ミネルヴァに三機のMSが戻ってくるとデッキは歓喜の声に包まれた。ヤキンドゥーエで伝説とも言われたフリーダムを
落としたのはそれほどの大事だったことは誰の目から見てもわかることだった。ルナマリアはシンたちに駆け寄ると三人に飛びついた。
「すごい、すご~い!三人とも!あのフリーダムを落とすなんて!!」
「ちょ…ルナ、痛い、痛いって!」
シンはルナマリアを押し離すと照れた表情で微笑んだ。そこにレイが
「隊長、アスラン、お疲れ様でした。やりましたね。シンも良くやったな。」
へへっと笑うシン。アムロは
「ああ、ありがとう。」
と返礼する。気付くと回りにはメカニックたち集まりねぎらいと賞賛を三人に送っていた。
シンは整備班のバートに頭をくしゃくしゃにされるほどなでられていたがシンもそれを嫌がるはずもなくなされるがままにされるだけ。
その歓喜の輪をいち早く抜け出したのはアスランだった。誰もそれに気付くことはなく、アムロだけがそれに気付き後を追い声をかけた。
「アスラン…やはり気にしているのか…?」
「あ…いえ…気にしていると言うことは…いや、気にしているんでしょうね俺は…あいつを止められなかった、あいつがあんなことをする前に何故友達として気付いてやれなかったのか、オーブに残っていたら止められたんじゃないか、そう言うことばかり考えてしまっているんですから…」
「…君を今回の作戦に加えなければ良かったかもしれないな。」
「いえ、俺はザフト軍のフェイスです。その辺は理解しています…あいつがやってきたことは許されることではない、その辺も含めてです。でも理解できても納得は出来ない…です。」
「それが人間と言うものだものな…忘れろとは言わない。忘れられないだろうし、それが撃ったものが背負う宿命だ。」
「そうですね…あいつは…キラはその辺のことが解かっていなかっただけかも知れない…」
そう言うとうつむき、アスランは更衣室へと戻っていった。アムロはその後ろ姿を見届けるとデッキへと戻った。
騒ぎはもう収まっており、整備班は既にMSのダメージチェックを行っていた。アムロはシンの隣へと歩き寄ると、共にMSを見上げて話し掛けた。
「敵を撃った代償は高くついたな。」
「そうですね、撃ったあとの爆発はPS装甲でもかなり損傷を受けましたから。」
フリーダムを撃った三機は殆ど密着といっても差し支えない距離で爆発を受けた。結果、三機はPS装甲のおかげで落ちることはなかったとはいえ腕部、頭部が無かったり、コックピット周り以外は損傷がなかったところは無かった。アムロは少し離れたところにいるバートに近づくと状況を聞きはじめた。
「作業中にすまない。どうだ?状況は。」
「ええ。インパルスはコアスプレンダーがちゃんと生きてますんでチェスト、レッグの予備もありますし問題ありませんね。ただセイバーが…」
「どうしたんだ?」
「それが爆発の衝撃でフレームがかなり歪んでまして…」
良く見ると胴体が若干歪んでいるのが見て取れる。
「駄目なのか?」
「ええ。矯正するにもここではまず無理です。ある程度の設備がないと厳しいですよ。」
「プロトセイバーはどうだ?」
「プロトもここまで損傷するとパーツがもう足りないですね。ただ…」
もったいぶるように会話をとぎったバートにアムロが聞く。
「ただ?」
「方法が無いわけじゃありません。プロトセイバーとセイバーとで足りない部品を補うんです。」
「二機を一機にする、か…今のところほかに方法は無いだろうな。どこか基地に着くまで何も無ければ良いんだがな。とりあえずそれでやってくれるか?」
「わかりました。早速作業にかかります。」
「頼んだ。」
そう言うとアムロはデッキから去って行って行った。
翌日、昼頃デッキで作業を手伝っていたアムロはタリアから放送で呼び出される。艦長室へと向かい、部屋に入ると
