「というわけで、今後俺は28~33歳の年齢不詳のスペシャルということで」
「何がというわけで、だ」
「28~33歳って範囲限定しているなら年齢不詳とは言いませんよね」
「精神年齢が不詳なんだろう」
「それは間違いなく低いはずだ」
「いくつでもかまわん。どうせ中身は変わってない」
今日も今日とてプリベンター、仕事がなくてお暇かな。
レディ・アンとサリィ・ポォは特別な仕事で出張中ではあるものの、巨大カツオノエボシ事件以降、現場組が動かなければならないような出来事はない。
「とにかく、俺はスペシャルだ。28~33歳のな」
さて、急に素っ頓狂なことを言い出した我らがパトリック・コーラサワーさんだが、彼には彼なりの事情があってこのような発言をしているのである。
その事情とは何なのか、これはもう改めて説明の必要もないだろうが、明日から始まる00の二期の設定が四年後だから。
刹那や沙慈はいい具合に成長しているようだが、さてさてコーラさんはと言えばまったく情報が無い。
どうやら愛しのカティ・マネキン大佐をはじめ、ソーマ・ピーリスなどがアロウズに行くことになるようで、連邦正規軍にセルゲイおじさんと二人取り残された状況……というのが現状CMなどから推測出来るところであろうか。
まぁセルゲイおじさんは息子とソーマ絡みでどう動くかわからんので、下手するとコーラさん、置いてきぼりとか言ってる場合じゃなくて本当に一人ぼっちのぼっちぼち~になってしまうかもしれないが、これをおいしいと見るべきか、それとも一期に比べてさらに出番が減ってしまうと悲観すべきかは判断の難しいところであろうか。
まぁここを見ている方々は前者でしょうな、おそらくは。
ええ、カレーも二日目がおいしいんですよ。
何か違う気もするけど。
* * *
「というわけで、私も仮面で陣羽織だ」
「わ! 何だ!?」
さてここで問題です、この仮面と陣羽織の人物は誰でしょう。
一秒でお答え下さい。
「エーカーさんじゃないですか、何をしているんです?」
はい、カトル正解。
クセのあるブロンド、やたら特徴のある喋り方、そしてとことんマイペースな態度、ここまで正体バレバレの要素が揃っていたら疑うもクソもあったものではない。
「この格好をしている時は私は『ミスター・ブシドー』だ、そう呼んでほしい」
「それ、俺達にとって何てバツゲーム?」
「もういっそ剣道スタイルで出てきたらいいのにな」
「それだと完璧超人の某ブドーになってしまうが」
生き別れの兄弟とかクローンとか、はたまた記憶喪失した本人だとか、本編でどう転がっていくかは監督と脚本家のお手並み拝見だが、とりあえずこちらの世界のこの物語ではブシドー=グラハムということでよろしく。
「何でそんな格好しているんだ」
「趣味だ。モノは骨董店に行って購入した、結構な値段だった」
「普通に通販で売ってると思うけどな、パーティグッズとして」
今日はコーラサワーに対してもグラハムに対しても、いつも以上に突っ込むガンダムパイロットたち。
普段ならデュオ一人がその役割を担っているのだが、今日は雰囲気が違うと悟ったか、五人揃ってツッコミに回っている。
* * *
「やあやあ、急に訪問してすまない。失礼する」
「……誰かと思ったら人類革新重工の」
「うむ、セルゲイ・スミルノフだ。久しいなプリベンターの諸君」
深みのある声、スカーフェイス、そして岩の如き重厚なイメージ。
00に限らず登場キャラクターの年齢が若年に偏ってしまうガンダムシリーズにおいて、彼程の「シブいオヤジ」は稀であろう。
「そして隣は……」
「バケラッタ、いや失礼、ソーマ・ピーリスであります。まだマリーではありません」
「え?」
「再度失礼、こちらの都合で」
セルゲイの背後からひょいと出てきたのは、彼の秘書を務めているバケラッタ娘ことソーマ・ピーリス嬢。
長い銀髪と白い肌がやけに眩しい彼女であるが、身体に流れる血潮は溶岩の如く熱い。
「……おい、銀髪娘」
「何だ、何か用か」
で、コーラサワーと彼女はどうにも相性が悪い。
コーラサワーが苦手にしている、と言ってもよい。
多くの女性と浮名を流したと言われるコーラサワーだが、やはり根っこの部分で合わない異性もいるのである。
「お前、何か姿が変わってないか」
「成長期だからな」
「最後に会ったのはそんなに前じゃねーと思うんだが……妙に大人びたな」
「気にするな、今の私は18~23歳だ、そういうことだ」
「……あー、んー? そうか俺と条件が同じだから……えー、あれ?」
