「ひゃっ、ほぉぉぉう! 最高だぜぇぇぇ!」
「ホント、うるさい奴だな」
「馬鹿は死ななきゃ治らない、の典型的見本だ」
「あそこまでハイテンションを貫ける人ってなかなかいないですよね」
「そうそういてたまるか」
「アイツ一人で十分すぎる、二人もいられちゃ迷惑この上ない」
「……雑談もいいけど、ちゃっちゃと仕事してよねみんな。ああ、この台詞今後のパターンになりそうだわ」
世界の番犬、ドサ周りの隠密同心プリベンターは今日も仕事である。
有事が起こる前に火急速やかにその芽を摘むのが具体的な内容なのだが、マリーメイアの乱以後平和を手に入れたこの世界、そうそう簡単に揉め事が発生するわけもなく。
各地に残った軍事施設の解体、戦闘用MSの廃棄、武器類の処理が今現在の彼らの主な労働となっている。
やっていることはぶっちゃけた話他人の尻ぬぐいであり、どれだけ活動に意義があるとはいえ、気持ちが萎え気味になるのは仕方がない。
とはいえ、世界経済復興とコロニー間の融和に統合政府が全力を注いでいる今、そちら方面に割ける力は実際彼らしかないのもまた事実ではある。
「スペシャルで! 模擬戦二千回無敗で! 超エェェェス! パァァトリック・コォォォラサワァァアだぜぇぇぇい!」
来る日も来る日も裏方作業、そろそろ飽食気味のプリベンターの中で、ノリノリではっちゃけまくりな奴がひとりだけ。
言わずと知れた元AEUの自称エース、パトリック・コーラサワーさん28歳その人である。
模擬戦の経験だけは異常に豊富な彼だが、モラリアの一件でもわかるように、土壇場における危機回避能力はガンダムパイロットをすら上回る。
MSを細切れにされようが、絶望ビームに狙い撃ちされようが、ガンダニュウム合金の壁にぶちあたろうが、エリアいっぱいのミサイルに追われようが、とにかく生きて戻ってくる。
彼的には『死ななけりゃ負けじゃない』わけで、ある意味最強のMSパイロットと言えるかもしれない。
イヤな過去を振り返らないその性格と、無限に湧いてくる自己礼賛のパワー。
ポジティブで不屈と言えば聞こえはいいが、単に【反省】という言葉が辞書から抜け落ちているだけの可能性もあったりなかったり。
「おらああああ! てめぇら、爆薬をしかけたぜ! これでもう安心だ!」
「ダイナマイトを埋めただけでなんであんなに威張れるんだ」
今日のプリベンターは、変わらず軍事施設の解体にあたっている。
モラリアから少し北に離れたところで、小規模だがOZが使っていた基地がそのまま残っていたのだ。
「よっしゃ、さぁスイッチを押せ!」
「アホ、今押したらお前もふっとぶだろーが!」
「大丈夫だ、先日のことを思えばあいつが爆発くらいで死ぬわけない」
「……死んでも次の週には何事もなく復活してそうだな」
「サ○スパ○クのケニーじゃないんですよ」
「大変だ、コーラサワーが落とされちゃった! この人でなしー! ってか?」
ああ、笑いごとではない。
もしかすると本当にそういった扱いになる可能性が十分ある。
出オチ退場を繰り返し、やられてもやられても次の回には高笑いとともに画面の中でおおはしゃぎ。
とかくネクラな奴が揃っているダブルオーにおいて、彼は一服の清涼剤(ギャグ要員ともいう)か。
乙女座センチメンタルとは違った意味で物語に異彩を放ち続けることになりかねない。
「何やってんだ! 早くスイッチ押せってんだろーが!」
「だからこっちに戻ってこいっての! そこにいると爆破に巻き込まれるって言ってんじゃねーか!」
「やってやれ、あいつがいいと言っている」
「よし俺に起爆スイッチをよこせ、ここで一刀両断にして後の禍根を絶ってやる」
「わっ、駄目ですよ五飛! ホントにやっちゃ!」
「あなたたち、ふざけあうのもいい加減になさい!」
プリベンターとパトリック・コーラサワーの心の旅(?)は続く――
【あとがき】
彼に個人専用機が割り当てられる日はくるのでしょうかコンバンワ、それ以前に次回は出番があるのでしょうかサヨウナラ。