「はぁぁぁぁぁっ」
「うぁぁぁぁぁっ」
ファルシオンとラケルタが交錯する。一瞬、刀身ビームが干渉し乱れる。
お互いのシールドにぶつかり、粒子を弾けさせる。
「!」
アンビテンのビームキックが迫る。ジム・クロスウィズはバーニアを一気に吹かし、相対的上方にすり抜ける。
「この!」
ドンッ
ジム・クロスウィズのシールドに仕込まれた、105mm短銃身ビームガンが射撃される。
「そんなところにまでビーム砲を! ……っ!!」
アンビテンは紙一重の回避を続ける。ルナマリアが毒つきかけた瞬間、ビームガンの射撃の横を回りこむように、
セイバーエッジ・レーザーヒートブーメランが迫ってくる。
「させないわよっ」
急機動でブーメランを回避、そのまま一気に間合いを詰めて、ラケルタを振りかぶる。
「わわっ」
ビームアサルトライフルを構えかけたジム・クロスウィズだったが、コニールは慌ててラケルタをシールドで凌ぐ。
「コニール!」
叫び、インパルスIIを飛び出させかけたレイだったが、後方警戒モニターに複数のスラスターの輝点が見えたのに気付き、
歯噛みして反転する。
「くっ」
ギャン・カビナンターに、Δフリーダムの姿も見える。Δフリーダムは、本来は攻撃機として使う意図で、搭載されていたのだろう。
ドラグーンで、火力に優れるΔフリーダムを、接近する前に阻む。
グラディウス・レーザーヒートソードを抜き、ギャン・カビナンターに向かって構えた。
機動戦士ガンダムSEED
逆襲のシン ~ジオン公国の光芒~
PHASE-28
「旗艦をやられただけであの体たらくか」
ジオン艦隊第5戦隊司令、ヨシオ・オウ中佐は、のたのたと列方陣形を守るプラント軍艦隊を見て、呆れたようにつぶやいた。
「プラントの艦艇は我が軍に勝る高機動艦ばかりです。あれでは特性を殺しているような物だ」
この艦の艦長であるロベルト・アンダーソン中佐も、同意するように頷いた。
「よし、艦長。プラントの欠陥コーディどもに艦隊戦のなんたるかを教育してやる」
オウ中佐はスクリーン上のプラント艦隊を指して言う。
欠陥コーディ、とは過激だが、“プラントの”であり、コーディネィター全体を指しているわけではない。
敵軍を罵倒用語で呼ぶのは、アメリカ合衆国海兵隊以来、世界各国での伝統だ。
事実、ナチュラルのオウの言葉に対し、コーディネィターのアンダーソンは妙に楽しそうに笑いながら答える。
「つまり、当艦の名前の通りに、敵に強烈な打撃を与えると言うことですね?」
「そういうことだ。第5戦隊、全艦増速! 第1戦速!」
J・コイズミ型MS搭載巡洋艦4番艦、『ヘイハチロー・トーゴー』は、自身を先頭に、8隻の護衛艦を引き連れ、
まごつくプラント艦隊の相対的上方から突撃を敢行した。
ZAFT軍時代から、プラントの軍艦運用は稚拙なままだった。
戦場に数を送り込めない為、必然的に単艦でのゲリラ的戦術を取るしかない。
だが、それでは機動性の高いモビルアーマーの邀撃の格好の的である。
悪いことに、このモビルアーマーを封じる手段として、モビルスーツの開発、早期の実戦投入に成功してしまった。
その後、連合も、ブルーコスモス派とハルバートン派の対立などで、大戦力を持ちながら、その統率の取れた運用が出来なくなり、
ZAFTはまともな艦隊運用を知らぬままユニウス条約に行き着くことになる。
混乱していたプラント艦隊だが、ジオン第5戦隊の接近に気付くと、側方に展開していたナスカ型と駆逐艦3隻が、向きを変えて増速した。
「変針右25度、下15度。変針後に球陣形から錐陣形に!」
オウの声に、H・トーゴーが向きを変え、それに続くバーツ型護衛艦は、傘を広げるように、円錐形の陣形に一斉にならび変わった。
「目標、正対するナスカ型!」
そのナスカ型、『メンデルスゾーン』が、先に主砲を閃かせた。収束火線砲はH・トーゴーを掠める。
H・トーゴーは軽い回避運動を取るが、主砲の照準装置はメンデルスゾーンを追尾し続ける。
