960 ◆xJIyidv4m6 氏_Turn Against Destiny_第06話

Last-modified: 2010-04-20 (火) 02:21:33
 

第6話「激情の露出」

 
 

ホーク隊の隊長代理に就任してから八日間、シンはずっと隊員達をしごき倒していた。
一つはもちろん彼らを育て上げるため。
そしてもう一つは、彼らがどんなMSパイロットであるのかを知るためだ。
エドワードとジェームズはどんな間合いの戦闘も概ね器用にこなし、
ゴードンは接近戦が得意だがやや突っ込みがち、パーシーは大火力での砲撃戦が得意。
そしてジュディは、通常の間合いでの戦闘よりも狙撃が得意ということがわかった。

 

(部下を持つってのは大変だ。……アスラン、アンタもそうだったのか……?)

 

フォースシルエットのメインバーニアを大きく吹かし、シンは敵MSの正面に出る。
やや後ろにエドワードのチャージザクⅢが続き、その更に後ろ、マルスはカタパルトを再び開き、
ジェームズとゴードンの機体を吐き出そうとしている。

 

「敵MS八機、機種特定。全てダガーJと確認。本艦の正面に展開中。距離1000」

 

連合がダガーLの後継機として、戦後すぐに開発したダガーJ。
ダガー系列共通の青を基調としたカラーリングのこの機体は、高い機動性の割に抜群の扱い易さが
高く評価されており、今なお第一線で活躍している機体である。
ちなみに、テロリストからも大人気である。

 

「こっちでも確認した。しかしドレイク級に八機だって?
 艦に係留してたんだろうが、そんな数を用意してるなんてな」
「本艦は艦砲射撃で敵の数を減らします。MS隊は、撃ち漏らした敵機を排除して下さい」
「了解」

 

ミネルバ級の艦船は、一番艦ミネルバから五番艦ユピテルまでの五隻が建造されている。
内二番艦から四番艦はメサイア戦役から四年後に、三隻同時に建造されたものだ。
なので、その性能に大きな差はない。
では一番艦ミネルバと二番艦マールスの具体的な違いはというと、
灰色をベースに黒、紫でカラーリングされていること、
主翼から下に胴体が張り出し、そこにトリスタンが二門、CIWSが十二門、
ミサイル発射管が八門追加されていること。
更に、実弾砲のイゾルデが撤去され、空いたスペースにはレーザー機銃を試験的に導入、設置している。
そして、計四門のトリスタンの可動範囲がほぼ全方位に拡張されたこと。
本体のこまごまとした性能の違いはここでは割愛する。

 

「トリスタン全門照準変更、MSを狙え!ミサイル発射管、全門ナイトハルト装填!」
「了解。トリスタン全門、照準敵MS。ミサイル発射管、全門ナイトハルト装填」
「主砲の射線上のMS隊は退避願います!」

 

ちょうど最後のパーシー、ジュディが発進を終え、カタパルトから飛び出した勢いでそのまま上方へ避ける。

 

「よし、トリスタン、撃(て)ーっ!」

 

四門のトリスタンから合計八本のビームが伸びる。
八機の内の四機を狙った主砲は、内三機に避けられ、一機に直撃した。

 

「エドワード、ジェームズ、ゴードン、三人で一機ずつ叩け!
 パーシーとジュディは距離を取って援護!」

 

シンのセカンドインパルスが残った七機の真ん中に突っ込み、あえて的になる。
ビームのシャワーをかいくぐりながら牽制のビームライフルをめくら撃ちに連射し、
七機のダガーJをバラバラに散開させた。
そこをホーク隊のザクⅢが三機がかりで囲み、ビーム突撃銃の集中射撃で一機撃墜。
ジュディが乗る、ガナーの発展型であるアーチャーウィザード装備のザクⅢからの長距離砲撃が
二度、三度と一機のダガーJを狙い、四度目の砲撃がその右腕をもぎ取る。
ジュディの狙ったダガーJを挟んでちょうど反対側から隙を突いて、
パーシーが右腕を失ったばかりのダガーJを、
これまたアーチャーザクⅢで長距離砲撃を浴びせ二機目を撃墜。

 

「やるじゃないか、あいつら」

 

うそぶくシンは、ダガーJ三機を相手取っていた。
下手に接近戦を挑まず、つかず離れず囲んで代わるがわるビームライフルを撃ってくる辺り、
相手はそれなりの場数を踏んでいるとみえる。

