00-W_土曜日氏_104

Last-modified: 2009-05-27 (水) 17:57:24
 

 「この世には 理では追えない不死身の人間がいる
   彼は癒しとして 息を抜き 視聴者を和ませる
   彼は 少ない出番ながら 好きな人を守るため
   地獄の門を蹴り飛ばして帰ってきた 正義のヒーロー

 

   ……なのかもしれない」

 

 ♪こ~ら~

 

  この世は わからねぇことが たくさんある
  どんな事件起きても 気にしない人になろう イヤフー!
  それでも悩む奴 必ずいるもんだ
  笑って生きましょう それが強さなんだ
  いつでも一番 たくましいんだ
  お待たせしました 凄い俺
  いつでも一番 カッコイイんだ
  バリバリ最強 コーラサワー
  スペシャル!
  ホントいつでも不死身で幸せだ スペシャル!♪
 (原曲:バリバリ最強No.○

 
 

 ミエナイチカラで守られている、それがパトリック印のコーラサワー。

 

   ◆   ◆   ◆

 

「では次はミレイナの番だな」
「はいですぅ、とっておきのお話、披露しちゃうですぅ」
「そーいうの得意そうだな、オデコ娘三号」
「ふっふっふ、二十世紀から現在に至るまでに発刊されたラノベを全て読破しちゃったミレイナを舐めないで欲しいですぅ」
「……それって凄いんですか?」
「読書時間の計算と年齢が合わない気がするが」
「カトル、トロワ、下手に突っ込むと噛まれるからやめとけ」

 

 プリベンターは今日も平和だった。
 どれくらい平和かと言うと。

 

「怖くて夜中にトイレに行けなくなっても知らないですぅ」
「バーカ、このスペシャル様に限ってそんなことはない!」

 

 真昼間から怪談なんかしちゃうくらいに。
 いや、何でこの時期に怪談が始まっちゃったかって、特に偉そうな理由はない。
 デュオとヒルデが煎餅かじりながらテレビの情報トーク番組を見ていて、そこで取り上げられていた『総量1㌧のサ○ンパスが未開封のまま投棄されていた事件』の現場というのが、有名な心霊スポットだったから……というだけである。
 そこからまあ、何となくなし崩し的に怪談大会になっちゃった、と。
 まぁそこまで流れを拡大しちゃったのは、遊びに来たミレイナ・ヴァスティに負うところが大きいのだが。
 しかし出すと勝手に動いて話をややこしくしちゃうが、同時に無理矢理な展開も全てひっ被せることが出来るコイツは実に使い出がイイ。
 それだけに乱発するとシッチャカメッチャカになりそうなので怖いが。

 

「これは、数世紀前のとあるアニメ番組のお話ですぅ」
「おい、怪談じゃなかったのかよ」
「本題は先ですから、スペシャルさんは黙ってるですぅ」

 

 いいのかい、俺は何にだって一枚噛んじゃう男なんだぜ?
 とばかりに怪談大会にノッたのが、まず我らが英雄のパトリック・コーラサワーさん。
 これが小難しい学問関係のオハナシアイだったら、一番に蹴っていたであろうことは疑いの余地がない。
 そしてデュオ・マックスウェルとヒルデ・シュバイカーもスムーズに輪に加入。
 コーラサワー程に乗り気ではないが、だからと言って付き合いも決して悪くはない二人である。
 それだけにババを引く回数がダンチで多い(特にデュオ)わけだが。
 次にカトル・ラバーバ・ウィナー。
 これはまあ、調整人事みたいなもんである。
 ハンバーグの横の付け合わせの野菜みたいなもん、と言ったらカトルに失礼かもしれないが、そんな感じ。
 最後にトロワ・バートン。
 彼はサーカス団に居た経験からか、こういった類の話に案外通じている。
 しかも何気にこの男はツボを突く話術の持ち主なので侮れない。
 ヒイロ・ユイと張五飛は「バカらしい」と加わっていないが、五飛はやんちゃくれのコーラサワーがいる限り何時でも乱入してくるであろう。
 で、ブシドーエーカーさんはまたしてもビリー・カタギリのところに行っていて不在。
 最近一言も喋ってない気がするが、まぁ新MS(ミカンスーツ)が完成したアカツキには出ずっぱりになるだろうから溜めておこう。
 あ、アラスカ野ことジョシュア・エドワーズは場の流れが怪談に向いたところでトンズラこいて出て行きました。
 ヘタレです、超ヘタレ。
 おそらく怖い話にトラウマでもあるんでしょう。
 夏休みに田舎に泊まりに行ったら、婆ちゃんに連夜寝物語代わりに怪談聞かされたとか、そんなの。

 