メンデルスゾーンのレールガンが命中したのか、1隻のバーツ型が、木っ端微塵になった。
だが、戦隊の勢いは止まらない。
「撃(て)────ッ!!」
アンダーソンの声と共に、H・トーゴーの4門の主砲が閃いた。
同時に、7隻のバーツ型が、艦首の長銃身リボルバーカノンを射撃する。
幾条ものイオンビームがメンデルスゾーンの装甲を貫き、一瞬にして吹き飛ばす。
「ミサイル射撃自由! 敵駆逐艦を近寄らせるな!」
16基の小規模ミサイルランチャーからM11『ファルクラム』対艦ミサイル、
2基の多目的ランチャーからM12『ベア』対艦ミサイルが発射される。
同時に、7隻の護衛艦からも『コロネード』対艦ミサイルが発射された。その数、133発。全て、アクティブホーミングだ。
ニュートロンジャマーの影響下だと思い込んでいたのか、プラントの駆逐艦は、それ以外のECMを活用せず、
回避運動とCIWSの機銃で対処しようとする。だが、事実上の飽和攻撃になす術はない。
3隻の駆逐艦は無数のミサイルに破壊され無力化されていく。大型のベア・ミサイルが命中した1隻は、木っ端微塵に吹っ飛んだ。
「砲戦目標、前方の改エターナル型!」
「照準出来次第射撃を許可!」
H・トーゴーの主砲が閃く。狙いをつけられたのは、ヴィクトリアス(改エターナル)型 『インプラカブル』。
元々、エターナル型の系列は、機動性は高いが、その大きさに比して火力に乏しく、防御力に至っては見るべきところもないと言って良い。
下方後部の3番砲塔も含めた、6条のイオンビーム砲が、インプラカブルの艦体を貫く。
即座に火が吹出し、炎に包まれた。長くはもたない。
「変針右55度、上60度。錐陣形から単陣形に、護衛艦は全速、当艦このまま。離脱!」
H・トーゴーが向きを変えると同時に、護衛艦はそれを追い抜き、一列になって最大速度で突き抜けていく。
「左方主砲戦、左62度、改エターナル型!」
アンダーソンが指示する。H・トーゴーの旋回主砲が左側に見える、『インファティカブル』を捉えた。
「射撃と同時に全速、撃────ッ!!」
6条のイオンビーム砲が、インファティカブルに向かう。インファティカブルは回避運動よりも、第5戦隊への攻撃を必死に行っていた。
それにより護衛艦2隻がさらに姿を消していたが、インファティカブル自身の回避運動も遅れた。
全門命中とはいかなかったが艦体に1発、フライトデッキの扉に1発、命中した。炎が吹き上がる。
炎に包まれながらも、インファティカブルは第5戦隊を追い続けてくる。
H・トーゴーは高圧パルスイオンスラスターを全開にして逃げるが、インファティカブルのほうが速い。
「やられるか?」
オウが口にした瞬間、インファティカブルはプラズマビームに貫かれて、今度こそ木っ端微塵になった。
「マリア! ミシェイル!」
M48慣性核融合ドライブ高圧プラズマ砲で、群がるプラント軍駆逐艦を薙ぎ払いながら、
マリアとミシェイルはジュンイチロー・コイズミ、ミツマサ・ヨナイをエスコートに、突き進んでくる。
「一斉変針、下60度。タンホイザー射撃用意!」
マリア艦橋。アビーが命令を下す。
ジオン艦隊第1戦隊は、一斉に下方へと向きを変えた。J・コイズミとM・ヨナイは主砲を激しく瞬かせる。
マリアとミシェイルの陽電子砲ハッチが開き、タンホイザーが姿を現す。
ミネルバの弱点という情報を知っているのか、開いたタンホイザーの側面に、防御火器の射撃が集中する。
だが、ジオン側もマリアへの改設計時に、そんな点を見逃しているはずがない。
露出したタンホイザーの周囲は、金色のアンチビーム防盾で守られていた。
「タンホイザー、撃────ッ!」
大気放射化を抑える為の外周粒子ビームに包まれ、陽電子ビームがプラント軍艦隊に向けて射撃される。
主力艦に命中する前に立ちはだかろうとしたナスカ型2隻は、一瞬にして蒸発した。
