「おい、何かよこせ」
「また唐突に何を言い出すんだコイツは」
世の中平和である。
いや、ソレスタルホテル占拠やら何やら細かい事件は色々と発生してはいるのだが、正直世界を揺るがす大事はまったくと言っていいほどに起こっていない。
平穏一番言うことなしなのだが、それだとせっかくの攻性防犯組織プリベンターがお飾りになってしまう。
まあ攻性と言っても、せいぜい隠密同心というか天下のドブさらいだが。
「とにかく俺に何かくれ」
「いい歳して何いってんだこのオッサン」
「28歳の大人が十代半ばの少年を恐喝ですか」
「国の親が知ったら泣くだろうな」
コーラサワーのいきなりのクレクレ発言に、容赦なく突っ込むガンダムパイロットたち。
こういったやり取りはそろそろプリベンターの定番と化しつつある。
「だいたい何で急にそんなことを言い出すんだよ」
「ん? 決まってるだろうが! もうすぐ俺の誕生日だからだ! 一月一日!」
デュオの質問に胸を張って答えるコーラサワーさん28歳。
誕生日がいつかなんてガンダムパイロットたちは全く知らないのだから、決まってるも何もないのだが、まぁそこはそれ、コーラサワーだからということで。
「じゃあ29歳になるのか」
「三十路一歩手前だな」
「男も女もいい加減焦ってくる年頃ですよね」
「しかし数日前に誕生日プレゼントをねだる二十代後半が何処にいる?」
「ここにいるぞ、このバカだ」
「歳はとっても中身がガキなんだな、小学生と変わらないメンタリティだ」
「だいたい29歳にもなろうとする男が年下相手にプレゼント要求だなんて、恥ずかしすぎますよ」
「やだやだ、こんな大人にだけはなりたくないね」
「でも一月一日生まれか、ある意味かわいそうだな。誕生日プレゼントとお年玉を一緒に済まされてしまう」
「ああ、過去にそういった経験があるから歪んだんだな、コイツ」
「お前ら、好き勝手言ってんじゃねーっ!」
エクシアにフルボッコ、ヴァーチェにフルボッコされたコーラサワーだが、ここでもガンダムパイロットたちに言葉でフルボッコ。
ガンダムパイロットたちの温かい心が伝わってくる、何とも泣けるシーンである。
「そもそもな、お前はとんでもない勘違いを犯しているぞ」
「か、勘違いだと?」
五飛にビシリと指を差されて、コーラサワーはやや狼狽する。
ここで「ああん? 何言ってやがる!」と開き直れないあたりが、彼が一流になれない証でもある。
何の一流かはあえて言わないが。
「あっちの世界で一月一日を迎えない限り、お前にずっと誕生日は来ない」
「なんだとぉ!?」
思わず仰け反るコーラサワー。
おもいっきし図星を突かれた格好である。
「向こうで進展がない限りは、こっちでのお前の役目はずっと同じだ。完全ギャグ要員だ」
「進展があってもギャグ要員のままの可能性があるけどな」
「ぬ、ぬ、ぬぐぐぐぐぐ。お、俺がギャグ要員だと!?」
責め手を休めないガンダムパイロットたちだが、『もうやめてコーラサワーの精神ポイントはゼロよ!』と止めに入るような人間は残念ながらプリベンターにはいない。
レディ・アンはほぼ終日政府議事堂の専用室で執務に当たっていて本部の出来事には直接関わらないし、サリィやヒルデがコーラサワーの味方をするはずもない。
グラハムに至っては、多分我関せずで無視するかそれとも、ガンダムパイロットたちの尻馬に乗って彼風の言葉でいたぶるかのどちらかであろう(まあ今は先日の件で入院中だが)。
「こ、この模擬戦二千回無敗でスペシャルエースな俺がギャグ……!?」
「気づいてないようだからついでに言っておく。その台詞も完全にギャグだ。ギャグ以外のナニモノでもない」
「な、なんだとぅぅぅぅぅぅぅ!」