悩むなコーラサワー、それが前期と後期に分かれたアニメの宿命だということを今しがた自分の口からノベンタ元帥、もとい述べたではないか。
前期のキャラで通すか、それとも後期のキャラで通すか。
気にせずやれよやればわかるさアリガトー! で押し通すことが出来ればそれでいいのだが、何より恐ろしいことに全ての物語には“後付け”というものがあったりするわけで。
こういうのは最初から考えられていた設定であっても、それを公にする時期次第では読者や視聴者に混乱を催させるシロモノなのでタチが悪い。
例えばグラハム・エーカーは孤児であった、とか。
「うむ、ならば私も27~32歳ということでひとつ頼む」
「エーカーさん、一応貴方は年齢不詳にしておいたほうがいいんじゃないですか?」
まあ最強の兄貴を倒したラ、オウっと次に待ってたのは生まれ故郷の修羅の国ですがどうですカイオウとか、
鞭と鳥しか攻撃手段が無いと思ってたら実はヘルズ・マジックの使い手だったんディーノ、とか、本当は兄にアタル人がいたんですが両親の教育方針に反発して家を飛び出していたんでスグル、とかに比べるとマシかもしれないが。
全く、現在絶賛進行中の物語に対してギャグでも何でも迂闊なSSは書けない世の中であることよ。
下手すりゃ万分の一でブシドーがグラハムでない可能性だって……いや、それはないか。
* * *
「はははっはは」
「うわ、今度は何だよ」
「ふはははは、何を隠そう」
「尻隠そう」
「違う! アラスカの狂鮭(きょうけい)ことジョシュア・エドワーズだ!」
急にボールが来たので、などとFWにあるまじき発言をしたサッカー選手がいたが、さてアラスカ野ことジョシュア君はどうだろうか。
急に命令違反したので→急にグラスペしたので→急にビームピストル突きつけられて撃たれたので、の三段コンボは多分だがQBKの二枚は上手であろう。
それが自慢になるかどうかはさておき。
「この俺は若々しいままだ! 歳取ってない! 二十代!」
「そりゃ一期の半ばで退場したからな」
「ふん、永遠の若さを手に入れたということだ。うらやましいだろう!」
「全然。もう出番がないってことだしよ」
「ふんが!」
コーラサワーとデュオがプリベンターにおけるボケとツッコミ漫才のトップランナーなら、コーラサワーとジョシュアは二番手ということになるだろうか。
ただ、この場合はコーラサワーがツッコミになりジョシュアがボケになる。
もっとも、コーラサワーのツッコミはドツキ漫才のそれであるが。
なお、先程の「尻隠そう」はデュオの言葉であるのであしからず。
タイミングドンピシャで合いの手を放り込む技術を持っているのは、プリベンターでは彼しかいない。
* * *
「やあやあ、こんにちは。ミカンエンジンMkⅡの開発が終了してね、ぜひ使って欲しいなあ」
「また来た」
「千客万来ですね」
ぷ○ぷよの連鎖のように連なってやってくる客人たち(グラハ……ブシドーとジョシュアはプリベンターのメンバーだが)。
プリベンター本部は政府議事堂の中にあるのだが、世界を裏から守る組織の本部にこうもホイホイ客人を通していいのかどうか。
仮にも世界の中枢であるのだから、チェックは厳しく行って欲しいものである。
ま、宅急便すら通してしまう警備員には何を言っても馬事公苑、もとい馬耳東風かもしれないが。
「おう、ポニテ博士じゃないか」
「お久しぶりだね、おや? グラハムの姿が見えないけど、今日は休みなのかい?」
「え?」
ポニテ博士ことビリー・カタギリ。
ミカンエンジンの発明者で、科学全般に通じた天才である。
で、その天才さん、仮面の男の目の前で親友の姿探して左右をキョロキョロ。
「いや、いるんだけど」
「え? えーと君はデュオ君だったっけ、どこにグラハムはいるんだい?」
「目の前に」
「んー?」
ビリー・カタギリ、眼鏡を一度取ってハンカチで拭き、かけなおして目パチ目パチ。
今時どこのマンガでもせんような行為を堂々とやってのけるこの男、やはり只者ではない。
「いないじゃないか」
「えええええええええ」
ひっくり返った。
仮面の男、ミスター・ブシドーを残して全員ひっくり返った。
ま、そりゃそうである。
どこの世界にブシドー=グラハムを見抜けぬ奴がいるというのか。
「おい、カタギリ」
「えっ?」
「君がそれ程までに薄情な男だとは思わなかったぞ」
「えええっ?」
「私だ、グラハム・エーカーだ」
「……」
