「出番がないない♪ 出番がない♪ あーこりゃこりゃ♪」
「ああ、壊れた……」
「残り十話だしな、しかも軌道EVにてクーデターというこの大事件に完全おいてきぼりときた」
「中の人は別の役で出番でしたしね」
パトリック・コーラサワーは落ち込みから脱していた。
そして精神的復建を。
「なんで俺の出番がないんだよおおおお♪ こりゃこりゃ♪」
果たしていた。
はるか斜め上の方向に。
◆ ◆ ◆
終盤である。
いや何がって、00本編が。
ここにきて市民の愚かさがどうのとか痛みを知ってもらうとか、新キャラを使ってこれをやるならなんで二期の前半で反政府的活動をカタロンしか描写しなかったのか。
抑圧される市井の反対派なんて正直二期の第一話しか出てきてませんがな。
情報統制だの世論調整だの、残り十話で軍隊の在り方とか恒久平和とか言いだすとは思いませんでした。
で、広げた風呂敷は畳まねばならないのが道理。
大きく広げれば広げる程、中に入れるモノをちゃんと丁寧に配置しなければ、畳んだ時に不格好になるのもまた道理。
これは相当ラスト付近にしわ寄せが来るなあ、特にコーラさんの出番に、とか思う次第。
しかも次週はなんか思いっきり血生臭いことになりそうで、コーラさんのいるマネキン部隊は洋上にあるということは、はぁこれはまたハブラレルヤな確率高しなわけで。
「ドンパチだぜ? クーデターだぜ? ここはスペシャルエースの俺の出番だろうがあ!」
「大佐さんの側にもいなかったな」
「今回みたいによ、中華丼を三杯一気に食ったような重ったるい展開にはよ、俺のような清涼剤が必要だろうがあ!」
「自分で清涼剤って言っちゃっていいんですか?」
パトリック・コーラサワーは00の癒し。
誰が言いだしたかしらないが、キャラ的にはおいしいが同時に致命的でもあろう。
癒しキャラが本筋に深く関わることはなし、これは鉄則である。
「吠えるのもそれくらいにしてもらいたいものだ、男は黙って仕事に向かう、これあるのみ!」
「いや隊長、あんた思いっきり喋りまくってましたが今回」
「ジョシュア!」
「は、はい!」
「能あるファルコンは切り捨て御免でクローを隠す、覚えておけ」
「いやもう何言ってるかわかりませんから、しかも何ですその中途半端なルー語みたいなのは」
心穏やかでないコーラサワーを尻目に、吐血お面人間ことグラハム・ブシドー・エーカーはご機嫌ちゃんである。
そりゃそうであろう、あっちで新型貰って大見得きれて、愛しの00と少しだけではあるがチャンバラしたのだ。
ガンダム三機の闖入で勝負はつかなかったが、短い時間でもあんだけ大暴れしたなら気が晴れようてなもんである。
最後に一方的にではあるが再戦要求まで叩きつけて、もう本筋に絡むのか絡まないのか、そんなもんどーでもよくなりつつあるのはいささか問題ではあると思うが。
「貴方たち……もうすぐ情報にあったアジトの場所に着くのよ、緊張感を持ってちょうだい」
プリベンターの現場指揮官、サリィ・ポォとしては頭が痛い。
何だかもう頭痛が痛いと間違った表現を使いたいくにらに痛い。
あっちの世界の影響がこっちの世界にモロに出るのはもういい加減諦めつつあるが、それでもそれがプリベンターとしての業務の足枷になるのはたまったもんではない。
「わかってるってのオデコ姉ちゃん一号、何だかだんだん腹が立ってきたからこのムシャクシャをぶつけてやるイヤッホウ!」
「ふはははは! このブシドーことグラハム・エーカー! 一切合財エネミーには容赦せん! 吐血でも喀血でも瀉血でも何でもしてみせよう!」
「オデコ姉ちゃんて言わないで! それに約一名キャラが変わってきつつあるじゃないの!」
頭どころか延髄が痛くなってきたサリィなのであった。
◆ ◆ ◆
「やれやれ、出番が無かったのはこっちだっておんなじだってのによぉ」
「何ですボス? 誰に言ってるんです?」
「いーや独り言だキニスンナー、じゃねえ、気にするな」
この時期に置いてきぼりをくらっている人物はもう一人いる。
本編で徐々にラスボス予想から脱落しつつあるこのお方、アリー・アル・サーシェス氏である。
体半分消し炭になっても復活してきたバイタリティと卓越した戦闘技術、そして何より刹那と深い因縁を持っている彼にしてラスボスになりそうな気配がない。
まったく00とはとことん罪作りなアニメであることよ。
「準備が出来たモンから順次行かせろ、そいで、予定通りにコトを進めとけってちゃんと伝えておけ」
「了解です、ボス」
「よっしゃ、したらば俺らはプリベンターに当たるぞ。ソンナコト・アルケーの整備はちゃんと終わってんな?」
「遺漏なく」
部下の返答に満足し、ニヤリと笑うアリー。
プリベンターは憎むべき敵であり、今までに散々借りがある。
ここで一気に返すというわけにはいかないだろうが、それでもやられっぱなしで済ますわけにはいかない。
横っ面を数発はたき倒すくらいの復讐はしてもバチは当たらねえ、と彼は考えている。
この辺り、さすがに戦闘狂の本分発揮であると言えようか。
「ボス! 緊急外線です!」
「何だぁおい、いよいよって時に横槍を入れてきたのは誰だ?」
肉食獣めいた笑みを収め、外部と接続が保たれている通信モニターにアリーは歩み寄った。
ほっといても良かったなと一瞬考えたが、画面に映った相手の顔を見て、いや無視しなくて正解だったと思い直した。
『やあ、これから出勤かい?』
「いやいや大将、向こうさんが遅刻してきたんでね、ちょっとオシオキに行くのさ」
下手な冗談に、同じく下手な冗談で返すアリー。
口は笑っているが、目は決して笑ってはいない。
『僕のプレゼントしたソンナコト・アルケーの戦果、期待しているよ』
モニターに映っているのは、まだ若い、少年と言ってもいい男の顔。
「ああ、任せといてくれ、リボンズの大将」
彼の名前はリボンズ・アルマーク。
大人気アイドルグループ“イノベイター”のリーダー。
『現場の委細は全て君の好きなようにすればいい』
「あいよ」
そして、今回の本当の黒幕。
プリベンターとパトリック・コーラサワーの心の旅は続く―――
【あとがき】
ガンダムで政治を語るとアクシズが空から降ってきますコンバンハ。
ここでリボンズ出しましたが当然こっちの世界ですからマトモな奴であるはずがありませんのでよろしくサヨウナラ。