身をAPS装甲に包んでいる。
 だが、この戦場に間に合ったのは、エターナルに搭載されている2機を除けば、ここに出現した18機だった。
 高性能MS、そしてカルメ型機動戦闘艦3隻で、ジオン艦隊の側面を突く────

「バカが! その程度の想定をしていなかったと思うのか!?」

 その正面にインビシビリティレジェンドが立ちふさがる。ガンバレルドラグーンを切り離す。
 ガンバレルドラグーンは一気にパクフアープ隊の背後に回りこむ。
 あらぬ方向から降り注ぐビームガンに、2機、3機と爆散させられていく。
 さらに、ランチャーストライカー装備のジム・クロスウィズ数機が、アグニIIを射撃する。
 パクフアープが数機、炎に包まれた。

「ちっくしょぉぉぉぉぉっ!!」
 パクフアープを駆るジーク・ナカムラ中尉は、インビシビリティレジェンドに向かって、一気に間合いを詰めようとする。
 だが、インビシビリティレジェンドの背後から、40発の『コロネード』対装甲アクティブホーミングミサイルが飛び出してきた。
 インビシビリティレジェンドから放たれた物ではない。
ジークはバックラーを構えさせ、スクリーミングニンバスとあわせてそれに耐える。
『ジーク、ジーク突出しないでっ』
 ニーナが叫ぶ。ニーナはジークを援護しようとするも、アグニIIの火線が熾烈で、なかなか接近できない。
「こいつは……っ!!」
 ミサイルの後を追って、ニュー・ジン・バンシーが飛び込んできた。
 使い捨てのミサイルランチャーを切り離し、斬りこんで来る。その肩には、鳳仙花のマーク。
 パクフアープのアンチビームバックラーが、ファルシオン・ビームサーベルを受け止める。バチバチと激しく火花を散らす。
「このっ……」
「やはりっ、一筋縄ではいきませんかっ」
 上段から斬り下ろしたファルシオンを受け止められ、ニュー・ジン・バンシーの、コクピットで、シホも歯を軋ませた。
『シホっ、無理するな!』
 インビシビリティレジェンドにTPRF-BHL01ビーム長刀を構えさせ、寄ってくるパクフアープを牽制しながら、イザークはシホに声をかける。
「隊長に言われたくありませんっ!」
『じゃあ、好きにしろ!』
「死なない程度に、そうしますっ!」
 イザークの冗談めかした声に、シホも冗談交じりに答えつつ、ジークのパクフアープと斬りあっていく。
「ジーク、ジーク!!」
 ニーナは、他に集まってくるニュー・ジンシリーズと切り結びながら、必死にジークに声をかけ続ける。しかし────

 ドンッ!

 彼らの母艦、ラーレ・アンデルセンが無数の火線に貫かれ、炎上した。
 ナツメ型の陣形を組んだジオン艦隊第2戦隊、パオラと、J・コイズミ型『ライゾウ・タナカ』を先頭に、
武装親衛隊の艦隊のさらに即方に回り込んできていた。
 パオラの艦首のひな壇砲塔が激しく火を吹き、他の艦艇の射撃とあわせて、カルメ型3隻を次々に炎に包んでいく。

『バルトフェルド中将!』
 アンビテンのコクピットから、ルナマリアが艦橋に呼びかける。
『カタパルトより扉を、歩いてでも出ますっ』
「解った……っ。おい、格納庫の扉をパージしろ!」
「りょ、了解です」
 ルナマリアの言葉を、バルトフェルドは苦い顔で認める。
 
 ドムッ
 エターナルの格納庫の扉が爆破された。アンビテンはフライトデッキに立つと、軽く飛び上がりながら、MA形態に変形する。
 損傷したエターナルにあわせて微速前進していた艦隊を追い抜き、双方のMSの乱戦が続く空間へと飛ぶ。 
 続いてケルビックフリーダムが格納庫から出る。飛び上がってエターナルの正面に陣取り、神々しい光の翼を開いた。

「!」
 艦隊の先頭に煌く光に、シンは気付く。
「奴だ! クレハ、行くぞ!」
『了解です!』
 瞬時に向きを変え、2機はケルビックフリーダムの光めがけて飛び始める。
「レイ! 置いてきぼりって事はないよな!」
『ああっ……』
 1機のジム・クロスウィズとインパルスIIが、さらにそれを追う。
 追いすがるギャン・カビナンターを、インパルスIIのガンバレルドラグーンが、牽制し、引き離す。
 シンはファトゥムからラケルタを抜き、連結させながら、ケルビックフリーダムを目指す。

「!?」
 別のスラスターの輝点が、エンデューリングジャスティスやミーアの方に向けて近づいてくる。
「セイバー?」
 シンが呟きかけた時。接近してきたMAは、その正面でMSへと変形した。
『シン! シン!』
 通信に割り込みをかけられてきた。シンには聞き覚えのある声。
「ルナ!」
 通信用ディスプレイの中に、赤毛の女性の顔が映った。
「何しに出てきた!?」
 険しい表情と険悪な声で、ルナマリアを責める様に聞き返す。
『シン、もうやめて、お願い!』
「そんなくだらないことを言う為に、出てきたんじゃないだろうな!?」
 シンは、アンビテンに向けて、容赦なくラケルタを構えた。
 振り下ろされるラケルタに、アンビテンはアルフレート・ウェポンキャリーシールドで受ける。