 

「せっかくの実戦だ。フォースの機動性、試させてもらう!」

 

フットバーを限界まで踏み込むと、セカンドインパルスは大きく加速した。
そのスピードで、三機のダガーJの相対的上方に飛び出し、更に引き離す。
ダガーJはしつこく食い下がるも、セカンドインパルスとの距離はどんどん開いていく。
これ以上離される前にと三機のダガーJが次々にビームを放つ。
しかし、セカンドインパルスは腕を振り、その慣性で機体を振り回してやり過ごした。更に距離は開く。

 

「凄い機動性だ。これが量産機だって?」

 

ターンをかけたセカンドインパルスが、今度は逆にダガーJに向かって突撃した。
見る見る内に距離が詰まり、ダガーJのパイロットたちは相対距離を見誤った。
致命的なミスを犯したダガーJのビームライフルから吐き出すエネルギーは
次々とセカンドインパルスの後ろに抜けていき、唯一まともにセカンドインパルスを捉えた一発は、
胸部を覆うように構えたシールドに弾かれた。

 

「あんたたちが悪いんだ。テロなんてやるから!」

 

サーベルを抜いたセカンドインパルスが、最も手近なダガーJの右腕を切り飛ばした。
残りの二機がサーベルを抜いて迫るが、シンは右腕をなくしたダガーJのコクピット付近に蹴りを入れ、
二機の内の一機に押し付けた。
押し付けられたダガーJともみ合っている間に、シンは残りのダガーJが振るったビームサーベルを
腕ごとシールドで押しやり、またもその腕を切り落とし、返す刃で頭も落とす。
ダガーJの相対的斜め左上方に振り抜いた刃を左腕の肩口からL字を左右逆さまにしたような軌道で
サーベルを振ると、胸糞の悪くなるような光景の出来上がりだ。

 

「キラさんほどの瞬間芸じゃないけど……ま、ダルマには違いない」

 

いっぺんやってみたかったんだ、とうそぶいたシンが、犬歯を剥き出して笑う。
サーベルをラックに戻してライフルを抜いた。
もみ合っていたのをほどいて左手一本で突きかかってきたダガーJのサーベルを
シールドで横から叩くようにとっぱずし、唯一五体満足なダガーJが横合いから切りかかってきたのを
跳ねるように飛び下がりかわす。
かわした時にはライフルを挙げ、腕一本のダガーJを撃ち抜いた。
派手に四散したその破片をまともに浴びて、最後の一機が動きを止める。
そこをライフルをスライドさせて照準、トリガー。

 
 

「残りは?!」

 

新兵五人はどうしているかと思ったシンがそちらを見ると、
砲撃戦仕様のザクⅢに乗るパーシーとジュディが一機のダガーJに接近を許し、
残り三人の新兵たちは一機のダガーJに翻弄されている。
ならば母艦であるミネルバ級マルスは、と思ったが、正面からの撃ち合いは不利と悟ったドレイク級が
改造で増した速度を生かして接近し、一撃離脱の要領で突撃をかけている。
マルスはそれにかまけて新兵の援護どころではない。

 

「隊長、マルスはドレイク級への対処でMS隊の援護には回れません。隊長は五人の援護をお願いします!」
「了解!」

 

レシーバーからオペレーターであるローラの声を受けて、
隊長って俺だよな、と呟いたシンがフットバーを蹴る。
まずは取り回しの悪い大砲を抱えたアーチャー装備の二機の援護に回る。

 

「パーシー、ジュディ、お前ら二人はエドワードたちの援護に入れ。ここは俺が!」

 

二機のザクⅢと一機のダガーJの間に割って入り、ビームライフルを挙げ、トリガー。
五、六回ひっきりなしに人差し指がボタンを押し込むと、ダガーJが距離を開ける。
それを見たパーシーとジュディは、すぐにエドワードたち三人の援護に向かった。

 

「あんたの相手は俺だ」
「おのれ、クラインの犬!それほどの力を持ちながら……!」
「パイロットとしての腕が良ければ、体制に従っちゃいけないってのか?馬鹿馬鹿しい」

 

吐き捨てたシンのセカンドインパルスが構えたビームライフルが、ダガーJの右腕を撃ち抜いた。
ダメージレポートを確認する隙すら惜しんで、バランスを崩しながらも左手でサーベルを抜いて切りかかる
ダガーJのパイロットだったが、唯一残った左手も同じように撃ち抜かれた。

