00-W_土曜日氏_70

Last-modified: 2009-02-12 (木) 21:36:00
 

「と、言うわけで」
「……ああ、サリィさんがその台詞を口にするのは違和感がありますね」
「あのプリベンター・バカの専売特許だったからな、ここんところ」

 

 プリベンターは暇だった。
 すなわち、世界は平和だった。
 二期? 鬱展開? キャラあぼんしまくりの予感?
 知ったこっちゃありません、こっちは平穏なんです。
 永遠に。

 
 
 
 
 

   ~新機動炭酸コーラサワーW  第二部~

 
 
 
 
 

「シーリンが職を移ることになったわ」
「あの眼鏡の姉さんが? レディ・アンと喧嘩でもしたのかな」

 

 シーリン・バフティヤールはグラハム・エーカーと同じ時期にプリベンターに加入した。
 実務で多忙を極めるレディ・アンの秘書的な位置に就き、主に後方からサリィ・ポォたち現場部隊を支えてきた。
 かつてレディ・アンと因縁があったらしいが、その辺りはちょっと怖くて聞くことが出来なかったガンダムパイロットの面々である。

 

「そういうわけじゃないけど……彼女の意志もあったし、半分引き抜きみたいな形でもあるし」
「へえ、引き抜きなんてあるのかよ。プリベンターって仮にも政府直属の組織じゃなかったっけ」

 

 デュオ・マックスウェルは皮肉っぽい口調で喋りつつ、手に持った湯呑みをテーブルの上に置いた。
 ちなみに、今日のお茶は玄米茶である。

 

「俺たちも無理矢理引き抜かれたようなものだがな」
「確かにな」

 

 ヒイロ・ユイとトロワ・バートンが視線を交わして頷き合う。
 彼らは湯呑みを手にしていない。
 玄米茶が嗜好に合わないのではなく、単に喉がそれほど渇いていないのであろう。

 

「成る程ねー、どこかの誰かさんのおかげで俺たちゃ宮仕えの身だもんな」
「ほう、誰だ」
「お前だよ、五飛」

 

 そう、張五飛以外のガンダムパイロットの四人は、彼の謀略によってプリベンターに集められた。
 ヒイロはリリーナの危機という嘘情報、デュオはジャンク屋の仕事、トロワはサーカス団の営業停止、そしてカトル・ラバーバ・ウィナーは同窓会という餌を使われて一本釣りされたのだ。

 

「俺は忘れた。お前も忘れろ」
「またそれで誤魔化すのか」
「過去のことをいくら言ってもしょうがないだろう」
「……くそ、五飛、お前本当にいい性格してるよ」
「何、デュオ程ではない」
「それがいい性格してるってんだ!」

 

 ガンダムパイロット同士なら、会話量が一番多いのはデュオと五飛になる。
 次いでカトル、そして元々無口気味なヒイロとトロワはあまり輪に入ってこない。
 賑やかなんだかそうじゃないのかわからない五人ではあるが、ガンダムパイロットは伊達ではない、組んで動けば世界中でも対抗出来る者はそうそういるもんではない。

 

   ◆   ◆   ◆

 

「で、眼鏡の姉さんはどこに転職したんだ?」
「転職と言うか転勤と言うか……ああ、丁度いい時間だわ、テレビを見てもらうのが手っ取り早いかも」

 

 サリィは多機能リモコンを手に取り、部屋の壁にかかっている薄型のテレビを起動させた。
 この時代、やれテレビだのエアコンだのといちいちリモコンを分けて使う必要はなくなっている。
 ひとつのリモコンで部屋、もしくは住居全体をカバー出来るようになっているのだ。
 ま、それだけにリモコンを無くしたら面倒なことになるわけだが……

 

「ああ、このチャンネルよ」

 

 さておき、テレビの番組である。
 モニターの向こう側では、一人の男がカメラのフラッシュを浴びながら壇上で演説をしている最中だった。
 なかなか精悍な顔立ちで、喋り方も朗々としており、かなりの切れ者であることをガンダムパイロットたちは感じ取った。

 

『……私はクラウス・グラードであります。今日ここに、はんせいふそしき“カタロン”が誕生したことを皆様にご報告します』

 

