第五話「蠢く影」
「ジンさん、いったい何なんです?医務室に何の・・・・」
「いいから黙って付いて来い。」
質問するシンに対して、ハヤトはぴしゃりと言い放った。質問をあっさりと払いのけられたシンは、隣のレイに視線を向けるが、
「・・・・・・・・」
声には出さないがその視線が言っている。諦めろ、と。それを受けて、シンは心の中で溜息をついた。ハヤトのこういう態度は別にはじめてのことではない。
と、言うよりも今のように事情をろくに説明せず、質問しても切り捨てて、こっちを振り回すことなどしょっちゅうだ。もう、いい加減この男こういうやり方に慣れてきている自分が哀れだ。
例の強奪部隊の母艦――――便宜上、“ボギーワン”と呼ばれている―――――の追撃にはいったミネルバにシン、ハヤト、レイのゲッターチーム三人が帰艦し、私服のままだったシンが急いで軍服に着替えてきたところをレイを連れたハヤトに捕まったのだ。そんなことを考えていると医務室についたようだ。
「タナカ医師、様子は?」
医務室の扉が開くや否や、ハヤトは医務室の中にいたショートヘアの白衣の女性―――ゲッターチーム専属の軍医、リエコ=タナカ―――に問う。シン、レイは顔なじみの彼女に敬礼をした。
「容体は、安定しています。頭の傷も軽く切っただけです。すぐに良くなるでしょう。」
・・・・・
「そうか・・・それで、どうだった?」
「ここでは厳密な検査はできませんが・・・恐らくは・・・」
ハヤトとリエコはなにか物を含んだような会話をする。シン、レイはその婉曲的な言い回しで、何について話しているのかどうもよくわからない。ふと、そんなとき、シンはリエコの傍らのベッドに横たわっている少女に目が行った。
「あっ、この子!」
「・・・?シン、この女について何か知っているのか?」
少女を見て声を上げたシンに隼人が問う。知っているも、何も、ついさっき会ったばかりだ。
「いや、非番で外に出てた時にこの女の子の不注意でぶつかっちゃって・・ただそれだけですけど・・・・」
「ふむ、そうか・・・・」
シンは正直に(胸タッチのことは言わなかったが)この少女と会った事を話す。
ハヤトはそれを聞いて、その内容がどうということがないとわかって、少女に視線を戻す。
「この子、怪我しちゃったんだ・・・・ジンさんが助けたんですか?」
「まあな・・・・」
ハヤトの答えを聞いて、少しシンは疑問に思う。恐らく、彼女は来賓のセレブの一人だろう。すると、よっぽど重要な人物の関係者なのだろうか?そうでもなければ、わざわざハヤトがミネルバまで運んでくるはずもない。この、ハヤト=ジンという男は単なる人情やその場の感情や、安っぽい正義感で動く男では無いのだ。
「この少女は何という人物なのですか?」
それまで黙っていたレイが口を開く。
「本人は、“ステラ”といっていたな。」
「「?」」
“ステラと言っていた”?つまり、ハヤトはこの少女が何者かは詳しくは知らないということなのだろうか。だとすると、何故・・・・・
「・・・・う・・・・ん・・・・・」
「!長官、意識が!」
微かではあるが、確かに少女の口から声が漏れる。ゆっくりと少女は目を開けた。
(・・・・・・・・・・・あ・・・・・・・れ・・・・・・・・)
「・・・・・・・・・う・・・・・・・ん・・・・・・・・・・」
暗闇からゆっくりと意識が持ち上がる。重い瞼が開く。どことなく、意識がぼーっとしている。うまく思考がつながらない。
「・・・うぇ・・・・・・い・・・・・・」
頭はまだ重いが、視界はようやくはっきりとしてくる。自分を見ている人が四人。
一人は女、残りは男。白い格好をした女が一人、黒い格好をした男が一人。赤いそろいの服を着た、金髪碧眼の少年と、黒髪に赤い瞳の少年がいた。
見覚えは・・・・・あった。黒い格好の男には見覚えがあった。どこで会ったかはわからないが、見覚えはあった。どこで会ったんだろう。そういう風に考えていてふと気づく、ここは・・・・
「ここは、戦艦“ミネルバ”の医務室だ。」
黒い格好の男が言った。男の方を向くと、男は興味深そうな視線でこちらを見ていた。
「お前の名前は“ステラ”・・・・であっているな?」
男がそう聞いてくる。“ステラ”聞き覚えのある言葉・・・そうだ、自分の名前だ。そうだ、確か自分はステラという名前だったはずだ。・・・“はず”?
