「……」
パトリック・コーラサワーは暇だった。
とにかくとことん暇だった。
そりゃそうである、怪我はほとんど治っているのに、未だに病院のベッドに縛りつけられているのだから。
「……」
ここ最近は例の「俺は! スペシャルで! 模擬戦で! 二千回で! 超エース!」を叫んでいない。
つい先頃までは看護婦であろうが医師であろうが病院の白壁であろうが、誰が相手でも吠えまくっていたのだが、どうやらいい加減根気が続かなくなってきた様子である。
なにしろ00のアニメ本編でもしょっぱなでフルボッコにされて以降は完全に放置プレイ中。
その間にユニオンの乙女座センチメンタリスト、人革の傷顔中年がガンダム相手にガンガン闘って、たった三話でキャラクターの立ち位置に百馬身ほどの差をつけられてしまった。
挙句、人革の怪しい銀髪が何やら次回からしゃしゃり出てきそうな気配で、もはやエースも出番もクソもなしな状態に陥っちゃっている。
とにかくあっちで活躍しない限り、こっちに反映させられない。
スペシャル模擬戦二千回~だけで引っ張るのもいい加減限界があるってもんである。
「ふう……」
ためいきなんぞついて虚空をぼうっと見つめるコーラサワー。
麗しの美少女が同じ行為をしたならさぞかし絵になることだろうが、軍人崩れの28歳独身男ではただただキモいとしか言いようがない。
「琥珀色の男の夢はどこにあるってんだろうなあ……」
どうやら針が一回転して脳みそにウジが湧き始めたもよう。
一種の燃えカス症候群とでもいえようか。
ツッパリを柳に風で流された時、どう行動してよいかわからなくなってしまうという、
イキがりだけで青春をすごしてきた連中に多くみられる症状に近いかもしれない。
「病室の壁は白いぜ……」
見たまんまである。
患者に与える影響を考えて、病院はたいてい白かもしくは暖かくて柔らかみのある色が使われているのが普通。
極彩色ギンギラギン、中年おばさんのファッションセンスも真っ青な病院があったら、いっそお目にかかりたい。
「そして、俺も白いぜ……」
これはやばい。
暇すぎて本当に灰になりかかっている。
「スペシャルで模擬戦で二千回、超エース……へへっ、へへへへへ」
だめだ。
これでは別の意味で退院できない。
できるわけない。
* * *
「……五飛、どうすんだよ。おかしくなりかけてるぞ」
ドアの隙間から病室を覗いているのは、ガンダムパイロットのデュオと五飛である。
ほったらかしではさすがにかわいそうだということで、見舞にやってきたのだ。
「あと数週間はこの病院に放り込んでおく。もう少したてば完全にネジがぬけて逆にまともになるかもしれない」
「お前、ムチャクチャだな」
「とにかく、あんな様子では俺たちと会ってもロクに会話もできまい。メロンだけでも病室に転がしておけ」
「いや、転がしておけったって」
「なんなら持って帰るか? 俺たちが食ったほうがはるかに有意義だぞ」
「そりゃひどすぎるだろ、いくらなんでも……」
【あとがき】
放送日じゃないけどまあいいや、とにかくコーラサワーの復活は遠い―