「とある局でアニメが放送されたですが、それにはきちんと原作がついてたですぅ、マンガの」
「よくある話だな」
「そしてそのアニメの前に、ドラマCDが出ていて、キャストや脚本も高評価だったですぅ」
「ふーん」
「しかしですぅ! アニメ監督が『マンガはマンガ、アニメはアニメ、ドラマCDはドラマCD』とバッサリ斬っちゃって」
「はー」
「出来上がったアニメは声優一新! 脚本は一話はともかく二話から原作を大きく逸れて大脱線!」
「へー」
「監督の好き嫌いでキャラの出番が決まり、マンガでのヒロインは中盤から空気!」
「ほー」
「それどころか突然出しゃばってきたアニメオリジナルのキャラが主人公を食いまくる活躍!」
「ひー」
「原作で地位を確保していた美形ライバルは最終回前に退場!」
「ぬー」
「ラスボス瞬殺! 挙げ句、そのアニメオリジナルのキャラが突如裏切って真のラスボスに!」
「めー」
「どうですぅ!? 滅茶苦茶怖いですぅ! こんなのあり得ないですぅ!」

 

 ミレイナ、一揆騙り、じゃない一気語り。
 時々身振り手振りが入って大熱演。
 んが。

 

「……よくわからん、どこが怖いんだ?」

 

 皆にはさっぱり伝わってなかったり。
 途中で相槌打ってたのがコーラサワーだけだった、というのがこの場の空気を如実に表わしていると言えよう。

 

「実はまだ続きがあるですぅ」
「お、いよいよ本番か!?」
「これがですね、叩かれると思いきやウケたんですぅ」
「……は?」
「しかも続編まで決定してしまったですぅ! あり得んですぅ! 恐ろしいですぅ! 怖いですーぅ!」
「わからん! さーっぱりわからん!」

 

 このミレイナ、若干14歳ながら様々な資格を持ち、レディ・アンの秘書をソツなくこなす才子である。
 性格だってちょっと小五月蠅いのとですです口調が気になる程度。
 問題は趣味と言うか、ドが付くレベルのオタク娘なところにある。
 怖いとか恐ろしいとか、何かその認識がゴールデンウィークに無理矢理くっついている飛び石休日並みに外れているのだ。

 

「もちろん原作支持者は怒り有頂天だったですが、何分その時代には意見を戦わせる場が無くてですね」
「おい、数世紀前の話じゃなかったのかよ」

 
 

 オタクと知ったかは見てきたように過去を語る。
 語られたことに対して特に興味を持たない人間から嫌われる理由の一つである。
 諸兄も注意されたし。

 

   ◆   ◆   ◆

 

 さて、そんな感じにプリベンターがのほほんと過ごしている頃、プリベンターからちょいと離れたとあるビルの一室では、穏やかならぬ会話が交わされていた。
 まぁ先に言っておくと、《人類革新重工》の商品開発部、通称『開発超部』の部長室なのだが。

 

「……と、言うわけだ。呑み込めたかな、二人とも」
「はっ、骨の髄まで理解したであります」
「おおまかなところは……」

 

 で、部長室と言うからには当然部長のセルゲイ・スミルノフおじさんがいる。
 そして彼のデスクの前には、二人の若者が。
 若者っていう時点でわかると思うが、セルゲイの養女のソーマ・ピーリスさんと実息のアンドレイ・スミルノフである。

 

「しかし父さ……部長、俄かには信じられないのですが」
「ほう、どうしてだアンドレイ?」
「あそこはここ以上に大手でしょう、何故そんなコソ泥紛いのことを……?」

 

 ここまで、ソーマはセルゲイの話をうんうんと素直に聞いてきていたが、アンドレイは何度かこうして疑問という形で口を挟んでいる。
 上司の言ったことが信じられない……ということではない。
 優秀過ぎる父親を持った息子の、ある意味子供っぽい『抵抗』である。

 

「この業界、騙し合いや化かし合いは日常茶飯事ということだ、アンドレイ」
「ハーキュリー部長……」

 

 と、ここでセルゲイの代わりにアンドレイに言葉を返したのは、現在この部屋にいる四番目の人物、人類革新重工の営業第七部部長パング・ハーキュリーだった。

 

「うちだってやっている。時にはニセの情報を意図的に流すこともある」

 

 営業第七部とはどういうところかと言うと、ぶっちゃけ他企業の情報収集が主なお仕事。
 他社より優れたものを世に出すためには、自社の開発力を上げるのと同時に、他所がどういうことをしているかを調る必要がある。
 敵を知り己を知れば、というわけだ。
 また、露骨に妨害工作をすることはあまりないが、ハーキュリーが今言ったように、嘘情報で相手を惑わせたりすることはある。

 

「では、この件も向こうの嘘ということは?」
「その線も考えてある。君たちに依頼したのは、数ある手の一つだと思ってもらいたい」

 