自分で考えておいて“はず”とは何だ?何だろう、自信が持てない。どうして・・・・
「私は・・・“ステラ”、ステラの・・・はず?」
「はず?」
「私は・・・ステラ?・・・ステラ・・・誰?・・・・私は・・・」
わからなくなってくる。記憶が茫洋としていて何もわからない。
「私は・・・・・誰?」
なんだろう・・・
「私は・・・・・」
なんだかわからにけれど・・・・
「私は・・・・・」
とても・・・・・
「私は・・・・・」
怖い
スッ 手に誰かの手の感触を感じる。誰かが私の手を強く、けれど優しく握ってくれる。
目を向ける。そこには、やさしい光を湛えた赤い瞳があった。
「大丈夫だから・・・・・」
赤い瞳の少年が自分を覗き込んでいる。なぜか、その赤い瞳を見ていると心が落ち着いてくる。
・・・・・・・
「君はここにいるから。」
そう言うと彼は空いた手でステラの頭を撫でる。髪に触れる手の感触が心地よい。
「ん・・・・・・・・」
心が静まる。
「俺が見守っていてあげるから。」
少年はそう言った。
シンが少女の右手を握りながら、空いた手で頭をなでる。つい先ほどまで心神喪失状態になりかけだった少女は、今はずいぶんと落ち着いたようだ。
先ほどからシンに頭をなでるがままにせている。やわらかな表情も相まって、どこか仔猫のようだ、とレイ=ザ=バレルは思った。
レイも、ハヤトも、リエコも、黙って二人を見ている。その、静かな雰囲気を最初に破ったのはハヤトだった。
「シン、しばらくその女のそばにいてやれ。タナカ医師、いい加減になったらその女の身体を診てやれ。報告は後でいい・・・・レイ、行くぞ。」
それだけ言うと、すぐさま踵を返して医務室から出ていく。本音を言えば、もうしばらくシンと少女の様子を見ていたかったのだが、かと言ってこのままとどまるわけにもいかず、仕方なしに部屋を出る。
シンは最初振り返って何か言おうとしたらしいが、その間もなくハヤトが部屋から出て行ってしまったので、仕様がなく再びステラの方へと向きなおった。部屋を出る時にそれだけ確認して、レイはハヤトの後を追った。
「寝ちゃいましたね・・・・・」
恐らく心身共に疲れているのだろう。シンに頭をなでられていて気持ちが良かったのか、はたまた精神が安定してきたためか、少女は再び眠ってしまっていた。
その寝顔は、とても安らかだ。
「・・・・リエコさん。説明してもらえませんか、この子のこと。」
「何の話かしら?」
さっきからシンの背後で沈黙を守っていたリエコにシンは問いかける。それに、リエコはとぼけたような反応を返すが、
「・・・・ジンさんがわざわざ連れてきたんだ、ただの女の子じゃないんでしょう?」
シンは気にもせず問い続ける。
「・・・・仕方ないわ。・・・・いずれあなた達も知ることになるだろうし・・その前に廊下に誰もいないか確認してくれる?」
「・・・・はい。」
外を確認する。誰かがいる様子はない。
「いないみたいですけど・・・・。」
「そう・・・じゃあ話すわね。その子はねぇ・・・」
ブーステッドマン
「恐らく連合の強 化 人 間 だろうな。」
「!」
たぶん“マトモな話”ではないと予測してはいたが、まさかそんな話が飛び出すとはレイも予測はしていなかった。「強化人間」。噂には聞いている。
平均的身体能力では、どうしてもコーディネーターを追い越すことができないナチュラルが、先の戦争末期の逼迫した情勢もあって、てっとりばやく戦闘能力を無理やり底上げした兵士が製造されていたということを。その話を思い出しただけで、レイの体に底知れぬ嫌悪感が湧き上がる。その手の話を聞くと、どうしてもあの忌まわしい“ヤツラ”のことが思い起こされてしまう。
「続けるぞ・・・。」
「!・・・・は、はい!」
いけない、思考が横道にそれていたようだ。改めてハヤトの話に耳を傾ける。
今は誰もいないレクルームでハヤトとレイは話していた。扉もロックしてあるので、誰かに聞かれる心配はない。
「あの女を見つけたのは行動不能になっていたガイアのすぐそばだ。コックピットから血痕が伸びていたから、まあ確実だろう。」