カタギリ、再度眼鏡を拭き、目パチ目パチ。
「あ、あああああ」
「あああああ、じゃないぞカタギリ!」
「凄い、びっくりしたよ」
「む、そうか? まあ気付いてくれたならそれでいい」
「君、凄くグラハムに似てるね、声まで」
「はあ!?」
「仮面を取ってみてくれないかなあ、もしかしたら顔の方も似てるかも」
「だから本人だと言っとろうがカタギリィィィィィ!」
いた、更なる漫才コンビが。
しかも強烈な。
グラハム・エーカーとビリー・カタギリならどうしたってカタギリがツッコミなのに、
何故ブシドーとカタギリになったらブシドーがツッコミになるのか。
ダブルボケ漫才の次は「仮面をつけたら攻守交代漫才」の時代が来るかもしれない。
* * *
「マイスター運送だ、主はいるか」
「またまた来た、今度は宅配便かよ!」
呆れ顔になるデュオだが、まあ我慢して欲しい。
一期から二期への四年経過という公式設定を木に竹を接いででもこっちの世界に反映せにゃならんのだ。
「刹那・F・セイエイ、ガンダムだ」
「アレルヤ・ハプティズムです。お届けものです」
「ティエリア・アーデだ、失礼する」
「わあ、ぞろぞろですね」
カトル、何気に口が悪い。
「何かこいつらも前回会った時に比べて変わったな」
「気にするな、俺はガンダムだ」
「刹那、お客さんに対して失礼だよ」
「……」
「ん、何か?」
「えーと、アレルヤさんだっけ、あんたはずっとその丁寧な物腰で?」
「さあ、それは出番が来てからでないと何とも」
「……はあ」
頬を掻くデュオ。
ま、そういうことでよろしく。
さすがに限界があらあな、実際二期を視聴してみんことには。
しかしブシドーがグラハムじゃなかったらどうし……いや、ないかやっぱり。
「おい五飛、サリィが出張の今、お前が代理で判子を押せよ」
「うむ、わかった」
デュオに促され、五飛は一度奥の部屋(サリィの執務室)に引っ込んだ。
そして十秒程経って後、判子を片手に運送野郎Aチームの前へ。
この時代でも確認は判子、赤い印の効力は大きい。
「中身はなん……」
だ、と問いかけて、五飛の舌が止まった。
豪胆にして不敵な彼にしては珍しい動揺の表し方だったが、まぁ無理もないかもしれない。
「ああ、久し振りだな、ロックオン・ストラトスだ」
「ああ、はじめましてになるな、ロックオン・ストラトスだ」
まんま同じ顔の人間が目の前に二人もいたのだから。
「……」
五飛の後ろのガンダムパイロットたち、果てはコーラサワーまでが驚きの表情で固まる。
姿かたちはともかく、名前まで一緒ってどういうことやねん、と。
「ああ、気にしないでくれ。こいつは俺の双子の弟だ」
「ああ、気にしないでくれ。こいつは俺の双子の兄だ」
「……で、名前は?」
「「ロックオン・ストラトスだ」」
「なんじゃーそりゃー!」
何だかもうノリが笑えない若手芸人の舞台のようになってきた。
が、今更後には引き返せない。
何としてでも四年という歳月をムリクリにでも反映させないといけない。
それがために今まで“本編=あっちの世界”と“このSS=こっちの世界”という言葉を使ってきたのだから。
ああ、しかしアロウズとカタロンは取りあえず置いといて、シーリンの扱いどうしようかなあ。
まさか姫様から離れて独自行動取ると思わなかったからなあ。
* * *
「やっほー、トリニティ運送だよ、お届ものだよー」
「おらおら、とっとと判子出せや、ああん?」
「控えろミハエル、客の前では良い社会人を演じろ」
「またまたまた来たあ!」
ああ、コーラサワーだけだったら苦労しなかったかもな、と思ってもアフターカーニバルですねそうですね。
一度でも使った以上は責任を取らないとね。
仕事でも何でもそうよ、そらそうよ。
◆ ◆ ◆
「ふう、やれやれ、やっと皆帰ったか」
「津波のような一時だったな」
コーラサワーが「俺様28~33歳」発言をしてから一時間、ようやっとプリベンター本部は喧噪から解放された。
マイスター運送はトリニティ運送と口喧嘩を始めるし、ビリー・カタギリはどう説明してもブシドーをグラハムと認識しないし(最終的に仮面を取ってようやく気付いた)、ソーマはコーラサワーを挑発しまくるし、セルゲイはセルゲイでそんな二人を微笑ましく見つめながら俳句作ってるしで、もうウルサイのウルサクないの、あたかも隣の席に座った奴の咳払いすら聞こえない程やかましいパチンコ屋のようであった。
「まあ、そういうわけでよろしくってこった」
「何がよろしくだよ、まったく」
