556 ◆GHLUSNM8/A氏_第三話

Last-modified: 2011-09-19 (月) 23:55:34
 

第三話 「ニュータイプだよ、アムロさん!」

 

クルーゼは悩んでいた。
それもこの一カ月いかなる時も。
そしてそれは、アムロのクルーゼ隊配属が決まった日にまで遡る。

 

「あの『白のアムロ』を私の隊にですか?」
「ああ、大変有能な男だが、いかんせん不確定要素が多すぎる。
 しかしザフト最強とまで言われている君なら万が一の事態にもうまく対処してくれるのだろう?」
「そのような未知の人物を、戦線に出すこと自体危険だと思いますが…」
「それほどザフトは人間に乏しいのだよ、認めたくは無いがね。
 それに、大差こそついていないもののシミュレーションでは君の方が好成績なのだ」

 

その言葉には、おかしな行動を起こしたらすぐにでも消せ、というニュアンスが含まれていた。
クルーゼは意味深な笑みを浮かべてその命令に頷いて、上官の部屋から退室し自室に向かう。
廊下を通り過ぎる人々は颯爽と肩で風を切るクルーゼに憧れと尊敬のまなざしを向けていた。
そしてクルーゼの部屋には、彼以外の誰もいない。

 

「アムロが、私の隊に、か………」

 

クルーゼは机のドアを開けると、中から錠剤のような物を取り出した。
それを口に含もうかとした瞬間、彼の心のダムは決壊した。

 

「つうかありえねー!!なんで身元不明人がザフトに入れんダヨ!!てかあいつMSに関しちゃバケモンじゃねぇか!!何?シミュレーションで二位って?そりゃそうに決まってるじゃねぇか!!!俺の記録は『人間にはまず不可能なスコア』に改竄してあんだよ!!!それに僅差ってあいつ一周回って馬鹿なんじゃねぇ!!!?」

 

クルーゼはその手に持った白い物体を貪るように咀嚼する。恐らくヨーグ〇ットだ。

 

「もしあいつが『シミュレーション一位のクルーゼ隊長と手合わせしてみたいですね』とか言い出したらどうすんの?はいはいワロスワロス、俺が必死になって作ってきたキャラが大☆崩☆壊!!!笑えねーーー!!なんで俺が仮面なんて付けてると思うの?なんで俺が意味深で厨二なセリフを使うと思ってんの?キャラ作っwwてんwwwwだwwよ!!虚像は実体より大きくなるってね!!!相手が勝手に俺をすげー奴だと勘違いしてくれんのさ!!!俺マジ孔明wwww!!!いや実際強いんだけどね、俺!」

 

肩を大きく揺らし呼吸も荒くなっていたクルーゼだが、すぐに落ち着きを取り戻し一つの計画を立てた。
彼は精神こそ不安定だが、そしてさっきの言動からは絶対に考えられないが、
本来はとても優秀な男なのである。

 

(アホみたいな訓練をさせて、あいつをいびり出せば良くないか…?)

 

クルーゼはその計画を実行に移した。訓練其の一は大成功だ。
やはり奴は青年というよりおっさんに近い。
そう考えたクルーゼは体力をメインに据えた訓練を与え続けた。
無論、訓練其の二もある予想のもとに作られたものだ。
あれだけ強いんだから、どうせMSにしか乗ってきていない童貞(笑)なんだろう。
そうして決行された対美人局訓練という実に馬鹿馬鹿しいそれは、しかし彼の予想を裏切った。
いまや娼婦の間でもアムロファンクラブが出来ている始末。
ベビーフェイスだか何だかは知らないが、本当に嫌な奴だな。
しかし、最大の問題はそこではない。
クルーゼはアムロに対する部隊内からの信頼にこそ危機感を抱いていた。
アスラン、ディアッカはすでに籠絡され、あのイザークまである種の尊敬を覚えている。
ニコルはアムロに付いた方が得だと考えている頃だろう。

 

(あいつの方が隊長に向いているんではなかろうか?)

