月が透明な光を輝かせて波を照らす。
岬の駐車場に止めたフェラーリの中で二人はただ黙って夜の海を見つめていた。
二人だけでいるときのいつもするキスをしようとすると、彼女は黙って、そっとさえぎった。
なにかしっくりこない。
「マリー、どうしたんだい? いつもの君らしくない」
パトリックは優しい眼差しを向けながら問うたが、マリーはうつむいたまま、何も答えなかった。
パトリックは何もいわずエンジンを止める。
潮騒が窓を通して聞こえてくる。 母が子に奏でる子守唄のように。
冬の夜、深々と詰めたい空気が二人をつつみ込む。
「掛けなよ。寒いだろ?」
パトリックはマリ-にコートを掛ける。
「別れましょう」
「マリー……」
突然切り出したマリーに、パトリックは言葉を失った。
「何故なんだ。 僕を愛せなくなったのか!?」
パトリックは動揺の余り、キツイ口調になっていた。
「今でも愛しているわ。この身を焦がすほど。でも……あなたには、もっと素敵な人がいる。私は貴方にふさわしくないわ……だから、貴方にサヨナラを……でも、こんなにつらいことなんだって……私……」
そこまで声を振り絞るようにいうと、マリーはパトリックに抱きついて泣き崩れた。
「何も言わなくていいよ……君の気の済むまでこうやってしていればいい」
パトリックは、マリーを優しく抱き寄せた。
二人の悲しみを慈しむ様に月の透明な光が照らしていた。
「おい」
声をかけたのはおなじみ漫才の相方・デュオ=マクスウェルである。
「お前、南極で氷漬けになっているところを救出してもらって、少しはまともになったかと思ったら、また斜め上のことを……」
「いいじゃねえか。人が純愛小説を書いて悪いかよ」
「いや、悪くはないけどよ、ドテラはおって、コタツの中で昆布茶すすりながら純愛小説というのは、しかも御前さんが……ねぇ」
他のプリベンターの面々は、『コーラサワーが純愛小説を書いている』と聞いてドン引き状態である。
もう、向こうの世界での出番のチャンスが刻々と少なくなってきているのに、出番がないのでとうとう頭にきたかと。
サリィやヒルデは、ピーナッツチョコとあられと番茶をお供に、首を振りながら隣の部屋へ移動していった。
グラハムは、「似合わん。絶対に合わん。奴にに純愛小説など……」とうわごとのようにいっていた。
「おまえには言われたかねぇよ!!だったら、おれには何が合うっつーーんだ!!?」
コーラサワーが残りのメンバーに問い詰めると、
「貴方の存在そのものがギャグ」
「落ちのないコメディー」
「変態小説」
「なし」
「時空が狂う」
など、手ひどい言葉が返ってきた。
いつもなら、斜め上の行動をとるのがコーラサワーだが、何故かおとなしい。
黙って肩をすくめると、原稿をシュレッダーにかけ、コタツに戻って昆布茶をすすり始めた。
「不気味だ……こんなのコーラサワーじゃない……天変地異の前触れか……?」
プリベンターの面々は強烈な不安を感じた。
そして、翌日それは的中する。
野球ボールほどの雹が降り、自動車はぶっ壊れ、世界政府の建物や高層ビルに穴が開き、
公共交通機関はしっちゃかめっちゃかになって、
「もう大変なんですからアータ」
なんて初代林家○平師匠のギャグなんていっている暇がないほど政府は対応に追われた。
今日の教訓・『まったく似合わないことをすると、天変地異が起こる』