ソーマに絡まれてた最中はたじたじしていたものの、天敵がいなくなればコーラサワーはいつものコーラサワーである。
とことんポジティブ、すっきり爽やかアイフィールコーラサワー。
「なぁに、これから俺の時代だ、バッリバリに活躍してやっからよ!」
「どうかな、下手すりゃ一期よりも出番ないかもしれんのに」
「そんなこたーねえ! 今の今まで俺の情報がほとんど流れてない! これすなわち、隠し玉の証拠だろうが!」
「そうか? ずーっと隠され玉の間違いじゃないのか?」
「なななな、なんだとうう」
客が帰って落ち着きを取り戻したか、デュオが容赦なくコーラサワーをぶった斬る。
まあ実際、物語の中核であるマイスターズや沙慈以外で現在公式HPやCMに出ている連中は、二期の序盤で話を作る面々だから取り上げられているのであろう。
すなわち、一期と二期を繋ぐ役割を持っている、任されているというわけだ。
ぶっちゃけ、そんな大任コーラさんには果たせませんがな。
「そんなことはねぇ! 一期を見ろ! アバンタイトルを除けば、実質俺から物語は始まったんだぞ!」
「ああ、お前がボッコボコにされたところからな」
「古傷えぐるな!」
「お前が言いだしたんだろうが!」
エクシアがAEUの新型MSであるイナクトをオモチャ扱いする、これはCBのガンダムが世界のどのMSよりも優位にあるということを象徴するシーンだった。
これでグラハムがガンダムに興味を持ち、そして一期最終回へと繋がっていくのである。
ここでボコられるパイロットには物語上グラハムを使えないし(そうするとグラハムの感情描写及び世界描写が単純になってしまう)、ソーマは超兵というアレルヤに絡むキャラなので当然出せるわけがない。
ま、エクシアと刹那が既存のMSをボコるという演出上、「敵のエースパイロット」としてはコーラサワーが最も適任ではあったのだ。
「よしわかった、ならば今から賭けをしようじゃないか」
「か、賭けぇ?」
「ああそうだ、二期の何話からお前が登場するか」
「何ぃ!?」
「俺は五話にしとくぜ」
ニヤリと笑うと、デュオは何時の間に取りだしたのか、コインを親指でピンと弾いた。
コインは回転しながら綺麗な弧を描き、コーラサワーの足元へと落ちていく。
「乗った。俺は七話だ」
「ヒイロは七話か、オッケー」
「じゃあ僕は十話で」
「俺は十三話」
「ならば私は十六話」
「後期最終話、それもBパートだ!」
「同じく最終話、ED後の提供画面」
「へいへい、カトルは十話、トロワは十三話、仮面は十六話、アラスカと五飛は最終話、と」
ああ容赦なし。
五話と予想したデュオが優しく見える程容赦なし。
日頃コーラサワーが彼らにどう思われているかがよーくわかる場面である。
「おいついでだ、本人直々に予想しろよ」
「ぬ、ぬぬぬぬぬぬぬぬ」
顔面真っ赤に染まるコーラサワー。
数秒唸り、そして大きく口を開けて一言。
「よ、いや三、三話だ!」
「あ、ちょっと自信なくなってるなこいつ」
「まあ、世界とキャラの状況説明に三話くらい使うでしょうしね」
「あくまで普通ならな」
「だ、大丈夫だ! 何せ俺はスペシャルでエースで模擬戦二千回で!」
「さすがにもうカビが生えてるぞ、それは」
「まさか二期では回数が増えただけで、あとはまんま同じ台詞を使わないだろうな」
「はははは、乙女座センチメンタル!」
「いや、アンタのそれもだよ」
今日も今日とて仕事はなくも賑やかなプリベンターなのであった。
さあ、ようやく第二期スタート、どんな展開が待っているのか。
プリベンターとパトリック・コーラサワーの心の二期が今、始まる―――
「へーくしょーい!」
「ボス、風邪ですかい?」
「ん? あー、何だかここんとこ急に老けこんだ気分だぜ、四年分くらい」
「何ですかそりゃ。まあ無理しないで下さいよ、今年の風邪はしつこいらしいですから」
「んー、まだまだ働き盛りのつもりなんだがな。あ、そこのウイスキー取ってくれや」
期待半分怖さ半分、機動戦士ガンダム00二期、いよいよ明日、十月五日に介入開始。
どうなる? どうする? どうしたらいい?
「俺は! スペシャルで! エースで! 模擬戦で! たいさぁぁあああ!」
「人呼んでブシドー・スペシャル! ううむ、なかなかいい響きだ」
「へ、へ、へーくしょーぉい!」
ほんと、ねえ。
【あとがき】
とうとう明日ですねコンバンハ。
さあ半年間好き勝手にやったツケがどう出るのか出てしまうのかいや本当どうしようサヨウナラ。