AGE短編_「実験隊シンフォニー 第2話」

Last-modified: 2014-08-11 (月) 18:41:15

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「この野郎!」
「何してんだ!、お前らも早くあいつ止めろ」
「落ち着け!やめろ!」

 

幸か不幸か2機の戦闘機を失って、残ったランド達を収容できたダーウィン級の戦艦はクオスに転身、
そこでMSの修理もしてもらえる事になった。流石に3のコロニーを管轄する組織、資材は腐るほどある。
ランドがコクピットを降りて作業にかかるメカニックに礼を言った時には、既に眼下で大勢が騒ぎを起こしていた。
どうやらパイロットと整備士のいざこざらしい、並び立つ同じ隊の機体から同じように皆その光景を眺めていた。

 

「しょうがねぇな、おいピット!整備のお礼に手伝いに行こうぜ。」
「ああいうのは頭が痛い…悪いけど」
「じゃあいいや、ヘンゾ!」
「はい!行きます!」

 

二人でタラップを蹴って集団に割って入るように着地してなんとか引きはがす。
どうやら先の戦闘で撃破された奴の中に整備不良が原因の奴がいたらしい。
パイロットの一人は整備士がちゃんと見ないからだと、
整備士の一人は無理なパワーロードを強要したせいだと、お互い睨みあっている。

 

「落ち着けお前ら、いいか…」
「誰だテメェ引っこんでろ!」
「うるさい!誰が落とされたのかは知らないけどな、こんなことしても何にもならないだろ」
「余所者の癖に…!」
「いいから聞けって、こんな宇宙のど真ん中でぶっ壊れて、だれか残骸拾ったのか?原因はハッキリしたのか?
 戦場じゃいつ死んだって不思議じゃないんだよ、整備が完璧でも、パイロットの腕が良くてもだ。」

 

言われるまでもなく軍人なら当たり前の事を講釈され、何か思い出したように静まったのは、
彼らが新人ではない事の現れだろう。納得や理解等お構いなしに戦場の持つ『規則』なのだ。
しかし悶々と体に入った力が抜けない一同、説教はダメかと思って仲間の方を見やるが、
座り込んで動かないピットに高く上がったタラップの手すりに寄りかかって、目も合わせようとしないジェノ。

 
 

重苦しい空気で皆居心地の悪さに言葉も無くなってきた時、やっと助けの船が出される

 

「おぅ!、どうしたお前ら。」

 

パイロットスーツを着たままヘルメットを片手にやって来たのは、見たところ騒いでた奴らより階級の高い男だ。
肩ほどまで伸ばした髪の毛にいかにも伊達男といった薄い髭の男は困ったような顔で退散を促す。

 

「お前らさっさと持ち場に戻れ、大変だったんだぞ艦長に報告するの。」

 

どこか待っていたかのように、返事をしながら散っていく面々。ホッと一息ついたところでランド達にも声を掛ける。

 

「いやぁ悪かった悪かった、迷惑かけっぱなしだ。」
「いえ、ほんのお礼です」
「ランド曹長?、俺はサンダーバードの隊長やってるサンズ大尉だよろしく。」

 

求められた握手にヘンゾと敬礼で答えると、サンズに少し不思議がられてから格納庫を案内される。
大型の戦闘機はMSと違って人型としての設備が重視されておらず、左右の壁面に虫の巣のように並んで固定されている。
おかげでランド達のMSも楽に置き場所が確保できたわけだが、なんとなく見慣れない圧迫感がある。

 

「スゴイだろ?もうすぐ正式に量産されるMSのプロトタイプで」
「MS?戦闘機かポッドの類だとばかり…」
「外見じゃ分からないだろうけどこいつは可変MSなんだ、状況に応じて戦場を動き回れる
 もっとも、こいつはうちの工業コロニーで作ったハリボテモデルで変形しないんだけどな」

 

整備された機体をよく見ると機首がライフルと同一化し、手を後ろにしまって肘から翼が伸び、
おそらく変形して足になるだろう部分は足のように見える大き目のブースターだった。

 

「宇宙空間における高機動形態の性能調査が俺たちの目的でな、勿論乗ってる人間の負担とかも含めて」

 

整備士が誘導灯を振り、レーンにそって大型のアームがコンテナを運ぶ。
気付けば作業音と整備士たちの声だけが響き、足取りも止まっていた。

 

「キンリーもダンも真面目な奴だった。細かい調整にも気づくような腕の立つパイロットだった。」
「さっき、やられた人ですか?」

 

ヘンゾの問いにも表情を変えずただ頷くだけで、ただ作業を眺めていた。

 
 