ソロネ(改アークエンジェル)型『オリフィエル』は、ミシェイルのタンホイザーに中央艦体を貫かれ、分解していく。
同『アナエル』は、マリアのタンホイザーに左前部MS格納庫をもぎ取られ、激しく火を噴出した。
「回頭! 敵戦艦を追撃!」
アークエンジェル艦橋。マリュー・ラミアス“准将”は、アークエンジェルを単艦、
プラント艦隊を襲撃して離脱にかかるジオン艦隊に向けさせた。
「マリュー! くそっ!」
ムウ・ラ・フラガ“大佐”は、コクピットで毒ついた。金色のモビルスーツ。
ZGMF-X01A 『アカツキ』。無論レプリカである。
本来のORB-01はオーブ本国にあるが、部品を既存のM1アストレイやムラサメに提供してしまい、今は動くことが出来ない。
核動力化し、泣き所の稼働時間の問題を解消したが、その結果、総重量は100t近くなり、運動性は悪化した。
ムウの個人の能力により、何とかそれをカバーしている。
だが、ジオン側が艦隊の直掩として貼り付けてきたのは、スナイパー仕様のジム・クロスウィズだった。
艦隊に近づく敵MSをつるべ撃ちにする意図だった。
レール狙撃砲には、全身のビームコーティング『ヤタノカガミ』も意味を成さない。
「くそったれ!」
ムウは、高推力化したバーニアを吹かして、ジム・クロスウィズを振り払い、アークエンジェルを追う。
「んっ!?」
一方のマリア艦橋。
「改アークエンジェル型、1隻追尾してきます」
マーシェ・イズミの報告に、アビーははっと顔を上げた。
おおよそ迷彩効果というものを無視したトリコロールカラーの、木馬のような艦。
それは『アークエンジェル』しかない。
「ミシェイルに指揮を引き継ぎます。本艦は回頭180度!」
スクリーンに映るアークエンジェルを睨みつけ、アビーはそう命令した。
「大元帥殿下、本艦はアークエンジェルを討ちます。よろしいですか?」
命令しておいてから、アビーは振り返って、指揮官席のアルテイシアを見た。
ミネルバと異なり、ナチュラルの指揮官を乗せることを考慮した指揮官席は、スツールから、バケットタイプのシートに変更されている。
「構いません。戦闘での指揮はあなた方に一任しています」
アルテイシアは咎めることもなく、口元で不敵に微笑み、そう言った。
「『本艦の任務はあくまでマリアのエスコートと確信する』ジュンイチロー・コイズミ、反転してきます!」
J・コイズミの主砲が、先に閃いた。
イオンビーム砲がラミネート装甲に当たり、アークエンジェルの艦体が瞬く。
「効いていない筈がない、イオンビームと粒子ビームは違う……っ」
J・コイズミの艦橋で、青みがかったストレートの髪を、男性にしてはやや長めに切りそろえた艦長は、細い目で睨みながら、言う。
イオンビームは液状の酸化重金属溶液に荷電して投射する。
密度が粒子ビームより高い分、貫通力は桁違いのはずだった。
「背後の艦に構わないで、ミネルバ級を狙ってっ!」
マリューは指示する。元連合の士官であり、ラクス・クラインに“認められた”ナチュラルの1人であったが、
もともとは技術士官で軍人としての指揮経験には乏しい。
ゴッドフリートが必死にマリアを狙う。だが、逸れていく。
一方、マリアのM48主砲もアークエンジェルを狙ってくるが、命中しない。
彼我の相対速度が速く、射撃諸元が一定しないのだ。
「タンホイザー射撃準備!」
マリア艦橋で、アビーが指示する。再びマリアの陽電子砲ハッチが開く。
「メインスラスター停止、惰性で前進!」
「えっ?」
アビーの指示に、艦橋のスタッフは、一瞬、誰もが驚いたような声を出した。
アルテイシアだけが、落ち着いた様子で微笑んでいる。
「タンホイザー発射後に、全速、────────!」
アビーのその指示は、さらに艦橋スタッフを驚かせたが、それとは関係ないかのように、実行に移されていく。
「撃────っ!」
マリアのタンホイザーが、再び閃いた。
その時!