 顎鬚を蓄えたハーキュリーは、セルゲイの頼れる同僚にして、心許せる親友でもある。
 二人で多くの難関に立ち向かい、それらを跳ね除けて業績を上げてきた。

 

「……アンドレイ」
「は、はい」
「あまり望ましい仕事ではない、といった感じだな?」
「いえ、父さ……部長、決してそんなことは」
「何、隠さなくてもいい。私とて似たようなものだ」
「……?」

 

 セルゲイは一つ、大きく息を吐いた。
 会社のために働き、この地位まで来た。
 そこに至るまで、気の進む仕事ばかりだったわけではない。
 だが、『揺り籠から墓場まで』を社訓とするこの人類革新重工が、世界に大きく益をもたらすと信じてきたからこそ、彼はここまで「戦って」きたのだ。
 そして今のところ、人類革新重工は、明るい未来を築く企業としての道を踏み外してはいない。

 

「だがアンドレイ、会社の利益のためだけに、この話があるわけではない」
「えっ?」
「あそこ……《アロウズ》には、いや正確に言うと『アロウズの一部』には、前からキナ臭い噂があるのだ」
「……」

 

 ソーマ・ピーリスはここまでほとんど言葉を発していない。
 セルゲイ、ハーキュリー、アンドレイに比べると、彼女が口にした言葉の量は全体を100とすると5もないであろう。
 もともと、大恩あるセルゲイのためなら何でもする覚悟がある彼女である。
 その恩人の親友の依頼とあれば、疑問や懸念なぞ挟むわけがない。
 盲目的と言ってしまえばそれまでだが、それだけセルゲイの存在が彼女にとって大きいのだ。
 だから、アンドレイの態度が「実の息子なのに何をグダグダと」と気に障ってしまうこともある。
 まあアンドレイの中の事情は、ソーマにとってはどうしても理解出来ないので仕方ないっちゃ仕方ないのだが。

 

「その辺りも話しておかないとフェアではないな。ハーキュリー、頼む」
「そうだな。では、何故アロウズ……アロウズの『一部』がプリベンターに目をつけたか、ということだが……」

 

 まだ腑に落ちない様子のアンドレイを横目で見ながら、ソーマ・ピーリスは確信した。
 これから自分が知ること、知っていくことは、間違いなくとんでもない事件に繋がっている、と。

 

   ◆   ◆   ◆

 

「よぉし、じゃあ俺の番だな!」
「正直期待してないぜ」
「バーカ、スペシャルホラーな話を聞かせてやる!」

 

 ずず、とお茶(今日はほうじ茶である)で喉を潤すと、コーラサワーは語り始めた。

 

「俺の軍人時代の話だが、同僚の日系パイロットが一人、官舎から突然失踪しちまってな」
「へぇ、何だか意外に本格的ですぅ」
「まあ黙って聞けオデコ娘三号。でな、消えたってのはすぐにわかったんだが、新聞がな」
「ああ、抜き取られずにポストにどんどん溜まっていったから、と?」
「バカ言えみつあみおさげ、軍隊だぞ、溜まるくらいになるまでほっておくかよ」
「じゃあ何だよ」
「いや、ある意味溜まったんだけどな」
「どっちなんだよ!」
「とにかくそいつが失踪したのはすぐにわかったんだが、新聞はいっぱいあったんだ」

 

 キョトンとするデュオたち。
 まぁ無理もあるまいが。

 

「さっきと矛盾してるだろうが、いっぱいってことは長期間いなかったってことだろ」
「違うんだよ、いなくなった、ってのは一日でわかったんだよ。前日に模擬戦でそいつをコテンパンにした俺が言うんだから間違いない」
「……どんな覚え方だ」
「だからよ、問題はその『いっぱいある新聞』なんだよ」
「さっぱりわからん」
「そいつのポストに刺さってた一日分の新聞、それはな」
「……あ、ま、まさか」
「『読○』『朝○』『毎○』『中○』『聖○』『赤○』『産○』、さらに『ニッ○ン』『報○』……」
「うわ、うわああ」
「『デイ○ー』『サン○ポ』『エル○ラ』……」
「うわああああああああ」
「『セン○ジヤァナル』『小○生新聞』『日本農○新聞』……」
「ひいいいいいいいいい」
「とにかく、専門紙・業界紙・機関紙・趣味紙とあらゆる一日分の新聞がだな!」
「ここここ、怖いですぅぅううううう!」
「知りたくないです、その人がどんな人だったか……」

 

 プリベンターは今日も平和だった。
 そして、もうちょっとだけこの平和が続く予定である。

 
 

 プリベンターとパトリック・コーラサワーの心の旅は定期購読―――

 

 

【あとがき】
 とりあえず最終話目標は映画公開日ということにしてそこまで頑張ってみますコンバンハ。
 ラノベ的物語のあれ……ねぇ、どうしようサヨウナラ。

 
 

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