556 ◆GHLUSNM8/A氏_プロローグ

Last-modified: 2011-09-06 (火) 23:40:42
 

コズミック・イラだよ、アムロさん!
プロローグ 「記憶喪失だよ、アムロさん!」

 

俺の名前はアムロ。残念なことに、俺にはこれ以外の財産が無かった。

 
 

二か月前に俺は気を失った状態で見つかったそうだ。
どうやら俺はザフトの演習場の中で寝ていたらしく、そのまま軍の病院に運ばれた。
そこで目を覚ました俺は、この「アムロ」という名前以外をすべて忘れてしまっていた。
医療スタッフたちは身元を確認するために俺のDNAを採取しようとしていたらしい。
今になって思えば、これは中々に恐ろしい状況だったのではないだろうか?
何故なら俺は、自分が「ナチュラル」なのか「コーディネイター」なのかすらも知らないのだから。
とにかく、検査がされようとしていた矢先、それは起きた。

 

演習中のMS(ジン、というらしい)が不注意の事故でこの病棟に背中から墜落したのだ。
建物は大きく揺れ、身体が震える程の破砕音が響き渡る。
MSは俺のいた部屋に壁を突き破って侵入してきた。
どうやら先ほどの衝撃でパイロットは気絶したらしく、ピクリとも動かない。
突然の出来事にそこにいた全員が唖然としている中、事態は最悪を迎えようとしていた。
それは崩落である。
骨が軋むような不気味な音が至るところから聞こえてきた。
その時そこにいた面々は、何かは分からないが何か危険な事が起きると直感した。
一目散に外に出ようとドアに走るが、非常にも先程の衝撃でドアは歪み開けることは叶わない。
部屋を包む絶望に、さらなる絶望が追い打ちをかける。天井が抜け落ち降ってきたのだ。
幸い小さな(といっても人ほどの大きさはある)破片だったので巻き込まれた人はいないようだが、
ここにきて俺たちは身に迫る危険の正体を知ってしまった。
ある者はMSが開けた穴から避難を試みるが、どうやらここは人間にとってみれば高い所にあるらしく、
彼らは下を見ると逃げおおせない事を悟って、その場にへたり込んだ。

 

誰もが死を予想した。俺もそうだった。しかし「アムロ」の身体だけは違っていた。
頭で考えるよりも早く俺は駆け出し、なぜかMSに取りついたのだ。
内心俺は困惑していたが、それを無視して俺の手はコックピットを開ける。
中のパイロットはやはり気絶していたが、大した外傷は見受けられない。一安心だ。
彼を脇に寄せスペースを確保すると、あろうことか俺はその中に滑り込んでいた。
気付いた時には操縦桿を握りしめ、コックピットも閉じられていた。

 

(やけに、懐かしい気がするな………)

 

この閉じ込められた圧迫感や、周囲で光る機器の類。
モニター越しで見える外や、無骨なシートの感覚。
何から何まで知らないのに、俺はこの巨体を隅々まで理解している。
そうして〈ジン〉は起動した。人がいるのでバーニアを吹かす事は出来ないが、
MSにとっては足がつくほどの高さだったのが幸運だった。
俺の操るMSは確かな足取りで地面を踏み締める。そして後ろに振り返り、両手を伸ばして天井を抑えた。
応急処置ではあったが、しばらくはこの建物も持つだろう。
他のMSや救助隊が来るまでの数分間、俺はMSに乗り続けていた。

 
 

これが、俺が目を覚ましてから30分で経験した事だ。
建物の中の全員が救出された後、俺は検査されるのだろうかと医者に訊いた。
だが彼曰く、

 

「ナチュラルになぁぁ!MSの操縦など!!出来るわきゃねぇだろぉぉぉぉおおおお!!!」

 

だそうだ。コーディネイターとはひどく高慢な気質も併せ持っているらしい。
まるで大将にでもなったかのような言い草だ。
ともかく俺は、コーディネイターとしてプラントで暮らせることとなった。

 

そして俺は今、ザフトに所属している。
彼らから見ればどうやら俺は「卓越したMS操縦技術」を持っているらしく、
地球との緊張が高まっていることも相まって、スカウトされたのだ。
アカデミー卒業という経歴を与えられ、緑色の軍服を羽織る。

 

自らの記憶がない中で、俺に残されたのは名前と体に染みついたMSの知識。
最初は自分の事が怖ろしくなった。
しかしあれから何度かMSに乗っているうちに、それが当然のようにも思えてきた。
ある意味で服よりも体に馴染む鋼鉄の巨人には愛着すら湧く。
もしかしたらMSに乗っている事で大事な何かを取り戻せるかもしれない。
確信にも似た感情が俺には芽生えていた。
過去も見えぬ中で、俺は明日に進もうとしている。

 
 

C.E.69年、アムロはクルーゼ隊へ配属される事となる。