CCA-Seed_125氏_第12話

Last-modified: 2007-11-10 (土) 19:10:12

カーペンタリア基地

「うっう~~ん、はぁ……」
ルナマリアは大きく背伸びをしたあと、息を吐いた。ミネルバは現在、半舷休息の状態にあった。
クルー達にとっても久々の休息なのだが今のところは大してすることもないのが現状である。
つまりは暇なのであるが…
「暇よねえ、やることはすべてやっちゃったし…」
誰にともなく呟く。

実際、軍というものは非常時以外は暇なものである。半舷休息だから艦を降りて町に行けるわけもなし、
かといって基地の中にはたいした娯楽施設もない。
「ヒマだよねぇ、本当……。お買い物に行きたいなぁ」
こちらも交代でブリッジからMSデッキに降りてきたメイリンが横でぼやく。
「あんた、前に沢山買ってたじゃない」
「この前は化粧品関係だよ。おニューの服が欲しいの!」
「私服なんて大して着る機会もないでしょうに…」
「そんなことないよ!……デ、デートの時とか」

そう言いつつもメイリンもそうそう着れたりはしないだろうなあ、とは思っていた。
いまは戦時中だし、これからはもっと忙しくなるだろうし、なによりデートのお相手がいないという事実がメイリンを凹ませる。
シンやレイは友達感覚だし、他のクルーは眼中にない。アムロさんは、ごにょごにょ……横目でちらりと姉を見た後、改めて考える。
姉はアムロさんのどこがいいんだろう、と。
MSの腕は確かに凄いと思う、素人目から見ても抜きんでている。それにこの艦では数少ない大人の男性だし、頼りがいもあると思う。結構多才な人らしく、整備の人間たちと専門的なことを話しているのを何度か見掛けた事もある。
顔は……まあ悪くないとは思うし、経歴不詳というのは考えようによっては魅力的かもしれない。
OSの書き換え作業を手伝った折にちょっと訊ねてみたら、年齢は30歳だと聞いた(24.5歳だと思ってたから結構驚いた)。
自分たちとは10以上も歳が離れている…メイリンからすれば、「オジサン」だ。姉にオジサン趣味はなかったと思うけど……

わたしは断然若い方がイイ!顔がかっこいいのは当然として、経歴もエリートだったら文句無し!!けどなぁ・・・・

「なかなか居ないよね、そんな人・・・・・」
「なあにブツクサ言ってんのよ、この子は」
先ほどからブツブツ独り言を言ってる妹を横目で見つつ、晴れ渡る空を見上げていると・・・・・
「……あら?」

艦長室にて

「アスラン・ザラ?」
聞き慣れない名をアムロは口にする。
「昨夜、話したでしょ。デュランダル議長からの通知で、本日中に補充要員が来るって。どうやらそれがアスラン・ザラらしいのよ」
そう言ってタリアは椅子に座りアムロを見上げるが、アムロの困惑顔に気付くと、あっと思った。
「ごめんなさい、貴方は彼とは面識はなかったわね」
「いや、それ以前に……どういう人物なんだ?」とアムロが返すと今度こそタリアは苦笑した。
「そうね、貴方が知らないのも無理ないわね(……どこから説明するべきかしら)」

ちなみにアムロとタリアはあの一夜以来、二人だけのときは階級差を抜きにして話すようにしている。
勿論、二人とも公私混同は嫌うタチなので公の場ではちゃんとした敬称を使っているが・・・・・オトナである。

タリアはかいつまんでアスラン・ザラの経歴を話した。
前プラント議長パトリック・ザラの息子であること、エリートの証である赤服でクルーゼ隊にいたこと
前大戦中無敵を誇った連合のストライクを撃破し、(恐らく)はじめて『FAITH』に任命されたこと
その後行方をくらまし、三隻同盟に居たということ(このことはあくまで噂であり、タリアも詳しいことは知らない)

「その後は前に話したでしょ。例の強奪事件にカガリ・ユラ・アスハの護衛として現れて、なし崩し的に本艦に乗船。ユニウスセブン落下に際して自身もMSで出撃、破砕作業に参加………そういえばこの時だったわね、貴方が現れたのって」
「……そういえば、そうだ、な」
「あの時は判断に困ったわ。所属不明のMSでいきなり現れて、『破砕作業に協力する!!』って通信してくるのだもの」
「あのときは必死だったからな、誰が敵か味方かもわからない混戦状態だったし…手当たり次第に回線を開いたよ」
「今となっては、あの時の自分の判断は正しかったと思えるわね。けど、思い出しても無茶苦茶よアナタ。
阻止限界点までアソコに居て破砕作業を行うし、(まあお陰でメテオブレイカーの破壊も少なかったけど)そのまま大気圏突入して燃え尽きたかと思ったらミネルバにしがみついてて無事だなんて。
アーサーなんて、ぷっ、ふふふっ、顔も知らない貴方の最期を思って敬礼までしてたんだから」
そのときのアーサーの顔を思い出して笑いを堪えていると、手元のブザーが鳴った。

「………そう、わかったわ。艦長室にお連れして。……どうやら着いたようね…貴方はここに居て頂戴。まだ初対面だったでしょ、彼とは」
「了解した」
その時、ちょうど都合良く艦長室のドアが開きルナマリアが入ってきた。
「失礼します、アスラン・ザラをお連れしました」
「ご苦労様、入ってもらって」
「はい!」
敬礼するとルナマリアは後ろを振り返り、どうぞ、と言い自分は退室する。すると、赤服に身を包んだ青年が入ってきてビシッと敬礼する。
「アスラン・ザラ、只今着任致しました」