修理と並行して迅速に行われる点検作業では不審な点は発見できなかった。
その報告を聞いたサンズは安心しつつも少し残念に思い、同時に自分が大事な用事をすっかり忘れている事に気づいた。

 

「おぉそうだお前ら、仲間が運ばれてきたんだったな?」
「はい、ダニエル伍長です。」
「無事だったよ、ギリギリだったけど」

 

嬉しい事実ではあるがどちらかと言えば驚きの方が強く、ランドとヘンゾは顔を見合わせた。
そして数秒して驚きの感情に喜びが勝り、なんとなく二人はグッと握手をした。

 

「それにしてもよく生きてたな、正面から喰らったのに。」
「まぁもちろん完全に無事って訳じゃないけどさ、コロニーに付いたら医療施設に搬送して…」
「え?……け、結構酷いんですか?」
「アレじゃあな、復帰は無理だろ」

 

はぁ、と小さく返事をして残念そうな顔するヘンゾ。
生きてるだけでも良かったもんだと励ましても、良い返事は帰ってこなかった。

 

「あいつとは長い付き合いなんですよ、訓練学校から一緒で…」

 

ヘンゾが思い出話を始めて、ランドはふと先の戦闘中のやり取りを思い出す。
小隊長が素早く回収したからこれで済んではいたものの、自分の言う通り放置していれば死んでいたのである。

 

「途中でいなくなったのは癪だけど、なんだかんだ勝ったしダニエルも生きてたから小隊長に借り一つか」
「そうですね…」
「お前らの隊長ってもしかして”あの”バレオか?」
「知り合いですか?」
「まぁ…まぁな、お前らあの人が戦闘中に味方撃ったって話聞いてるか?」
「え!なんですかそれ、聞いてないですよ!」
「自分は、噂で少し。」

 

自分とジェノが貰った任務の資料について一瞬考えが巡り、ちょっとした嘘で答える。
ダニエルの方は初耳だったらしく不思議そうな顔をする。
サンズは一息付くとバレオの噂について語り始めた。

 
 

2年前のAG157年、さらに10年程前にはヴェイガンの存在が公になり、彼らの行動もより戦略的になった当時、
クオスの近くで起こった小さな戦闘を皮切りに、半ば紛争のような慢性的な小競り合いが続いていた。
連邦軍は近くに敵の拠点があるものと判断し連邦軍本部から調査隊が合流、そこにバレオが率いるMS部隊もいた。
この時サンズ含むクオス駐留部隊も一時的な出向で調査隊に合流し、何度か共に戦場に赴いていた。

 

「ベータワン、サンズより各機、敵が逃げ込んだデブリはかなりの量の小惑星や残骸が漂っている。
 位置情報を報告すれば後方から艦砲射撃を行う、一人では動くな。」

 

等間隔をなるべく維持しながらサンズが率いるジェノアスⅡの小隊がデブリの中を捜索する。
ゆっくりお互いの視界をカバーしながら進行するサンズ隊、だがヴェイガンのMS部隊も黙っているわけではない。
突如として現れた熱源を確認すると、到底受け止められるサイズではないデブリが接近し、味方の1機が撥ねられる。
それと同時に所々から顔を出したヴェイガン、連邦の艦を警戒しデブリ帯の深くに入るまで待っていたのだ。
その様子を遠くから確認したバレオの隊はすぐに現場に急行する。

 

『バレオ少尉!サンズ隊が包囲されてます!』
「敵の数は知れている、囲っていても厚みはないはずだ、退路を作るぞ!」
『了解!』
「艦長!座標データXマイナス8、Yプラス12、Zプラス2.2に砲撃をお願いします!」

 

急ぎながらもフォーメーションは崩さず、決して焦らなように救援に行く。
目前の戦場に艦砲で穴が開き続々と後退する仲間たち、デブリをぶつけられた奴も奇跡的に生きていた。
後は自分達だけだ、そう確認した矢先味方のアデルが腰に一発被弾した。
既に殆ど後退はできて居るが、同時に敵の火線も集中し目の前の部下に近づけない。

 

「2番機!応答しろ!」
『行ってください!自分の事はいいですから!』
『少尉!下がりましょう!』
「くそ!くそ!」

 

何発かドッズライフルで応戦するが、デブリに穴が開くだけで攻撃は止まない。
普通なら腰や胴体は被弾した時点で爆発しかねないのだが、
奇跡的に、いや悲劇的にも今回はフレームが歪み下半身が思うように動かなくなるだけで済んでしまった。
なんとか敵の火線をこちらもデブリで防御できるように立て直し、艦の到着を待つ、まだ部下は死んでない。

 

