♪君は聞こえる? 彼のその声が
尺に空しく削られた
もしも不死身が意味を持つのなら
少ない出番は無駄ではない
他キャラに押しのけられて諦めてたんだ
ラストシーンの逆転も知らないで
一話からの想いが今でも
この胸を確かにイヤフってるから
コーラとカティが映画に続く
彼らなりの未来を築いていく
答えはそう いつも彼にある♪
コラ色デイズ。
……って前にもやったっけか?
歌詞ネタは考えた端から忘れていくので困る。
まぁコーラサワーはとっくの昔に天も元も突破ということでイヤッフー。
「とうとう完成だ」
「とうとう完成か」
「ああ、とうとう完成なのだ!」
「よし、とうとう完成ってか!」
何だこのW○Eの下手なマイク合戦みたいなの、と思わないでいただきたい。
彼ら二人、つまりはパトリック・コーラサワーとグラハム・エーカーであるが、ちょっと興奮しすぎちゃってるだけなのだ。
何故かというと。
「ついに我らの新しいMS(ミカンスーツ)が!」
「おうよ、出来上がりってな!」
はい、そういうわけ。
◆ ◆ ◆
どの時代だって、世界を動かすのはまず経済である。
思想や宗教はガソリンには成り得ても、エンジンには決して成り得ない。
金、労働、そしてそこから生まれたモノ、これらのために社会は動き、また動かされるのだ。
「諸君、忙しいところをすまんな」
「いいえ、会長直々のお呼びとあらば」
「そうですとも、我ら、月の裏側からでも駆けつけましょう」
「アロウズの……ホーマー・カタギリ会長の下に」
OZが解体されて以降、限られた企業に利権が集中することはなくなった。
OZは所謂囲い込み式に『使える』企業や会社を勢力下に収め、その権力を増大させた。
第二のOZが誕生しないよう、また、経済競争が公正に行われるよう、現在の世界政府は細かい気配りを随所に行っている。
だがしかし。
「本来ならリョーテイでゆっくりと話し合いたいところなのだがな」
「急ぎの事態ですかな?」
「そういうことだ」
公平、平等、そういったものは富と力を持った者からすれば、邪魔にしかならないこともある。
100あるうちの50を手に入れ、残りの50を他所に分けてやるより、100をまるまる一人占めしたいと考える。
完全なる独占は長くは続かない、というのは過去の歴史が証明している。
それでも、おそらく人類が滅亡するまで、100を求める行為は続くだろう。
「早速本題に入らせてもらおう」
アロウズ。
現在の地球上において、トップクラスの巨大総合企業。
そして今、会長のホーマー・カタギリの元に、彼の子飼いとも言える人物が集っている。
欧州地区マネージャー、アーサー・グッドマン。
アロウズ・エレクトロニクス副社長、リー・ジェジャン。
アロウズ・セキュリティ・サービス警務部長、アーバ・リント。
いずれも、その手腕を持ってホーマー・カタギリに引き立てられた者たちである。
彼らのいる会議室は会長のホーマー専用のものであり、いかに役職が高い者でも滅多に入ることはない。
室内の調度品も質の高い物ばかりが揃っており、壁にかかっているのが絵画ではなく掛け軸という辺りに、ホーマーの趣味が伺える。
「つまり……“イノベイター”の?」
「そうだ。それも“ヴェーダ”絡みのな」
「それはそれは……」
銀髪、狐目の男―――リントは口の端を釣りあげて笑った。
アロウズ・セキュリティ・サービスは表向きは警備会社ではあるが、その裏ではアロウズに有利な工作を行っている、所謂隠し刀である。
そして彼はここ数年、その陣頭に立ってきた。
「とうとう動き出すということですな、あの若造どもが」
恰幅の良い体を揺らし、グッドマンも笑った。
彼は欧州地区にあるアロウズの関連会社全てを指揮、管理する立場にある。
権力的には、ホーマー配下の中で最大と言ってもよく、やや短気な面はあるものの、地位に見合うだけの実力を備えている。
「しかし、何故この時期に?」
ジェジャンはリントやグッドマンと違い、先程から全くニコリともしていない。
性格的なものなのだろうが、それだけに静かな威圧感を醸し出している。
アロウズ・エレクトロニクスの副社長として、競争激しい電気製品部門を引っ張っている。
「さて、それはわからん」
「まったく、歌と踊りだけに集中していてもらいたいものですな、あやつらには」
「そうは言いましても、彼らあっての我らゆえ」
「何、今のうちですよ」
リントの言葉に、ホーマーをはじめ、グッドマン、ジェジャンも頷いた。
彼らには彼らの目的、そしてイノベイターにはイノベイターの目的がある。
今は彼らの上位にイノベイターがいるが、全ての事が終った時、それが逆転していればいい。
「さて、仔細を説明したいのだが」
「会長、真に申し訳ありませんが、その前にご報告したいことがございまして」
「ふむ、私の言を遮る程の内容なのかね? リント警務部長」
「少なくとも、今回の件には絡んでいると断言は出来ます」
「うむ……よかろう、先に君の話を始めたまえ」
