アザディスタンにおける不審集団出現事件。
世紀のいらんことしい、アリー・アル・サーシェスの影を感じ取ったプリベンターは総勢でアザディスタンに赴き、事に当たった。
途中、現地警備隊の情報ブロックにより後手を踏んでしまうものの、マリナ・イスマイールの情報横流しとサリィ・ポォの迅速な対応によってリカバリーを成し遂げ、不審集団のアジトと思われる地を制圧に向かったのだが―――
「ミカンスーツは貴様らだけのもんじゃねえ!」
そう簡単に解決するはずもなし。
事態は五重の塔のてっぺんから雪崩式投げっ放しジャーマンで墜落するかの如く変転するのであった。
「アリー・アル・サーシェス、“ソンナコト・アルケー”だってんだよお!」
アリー・アル・サーシェスの乗る、MS(ミカンスーツ)。
深紅の禍々しき機体の出現によって。
◆ ◆ ◆
アリー・アル・サーシェスとは何者なのか。
数多くの偽名を持ち、数多くの事件に関わり、数多くの戦場を駆け抜けてきた兵(つわもの)。
メカの扱いから潜入工作はお手の物、格闘、銃撃、どれを取っても一流のプロフェッショナルである。
おまけに足が臭いと、ベタベタメロドラマ大好き、呑ん兵衛と、まさに色んな意味で最凶レベルの悪人と言えるだろう。
「敵機、急速接近!」
「各機、迎撃!」
けたたましい警報音に鼓膜を叩かれつつ、ヒルデの報告を受けてガンダムパイロットやコーラたちに指示を飛ばすサリィ。
今までは彼女の作戦がことごとくアリーの行く手を阻んできたが(彼女が意図しないものも含めて)、今回は完全にアリーの側が先手を打つ形となった。
「あれが『敵』と言うならば!」
「たかが一機で、何が出来る!」
「このグラハムブシドー、容赦せん!」
「イヤッホー! やっとMS(ミカンスーツ)同士の戦闘だぜ!」
直進してくるアリーのソンナコト・アルケー。
それにまず先陣をきって襲いかかったのは、ヒイロ・ユイ、張五飛、グラハム・ブシドー・エーカー、そして我らがヒーローのパトリック・コーラサワーさん。
プリベンターでも血の気が多い“主戦派”連中である。
「四機同時ってかあ? だけどよぅ」
上下左右、おそらく意識はしていないだろうが、自然と連携の形になったプリベンターの四機に対し、アリーは落ち着いていた。
落ち着きまくっていた。
静かな地震、じゃない自信を湛えていたと言ってもいいかもしれない。
ここら辺は歴戦の変態、度胸一発ってやつであろう。
「四機で足りんのかよ!」
アリーはソンナコト・アルケーをまったく減速させず、真っ向から四機に突撃した。
先頭のヒイロ機の電磁警棒攻撃を流れるようにかわすと、そのまま後続の五飛に蹴りをかます。
「ぬうっ」
すんでのところで蹴りを受け止める五飛。
並のパイロットなら間違いなく思い切り蹴飛ばされていたであろう。
「はっ、さすがだねぇ! だけどよ、こいつはどうだ!?」
「何だと?」
「おらあ! ソンナコト・アルケー! 行けよ、ハッサクゥ!」
「!?」
アリーの号令とともに、ソンナコト・アルケーの背部から無数の黄色い球体が飛び出す。
それらは変則的な弧を描きながら、ヒイロたち先行四機に襲いかかっていく。
「はーっはっはぁ! 喰らえ!」
「くっ!」
「うわっ!」
先行四機のうち、特に先陣のヒイロ機と五飛機はかわす間もなく、
アリーが『ハッサク』と呼んだ球体から発射された、薄く橙色に染まった液体を喰らう。
「何だ、これは!」
「くっ、機体の自由がきかん!」
関節部の動きが不意に鈍くなり、砂の大地へと力なく落ちていくヒイロと五飛の二機。
「粘着弾だと!?」
「御名答! 柑橘類の糖分をふんだんに混入させた特製の粘着液弾だ!」
グラハムブシドーとコーラサワーはヒイロと五飛の後ろにいた分、ハッサクの粘着液の直撃を避けることが出来た。
が、それは同時に回避運動の時間をアリーに有効に使われてしまうということでもある。
「来るぞ、カトル、トロワ!」
「わかっています!」
「撃たせてもらう!」
