昼近くになりアムロはミネルヴァに戻ろうとしていた。背後から呼ぶ声がする。
「隊長さ~ん!!」
振り向くと朝挨拶したオレンジの髪の男が走ってくる。
「君は確か…ハイネといったか。」
「お!覚えていてくださるなんて光栄ですね~異世界の戦士さん。」
「聞いてるのか。…どうしたんだ?ミネルヴァに何か用でも?」
「どうもこうも、俺もミネルヴァに転属になったんですよ。昨日、議長から言われて。」
「何だって?ミネルヴァに?いや、すまない急に聞いたもんだから少しびっくりしてしまって…。」
「俺も昨日聞いてびっくりしましたよ。おかげで俺の隊は解散ですよ。せっかくオレンジショルダーが有名になってたのに…」
ぶつくさ言うハイネに対しアムロは愛想笑いをする。こういう男は話し出したら止まらない。アムロは一方的に聞き手に回らされた。
15分くらい話しつづけただろうか、そうこうしている間にミネルヴァについた。ハイネは自分の機体がすでにミネルヴァに来ているということで
MSデッキに向かうと言うのでアムロは一緒に見に行くことにした。デッキにはオレンジ色の機体がすでにメンテナンスをされ始めていた。アムロはその機体を
見て驚いた。一年戦争のときに開発されたグフにそっくりの機体だったからだ。
「グフ!?ザクだけでなくグフもこの世界にあるのか!?」
「え!?なんでこの機体知ってんすか?見たことでも?」
「何?名前はやはりグフというのか?知ってると言うか俺のいた世界にこれとそっくりなMSがあってな…まさか名前まで同じとは…」
「異世界でも認識されてる俺の機体!ロマンチック~」
アムロは何も言うことが出来なかった。しかしやはり機械狂の血は騒ぐ。ザクとどう違うのか見てみたい。そう言う衝動に駆られ、気が付くとハイネに乗ってみていいか頼んでいた。
二つ返事でOKをくれたので早速グフに乗り込んでみる。やはりUCと一緒で格闘戦に特化しているようだ。
「すごいな…ザクの20%増しどころじゃないな…ヒートロッドがついている?装備まで一緒とは偶然とは思えないな…なに!?グフに空間戦闘用のOSが入ってる!?
宇宙戦もこなす上に空も飛べるだと!?グフの癖に贅沢だな。ランバ・ラルが見たら裸足で逃げ出すぞ…」
一通り見終わると満足そうにコックピットから降りてきた。
「どうです?俺の機体。すごいっしょ。」
「ああ、グフとは思えないな。」
「え?思えないってどういうこと?」
「ああ、こっちの話だ。気にしないでくれ。」
そう言うとハイネは納得は出来ていなさそうだったが何も聞きはしなかった。入れ替わりにハイネがコックピットへ向かう。アムロはハイネに礼をいい、デッキを去った。
自室に戻ろうとした時だった。また後ろから声がする。今日は良く後ろから声がかかる。ルナマリアだった。
「隊長、いまお暇ですか?」
「ああ、部屋に戻ろうとしてたんだが。何も予定は無いな。」
「よろしければ私、今から街に出ようと思うんですけど付き合っていただけませんか?」
「俺か?シンやアスランは?」
「シンは一人でどっか行っちゃうしアスランさんは待機中です…。」
アムロも今日は完全オフだが今からどうして時間をつぶそうか考えているところだったためルナマリアの頼みを快くOKした。
オープンカーに乗り港を出ようとするところで
「隊長~!!」
と呼ぶ声がする。声がする方を見るとメイリン、ヴィーノ、ヨウランがいる。こちらに走って近づいてくると
「お姉ちゃん、どこ行くの?」
とルナマリアに聞いた。
「どこって…街に買い物に行くだけよ。あんた達こそ何してんの?」
「私たちも街に行こうって行ってたんだけど、足が無くて。ちょうど良いところに隊長とお姉ちゃんが通ったから…」
「乗せていけと言うことか?」
アムロが聞くとメイリン達が
「「「お願いします!」」」
と三人いっぺんに言った。ルナマリアは少し不服そうだったが三人も一緒につれて街に行くことにした。晴れた日ざしにオープンカーは気持ちがいい。
海を見ながらのコースにルナマリア達は感嘆の声を出していた。街につくとアムロが四人に聞いた。
「それで、みんなはどこに行きたいんだ?」
「「「「ブ化ホープラティ粧ムモック品店センター屋!!!!」」」」
「いっぺんに言うな…全然わからん。ルナマリアはどこに?」
「あたしは服がほしいんでブティックに行きたいんですけど…」
「メイリンは?」
「私は化粧品が欲しいかなーって」
「ヨウラン?」
「いや、工具欲しいんでホームセンターに…」
「最後にヴィーノ?」
「プラモでも作ろうかなって…」
結局みんな行きたいところはばらばらだった。地図を見ると男班と女班に分かれたほうがよさそうだ。アムロは男班と行こうとしたが、そこはルナマリアが
「私が誘ったのに!」
と譲らなかったため大して興味の無い服と化粧品を見に行くハメとなってしまった。アムロはその数時間後こなけりゃ良かったと後悔することになる。