 

「くっ……?!」

 

バランスを崩してよろめいたダガーJのメインカメラをむんずと掴んだセカンドインパルスが、
コクピット部分に膝蹴りを入れる。

 

「ぐうっ?!!おあ……」

 

激しい振動と圧迫によって、血混じりの胃液を吐いたダガーJのパイロット。
ぼやける視界の中で、それでも戦意を失わずにモニターにピントを合わせ、そして恐怖した。
目の前のモニターに映るツインアイの輝き、洗練されたボディライン、シンプルかつ明るいカラーリング。
それらは決して、「暴力」などをイメージさせるものではない。
むしろその真逆、平和を訴えるラクス・クラインのような清廉な印象を与えるそのMSが
モニターに大映しになって、自らを蹂躙していく。

 

「……その機体は、貴様のような、クラインの犬が乗っていいような、機体じゃあ、ない」

 

せめてもの抵抗と言わんばかりに、荒い息を胃液で灼けた喉から吐き、
ダガーJのパイロットはモニターに映るセカンドインパルスを睨みつけた。

 

「……は?」

 

ダガーJのパイロットが振り絞った声に、シンが低く問い返す。
眉根に皺を寄せ、怪訝そうな顔をした。

 

「オリジナル、ではないとはいえ、かつて、フリーダムを、落としたその機体……
 シン・アスカの機体に、クラインの手先が乗っているなど……」

 

今回の事件を起こした犯人は皆ナチュラルだったが、ラクス・クラインに反目する彼らは、
シン・アスカと初代インパルスの大戦果を知っているのだ。

 
 

「……ああ、そういうことか」

 

にやり、と片方の口角をいびつに釣り上げて、シンは侮蔑を含んだ笑みを浮かべた。
シンの中でどす黒い何かが生まれ、心がその何かに蝕まれる。
じわじわと心臓を焼くような衝動に身を任せることを本能的に「良くない」と感じたが、無視した。
喉の奥から堪えきれなかった笑い声を漏らし、悪いな、と呟いたシンは告げる。

 

「俺がシン・アスカなんだ」
「…………な、」

 

電光石火、ビームライフルを捨てたセカンドインパルスが二本のビームサーベルを抜き、
大きく×字の軌跡を描いてダガーJを切り裂く。

 

「そうさ、俺がシン・アスカなんだ……それの何が悪い?!」

 

続けざまにフットバーを蹴り飛ばし、派手に爆発したその爆炎を突き抜けて、セカンドインパルスが、
新兵とはいえ五人をもってしても落とせなかったダガーJにまっしぐらに襲いかかった。

 

「た、隊長?!」

 

ダガーJのパイロットとホーク隊の誰かが叫んだのがかすかに耳に入ったが、
気に留めることすらしなかった。
色鮮やかな青と白の装甲を炎で汚し、ツインアイは半ば融解して濁り、
それでも二本のビームサーベルは展開したままフォースの圧倒的な速度で迫るその姿は、
見る者に原始的な恐怖、あるいはある種の嫌悪感すら呼び起こさせた。
セカンドインパルスが横なぎに振ったビームサーベルに頭部を半ばから切り落とされ、
慌てたダガーJのコクピットにセカンドインパルスの爪先が突き刺さる。
衝撃に動きを止めたダガーJに覆い被さるように抱きつくと、
両手のビームサーベルで背部のバーニアを破壊した。
その様子を、新兵たちは機体を棒立ちさせて眺めていた。
まるで人間同士が直接殺し合っているかのような、生々しい戦闘行為。
そして、それを行っているのは他ならぬ自分たちの隊長なのだ。

 

「……怖い……」

 

呟くジュディをよそに、三、四度ビームサーベルの柄をコクピットに叩き付け、
ビームサーベルをラックに戻す。完全に停止したダガーJの両肩をセカンドインパルスに掴ませ、
シンは再びフットバーを蹴った。

 
 
 

「MS、全機沈黙!」
「ううむ……一つ目共はともかく、あのGタイプはかなりの手練が乗っていたようだな。
 母艦の方も手強い。これは逃げの一手だな」

 