「止まってっ」
 アンビテンは脛と並行するビームキックで、エンデューリングジャスティスの腰を蹴り上げようとする。
「そんなものまで、あいつと同じものをつけてんのかよ!」
 シンはアンビテンにシールドを叩きつけるように圧し、間合いを取り、ビームキックをかわす。
「!」
 ルナは、急機動でアンビテンをずらす。アンビテンのいた空間を、ミーアのフルバーストが薙ぎ払う。
「お前に構ってる暇はないんだ!」
 シンはエンデューリングジャスティスのスラスターを全開にし、アンビテンをすり抜ける。ミーアもそれに続いた。
『待って、シン! あの時は、私が悪かったからっ! だから、優しいシンに戻って! お願い』
 アンビテンは、MS形態のままエンデューリングジャスティスを追ってくる。

「ちっ……コニール!」
 片手で通信を強制的に切り替える。
『任された!』
 言うが早いか、アンビテンの背後から、高圧縮粒子ビームの礫が降り注ぐ。
「!?」
 ルナマリアは、反射的に振り返らせ、シールドを構える。ビームシールドを展開し、制圧射撃を凌ぐ。
「どーん!!」
 自ら口で言いつつ、コニールのジム・クロスウィズは、シールドタックルでアンビテンを突き飛ばした。
「ぐぅっ……」
 適当な間合いが開いた瞬間、コニールはジム・クロスウィズをパンサー・ビームアサルトライフルから
ファルシオン・ビームサーベルに持ち替えさせる。
「このっ、邪魔する気なら……っ!」
 ルナマリアも、体勢を立て直させつつ、ラケルタを抜き、連結させて構える。
「ナチュラル機になんか負けないわよ、絶対!」
「簡単にやれると思うなぁぁっ!」
 ファルシオンとラケルタが交錯し、お互いのシールドにぶつかり、バチバチと激しく火花を散らした。

「!」
 キラは、ロックオンアラートに顔を上げ、そして、ケルビックフリーダムは、翼をはためかせるように動いた。
 直後、ケルビックフリーダムの陣取っていた空間を、ミーアのフルバーストが薙ぐ。
「うぉぉぉぉぉぉっ!!」
 ラケルタを振り上げたエンデューリングジャスティスが、その目前に現れた。
 ケルビックフリーダムは腕のビームシールドを構え、それを受け止める。
 バチバチバチバチッ
 激しい火花が飛び散る。
「来たのか、シン」
「クレハ、頼む!」
『あ、はいっ』
 シンの合図に、クレハは一度、軽く目を閉じる。
 シンのSEEDをイメージする。そして、自分の指先でそれを軽く叩く。
「!」

 シンのSEEDは発動した。

「うぁぁぁぁぁっ、キラぁぁぁぁぁぁっ!!」
 ラケルタの“X”を描くような斬撃が、ケルビックフリーダムに向かって、踊るように繰り出される。
 ケルビックフリーダムは一撃目をビームシールドで受け止め、そして下がり、回避する。
 ケルビックフリーダムの胸が瞬いた。フルバースト。だが、シンはその射点を相対的上方に避けている。
 だが、そこへ、ケルビックフリーダムはラケルタを構えて斬りかかってきた。
 エンデューリングジャスティスの盾が受け止める。キラはもう一方の腕で二刀流の斬撃を試みるが、
シンもラケルタを振り上げた為、それをビームシールドで受け止めなければならなくなる。

 ギャン・カビナンターが、キラを助けようと近寄ってくる。しかし、ミーアのスタードラグーンに、次々と火達磨にされていく。
 あるいはそれを逃れた者も、ミーアのミストルティン・ビームサーベルで両断され、あるいはフルバーストで薙ぎ払われる。
 クレハも、SEEDを発動させている。
「近寄らせ、ない!」

 クレハが1対複数の戦いを強いられている間にも、エンデューリングジャスティスとケルビックフリーダムは、
激しい斬りあいを続けている。
『シン! 君は、本当に僕に復讐する為にあれだけの事をしたのか!?』
 踊るようなエンデューリングジャスティスの斬撃をビームシールドで凌ぎながら、キラはシンに向かって呼びかける。
『これが、君の戦い方なのか!?』
「はっ、それじゃ、本当に何も知らされていないんだな!」
『何!?』
大振りになったエンデューリングジャスティスの一瞬の隙をつき、ケルビックフリーダムの二刀流の斬撃が振り下ろされる。
 エンデューリングジャスティスはビームシールドを拡げ、それを凌ぐ。

「アスラン・ザラは死んだぞ!」

『えっ!?』

 キラの口調に、動揺が走る。
 ケルビックフリーダムはエンデューリングジャスティスを蹴飛ばすように振り払い、間合いを離した。
 だが、フルバーストの気配はない。

 そして、シンは叩きつけるように言った。

「アスランは衛星軌道ステーションにいた! アンタが殺したんだ!」