大きな箱と袋を両手いっぱい抱えながら合流地点に向かう中、女達はこれかわいいだのこれ欲しいなどウィンドウショッピングにいそしむ。
うんざりしながらやっと合流地点につくとヨウランとヴィーノは先についていた。それどころか待ちくたびれたようにファーストフードを食べていた。
やっとの思いでトランクに荷物を押し込み港に帰る。もうあたりは日が沈みかけていた。夕日が沈む海岸線はまた格別にきれいだった。メイリンなんかは
感動のあまり涙が出ている。こういうところはちゃんと女の子だ。
しばらく海岸線を走ってると車につけてある無線がなった。緊急回線の呼び出し音のためアムロはすぐ無線を取った。相手はタリアだ。
「アムロ、今こっちに帰ってきているところでしょう?」
GPSで大体の位置は向こうでも把握しているはずだ。
「もうすぐ帰り着きますよ。何かあったんですか?」
「ちょうどあなたたちがいる海岸の近くでシンがエマージェンシー出してるの。ちょっと見てきてくれないかしら。」
「了解した。詳しい位置を転送してくれ。」
そう言うとすぐにカーナビの画面に印が着いた。確かに海岸線を示している。いや下手をするとがけの下だ。アムロ達は近くまで来ると
車をとめシンを探し出した。
流石に五人で探すとすぐ見つかった。ヴィーノが叫ぶ
「隊長~!!いました~!やっぱ崖の下ですよ~!」
ヴィーノのところに行くと確かに崖の下でシンがこちらを見上げていた。
「シン!大丈夫か!?」
と聞くと
「ええ!大丈夫です!この娘が誤って海に落ちちゃって!」
「とりあえずロープを垂らすから上って来い!」
と言うと車に備え付けのロープを垂らす。しばらくするとシンが女の子を抱きかかえて登って来た。
ヨウランが茶化すように言った。
「もうナンパか?」
「違うって!この娘いきなり海に落ちちゃって!助けたんだけど崖の下でどうしようも無かったんだよ!」
向きになって否定する。アムロがシンに聞いた。
「その娘は?この街の人間か?」
「わかりません…戦争で怖い目にあったみたいであんまり喋ってくんないんですよ。名前ぐらいしかわかりません。ステラって言うらしいんですが…」
ヨウランがステラを見つめながら言った。
「ステラちゃん…君かわいいね~俺とお友達にならない?」
ヴィーノも続けて言う
「俺も俺も!友達になろうよ~」
ルナマリアは関係無さそうに少しブスっとしている。メイリンは自分の胸に手を当てながら
(すっごいスレンダーだわ…全く勝てる気がしない…)
と思っている。ステラは怯えたようにシンに聞いた。
「シン…の…友達?」
「そうだよステラ。みんな友達。いい奴だよ、みんな。」
それを聞くとステラは安心した表情になり笑顔で言った。
「シン…の…ともだちなら…みんな…ともだち…」
といってルナマリアを見つめる。ルナマリアも仕方なさそうに
「はいはい、私もあなたのともだちです。」
と言うとステラは今度はメイリンを見た。メイリンはちょっと慌てながら
「メイリンよ。よろしく」
といって挨拶をする。とりあえずステラを街まで連れて行くことになった。乗り物が近くに無かったことから徒歩で来たと考えられる。
とすると街の人と言う可能性が大きいからだ。一台の車に7人が無理やり乗り込んだ。シンなんかはカーブのたびに車から落ちようとし、ステラはそれを見て面白そうにしていた。
すると一台の車とすれ違う。それを見たステラは
「アウル!!スティング!!」
と叫び車から飛び降りようとするのをシンとヨウランが必死で抑えた。車を止めると向こうの車も呼ばれたことに気付いたようでバックして戻ってくる。
車から飛び降りたステラを見て一人が言った。
「どこ行ってたんだよ!このお馬鹿!」
馬鹿と言われてむすっとしたステラにもう一人の男が声をかける。
「怪我はないか?ステラ?」
無言でうんうんと頷くステラ。それを見ていたシンはその男に話し掛けた。
「ステラのお兄さんですか?よかった。名前しかわからずどうしようかと思っていたところでした。」
男はシンに対して
「うちのステラがご迷惑をかけてしまってすいません。何かお礼をしたいのですが生憎持ち合わせがなく…」
「いやっ、気にしないで下さい。当然のことですので。」
「そうですか…それではお言葉に甘えることにします。ありがとうございました。…ステラ、帰るぞ!」
ステラは男たちの車に乗り込もうとして思い出したかのように戻ってきた。
「シン…みんな…ありがとう…」
そう言うと車の方へと走っていった。ヨウランとヴィーノは
「バイバ~イ!ステラちゃーん!またね~!」
とステラにもうどっぷりはまっている。ステラは軽く手をばいばいとすると車は走り去っていった。いままで黙っていた
アムロは男たちの妙な警戒心とステラという子に昔強化人間に感じた感触と似たものを感じ取っていた。
気のせいですめば…と願っていたがその願いはかなうはずも無かった。それが当然のごとく。