ドレイク級のキャプテンシートに座る壮年の男が、大きく溜め息を吐いた。
「今までと同じ要領で突撃をかける。その時にミサイルをありったけ叩き込め。
 奴らが対処に手間取っている間に離脱する。急げ!ボヤボヤしてる暇はないぞ!」
「艦長、敵MS接近!Gタイプです!」
「それ、見たことか。対空砲火で追い払え!」
「駄目です!うちのダガーJを盾にしてます!」
「なに?!……構わん、撃て!」

 

艦長が下した判断に従って、ドレイク級の機銃が火を噴いた。
それを意にも介さず突っ込むセカンドインパルスも、盾にされているダガーJの装甲も
フェイズシフト式ではない。見る見る内にダガーJが穴だらけになった。
しかし、その間にもセカンドインパルスの推力は両者の距離を縮めていく。

 

「敵MS、減速せずに突っ込んできます!距離50!」
「馬鹿な?!これではまるで特攻……」

 

光の尾を引いて、セカンドインパルスはダガーJを押す。その様子は、マルスでもモニターされていた。

 

「艦長、隊長が敵艦に物凄いスピードで接近していっています!これじゃまるで、特攻……」
「モニターに出して!それからシンに繋いでくれ!」

 

ローラがモニターにセカンドインパルスの様子を映した時には、既に手遅れだった。
セカンドインパルスは最高速を保ったまま、そしてダガーJを掴んだままドレイク級に突っ込み、
その横っ腹にダガーJごと激突した。
大きな衝撃がドレイク級を貫き、ダガーJとドレイク級の右舷から小爆発が起きる。

 

「敵MS、本艦の右舷に激突!メ、メインエンジン破損……航行不能です……」
「馬鹿な……」

 

ドレイク級の艦長が呆然と呟く。艦を沈めるだけなら、手持ちの火器で攻撃すれば良かったはずだ。
ダガーJのパイロットにしても、普通に撃墜すれば爆発して死ぬところを、
激突の衝撃で挽き肉にされて死んだだけの違いである。
ドレイク級の横っ腹に空いた大穴から、小爆発と共に、セカンドインパルスがゆらりと姿を現した。
両腕は潰れ、金色のアンテナは片側が折れ、ツインアイはチカチカと明滅を繰り返している。
あまりに凄惨なその姿に、ドレイク級のブリッジクルーの一人が胃の中のものを戻した。

 

一方、ミネルバ級二番艦マルス艦長であるアーサー・トラインは、この有り様に冷や汗をかきながらも、
事態の収拾に努めていた。

 

「シン?応答してくれ。……無事なんだね?」
「……はい。大丈夫、です」

 

途切れ途切れの声がブリッジに響く。
異常な事態だ、ということを改めて認識したアーサーは、努めて冷静に指示を下す。

 

「エドワード、シンは先に帰還させるよ。
 君はMS隊を指揮して生き残った敵MSを鹵獲、マルスに連れ帰ってくれ。
 ローラ、陸戦部隊とランチをスタンバイさせて。
 セカンドインパルスを回収次第、敵ドレイク級及び、搭乗員を逮捕する。
 ……聞こえていたね、シン?君は先に帰艦しなさい」
「……了解」

 

アーサーは何かしら反論があるかと思ったが、意外なほどに素直なシンがゆっくりと機体をマルスに向ける。
アーサーは帽子を脱ぎ、ぼりぼりと頭を掻いた。

 

(シンは感情が希薄になっていると聞いていたけど……
 さっきの特攻は間違いなく感情を爆発させた結果のはずだ。
 ……シン、君は一体どうなってるんだ?)

 
 

そのシンはというと、先ほどの特攻まがいの突撃について何か言われるかと思っていたが、
何も言及がなかったことに拍子抜けしていた。

 

(……ああ、だから先に帰艦させて事情聴取するわけね)

 

心臓に小さな小さな穴が空いて、そこから血が全身に流れ出すように、
シンの心に後悔の念が広がっていた。
何もあんなやり方をする必要はなかった。ただ普通に敵MSを撃墜して、
ただ普通に敵艦を沈めれば良かったはずなのに――。

 

「俺みたいなクラインの犬が乗っていい機体じゃない、か。
 ……普通に軍務をこなしてるだけなんだぞ?
 関係ない人を巻き込んだテロなんかするあんたたちが悪いんじゃないか……」

 

呟きながら、今自分が呟いているのは建て前だ、とシンの心が言う。

 