「へえ、おかしな名前だな……って、反政府組織!?」
「ちょ、サリィさん、何のことですこれは? これにシーリンさんがどう関係してくるって言うんですか!?」
「しかもテレビで放送だと、これはプリベンターにとって大問題だ」
「気づかなかったではすまされない」
「どういうことだ、説明を要求する」

 

 反政府組織、それはすなわち現行の政治体制に不満を抱く者たちの集まりである。
 せっかく世界が平和になったというのに、また紛争の火が再燃するというのか。
 ガンダムパイロットたちが血相を変えるのも無理はない、
 まして仲間であったシーリンがそこに関わってくるとなると尚更である。

 

「みんな落ち着いて。反政府組織じゃないわ、反省府組織よ」
「は?」
「え?」
「ん?」
「む?」
「何だ、それは」

 

 サリィの言葉に、今度は一転、キョトンとなるガンダムパイロットたち。
 反政府組織ではなく、反省府組織。
 そんな単語、彼らは一度たりとも聞いたことがないし、間違いなく辞書にも載っていない。

 

「反省府、つまり過去に人類が犯した過ちを見つめ直し、課題を取りあげ、反省することで未来に生かそうという組織よ」

 

 玄米茶をすすりつつ語るサリィ。
 その顔が若干シブいのは、お茶のせいではないだろう。
 彼女の目にもこの反省府組織というものがもの凄く胡散臭く映っているのだ。

 

「一応、私たちと同じ政府直属の組織になるわね」
「……よくわからん、えーと、第三者委員会みたいなものか」
「全然違うと思いますよ、デュオ」

 

 頭にハテナマークを浮かび上がらせるガンダムパイロットたちだが、さりとてサリィ・ポォも彼らを十分に納得させるだけの材料を持ち合わせていない。
 さっき言った通り、過去の過ちを反省して再び間違いを犯させないための組織である、としか言いようがないのだ。

 

『かつて人類は人種、思想、宗教の違いで憎み合い、武器をもって解決しようとしました。そのような忌まわしい歴史を再び繰り返してはならないのです』

 

 クラウスさん、なかなかご立派な演説である。
 ちょっと独創性には欠けているようだが、まぁ組織のトップはこれくらいの方がよろしいのかもしれない。
 向こうの世界じゃともかく、こっちの世界じゃこんなもんでしょう、多分。

 

「まあ、それでこのカタロンにシーリンが参加することになったのよ」
「どんな役職?」
「多分だけど、このクラウス・グラードって人の補佐でしょうね」
「副委員長みたいなものですか」
「そうね」

 

『我々カタロンは、人類がより良い明日を築くことが出来るように、全力をあげて反省していくことをお約束します』

 

 全力反省、またも新語である。
 何だか後ろ向きなイメージがあってよろしくない気もするが、目的は決して怪しいものではないので問題無いだろう。
 本当は政治家が直々に反省するもんであろうが、まあそこはそれ、話の都合上。

 

「じゃあ、シーリンさんの代わりはどうなるんです?」
「レディ・アンの秘書か。あれで彼女も忙しいらしいからな」
「らしい、じゃなくて本当に忙しいのよ」

 

 レディ・アンは滅多なことでは本部に顔を出さない。
 ほとんどが別にある執務室で缶詰になっているか、出張で出払っている。
 激職なのだ。

 

「ヒルデか?」
「彼女には無理だろう、性格的に」

 

 ヒイロ、結構厳しい評価。
 が、まあぶっちゃけ外れていない。
 秘書の仕事は何より冷静な管理能力が問われる。
 怒るとすぐフライパンを取り出すおてんば娘にはあまり向いていない。

 

「今のところ未定。でも、近日中に決まるでしょうね」

 

『それではカタロンの名の由来も合わせて発表しましょう。おおいに反省し、議論を語ろう、つまりカタ……』

 

 モニターの向こう側、何となく脱線し始めた感じのあるクラウス氏の演説は終わらない。
 この時、壇の下からクラウス氏の服の裾を引っ張って制止しようとしている手があったのだが、さてさて神ならぬ身、それがシーリン・バフティヤールのものだとはサリィもガンダムパイロットたちも気づき得なかった。

 

   ◆   ◆   ◆

 

「よし、彼女のことはわかった」

 

 デュオは湯呑みに新しい玄米茶を注ぐと、溜め息をつきつつ話題を替えた。
 で、何の話題かというと。

 

「どうする、アイツ」

 

 はい皆さん、ここまで我らがパトリック・コーラサワーさんが出てきていませんね。
 おかしいですね、彼ならば必ず軸がずれた発言をかまして会話を乱すわけですが、今日はまだ一度もそれがありません。
 どうしてだと思います?