「・・・そう、私を『FAITH』に」
タリアは徽章は入った箱を置くと考え深げに溜め息を吐く。
今更自分がFAITHになったとて特別な感慨など湧きはしないが……ひとつの隊にFAITHが二人存在するというのは珍しい。
それだけ議長もミネルバに期待を寄せているということなのだろうが…それにしても………

「ああ、ごめんなさい。紹介してなかったわね。彼は……」
「アムロ・レイですね、議長からお話は聞いています。ユニウスセブンの際には助かりました」
そういうとアスランはアムロに敬礼する。アムロも敬礼を返す。
「お互い様さアスラン・ザラ、よろしく頼む」
「彼は貴方と入れ違いでこの艦に乗ってきたの。だからお互い、顔見せは初めてよね。彼は一応、雇われとしてこの艦に乗ってるの。元軍人で士官という立場だから大尉待遇としているけどちょっと曖昧なのよね」
ザフトでは階級もたいして意味ないし、と苦笑しながら。
「僕は主にMSパイロットの補助と部隊指揮を執らせてもらっているが、今後は彼の補佐に回ろうと思います」
「そうね、そうしてもらえる?」
「よろしいのですか?私よりもあなたの方が…」
「僕の階級はあって無いようなものだからね、FAITHの君が指揮を執らなければ実戦で混乱してしまうよ」
「しかし……」
「そのことについては二人で話し合って頂戴。ところで、この命令書についてなんだけど貴方は中身を知らされてる?」
「いえ、なにも」
「なかなか興味深い内容よ。端的に言うと、『ミネルバはマハムール基地に向かい、地元の軍を支援し<スエズ>を攻略せよ』…ですって」
アムロが質問する。
「艦長、<スエズ>とは?」
「<スエズ>というのは地名でね、正確には<スエズ>と西アジアを繋ぐ場所にあるガルナハンが今回のターゲットと書いてあるわ。あとは、マハムール基地に向かってからになるわね・・・正直、極めて難所な地区よ」

タリアはふう、と息を吐くと「いったいなにを考えてるのかしらね、議長は」と口にした。
「貴方や私をFAITHに任命したり……」
なにより彼、アムロ・レイをこの艦に乗せるよう計らったのもギルバートと聞く。
考えてみればおかしな話だ。身元不明で、しかもナチュラルである彼を自分の懐刀とも言えるミネルバに乗せる。いや、だからこそか?
「まあ、いずれにせよ任務を果たすしかないのだけど、ね」
そう呟き、アムロとアスランに退室を命じる。

これから忙しくなる。

艦内の廊下を二人で歩いているとアスランが声を掛けて来た。
「あの、アムロ大尉は・・・」
「アムロでいい。なんだい?」
「貴方は、なぜザフトに?議長から聞きました。あなたはナチュラルだと。そんな貴方がなぜ……」
「そんなに不思議なことかい?」
それはそうだろう。ナチュラルとコーディネーターの垣根は深い。ブルーコスモス思想のないヒトでもコーディネーターに協力など絶対にしない筈だ。
しかも……彼はMSの操縦技術に関しては並みのコーディネーターを遥かに凌駕している。データを見た時はナチュラルだとは信じられなかった程だ。
正直、彼が連合に与しなくて良かったと思う(彼の実力ならば引く手数多だろうに)。
自分でも正直勝てるかわからない程のウデの持ち主なのだ…疑問は尽きない…
「成り行きさ」
「え?」
「あの時、隕石を破壊するのに集中しすぎて大気圏に突入し、手近の戦艦に摑まれたのも。その後、議長に頼まれこの戦艦に配属されたのも。自分で言うのもなんだが、成り行きのようなものなんだ」
「では、もしかしたら連合に行ってた可能性もあると?」
「それはどうかな、あちこちで連合のウワサを聞いていたから協力したかどうか……今となってはどうでもいいことだが」
「・・・・・・・」
「君も知ってるだろう」
「え?」
「この艦のクルーの大半はまだ若い少年少女だ。彼らを戦争に巻き込んだ大人として、せめて彼らが間違った方向に進まないようにしたい。強いて挙げれば、それが俺がこの艦に乗る理由だな。あくまで俺のエゴだが」
「いえ、そんなことは……」
アムロは立ち止まり、アスランに手を差し出す。
「兎にも角にも、改めてこれからよろしく頼む。アスラン」
アスランも(ここに来て初めて微笑みながら)握り返す。
「こちらこそ」

「そういえば、ユニウスセブンの際に貴方が乗ってた機体はたしかオーブ製の……」
「それについてはノーコメントだ。ま、いずれ話すよ」
「はぁ……」
「そんなことより、君が乗ってきた機体だが、見てもいいか」
「え、ああセイバーですか。俺も細かい調整がまだなので、一緒に行きましょう」

その後、アスランはアムロに質問攻めにされることになる。
「なんで高機動型なのにVPS装甲が一番電力消費が激しい赤色なんだ。これほどの機動性なら実弾なんてそうそう当たらないぞ。
しかもショルダーアーマーにビームサーベルをジョイントしてどうする、腕届かないだろあれじゃ。
おまけにMA形態での着陸脚がないのはどういうわけだ。MA形態でのパイロットの乗降は想定されず空力防盾とハッチが干渉するためコクピットハッチを開けることもできないなんてあきらかに欠陥だぞ」
「うんうん、そうですよねぇ」
「あの、俺に言われても……なんできみが肯いてるんだ、ルナマリア」

草々