 

ふとクルーゼの脳裏にそんな言葉がよぎる。
そんなことになれば彼は今の立場から追われることになり、宿願―――――――人類の滅亡から
遠のいてしまうからだ。
ぞわりとした感覚に冷や汗が流れ、悪い想像を頭を振り払って打ち消す。

 

(威厳を取り戻さなければ。私はラウ・ル・クルーゼなのだから)

 

そうして、クルーゼとアムロの決闘は実現した。

 
 

市街地戦用MS演習場―――――――――――――

 

そこには二体のMSが互いを睨みつけるように直立していた。
方やザフトの代名詞であるジン、方やザフトの未来を担うシグー。
二体ともパイロットの搭乗を今か今かと待つようにコックピットを開けはなっている。
ジンはアムロの要望通り白の塗装がされていた。

 

「なぁアスラン」
「どうしたディアッカ」
「隊長のMS、ありゃなんだ?」
「知らないな。どう見ても新型だ………恐らくジンよりも高性能だろう」
「な、なんだってぇ!?」

 

ディアッカが素っ頓狂な声をあげた頃に、アムロとクルーゼは着替えを終え更衣室から出てきた。
とはいうもののノーマルスーツに身を包んでいるのはアムロだけで、
クルーゼはというといつもの制服しか来ていない。ディアッカはすぐさまアムロの下に駆け寄る。
「兄貴!!隊長のMS、ありゃジンとは違いますよ!」
「ああ、雰囲気でわかるさ」
「じゃあこんな闘いは受けるべきじゃないですって!
 あっちは最新鋭機で、しかも兄貴は侵攻部隊の役でしょ!?」
あまりにアムロに不利だ、とディアッカは言外で言っている。
それは暗に「クルーゼは卑怯だ」と非難しているようにも聞こえた。
防衛戦は部隊の規模や地形にもよるが、攻めるよりも守る方が有利だと相場が決まっているし、
一対一の場合簡単に待ち伏せされる可能性があるからだ。

 

「だからといって、負けるとは限らないさ。それにな、ディアッカ」
「なんですか?」
「MSの性能の違いが、戦力の決定的差ではないということを教えるいい機会だ」
「自信家だな、アムロ(………何とでも言うがいい、ディアッカ。私は勝利という結果が必要なのだ)」
「いえ、そんなことはありません。隊長もそういう事を…不利な状況でいかに戦うかを
 ディアッカ達に示すために、このような状況を設定したんでしょう?」
「そう言われると弱いな。私はただ君に勝ちたいだけなのかもしれない」

 

クルーゼはわざと本心に近い事を言うが、これも彼がザフトでのし上がる為に培った話術だ。
聖人君子になるのではなく、凡庸な所もなければ、俗物共からの信用は得られない。
これは彼なりの処世術である。
「さぁ話はここまでだ。早速演習を開始しよう」
二人はMSに乗り込む。
クルーゼは先に街に入り、アムロは5分後に後を追って街に侵攻する。そういう段取りになっていた。

 

「ふぅ。ディアッカにああ言った手前、惨敗は避けたいが。どうだろうな」

歩を進めるシグーを見ながら、アムロがコックピットの中で不安げに呟く。
彼はこのジンという機体について何の疑問も抱いていない。シンプルないいMSだと感じている。
だがなんというか………予感、というか、嫌な感覚がこのMSを見た時からアムロにとり憑いていた。
『アムロ・レイ』であればその異変に気付けたかもしれないが、
頭ではなく身体だけでMSを操縦する今の『アムロ』では、それは不可能だった………。

「そろそろ時間か………アムロ、出撃する!」

アムロはジンと共に戦場へ入っていった。

 
 

(忌々しいアムロ、ここで貴様は私に倒されるのだ。
 情報などいくらでも書き換えられるのだから、どんな手を使っても勝ってしまえればそれでいい)

 

シグーの中でクルーゼは邪悪な笑みを浮かべていた。いくら待ち構える側だとしても、
まだ敵が見えない状況でいつ会敵するかわからないというのに、彼は余裕だ。
それもそのはず、彼には全てが「見えて」いた。
演習場のいたるところに設置された観察用の各種センサーにハッキングし、情報を得ているのだ。
彼にはアムロの所在が手に取るように分かる。

「長期戦になってしまえば不正が明るみになるかもしれんな。早々に片をつけてねば」

アムロの駆るジンは今、クルーゼの真正面にいる。
しかし両者の間には背の高い建造物がそびえ立っていた。
アムロには分からないが、クルーゼには分かっている。敵がそこにいることを。

「正々堂々手段を選ばず、真っ向から不意討って御覧に入れよう!!!」

 

クルーゼは地を滑るかのようにシグーを巧みに動かし、ビルの横からアムロの歩く街道に出る。
すでに奴の所在は確定している。あとはその地点に一斉射を行うだけだ!
ジンの姿を確認する前から、彼はアムロがいるであろう場所に弾丸の雨を降らした。
右腕に持つ突撃機銃と盾に内蔵されたバルカン砲が唸る。発射されるのは実弾ではなくペイント弾だ。
その時、シグーのコックピット内にけたたましいアラームが鳴り響く。クルーゼは困惑した。
あわてて機体を確認すると――――――――――――――