金色のモビルスーツは、ほぼスラスターを全速にして、アークエンジェルの前面に躍り出た。
迫り来るタンホイザーのビームに向かって、シラヌイの機動砲塔を展開し、巨大なビームシールドを展開する。
陽電子さえ散らすビームシールドが、その奔流を圧しとどめる。
「やっぱ、俺って…………」
グシャッ
台詞の途中で、ムウの意識は途絶えた。────────永遠に。
陽電子の奔流の直後に、マリアの艦首が姿を現し、レプリカ・アカツキにぶつけて来た。
いかな高性能ワンオフ機といえど、自身の10倍に達しようという質量には勝てない。
「ムウーッ!!」
アークエンジェル艦橋で、マリューの悲痛な叫びが上がる。
レプリカ・アカツキは四肢を引きちぎられた状態で、半ば圧壊した胴体は、暴走した原子炉の爆発に飲まれて消えた。
「ローエングリン、射撃準備!」
復讐に燃えるマリューは怒声を飛ばす。今の機動で、マリアはアークエンジェルに下腹を晒す格好になっている。
大気圏内での運用を前提とした、ミネルバ型とアークエンジェル型には、共通の欠点がある。
下面にはほとんど火器がないということだ。
ここから体勢を入れ替えることなど、“あの”アーノルド・ノイマンにも無理だろう。
ムウの仇を────命令を叫ぼうとして、マリューははっと息を飲んだ。
ミネルバはメサイア戦役での戦没艦だ。故にその欠点を洗い出して、ジオンは建造に踏み切った。
マリアを建造する時点で、そんな欠点はとっくに承知済みだった。
ちょうど艦橋の真下に、40cm連装重金属イオンビーム副砲塔を増設していた。
それがアークエンジェルの艦橋に照準を合わせた。
ほとんどゼロ距離射撃、しかも、構造の細かい艦橋の装甲は、必ずしも充分ではない。
「ミネルバの、仇────ッ!!」
マリアの砲撃手(ガナー)は、確かにそう叫んだ。
次の瞬間、アークエンジェルの艦橋はイオンビームに貫かれ、その中で、高温の重金属溶液が暴れまわった。
指揮能力を失い、反撃のしようがないアークエンジェルを、マリアに続くJ・コイズミが、止めを刺していく。
「さよならです、ラミアス艦長。あなたはいい人だったが、一軍の指揮官としては最低でした」
ジュンイチロー・コイズミ艦長、アーノルド・ノイマン“ジオン公国軍”大尉は、
炎に包まれ行くアークエンジェルを敬礼で見送り、そう呟いた。
「思えば貴女が、その艦の指揮を採ったことが、我々の不幸の始まりだったのかもしれません」
「────嘘だ!」
キラは、叫ぶように言った。
『嘘じゃない。アスランはアンタに殺された!』
「嘘だ────ッ!」
ケルビックフリーダムのフルバースト。だが、エンデューリングジャスティスはそれをこともなげに避けた。
『嘘じゃないわ、キラ』
「!?」
通信に割り込みがかかる。通信用ディスプレィに、仮面の大公が姿をあらわした。
『アスラン・ザラは、衛星軌道ステーションにいた。
回収された記録では、プラント軍の襲撃に乗じて、こちらのMSを奪って脱走を図ろうとしたようね』
キラの脳裏に、その時のことが、確かに“思い出された”。
炎上する衛星軌道ステーション。蒸発するジオンのMS、警備艦隊。
『やめてよね、まだ抵抗しようって言うの?』
単機で飛び出してきたゲルググ・イェーガー。
それめがけて、
キラは確かに、
引き金を引いた…………
「嘘だ、嘘だっ!」
『私の言うことが信じられない? まぁ、無理もないわね』
ディスプレィの中の女大公は、その仮面をそっと外した。
「ぇ……ぁ……フレイ……フレイ!? ど、どうして……っ!?」
キラは驚愕し、言葉を失いかけた。
『あんな別れ方をしたんだものね、私達』
「ぁ……ぅ……ぁぁ……っ……ラクス……ラクス……っ」
キラはエターナルを呼び出した。
「ラクス! 僕は、アスランを殺したの? 僕は、どうすれば良いの?」
ディスプレィに出たラクスは、にこり、と、慈悲深い女神のような微笑を浮かべ、そして、答えた。
『全ては彼らの過ちなのです。キラ、貴方は貴方の信じるもののために、戦ったのです』
「僕の、信じるもの……?」
キラは呟く。
────僕は何を信じて戦ってきたんだろう?
ラクス?
アスラン?
いや、それとも他の誰か?
いや、そもそも僕は戦いたかったんだっけ?
その時、キラの脳裏に、1人の少女の顔が浮かんだ。
その少女は、あまりに自分に似すぎていた。
「ラクスぅぅぅぅぅっ」
キラは顔を上げた。
「そうやって、キミはいつも、僕を戦わせるんだね!」
────ケルビックフリーダムのフルバーストが、エターナルの艦橋に向かって撃ち込まれた。