「ありがとうございます。……私だ、彼を入れてくれたまえ」
リントはホーマーに頭を下げると、インターホンで会議室の外に控えさせていた部下を呼んだ。
本来なら彼とホーマーとの間には大河の如き地位の差があり、さらに上司より先に話を進めるのも本来なら失礼の極みなのだが、あまりそれを気にしている様子は彼にはない。
ホーマーの度量の広さを理解しての行為であるものの、こういう部分が『自己顕示欲が強い』と同僚たちに思われ、嫌われる一因にもなっている。
「失礼いたします、バラック・ジニンであります」
リントに呼ばれて入ってきたのは、長身でがっしりとした体格の男だった。
セキュリティ・サービスの制服越しに分厚い筋肉がわかり、いかにも荒事に慣れているといった感じである。
「彼は私の部下で、実に優秀な“成績”を残しております」
「ほう、ブジュツに長けているのかね?」
「ジュードーやカラテ、その他諸々のマスター・クラスです」
「頼もしいな」
ホーマーの視線を受け、ジニンは背筋を改めて伸ばした。
彼の立場なら、まず会うことのない、会えるはずのない人間が、目の前にいる。
「緊張しているようだぞリント、お前の部下は」
「彼は武骨者でしてね……ではジニン隊長、例のデータを出したまえ」
「……はっ」
ジニンは胸のポケットから極薄型のデータ・カードを取り出した。
世間一般には流通していない、アロウズだけの、しかも限られた人間だけが使える特別な記録媒体だ。
それを壁のモニターに直結している差し込み口に差し、キーボードからコードを入力してデータを表示させる。
「実は、極東の某所でとある事件があったことを、嗅ぎつけましてね……」
リントの声が、薄暗い会議室に響く。
彼の指示通りにキーボードを操作しつつ、ジニンは思った。
アロウズのために、家族のために彼は働いてきた。
今、自分は何か大きな“裏の動き”に関わり始めている。
願わくば、この行いがアロウズと世界に正しき結果をもたらすように、と。
よしんば咎を受けるとて、自らのみに留め、愛する彼の妻に、生まれてくる我が子に余波が及んでくれぬように、と。
◆ ◆ ◆
「……では、男らしくジャンケンで勝負をつけようではないか」
「ジャンケンだあ? そんなの実力もクソもないだろ、完全に運任せだろうが」
「天運を味方につけてこそ! そうは思わんのか?」
「いいのか? 俺には女神がついてるんだぞ、強運さでも負けねーぞ!」
ええと、彼ら二人が何をしているかというと、ビリー・カタギリがようやっと完成させたMS(ミカンスーツ)の試運転をどちらが最初に行うか、を決めようとしている次第。
アホか、同時に一緒に乗ったらいーじゃん、と普通は思うだろう。
が、仮にもどちらも軍でエースを張った男、そこは譲れないこだわりがあるらしい。
「では将棋だ、将棋で決めようではないか!」
「ショーギ? ルール知らねーぞ俺は」
「ならばよし! さあ勝負!」
「待てよ、何がよしなんだよ!」
さっきからずっとこんな調子でずっとやりあっている。
あまりのアホらしさに呆れたのか、デュオやカトルも突っ込みを放棄して、隣の部屋に出て行ってしまった。
今頃はヒルデが作ったホットケーキで皆と一緒にお茶を楽しんでいることであろう。
ガンダムパイロットにとっても新型が出来たことは嬉しいが、誰が一番最初に乗るかなんてことは正味のところーでもいいレベルの話。
それよりも、どれだけ自分に合った機体か、という方が重要なのだ。
「では剣玉ではどうだ!」
「なあナルハム野郎、お前はガキの遊び事でしか勝負を決められないのかよ?」
「笑止! 子供の遊び事と見る方が愚か者だぞ、自称エース!」
「自称じゃない! 模擬戦2000回無敗、リアルにスペシャルなエースだ!」
「ならば見事受けてみせるがいい! 如何なる勝負でも!」
「って、ショーギとかケンダマとかはないだろ普通!」
「ならば、センゴクブショーの名前を出し合って、多く言えた方が勝ちというのはどうだ!」
「マジでお前、有利な土俵に持っていこうとしやがるのな。なら落とした女の数で勝負ってのはどうだ!」
三十過ぎた大人がやるこっちゃないと思うが、まぁこれも彼ららしいと言えば彼ららしいかと。
性格はばっちり合わないし、かけあいも合っているのか合ってないのかわからない二人だが、これでも世界の隠密同心プリベンターのメンバーです。
何と言うか、同じステージでもやっている演目が違うと言うか、同じ氏家でも卜全とト全の違いと言うか。
まあそんな感じでやってます、二人とも。
「都道府県の県花と県鳥の言い比べというのはどうか!」
「あー、昔居たなあ、世界の山や川のデータを全部覚えている奴とか。あれって正直、何かの役に立つか?」
プリベンターは平和です。
あともう少しだけ。
プリベンターとパトリック・コーラサワーの心の旅は続く―――
【あとがき】
コンバンハ。
アロウズはまあパト○イバーのシャ○トのようなものだと思ってもらえればサヨウナラ。