 

「み、右腕に被弾だと!?」

 

慌てて右側面に盾を構えると、そこには機銃を構えた白いMSが幽鬼のように――――――――――――。

 
 

「この道は………待ち伏せにはいいな。
 街道沿いのビルの裏でMSを待機させ、敵が見えたら奇襲をかけられる」

アムロはここでクルーゼが虎視眈眈と自分を狙っていると確信した。
しかし、彼の中ではこれからクルーゼが現出する「完全な奇襲」は想定の外である。
あくまで敵はこちらを肉眼で確認する必要があるので、こちらが全く感知できないタイミングでの
攻撃は不可能だ。アムロはそう考えていた。

 

それは、突然の事だった。

「っ!!!!なんだ、この感覚は!?」

 

銃を突きつけられているかのような、そんな危機的な悪寒がアムロに襲いかかる。
まるでむき出しの刃物のような悪意。その感覚がする方向に目をやると、そこには一本の脇道があった。
間違いなく、クルーゼはここからやって来る。それも、数瞬後に!!

「これが殺気、とでもいうのか!ならば!!」

アムロの見立て通りにシグーは現れた。その両の手がもつ凶器の口をアムロが「いた」場所に向けて。

「やはりな!だが甘いぞ、隊長!!」

アムロはすでに機体を射線からはずし、逆に無防備なシグーの右側面に狙いを付ける。
シグーの武器が火を噴くのとほぼ同時に、ジンの持つ突撃機銃も咆哮した。
コックピットを正確に狙った射撃は銃口とコックピットの間に入ったシグーの右腕に
ペイントを残すのみだったが、これでシグーは片腕を使えない。
ジンは爆発的な加速でシグーに向かい一直線に猛進する。
銃はすでに腰に回しており、その右手には重斬刀という原始的で凶暴な武器が握られている。
もはや必殺の間合いだ。あとはアムロが剣を振りおろすだけで、この勝負の幕引きになる!

 

誰もがそう確信したのだが。

「なっ…!!!」

 

振り上げた右腕は、ゆっくりと脱力してしまった――――――――――――――――。

 

クルーゼは困惑していた。
「絶対に避けられない攻撃」をアムロはいとも簡単に避けてみせ、あまつさえ攻撃をしてきたのだ。
自分と同じような真似をしているのかと勘繰ったが、それもありえない。
クルーゼの混乱は極みに達していた。
頭では戸惑いつつもMSを的確に操作しアムロとの接近戦に備えるあたり、彼は正真正銘のエースだ。
しかし瞬き数回ほどの出遅れが既に致命的なタイムラグとなっていた。
振り下ろされんとしている剣は模造刀であり、直撃してもMSが破壊されることは無い。
しかし、ここでの敗北はクルーゼの野望を打ち砕くに十分だ。
彼はそれを断固として阻止するために、最終手段を使った。

 

(整備兵を手なづけて、奴のジンに施させた細工がこんなところで役に立つとはな!)

 

クルーゼは懐から隠し持っていた一つのスイッチを取り出す。
それはジンの右腕から全ての機能を奪う力を持つものだった。彼はそれを何のためらいもなく押す。

「ポチっとな」

瞬間、頭上高くに振り上げられていた重斬刀はジンの右腕が機能を停止したと共に、
地へと落ちて行った………。

 

「な、何が起きたんだ!?」
「ふはははははは!!!まさかこんな時に故障とはな!世界は私に味方しているようだ!!」

アムロは咄嗟に後退する。クルーゼはそれに対して容赦なく追撃をしかけた。

「まだ振り出しに戻っただけだ!」
「それはどうかな!?」

シグーの左腕には先ほどジンが落とした重斬刀が握られていた。
両者の距離は未だ接近戦の間合い。状況は一転、アムロに不利となる。
アムロは苦し紛れに弾幕を張る。ジンの突撃機銃から残弾を全て吐き出すかのような勢いだ。

「面倒な事を!」

しかしシグーには盾が装備されている。
76mmの弾丸は全て弾かれ、あざやかなピンク色をその盾に残すだけだった。

だがアムロの狙いは攻撃ではなく目くらましであり、目的は果たされた。
ジンは完全にクルーゼの視界から消えたのだ。

 

「ちょこまかとすばしっこい奴………!だがなアムロ、私には『見える』ぞ!!」

クルーゼはモニターに映った熱源を確認する。
どうやらジンは正面のビルを盾にするように裏手に回っているようだ。
もはやアムロは袋の鼠。どのように仕留めてやろうかと仮面の下で目が笑う。