「さきほどのタナカ医師との会話、ひょっとして・・・・」
「ああ・・・簡単でいいから血液を調べておけといった。結果は・・・」
・血液中に明らかに通常の人間の血液中には存在しない物質が多数あったわ。まだ簡単な検査しかしてないから、調べればもっと出るかも・・・・・」
「そんな・・・・・」
シンは愕然とした表情でステラを見やる。その儚げは寝顔を見る。まだ初めて会ってからわずかな時間しか経ってはいないが、それでも
「こんな子を・・・」
この子の心が、本来戦いに耐えうるようなものではないことくらいわかる。
こんなかよわい子供を無理やり、それもその在り様をゆがめることによって戦場に送り出すなど・・・
「・・・許せない!」
シンは手をきつく握り締めた。
「あの少女をどうするつもりですか?」
話が終わったところでレイはハヤトに問いかける。ハヤトは、あの“イヤな微笑み”を浮かべて、
「さあな、どうだと思う?」
レイの方を見る。レイは心の中で溜息をつきながら、あの少女の不憫さを思った。ハヤト=ジンという男がこういう顔をする時は、たいてい碌なことがない。
「まあ、邪険にはせん。あまりひどい扱いをすると噛みついてきかねんヤツが一人いるからな。」
「シンですか?」
たとえ本物の狼が噛みついてきてもアンタなら素手で八つ裂きにするだろうが、ななどと思いながらレイは応える。
「まあな・・・アイツは強烈なまでの弱者への保護欲によって突き動かされて
いる。あの女を見過ごすはずもあるまい。」
そう言うと、何故かハヤトは実に愉快そうな表情をして言った。
「アイツは弱者が絡むと周りが見えなくなるほどだからな・・それは軍人としては欠点だが・・・・ゲッターのパイロットとしては上出来だ。」
「・・・・・・・」
「ただ単に能力が優秀なだけではだめだ・・・抑えがたい“何か”を胸に持っていなければゲッターは乗りこなせん。そうでなければゲッターに“喰われる”・・・・」
そう言うと、改めてレイの方に向き直る。
・ ・ ・ ・ ・ ・
「 お 前 も そ う だ 」
「・・・・・・・」
「お前は一見、無表情で冷徹な男と思われがちだが、その実胸の中に熱いナニカを持っている。」
「・・・・・・・・」
「だからこそ、俺は、シンやお前をゲッターのパイロットにしたんだがな・・・」
そう言うと、ハヤトはまた例のイヤな笑みを浮かべた。
「しっかし、とんだことになったもんだよな・・・・」
「まったくだよ・・・進水式もまだってのに・・いきなり実戦とか、いったいどーなってんだよなあ・・・・」
「まさかこのまま戦争、とかはねーよな・・・・・?」
「いくらなんでもそれは・・・・・」
格納庫で整備調整の不完全だったルナマリアのザクを整備しながら、整備士コンビの二人が話をしている。
その内容を聞きながら、格納庫に来ていたシンは言いようのない何か複雑な感情のうねりが心をよぎるのを感じる。戦争。それはシン=アスカという人間を語る上で重要なファクターである。
あのオーブ攻防戦、オノゴロ島での戦い、そして家族の死はシンの人生を大きく狂わせ、心に強烈な傷をつけた。
それはシンの胸の内側に渦巻く「力への欲求」そして「目に映る弱者を守ろうとする欲望」の源泉となっている。
ハヤトに初めて会ったとき、ゲッターに初めて乗ったとき、つい少し前に、アーモリーワンであった初めての実戦の時、そして今、彼の意識に浮かぶ「あの風景」。
燃え上がる紅い炎、大きくえぐられた大地、かつては両親であったものの残骸、そして千切れた赤い手、青と白の死天使。
あの「紅い風景」は彼にとっての「地獄の風景」だ。この「風景」を繰り返さない事、それが彼の究極的な望みなのだ。
そのために彼はZAFTに入り、ゲッターに乗り、戦場にいる。ふと、そういう風に考えていたときだった。
「・・・・なあ、あのザクのパイロットっていったい誰なんだ?」
さきほどのアーモリーワンでの戦闘を思い出しながら、シンはヨウラン達に尋ねた。
危ないところを助けてもらったのだから、お礼ぐらいはしておきたい。