ヒイロたちに遅れをとった三機、デュオ機、トロワ機、カトル機体が、こちらはちゃんと連携の動きを取ってソンナコト・アルケーの進路を塞ぎ、電磁警棒で打ちかかる。
が。
「おおっと、ってかっ!」
ソンナコト・アルケーの両腕両足の先から、にょっきりと四本の電磁警棒が伸び、右手でデュオ、左手でカトル、右足でトロワの攻撃をがっしと受け止める。
「なっ……!」
「足からも!?」
「まずい、離れろ、デュオ! カトル!」
慌てて姿勢を整えようとする三機だが、これまたアリーの反応の方が速い。
残った左足の電磁警棒を、機体を軸にするように足もろとも振りまわす。
「ぬわ!?」
「くうっ!」
弾き飛ばされるカトル機とトロワ機。
デュオだけがすんでのところでかわし、後ろに跳ねるようにして距離を取る。
「何だこいつ……強い!」
モハメド・ア○ドゥルかお前、という台詞を思わず口にするデュオだが、実際アリーと彼の駆るソンナコト・アルケーの攻勢の前に、ガンダムパイロットたちは押されに押されまくっている。
MSの操縦の腕前は一流の彼らをこうも簡単に翻弄するアリー、そしてソンナコト・アルケーの恐ろしさ。
形だけ見てるとガンダムと言うよりガイ○・ギアに出てた方がしっくりきそうだが。
「舐めてんじゃねーぞコラ! この模擬戦二千回不敗のパトリック・コーラサワー様をよ!」
「強敵! 相手にとって不足なし! ユニオン流抜刀術・脳天カラタチ割りっ!」
無論、やられっ放しで黙っているコーラサワーとグラハムブシドーではない。
デュオたちを蹴散らしたアルケーの背後から、勢いをつけて突進をかます。
「ほいさぁ! ハッサクゥ!」
「ぬうっ!」
「またかよ!」
すかさずハッサクを飛ばしてその攻撃の出足をくじくアリー。
分離式小型武器は離れての全周囲攻撃のみに注目が集まりがちだが、本来はこうして多数の敵を一度に相手にするためにこさえられたものである。
アリーはなかなか忠実にそれを守っていると言えるだろう。
「ははーっはっはっはぁ! 今までの借りを返済させてもらうぜ!」
「そうはいかない、更なる借金を背負ってもらう!」
態勢を立て直したトロワが、トリモチガンをソンナコト・アルケーに向けて撃ち放つ。
射撃と言えばトロワ、トロワと言えば軽業。
空中で華麗に動きながら、アリーを的確に狙っていく。
「はんっ!」
しかし、トロワの放ったトリモチガンの球は、また新たにアルケーがばらまいた『何か』によって全て防がれてしまう。
「!? 何だ!」
「またコイツ、何をばら撒きやがった!」
ソンナコト・アルケーの周囲をひらひらと舞う、小さな布きれのようなもの。
それは。
「くっくっく、俺が溜めこんだ未洗濯の靴下だ! 足の脂が固まってて、生半可な球じゃ破れねぇぞ!」
まさに死角なし、全身これ武器。
そのうちブラディ・シージまでやりそうなくらいにとんでもない強さのソンナコト・アルケーであるけー。
「さあ、ショータイムはまだまだこれからだってんだよ!」
「ふざけるな! 貴様のような悪人は、このグラハム・ブシドー・エーカーが天に誓って撃ち滅ぼす!」
「あああん、このスペシャルエースなパトリック・コーラサワーに勝てる奴なんて、どこにもいないんだよぉ!」
アザディスタンの砂漠にて繰り広げられる、MS(ミカンスーツ)同士の戦い。
第一ラウンドはアリーのソンナコト・アルケーが数の不利をものともしない戦いぶりで有利に立った。
だが、それで引き下がるようなパトリック・コーラサワーではない。
次回、第二ラウンド!
コーラサワーの本領が、グラハムの本気が、ガンダムパイロットの意地が爆発する!
◆ ◆ ◆
あ、アラスカ野もいるよ!
「ちょっと、行きなさいよ貴方も!」
「は、はははは。背後から撃ち落とされたら困るだろう。俺はこの輸送機を守る!」
「背後って、本当に後ろに隠れるんじゃないの! もう!」
うん、戦力になってないけど。
プリベンターとパトリック・コーラサワーとアリー・アル・サーシェスのガチバトルは続く―――
【あとがき】
コンバンハ。
花粉症の季節でこれは辛いサヨウナラ。