(アムロは今の射撃で弾は残り少ないはず。
 ならば2,3発の被弾は覚悟して物量の違いを見せてやろうか。
 あとはどこから攻めるかだ………)

シグーは握っていた重斬刀を放り投げ、かわりに突撃機銃を左手で持った。
右手は使えないが、これで万全の状態と同じ火力を維持することが出来る。

(簡単に考えれば、右、左のどちらかから回り込んで攻めなければな。
 しかしこのシグーはあらゆる面でジンより優れている。
 ならばジンにできないような、『空中から攻める』という手を使わせてもらおう。
 鷹の眼のように高い地点から俯瞰すれば、アムロがどのように動いても対応できる)

クルーゼはシグーの馬力を生かして、ビルを飛び越えそのまま射撃を行うことを立案した。
確かにそれなら、アムロが先ほどのような超反応を見せても混乱することなく
視界にジンを捉えておけるだろう。
あとは左手の機銃と内蔵バルカンで雨を降らせれば、弾数に勝るシグーが単純な数の勝負で勝てる。
下手な鉄砲、という奴だ。もちろんクルーゼは一発一発に必殺の精度を誇るが。

(アムロよ、ここで幕引きだ!)

 

シグーがその巨体をロケットのように宙に舞いビルという山を越え、
その眼光は獲物を補足しようとギラつく。
いた。アムロだ。ジンの右腕は無い。
無いだと?いやそんな些細なことはどうでもいい。とにかくここで仕留めなければ。
奴もこちらを向いている。だが、この勝負すでに私の勝ちだ!!

 

「怯えるがいい!竦むがいいさ!!MSの性能に足を引きずられながら死んでしまえ!!!」

 

クルーゼが引金を引く瞬間。二つの兵器が凶弾を放つ寸前。
彼の視界は黒く染まる。

「なぁあ!?」

こ、これは………MSの腕!?もしや自分で引きちぎった右腕を投擲してきたのか!!!

「こんな目くらましがあああ!!!」

クルーゼはジンの右腕を左手で払おうとするがその腕はシグーの手前で爆散する!

「!!!!くそ、モニターが!!何が起こったというのだ!?」

爆風と破片を盾で防ぎ、再び地に目をやるとジンがいない。
有利な視界は既に失われていて、それでもシグーの眼はせわしなく動く。

 

「悪いな、隊長」
「アム、ロ…?」

 

ジンはシグーの頭上にいた。アムロは一瞬の隙を突いて急上昇し、クルーゼの背後に回ったのだ。

(馬鹿な、ジンでここまでの機動を!…しかも片腕を欠いて姿勢制御も困難な状態で!?
 いや、今はそれどころではない!何故奴は私の行動を読める!?いやいやそれも違う、
 今考えるべきはそんなことで……!!!!)

今度こそ、クルーゼの混乱は彼のキャパシティを超え氾濫した。

 

「仮面の相手には、手加減できないんでな!!」
「ぬああああああ!!!」

 

ジンは華麗にかかと落としを決め、シグーの胴体を激しく叩き付けた。
そしてクルーゼは地へと急激な速度で落下し―――――――――――。

 

ドゴォォォォォォン!!!

 

大地を揺るがす衝撃がアスラン達に伝わる。
彼らはアムロとクルーゼの戦いを瞬きもせず観察し、そしてそれも今、終わった。

「兄貴、すげぇ…」
「まさか右腕を囮にし、しかもそれを撃ち抜いて爆発させるなんて」
「いや奴の凄みはその後のジンの操縦だ。まさかあんな短い間に隊長の背後に回るとは………」

ディアッカ、アスラン、イザークは呆気にとられて口を大きく開けている。
ニコルはついさっきどこかに行ってしまった。三人の眼にはアムロへの尊敬と恐怖が混ざっている。

 

「でもよ、俺は一つ言いたいんだ」
「奇遇だな、ディアッカ。俺もだ」
「どうやら思うことは同じのようだぞ、アスラン」
三人は一呼吸おき、そして声を揃えた。

 

「「「演習なのにやりすぎだろ………」」」

 
 

アムロのジンはシグーを担いで、ゆっくりと歩を進める。
向かう先は赤服の少年たちの所だ。ディアッカ達も堪らずジンに駆け寄る。

「兄貴ー!!あんたはやっぱり最強のコーディネイターだ!」
「あんな戦術、アカデミーでは習いませんでしたよ!」
『ディアッカとアスランか』

スピーカーからアムロの声が響いた。ジンの頭もそれに合わせて下を向く。

『なぁディアッカ』
「え?な、なんですか兄貴?」
『残弾が少なくなっても武器は使いようだ。さっきの助言に付け加えておく』
「………。プッ。あははははは!!了解です、兄貴!!」