「オーブのアスハ代表が乗ってたのよ、それ。」
背後から整備士コンビとは違った声がする。ルナマリアだ。
「それで、さっきは大変だったんだから!」
「オーブの・・・・・アスハぁ!」
ふと、また頭を過る「紅い風景」。それを頭の隅に追いやりながらルナマリアのもとへ近づきながらシンは尋ねる。
「なんで、こんなところにオーブの代表がいるんだよ?」
「さあ?あたしもびっくりしたけど・・何か議長との会見中に巻き込まれたとか護衛の人が言ってたけど。それで、あのザクがどうかしたの?」
逆に聞き返してくるルナ。
「ああ、さっきの戦闘の時に少し世話になったんだ・・・お礼ぐらいは・・って・・・」
そう言って、彼の胸に生じる不快感。“オーブのアスハ”はある意味シンにとっては特別な存在だ。途方もなく大嫌いだという意味において。
あんな連中に助けられたのかと思うと、無性になさけなくなってくる。
「ふーん・・・。」
ルナマリアが深く追求してこなかったのがまだ救いだろう。これ以上あんな連中のせいで嫌な思いはしたくない。
「それはそうとさー・・・・アレに乗ってたの“アスラン”かも。」
「“アスラン”?・・・・それって、あの“アスラン=ザラ”のことか?」
「それ以外にだれがいるって言うのよ。さっき代表が、護衛の人のことを“アスラン”ってね、本人はアレックスなんちゃらって名乗ってたけど・・・はら、あの人ってオーブに亡命中って噂だったじゃない!」
「アスラン・・・・ザラ・・・・・」
“アスラン=ザラ”の名前はシンも聞いている。前大戦の「英雄」にして謎の失踪を遂げた男。
父にして、プラント評議会議長のパトリック=ザラ暗殺のとばっちりを受けて暗殺されただの様々なうわさが流れていたが、その中でも最も有力だったものが、“オーブに亡命したらしい”というものだ。
ルナマリアの言っていることが事実なら、その噂が本当のことだったということだが・・・・・
(どうでもいいけどな・・・・)
シン=アスカにとってはあまり興味のない話だった。“MS乗り”の間ではあこがれの的らしいが、すでに“ゲッター乗り”として「引き返せない」所まで首をつこっんでしまった身では関係がない。
ただ、前大戦の英雄ならそれなりに立派で貫禄のある人なんだろうか、ジンさんとどれくらい張り合えるかな、などと考えただけだった。
「しかし、この艦もとんだことになった物ですよ・・・進水式の前日にいきなり実戦を経験することとなるとは・・・・」
デュランダル議長は隣にいる自分たち―――アスランとカガリ―――にそう言った。
全くもってとんだことだとアスランは心の中で溜息をつく。安全だと思って飛び込んだ戦艦で、降りたとたんに銃を突き付けられ(まあ、これは仕方ないし、相手の反応は当然のことだとしても)、安全だと思った艦はいきなり戦闘を開始し、しかも襲撃犯の追撃に出てしまった。
デュランダル議長とも会えて、身元も確認されたのが不幸中の幸いだろう。
つい先ほどの艦長室での対談のあと、自分たちは議長の誘いにのってミネルバ艦内を見学中である。
いくら友好国の代表とはいえ、サービス過剰のように思われ、どんな腹があるのかとかえって疑ってしまったが、おそらく巻き込んでしまった国家元首への彼なりのお詫びの意味もあるのだろうと推測して納得しておいた。とりあえず断る理由はない。
アスランとカガリとデュランダルの三人は、さきほど呼び出され、案内役をやっている金髪の美少年、レイ=ザ=バレルの先導に従って艦内を見学している。
「ここからモビルスーツデッキに上がります。」
先導していたレイがとあるエレベータの前に立ち、扉を開きながらそう告げる。
「「!」」
思わず顔を見せあうアスランとカガリ。デュランダル議長は何の頓着もなくエレベータに乗りこんでいる。
いくらなんでも格納庫まで見せるとはやりすぎではないかと思うが、こちらには断る理由もない。
「・・・・」
相手の意図がいまいちよくわからない。単なるサービスのつもりか、それとも、所詮は素人とこちらを見くびっているか、いまいち判断しかねる。