 

「アイツって?」
「とぼけるなカトル。俺たちの背後で踊り狂っているあの男のことだ」

 

 さあ、ここでようやく登場です。
 ミスター模擬戦、ビームも銃弾も向こう側から避けてくれる天下一の幸運男、コーラサワーさんです。
 拍手はいりません、おひねりもいりません。
 生暖かい目で見守ってやって下さい。

 
 

「ヤッホホホオ―――ウ! 見たか、俺はスペシャルだぜー!」

 
 

 コーラさん、リズムもクソなくダンスダンスダンス。
 完全に浮かれトンチキの脳みそメリーゴーランド状態になっている。

 

「何故あんなに晴れやかなんだ、あの男は」
「愚問だトロワ。アレだ、アレ」

 

 アレとは何か。
 決まっている、機動戦士ガンダム00二期のOP映像である。
 そうなのだ、とうとうコーラさん、OPに初顔出しとなったのだ。

 

「……その程度であんなに浮かれているのか」
「身も心も小物の証明だな」
「まあ、気にしてたんですよ本人も、きっと」

 

 一期は一話で華々しくボッコされるという目立った出番がありながら、初代OPはどこにもその姿はなし。
 二代目OPではほんの僅かだがイナクトが映り、しかもデカブツガンダム一世にやられているという甚だ冷遇された扱いだった。
 まあ、今度もまたほんの一瞬でさらにデカブツガンダム二世に撃たれてるわけですが、あれは間違いなくコーラさんでしょうな。
 赤ジンクスでしたし、何よりOPであんな目にあわされるのはコーラさんしかいませんから。
 赤ジンクスだからアロウズか? という疑惑も生まれましたが、それはおいおい本編を追っかけるうちに明らかになるはずです。
 下手すりゃ年明けくらいに。

 

「あれ、じゃあ賭けはどうなるんです? 前回の」
「持ち越しだ、話の中に出てきたわけじゃないからな」
「おい、今度はマンボを踊り始めたぞ」
「器用なのか器用じゃないのかわからないな」
「確実に言えるのは、バカだってことだ」

 

 今日はグラハム・エーカーは非番でいない。
 ミスター・ブシドーとなった彼は実に今後と頭が心配なキャラクターだが、まあ箸とナントカは使い様。
 あとジョシュア・エドワーズも休み、ヒルデ・シュバイカーは買出しで不在である。
 おかげでガンダムパイロットとサリィがシーリンの件で会話している間、ずーっと野放しではしゃぎまくっていたという次第である。

 

「どうする? いい加減鬱陶しいんだが」
「止めるか」

 

 うむ、調子に乗り過ぎてハ○ハレかウマウ○辺りを踊り出されても困る。

 

「模擬戦♪ 二千回♪ 不敗の男♪ エース♪ スペシャル♪ ギッタギタ♪」
「ああ、とうとう歌まで唄い出した」
「よし、ヒイロとトロワ、手伝ってくれ。奴を止める」
「了解した」
「手を貸そう」
「五飛、何で方天戟なんて持ってるんです?」
「貴方たち……冗談でも傷害事件は起こさないで」

 

 プリベンターは暇だった。
 すなわち、世界は平和だった。
 二期? 鬱展開? キャラあぼんしまくりの予感?
 知ったこっちゃありません、こっちは平穏なんです、ギャグなんです。
 永遠に、永遠に。

 
 

「イ――――――――――ヤフ―――――――――――ゥ!」

 
 

 プリベンターとパトリック・コーラサワーの心の旅がまた始まる―――

 

 

【あとがき】
 コンバンハ。
 始まりましたね二期、さてコーラさんはいつ話の中に出てくるやら。
 ええ、こっちの世界は平和ですとことん、誰も死にません死なせません。
 で、放送が日曜なので土曜日投下じゃなくなるかもサヨウナラ。

 
 

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