食欲・肉欲・金銭欲。
欲にも色々あるけれど、これに勝る欲はなし。
それすなわち、名誉欲也。
◆ ◆ ◆
簡単に名誉欲と言うが、ぶっちゃけて言えば「他人に己を誇示したい」ことに他ならない。
人間は独りでは何も出来ない動物である。
特に文明の発達した現代社会においては、何かしら行動を起こすだけで「他人」と関わることになる。
集団で暮らしを営んでいく、それが人間なのだ。
さて、そこで我らがパトリック・コーラサワー氏である。
人一倍自己顕示の精神が強い彼が、新OPに出ないことに耐えられるだろうか?
で、いきなり結論。
耐えられるわけがない。
耐えられるわけがないから、前回でがっくしこんと落ち込んだのだ。
おなごの裸祭りくらいで、チャラになるわけもなし。
「ふあああああ」
「大きな溜め息をつくなよ、鬱陶しい」
「この俺が……OPに出ない……」
「いつまで言ってんだよ、しょうがねーだろ!」
「だってよおおお」
「だいたい主人公でもライバルキャラでもないお前が大きく取り上げられるわけないだろうが!」
「ふんがああああ」
「今回はちゃんと愛しの大佐さんの側にいれたんだろ? 褒められたんだろ? それで我慢しとけよ!」
「そうだけどよ……結局新型のMS貰ってねえし……」
「ねえし、なんだよ」
「小熊には無視されるし」
「ああもう、いい加減あっちの世界を引き摺るのはストップしてくれないかね、ホント」
プリベンターは作戦を開始していた。
アザディスタンに忍び込んだ不審集団の捜索・排除を目的として。
で、不審集団とはどこのナニモノの集まりなのか。
んなもん知れたことで、この世界で現在、大がかりないらんことをするのはアリー・アル・サーシェスとその一党しかいない。
本編でいくら中ボス臭を出しまくっていても、こっちの世界では単なるやんちゃ悪党である。
そしてその度にプリベンターは引きずりまわされるのだ。
外のアリー、内のコーラ。
この二人がプリベンターを悩ませる二大要素と言っても過言ではアルデンテ。
「とにかく、急ぐわよ」
「……ですね」
「間に合えばいいのだけれど」
コーラサワーとデュオの漫才を右から左に流しつつ、プリベンターの現場指揮官であるサリィ・ポォは眉根を寄せた。
現地の警備隊が潜入捜査官を使って不審集団のアジトをつきとめたのが数日前。
そして、その情報がサリィの元に入ってきたのがつい先程。
プリベンターにエエカッコさせまい、手柄を一人占めだと功名心を逸らせた現地警備隊が情報をブロックしていたわけだが、おかげでプリベンターはかなりの後手に回ってしまった。
アジト発見済みの情報を入れてくれたのはマリナ・イスマイールだが、彼女が伝えてくれなかったら今頃プリベンターは検討違いの方針で検討違いの捜索を行っていただろう。
そいで、さらに困ったことに、その潜入捜査官との連絡がこの半日で取れなくなっているとのこと。
これはもう事態は火急逼迫していると言ってよい。
連絡が繋がらないということは、捜査官が捕まったか処分されたかのどちらかであると考える他ない。
であれば、不審集団がそのままアジトに居座り続けるはずもなく、どこかへ姿を晦まそうとすることは必定。
プリベンターがやらねばならないのは、アジト現地に急行して不審集団の尻尾を捕まえる、それも可能な限り根元でキャッチすることであり、逃走したであろう不審集団の追跡作業の準備を整えることである。
網を張っての囲い込みは、現地の警備隊に任せる他ない。
情報を隠していた手前、負い目から今度はさすがにプリベンターに協力してくれるはず、というかせざるを得ない。
これでまだ渋っていたら、それこそ責任問題で警備隊のトップの首が飛ぶぐらいではすまないだろう。
「各自、MS(ミカンスーツである)の発進準備だけはしておいて」
「りょーかい」
「了解した」
「わかった」
「わかりました」
「オーケーだ」
ガンダムパイロットたちはすでにMS・ネーブルバレンシアに乗り込んでいる。
輸送機の後部ハッチが開けば、いつでもそこから大空に飛び立つことが出来るだろう。
なお、今回MS(ミカンスーツ)のオプション装備は空中戦仕様になっている。
「……三人程返事がないけれど?」
三人とはどいつらのことなのか。
最早語るのもアホらしい。
アホらしいが言わずばなるまい、そう、コーラサワーとグラハム・ブシドー、そしてアラスカ野ことジョシュア・エドワーズのことである。
「どこに行っちゃったのよ、デュオ、さっきまで喋ってたんでしょう? そこら辺にいないの?」
「いや、いるけど」
プリベンターの面々が今、どのような配置になっているかを説明しておこう。
サリィ・ポォは輸送機のコクピットの真後ろ、所謂指揮室とでも言うべき場所にヒルデと一緒にいる。
そしてガンダムパイロットとコーラたちは後部の貨物庫にMS(ミカンスーツ)と共に放りこまれている。
音声は各自繋がっているが、映像は繋がっていないという状況だ。
「本当に?」
「いや、嘘言っても仕方が……」
現在、彼らは大型の空中輸送艦でアジトへと向かっている。
徴発まがいで警備隊から借り受けたものだが、ぶっちゃけて言ってしまえば単なる輸送飛行機に他ならない。
とは言え、ガタイが大きい割に足も遅くないのがいいところのなかなかニクイやつである。
まあ武装はまったくないが。
「いるなら返事しなさいよ!」
アザディスタンに来た時のプリベンター専用の輸送艇もあるが、今回は御休み。
前線に出して下手の壊されても困るわけ……と言うか、組織の立場的な問題である。
先にも言ったが、警備隊に協力させた、という事実が大切なのだ。
世界を守るに当たって隠し事などしてはならない、また、緊急の際の優先権はどちらにあるかということを、相手側に常に意識してもらわねば困る。
身内からナメられて守れる平和ではない、寂しいことだが、それが組織というものだ。
「いや、それが」
「何よ」
「返事出来ない状況と言うか何と言うか」
「?」
デュオ・マックスウェルの目の前には、件の三人がいる。
パトリック・コーラサワーは未だOPにハブられたショックからかふさぎ込んでおり、グラハム・ブシドーはおそらく精神統一しているのであろう、目を瞑って腕を組み不動の構え。
で、ジョシュアは足の小指をどこかの角にぶつけて悶絶中。
どいつもこいつも、サリィの声に反応しない、または出来ない状態になっているという次第であった。
「説明すんのがバカらしくて」
「……とにかくいるのね?」
「それは確かに」
「まったく……頼むわよ、デュオ。いざとなったら蹴飛ばしてでも彼らを駆りだして」
「頼まれたくないなあ」
願わくば穏便に事が進みますように。
また、緊急事態が発生してもそれまでに三人が対応能力を取り戻しておいてくれますように。
言葉には出さず、そう祈るデュオ・マックスウェルなのだった。
プリベンターとパトリック・コーラサワーの心の旅は続く―――
【あとがき】
やっと大佐以外のキャラに絡んだと思ったらコンバンハ。
無視されてそして飛行機の操縦と、恵まれたんだかそうでないんだかううんやっぱり恵まれてんだなあと思った回でしたサヨウナラ。