「この艦の中心に位置するとお考えください。無論、艦載数などは申し上げできませんが・・」
などと、議長が話していると、乗っていたエレベーターのドアが開く。ついたらしい。
「“ZGMF-1000ザク”はもう既にご存じでしょう。ZAFTにおける現在の主力機です。」
カガリもアスランも興味深く格納庫を見渡す。そして気づく。三層になっている
特徴的なデッキ。そしてその中におさめられている赤、白、黄色の戦闘機。
「「あっ!」」
「そういえば工廠ですでにご覧になっていたのでしたね、これを・・・」
二人の反応を見て、とても楽しそうな顔をする議長。彼は得意げに説明を始める。
「これこそが我々プラントが創り出したMSとはそのあり方を根底的に異にする、
全く新しい人型起動兵器。その名も・・・・・」
議長の説明に聞き入る二人。
「ZGSR-04、“ゲッターロボ”!」
「ゲッターロボ・・・・・」
カガリが喘ぐような声を出している。アスランにはなんとなくその気持ちがわかるような気がする。あの“赤い鬼”。初めてMSを見たときも圧倒感を感じはしたが、それとは全く違う異様な雰囲気をアレはもっていた。
そう、まるで生き物のような・・・馬鹿馬鹿しい、相手はただの鉄の塊だというのに。
「私には専門的なことはわかりませんが、これを開発した技術者の言葉を借りれば“独特のメカニズムと動力、そしてMSとは比べ物にならないパワーと汎用性を実現した機体”だとか・・・」
そう言い終えて、カガリの方を見てからかうように言った。
「しかし、やはり姫にはお気に召しませんかな?」
議長の言葉でやや気おくれしていたカガリは正気に戻ったようだ。さきほどまで体を支配していた恐怖感を振り払って議長に向き合う。
「議長はうれしそうだな・・・。」
「うれしい・・・というわけではありませんが、あの混乱の後、ここまでの物を作る力を持てるところまで来ることができたと言うことはやはり・・・・」
「力か・・・・」
カガリはそう呟くと、目をキッと上げる。
「争いが無くならぬから力が必要だ・・・そうおっしゃったな議長は・・」
「ええ・・・」
硬い視線でデュランダルを見るカガリ。それをあくまで柔らかい眼で受け止めるデュランダル。
「だが!では、このたび貴国が被ったことにつてはどうお考えになる!?
たった三機のMSを奪おうとした連中に貴国が被った被害の事は!」
カガリの激しい口調に対して、あくまでデュランダルは穏やかな姿勢を崩さない。
「では、力を持つべきではないと?」
「そもそもなぜ必要なのだ!そんなものが、今さら!?」
だんだん激しくなるカガリの口調。格納庫に響き渡る口論(と、いうよりは一方的につっかかっているだけなのだが)に、作業しているスタッフの奇異の視線が向けられる。だが、カガリはかまわない。
「我々は誓ったはずだ!もう悲劇は繰り返さない!お互いに手を取り合って進む道を選ぶとっ!」
カガリの脳裏に一瞬過るのは父の最期。そうだ、もうあんなことは繰り返さない
と・・そう考えていたその時。
「さすが、きれ「アスハ代表は私の作ったゲッターがお気に召さないようで?」・・・・」
下の方から、決して大きくはないが、だがよく通る、独特の威圧感のある声が響いてくる。アスラとカガリが声のした方向を見ると、そこには東洋系の黒髪の男が立っていた。長い髪に、美しいが、どことなく冷酷さを感じさせる顔。
黒スーツに、トレンチコートを見事に着こなした男。たしか襲撃直前にあった男だ。(後ろでなにやらアホ毛の女に口を押さえられて羽交い絞めにされている黒髪の少年がいたが、まあどうでもいい)
「おお、姫。彼の紹介がまだでしたね。彼こそがゲッターの開発者にしてテストパイロットチームの主任・・・」
「国立国際航空技術局(National International Space technology andAeronautical of Robot
technology)、通称“NISAR”局長、ハヤト=ジンです。以後お見知り置きを。」
男はどことなく嫌な印象を与える笑みを浮かべながらそう言った。