タリアが厳しい面持ちで机に座っていた。
「わざわざ呼び出して申し訳ないわね、アムロ。」
「いえ、それは構わないですが…何かあったんですか?」
「ええ、昨日落としたフリーダム、それにアークエンジェル。周辺海域の調査の中間報告が今朝、届いたわ。見てちょうだい。」
そう言うと数枚の書類をアムロへと渡す。アムロは目線だけ動かし黙読すると途中で驚いたように言う。
「これは、まさか!」
「みての通りよ。フリーダムは胴体部分がまだ見つかっていないわ。アークエンジェルにいたってはエンジン一基分の破片しか見つかっていない。
勿論今朝の段階での中間報告だから現在までに何か見つかっている可能性もあるわ。ただ…」
「普通に考えるともうこれ以上何かが見つかる可能性は少ないでしょうね。」
アムロがそう言ったところで艦長室の電話が鳴った。タリアはアムロに対し、ごめんなさいと言うと受話器を取る。
「はい、艦長のタリア・グラディスです。…ええ!?デュランダル議長?わかったわ。繋いで。」
それからタリアはしばらく電話で議長との会話を続ける。
アムロにもある程度は理解できる内容だったが相手側の声が聞こえないので詳しく内容は解からなかった。タリアが会話を終えて受話器を置くと早速アムロはタリアに話の内容を聞いた。
「議長直々にどうしたんですか?」
「ええ、とりあえず捜索をもう打ち切ると言うことよ。やはり何も見つからなかったそうね。引き上げた部品を並べてみるとフリーダムは胴体以外、アークエンジェルはエンジンブロック一基のみ。結果は変わらず。まんまと逃げられた、と言うことでしょうね。悔しいけど。」
「また邪魔しに出てくる、と言うことだろうな。やはり。」
「そうね。あの損傷だからすぐに、と言うわけではないでしょうけど。それと…どちらかと言うとこちらの方が大事な通達だわ。ロゴス幹部達がアイスランドのヘブンズベースに集結しているそうよ。かなりの戦力と共に。」
「ロゴスと言うと議長の声明に出てきた軍需産業複合体だろう。戦力と共に、か。そこが彼らの望んだ決戦の舞台と言う訳だな…」
「そこで本艦はこれよりジブラルタルにて補給、修理及び新型MSの受諾を行った後、ヘブンズベースへと向かいます。詳細は後ほど私にメールで送ると言うことだから、正式な命令はもう少ししてからになるでしょうけど。」
「新型が来るのか!?どんな機体で!?何機!?」
興奮したようにアムロは聞きなおす。
「最新鋭の機体だそうよ。かなりの戦力向上が見込めるわね。一応、シンとアスランに、と言うことだけど…」
「俺には無しか…」
少し落ち込むようにうなだれたアムロにタリアはあきれたように言葉をかける。
「あと、議長があなたに『借りていたものを返す』とおっしゃっていたけど、心当たり、ある?」
「俺が貸していた…?まさか!」
「そう言うことよ。では追って通達は出しますのでそれまで待機しておいて。」
「了解した。では失礼します。」
嬉しそうにアムロは踵を返すと、ドアの方へと歩き出した。ドアを開こうとしたとき
「メールが届きましたわよ。」
「You gat a mail!」
びくっとアムロは振り向いた。確かにあのラクス、いやミーアの声とハロの声であった。ふとタリアをみると顔を真っ赤にしてアムロを睨んでいる。
(意外とミーハーなのか?艦長は…)
タリアは無言のままアムロを睨み続けているが顔は耳まで真っ赤だ。言い訳しないところが軍人らしい。きっと命令の通達が届いたんだろう。
この場でそれを聞いたほうがはやいがアムロは危険を察知しその場からとりあえず去ることとした。それからすぐに、ミネルヴァはジブラルタルへと向かう旨が艦長から艦内へと通達された。ミネルヴァは一路ジブラルタルへと進路を取った…