ディアッカは笑い涙を目に溜めながら敬礼をした。
まさかそんなことを言う為だけに、あんな戦い方をしたんじゃないのだろうか?とまで思える。

『さぁディアッカ、アスラン、それにイザークも。隊長をコックピットから出してやってくれ』
「「はい!!」」
「きさっ…!………貴方に言われずともやる!…や、やります!!」

 

三人はシグーのコックピットから気絶したクルーゼを引っ張り出し、休憩室に運んだ。
ジンから降りたアムロも少し遅れて到着する。

「ん~~……」
「あ、隊長の目が覚めたみたいです!」
「そうみたいだな」

上半身を起こしたクルーゼは未だ頭が朦朧としているようだ。

「ここは?………!!アムロ!?と、ということは…私は、負けたのだな」
「結果的にはそうなります。ですが、どちらが勝ってもおかしくは無い戦いだったと思います」
「(何言ってんだコイツ…?ああそうか、まだイカサマがばれてないのか)…」
「隊長?まだ御気分が優れないんですか?」
「ああいや、体は大丈夫だ。しかし君もあんな不運に襲われながらよくあんな闘いが出来るものだな」

 

「不運、ですか」
「!?」

 

それは、突然のニコルの発言だった。
彼の脇には怯えたような整備兵と、何故か勝ち誇った顔の娼婦が立っている。

 

「ニコル、お前今までどこに…!」
「アスランは少し黙っててください。………クルーゼ隊長、この人に見覚えがおありですね?」

ニコルはいつもの笑顔のままで横の整備兵を指した。
自分が指された事で彼の体はびくりと震えたが、それを見たクルーゼは
震えることすらできず顔を青くしている。

 

「あなたがアムロさんの機体に細工を仕込むよう命じた、その人ですね?」
「「「「!!!」」」」「アッチャー」
「そ、その!自分はクルーゼ殿に脅されて、仕方なく…!
 アムロさんには本当に悪い事をしてしまいました!!」

 

整備兵は泣きながらアムロに土下座をする。
アムロ達はまだ事態が飲み込めないらしく不思議そうにそれを眺めた。

「ぼ、僕にはまだ何が何だか分からないが、とにかく頭をあげてくれ」
「隊長が街道で伏撃をかけた時から、おかしいなって思いましたよ。アムロさん、つまりですね」

 

ニコルはクルーゼの策謀の全てを暴露した。
彼がセンサーでアムロの位置を常に把握していた事。
ジンの右腕に誤作動を起こさせるような機械を仕組んだ事。
そして娼婦たちに協力してもらって整備兵の口を割った事。
(娼婦らは『ニコル君の頼みならお姉さんたち頑張るわよ!
  それもアムロさんの為なら、一肌脱いじゃうんだから!』と言っていたそうだ)

 

「これは…整備兵にも美人局訓練をさせるべきだったかな」

クルーゼは自嘲的な笑みを含めて言った。

 

「卑怯者だな」
「卑怯な人ですね」
「そんな苦境でも勝っちまう兄貴カッケェ」
「エゴの塊のような男だな………」
「意地でも勝ちたかったんですよ、隊長は(見え見えの手段を使うなんて馬鹿なの?死ぬの?www)」

 

蔑みの目線。まるで家畜を見るようだ。ニコルだけは満面の笑みでクルーゼを見下ろす。

 

「………ごめんなさい」

 
 

それから数日後。
クルーゼはザフトに辞表を提出した。

 
 
 

プラント某所――――――――――――――――

 

ここはアダルトな雰囲気のバー。
一般の市民がちょっとひっかけに行く、というものとはケタが一つ二つ違うような店だ。
そんなところに、現・無職のクルーゼはいた。

「だって勝ちたいやん?負けたくないやん?」
「ラウちん、その辺にしとけ」
「これが飲まずにいられるかよ、ギルっち………」

クルーゼは手に持ったグラスを一気に傾ける。恐らくカシスオレンジだ。

 

「あんな奴が部下にいる時点で人類滅亡とか無理ゲーだろ…。てかいつ殺されるかもわからんぞ………」
「演習なのにMS一機分の修理費だもんなぁ」
「就職先、考えないと………」
「ここは奢るぞ。あとでたんまりヨーグ〇ットも買ってやる。100ってところか」
「案外ケチなんだな、ギルっちは」
「馬鹿、ダースだよ。ラウちんと俺は親友だろ?」
「ギルっち!」「ラウたん!」ヒシィ!

 

抱き合う二人の男。こうしてプラントの夜は更けていく………………。

 
 

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