556 ◆GHLUSNM8/A氏_第二.五話

Last-modified: 2011-09-09 (金) 01:03:59
 

第二・五話 「一か月が過ぎたよ、アムロさん!」

 

最終訓練『実技』

 

アムロが基礎体力のメニューを完遂する事は、ついに叶わなかった。
この一カ月で彼の体力は以前とは比べ物にならないほど増強されたが、
コーディネイターでも脱走を試みるようなメニューをこなすのはやはり無理があったようだ。
しかし通称「対美人局訓練」においては、過去最高(過去にこのような訓練がなされたかは謎だが)の
成績を常に収めている。
今ではディアッカだけではなく、クルーゼ隊の士官達や演習場のスタッフ達すらアムロを師と崇めていた。
今やアムロの名を知らぬ者はここにはいない。
だがそれは、なにも彼の精力に対する評価からだけではなかった………。

 
 

第7演習場・シミュレーションルーム―――――――――

 

『YOU LOSE!』
「くそ、またかよ!」

 

敗北を告げる機械音が鳴り響き、ディアッカは悪態をつきながら
レーシングゲームの筐体に似た機械から出てきた。
これはMSの戦闘をCGでシミュレートし訓練するための機械だ。
ここには二台設置され、場合に応じて対戦が可能になっている。
ディアッカが出てきた台の正面におかれている、もう一つの台から出てきたのはアムロだった。

 

「ディアッカはまだ武器に頼り過ぎているな。
 アウトレンジからの攻撃は否定しないが、接近されても銃火器を手放さないのは自殺行為だ。
 それに残弾も少なかったんじゃないか?」
「兄貴にゃ遠距離射撃してもかすった事すらねぇじゃねぇか」
「相手の軌道を予測して撃つだけでは不十分だ。
 自分の予測通りの位置に相手を避けさせる射撃が出来るようにならなくてはな」
「そりゃコーディネイターでも無理ってもんだ………」
「アムロ、次は俺とだ!」
「イザークはさっきアスランに負けたばかりだろう。その反省点を潰してからにしろ」
「ぐぬぬ………」

 

アムロの名を一躍有名にしたのが、このMS訓練だった。
クルーゼから命じられた訓練其の三、それはシミュレーターを使った錬度の向上だったのだが、
初訓練でアムロが叩きだしたスコアはなんと歴代二位だったのだ。
一位のクルーゼともそのスコアは僅差であり、これはザフト全てのMS乗りを驚愕させることとなる。
その衝撃はMS部隊のみならず、整備・補給・医療・諜報などザフト全域に波となって押し寄せ、
アムロは今プラントで最も注目される人物の一人になった。
間近でアムロの操縦技術を目の当たりにしたクルーゼ隊の驚きは、もはや形容のしようがない。

 

記憶喪失で、はじめてのシミュレーションで、
基礎トレーニングもままらなかったアムロが―――――――はるかに、格上。

 

イザークは敵対心に燃え、ディアッカは以前にもまして心酔し、
アスランはその強さに憧れ、ニコルからは笑みが消えた。
それぞれ胸に抱いたものは違うが、彼らは一様にアムロに近付くべく訓練を重ねた。
アムロも惜しむことなく彼らを指導した。
一か月前のクルーゼ隊と今の彼らでは、MS一個…いや二個小隊分も戦力差があるだろう。

 
 

『クルーゼだ。シュミレーションルームにいる者は今すぐ市街地戦用MS演習場に来てもらおう。
 最終訓練は実機で行うぞ』
彼らの隊長の声がスピーカー越しに聞こえる。
いよいよ本物のMSで戦場さながらの模擬戦に挑むことになったのだ、一同の顔は自然と険しくなる。
「さぁ、いくぞ」
アムロの声を号令に、彼らはクルーゼとMSが待つ場所へ向かった。

 
 

市街地戦用MS演習場―――――――――

 

「アムロ以下五名、到着しました」
「よし、では訓練の内容を伝えよう。
 大半のMS戦では僚機との連携が生死を分けることとなるのは分かるな?
 …よって今回は2対2のチーム戦を行う」
「2対2、ですか」

 

アムロは頭の中で瞬時にチームを編成する。
(相性が良いのはイザークとディアッカ、それとアスランとニコルだな)
(前者はディアッカが後方射撃、イザークが近接戦闘に秀でていることを鑑みるに
 高い攻撃能力が期待できる。両方の特性を生かした戦闘はかなり手強いだろう。
 それに熱くなりやすいイザークの為にも援護射撃が必要だ。
 その点、ディアッカの射撃センスには一目置けるから安心できる)
(後者はバランスが素晴らしい。四人の中でもっともアベレージの高いアスランをアタッカーとし、
 常に冷静なニコルがそれの補助に当たる。攻防のどちらにしてもむらつきが無い。
 こちらが攻める分には前者より難易度が高いだろうな)
(俺はローテーションで組めばいいか)

 

クルーゼは真剣に思案しているアムロを見ると、フッと笑って愉快そうに言った。
「言い忘れたがね、アムロ。君はチームを組まなくて構わんよ」
「…?それはどのような意味ですか?」
「君と私は単騎で模擬戦を行う。
 ザフト内で噂になっている『白のアムロ』とは一度戦ってみたかったのだ」

 

その言葉に驚いたのはアムロだけではない。その場にいた四人も驚きで瞳を大きくする。
アムロの成績はクルーゼというザフトでも有数の戦士の血を騒がせてしまったのか。
『白のアムロ』とはシミュレーションで常に機体の色彩設定を白にするアムロに付けられた
あだ名のような物なのだが、その名を敢えて呼ぶという事とはつまり部下としてのアムロではなく、
一人のMSパイロットとしてのアムロと戦いたいというということを意図しているのだろうか………。
しかしクルーゼの言葉は説明された内容と矛盾する。アムロはそこに納得しなかった。
「しかし、それでは訓練にはなりません。戦場での生存率を上げるための連携訓練ではないのですか?」
「エース同士の戦いとは戦場全体の士気に関わるものだ。
 もっとも戦争などザフトはまだ経験していないがね。それに………強者は自然に惹かれあってしまう」

 

(この男、自分をエースと呼ぶのに何の抵抗もないみたいだな。大した自信だ)
アムロはまだ納得のいかないような表情を浮かべるが、しかし心のどこかでそれに頷いていた。
彼自身は覚えていないが、「カミーユとシロッコ」、「ジュドーとハマーン」はそれぞれ、
広大な宇宙で無数のMSが乱戦を繰り広げる中、宿命ともいえる決闘を繰り広げてきた。

 

そして、「アムロ・レイとシャア・アズナブル」も。

 

その忘れられた記憶が、クルーゼの言葉にある種の共感を彼に呼び起していたのだ。

 

「………分かりました。力不足ですが、クルーゼ隊長の相手をさせてもらいます」
「お手柔らかに頼もうか、『白のアムロ』君」

 

こうして、二人のMS乗りは互いに死力を尽くすこととなる。

 
 

ディアッカ「なんか俺たち忘れられてね?」
アスラン「そうみたいだな…」
イザーク「隊長はこの戦いを参考に俺たちの訓練を進めるつもりなんだ!」
ニコル「なんか僕たちの出番はもう無い気がします」