メサイア戦役で負けてザフトを退役してから、シンはずっと傭兵をやってきた。
仲間を殺したラクスやキラたちと共に戦っていくことはできないとシン自身が思っていたのが
何よりの理由である。
しかし、シンはザフトに帰ってきた。七年越しに「お前の力が必要だ」と、呼び戻されたからだ。
何より、傭兵はシンが思っていたようなものではなかった。
叢雲劾は傭兵を「弱きもののための剣」と言ったが、シンにはその逆にしか思えなかった。
だが、ザフトに帰ってきて間もなく「クラインの犬」呼ばわりされ、
なおかつ、シン・アスカの名前がひとり歩きしていて、
まるで今でもラクス・クラインに対する反抗の象徴のように、
反体制側の味方のように思われているという事実が、シンを怒らせ、暴走させた。
しかし、それらの理由があったとしても、任務中にテロリストの言葉に耳を貸し、激昂した挙げ句、
その憂さを晴らすために、あてがわれたばかりの最新鋭機をひどく壊した。
この結果は、軍人として、ましてや一部隊を率いる隊長としては完全に失格だった。

 

「……厳罰もんだよな……。隊長職は解任、かな。それか、不名誉除隊とか……」

 

ふらふらとマルスに向かいながらぶつぶつと呟いている間にも、開きっぱなしの回線からは、
エドワードが不慣れながらも指示を飛ばす声が聞こえ、それに従って、新兵たちのザクⅢが
達磨状態のダガーJの回収作業に当たっていた。
それを見、聞きしながら、シンは情けないやら恥ずかしいやら、
とにもかくにも惨めな思いで頭を一杯にしながらマルスのハッチに向かった。

 
 

「ハッチ開放。セカンドインパルスを回収します」
「了解、ハッチ開放」

 

アビーの言葉に従って、ローラがコンソールを操作する。
今回の戦闘でMSを五機撃墜し、戦艦一隻を戦闘不能に陥れるという派手な戦果を残したセカンドインパルスは
その戦果とは裏腹に、無傷の部分の方が少ないくらいに全身を損傷させ、みすぼらしい姿で帰艦した。

 

「回収完了」
「よし、信号弾用意」

 

アビーの言葉を受けて、発射、と短く命じたアーサー。すぐに、ミネルバ級から信号弾が放たれる。

 

「『投降せよ』、か」

 

ドレイク級の艦長は溜め息を吐く。
どのみち、シンの異常な突撃が、テロリストである彼らから戦意を奪ってしまっていた。
抗戦は不可能、とみた彼は、投降を決意した。

 

「ドレイク級からの信号弾を確認!パターン白、白、青!」
「敵勢力の投降を確認。ですが艦長」
「うん、わかってるよアビー君。各員、気を緩めないで。
 これより陸戦部隊はランチでドレイク級に移乗。敵艦の制圧及び搭乗員を逮捕する。
 本艦は当座表に固定。ランチの援護及び、不測の事態に備えて待機する。
 ……任務はここからが本番だよ」

 

陸戦部隊が慌ただしくランチに乗り込んでいくその最中、
セカンドインパルスのコクピットから這い出したシンを、ヴィーノが出迎えていた。

 

「シン!……うわ」

 

激突の衝撃で、シンの体はあちこち傷だらけだった。
全身に打撲、むち打ち、更に体中が内出血で青く鬱血し、それが皮膚を破って
パイロットスーツに血をにじませている。
骨折がないのは、コーディネイターであることを勘定に入れても奇跡のようなありさまだった。

 

当のシンは、戦闘の興奮が徐々に冷め、脳内麻薬が切れると共に、
自身の体を確認する余裕ができてようやく、全身の痛みを感じ始めていた。

 

「あー……痛てぇ……ヴィーノ、俺、どうなってる?」
「いや、なんつーか……ひどい。ちょっと待ってろ、そこ動くなよ……」

 

顔をしかめたヴィーノが辺りを見回すと片手を挙げ、衛生兵、と大声で呼ばわる。
何事かとやってきた衛生兵は、血まみれのシンを見るなり顔を青くした。
シンはその衛生兵の手で即座に医務室へと連行され、その様子を見送ったヴィーノは
セカンドインパルスへと視線を移し、

 

「あーあ……こんなボロボロにしちゃって。ルナマリアの機体だってこと忘れてんじゃないの?あいつ……」

 

と、呟いた。

 
 

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