コーラサワー、仰け反りすぎてマトリックス状態。
まあ、モーフィアスが見てても絶対にコーラサワーをメシアだとは思わないだろうが。
「そのセリフは、いやお前そのものが、言わば池○めだかだ」
「い、池乃め○か!?」
「そうだ。『今日はこれくらいにしといたるわ』や『保安官のロバートです』や『名付けてカニバサミ』と同じだ」
五飛は無表情のまま、容赦なくコーラサワーに言葉の鞭を叩きつけていく。
こういったことをやらせると、ガンダムパイロットの中では最も彼が似合う。
言葉の鋭さという点ではヒイロと双肩だろうが、語彙が豊富な分、容赦の無さが半端ではない。
「今日はこれくらいにしといたるわ、ってまんまコイツのことじゃねーか」
「下手をするとこれからずっとそんな感じですね」
「いやちょっと違うな。○乃めだかは看板だが、コイツは看板じゃない」
「ぬ、ううううううううう」
屈辱と怒りで顔面真赤になるコーラサワーさんだが、まったく迫力がないのがなんとも。
むしろギャグ風味が増してしまうあたり、やはりそちらが専門なんじゃないかと思えたりなんかしたり。
「う、う、うるせーうるせーうるせー!」
日本刀持ったロリボイス少女が言ったならオタクの一人や二人もひっかけられそうなセリフだが、28歳のオッサンでは単なる逆ギレにしか見えない。
「お前らバカにしやがって、俺を何だと思ってやがる!」
「バカ」
「バカ」
「バカ」
「バカ」
「バカ」
間髪入れず異口同音に答えるガンダムパイロット。
見事である。
* * *
「……よし、わかった」
一斉にバカと指摘されて、ついにコーラサワーの針が吹っ飛んだ。
もとから吹っ飛んでんじゃねーか、という一部の噂もあるが、それはこの際関係ない。
「なら、俺がどれだけ凄いかお前らに見せてやる」
「またロケットマンかダイブじゃないだろうな」
ここのところロケットネタとダイブネタが続いているので、デュオが釘を刺す。
だが甘い、我らがコーラサワーさんは尋常ではない。
その程度でネタが切れるとおもったら大間違いなのである。
ネタってやっぱりギャグ要員やんけ、と思った人は皆パーソナルジェットを背負って軌道エレベーターからダイブすること。
そ の 通 り だ か ら。
「いいか、俺は今から走る!」
「走る?どこへ?ホノルルマラソンか?」
「違う!俺が走るのは、アレだ!」
バン、とコーラサワーが指を差した方向。
そこには、窓の外で今まさにビルの間に沈まんとしている赤い夕陽があった。
「あの太陽が地平線に沈みきる前に、走って太陽に追いついてみせる!」
「……は?」
「いいかてめえら、あとで吠え面かくんじゃねーぞ! あと、太陽に追いついた証拠に携帯で写メ撮ってきてやる! 見てやがれ!」
コーラサワー、宣言するなり上半身裸になって猛ダッシュで部屋の外へ。
Bボタンダッシュのマ○オも追いつかない程の速度である。
「おらあ太陽! 待ってやがれ! 今からスペシャルな俺様がそっちへ行くからなーぁーっ!」
ガンダムパイロットは黙してコーラサワーを見送った。
太陽に追いつくと言いきったコーラサワーに感心していた、わけでは当然ない。
「……あいつ、本気か」
「小学校に戻って理科を学び直せと言いたいな、心の底から」
ガンダムパイロットは全員、首を振って溜息をついた。
そして思った。
バカの相手をするのは本当に疲れる、と。
数日後、一月一日。
太平洋のど真ん中で一人の漂流者が貨物船に拾い上げられることになるのだが、それはまた別の話。
プリベンターとパトリック・コーラサワーの心の旅は来年も続く――
【あとがき】
今年最後のコンバンハ。
では良いお年と良いコーラサワーをサヨウナラ。