「脱失しろ!」
『コクピットが開きません!腹部のフレームが!うおぁ!』
(きっと助ける!……奴らは味方を餌に俺たちを釣る気だろうが、艦が到着すれば)

 

バレオはそんな考えが、希望的観測がなんら意味を為さないことを直後に思い知らされる。
まるで宇宙を引き裂くように、悪魔の指先の様なヴェイガンの三つ又の巨大母艦が姿を現す。

 
 

駆けつけてしまった敵の増援を前に形成は一気に逆転した、母艦を待ってる余裕はない。今度はこっちが逃げる番だ。
しかし目の前には傷つきながら尚餌として手を、足をゆっくりと破壊され身動きの取れない部下がいる。

 

『艦はすぐそこまで来てます、早く後退を!攪乱ミサイルが5秒後に!』
「待て!アイツが、まだ仲間が!」

 

迷いは戦場に最も持ち込んではいけないものだ、大型ミサイルが絶好のチャンスをぶち撒けたというのに、
部下の撤退を急がせながらも小隊の指揮官として、軍人として、人間として、どうするべきなのか?
目の前の命への思いを断ち切れない内にそのチャンスは宇宙に溶けきってしまう。

 

『転身時に艦砲で砲撃する、バレオ少尉!早く戻れ!』
『ダメだ!今撃ったら味方まで!』
『じゃあ君が撃つのか!戦力の差を考えろ!』
『自分を撃ってください!エンジンに直撃させれば!』
『言うな!』
『このままじゃ自分はただの足手まといです!』

 

着艦したサンズはその通信を聞いていた、自分も隊長としてバレオを説得しようとしたが、もし自分ならどうするか。
同じ死線を潜った仲間を簡単に捨てられるわけがない、それが理解できるから何も言えなかった。
そしてそれは起こった、MSの発着口から戦場を眺めるサンズのモニターに小さな光球が見えた……

 

転身して全速で逃げる艦の中で、コクピットから出てこないバレオを見てれば、皆大体の想像は付いた。
爆発の時艦は砲撃してない、そして味方の一人は帰ってこなかった。
その場にいた人間は皆やむを得ない仕方がない、と口をそろえたが、気休めにならないだろうことも想像に難くなかった。

 

…………‥‥‥‥・・・

 

「というわけさ、まぁ遠くから見てただけで、詳しいところは俺にも解らないけどな。」
「そんなことが…」
「だからそんなに責めてやるなよ、もう部下の命に後悔したくないんだろう……
 あぁそうだコレも忘れてた、ダニエル伍長が収容される病院の場所。」

 

忘れないようにしていたのだろう、手袋と手の間からメモを渡す。
受け取ったヘンゾがサッと敬礼してランドと場所を確認してすぐ去って行った。

 
 

「お前、もしかしてイライラしてる?」
「え?」

 

自分の表情が変わっていたようには思わないが、近い感情があったのは確かだ。
サンズは相変わらず穏やかに、少しの笑みを浮かべながら聞いてきた。

 

「前はどこの部隊にいたんだ?チームは家族だって教練で習わなかったわけじゃないだろ?」
「『ドッズダイバー』に1年いました、自分はやるんだったら目標は命に代えても、と。」
「使い捨ての特攻隊か、TVでやってる委員会でも非難の的、もう無くなるの決まってるようなチームじゃないか。」
「自分には……あそこでの経験が大きすぎるみたいです。」

 

ランドもビシっと敬礼して自分のMSに向かう。
責めることはできないと分かっているが、どこか納得のいかない自分にも、どこか不満だった。
客観的にみて片意地をはって自分のやり方に固執していては、それこそ自分のやり方に反する。
頭の中で考えを巡らせてもどうにもなりそうもないので、そのうちランドは一旦問題を放ることにした。

 

「おいピット!暇だから向こう着くまでカードもやろうぜ?」
「いいね、俺も暇してたんだ。何か賭けるか?」
「やめとく、いつも貰ってたんじゃお前に悪いしな。っていうかお前頭痛は?」

 

カッカと笑いながら少しムキになったような様子でピットがカードをコクピットから取り出す。
全く戦場だというのに不真面目にも彼は暇つぶしの道具を持ち込んでいる。
やり方がどうとか、もしかしたらそんな事はどうでもいいのかもしれない、ランドは少し笑った。

 

「なんだよ、なんかいい事あった?」
「ダニエル生きてるんだってよ、後で見舞い行こうぜ。」
「マジかよ、スゲーもんだな…」
「あ、知ってるか?そこいらの戦闘機は可変MSなんだってよ、変形できないけど。」
「なんだよそれ、意味がわからないな。」

 

会話してる内にカードは配られた、クズみたいな手だったが、不思議と変える気にはならなかった。

 
 

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